「隊長」

修兵さんが隊長さんを呼んでる。僕は邪魔にならない様に通り過ぎようとした。瞬間襟首を掴まれる

『ぐえっ』

「朝っぱらからてめぇの副隊長シカトすんのかお前は」

『………え?』

一瞬意味が判らなくて修兵さんを凝視すれば何回目だ、とデコピンされた

『痛い』

「てめぇが隊長だって忘れるお前が悪ぃ」

『………あ』

其処まで言われて漸く思い出す。僕隊長になったんだった。

『…ごめんなさい』

「良い加減隊長って呼ばれる事に慣れろよ」

溜息を吐かれ頭を撫でられる。だって1ヶ月前まで副隊長だったからまだ慣れないんだよ

「じゃ、今日も頼むぜ隊長」

『ん。頼まれた』

九番隊の隊首室に入る。今日もまた書類漬けの一日が始まる



「隊長、この書類頼む」

『ん』

修兵さんに手伝って貰いながら書類の山を片付ける。副隊長の時より仕事は多いけど終わらない量じゃない。書類関係の仕事は上手くやっていけそうだ

「隊長、この書類十番隊に持ってって来るわ」

『ん。お願いします』

修兵さんが処理した書類を次の隊に渡しに行った。ほんと助かる。仕事が順調なのは修兵さんのお陰だ
修兵さんは仕事中は僕を隊長と呼ぶ(因みに僕も仕事中は苗字呼び)
最初は隊長呼び+敬語だったけどそれだけは止めてくれと頼んだ。だから普段は何時も通りに喋ってくれる。隊長にそういう話し方は良くないけどまぁ僕が隊長として接する時は敬語使ってくれてるから大丈夫だろう

「桜花、居るか?」

書類を片していると聞こえた声。どうぞ、と言えば扉が開いた。見えたのは銀髪の天才児

『お疲れ様です日番谷隊長』

「ああ。調子はどうだ」

『まだ隊長って呼ばれるのは慣れないですけど、仕事は慣れてきました』

「そうか」

お茶を出そうと立ち上がればすぐに行くから良いと言われた。え、でも失礼じゃない?

『そういえば今日はどうしたんですか?』

そう問えば差し出される書類

「合同任務の打ち合わせに来た」

『あ、わざわざ来て頂いてすみません』

僕は頭を下げた。確かに日番谷隊長は僕より年下だけど隊長歴は僕より長いから立場的に下なのは僕。要するに先輩にご足労願っちゃった訳で

「この程度気にすんな。隊舎も隣だから遠くねぇ」

『…すみません…』

やばい日番谷隊長良い人。いや良い人だってのは知ってたけど。
だって隊長業務を教えてくれたのは日番谷隊長と財前だし。
他の隊長にも色々と気に掛けて頂いている。隊長方に応える為にも僕は早く一人前の隊長にならないと

「…急ぐ事ねぇんじゃねぇか」

打ち合わせを終え隊首室を出ようとする小さな背中から放たれた言葉。不意に言われた一言に顔を上げる。肩越しに振り向いた日番谷隊長と目が合った

「お前の努力は周りが知ってる。だからそう焦る必要はねぇんじゃねぇか」

『………』

何も言えなくなった僕を見て日番谷隊長が溜息を吐いた

「檜佐木も心配してるぞ」

『……檜佐木さんも…?』

聞き返せば日番谷隊長は頷いた。松本からそう聞いた、と

「最近隊長が休んでいるのを見ていない、と松本はそう聞いたらしい」

『え、ちゃんと五分休憩は取ってますよ』

四時間に一回ぐらい
そう言うと日番谷隊長が眉間に皺を寄せた

「それは休憩とは呼ばねぇ」

『えぇえ……』

せめて三十分は休めと言われた。いやそれ休み過ぎ。休憩を六回一気に取っちゃってる
そう考えていると日番谷隊長がしれっとした顔で言った

「そうでもしねぇとそろそろ檜佐木がキレるぞ」

『え゙』

今何て?
日番谷隊長を二度見する。彼は一つ頷いた

「松本に相談してる間に段々苛ついていったらしいからな」

『そ、それ…まさか今…?』

「ああ」

『………』

冷や汗がだらだら流れる。やばい。あの人キレたら怖いんだよ。普段から鋭い目付きを刺さりそうな程尖らせて睨んで来る。威圧感半端ない=怖い。やばいと焦っているとノックが響き、開く扉。入って来たのはぎっちりと眉間に皺を寄せた我らが副隊長様。お、怒っていらっしゃる?

『お、お帰りなさい檜佐木さん…』

「…只今戻りました、桜花隊長」

あ、やばい超怖い。逃げて良いかな。ちらりと日番谷隊長を見れば彼は頑張れよと僕の肩を叩いた。違う、今僕が欲しかったのは励ましじゃなくて此処から逃げ出す理由だ

「じゃあ俺は行くぞ。また何かあったら訊きに来い」

『あ、はい。ありがとうございます』

ぺこりと頭を下げて日番谷隊長を見送った。…あれ?って事は今部屋の中って修兵さんと僕だけ?無理無理無理無理何て鬼畜だ日番谷隊長こんな絶賛お怒り中の顔面卑猥様と二人きりにするなんて
そーっと扉に近付こうとすればがっしりと肩を掴まれた
恐る恐る振り向けば其処には笑顔の副隊長。修兵さん眉間に皺寄ってるし目が全く笑ってないんですが。

「少し話をしましょうか、隊長」

『いや…あの…まだ書類が…』

「話をしようって言ってんだよ隊長」

『……はい…ごめんなさい…』

駄目だ。修兵さんの目が怖過ぎて勝てる気がしない






「ならこれからは最低でも三十分は休憩を取れ。良いな?」

『はい…すいませんでした……』

正座で説教を聞く事一時間。我らが副隊長様のお小言がやっと終わりを告げた
脚を崩して脱力。てか隊長が床に正座ってどうなんだろう。絶対部下には見せらんないわ

「焦ってんじゃねぇよ、隊長」

言葉と共に隣から乱暴に頭を撫でられる。焦っていたつもりはないんだが。そう言えば修兵さんが溜息を吐いた

「不眠不休で隊長業務覚えようとしてんのを焦ってるって言わずに何て言うんだよ」

いやちゃんと五分休んでたし三十分寝てたよ。食事もちゃんと取ってたよ。飴食べてたし。
言えばどんどん修兵さんの眉間に皺が寄る。うわ怖い真っ正面から悪人面に見下ろされるとかこれ何て拷問?

「……お前はやっぱり俺が居ねぇとまともな生活送らねぇみてぇだな…」

『え………』

低い声と差し出される手

「鍵寄越せ」

『は?』

いきなり何言い出すんだこの人。思わず顔を凝視するもののその表情は至って本気。寧ろもっと早くこうしていれば良かった、とぶつくさ言っている。いやいやそれもどうなの
てかさ

『隊長が副隊長の世話になるとか駄目でしょ』

「隊長を補佐すんのが副隊長の務めだ」

そしてもう十分なのに更に眉間に皺が寄っていく。あ、これは冗談抜きで怒られるわ。素直に鍵を渡せば頭を撫でられた。てかほんとだらしない隊長だって思われたくないから新しく引っ越した宿舎の隊長専用の部屋の鍵渡さなかったのに
そうぼやいていると目の前に修兵さんがしゃがんだ。僕の目を見て静かに問う

「なぁ隊長、お前は隊長ってどんなもんだと考えてる?」

隊長はどんなものか?そんなの決まってる

『部下を護り憧れられる様な存在』

「そうか」

僕の頭を撫でながら修兵さんが俺はな、と口を開いた

「隊長ってのは部下に甘えるべきだと思ってる」

『………は?』

思わず口を閉じるのを忘れた僕を見て修兵さんが間抜け面、と笑った。失礼な
眉間に皺を寄せれば指先で眉間をぐりぐり押された。痛い

「確かにお前の考えもそうだろうし、甘え過ぎるのも良くねぇ。けどな、隊長を支える為に副隊長は…部下は居んだよ」

『………』

「まだお前は隊長になって一月だ。判らない事だらけで当然だろうし周りもそう思ってる」

『………』

「無理して隊長面すんじゃねぇ。辛い時は俺に頼れ。苦しい時は俺が代わりになってやる。荷が重いなら俺が半分背負ってやる。逃げ出したいなら抱き締めて繋ぎ止めてやる」

頬を挟まれ視線を合わせられる。

「俺が支えてやる。俺が護ってやる。だからもっと甘えろ。…一人で何もかも抱え込むな、独月」

『………』

目の前がぼやけた。何故だと思っていると苦笑した修兵さんに泣くな、と目元を拭われた。泣いてたのか、僕。認識した瞬間涙はぽろぽろ零れ出した

「あーもう泣くなって」

頭をがしがし掻いた修兵さんに抱き締められる。頭をぽんぽんと軽く叩かれた

「お前は無理してる事に気付かねぇもんな…もう少し早く言った方が良かったか」

ぽろぽろと零れる涙が修兵さんの死覇装を濡らさない様に顔を離していると遠慮してんじゃねぇと頭を胸に押さえつけられた。鼻が痛い。そんなに高くない鼻がこれ以上低くなったらどうしてくれる

「キツかったよな…ごめんな、早くこうしてやれなくて」

別にキツくなかったし修兵さんが気に病む事じゃない。それを言えば更に胸に押し付けられた。ちょっ息出来ないんですけどっ!背中をばしばし叩けば漸く力は緩められる。ああ死ぬかと思った。まさか乱菊さん以外に胸での圧死を企む人が居たとは

「俺の謝罪をまるっと否定するお前が悪い」

『横暴だな顔面卑猥様もごごごごごっ(ちょっ息出来ないんですけどぉっ!)』

「人語を話せちびさぎチャン」

『………っぷは!』

二度目の押さえつけ攻撃から解放され大きく息を吸う。苦し過ぎて涙も止まったわ。あんたはもう少し自分の胸板の硬さを知った方が良い

「泣き止んだな」

『誰かさんが何度も胸に押し付けてくれたお陰で』

「またしてやろうか?」

『結構です!』

むくれた僕の頭を撫でながら修兵さんが笑った。今度は優しく腕に力が込められる

「支えてやるからな、隊長」

『…頼みますよ副隊長』



支えてやるよ



(てか早く卍解出来る様になってよ修兵さん)

(俺風死の形が気に入らねぇんだよなぁ…)

(頼む好きになって下さい)