野生の勘EXは便利


左側の髪を掻き上げ、赤と青のピンをバツの形にして留める。
それでブルーライトカットの眼鏡を掛けさせれば、今日のコーデは完成だ。


『よし、でっかわいい系男子』


「カッコイイじゃなくて?」


『修二はカッコイイより可愛い』


「マジかァ」


呟いた修二は私の背後に回ると、髪に櫛を通した。
一つ結びにすると、それを持ち上げてバレッタで留めている。
最後に右側の髪を耳に掛け、満足そうに頷いた


「かんせ〜」


『ありがとう。今日のテーマは?』


「告ってきた男を一睨みで散らす系女子」


『なにそれひどいwwwwww』


あんまりなテーマに笑ってしまった。
それめちゃくちゃ目付き悪いヤツ。笑う私の右耳に下がったアメリカンピアスをつつき、修二は目を細めた


「俺だけが刹那ちゃんを好きでいれば良いのになァ。刹那ちゃん、すーぐ変なの引き寄せっから」


『え、そんな覚えないんだけど』


「ばはっ。まぁこんだけアピールしときゃあ、余程の馬鹿じゃなければ来ねぇだろ」


修二にプレゼントしたピアスの片方は、私の耳許で揺れていた。
それが修二のお願いだったので叶えたが、朝着ける時から彼はご機嫌だ。
隣に座り、顎を包む様に両手で頬杖を付いて、修二はゆるりと梔子を溶けさせる


「あは、俺のって感じで気分良いわ」


『私は私のなんだけどな』


「えー、俺にくれよ。俺あげるから」


『待って、そんな緩い人身交換ある?』


笑う私を見て、修二も笑う。
修二の淹れてくれたコーヒーを飲み干して、立ち上がった


『さて、行きますか』


「ん」


『多分今日から積極的な馬鹿は動くよ。気を抜かない様に』


「りょ♡完膚なきまでに叩き潰すわ」





















「おはよう半間くん♡」


「あ?キメェ。誰だお前」


『んぐっ』


登校早々修二がかまして、思わず笑いそうになってしまった。
慌てて咳払いしたものの、硝子にはバレたらしい。彼女は私を見て笑っていた


「おはよう。早速かましてんね」


『おはよう硝子。まさか登校早々だとは思わなかったわ』


「あ゙ーだりぃ。早速じゃん暇かよ」


『おはよう半間くん♡』


「おはよう刹那ちゃん♡」


「秒で乗るじゃん」


「そりゃ相手によるだろ」


にべもなく切り捨てられた女の子は一瞬固まり、それから勢い良く此方を振り返った。
一瞬私と硝子を鋭く睨むと、にっこりと可愛らしい笑みを張り付ける


「女って怖ェな。あんな瞬時にツラ切り替えられんの?」


「お前もなかなかな速度だぞ」


「うるせー」


『うわ此方来た』


ひそひそ騒いでいると、笑顔で金髪ロングが近付いてきた。
修二の目の前に立ち、こてんと首を傾げてみせる。自分が可愛く見える、計算された角度だ


「おはよう半間くん、今日も格好いいね」


「そォ?どーも」


仕切り直しにやって来た彼女が見た目を褒めると、修二は会話に応じた。
それで行けると思ったのか、微笑んだ金髪ロングは机に手を着くと、豊満な胸を寄せる様に前のめりになった。にっこりと、さっきよりも気合いの入った笑みを浮かべる。
その瞬間に、修二が流れる様に視線を此方に逃がしたのに気付き、硝子が机に突っ伏した


「片方だけ髪上げてるの格好いい。昨日の全部降ろしてるのも良いけど、今日の方がアタシ好きだな♡」


それを聞いて私も噴き出しそうになった。
脇腹を抓って耐える


「あとその手袋凄い似合っててぇ、ちょっとエッチだなぁって…♡」


ウケる。しんどい。
隣と同じく机に伏せた瞬間、機嫌の良さそうな低い声が踊る


「ばはっ、だろォ?
────だってこれ、刹那ちゃんがセットしてくれたし♡」


「えっ」


「グローブもさァ、刹那ちゃんがくれたの♡」


駄目だ無理。これは笑う。
硝子は隣でバンバン机を叩いていた。私も身体が震えるのを抑えられない。
昨日より好きだな♡とかエッチだなぁって♡とかキメ顔で言ったのに、髪のセットと褒めた物をプレゼントしたのが他の女とか。あかん、しんどい。
私だったら恥ずかしすぎて、教室から走って逃げたくなる。
修二と金髪ロングがコントを始めた所為で、私と硝子が潰れた。
押し殺そうとした笑い声が不格好に響く中、状況を理解したらしいクラスメイトも少しずつ笑っていく


「俺のヨメ、センス良いんだよねェ。
何つったっけ?でっかわいい?だから俺、今日はでっかわいいンだぁ♡」


修二が大層ご機嫌な様子でトドメを刺した。
可愛い。可愛い笑顔ではちゃめちゃエグイ杭をブッ刺している。
これはあれか?私も会話に入った方が完膚なきまでに叩き潰せるか?でも待ってほしい、笑いの波が引いてくれない。
結局何も出来ずぷるぷるしていれば、周囲からの嘲笑に耐えきれなくなったのだろう金髪ロングは、教室を飛び出していった。
その背を見送って、修二が大きく口を開けて笑い出す


「ひゃははははははははは!!!!!
見たかぁあのツラ!?真っ赤になっちゃってカワイソーwwwwwwww
……つーか、ヨメが居るっつってンのにモーション掛けんのナニ?猿か何かなん???」


「お前のテンションの落差が何なのwwwwwwww」


『手ぇ叩いて爆笑からの真顔wwwwwwwwwww』


「だって理解出来なくね?
あの女、パートナーの居る一夫一妻システムのオスに交尾しましょ♡って近付いたメスザルと同じだろォ?
乱婚ってヤツか?どっちにしたって俺猿じゃねぇから獣姦はお断りで〜す」


最終汝は猿、で結論が出たのマジで可哀想。
ぺっぺっと彼女が手を着いた位置を払うと、グローブに覆われた手を数度打ち合わせた。
それから私の方を見ると、修二は眼鏡の奥でゆるりと目を細くする


「ほらな、俺が出た方が穏便に終わんだろ?」


『穏便…???』


「穏便って辞書引いてこいよwwwwwwww」


「残念引いてま〜す。角立たず、穏やかである様っつー意味で〜す」


「判ってて間違ってんのかよwwwwwwwww」


「凄ェ笑うじゃんメスゴリ」


笑う硝子を片方の眉を上げながら眺めると、梔子は此方に戻された。
ふふん、と何処か得意気な表情が可愛い


「刹那ちゃん、俺えらいでしょ。褒めて良いよ」


『ふふ、ありがとう修二。えらかったね』


「んふふ、どーいたしましてェ」


差し出された頭を撫でれば、修二は擽ったそうにはにかんだ。
そんな私達の後ろから、ひそひそと声がする


「なにあれかわいい」


「でっかわとちびかわ…???」


「あれ…?ヤンキーの癖にかわいいだと…?」


おい誰だ私を小さいって言ったヤツ。
聞こえてんぞ表出ろ。























結局金髪ロングは今日一日戻って来なかった。
あの子、これから学校通えるだろうか。結構なダメージを食らってたけども


「ねぇ家入さんと白露さん、ちょっとウチらと来てくんない?」


放課後、修二がふらりと席を立ったのを見計らい、金髪ギャルに声を掛けられた。
その際硝子とアイコンタクトを取る。


(この女頭緩そうじゃね?)


(マジでそれな)


硝子が毒舌。
内心そう思いつつ頷いた。
金髪ギャルの後ろには、似た様なギャルが三人揃っている。
修二が居ない時を狙ったという事は、女特有の呼び出しからの数で強迫、といった流れかな。
正直だるい。ただ────


『良いですよ』


とっととクラスを平定出来るのは、良い事である。
こっそり机の下でケータイを操作して、私は笑った


「お前らさぁ、ちょっとチョーシ乗りすぎじゃね?」


移動した先は校舎裏。
何というか、バッチバチに定型である。なんだこのギャル、見た目からやる事までお手本みたいなギャルだぞ


「お前のカレシがちょっと強いからってさぁ、威張ってんじゃねぇぞ?
アタシのカレシのコージくんの方が、あんなヒョロいヤツより全然強ぇからァ!!!」


この女、一行前の言葉がブーメランになって後頭部に突き刺さってる事は理解出来てるんだろうか。出来ないんだろうな、馬鹿そうだし。


「話終わった?私ら暇じゃないんだけど」


しれっとした顔で硝子が切り込むと、四人は一瞬怯んだ。
だが人数の差によるバフが働いたのだろう、一斉に口を開く


「はぁ?お前らタダで帰れると思ってンのかよ!」


「アタマ沸いてんじゃね?」


「馬鹿かよ!!」


「ほんとチョーシ乗ってんなブス共が!!」


『は???今硝子にブスって言ったかオイひじき女。良く見ろよ私の親友可愛いだろ』


「はぁ?刹那は綺麗で可愛いんだよ目ぇ入れ換えてこい糸目ブス」


流石に我慢ならなかった。
いや、私にブスは全然良い。事実なので。
ただ私の親友にブスは許さん。
…そう思って反撃したら、ほぼ同時に親友も口撃していた。
思わず顔を見合わせる


『硝子、すき。私の親友綺麗でカッコイイ』


「私もだよ親友。自信持ちな、あんたは誰より可愛い」


『はは、惚れてまうやろー』


「ふふ、半間より大事にしてやるよ」


やだ、硝子ったら男前…なんて小芝居を打っていると、とうとう我慢出来なくなったらしいひじき女が大口を開けた


「舐めてんじゃねぇぞ!!!余裕ぶりやがって!!!」


『あらあら大口開けてはしたない。お里が知れますわよ。
ていうか二人相手に四人で詰め寄っておいて、普通に非があるのそっちだって判りますよね?
調子に乗ってると言いたいのは判りました。で?他にないなら帰っても良いですか?
私達、そんな事に付き合う程暇じゃないので』


「煽りよるwwwwwwwwwww」


ひじき女をこれでもかと煽ってやれば、真っ赤な顔になったソイツは、後方を振り向き大声を出した


「コージくん、やっちゃって!!!!!」


「おー、やっとかよ」


現れたのは、シャツに短パン、傷んだ金髪の大男だった。その背後に五人は居る。
コージくんとやらの身長は、修二と同じくらいだろうか。
ただスタイルが見劣りしまくるので、同じ人種だとは考えにくい。


『こうやって見るとさ、修二ってスタイル良過ぎない?』


「アイツ脚クソ長いよな」


『股下何キロだろ』


「東京タワーじゃん」


ひそひそと軽口を叩いていれば、コージくんが私達の前に立った。
見上げる私達に勝利を確信したのか、ひじきがお喋りになる


「コージくんは巖咒の総長なんだから!!
お前のカレシよりずっと強ぇから!!!」


「へぇ、カワイーじゃん二人共。
ちょーっとオハナシあるからさぁ、俺らとお茶しようぜぇ?」


『というか、貴方達在校生じゃないですよね?不法侵入では?』


「良いじゃねぇかそういうのは。
…なぁ、マジで好みだわ。気が強ェ女ってのは良いよなぁ。泣かせ甲斐がある」


「チッ。近付くな、気色悪い」


硝子が私を下がらせた。
鋭く睨み付けるも、女二人と侮っているのか、ニヤニヤしているのみ。
というかコージくん、後ろでキレてるひじき女は良いのか?
あんた、彼女の頼みで来たんじゃなかったの?


……まぁ良いか。
サイレンも聴こえてくるし、そろそろ茶番を終わらせよう。


私はすっと空気を吸い込んだ。
それから、手を口許に添える


『しゅーーーーうーーーーじくーーーーん!!!
あーーーーそびーーーーましょーーーー!!!!』


次の瞬間。
音もなく、大男の頭上に影が差した。


「ぐへあっ!?!?」


────だぁん!!!!
コージくんが地面に叩き付けられる。
その背中にしゃがむ様にして立っているのは、金と黒の髪の男だった


「はーーーーあーーーーいーーーー♡」


眼鏡の奥、にんまりと笑んだ梔子の瞳が私を捉える。
ゆらりと身を起こしながら応える姿は、控えめに言ってホラー映画の悪役だった。実にペニーワイズ。
一撃で伸されたコージくんに、ひじき女は腰を抜かしてしまったらしい。
座り込んだひじき女を置いて、取り巻きのギャルは逃げた辺りで関係性はお察し。
寧ろ、これで逃げていない舎弟らしき五人とコージくんの方が、信頼関係は築けていそうだ。


「ど、どっから…」


ひじき女の問いに、ゆるりと振り向いて修二が笑う。


「何処って、三階からだけど?」


「は?三階から、飛び降りて…?」


「それ以外に何があんの?」


心底不思議そうに首を傾げているが、良く考えてほしい。人間三階から飛び降りないし、下に居る人間をクッションにしたりしない。
いや、まぁそれを指示したのは私なんだけど。まるで豹の狩りみたいで、面白かったのは内緒だ


『すみません、そちらが援軍を呼ばなければ此方も呼ぶつもりはなかったんですが。
流石に男の人を呼ばれては此方も怖いので…』


周りの目が増えてきたのを察し、怯えたフリをしておく。
修二はコージくんの上から降りると、私を上から下まで眺め回した。
怪我がないのを確認すると、ぽんと私の頭を撫でて、残った男達に視線を向ける


「んで?テメェらはどうすんだァ?俺とヤんの?」


「ひっ…ひいい!!!」


逃げようと背を向けたヤンキー達の前に、警官達が立ち塞がった。
刺股を手にした警官達は素早く不法侵入者達を捕らえ、校門の方へ連れていく。


「け、警察!?なんで…」


「そりゃあ呼ぶだろォ、だってコイツら、不法侵入じゃん」


ひじき女を見下ろしながら、修二はケータイを揺らした。
通報してくれたのだろう彼は、此方に駆け寄ってくる警官にひらひらと手を振っている


「灰原さん、あんがとォ。お陰でヨメ無事だったわ」


「彼女さん無事!?良かったー…って家入さんと白露さん!?君達巻き込まれてたの!?」


「あ、灰原さんじゃん」


『お疲れ様です』


駆け寄ってきたのは、伏黒先生の道場で知り合いになった警察のお兄さんだった。
灰原さんは、私達と伸された大男を代わる代わる見て、苦笑いを溢した。
恐らく誰が伸したかを察したんだろう


「……うん、正当防衛かな」


「あったり前じゃん?刹那ちゃんが襲われてたから助けただけだし。
俺彼氏なんだから、当然でしょ?」


「あっ、君達遂に付き合ったの?おめでとう!!
もう此方はいつくっ付くのか気になって気になって…!!」


『あっ、えーと、実は「あんがとォ。でもまだカレカノって何すりゃ良いのか全然判ンねぇからさ、ゆっくり行こうぜって話になったんだァ」


私の言葉を遮った修二に、灰原さんは目を輝かせた


「良いよそれ!なんか妹の持ってる少女漫画みたい!
え、半間くんめちゃくちゃ良い彼氏出来てるね!?無理矢理進まないの偉いよ!!!」


「だろォ?俺、刹那ちゃんには無理させたくねぇもん」


やばい、絶妙に否定出来ない状況作られてないかこれ。めちゃくちゃ興奮してんじゃん灰原さん。え、付き合ってないって言い出せない雰囲気がどんどん出来上がっていく…
思わず固まった私の肩を、ぽんと硝子が叩いた。


「前に言ったろ。半間に甘過ぎるって」


『外堀…』


「今頃気付いた?大分前から大坂城は丸裸だよ」


『真田丸は…?』


「とっくの昔に紫ピクミンが丸呑みしてる」


『oh…』


護りの要が気付いたらなくなってる件。
呻く私に、硝子が溜め息を溢した


「もう諦めな。前に、アンタから望まない限り手は出さないって言質は取ってるだろ?
半間は適当で気分屋でムカつくけど、アンタにだけは誠実だ。…腹括んな」


『…うん』


「そもそも同棲してる時点でアウト。真田丸丸呑み案件」


『ルームシェア…』


「アンタらのその異様なまでに健全なの、いっそ不健全な気がしてきたわ。
お互い好きで一緒に住んでてヤらないとか、どうなってんの?」


ひじき女が、後からやって来た警官に連れていかれた。コージくんも数人がかりで運ばれていく。
それを眺めながら、ゆっくりと口を開いた


『……授業でカエルの受精卵がどうのこうのって習うじゃん』


「うん」


『あれを授業…覚えるべき言葉って考えてんのと同じ。セックスって概念は知ってるけど、それを私と修二がするって考えた事、なかった』


「マジで他人事みたいな感じか」


『何だろう、薄っぺらい?
言葉に血肉がないっていうか、知ってるだけの単語って感じ。
多分、近くにそういうのが何もなかったから、いまいち人のする事って思えてないっていうのはある。
動物が増える為にする事、みたいな。
まだ赤ちゃんはコウノトリが運んでくるって言われる方が納得出来そう。
…そもそも、これが友愛か性愛かもちゃんと把握出来てないのに』


「そういう感じね」


普通は授業や、親からの情報、他にもテレビなんかでその言葉に肉付けするのかも知れない。
ただ私は、その言葉と行為に意味を見出だせなかった。
………恐らくは、修二も


『修二の場合は私の逆。
アイツは行為が傍にあり過ぎて、嫌悪の対象みたいになってるんだと思う。
…まぁ、子供を押し入れに押し込んで親がそんな事してたら、気持ち悪いって思ってもしょうがないでしょ』


真逆の様で一致しているという奇妙な関係性。
私の説明を聞いた硝子は、一つ息を溢した


「何だそれ。これ以上なくお似合いだって言っとくわ」


『ははは、ありがとう』























『急に硝子と呼び出されて、チョーシ乗んなって怒鳴られて…
それで怖くて震えてたら、あの人達がコージくん?っていう人を呼んできて……とても怖かったです…』


「ごめんなァ刹那ちゃん、傍離れたの失敗だった」


『ううん、修二は悪くないから』


事情聴取として応接室まで連れていかれ、俺ら三人、ソファーに横並びになった。
目の前には女の警官と灰原さん。簡単に状況を聞かれ、刹那ちゃんは少しだけ眉を下げて話し始めた。


怖かった、と言いながら大きな目にじわじわと水分を溜めていく姿がめちゃくちゃ可愛い。


薄い背中を擦ってやりながら、ブレザーのポケットを探る。
見付けたハンカチを差し出せば、刹那ちゃんはありがとうと微笑んだ


「半間くんも良く気付いたね。校舎裏って見付けにくくない?」


「俺飲みモン買いに行っててさァ、戻ったら刹那ちゃん居なかったんだよ。
クラスのヤツに連れてかれたって聞いて、教室飛び出して。
そんで慌ててあっちこっち探してたら、遠くから刹那ちゃんの声が聞こえた」


『ありがとね、修二』


「どーいたしまして。間に合って良かったァ」


────嘘である。
飲み物を買いに席を立ち、戻ってきたら二人が居なかったのは本当。
ただその時、ケータイにメールが届いたのだ。
件名も内容も真っ白のメール。
でもそれは、俺らの間では大きな意味を持つ。


何もないメールを送った時は、緊急事態。
即座に送り主の捜索を実行する事。


それが俺らの決め事だった。
なので俺は直ぐに刹那ちゃんの捜索を開始した。片手間に馴染みの灰原さんに通報したのは、小鬼のどっちかが「さっきどう見てもオッサンっぽいヤツがガッコーに入ってくんの見ました!」と報告してきたのを思い出したからだ。
多分刹那ちゃんの緊急事態と関係があるだろうと踏んで、取り敢えずやっておいた。
何処に呼び出されたかなんて知りもしなかったが、多分この道だわと思う道を進んだ結果、普通に居た。
それから合図があるまでのんびり観戦していたので、全然駆けずり回ったりとかしてないのだ。
ただ、苦労した感じを出した方が良さそうだから、そう言っただけで


「大男と、後ろに男が五人も居たから、流石に怖かったな」


「そうだよね…取り敢えず二人が無事で良かった」


『助けにきてくれてありがとうございました。
…あ、女の子があと三人くらい居たんですけど、あの子達ってどうなるんですか…?』


「ああ、君達を複数で呼び出したんだったね。名前とか判るかな?」


『はい。同じクラスの子と、隣のクラスの子です。名前は────』


しれっと全員の名前を告げている刹那ちゃんに思わず笑いそうになったが、気合いで耐えた。
眉を下げた刹那ちゃんにしっかり寄り添いつつ、灰原さんに問い掛ける


「なぁ、今回のヤツらってどうなるん?」


「不法侵入した彼等は最悪逮捕かな。女の子達も厳重注意か、謹慎か…この学校不良に緩いから…」


『えっ、あの…あの子達、どうにかなりませんか…?』


恐る恐る、といった体で刹那ちゃんが灰原さんに訊ねたのは、一見優しい少女が相手の罰に心痛める光景だ。
ただ、涙で潤んだ菫青の奥を覗いた俺は気付いてしまった。


やっべぇ、ゾクゾクする目ェしてんなァ♡


思わずふるりと身体を震わせると、灰原さん達には見えない位置を抓られた。
ハイハイ、大人しくしときますよ


『私、前に斎藤さんがおじさんと抱き合ってるトコ、何回か見ちゃって……しかも毎回違う男の人で…
他の子達も万引きとか、いじめとか、そういう噂が出てて……
最初は嫌な人達だって思ってたけど、もしあのコージって人達に脅されてて逆らえないだけだったらって、思っちゃって…』


────コイツ、心配してるフリして罪の上乗せしやがった。


無言で家入が顔を背けた。
泣いてるフリなのか、何度か目許を拭う仕草でどうにか笑っているのがバレない様にしている。
俺も手を叩いて笑いたくなったが、しれっと爪先を踏まれていた。痛い。でも笑わなくて済むから助かる。
俯きながら目許を拭う刹那ちゃんの背を擦って顔を取り繕っていれば、すっかり刹那ちゃんの演技を信じてしまったらしい二人が目を見合わせた


「ありがとう、話してくれて。
話すのは怖かったよね。後は僕達がどうにかするから、安心して」


『はい…』


しおらしく返事をした刹那ちゃん。
それから俺達は解放され、応接室を出た。
すんすんと鼻を鳴らす刹那ちゃんの肩を抱きながら、学校を出る。
暫く歩き、周りに人が居ないのを確認して、刹那ちゃんは顔を上げた


『よっしゃ、打ち上げすんぞ!!!』


その瞬間、ピクミンは笑って膝から崩れ落ちた


























三時間コースでカラオケを楽しみ、その後に適当なカフェに入った。
そこで早速暴飲暴食を始めた半間の隣、刹那はゆったりとアイスティーを楽しんでいる


「そういや刹那、アイツらがパパ活とかしてんのってマジなん?」


『うん、ちょっとホコタテに書き込んでさ、情報提供頼んだんだよね。
ウチの学校の女子が悪さしてたら写真撮れって。勿論、理由は適当に誤魔化して』


「えぇ、刹那ちゃん俺使ってくれよォ。な〜ンで雑魚に刹那ちゃんのお願い叶えさせてんだよォ」


カレーを食べながら面倒を言い出したのは半間だ。
この男、どうやら刹那に使われるのは自分だけが良いらしい。
ムッと口を尖らせながら吐かれた言葉に、刹那が困った様に微笑んだ


『修二は教科書読んでたし。
生活環境が変わるとさ、気付かない内にストレスとか溜まるじゃん?
だから、少しでもゆっくりして欲しかったんだよ。ごめんね?』


ぶっちゃけ半間に頼むレベルの事でもなかったっていうのが理由なんだろう。
それでも優しく耳触り良く謝罪した刹那に、半間は金色の目を伏せた


「……じゃあ次からは俺を使って。
刹那ちゃんに使われるのは、俺の特権なんだからさ」


『ん、そうする。ありがとう修二』


「…どーいたしましてェ」


顔も声も知らない不特定多数の手足にさえ嫉妬するなんて、随分使い勝手の悪い鎌だと思う。
だが刹那は、その扱いにくさにも愛嬌とやらを感じるんだろう。
ふわりと微笑んで、金と黒の髪を撫でていた


「…刹那ちゃん、神々しい感じに笑いながら頭撫でんのヤメテ?なんか恥ずいんだけど…」


『ん?神々しい…???』


「すんげぇキレイな顔で俺の事見るじゃん…刹那ちゃんはカミサマだった…???」


「既に業火担じゃね?」


『えっ、病院行き…?』


「キレイ…写真撮ろ」


『あっ』


撫でられていた半間が顔を赤くしたと思ったら、頓珍漢な事を言い出した。
そしてケータイを出したと思えば、刹那に向ける。
お望みのものが撮れたんだろう、一つ頷いて、半間は食事を再開した。
逆に戸惑っているのは刹那である。
暫しぽかんとしていたかと思えば、最終的には諦めたのか、笑いながらアイスティーに手を伸ばした


『アイツらの余罪は灰原さんに伝えたから、少なくとも謹慎にはなるでしょ。
後は…謹慎明けの態度次第で、パパ活と万引き常習犯って噂を流すか流さないかは決めるかな』


「温くね?とっとと広めちまえば良いのに」


カレーを完食し、唐揚げ定食に箸を伸ばしながら半間が言う。
がぶりと一口で唐揚げを頬張る大男を横目で見つつ、刹那はゆっくりと指を組んだ


『ああいうタイプはね、居場所を一気に全部奪っちゃうと暴徒化しやすいんだよ。
だから、あくまでも今回の騒動だけで謹慎って事にする。
これからの生活の事を考えれば、警察も他の生徒にパパ活の事は聞けないだろうし。


……ただ、謹慎明けにまだ此方を逆恨みする様なら、徹底的に居場所を奪う。


学校側は警察から、アイツらの余罪の事を聞いてるだろうから。
生徒の間で消せないくらい大きく噂になってしまえば、もう見て見ぬフリも出来なくなる』


人殺しでもしない限りは放置という、勉強さえ出来ればオーケーな校風でも無視出来なくなる様に、炎上させるという事か。
寛大な処置の様でいて、実質無力化させる為の二段構えの策に、思わず小さく笑ってしまった。
半間はと言えば、うっとりとした表情で刹那を見つめている。
それを見て苦笑いしながら、刹那は差し出された唐揚げに噛み付いた


「ほんとエグい策を立てる様になったね」


『ん?』


「刹那ちゃん口ちっちゃ…かぁいいなァ…♡」


『んんん』


つんつんと頬をつつかれ、刹那が眉間に皺を寄せた。
ぺしっと手を叩き、唐揚げを飲み込んだ刹那は静かに此方を見た。
静かな青紫が、ぎらりと鈍く光った


『私だけなら此処までしなくて良いけど、アイツらもしかしたら硝子を狙う可能性があるでしょ?
そういうの、許せないからさ』


────白露刹那は、自分の中の線引きが明確な人間だ。
大切にしたい人間と、それ以外。刹那は一握りの大切な人間にしか、心を動かさない。
…だから、こうやって明確に大事なのだと示されると、どうしたって沸き上がる感情があるのだ


「えぇ、良いなぁ…俺の為だったら刹那ちゃん、何してくれンの?」


『修二は…私が何かしなくても強いじゃん』


「家入ばっかずりぃ!俺だって刹那ちゃんに護られたいって思うじゃんか!!」


『うわだる…』


「だりぃ禁止!!!」


『おまいう』


ケラケラ笑いながら半間の頭を撫でる刹那。
口を尖らせた半間を見て、私はコーヒーに視線を落とした。


……護らない、というのは。
裏を返せば、護る必要はないと。
その強さを信じているという事だ。


半間は強い。
伏黒先生と出会った事で、半間は技術的な強さだけではなく、肉体的な強さも手に入れ始めた。
細身なのは変わりない。ただ、その身体の何処にそんな力があるのかというレベルの怪力を発揮する様になった。


それだけじゃない。
半間は今や、刹那を支えるのに欠かせない存在となってしまった。


冥さんと接触してパソコン関係に強くなり、ハッキングまで出来る様になった。
パルクールもモノにして、刹那を連れて簡単に離脱可能になった。
確かに、半間を強くするべきだと考えたのは私だ。


ただ────刹那の策を弄する才能に、半間という才能の塊を合わせても良かったのかと、思うのだ。


刹那の才能は、異端だ。
人を陥れる策から、金稼ぎの手段まで。
話してみせろと言われれば、きっと彼女は簡単に紡いでみせる。
そしてそれを、本人が異端だと気付いていないのだ。
この程度なら誰でも思い付く。そう思い込み、様々な策を軽い調子で撒き散らす。
刹那の弱点と言えば壊滅的な運動神経だが、それを補って余りある、半間の存在。


『修二がヤバい時はほら、もうどうしようもないってヤツだから。諦めて一緒に死のうか』


「死が二人を分かつまでってコト…???
結婚じゃん…俺指輪買ってくるね…」


『待って???私ら十五歳だからね?結婚まだ無理だから止めようね???』


顔を覆った半間と肩を揺する刹那。
コントを始めた二人を眺めながら、私は静かにコーヒーカップを持ち上げた














いつか私の前から消えるもの













刹那→クラス内を平定した。
半間の髪を気分でセットする人。最近半間を豹かその辺りのネコ科だろうと思い始めた。
ギャルの呼び出しは高確率で男が出てくると思っているので、直ぐに半間の召喚準備をした。
何処かから此方を窺っている筈と信じていたので、召喚の呪文を唱えた。流石に三階から降ってくるとは思わなかった。

半間→クラス内を平定した。
刹那の気分で髪をセットされる。気合いを入れる日じゃなければ基本下ろしている。
刹那の髪をセットするのが好き。
三階から見ていたのはたまたま。下に丁度良いクッションになりそうな輩が居たし、何よりオリマーに呼ばれたので飛び降りた。
信頼されているが故に護られない事に勿論気付いている。
ただおちょくっていたらプロポーズ()された。よろこび。

硝子→クラス内を平定した。
やたら細かくギャルを潰すんだなと思ったら、自分を護る為だと聞いてちょっと複雑。
一番の刀で在りたい訳じゃないけど、護る対象というのはちょっともやっとするらしい。
刹那が最近躊躇なく策を練る様になってきているのを見て、心配している。

斎藤→ひじき女。
調子に乗ってる女をシメようとしたら、謹慎になったし色々学校にバラされた。

コージくん→夕方のニュースになった。



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