「あ、貴女は!」

『ん…?』

書類を運んでいると後ろから聞こえた声。振り向くと茶髪の女の子が走って来た。あ、この人はあの時の

『修兵さんを助けてくれた人』

「あ、自己紹介してなかったよね。井上織姫です!」

『あ、ご丁寧にどうも。十四番隊副隊長桜花独月です』

へこへことお互いに頭を下げる。いやこの人にはほんと世話になったな。修兵さんの怪我殆ど治してくれたし。あの時の礼を言いつつ死覇装似合ってますねと言えばありがとうと笑われた。うん、素直な良い人だ

「独月ちゃんはお仕事?」

『はい。この書類を修兵さん…九番隊に届けに』

仕事というか九番隊に運ぶ書類を財前から奪っただけ(ついでに書類整理手伝おうと思って)だけど。だってうちは隊長居るから良いけど九番隊は居なくなっちゃったから副隊長一人じゃ大変だし。それを言うなら三番隊と五番隊もなんだけど。まぁ彼方は暇だったら手伝おうと思う。取り敢えずは九番隊優先。後輩よりも先輩が心配なんで

『井上さんは?』

「私は十番隊に行くんだ!乱菊さんに呼ばれてるの!」

『ああ、乱菊さんに』

あの人やたら酒飲まそうとするんだよな。仕事中とかお構い無しに。まぁそれで良く日番谷隊長に怒られてるんだけど。あの光景見てるとどっちが年上だか判んなくなるんだよね

『なら途中まで一緒行きます?』

「良いの!?」

『へ?あ、はい』

何だろうこの反応。まさか迷ってた?

『つかぬ事をお聞きしますが』

「どうしたの?」

『井上さん迷ってました?』

「…実は…二時間ぐらい…」

『……あー』

やっぱりか。でも二時間は予想外だ。僕も最初は迷ったけど流石にそんな時間は掛からなかったぞ

『じゃあ行きますか』

「はーい!」



『此処が十番隊ですよ』

「ありがとう独月ちゃん!」

『どーいたしまして。じゃあ僕は行きますね』

早めに書類整理も手伝ってあげたいし。瞬歩で来た道を引き返して九番隊に向かう。

『十四番隊副隊長桜花です』

「おう、入れー」

『失礼しまーす』

許可を得て副官室に入る。中では腕や頭に包帯を巻いた修兵さんが書類整理をしていた。

「どしたぁ独月」

『頑張ってる修兵さんの泣き顔が見たくて書類ってプレゼントを持ってきた』

「鬼かお前は」

書類を渡せばデコピンされた。痛い
因みに隊首室は今調査中だから入れない。大方東仙隊長の私物を押収してるんだと思う。ちらりと修兵さんを盗み見る。目元には隈。あんまり眠れてないのか、怪我人の癖に
溜息を吐いて修兵さんを見る。まだあの日から四日しか経ってないのにこの状態…良し、取り敢えずこの部屋から出そう

『修兵さん』

「んー?」

『ちょっと十番隊に行ってきて下さい』

「あ?何でだよ?」

『忘れ物してきました。あー確か乱菊さんが持ってるかもなーって事で行ってきて下さい』

「は?ちょっおい…てめっ」

書類を引ったくり無理矢理椅子から立たせて扉の方に背中をぐいぐい押す。ちょっとは自分から動いてくれ修兵さん。あんた押すの結構疲れるんだから

『暫く帰って来なくて良いですからねー』

「はぁ!?おい独月お前何考えて……」

言い終わる前に扉を閉めた。ちゃんと鍵を掛けておく。扉を叩く外の顔面卑猥様は無視。さっさと十番隊に行け。確か京楽隊長と乱菊さんで飲み会してたから。
少しして扉を叩く音は止まった。やっと諦めたのか。
修兵さんの座っていた席に着き書類整理を始める。山は一つ。この程度なら二時間もあれば終わるだろ。
書類に目を通していると扉の向こうから声が聞こえた

「………一時間で帰ってくっから」

『暫く帰って来んなって言いましたー』

つか早く行け。酒無くなるぞ

「……悪ぃ…」

『さっさと行って下さい。僕今忙しいんで』

そう言えば少しして離れていく足音。あの言い方からして忘れ物が嘘だってバレたな。まぁ休んでくれるなら何だって良いかと考え直す。取り敢えず今はこの書類の山をどうにかしよう













『……終わった…』

凝り固まった肩を回す。ごきごきと不健康な音がした。うわ、自分の肩だけど引くわ
背もたれに寄りかかりぼんやりとしていると扉が叩かれた

『顔面卑猥様はお断りします』

「卑猥じゃねぇから開けろチビ独月」

時間を見れば二時間ちょっと過ぎた程度。帰って来るの早過ぎだろ
仕方無く鍵を開けると片手に酒瓶を握った顔面卑猥様が入って来た。僕の頭を撫でて手を引き歩き出す。何処に連れて行く気だろうかと思いつつついて行く。
連れてこられたのは小高い丘だった。何もない只少し拓けた場所。修兵さんは座ると片手に持っていた酒瓶を置いた。
無言で僕に杯を握らせ、酒を注ぐ。手酌をしようとする修兵さんから酒瓶を取り上げ注いでやるとありがとうと頭を撫でられた。
喋る事なく静かに酒を飲む。瞬く星をぼんやりと眺めていると肩に重みを感じた。寄りかかって来た修兵さんを見る。頭をくっつけると彼は微かに笑う。

「なぁ独月」

『んー?』

返事をすれば修兵さんはゆっくりと口を開いた

「正義って何なんだろうな」

『……難しい事を聞くね…』

恐らく東仙隊長の最後の一言を考えているんだろう。正義、か。

『正義なんて人によって違うんじゃない?』

組織を纏める為の正義は同じでも、個人の正義はその人が何を護る為に戦っているのかによって違ってくると思う。現に修兵さんと僕の正義も違うだろうし。

「……訊いてみりゃ良かったんだよな…」

何を、とは聞かない。この人は今僕に意見を求めてはいないから
星を見上げ目を細める。信頼していた人間が平然と自分を捨て去って行く。捨てられた者はどうするべきなのか。どう感じるべきなのか


判らなくて目を閉じた


((もし修兵さんが僕を置いて何処か遠くに行ってしまったら))

((隊長に何も訊かず、只妄信して来た…それが…俺の罪だ))

((その時僕はどうなるだろうか))

((この闇の中に、隊長は何を見たんだろう…))