その橋は安全か
授業が終わった瞬間、隣から長い腕が絡み付いてきた。
のっしりと覆い被さってくる大きな猫の頭を撫でつつ、小説を開いた。
肩に顎を乗せ、一緒に文字を追い始めた修二をそのままにしていると、逆隣の硝子が頬杖を付く
「なにソイツ、今日やたらベタベタしてない?」
『ああ、うん……実は昨日、色々ありまして』
「は?何?早く言いな」
嫌な予感でもしたのか、硝子が眉を潜めた。
それを横目で見て、重い口を動かした
『…ちょっと暴漢に襲われかけまして』
「向かってきてンの認識したンだから襲われてんだろ」
「オイ」
『…』
無言でやり過ごそうとしたのだが、ダメだった様だ。両手で頬を挟まれ、強制的に目を合わせられた
「説明」
『…あい』
「はぁ……」
昨日の話を聞いた硝子は頭を抱えた。
それに怯えつつ、絡み付いたままの修二の頭を撫でる
『で、でも無事だったよ?修二が助けてくれたし』
「俺もう刹那ちゃんから離れねェから」
「もうそれが一番な気がするな」
『硝子さん???』
え、マジで?硝子は何だかんだ言いつつ止めてくれると思ったんだけど?
そちらに顔を向けると、呆れたと言わんばかりの表情を浮かべた親友が居た
「アンタと半間が離れた時間って少しでしょ?それでそんな事になるなら、もう四六時中ソイツを張り付かせた方がマシ」
『プライバシー…』
「んなモンとっくに死んでるよ」
「オモロ♡」
『なんっっっにも面白くない』
ご機嫌ですりすりしてきた修二の頭を撫でつつ、溜め息を落とした。
でもまぁ家でも学校でも一緒に居るし、何だかんだ言って私に一人の時間ってなくないか…?
無闇矢鱈と人のケータイを覗いてくる訳でもなし、話したくない気分の時は、それを察してか黙って隣で転がっている。
『よくよく考えてみたら、別に四六時中張り付けてても問題ないな…?』
「それはそれでヤバイって気付きな」
「あは♡」
前日にケータイでメールを送り、放課後。
新宿の喫茶店に、修二を引き連れて向かった。
店内最奥の角席に腰を降ろす。
メニュー表を二人で眺めていると、待ち人は現れた
「遅れてすみませんっ」
『いえ、此方が早く着いただけですからお構い無く』
金髪に、人の良さそうな丸っこい眼。
不良と呼ぶにはなんだか弱そうな彼は、印象に違わずぺこぺこと頭を下げている
『花垣さん、何食べます?』
「俺の奢りだから好きなの選べよ」
「えっ、良いんスか?」
「んー。此処のオムライスとかオススメ」
「じゃあ、それで」
「刹那ちゃんは?」
『メロンソーダ』
「りょ」
修二が呼び出しボタンを押した。
やって来た店員さんに、慣れた様子で注文を始める
「メロンソーダとオムライス。それからステーキ定食とオムハヤシとボロネーゼと唐揚げ大盛り。デザートにショコラパフェで」
「えっ」
修二の注文は、何時だって人の度肝を抜く。ただこの喫茶店は私達が良く足を運ぶ店だ。
大量注文に慣れっこな店員さんは、何て事ない様に注文の確認を済ませると、キッチンに下がっていった
「あ、あの」
「あ?」
「そんなに注文して大丈夫なんですか…?」
「あー、ウン。俺燃費悪ィから、めちゃくちゃ食うの」
すっかり聞かれ慣れてしまった質問に、修二は軽く返した。
注文の品を待つ間に、私は化粧箱をテーブルに乗せた。それをすす、と花垣さんの方に滑らせる
『取り敢えず、これをどうぞ。お菓子の詰め合わせです。
お返しにもならない程、細やかなものになってしまいますけど』
「えっ、いやお気になさらず…!
俺、半間くんに伝えたってだけですし…!!」
「それが重要なンだよ。アンタが教えてくんなかったら、刹那ちゃん死んでたっぽいし」
ハーフグローブを外し、お絞りで手を拭きながら紡がれた修二の言葉に、花垣さんはほっとした表情を浮かべた。
────やっぱり。
彼の中で、私は死ぬ運命にあったのだろう。
彼の動きを静かに観察しつつ、口を動かした
『単刀直入に聞きますね。…花垣さんは、未来が判るんですか?若しくは、未来から来ました?』
「んぐっ!?」
問い掛けた瞬間、お冷やを飲んでいた花垣さんが噎せた。
うん、判りやすくて大変宜しい。
咳き込む彼を眺めつつ、とん、とテーブルを爪先で叩く
『禪院という苗字は、新宿をメインに活動する極道のものです。そんな所にコイツが入るとすれば……私が死んだ後、復讐でもするんでしょう』
「つーか、花垣さんに伝えンのが目的だったンじゃねェかな。今頃テロでも起こして死んでンじゃね?」
「なんつー恐ろしい話を…」
『そういうものなんですよ、この男は』
執着している私が死ねば、きっと原因はおろか、関係者の一族郎党まで鏖に処すであろうし。
私の遺書を読んで尚、その行動を起こしたならば、コイツの幸せは未来にないのだとしか言えない。
『禪院を頼ったって事は、殺したい相手がめちゃくちゃ力を持ったとか、かな』
「単純に、組長と若頭が腑抜けた俺を取り込んだっつー可能性は?」
『火種にしかならないあんたをわざわざ?……いや、修二が殺したい相手がデカい組織のボスなんかで、丁度禪院にとっても邪魔なら…有り得るか』
つまりあのヘルメット達を送り込んできたのが、組長達にとって邪魔な存在という事だろうか。
というか未来の話を知っている前提で話しているが、花垣さんは否定しない。どころか此方の仮説を真剣に聞いている雰囲気さえある。
これやっぱり、この人未来予知でも出来るんじゃない?それか意識だけ未来から来てる系?
「お待たせしました。ご注文の品です」
「どーも」
『ありがとうございます』
「あざっす」
料理が運ばれて来たので、一度話を止める。
其々に品物が行き渡った所で、手を合わせながら修二が言った
「いただきます。…ンでさぁ、花垣さん人生何周目なん?」
「ひぃっ!?なっ…なんっ、何の話っスか!?」
「あは、嘘ヘッタクソじゃん。何周もしたにしては頭もメンタルもダセェし、今回が初なカンジ?
つーか違ェな…周回っつーよりは、特異点をやり直して未来を変えるカンジか?」
じいっとナニカを見つめる様に、瞬きもせずに向けられる梔子。
完全に修二に流れを握られた花垣さんは、だらだらと汗を流している。
死んで赤ちゃんから、とかではなく、特異点という人生に於けるターニングポイントを狙っての逆行。特異点の修正が目的なら、転生ではない。戻る時代と肉体が存在する。そしてそこにある彼の肉体は年上であると、修二がさん付けをする事から推測出来る。
修二の暴いた情報を元に、私が導き出したのは────
『タイムリープしているんですね、花垣さん。今お幾つですか?』
ナオトへ。
意味の判らないままにほぼ全て言い当てられ、最終的にタイムリーパーだとバレてしまった場合、俺は一体どうすれば良いのでしょうか。
だらだらと滝の様に流れる汗をどうにかしたいけど、こんな心境じゃどうしようもない。
斜め向かいの白露さんはにっこりと綺麗に微笑んでいて、正面の半間くんはそれを楽しげに眺めつつ、大きな口でパスタを迎えた
「い、いやー…何を言ってるのか俺にはさっぱり…」
ヘタクソな言い訳しか出ない口を叩きたくなる。
どうにかシラを切ろうとする俺を静かに眺めた白露さんは、柔らかく両の手を合わせた
『スマホって便利ですよね。あっちの便利さに慣れちゃうと、此方のケータイだと不便だったりしません?』
「あ、判ります?スマホの操作に慣れちゃってるから、ガラケーって使いにくく、て…」
何気なく放たれた言葉に釣られてそう返し、恐る恐る視線を向ける。
……白露さんは、にっこりと綺麗に微笑んでいた
『へぇ、未来でコレはガラケーって呼ばれてるんですね。そしてスマホは当たり前になる、と。
…修二、目ぼしい会社の株は?』
「持ってンぜ。アプリの方も押さえてある」
『流石』
ダメだ、一言喋れば十は情報を抜かれている気がする。というか何でこの人達スマホなんて知ってんの?
スマホなんて、この時代にはなかった筈だろ?
そんな疑問が顔に出ていたのか、白露さんにボロネーゼを食べさせた半間くんが、金色の目を細めてにんまり笑った
「アンタは昔の事過ぎて覚えてねェかもだけど、タッチ操作で動く携帯端末が開発中って情報が、この時代には既に出回ってンの。
これからは電子機器とか通販の時代が来るだろうから、刹那ちゃんは元々知ってた情報でアンタにカマ掛けただけ」
『少子高齢化で単純に労働力が減少すれば、人間は代わりになるモノを造りますよね。通販は正しくそれ。無人販売とか、機械化とかも。
タッチ操作が可能になれば、恩恵は様々な人に行き渡る事になる。
将来的には、指一本でその日の内に品物が届く、なんて通販もあるんじゃないですか?』
「もう、もうやめてくれ……」
「ばは、なァどんな気分?年下に口で負けて未来の情報抜かれンのどんな気分???」
『煽るなっての』
ニヤニヤニマニマしている半間くんを軽く叩いて、白露さんはメロンソーダを手にした。
ストローを指先で摘まんで、青紫の目がライトグリーンを眺める
『此方が貴方の情報を誰かにバラす事はありません。あんまりにも非現実的ですし』
「というか、何で判ったんスか…?
俺、そんなに判りやすい…?」
そういえば、ヒナにも過去の俺と今の俺の違いを言われた事があった。流石に十四歳の俺と同じメンタルで生きている訳ではないので、雰囲気や思考の違いに気付かれるのは仕方がないけれど。
それでも彼女達に会うのは二度目だ。しかも一度目はほぼ会話も満足に出来ていない状態で、なんでこんな事になっているのか。
疑問符を頭に浮かべる俺を見て、白露さんは静かに微笑んだ。
隣の半間くんはボロネーゼを食べ終わり、丁度運ばれて来たオムハヤシにスプーンを埋めている。
こんなに細いのに、その身体の何処に入っていくんだろう
『貴方が判りやすいのもありますけど、やっぱり一番は禪院修二という名前ですかね』
もぐもぐと咀嚼する半間くんに柔らかな視線を向けて、彼女は呟いた
『私が生きていれば、禪院なんて地獄に修二を送り込んだりしませんから』
『東京卍會に、稀咲鉄太…』
「そう。そこをどうにかして、ヒナを救いたいんだ」
敬語じゃなくて良いと言われた俺は、未来から来た理由とタイムリープの事。そして今回のミッションを二人に話した。
白露さんはバニラアイスを口に運び、ステーキ定食を食べ始めた半間くんが疑問を呈する
「先ずは8・3抗争どうにかしてェっつー話じゃん。どうすんの?アンタ、喧嘩出来んの?」
「う……」
お世辞にも、俺は喧嘩が出来るとは言えない。
でももう時間がないのだ。
未来を知っているのは俺だけなのだから、俺がどうにかしないと
『というか、愛美愛主と東卍の抗争の発端って何ですか?私達は新宿に良く居ますけど、アイツらは特に抗争に備えて動いている様には見えないし』
「確か、東卍の隊長のダチとその彼女が、愛美愛主の奴らにボコられたって話だった。
……そういえば、二人を途中で助けてくれた人が居たって言ってたな…」
この間の集会の時の話を思い出していると、声を上げたのは半間くんだ
「ン?……あ。
なぁ刹那ちゃん、ちょっと前にホコタテが中坊のカップル助けてなかった?」
『んん?………ああ。そういえば』
「ホコタテ?」
初めて聞く名前に首を傾げると、白露さんが説明をしてくれた
『ホコタテは新宿を根城にした自警団ですよ。悪さをしてる奴らを取り締まってるみたいです』
「アイツらが巡回してると過ごしやすくて助かるわァ」
「へぇ、そんな組織もあるんだな。てっきり暴走族なのかと…」
『新宿に行かないと、黒いフード被ったオカルト集団って思うでしょうしね。実際面白いですよ、ホコタテのメンバーが歩いてると町の人が喜びますし』
「歌舞伎町の死神とか、固定ファン居るっぽいしなァ?」
ニマニマと笑いながら紡がれた言葉に、俺は首を傾げた。死神?え、ファン?ファンってあの、応援するアレ?
ちらりと半間くんを見た白露さんは、小さく溜め息を落とした
『ホコタテの中でも、特に歌舞伎町をメインに活動する三人組が居るんですよ。その三人の通り名が、歌舞伎町の死神』
「赤と黒のツインテ女と、デカくて髪が長ェ男と、金髪の男か女か判ンねェヤツ。
ホコタテはリーダーが誰か判ンねェっつー話だけど、その三人が怪しいって言われてンぜ」
「リーダーが判らないって?」
「ホコタテは、顔を出してねェリーダーが居るって噂があンの。俺も詳しくは知らねぇけど。
ンで、その三人がちょっと前に愛美愛主ボコってたらしい」
『まぁ、歌舞伎町って最近愛美愛主が良く彷徨いてるから、ホコタテと喧嘩するのは有り得るのかも知れないけど…確か、制服の男女がホコタテに助けられて、救急車で運ばれたって聞きました』
「問題ねェならその二人に確認しても良いかもな。黒いフードでオペラマスクしてりゃ、確実にホコタテだろうし」
「判った、聞いてみるよ」
とは言え、俺から被害者に接触を図ろうにも顔も名前も知らないし…マイキーくんから何か聞けるだろうか。
「つーか、さっきの質問答えてねェのよ。抗争の止め方どうするん?」
「えっ、そりゃあ……マイキーくんに訴えるしか」
「ハイ馬鹿ー、ボコされて終わりィ」
「うっ」
小さめに切ったステーキを白露さんに差し出しながら、半間くんは呆れたと言わんばかりに目を細めた
「そもそも、族の総長が抗争するって宣言してる以上、止めらンねェよ。
もし抗争の日取りとか愛美愛主に通達してあったら、完全に無理。
だってそこでやっぱナシ!なんて言ったらさ、東卍は抗争の直前に尻尾巻いて逃げ出した臆病者ってレッテル貼られんじゃん?
不良はメンツを気にする生き物だからさ、何言われたって今更退けねぇと思う」
『まぁ…ドラケンくん死にます!って言ったところで信じてくれるかどうか…』
「寧ろ舐めてンのかってマイキーに殺されそうwwwww」
「いや笑い事じゃねぇって…」
ケラケラ笑う半間くんに肩を落とした。
そんな俺をフォローする様に、白露さんが言う
『まぁ、先ずはマイキーにホコタテの存在を伝えてみては?抗争までまだ時間はありますし。
もしかしたら、あの自警団の存在を伝える事で、バタフライエフェクトが狙えるかも』
「…そうだよな。マイキーくんに言ってみるよ」
「ガンバ、ボコされたら笑ってやるよ♡」
『修二…』
ニヤニヤしている半間くんに、白露さんが溜め息を落とした。
愉快犯だろう彼氏の相手は、大変そうだ。
花垣さんが去ったあと、ケータイに今日の収穫を打ち込んだ。
メモを読み直していれば、唐揚げを食べながら修二が訊ねてくる
「稀咲の計画、言わなくて良かったん?」
『まだ信用してないからね』
命を救って貰った事は感謝している。
けれど、花垣さんをそういう面で信用しているかと言われると、答えは否だ。
『喧嘩が弱いって事は、痛みと何度も向き合わなきゃいけないでしょ。
そうなった時に折れるなら、反社を止めるとか無理。計画を伝えた状態で花垣さんが失敗して、稀咲に此方の存在を掴まれても困る』
「殴られる前に潰すとか出来なさそうだもんなァ、花垣さん」
『だからこれは、テストだよ』
差し出された唐揚げを食べた。
ナプキンで口許を拭ってくる大きな手が離れてから、そっと口を開く
『8・3抗争をどうにか出来たなら、私達の持っている情報を開示する』
「ドラケンくん死なすの?」
『………』
真っ直ぐに此方を見つめる梔子に、開きかけた口を閉ざした。
脳裡に辮髪の彼が浮かぶ。一度しか会った事はないけれど、決して嫌な人ではなかった。
……それと、修二はどうやら気に入っている様に見えるし
『……抗争が始まった時に救急車、手配しとけば』
「なーる。それなら刺されても問題ねェな」
笑った修二が大きく口を開け、唐揚げを一口で頬張った。
…あれ、気に入ってるんじゃないの?普通、お気に入りなら刺されない様にしたくない?
思わず凝視していると、視線に気付いた修二が首を傾げた。栗鼠みたいでかわいい。いや、そうじゃなくて
『…ドラケンくん、気に入ってるんじゃないの?』
「?別に。…ただ、ドラケンくん死なすと詰むと思う。多分、花垣さんが他の全部クリア出来ても、此処で失敗したら全部無駄になるレベル」
『それは勘?』
「ン」
『…じゃあ、やっぱり救急車手配した方が良さそうだね』
まぁ個人的には、ドラケンくんが死のうが生きようがどっちでも良いけれど。
呟いた私に、梔子は満足げに眇められた
ホコタテとして歌舞伎町を巡回していると、隣の硝子が言った
「今日、愛美愛主が少ないですね」
『そういえばそうですね。昨日までうじゃうじゃしてたのに』
「どっか攻め込んでンじゃね?」
のんびりした修二の言葉に、それも有り得ると呟いた。稀咲がどう制御しているのかは知らないが、今の愛美愛主はあまりにも凶悪だ。
強請も強盗も、レイプだってアリのクズの集団。元よりその傾向は強かったが、現在では完全にそちらに傾いて見える。
頭である長内は腕っぷしはある様だが、おつむは足りない。もう少し頭があれば、やって良い事と悪い事の区別も付く筈だし。
そもそも彼は、自らのチームの暴走をどう思っているのやら
『特服のままで暴れてるもんだから、警察のマークもキツくなってるんですよね』
「俺らなんかサツとオトモダチなのになァ?」
「警察も交番で待っていればホコタテが勝手に現行犯を持ってくるし、楽なのでは?」
『正直、警察公認なのはラッキーですよね』
勿論最初は胡乱げな目を向けられた。しかし証拠映像付きで何回も交番に犯人を持ち込む事で、彼方もホコタテを容認する様になったのだ。
今では会えば軽く世間話をする仲である。
『……ん?』
ポケットに入れていたケータイが震えた。
どうやらメールが届いたらしい。差出人は花垣さんで、中身は随分簡素だった
────長内東卍カチコミ
『…東卍にカチコミに行ったみたいですね』
「へぇ…取り敢えず調子乗ってる中坊潰そ♡ってカンジ?」
『恐らく。上手く行けば此方が手出ししなくても、勝手に愛美愛主が終わりますね』
「そもそも愛美愛主ってあちこちで恨み買ってそうですしね。私達が何かしなくても、その内こうなっていた様な気もしますわ」
硝子の言葉に頷いた。
最近じゃ手当たり次第に一般人を襲い、家族を強請っているという話すらある。
そうなれば単純に、報復で沈められる未来も遠くなかったのだろう。
『まぁ、今日で愛美愛主は終わりでしょう。そうなると、新宿を仕切るのは誰になるのやら』
「俺らでやんのか、愛美愛主を吸収した東卍がやんのかって事?」
『そう。…まぁ、普通に考えて東卍の領地になりそうだけど』
「とはいえ、今新宿を仕切っているのは実質ホコタテでしょう。此方に接触してくる可能性も考えた方が良いかと」
『ウチは族じゃなくて、自警団なんですけどね』
「何でも良いよ。向かって来りゃあ潰すだけだ」
首の後ろで手を組んで、修二が欠伸をした
後日、再び花垣さんと喫茶店で待ち合わせた。
そこで聞いたのが、長内が負けたという話だった。
突如乗り込んできた愛美愛主を東卍は少数で迎え撃ち、長内は無敵のマイキーの蹴り一発で沈んだんだとか。
『これで愛美愛主は東卍が吸収……するのかな?大分質が悪そうだけど』
「審査して入れるにしても、結構な数が悪さしてンだろうしな」
「まだそこら辺は決まってないみたいで、どうなるのかは…」
「つーか、部外者な花垣さんにはそこまで教えないンじゃね?今の立場って、マイキーのオキニっつーだけっしょ?」
「は、半間くん酷い…」
『ごめんね花垣さん、修二って素直だから』
「あは、俺って素直なイイコだからさァ♡」
「どれもフォローじゃないんだよなぁ」
パンケーキを食べる私の隣で、ハンバーグ定食を頼んだ修二は笑った。
溜め息を落とした花垣さんが、はっとした顔で此方を見る
「そういえば、マイキーくん達が近い内に新宿に来るかもしれないんだった」
『新しい領地の視察ですか?』
「いや、パーちんくんのダチと彼女から、ホコタテの話を聞いたって事を思い出したみたいで。
というか長内がカチコミして来なければ、その時にホコタテの件で話し合おうとしてたみたいなんだ」
「へぇ…つー事は、ホコタテとドンパチかァ?」
「というより、恩人捜し?」
『恩人?』
「パーちんくんのダチと彼女を助けてくれたのを、お礼が言いたいんだって。
ホコタテの人が助けてくれたお陰で、二人共軽傷だったらしいし」
『ほぉ…』
ぶっちゃけ言うと、お礼なんぞ要らんがな。
そもそも私達が愛美愛主をシメたのは、下衆な事を目の前でやっていたからだ。そうじゃなければ見知らぬ他人がレイプされようが、正直どうでも良いのだし。
それをわざわざ、族の頭がお礼を言いにやって来るとか…
『東卍が此方に来る事で、無駄な推測と余計な火の粉が飛んできそう…』
「えっ、なんで?」
「花垣さん馬鹿なん?もちっと頭使えー?」
しれっと二十六歳の中学生を馬鹿にして、修二はハンバーグを私に差し出した
「愛美愛主の頭を下した東卍がホコタテに会いに来れば、ホコタテの方が立場が上って勘違いする奴らも出てくんだろ。わざわざ総長が足運んでンだから。
東卍とホコタテが手ェ組んでるって思われてみろ。
そうなりゃ東卍が気に入らねぇ奴らと、元々ホコタテがうぜぇって考える奴らが新宿に増えるかもなァ」
『修二なんか街歩くだけで不良に喧嘩売られるんですよ。それで街に不良が増えたら、どれだけ面倒か…』
「俺別に不良じゃねぇのにやたら絡まれンだよなァ」
「えっ」
「お?不良だと思ってたん?路地裏集合な」
『そういうトコだよ』
笑顔で花垣さんを脅す修二に呆れつつ、ハンバーグを咀嚼する。じゅわりと広がる肉汁と、デミグラスソースが絶妙だ
「まぁ、ホコタテとマイキーが会ってからじゃねぇと何とも言えねェな。
アイツらってマジで新宿にしか居ねぇみてェだし、抗争とかにもならなそう」
『自警団って名乗ってるしね。新宿を攻撃しないなら、手は出さないだろうし』
パンケーキを差し出せば修二が釣れた。
それにしても、わざわざ族の頭が感謝を伝える為に新宿に赴こうなんて、考えもしなかった。
お礼参りはしても、好意的な行動はしないだろうなんて思っていた此方の偏見が悪いのだろう
『そういえば、長内はどうなったんです?』
「あの後愛美愛主に連れて行かれちゃったから、判んねぇ。けど8・3抗争は、負けた長内が報復の為に起こすのかなって…」
「んー。多分それで合ってる。
そのカチコミで、東卍の誰かがサツにパクられたりとかしてねぇンだろ?」
「ああ。…パーちんくんがホントは長内を刺そうと思ってたけど、ダチにそんな事より恩人を捜してくれた方が嬉しいって言われたって」
「ならベストなルートなんじゃねェの?
今回のカチコミって、最悪長内が死んでたりとかありそうだし」
「えっ、半間くん、それってどういう…」
ちらりと隣を見るが、修二は特に何か色を浮かべる事なく花垣さんを見ていた。
…これは稀咲の計画とかじゃなく、勘だろうな。
そう判断し、私もパンケーキに視線を戻す
「そのパーちんってヤツ、ソイツが鍵だろ。
多分ダチが止めてくれなかったのが、最初の花垣さんのルート。
そんで、ホコタテが介入してダチがパーちんを止めたのが、今回のルート」
「…つまり、ホコタテが未来を変えた…?」
「さぁなぁ?けど、実際マイキーとドラケンくん、仲間割れしそうなん?」
「いや、何時も通り仲良さそうだった…」
顎を擦りながら呟く花垣さんを眺めつつ、生クリームを一口サイズにしたパンケーキに乗せた。
隣に差し出せば、笑顔で大きな口が開かれる
『実際八月三日が来ていない以上、今言える事は少ないですが』
向けられた空色の瞳に、私は笑みを作った
『花垣さんのリベンジは、成功しているんじゃないですか?』
小手調べ
刹那→セコムが常時ぴったりくっついてくる様になった。
最初こそ戸惑っていたが、よくよく考えると何時も通りだと気付いた(ヤバイ)
花垣の事はまだ様子見。ドラケンのミッションを成功出来たら、稀咲の十年計画を見せてくれるかも知れない。
半間→刹那に何時でもくっつく様になった。
何処に行くにも付いていく。本人的には目を離せば死ぬイメージなので、気が気じゃない。
花垣の事は信用している。ただそれを刹那に押し付ける気はない。
家入→とうとうセコムが1mmも離れないのにドン引きした人。理由を知って頭を抱えた。
花垣→愛美愛主のカチコミをクリア。
今のところリベンジは成功中。喋れば喋るだけ刹那に情報を抜かれるタイプ。
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