黒は黒(ヒロアカに転生)


・捏造パレード






目が覚めた時には、既に自我ははっきりと私のものであった。
産まれた時からネグレクトというわりと笑えない環境ですくすくと育ち、中学で親友を得て、大学を卒業すると同時に闇に進んだ、一人の女。
終わり方は何故か色んなパターンを思い出せる。いやいや、私何回死んだの?
まぁ、それも気になるけど今は良い。


「908、出ろ」


がちゃりと鍵の開く音がして、私を閉じ込める狭い空間に、窶れた男が顔を覗かせた。
そこで取り敢えず、溜め息を吐きたくなる事実に直面する。
どうやら今生の私も、親に恵まれなかったらしい。














部屋を出るなり首輪を嵌められ、鎖を引いて連行される。まるで犬の様だが、実際この男にとっては似た様なものなのだろう。
連れて行かれたのはコンクリートが敷き詰められた部屋。そこには他にも子供が居て、全員が薄汚れて痩せぎすだった。


「大人しくしていろ」


首輪が外され、子供達の方に押しやられる。男はそのまま出ていった。
抵抗せずそちらに行けば、子供の中から強く視線を感じた。
何気なくそちらに目を向けて、大きく見開く。


前髪だけ金色の黒髪。
目尻の上がった切れ長の双眸。
まんまるで綺麗に輝く、梔子色の満月。


『………修二?』


呟いた瞬間、その子供はぱあああっと音が付きそうな程表情を明るくさせた。
子供の群れを押し退け此方に近付いてきたかと思えば、そのままの勢いで抱き締められる。
あの勢いなのに全然痛くない抱擁で確信した。これは私の紫ピクミンである、と。


『久しぶり、で合ってる?』


「合ってる様な、五秒前まで一緒に居た様な?」


薄っぺらく、そんなに身長差のない身体を抱き締める。
判る。確かに久しぶりの様な、でもさっきまで側に居た様な妙な感覚がする。
取り敢えずこのままでは目立ってしまうので、私は修二を連れて端っこに座った。


『修二、状況判る?』


「目ェ覚めたらちっこくなってて、刹那ちゃんに会えた」


『私とほぼ一緒か』


「…ぶっちゃけ俺、色んな死にパターンあンだけど知ってる?」


私は真面目な表情を作り、口を動かした


『稀咲殺して、世界規模でサイバーテロ起こして、最期に燃える屋敷の中で冷凍保存してた私と踊りながら笑顔で焼け死ぬのが秀逸』


「好みがヤベェwwwwwwwwww」


笑った修二が一瞬で表情を引き締めた


「東卍に大規模爆破テロ起こして、ペンダントに入れてた俺の遺灰飲んでチャカで自殺して、最期屋敷ごと遺体をきっちり焼き払うの死ぬほど好き」


『好みがヤベェwwwwwwwwwwww』


「俺の骨ダイヤにして首から下げてたの愛した」


『狂ってんなwwwwwwwwwwwwww』


誰が性癖の開示をしろと。
あんまりなカミングアウトにお互いお腹を抱えて笑う。
周りに怪しまれない様に顔を伏せ、笑いを堪えるのはしんどかった。
一頻り笑ってから、膝を抱えたまま視線を合わせる。梔子は笑い過ぎて少しだけ潤んでいた


『じゃあ修二、今日からまた宜しくね』


「ばはっ♡任せろ俺の魔法使い」


…硝子が此処に居ないのは、きっと良い事なんだろう。少し、寂しいけれど。

















あれ、この世界もしかして可笑しくね?と思い始めたのは、自分の身体に明確な異変を覚えてからだ。


『修二、私ってポケモンだったっけ?』


「んあ?俺もポケモンだったっぽいンだけど、アレ?これ刹那ちゃんにゲットして貰えないパターン?」


『安心して、ミュウツーはゲットしてた』


「把握ー。じゃあ刹那ちゃんは俺がゲットすンね」


『お互い捕まえ合うポケモンとは』


「人間が嫌いなンじゃね?」


そんな事を呑気に話してはいるが、私達は今絶賛殺し合いの最中だった。
向かってくる衝撃波に葉っぱカッターをぶつける。相殺し、その場で素早くしゃがみ込めば、真後ろに立っていた修二が全方位に悪の波動を放った。
まともに食らった子供達が吹っ飛び、壁に叩き付けられる。
十人全員が伸びた所で、スピーカーがひび割れた音を出す


《908、1027、合格だ。戻れ》


『はい』


「はぁい」


素直に返事をして、開けられた扉を潜った。
首輪を嵌められ、鎖を引いて連行されるのは狭い部屋だ。
白く何もない部屋に入れられ、首輪が外される。
修二も入れられた所で、扉が閉められた。
施錠された音を聞くと、修二がげんなりした顔で首を掻く


「だりぃ…」


『大人しくしとけば奴らもうるさくないし、丁度良いって』


しれっと子供から剥ぎ取った服を、両手で揉む様に擦る。甘い香りがふんわりと漂ってきた所で、それを大量に重ねた服の上に落とした。


「そういや刹那ちゃん、光合成出来てンの?」


『ぶっちゃけギリギリかな。部屋の明かりで騙し騙しって感じ』


────この世界は、個性という特殊能力を人口の八割が有しているらしい。
個性は髪が伸びるのが早いなんていう小さなものから、目からレーザーが出せる様な危険なものまで多岐に渡る。そして個性という名の通り、完全に誰かと同一の能力はないそうだ。
私達がこんな場所に閉じ込められているのも、その個性が原因だったりする。


恐らく此処は、個性の研究をやっているんだと思う。


この施設に居るのは大概が危険な個性…所謂強個性の子供ばかりだ。
子供達は血を抜かれ、良く判らない機械に繋がれ、そして戦いを強要される。


『出られたら良いんだけどな。私親も知らないから、戸籍があるかどうかも判んないし』


「俺も〜。…パソコン触れたら外に通報とか出来るだろうけど、どうする?」


『…修二、壁のすり抜けとか出来るんだっけ?』


「うん。なんかすり抜けたいって思えば出来るっぽい」


修二の個性はゾロアーク。
それも、リージョンフォームの方だった。
ノーマル・ゴーストの複合タイプという特殊性は、個性として修二に多大な恩恵を与える事になる。
ポケモンであればゴースト、格闘、ノーマルの攻撃を無効化するそれは、此方ではそれに該当する攻撃をすり抜けるのだ。


『意識しなきゃ当たるっていうのは、便利なんだか不便なんだか』


「便利だぜ?刹那ちゃんだって俺を引っ掻きたくなる時あンだろ?」


『なんだそれ』


「んふふ」


にっこにっこしながら肩を擦る修二に首を捻りつつ、布の塊の上に薄手のタオルケットを敷いた。
その上でも軽く掌を押し付けて、甘い香りが付いた所で転がった。


『まずは敵の人数を知りたいよね。間取りと現在地も』


「全部どーん!じゃダメなん?」


『そりゃ二十代のあんたならそれさせるけどさ、今って多分五歳とか六歳でしょ?
それに栄養失調だろうし、大人数の大人相手に私達だけで切り抜けられるとも思えない』


「だりぃ……チビだと大変だなァ」


『今めっちゃ喧嘩売った???』


「まってwwwwwwwww理不尽wwwwwwww」


敷き布団の上に寝転がる修二の脇を擽れば、楽しそうにケラケラ笑った。
私の掌を掴むと、しげしげと眺めながら梔子の瞳が細くなる


「マスカーニャ、だっけ?ふみふみして掌から良い匂いするってオモロいよなァ」


『ふみふみ言うな』


個性、マスカーニャ。
ポケモンの御三家に入る草猫ポケモンの最終形態が、私の個性の名前だった。
マスカーニャの進化前、ニャオハは前足を押し付ける…所謂ふみふみでアロマテラピー効果のある甘い香りが出せる。
勿論攻撃としてポケモンの技を使えるから、私は草・悪タイプのものを使える訳だ。
そして苦手なのもポケモンバトルのものが反映されるので、純粋に蹴りやパンチ、炎技やら基本草・悪が苦手なのタイプは全部弱点。ないとは思うが虫技は四倍である。
因みにヒスイゾロアークである修二には、悪技しか弱点はない。しかも二倍。なんだこの違いは。


「なぁンかアイツら妙な実験考えてそうなンだよなぁ。最近ガキ共が連れてかれてさァ、ラリって帰って来んの知ってる?」


『あー…個性弄ろうとしてるっぽいね』


「そうそう。嫌な予感がしたら問答無用で連れ出すから」


『りょ』


修二の野生の勘EXは健在である。なので、彼が言った時には計画が中途半端でも脱出した方が良いのだろう。














「なンか俺、悪タイプのゾロアークにもなれる様になった」


『卑怯者!!!』


あれから一年。
私達は未だに起床し、乾パンと水を食べ、子供と戦わされる日々を送っていた。
理由は一つ、修二がまだその時じゃないと言うからだ。
修二の勘は良く当たる。未来予知レベルで当たるので、それを疑う事はない。
ただ此処に居る子供達は次々と弱り、その度に新しい子がやって来る。
何時しか私達はこの研究所の古株になっていたし、研究員達も私達を丁寧に扱うつもりの様だった。
だって部屋は大きな場所に移されたし、ベッドもある。
食べ物は乾パンと水だが、量が増えた。
もしかしたらブローカーでも見付けて、私達を状態良く売り付けようとしているのか。
実験室というらしい闘技場に連れていく男達は、日によって変わる。
人数は十五人。ただこれは連れていく係だけでこの人数なので、まだ沢山居る場合、未熟な上に健康状態の悪いこの身体では、厳しい戦いになるだろう


『修二を外に出して助けでも…』


「失敗すンぞ」


『勘?』


「ン」


『じゃあダメか…良い案だと思うんだけど』


「アイツらもそれを警戒してっから、俺には足枷着けてンだろ」


ちらりと視線を向けた先、細い修二の足首には、武骨な黒い足枷が嵌まっていた。
修二曰く、それは恐らく個性によるすり抜けを感知するものだと言う。
ゴツゴツした足枷を睨み付け、呟いた


『………ムカつくな』


「ん?」


『……修二はアイツらのものじゃないんだけど』


私は基本、自分のものはきっちり管理したいタイプだ。修二は突然やらかすタイプだから振り回される事が多いけれど、だからこそしっかり把握しておきたいのだ。


だってこの男は、前世から私のものなのだから。


…それを、あんな奴等に似合わない足枷を勝手に着けられてるとか、不愉快でしかない。


『足枷を外しても問題ない方法と逃走計画を考える。“私”になってから一年も居てやったんだ、もう良いだろ…って、なにニヤニヤしてんの?』


ふと見れば、修二がその場に立ったまま笑っていた。
何事だと眉を寄せれば、ベッドに上がってきて、するりと首に細い腕を回してきた。
そのまま何も言わず、緩い表情のまま唇を重ねられた。優しく吸われ、ちろりと唇を舐められる。
口を開けろ、の合図に素直に従えば、真っ赤な舌が差し込まれる。
歯列を上から順になぞり、下に移って、緩く開いた歯の隙間から、奥に進んで。
前みたいに上顎の奥を擦るには、まだ舌の長さが少し足りないらしい。む、と不満そうな声が修二から漏れて、思わず笑ってしまった。
すると此方を見つめている梔子がぎらりと光った。


やべ、なんかスイッチ入った。


押し退けようと肩に手を置いた瞬間、私の舌に修二が蛇の様に巻き付いた。
じゅるる、と思い切り吸われ、肩が震える。
背筋がぞくぞくする懐かしい感覚に強く肩を押すも、後頭部をがっちりと抱え込まれていて逃げられない。緩急を付けて何度も舌を啜られ、ねっとりと糸を引く速度で甘く扱かれ、身体がひくひくと震える。
ぎゅっと目を閉じながら、なんとか喉奥に溜まった唾液を嚥下した。
間に合わず溢れたそれが零れ、顎を伝う感覚に下腹部がきゅうっと疼く


『っ、ん……っは、ぅ』


「は…弱ェトコ、変わってねぇなァ?」


ぼやけた視界の中、濡れた満月がゆっくりと瞬いて、口が離れた。繋がっていた銀色の細い橋が、ふつりと切れる。
再び重ねられる前に、ぐいっと顔を背けた。
息を乱し口許を腕で拭う私を、ネコ科の猛獣みたいな顔で戦犯は見下ろしていた


「あは、ガキなのに随分感度良くね?
つーか、気持ち良いの覚えちゃってるから、身体が記憶に引っ張られてるカンジ?」


『判った、次やったら噛むわ』


「え〜、そりゃねェよ。まだ抱けねェし、キスぐらい良いだろ?」


『生々しいんだよ七歳児』


「しょーがねェじゃん。俺もお前もイイオトナだったンだしさァ♡
前に言ったろォ?一度知っちまったら、キモチイイ事は忘れらンねぇって」


ゆるりと目を細め、口角をふんわりと上げて作る甘い微笑みは、修二が大人になってから浮かべる様になったものだ。
確かに100%内縁関係だったし、どっかでは結婚もしてたけど。
…いや、それとこれとは別問題では???


『ていうか今回の私のファーストキスだぞ。初めてがディープとかエグいわ』


「だって〜、刹那ちゃんが煽るから」


『煽ってない』


「いやいや、大人の俺と比べたろ?
キモチイイけど物足りねェって顔してた」


『………』


「ばはっ、昔みてェに奥まで突っ込める様になるのはもうちょっと待ってな?」


『噛み切ってやれば良かった』


「怖wwwwwwwwwww
……じゃあ、気が変わンねェ内に堪能しちゃお♡」


笑いながら覆い被さってくる修二に、溜め息を吐きつつ腕を回した
















修二と戯れつつ、半年が過ぎた頃。
唐突に、奴は言った


「今日逃げられっかも」


随分と急だが、今更修二の野生の勘を疑うなんてしない。修二がそう言うのなら、実行に移すのみ。


『良し、やるぞ』


「りょ♡」


────先ずは何時も通り、実験室で子供達と対峙する。
その最中、修二が動いたのを確認してから、私は両手に力を込めた


『そぉら、死にたくなきゃ退け!!!』


掌から緑色の輝きが溢れ、そこから巨大な蔓が飛び出した。
────ハードプラント。
攻撃直後は動けなくなるが、その分威力に全振りした技だ。
丸太の如く肥えた蔓が一直線に壁に突き刺さり、そのまま突き進む。
壁を貫通する派手な音が聞こえなくなるまで蔓を伸ばし、手品の様にそれを消し去った所で、ひょいと抱き上げられた


「刹那ちゃんゲーット♡」


私は小脇に抱えられていた。
そのまま駆け出した修二は唖然とする子供達なんて目もくれず、私のブチ開けた壁の穴に飛び込んだ


「何事だ!!」


「908と1027が逃げたぞ!!」


『今思ったんだけどさ、あれって誕生日で記録してんのかな』


「さァ?興味ねェや」


『だよね』


反動が抜け、動ける様になった私は修二に抱えられたまま、視線を後方に向けた。
此方に鉤爪の付いた手を伸ばす男目掛け、指を鳴らす。
Bom!と炸裂したのは私が仕掛けた花束の爆弾だ。
トリックフラワーというこの技は、相手の急所を必ず抉る。白目を剥いて倒れた男を横目で見ると、修二は笑い声を上げた


「ばは、強ェな刹那ちゃん」


『まぁ昔よりはね』


身体能力底辺よりは、まだ戦える方だろう。流石に前世のフィジカルギフテッド+個性とかいう化物には負けるが。


「あれ、そういや俺って銃とか効くンかな?」


『あんたが無効化したいと思えばすり抜けるんじゃない?』


「へー、便利」


『自分の事だぞ大丈夫か?』


「だぁいじょぶだって。刹那ちゃん護る為なら盾ぐらいヨユー」


『そう言って死にかけたの何回だった?』


「ばはっ」


『あと実際死んだよな』


「あは♡」


ペコちゃんみたいに笑って誤魔化そうとしているであろう馬鹿の手の甲を抓る。
いてて、とのんびり漏らした修二を睨み付け、私は口を動かした


『此処で私を庇って勝手に死んでみろ、私は自殺するからな』


「……あ゙?」


きろり、と梔子の瞳が此方を捉えた。
温度を失くした月を睨み、鼻で笑う


『私を死なせたくなきゃ、あんたが死ななきゃ良い。簡単だろ?』


「…言う様になりましたねェ、白露さん」


『出来ないとは言わせない。徒手空拳になるのは一度で十分だ』


修二が好みだと宣ったあの記憶。あれは私にとっては傷とも言えるものだった。
私の矛は折れ、盾も既に手放した後。
今更修二以外の矛を手に取るつもりもなかった私は、時間を掛けて犯人を探した。
そして報復と共に自殺した訳だが、正直あの時程毎日死にたいと思った事はない気がする。
真っ白な廊下を駆け抜けながら、未だ変声期の来ていない少年の声が笑った


「……あの後、武器は持たなかったンだな」


『矛の使い勝手が良過ぎてね。他のじゃ物足りなかった』


「ばはっ、そりゃあ武器冥利に尽きるなァ♡」


酷く嬉しそうに笑うコイツはやっぱりイカれている。ひょろりとした身体を揺らしながら駆け抜ける彼は、夢を見る様な表情で紡ぐのだ


「折角記憶もあるまま出会えたンだ。今回は、長生きしてから一緒に逝こうぜェ♡」


『…そうだね。ちゃんと私も連れていって』


何故こんな場所に記憶を所持したまま生まれたのかなんて判らない。
…けれど。


「俺の魔法使いオリマーが望むなら♡」


私の矛がこうやって笑っているなら、判らないのも悪くないと思うのだ

















あの後、私達は近くの交番に駆け込んだ。
ハードプラントを撃つ寸前に修二はトリックを使い、自身の足枷と適当な物を入れ換えていたので、万が一にもGPSなどが仕込まれている事もない。
痩せぎすで靴も履いていない子供なんて、明らかに児相案件だ。
私達は無事警察に保護され、研究所は制圧されたそうだ。


「んー、俺らってこの後どうなるん?」


『普通に考えれば施設行き。…ただ、私達は所謂犯罪被害者だ。そういう子達が集められた施設かもね』


長い間犯罪に巻き込まれていたなら、心のケアも必要となる。
私達にそれが必要とは思わないが、大人からすれば、此方は多感な時期に犯罪者に人生を狂わされた可哀想な強個性でしかない。


『そういえば、個性を使う犯罪者はヴィランって言うらしいね』


「じゃあ俺らはフツーに犯罪者って訳ね」


『まだ何もしてないから違いまーす』


確かに前世では悪事もいっぱい働いた。
何処かの世界線では東卍に入って悪さをしていたし、また何処かでは天竺にも加入したし、何処かでは梵天に入れと追い回されていた様な。


『…まともに表で稼いでたのってある?』


「んあ、刹那ちゃんが弁護士やってた時ぐらいじゃね?」


『それも親に反撃する為じゃなかった…?』


「つーかそれで言ったら俺ほぼ100%裏よ?」


『いや、基本私の秘書だったし表な事もあった…筈…』


「自信なさ過ぎィ♡」


ケラケラ笑う修二はひたすらに食べ物を口に放り込んでいた。
現在病院で検査入院中なのだが、正直身体に異変はない。
時折来る警察に事情を話すだけで、何もないのだ。暇でエントランスにある本を二人して読み漁ったが、それも一週間もすれば飽きる。
詰まる所、私達は時間を持て余していた


『暇だねぇ』


「でもさァ、俺らって最近ゆっくり出来てなかったろ?今ぐらい、なーんもしなくたって怒られねェよ」


『……修二が言うなら』


退屈が嫌いなこの男がそう言うなら、従おう。
ハンバーグを口に放り込む修二を尻目に、これからどうするかをのんびり考える事にした。














結局施設行きとなり、私達はそこですくすくと育った。
中三の現在、修二は相変わらず縦に伸び、190目前。私は前と同じく、150後半で止まった。
修二は目立つものの、この世界はヤンキーが少ないのか、喧嘩を売られる事もなく。…いや、個性を持ったフィジカルギフテッドに拳で挑むとか、普通に死にたい奴だな?
馬鹿が居なくて良かったと思い直し、進路調査書に文字を書き込んだ


「……雄英?なんで?」


不思議そうな修二の頬を撫で、口を開く


『ヒーロー免許が欲しい』


「ヒーロー免許ォ?…なァに刹那ちゃん、ヒーローやんの?」


『というか、免許取って公の場で個性使える様にしたい』


「ああ、なーる」


修二は納得したらしく、ゆるりと微笑んだ。
個性を公の場で使用しても咎められないのがヒーロー免許。これがないと、正当防衛であっても下手すると罪に問われたりするらしい。


『折角こんな便利な個性貰ったんだよ?使わなきゃ勿体無いじゃん』


「つーかヒーローって敵ボコっても良いんだっけ?暴れて金貰えるとか良い商売だよなァ」


『勿論やり過ぎはダメだし、ビルとか壊せばヒーローの弁償とかになるらしいよ。
だから巨大化とか超攻撃型個性のヒーローは、損害賠償とかで続けられなくなったりするって』


その辺りをサポートするのがスポンサーだったりする訳だが、そちらだって慈善事業じゃない。
損害に見合った人気がなければ金を出す価値はないし、逆にオールマイトみたいに圧倒的な人気があれば、壊された記念として写真に納めて展示したりもする。


『あくまで私達が狙うのは免許。…でも、仕事として敵をボコれる訳だから、合法的に暴力を振るえる手段って考えても良いのかも』


「へー…」


修二は自分の進路調査書を出すと、私と同じ文字で埋めた。
頬杖を付いて、長い指でくるくるとシャーペンを回し始める


「なァ刹那ちゃん、護る方も殴るンだったらさァ、暴力ってナニ?」


『先にやった方が悪者って事でしょ。少なくとも、前の世界みたいに正当防衛って言い張れる状況にしておけば、言い訳は幾らでも通用する』


寧ろ個性という超能力がある分、彼方より言い訳が通るだろう。
呟いた私に、修二はにんまりと笑った


「ばはっ、じゃあ俺って案外ヒーロー向き?」


『ヤクザ上がりのヒーローとかどんな冗談なんだか。…面倒だし、今度は私が裏方に行くかな』


「刹那ちゃんが秘書すンの?えっ、俺じゃなくて…?」


何気無く呟くと、修二が嫌そうな顔をした。おい何だその顔。どういう事?


『修二は頭良いし、十分リーダーとして動けると思うんだけど』


「えぇ……俺刹那ちゃんの矛が良い…」


『…あ、そういう。
私は高校卒業後に裏方…ヒーロー事務所でも立ち上げて所長業に専念するってだけで、あんたが私の指示で動くって事に変わりはないよ』


要は私がトップに居ないのが気に入らないのだ。なら私は上に居るまま、修二を表にスライドさせれば良い。
そう考え説明すると、修二の表情はあっという間に変わった


「そうなん?じゃあ良いや」


『…まさかそこまで私の矛である事に執着してると思わなかった』


「自分に関する見立てが甘ェなァ。俺は刹那ちゃんに振るわれるのが一番好きなの。
……振るってくれねェなら、その腕斬り落としてェくらい」


うっそりと微笑む修二に小さく笑って、キスを贈る


『判ったよ。死ぬまで振るってあげる。
そんで私が死ぬ時は、ちゃんと折ってあげるから』


「ばはっ、有り難き幸せェ♡」


修二は、幸せそうに笑った
















倍率300とかいう意味の判らない競争率を誇る雄英高校。
そこに無事入学し、なんやかんやありつつ高校生活を送っていた。
本日のヒーロー基礎学は、二人一組のヒーローチームと敵チームに分かれ、市街地で戦う演習。
クジで私と修二はペアとなり、敵チームとなっていた


「嫌だ!!!無情コンビじゃん嫌だぁ!!!」


「オイオイ酷ェじゃん上鳴ィ♡ンな言われたら修ちゃん泣いちゃう♡」


「泣いても良いからクジ代えて!!!!」


ギャンギャン吠えるクラスメイトに、修二がダル絡みしている。
緩く柔軟をしながら聞き流していれば、上鳴の矛先が此方に向いている事に気付く


「白露!!お願いだから半間此方にけしかけないで!!!!」


『作戦による』


「相手の事考慮して!?
2m近い男に音もなく襲われんの怖いって良い加減気付いて!?」


「だりぃ、飽きた。上鳴うるせェ」


「一瞬で機嫌悪くなんのやめて!?!?!?」


修二は以前と変わらず気分屋である。
肩を組んで絡んでいた癖に、一瞬で無表情になるとするりと上鳴から離れた。
戻ってきた修二は柔軟をする私の補佐に回った。
背中合わせで腕を組むと、ぐいっと腰を折る。
みにょんと伸びながら、私は口を動かした


『修二、今日はどういうのが良い?』


「んー、思いっきり暴れてェ気分♡」


『りょ。計画練るわ』


浮いた足を揺らしながら、涙目の上鳴に笑いかけた


















今回の演習のルールはこうだ。


・時間は十五分。
・捕獲テープを巻かれたら失格。
・ヒーローチームは敵をどちらも捕獲しなければ負け


『……ヒーローに厳しい条件だね』


「何処もそんなモンだろ?
悪党の方が有利な筈なのに、なァんでか正義のヒーローが勝っちまうの」


『脚本家は何時だってヒーローの活躍を書きたいからねぇ』


「つーか、モブもそっちが見てェんだろ。
自分が悪役だって、自覚してるヤツは少ねェからさァ」


修二が目を細める。
確かにそうだ。
苛めを苛めと思わない者、その言葉で相手がどれ程傷付いたか理解出来ない者も。
その行為がどれ程悪い事か判らない人間も、確かにこの世には存在するのだ


《準備は良いかな?》


一方的に入ってくる無線に、手で丸を作った。
修二も長い腕で大きく丸を作り、へらりと笑っている。
どちらのチームも合図を出したのだろう、オールマイトが開始を宣言した


《では、市街地演習START!!!》


『修二』


「ン」


紫のチャイナ服を身に纏う彼に、私はにっこりと笑ってみせた


『悪役は悪役らしく────盛大に暴れてきて♡』


「────ばはっ!!了解、オリマー♡」


正確に理解したであろう修二が、口角を吊り上げ飛び出した。

















「あーーーーーーーー嫌だ。なんで無情コンビとなんだよぉ…」


「行くぞ上鳴!シャキッとしろよ漢らしくねぇ!!」


「だってぇ…」


ペアになった切島に背中を叩かれるが、気合いなんて出てこない。
だって相手は半間と白露なのだ。
半間は何度か行われた演習において、毎回やらかす問題児。
白露は立てる作戦が毎回物議を醸す別ベクトルの問題児。
…そしてその二人が組むと、途端にヤバさが跳ね上がるのだ。




────BOOOOOOOM!!!!




「なんだ!?」


……斜め前方。
建物が、轟音を立てて崩れ落ちた。
次にその隣のビルが炎に包まれ、そして…


「きゃあああああああああ!!!!」


「「は?」」


甲高い、女の人の悲鳴が聞こえた。
そんな。なんで?
これは演習だ。此処に俺達以外の人なんて……


「誰か!!助けてぇ!!!」


「きゃあああああああああ!!!」


「ヒーローは!?ヒーローはまだか!!!」


炎が爆ぜる音。逃げ惑う民衆。
中程で折れたビルが向かいの建物に凭れ掛かる事でどうにかバランスの取れているそこには、沢山の人が居た。
そう、これは演習だ。その筈。演習、の、筈。


……激しく爆発を繰り返しながら、三棟のビルが一斉に雪崩を起こした


「っ大丈夫ですか!!今すぐ此方へ!!!」


「おい切島!!」


落ちてきたビルの破片の真下に居た人を引き寄せ、切島は代わりに押し潰された。
アイツの個性は硬化だ。きっと問題はない、けど…


「っみんな!!早く此方へ!!!」


此処に居る人達は、そうじゃない。
どうしてこんな事になってんのか判んねぇけど、救けなきゃ。
俺も声を張り、近くで転んでいたおばあちゃんに手を貸した。
一本奥の通り、何も起きていないエリアまでおばあちゃんを誘導して、もう一度倒壊の進む通りに戻った。


「■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」


「切島ぁ!!!逃げろ!!!」


咆哮が響き、強力な衝撃波がビルを大きく抉った。
隣の建物は縦に真っ二つにされて、上部が吹っ飛ぶ。
闇色の球体が何個もビルの群れに叩き付けられ、硝子と瓦礫が降り注ぐ。
道路には3mはありそうな炎の蛇が突然現れて、シュウシュウと口から燃え盛る炎の舌を出し入れさせた。


「なんだよこれ、なんなんだよぉ…!!」


炎の大蛇が近くに居た男の人に絡み付き、火力を上げた。


「たっ、助け…ぎやああああああああああ!!!!」


息を呑む。
ばちばちと爆ぜる音。悲鳴。
じゅう、とナニかが焼ける音。
ナニかが、焼ける……人が、生きたまま業火に焼かれる、臭い。
でろりと、ピンク色の中身が溶ける様に崩れ落ち、どんどん焼けて炭になって。


……ぼとり。
俺の爪先に、丸くて小さい、目玉が、


「うぷっ……おえぇ…!!!」


堪えきれず、その場で胃から競り上がったものを吐き出した。
そのまま倒れた俺の上に、影が射す。
朦朧とした意識の中、低い声はあっけらかんと響いた


「ありゃ?やべ、やり過ぎちったかァ?」























「半間少年、白露少女……これは、やり過ぎだ…」


「え〜、ちょっと幻覚見せただけじゃん?」


『すみません…』


私達の演習は相手チームがどちらも気絶した事で終了となった。
今回の作戦は、街を破壊する系敵。
舞台であるビル群を破壊するまでは良かったのだ。ただ、そこで愉快犯が躍動してしまった。


コイツ、巻き込まれた民衆を幻覚で創り出したのである。


私はせっせと花束爆弾を街中に配置していたので気付かなかったのだが、修二は上鳴と切島の居る辺りにだけ、ゾロアークの能力で幻覚を創り出していた。
急に悲鳴が聞こえ始めて何事かと見に行けば、二人がグロい焼死体を前に気絶していたという訳である。


「流石にね……目の前で焼死体はね…」


「ちょっと脅かしただけじゃんかよォ…根性ねぇなァ」


『ほんとすみません...』


「しかも妙にリアルだし…」


「オモロいだろ?夜中の墓場でやったら楽しそう♡」


『お前はそろそろ反省しろ!!!』


「んえ、刹那ちゃん怒ってンの?ウケるwwwwww」


ケラケラ笑う修二には、オールマイトの注意も全く響いていないらしい。
溜め息を吐いて、オールマイトは修二を見据えた


「半間少年、君の個性は強力だ。
だからこそ、その力を無闇に振るってはいけないよ。君の幻覚は誰かの心の傷に、簡単になり得るのだから」


梔子が剣呑に眇められた。
罰の刺繍を刻んだグローブが、ゆっくりと握り込まれる


「なァに、説教?」


「いや、忠告だ」


「…そ。あー腹減った。刹那ちゃん、座ろ」


『はぁ……オールマイト、すみませんでした』


「白露少女、半間少年を頼むね」


『はい』


最後にこっそり囁かれた言葉に苦笑いしか出てこない。やっぱりヒーローって私達には向いてないんだろうな、なんて思って笑ってしまった













白に混ざれず









刹那→個性はマスカーニャ。
毒の粉とかで弱らせて、花束爆弾でトドメを刺すタイプ。
前世のタイムリープにより発生した過去までも思い出した結果、モリアーティ系ヒーローが出来上がった。ヒーローはコイツが敵側に行かなかった事を喜ぶべき。
正直欲しいのはヒーロー免許のみ。卒業後はヒーロー事務所の所長(ヒーロー業はナシ)になりたい。
半間とはどのルートでも一緒になっていたので、今度は籍を入れるか入れないかはどっちでも良い。

半間→個性はゾロアーク。
幻覚で苦しめるのも、圧倒的な暴力でボコるのも気分次第。
前世のタイムリープにより発生した過去までも思い出した結果、最強のモラン大佐系ヒーローが出来上がった。ヒーローはコイツが敵側に行かなかった事を喜ぶべき。
卒業後は刹那の事務所の看板ヒーローにされそう。勿論ヒーロー時は幹部軸の猫被りを発揮する。
刹那とはどのルートでも一緒になっていた。
一度籍を入れた時に名字がお揃いなのが嬉しかったので、今回もそうしたい。
ヒロスは某パズルゲームの紫のチャイナ服。サングラスには蛇のピット器官みたいなのが搭載されている。本人の蹴りより、棍で殴った方がダメージは低い。

上鳴→あみだくじにより決まった被害者。

切島→あみだくじにより決まった被害者。





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