分岐器が動いた
『うわぁ………』
「でしょ?やっぱそうなるよなァ?」
昼下がり、修二に見せられたコピー用紙。
びっちりと文字で埋め尽くされたそれは、とある少年が描いた壮大な計画だった。
普通なら鼻で笑って終わるもの。
けれど、そうも出来ない緻密さと周到さを感じて、私は顔を引き攣らせるしかなかった
「見た感じ、ホコタテに接触してくンのは俺の件だけっぽい。けどこういうのって、状況に応じて書き換えンだろ?」
『うん。この間言ったみたいに、プランBになってるか、このまま逃げきればそうせざるを得なくなるか……』
ムラサキの文字をつつき、目を細める。
そっとコーヒーを置いてくれた修二にお礼を言って、口を付けた
『……でも何で東卍?こんなの考えられるくらいなら、いっそヤクザに行った方が早いのに』
「それな。佐野万次郎を利用して裏社会でのし上がるっつー計画みてェだけど、その理由が判ンなくてさ」
『ヤクザの成り上がり系ってなんかあったっけ?』
「さァ?」
クッキーを口に放り込んで、修二は書類を指差した
「後さ、まだ何か隠してる感じがする」
『…隠してる?』
「書いてない、ゲームの隠しコードっぽい感じ?」
『…全クリしたら出るみたいな?』
「そう。それ」
もう一度上から下まで目を通すが、特に引っ掛かる事はなかった。しかし修二が言うのだ、きっと何か隠されているのだろう。
『何かあるとすれば……東卍を裏組織で大きくした後って事か』
「ヤクザとドンパチとか?」
『禪院とドンパチとかじゃなきゃ良いけど。そうなると、最悪私らも駆り出される』
新宿を仕切るヤクザ、禪院組。
一ヶ月程前に知り合った彼等は、ホコタテが昼間に街を護る事を許してくれている。
組長である直毘人さんはアル中だが、豪快な人だ。
若頭の直哉さんはにんまりと笑う、食えないけれど優しい人。
「それまでには俺の事も伏黒センセーの事も調べてそうだよなァ。つーか俺、組長と直哉さんにバレてっかも」
『仕方無いよ、顔の系統若頭に近いし』
切れ長の、目尻の上がった目許。修二のそれが見事に直哉さんと似ていた。
恐らくは彼方も察している。ただそこを無闇につつかないのは、下手に修二が宗家の人間であった場合、御家騒動が勃発するからだろう。
「マ、種が誰とかぶっちゃけどうでも良いわ。俺は俺」
『…強いね』
「あ、刹那ちゃんこのツラ好きなンだっけ?じゃあ一応感謝しとこ」
ぺらっとした言葉に思わず笑ってしまった。
隣に座る修二の頬をそっと掌で包む。
『確かに顔も好きだけどさ』
「ん」
『修二が好きなんだよね、私』
何事にも縛られず、己のやりたい事をきっちりやる姿は、何処までも自由だ。
私の意見を聞いてくれるのも、しっかりと修二が自分で決めているというのもポイントが高い。
確かにイエスマンなら扱いやすいけれど、私は人形なんて要らないのだ
『修二はさ、私が間違ってるって思ったら止めてくれるでしょ。そういうトコ、信用してる』
そこまで告げて、思わず笑ってしまった。
目の前、掌で包んだ頬が、真っ赤に染まっている
『…ふふ、照れてんの?』
「逆になんでこの距離で好きって言われて照れねェと思ってンの…?」
『かわいいwwwwwwwwww』
「見んなや…」
拗ねた様に目を逸らす癖に、手を振り払いはしない。それが可愛くて、また笑ってしまう。
…白い頬を染めてそっぽを向く姿に、胸の奥がきゅうっと小さく痛んだ。
…きっとこれが、硝子と修二に抱く感情の違いというものなんだろう。
見付けた情報に笑みを浮かべ、白い頬をうりうりした。
それは、ホコタテとしてパトロールをしていた時の事だ。
「…ん?」
隣を歩いていた修二が足を止めた。
私と硝子も止まり、修二を見る
『ムラサキ、どうしました?』
「キイロくん、アッチから女の悲鳴が聞こえる」
修二がすっと路地裏を指差した。
それを見た私は一つ頷く。その合図で修二が飛び出し、私と硝子も後を追った。
あっという間に見えなくなった黒いローブ。でも数秒後には銅鑼をぶっ叩いたみたいな音が響いたので、問題はない。
「どーもォ愛美愛主の皆さん、死ねや♡」
軽薄な声で煽った長身が、あっという間に白いツナギの男達を沈めていた。
私達は倒れて動かない男の子と、その傍で震える女の子に駆け寄った。
女の子は暴行されそうだったのか、服が乱されていた。ローブの中に着ていた薄手のシャツを脱ぎ、そっと肩に掛ける
『ボタンがないものですみませんが、それで肌を隠して下さい』
「ありがとう、ございます…」
「救急車呼んだ〜。直ぐ来るってさァ」
『ムラサキ、ありがとうございます。シロ』
「気絶しているだけです。骨に異常はなさそうですよ」
学ランの男の子の様子を確認していた硝子の言葉に、女の子が安心したのか息を吐いた。
『事情の説明は宜しくお願いしますね。では』
「あっ、あの!あなた達は…」
出来れば面倒に関わりたくないので、とっとと退散しようと立ち上がると、ローブを女の子に引っ張られた。
静かにそちらを見下ろして、口角を上げる
『申し遅れました、我々はホコタテです。以後、お見知り置きを』
七月下旬ともなれば、コンクリートジャングルは砂漠の様に暑くなる。
ぱたぱたと扇子で扇ぎながら、腕時計を確認した。
時刻は五時五十分。待ち合わせは六時だから、丁度良い。
今日は冥さんに会う予定だった。
修二と硝子も同席すると言ってくれたが、修二は三ツ谷くんとの約束が、硝子は家の用事があった。
故に行きは修二と共に、それから一人で待っている訳だが、まぁ暑い。
先に飲み物でも買おうかと自販機を目指した。
裏通りの緑の喫茶店の前を歩いていると、背後から複数の足音が聴こえてきた。
何気無く振り向いて、
『え、』
ヘルメットに金属バットを握った男達が真っ直ぐに此方に突っ込んで来るのを、ただ見つめるしかなかった。
「ありがとな半間くん。めちゃくちゃ楽しかった」
「ドーイタシマシテ。参考になりそう?」
「おう!あ、服とか作ったら着てくれる?」
「サイズ合ってりゃ着るよ」
今日は前から約束していた三ツ谷くんと遊ぶ日だった。メジャーを巻き付けてはきゃっきゃしている姿を眺めるのは、動物園のパンダになった気分だったけど。まぁ不快ではなかった
「どっか行きてぇトコとかあるか?案内するよ」
「んー、じゃあ良い感じの雑貨屋とか知ってる?刹那ちゃんそういうの好きだからさ、次コッチで遊ぶ時の為に、先に見ときてェかも」
提案してきた三ツ谷くんにそう返すと、顎を軽く擦ってから口を開いた
「北欧系とかヨーロピアンテイストの所と、アジアンテイストの店なら知ってるけど。白露さんどれが好きそう?」
「アジアン系かなァ。でも多分、今三ツ谷くんが言ったの全部喜んで見ると思う」
「んじゃ一通り案内するよ。それにしても、半間くんってほんとに白露さん好きだなぁ」
「嫁を好きじゃねェ男とか居んの?」
俺が刹那ちゃんを好きなのは当然の事実では…?
というか付き合ってるんだから、好きなのは当たり前では…??
首を傾げた俺を見上げ、三ツ谷くんが人の良さそうな笑みを浮かべた
「いや、仲良さそうで何よりってコト。ほら、居るだろ?嫁が居んのに他の娘にちょっかい出すヤツ」
「あー、そりゃ理解出来ねェヤツだわ。
付き合うってさ、その娘の全部を大事にしてェからじゃねェの?
何でその娘の為に生きてンのに目移りするん?」
「おっ、半間くん愛が重いタイプか?」
「エッ?どの辺りが?」
「自覚ナシかぁ。多分普通は、付き合ってる相手の為に生きてるとは言い切れねぇんじゃねぇかな」
「そんな生半可な覚悟で嫁作ンなや。一生捧げる気で向き合えねェならお一人様謳歌しろっての」
「おー、かっけぇな半間くん…」
おちょくってんのかと思ったら、何だかキラキラした目で此方を見上げていた。
何でだ。何がそんなにこの毬栗に刺さったと言うのだろうか。
だって普通の事だろう。
俺は刹那ちゃんの為に生きて、刹那ちゃんの為に死ぬ。
勿論他人なんざクソどうでも良いので、付き合おうが別れようが知ったこっちゃねぇし、他所でやってろって感じだけども。
…でも、大事に出来ねェなら何で付き合うんだろうかとは、思うのだ
「だってさァ、オツキアイってのは手ェ繋いで仲良しこよしじゃ終わンねぇだろ?
奥の奥まで曝け出しといて、他の娘とヤりました〜はイカれてんじゃん」
一人だけとそうするなら、まだ理解出来たのに。
毎晩の様に別の男を連れ込んで股開いて、アンタは何が欲しかったんだろうな。
押し入れの中で何度も聞いた汚ねェ喘ぎ声が耳の奥で鳴った気がして、拳を握った。
そこで手に嵌まった感触に気付き、その存在を思い出す。
…刹那ちゃん、そういえばやっと俺の事男として好きだって自覚して来たっぽいんだよなァ。
「なんか半間くんって見た目と中身のギャップ凄ぇよなぁ」
「お???喧嘩売ってるゥ???」
「ジョーダンだってオニーサン」
わざとらしくにっこり笑ってやれば、三ツ谷くんも笑顔でハンズアップした。
一個下だけど、三ツ谷くんとドラケンくんは落ち着いた感じで話しやすい。ウチのクラスの小鬼コンビとチェンジしても問題ねェと思う。
「あ、そこのお兄さん!芸能界とか興味ない?」
「ないで〜す」
「ねぇ君!是非ウチのモデルに」
「一昨日どーぞォ」
声を掛けてくる奴等をノールックで切り捨て、街を歩く。
これしょっちゅうあるんだけど、暇なの?他の興味ありそうな奴のトコ行けや。
「慣れてんな半間くん」
「結構あんだよね。デケェからかなァ」
「スタイル良いし、カッコいいもんなぁ」
「お、どしたん三ツ谷くん。俺褒めてもカフェ代くらいしか出ねぇよ?」
「事実なのに集ってると思われてンのウケる」
楽しそうに笑っている三ツ谷くんこそスカウトされそうなもんだけど。
そんな下らねぇ話をしつつ交差点に差し掛かった時、突然背後から腕を掴まれた。
……ヤベェ感じはしねぇから、これ蹴っちゃダメだ。
だが一方的に触れられる他人の体温も不快なので、振り向いて腕を引く。
そこに立っていたのは金髪の男だった。
冴えないリーゼントのチビは、縋る様な目で此方を見上げている。走ってきたのか、矢鱈と息が乱れていた
誰だ。
そしてコイツ、何だ?
妙な感じがする。
悪いモンじゃねェ、けど。妙な色がぐるぐる巻き付いて見える。
何つーか、人生何度もやり直してる、みたいな。変な感じ。
ともあれ知らねぇヤンキーだ。だが敵意がない以上、軽率にボコれもしない。
どうしたもんかと見下ろしていれば、三ツ谷くんが口を開いた
「お前、確かマイキーの」
「三ツ谷くん知り合い?」
「いや、そこまでじゃねぇよ。ウチの総長が気に入ったっつーヤツ」
「ふぅん?」
尚更謎なんだが。そんなヤツが俺に何の用だ。
首を傾げた時、チビが漸く言葉を出した
「あ、あのっ!!」
「んー?」
「魔法使いと五時五十分までに合流して下さい!!場所は裏通りの緑の喫茶店!!
禪院修二さんからの伝言ですっ!!」
「────は?」
フリーズ。
だが、身体は自然と動き出していた。
「半間くん!?」
「悪ィ三ツ谷くん、今度埋め合わせする!!」
走る、走る。
交差点から喫茶店までの最短ルートを思い浮かべ、ビルの上からの方が速いと算出。登る。
時間は五時四十七分。五十分なんて指定をしたって事は、その時間に刹那ちゃんが何かに巻き込まれると考えて良いだろう。
信号機を足場に、跳ぶ。
「人が飛んでる!!」
「え、何あれ撮影?」
五時四十八分。ビルの上を駆けながら、金髪の言葉を反芻する。
禪院修二からの伝言だと奴は言った。
そして俺しか使わない、魔法使いという呼び名。
五時四十九分。
……最悪の推測に舌を打った。
地上に黒髪の少女が歩いているのを見付けた。
その背後に、ヘルメットを被った三人組が、金属バットを手に忍び寄る。
刹那ちゃんが振り向き、動きを止めた。
五時五十分。
たん、と床を蹴り、ビルから身を投げ出す。
────だああああああああああん!!!!!
先頭に居たヘルメットを踏み潰し、俺はゆらりと身を起こした。
降りる際に肘を踏み、関節を潰しておく。
「刹那、下がってろ」
『しゅ、修二…?』
声が震えていた。
それを聞いて、伸びた男の膝にも爪先を叩き込む。
これで万が一目を覚ましても、コイツは動けねぇだろう。
「なっ、コイツどっから降ってきやがった!?」
「ヤベェよソイツ、ずらかんぞ!!」
脳味噌が沸騰しそうなぐらい熱くなってる癖に、恐ろしく意識はクリアだった。
…ああ、ブチ切れたら人間って冷静になるんだなァ。
歯を剥き出しにして、地を蹴った
「あ゙はァ────テメェら全員、鏖だァ♡」
それは、一日前の話。
未来に戻っていた俺は、ドラケンくんの死を回避しようと直人と決めた後だった。
たまたま一人で街を歩いていた時、向かいからとても背の高い男がやって来るのが見えた。
ストライプのスーツを来たその人は、金と黒のアップバングにラウンドの眼鏡を掛けた、整った顔の人だった。両耳で揺れる金のピアスがしゃらしゃらと光を弾いている。
良いな、何食ったらあんなにでかくなるんだろ。
そんな事を考えながら何気無く眺めていれば、その人の金色の目と目が合った。
やべ、見過ぎた。いちゃもんを付けられる前に目を逸らそうとして、ハーフグローブに包まれた大きな手が、俺の腕を掴んでいた
「えっ」
目を丸くする俺を見下ろして、その人はぎゅっと眉を寄せた。
え、マジで何?誰?
ポカンとする俺に、その人はこう、言ったのだ
「……アンタに賭けるわ。
なァ、アンタ。2005年の7月22日。場所は裏通りの緑の喫茶店。
五時五十分までに魔法使いと合流しろって、スクランブル交差点に居る、背が高くて金のアメリカンピアスを左耳に下げた高校生に言ってくンねェ?
……禪院修二が言ってたってさ」
「えっ、は?」
訳が判らなかった。
2005年って、十二年前?
…待って、何でだ。嘘だろ、俺がタイムリープ出来るって、この人何で知って────
「…頼んだぜ、ヒーロー」
泣きそうな顔で微笑んで、その人は俺の肩を叩くと、さっさと歩いていってしまった。
「ま、待って!!!」
呼び止める間もなく、その人は直ぐに消えてしまった。
暫くその場に佇んで、それから直ぐに電話を掛ける。
応答した直人に、俺は直ぐ言葉をぶつけた
「もしもし、直人?今さ、不思議な人に会ったんだけど────」
「────タケミチくん。
君に接触した男は禪院修二。
関東を仕切るヤクザ、禪院組の参謀です。
禪院組の表沙汰になっていない悪事は、全て禪院修二が企てたものだと言われています。
禪院修二は、東京卍會の稀咲鉄太とも繋がりがあります。
…ただ、禪院が何故タイムリープの事を知っているのかは…」
走りながら、直人の言葉を思い出した。
三ツ谷くんには警察を呼ぶ様に頼み、俺は禪院修二に言われた場所を目指していた
「なァ、テメェらこの娘に何しようとしてた?」
やっと辿り着いた先で行われていたのは、蹂躙だ。
地に伏せる三人の高校生ぐらいの男を山積みにして、ごっ、ごっ、と長い脚が何度も踏み付けていた。
その姿を、助けられたんだろう黒髪の女の子が呆然と見つめている
「女相手に金属バットかぁ。
しかも自分はフルフェイスで身バレ防止とかさァ、クソウケんね。オモロ」
一切表情を動かさないまま、地を這う様な低音で、彼はそう言った。
金に染めた前髪に、左耳に揺れるアメリカンピアス。見上げる程の長身。
……あの時よりも幼いけれど。彼は、未来で俺に声を掛けてきた、スーツの男性だった
『しゅ、修二!もう良い。それ以上は死ぬ!』
「殺そうぜ、こんな奴等生かす価値ねェだろ」
作り物の様な表情で、修二と呼ばれた彼は倒れる男の頭に脚を乗せた。
その脚が、高く持ち上げられる。
今にも脚を叩き付けそうな雰囲気の彼を止めないと。
大きく乱れた息のまま、飛び出そうとして
『んの……馬鹿猫がァ!!!』
座り込んだままの少女……白露刹那が、怒鳴り付けた。
禪院修二は、ブリキの様にぎこちない動きで白露さんの方に顔を向ける。
『お前が今ソイツらを殺したら────隠蔽するのは誰だと思ってんだボケナス!!!』
「えっ」
思わず声を発した俺の方なんて見やしない彼女は、眉を吊り上げて続けた
『年齢、氏名、生年月日も割れてない!性格分析も出来ちゃいない!
接触した人間の確認も移動ルートも監視カメラの有無も判ってない!
そんな完全初対面の人間を衝動的に殺すなんぞ、
────あんまりにも、醜いだろうがっ!!!!』
「………えええ…」
えっ、待って、この子今凄い事言わなかった?
犯罪に綺麗も汚ないもないだろ?それ厳密に言うと殺しを否定してないんじゃ?
狼狽える俺を他所に、禪院はぱちりぱちりと切れ長の目を瞬かせた。
長い脚を振り上げたまま、何処かぼんやりした声と表情で彼女に問い掛けた
「…俺が今殺っちまったら、刹那ちゃん困るん?」
『困る。どうしてもって言うなら練ってあげるから、今は少年院にブチ込め』
「……りょ」
長い脚が地に降りた。
静かな目で倒れた男達を見つめ、薄い唇が動く
「────弱者は油断すると、癌細胞が増殖する様に、ずんずん傲慢になっていく。だから、心してそれを食い止めなければならない。
…傲慢な雑魚がやらかす前に止めてやったんだ、感謝しろや。そンでェ……年少出てきたら、殺されに来い」
『哲学者の言葉で貶すな』
もう色々と大丈夫か???
禪院は見るからにヤバイし、白露さんもまともっぽく見せて言ってる事は大体アウトだ。
気になって追い掛けて来たけど、これって俺が来た意味あるんだろうか。
そう思っていると、青紫の目が此方に向けられた
『……ごめんなさい、どちら様でしょうか?』
「あっ、俺は」
「ソイツが刹那ちゃんが危ねェって教えてくれたんだよ。なんか変だけど、嘘は言わねェと思う」
『ふぅん…助けてくれてありがとうございました。これから警察にコイツらを突き出さないといけないので、後日お礼をさせて頂けますか?』
「えっ、あっ、はいっ!」
何処か値踏みする様な色を宿していた青紫が、禪院の一言で穏やかになった。
笑顔で携帯を差し出されたので、駆け寄って連絡先を交換する。
そこで、近付いてきた禪院にも携帯を差し出された
「俺とも交換しよ〜」
「はい。赤外線で良いっすか?」
「ん」
大きな手に収まった玩具みたいな携帯と連絡先を交換し、登録された名前に首を傾げた
「半間…?」
「そォ。禪院じゃなくて半間修二。宜しくな、花垣さん?」
そっと耳許で囁いてきたコイツは、果たして敵なのか、味方なのか。
あの後、三ツ谷くんが連れてきた警察に盛大に泣き真似をキメながら訴え、謎のヘルメット三人衆を連行して頂いた。
冥さんには理由を話し、食事会を後日に回して貰い、修二と外で食事して家に帰る。
帰り着いたのは八時過ぎで、時間を確認してげんなりした
『あー疲れた…ごめんね修二、巻き込んだ』
「良いよォ。間に合って良かったわ」
そう言ってシャツを脱ぎながら部屋に消えていった修二を見送って、ソファーに腰掛けた。
ぼおっと部屋の中を見渡して、息を吐く。やっと安心出来る場所に戻れたからか、安堵感が半端ない。
着替えなきゃいけないのに立ち上がる気力もなくて、ソファーで呆けていると、扉が開いた。
着替えた修二は此方を見ると、長い脚で近付いてきた。
隣に座ると、そっと膝の上の手を包まれる
「…怖かった?」
『え?』
「手ェ、震えてる」
そう言われ視線を落とすと、かたかたと小さく震えている自分の手が目に入った。
そこで漸く理解する。
…そうだ、私怖かったんだ。
『凄く間抜けなんだけどさ』
「うん」
『修二に言われて、怖かったって自覚してきた』
「……言わねェ方が良かった?」
『いや、寝る前に気付いて夜通し怯えるとかだるいじゃん。今で良かったよ』
呟いた私の背に長い腕が回る。
そっと背中から回った右腕に右手を包まれ、優しくにぎにぎされる様を眺めた
「…魔法使いと五時五十分までに合流しろって、禪院修二からの伝言だって言われた」
『禪院…』
魔法使いという呼び方と、細かい時間指定。そして何より、禪院修二。
普通に考えて、有り得ない。
けれど何故か、妙に。
『……ああ、もしかして私、さっきので死んでた?』
呟いた瞬間、痛い程の力で抱き締められた。
何も言わずしがみついてくる修二の背を撫でながら、思考を整理する
『ぱっと見た感じ、花垣武道は表の人間だ。それなのに禪院なんて言う?
しかも妙にピンポイントの時間指定。…普通に考えて、その時間までに間に合わなきゃ、私は修二が禪院になる事態になってた。…って考えるしかないよね』
ぎし、と背骨が軋んだ。
首筋に埋め込まれた頭から、泣きそうな声がする
「………禪院の俺は、刹那ちゃん護れなかったん?」
『だろうね』
そうじゃなきゃ、私が修二を禪院に行かせるとは考えにくい。
彼処は魔窟だ。直毘人さんと直哉さんはトップだったし、そもそも修二が禪院に入るつもりがないと見抜いていたから穏やかだっただけ。
下の人間は直系かも知れない修二なんて目障りだろうし、そんな奴が入ってきたら消したい筈。
私なら針の筵に修二を送り込んだりしない。ならば修二を手放したのかとも考えるが、多分修二から私は逃げられない
『指定された時間は乗り越えた。だから多分、私は生き残ったんじゃない?』
「…もう死なねェ?」
『それは知らないけど…いだだだだだだ』
どうやら修二の望む返事じゃなかったらしい。
無言で力の増す腕をタップして、どうにか緩めさせる。
丸い後頭部を撫でながら、口を開いた
『ありがとう、修二。あんたのお陰で生きてるよ』
「…ドーイタシマシテ。もう一人で出歩くの禁止な」
『え』
変わった未来
刹那→実は死んでた。
ヒーローの介入により残留決定。
半間→武道の言葉を直感で信じた。
武道が来なきゃ刹那が死んでいた可能性に気付き、地味に凹んでいる。
実はコイツの超直感は、自分の傍で起きる事についてしか反応しない。つまり離れた場所で刹那に何か起きても、介入出来ない可能性が高い。
武道→未来で突然スーツの男に接触されたヒーロー。
お陰でモリアーティと妙に万能なモラン大佐と出会った。
禪院さん→花垣武道が介入しなかったルートの半間。思い残す事のなくなった彼は、今からテロリストになる。
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