薪がなければ火は立たぬ
カリカリと、シャーペンが紙面を滑る音が部屋に響く。
遂に七月下旬、世間は夏休みに突入した。
私と修二も、夏休みの宿題を片付けている真っ最中である
「あーだりぃ。んなモンわざわざやる必要ある?」
『誰もがあんたみたいに見ただけで覚えられる訳じゃないからねぇ』
「だとしてもさぁ、類似問題連続五問はだりぃって。傾向と対策書いてランダムに突っ込みゃ良いだろ。
連続とか、公式覚えた気になる定番のトラップじゃん」
『うう、耳が痛い…』
「ばはっ、刹那ちゃんそこ間違ってる」
『あ゙ー…』
科学の計算式を指差され、シャーペンを手離した。
唸る私を見ながら、けらけらと修二は笑っている
「ほんと刹那ちゃんは計算苦手だよなァ、どうしたらそんなに間違えるん?」
『喧嘩売ってる?』
「怒んなよwwwwwwww」
笑ってるお前が喧嘩売ってるんだけどな???
溜め息を吐き、放り出したシャーペンを拾い上げた。
嫌いな問題というのはどうにもやる気が出ない。休憩を始めた私を尻目に、修二は軽快にシャーペンを動かしている
「だってさ、計算ってコレ解けっつーだけなンだし、簡単じゃね?
数式とか解き方も答えも決まってんじゃん。俺からすれば、現文なんかのコイツの心境を述べよとかの方が嫌い。てめェの心境なんか知らねぇよだりぃなってなるし」
『紛う事なき理系よな』
「そもそもさ、他のヤツが何考えてようがどうでも良くね?俺からすりゃ色無しが騒いでるってだけで、意味なんざねぇし」
『色無し?』
不思議な単語に首を捻ると、修二が梔子の双眸をゆるりと細めた
「面白くねぇヤツらの事。刹那ちゃん以外ぜーんぶそれ♡」
『うわ、なにそれ』
私以外全部は流石にないだろう。
思わず引いた私を可笑しそうに笑うと、修二がシャーペンを置いた。
頬に大きな手が触れて、柔く包まれる
「刹那が居るから、俺の世界は色付いてるんだよ。
俺を楽しませられんのは、お前だけ。
だから、俺の事上手く使えよ?刀の切れ味は持ち主の腕次第だぜぇ?」
『勝手に斬る癖に良く言うよ』
「あは、バレてた?」
『そりゃあね』
前々から、修二は私が気付かない内に動いているんだろうと推察している。
以前からあるのだ、梔子がじいっと何処かを見つめる様になる事が。そして数日の内にそっと、誰かが消える。
最初こそ何も思っていなかったけれど、修二の行動と誰かの退去が数日以内に起きていると気付けば、自然と察してしまうのも仕方ないと言えよう
『ま、私の手に噛み付かないなら良いよ』
「言質取ーりっ。なァにしてやろっかなァ…」
低く笑う修二に若干早まった気もするが、見なかった事にした。
どうせこの男が動くのは、私の為だ。
それならば、悪い事にはならないだろう
修二と硝子と共にホコタテとして歩いていると、ふと修二が言った
「なんか来る」
『悪いの?』
「んー…悪くはない。けどなーんかヤバい」
「何ですかそれ」
「一歩間違ったら即死みたいな。まだ間違ってねぇからセーフっぽいけど」
『よし、回避』
なんだそのガチガチにヤベェ奴。
即座に撤退指示を出した瞬間、修二が私の前に出た。
「────お前らが矛盾?」
「東卍の総長と副総長じゃん。俺らに何か用?」
東卍の総長と副総長。という事は、地獄の佐野家の子とドラケンくんか。
修二の背に隠されたまま、ちらりと硝子とアイコンタクト。何かあれば即撤退ね、オッケー。
エンカは避けられなかったけれど、隙を突けば逃げるくらいは出来ると思う。というかそうじゃないと困る。
正直愛美愛主だけでもだるいのに、渋谷の東卍まで此方に来るとか面倒が過ぎる。…ああ、そういえば花垣さんが、佐野がホコタテに接触するかもって言ってたな。
だが万が一、此処でドンパチになったりしたら面倒だ。
ドラケンくんは街中で暴れるタイプではないだろうから、大丈夫だとは思うけれど
「ちょっと確認したい事があるんだ。時間くれない?」
『でしたら、喫茶店にでも行きましょうか。此処だとあまりにも目立ちますし』
「……キイロくん」
『ムラサキ、先導』
「ん」
私の指示に従い歩き出した修二の背を追う。
此方をじっと見た佐野は、一つ頷いて私達に着いてきた。
二人が硝子の後ろに着いたのを確認し、此方を窺っている人達にひらりと手を振った
『皆さん、お騒がせしてしまい申し訳ありません。どうぞ歌舞伎町をお楽しみ下さい』
「ムラサキくん、後でウチに寄っていきなよ!
良い本入ったよ!」
「マジで?あざーっす」
「シロちゃん、コーヒー飲みに来てー!!」
「はーい」
「キイロ様ー!!!視線下さーい!!!」
『はーい』
団扇を持っている女の子二人組に笑顔を向け、手を振った。悲鳴を上げた彼女らに笑いながら、わいわいと騒がしくなった街を進む。
最早慣れてしまったファンサを行いながら進んでいると、背後の二人が静かな事に気付いた。
見れば、何とも言い難い表情を浮かべている。ああ、確かにこれって異常だもんね。
小さく笑いつつ、声を掛けてくれる街の人に笑みを向けた
「なんか、凄ぇな」
「ん?何が?」
「俺らみてぇに距離置かれるとかじゃなくて、街の奴と仲良いんだなって」
「そりゃそうだろ。俺ら自警団だぜ?
街護ってンだから、嫌われる要素ねェし」
『まぁ、最初は妙な生き物を見る目を向けられましたけどね。今じゃ歌舞伎町も随分平和になりました』
「警察も私達に情報流しますしね」
そうなのだ。歌舞伎町の駐在は、緊急で捕まえたい相手が出ると、近くに居るホコタテのメンバーにそれを伝える様になった。
そこから掲示板に犯人の特徴が書き込まれ、見付けたメンバーが確保するという流れである。
「暴れてェヤツには丁度良いイベントだよな。仲間内で犯人の取り合いみてぇになってンのウケる」
「犯人の取り合い」
『面白いですよ。黒いフードの集団が涙目の犯人を追い回す光景』
「品がないですが、眺める分には飽きませんわ」
馴染みの喫茶店で、コーヒーを口にする。
硝子は兎も角、修二にはあとで食事をさせる事にしたので、然り気無く不服そう。
理由は簡単、コイツめちゃくちゃ食べるから。
単純に、食事量で身バレする確率が上がるのだ。
長身痩躯で大食いなんて、あまりにも特徴的過ぎる。況してやドラケンくんが居るのだ、一度食事風景を見せた事がある相手の前でそれを行うのは、あまりにもリスクが高い。
運ばれてきたお子様ランチに満足そうな顔で一度頷くと、佐野は此方に目を向けた。
…隣のドラケンくんがほっとした顔をしているのは、どういう事なのか
「愛美愛主の長内は俺らがシメた。
アイツらのシマ俺らが纏める事になるんだけど、アンタら的にはどうなの?」
『そんなの、お好きにどうぞとしか』
「は?」
怪訝そうな顔をしたドラケンくんに、修二が指先で挟んだストローをコーラの中でくるくると回す。
「だって俺ら自警団だしィ?誰がトップになろうが関係ねぇよ」
『正直、歌舞伎町で暴れなきゃ別に』
「…マジで族じゃねぇのな」
『僕達はただ、歌舞伎町で穏やかに生きていたいだけなんですよ。なのでこの町が平穏ならば、どのチームが占領しようとどうでも良いんです』
ホコタテは、私達が此処で穏やかに暮らしたいから作った自警団だ。
故にどのチームが新宿を根城にしたって問題はない。それによって私達がだらだら過ごせなくなるのであれば、話は別だが。
此方の意見を聞いた佐野は、光のない目をゆっくりと瞬かせた
「じゃあさ、東卍と同盟組んでよ」
『…詳しく教えて貰えますか?』
まぁ、頭がキレるタイプなら持ち出すであろう提案だ。現時点でそれを選択した辺り、佐野万次郎は総長として、少なくとも及第点はある。
テーブルに両肘を乗せ、指を組む。
少しだけ前屈みの体勢で続きを促せば、佐野が口火を切った
「矛盾は誰が新宿を仕切っても良い。コッチから手を出さなきゃ何もしない。
…なら、東卍は矛盾に手ェ出さねぇから、ソッチも俺らに情報とか流してくんね?」
『情報ですか』
「そう。新宿に妙なチームが来た時に、俺らに教えてよ。そしたら俺らはアンタらと一緒にソイツらを追い払える」
現状でもきっちりパトロールは出来ているけれど、やはりメンバーの中には戦えない者も多い。
その点を踏まえれば、腕の立つサポートが加入したと見るべきか。
『…新宿で悪さをすれば、東卍のメンバーでも容赦はしません。それでも?』
「うん」
真っ直ぐに此方に視線を向ける佐野の表情に、迷いはない。
…少しばかり直感に頼り過ぎている様な気もするけど、まぁ、合格かな。
ちらりと修二を見ると、此方を真っ直ぐに見て頷いてきた。硝子は小さく顎を引いて返してくる。
意見は合った。なら、良いだろう
『判りました。リーダーに同盟の件を通しておきます』
「アンタがリーダーじゃないの?」
「キイロくんはリーダーじゃねェよ。俺らも上からのメールで動いてるし」
修二のフォローに頷いておく。
そう、キイロはリーダーじゃない。ピクミンのリーダーはオリマーなので。
というかキイロがリーダーなんて判りやすくしてしまうと、私が奇襲されて終わりである。面倒この上ない。
しれっとした顔で言ってのけた修二は、ゆるりと首を傾けた。長い髪が、修二の動きに合わせてさらりと流れる
「つーか長内潰しただけで、マジで愛美愛主潰せたって思ってんの?」
「は?頭潰したんだぞ?普通にそうだろ」
ドラケンくんの言葉は尤もだ。面子を気にする族らしいチームなら、そうするだろう。
でも相手は長内……というか、背後で暗躍する稀咲鉄太だ。
修二の手に入れた十年計画と花垣さんの知識も示す様に、このまま行けばドラケンくんは死ぬ。そして佐野万次郎が闇堕ち、稀咲が裏社会を牛耳る、と。
『残念ながら、愛美愛主は何でもアリのチームです。残党による闇討ちは十分に警戒するべきかと』
「つーか、愛美愛主を母体にしてチーム再編とかしそうじゃね?」
「うわ、面倒ですわ」
修二がこう言うって事は、そうなるんだろう。
愛美愛主の残党の再編とか、めちゃくちゃ面倒な策を練るな稀咲鉄太。でも佐野万次郎を手駒にするなら、それが良い手だと言うのも理解出来る。
目的としては東卍に恨みのあるメンバーを集め、ドラケンくんを殺す事だろうか。
それで揺らいだ佐野万次郎に接触すれば、操り人形にするのはきっと容易い。
普通に考えて、傍に居た人がある日突然殺されたりすれば、心に隙が生まれる。
不安定な所に自分を肯定、または次の道を指してくれる人間が現れれば────人は、簡単に操れるのだ
『……僕なら、味方であっても警戒しますよ。
仲の良い人間は兎も角、同じチームだという程度の人間なら────寝首を掻かれない様に、注意した方が良いかもしれませんね』
『これで警戒しなかったら馬鹿だな』
「佐野だっけ?仲間を疑いそうに見えなかったけど」
「ドラケンくんがどう受け取ったかじゃね?」
東卍の二人が去った喫茶店で、ゆっくりとコーヒーカップに指先を触れさせる。
修二から、東卍の下っ端が行っていたという喧嘩賭博の話は聞いていた。
私がドラケンくんを排除したいなら、そこでシメられた清水将貴を使う。
ドラケンくんに恨みを持っていて、尚且つ即座に切れる存在。聴衆の面前で恥をかかされ、立場もなく、行き場のない激情を抱えているであろう男。
『私なら、清水将貴を使ってドラケンくんを排除する。ホコタテにある事ない事噂させて、精神的に追い込んじゃうとかね』
「じゃあ稀咲だっけ?ソイツもそういう事をする可能性があんの?」
硝子の問いに、私はステーキを切り分ける男を見た
『信頼する仲間が居るならね。けど居ないなら、稀咲自身がこっそり接触してる可能性が高い』
「東卍に入ってるホコタテから話聞く?」
『んー…普通に考えて、接触は完全に人気がない所とか選ぶよな…そうなると、清水将貴本人に聞いちゃう方が早い』
呟いた私をじっと見て、硝子が言った
「犯人と同じ思考のヤツが居ると、推理ってこんなに楽なんだな」
『オイ言い方』
「あは、合ってんじゃん?」
『オイ半間』
目覚ましのアラームで目を開ける。
絡み付いている長い手足をそのままに、布団から腕だけ伸ばしてアラームを止めた。
枕元に転がっていたケータイを見て、静かに目を細める
────八月三日。
タイムリーパーがヒーローになれるのか、試される日だ。
『修二、起きて。それか離して』
軽く肩を揺らすと、ぎゅっと眉間に皺が寄った。
長い睫毛がふるりと揺れ、ゆっくりと梔子が現れる
「なんだよ早起きだな……おあよぉせつなちゃん」
『おはよう。寝てて良いけど離して』
「んあー……起きる…ちゃんとおきっから、あとごふん…」
ぎゅうっと私を抱え直し、ぐりぐりと胸元に顔を押し付けてくる修二に笑ってしまった。これあと五分待ったら二度寝しないか?
綺麗な形の頭を撫でつつ、口許を幸せそうにもにゃもにゃさせているアホを見下ろした
『世界平和みたいな顔して寝るじゃん』
「せつなちゃんのしんぞーのおとかぁいい」
『脳味噌溶けてんね。あと四分』
「んいぃ……」
『でっかい猫ちゃんですこと』
謎の鳴き声を漏らして動かなくなった修二に笑いつつ、ケータイを開いた。
『花垣さんが言っていた本来の8・3抗争は、佐野万次郎と龍宮寺堅が対立、東卍内で起きた内乱』
「じゃあ今回は?」
『佐野万次郎によって潰された愛美愛主の残党による、東卍の闇討ち。それに乗じた清水将貴による復讐』
「はー。雑魚はやる事が極端だなァ」
改めて今日起きる事件の概要を見直していると、修二が半笑いでソファーに凭れ掛かった。
ケータイから顔を上げると、頬を滑った髪を耳に掛けてくる
「殺さなくても、復讐なんざ幾らでも出来ンだろうに」
『あいつらにあんたみたいなスキルがあるとでも?』
「ねェかもなぁ」
小さく笑う修二に溜め息を溢す。
修二の言うそれは、今現在相手に報復出来るスキルを手にしている者の持てる余裕だ。
それがなければ、人は手元にある力でどうにかしようとする。
優位性を保てる武器がなければ、即物的な解決に思考が進むのは仕方のない事だ
『きっと稀咲に唆されてるだろうし、清水将貴はドラケンくんを狙う。まぁ…無難にナイフで刺しとく?』
「無難にwwwwwww」
『そんで加減出来ずに刺しちゃって、出血多量とかで死ぬんじゃない?』
「応急措置出来るヤツ居ねぇのかよ」
『あんたみたいな不良は激レアなんだっての』
「認識に齟齬があるわ。俺不良じゃねぇのよ」
『不良の基準って何だろうね』
「学校行かねぇとかじゃね?」
『見た目は?』
「此方見ながら言うなや」
にっこり笑った修二が頬を指先で摘まんできた。
ふにふにと柔く摘まんでくる手を放置しながら、緩く指を組む
『今日の夜、武蔵神社の祭に乗じて元愛美愛主がドラケンくんを奇襲する』
「俺らはどうすんだ?」
『んー…新宿じゃないし、キイロとムラサキは使えないよねぇ』
正直面倒だが、ドラケンくんが死んでしまうのはバッドエンド一直線らしいし、無視は出来ない。花垣さんが失敗しない様に、こっそりと梃入れはすべきだろう
『花垣さんが修二くらい強ければ、丸投げ出来たのに』
「あは、それもう俺がやった方が早ェじゃん」
『………それだ』
人の頬を撫で回す手を掴む。
突如手を握られた修二は、目を丸くして私を見下ろした
現在此方の予想している犯人は、清水将貴。
私達は彼を疑っているけれど、花垣さんはそんな事、思ってもないだろう。
誰が誰を刺したという情報は、未成年という言葉が鮮明化の邪魔をする。
おまけに時が経てば、情報を拾うのも困難になるだろう。
そうなれば、花垣さんは今日ドラケンくんが死ぬという事実しか手掛かりがない訳で。
『花垣さんにドラケンくんの護衛なんか出来ないだろうし、抗争を止めるのも無理』
「花垣さん弱そうだしなァ」
『そう。流石にレベル5にレベル30のミッションやれとは言わないよ。というか此処でしくったらダメっぽいし』
明らかに喧嘩なんてしてこなかっただろう成人男性に、ハイ中学生に戻ったのでヤンキーとバトッて下さい!はあまりにも鬼畜。
────なので、私達は合格ラインを引き下げる事にした
「あ、焼きそばだ。フランクフルトある。焼き鳥もかき氷もあんじゃん」
『どれ食べたいの?』
「全部」
『せめて二つに絞って。後から幾らでも食べて良いから』
「うい」
祭特有の熱気と煙たさに眉を寄せつつ、ワクワクした様子で出店を見つめる修二の腕を掴んだ。
修二は人波の中でも頭が飛び出しているので直ぐに見付かるが、流されたら私が危険である。
なのではぐれない様にくっ付くと、何を思ったのか修二は擽ったそうに微笑んだ
「…刹那ちゃんから来られると、なんか胸んトコきゅーってすんなぁ」
『えっ、かわいい』
「あは、こんなデケェのにカワイー俺天才じゃね?」
『なんでこんなでっかいのに可愛いんだろう…?』
「マジで考察すんなやwwwwwwww」
ケラケラと楽しそうに笑う修二に笑いながら、私はケータイを取り出した。
ホコタテの掲示板に書かれているのは、祭り会場周辺にヤンキーが屯している為、注意しろというもの。
それに目を通し、大きな口でフランクフルトを齧った修二を見た
『修二、行くよ』
「あーい」
────切っ掛けは喧嘩賭博だ。
集まった観衆の面前で恥をかかされ、周囲の目が気になる様になった。
後ろを付いてくるコイツも、擦れ違ったアイツも、俺を腹の底では嘲笑っているのだろうと。そう、思う様になった。
「ドラケンの野郎。気に入らねぇよなぁ、キヨマサァ」
そう、気に入らねぇ。
ヤツの所為で俺は嗤われ、蔑まれる様になった。
「プライドをズタズタにされて。
俺なら────刺し違えてでも殺してる」
……そうか、殺せば良いんだ。
俺をこんな目に遭わせたあの野郎を、殺しちまえば。
刃物を手に入れると、何時でも殺れる様に、常に特服に忍ばせる様になった。
そして────ずっとずっと我慢して、待ちに待った、この時。
「アイツの所為で全部失ったからよ。ドラケンは俺が殺す」
雨の中、此方に背を向け拳を振るう男をひたと見据えた。
隠していたドスを取り出し、刃を引き抜いて────
────ぽん!!!!!
「………あ?」
引き抜いた先に現れたのは、色とりどりの紙吹雪とひよこだった。
びよんびよんとバネに合わせて跳ねるそれに、俺どころか周囲も目を丸くしている。
何故だ。三十分前までは普通のドスだった筈。
人混みの中を動きはしたが、まさかその時にスられた…?
必死に記憶を遡る最中、只でさえ予定を狂わせた黄色い物体は────更に、俺の都合の悪い方向へ突き進んでいく
〈ドラケンは俺が殺す〉
「なっ」
〈アイツの所為で全部失ったからよ。ドラケンは俺が殺す〉
黄色い玩具のひよこは、あろう事かついさっき俺が口にした言葉を繰り返した。
マズイ。
さあっと血の気が引く音を耳の奥で聞いた。
────目の前、怒れる龍が此方を睨め付けている
「キヨマサァ…テメェ覚悟出来てんだろうなぁ!?」
ドスそっくりなモノを持ち込み、俺の声が録音され繰り返し流されている状況。
逃げられないと悟った俺は、拳を握り雄叫びを上げた
「こんなんで良かったん?」
『上出来』
「あは、死ぬ程楽勝なお使いじゃん?」
帰り道、木製の鞘に収められたドスを、くるくると指先で回しながら笑う。
祭で買った戦利品を袋にパンパンに積めた俺と、隣を歩く刹那ちゃん。ブルーハワイにスプーンを突き立てながら、彼女は言った
『バレない様に物を入れ換えるとか、普通出来ないでしょ。死ぬ程難しいお使いだよ』
「えー?けどアイツら、俺の方見もしなかったぜ?」
『修二はそろそろ自分がヤバイって気付いた方が良いよ』
俺が刹那ちゃんに頼まれたのは、清水将貴のドスをスる事だった。
ただスるだけじゃなく、此方が用意したパーティーグッズと入れ替える事。それが今回俺に言い渡されたミッションである。
「つっても的が祭会場彷徨いてりゃ、隣通るとか簡単じゃん?隙間からヒョイっと取って代わりを入れちまえば良いんだし?」
『それが簡単に出来れば世界はスリ放題なんだよな』
「ぶっちゃけスるだけなら簡単よ?
入れ替えってなると、ちょっとぶつかって相手の気ィ逸らさねぇといけねぇけどさぁ」
祭会場ともなれば、人混みを通るのでぶつからずとも達成出来る。
故に、清水将貴と視線すら合う事なく入れ替えが出来たのだ
「花垣さん、上手くやれると思う?」
『刺す為の道具がない上に、アレは直前の言葉を繰り返す。…普通にドラケンくんが清水将貴ボコって終わりじゃない?』
「ああ、デケェ声でブッ殺すとか叫ばれりゃあなァ…」
ドスに酷似した玩具を手にしている上に、その玩具が清水将貴の録音した声を大音量でがなり立てるとか、普通に現行犯。
どういう状況であれ、ドラケンくんがボコって終わりだろう。
「これで稀咲の計画ポシャった?」
『多分ね。直前まで上手くいってた盤面が急にバグったら、どんな顔するんだろ』
目を伏せ、くつくつと笑う俺の飼い主に静かに目を細めた。
楽しそうで何より。けど、やっぱり
「…………どっかで殺っちまえねぇかな」
彼女をそんな表情にさせる道化が、酷く妬ましかった
暗躍する影
刹那→暗躍した。
流石に初っ端刃物を持った相手と戦えは可哀想と判断、半間に武器の没収を指示した。
稀咲を出し抜けて御満悦だが、下手したら半間に監禁されるルートがある事を忘れてはならない。
半間→暗躍した。
刹那の指示でドスを喋る玩具にすり替えた人。
刹那がしてやったりと笑うのを見て、また稀咲へのヘイトを募らせた。
ドラケン→フルボッコだドン☆
キヨマサ→ボコられるドン☆
稀咲→計画ポシャってイライラしてるドン☆
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