見ぬ間に密かに
※軽度のストーカー表現あり
あくまで構えは自然に。
ただ、半歩足を下げて佇んでいる。
先に動いたのは半間だった。
大きく踏み込み、確りと上体を振って反動を付けた前蹴りが放たれる。
それを腕で受けると、続け様に反対の脚で一発
。最後にぐっと力の乗ったハイキックが首を狙った。
「っらァ!!」
「っぐ」
────思ったよりインパクトがある。
腕で止めたが、頭部にまで衝撃が来る程の威力であるとは読めていなかった。
どうやら確り脚を振り抜ける様になったらしい。
払い除けて前蹴りを二発、体重を乗せたハイキックを同じ様に食らわせてやれば、受けた半間の眉間に皺が寄った。
鳩尾を狙う膝を掴んで止め、仕切り直しに突き飛ばす。
細い胴目掛けミドルを放てば、がっしりと抱え込まれた。
────嫌な予感。
脚を退く寸前、膝頭に拳が叩き込まれた。
「いっで!」
…K-1で言えば完全に反則技である。
まさか掴んだ脚に攻撃を加えようとは。
教えた技をそのまま使うタイプかと思ったが、そもそもコイツは人の顔を狙うフリして、腹を蹴っ飛ばすヤツだったのを思い出す。
脚を退こうが離さず、更に関節を殴ろうとする輩に拳を叩き込む。
腕が外れ、その隙に距離を取った。
赤くなった頬を擦り、俯いていた顔が上がる。
………きろり。
長い前髪の隙間から現れた金色が、鈍く光った
「────あ゙はァ♡」
口角が吊り上がり、瞳孔がキュウッと細くなる。
象った笑みは感情の昂りというよりも、蛇の威嚇に良く似ていた。
「ひゃははァ!!!愉しいなァオイ!!!」
「んっとにスイッチ入ると面倒だな、この馬鹿弟子…!!」
どったんばったん楽しく暴れている修二と伏黒先生を眺めながら、ココアを飲む。
先程の倍の手数でボコり合うモンスター共。修二の蹴りが決まれば、先生が蹴り返す。先生が殴れば、修二も殴る。
一撃一撃の音がエグいんだが、果たして彼等は人間なんだろうか…?
『ヘイ硝子、あれは人間ですか?』
「キングコングとヒュドラです」
『化け物か、そうか』
最早映画や神話の化け物らしい。
矛盾の掲示板を流しつつ賑やかな方を見ていれば、隣で雑誌を読む硝子が言う
「刹那から見て、どっちが有利に見える?」
改めて怪獣の喧嘩に目を向けた。
伏黒先生が放った拳を往なし、関節を殴り付ける。その間に修二がお腹に蹴りを食らった。
次の瞬間には修二の蹴りが先生の脇腹を捉えていて、更に次には修二が吹っ飛んでいる。ああもう目まぐるしい
『………パッと見は伏黒先生』
呟いた瞬間、受け身を取った修二がむくりと身を起こした
『でも毒みたいにじわじわ攻めてんのは、修二かな』
「ばはっ♡」
「あーーーー…ンのほっせェ身体の何処にンなタフさがあんだよ…ゾンビか…?」
「こんにちはァ、ゾンビでェす♡」
「墓の下に帰ってドーゾ」
「ヤダね、ぼっちは寂しいじゃんっ♡」
起き上がった修二が飛び掛かり、また怪獣大戦争が再開した。
今の修二の発言だと、相手殺して自分の墓に埋めてそうだな。
『修二ってゾンビだったん?』
「だから人格腐ってんのか。埋めようぜ」
『ぼっちは寂しいって出てくるよ』
「自分の墓を殺した奴で満杯にする気か?」
『最後に自分は入らずに外の世界謳歌するまである』
「有り得る。というか埋めた奴にもよりそう」
『と言うと?』
「刹那を殺したら大人しく墓の下に行きそう。でも殺してなかったら、さっきの適当な奴で墓満杯ルート」
『因みにゾンビは?』
「アンタの傍でにこにこしてんだろ」
『つまり何時も通りか。私が死なないなら良いや』
「殺され損な奴が何人か居るけどな」
『アイツ…ちゃんと足が付かない様に埋めるんだろうか…』
「アンタもナチュラルに反社な時あるよね」
『えっ』
何それやだ。
そう言おうとして、異変に気付く。
ずっと鋭かった伏黒先生の動きが、ほんの少し、止まった。
多分それは、修二にしつこく関節を殴られている所為。
幾ら強い伏黒先生でも、人体の重要な箇所にダメージを蓄積させていけば。
きっと効くのだ。
それは宛ら、遅効性の毒の様に。
……体重を掛けた脚が、ぎちりと固まったのが私にも見えた。
「隙ありィ!!!」
修二が嗤う。
渾身の力で上体を捻り、脚を振るった。
重々しい音を立てて脇腹に突き刺さった一撃。
私と硝子は息を呑んだ。
修二は、勝利を確信したのか笑みを深め────
「────甘ェんだよ、クソガキ」
瞬間。
薄っぺらい脇腹に、逞しい腕が叩き込まれた。
かはっと薄い唇から酸素が吐き出され、修二が畳の上に崩れ落ちる。
はぁ、と深く息を吐き出した先生は、ぐるぐると肩を回していた
「勝ったって思って一瞬気ィ抜いたろ。残心って心構えを覚えとけ」
「げほっ…ぅえ、ッあ゙ー、今の効いたわァ」
激しく咳き込みながら、それでも奴は身を起こそうとしていた。
恐らく修二はまだやる気だ。
あんなにも、フラフラなのに。
先生は溜め息を落とすと、此方に目を向けた。
それに合わせ私は立ち上がり、硝子はクーラーボックスを持つ
「半間、今日はもう終わりだ」
「はぁ?何でだよ、こっからだろォ」
「これ以上は喧嘩じゃなく殺し合いだ。俺はまだ捕まりたくねぇ」
「…あ゙?俺が死ぬってか。ざけんなよ、俺が敗けたら…」
獰猛な瞳をした修二の数歩前で止まり、すっと息を吸う
『修二、ハウス』
「」
ぴたり、と修二の動きが止まった。
動かなくなった黒髪に、もう一度声を掛ける
『修二、ハウス』
「……………どこ行きゃ良いのォ?」
のろのろと返って来た声に、安堵の息を吐く。
…良かった、声が届いた。
深呼吸をして、ほれ、と両手を広げてやった。
『ほら来い。受け止めてやる』
沈黙。
ふぅ、と息を吐き出す音。
それから、ゆっくりと此方に向けられた梔子は柔らかく輝いていた。
低い声が、何時もより気だるげに響く
「耐久性ゼロのハウスじゃん」
『蝶よりも花よりも丁寧に扱えよ』
「何それ。藁の家か何かなん?」
『刹那ちゃんだよ』
「脆弱の同義語かァ」
『ブッ飛ばすぞタレ眉』
「ばはっ、殺意高ェ♡」
のそのそと目の前にやって来た長身を、痛くない様にそっと抱き締めた。
それから出来るだけ、落ち着いた声を出す
『お疲れ様修二、ゆっくり休んで』
「……もう、良いん?」
『うん。おやすみ』
「…ン。おやす………みィ…」
梔子が目蓋に隠れ、長身から力が抜ける。
かくん、と身体が頽れる寸前、逞しい腕が修二を支えた
「っと…危ねぇな。
潰れてねぇか、嬢ちゃん」
『ありがとうございます。…これで良いんですか?』
「おう。スイッチを切れる奴が居んなら問題ねぇ」
修二をその場に寝かせ、伏黒先生も腰を落ち着かせた。
硝子がクーラーボックスを開け、スポドリを渡す。
私は冷やしてあったタオルで修二の顔を拭う事にした。
スポドリを一気に飲んだ先生が、ペットボトルを脇に置く。軈てゆっくりと話し出した
「自分で思ってる全力ってヤツが誰でもあんだろ。
でも、それより何倍、下手すりゃ何百倍もヤベェのを隠し持ってる奴も居る。
それがスイッチ…リミッターとか、そういう言い方したりもすんな。
自分でスイッチ切れる奴なら良いが、コイツは絶対無理だろ」
『…修二が途中から明らかに可笑しくなったのもそれですか?』
「ああ。ソイツの場合は、多分一定量のダメージだろうな。
聞いたぜ?嬢ちゃんにルール決めさせて、その回数内で確実に仕留めてんだろ?
ンな遊びしてりゃあスイッチも出来るわな」
思わず頬を拭う手が止まった。
切れ長の瞳は、動かない修二を映している
「基本は蹴り一発。それで綺麗に相手の歯を一本。オマケにノーダメ。
そうなりゃ相手が気絶する程度の蹴りが撃って良い限界値ってなるし、ダメージなんざ食らった事が殆どねェから、一定量食らえば警戒レベルが跳ね上がる。
ダメージは自分が十分反撃出来る量だから、少なめに見積もってンだろうな。
まぁ、対強敵殲滅モードとでも言えば良いか」
「初号機の暴走みたいな?」
『紫に掛けてとんでもないモノブッ込むじゃん』
「あれってエヴァになった母親が、シンジを護る為にやってんだと」
『修二のお母さん勝手に殺すなよ。こないだ会ったわ』
「じゃあ覚醒にしとくか」
『というか殺る気スイッチじゃない?』
「あ、それだ」
良いのかそれで。
思わず笑えば、黙って此方を眺めていた先生が言う
「話の続きな。コイツは殺る気スイッチ?押すまではセーフティ掛かってます」
「……ああ。気絶以上の蹴りは、下手すりゃ大事になるもんな」
「そォ。雑魚を全力でやってりゃ何時か殺しちまうだろ。
だからコイツは無意識に、自分にスイッチを付けた。それが外れたのがさっきのアレだ」
歯を剥き出しにして、獰猛な眼で伏黒先生に向かっていく修二を思い出す。
普段の倍の速度で攻撃を繰り出す姿は、死神か何かの様だった。
「アレ、俺だったから良いけどよ。
本当なら普通に相手ボッコボコにして、下手すりゃ殺すからな」
『えっ』
思わず先生を二度見した。
二本目のスポドリを開けた先生は、黒いぴったりしたシャツの上から胸を叩く
「何回か的確に心臓の位置蹴ってきてンだよ。あと鳩尾。顎と蟀谷も。
オマケに痛めたら動きにくくなるトコばっか狙いやがる。
コイツ人体の急所丸暗記してやがんな?」
『…そういえば、前に読んでました』
「記憶力良いってのは厄介だな…
さっきの話だけどよ。具体的に言うと、マウントポジション取ろうとしたら止めろ。
そのまま馬乗りで殴って殺すか…ああ、頭の近くに立ってもダメだ。死ぬまで顔踏むだろうから。
胴回りも止めろ。心臓の辺りか、背骨折るまで蹴り続けるぞ」
いやそんなまさか………そういえばどったんばったんやってる途中、畳に転がった先生の顔面目掛けて脚振り下ろしてたな。
「それもう相手が倒れたら止めた方が良くない?全部殺すじゃん」
『…………修二は処刑人だった…?』
「確実に仕留めんのが安全だって思ってンだろうよ。
やたら潰す事に拘ってるみてェだし、嬢ちゃん関連で何かあったんじゃねぇか?」
そう問われ、何かあったかと懸命に今までの事を思い返す。
相手を確実に動けなくしたい。という事は、動けなくした筈の相手が動いた?
いや、修二が蹴ったり投げたりした相手は、基本そこで終わる。
ならどうしてそこまで、動けなくする事に拘るのか。
……そう、思って。
『………あ』
「思い付いたか?」
先生に問われ、頷いた。
そう言えばあった。
修二がワンパンで終わらせられなかったんじゃなく、此方が数を見誤っていた事が
『硝子、硝子がヤンキーの頬骨折った事、覚えてる?』
「ん?ああ…そういえば」
「なんだ家入、お前も暴れてんな」
「コイツがデカイからか、良く絡まれるんだよ」
擦り傷を消毒し、絆創膏を貼る。
寝ているとだりぃと鳴かないから、随分静かだ
『確か四人のヤンキーに絡まれて、その時も修二がすぐに終わらせました。
そしたら、私達の後ろから五人目が出てきて』
「私がやって、一人逃がしてんぞって半間に言ったんだったか」
『そう。そしたら一気に無表情になって、鏖だーって………相手を半殺しに…』
沈黙。
軈て伏黒先生が、重々しく口を開いた
「……それがトラウマになってる可能性はあるな」
『嘘でしょ、ほぼ私の所為…』
飄々としている様に見せておいて、実はトラウマ持ちとかお前…
しかもそれが私が殴られそうになっただけとか、お前…
静かに顔を覆う。
動かなくなった私に、しれっとした声が降った
「でもまぁ、ソイツのスイッチの原因がお前なら簡単じゃねぇか。
お前が声掛けりゃあちゃんと止まるんだし」
『あんまり此処までさせたくないんですけど…』
合図したら止めに来いと言われていたので従ったが、まさかこんなに大暴れするとは思っていなかったのだ。
正直めちゃくちゃ怖いので、出来ればもう覚醒しないで欲しいのだが、先生は項を掻いた
「つってもなぁ、最近は妙に喧嘩が強いガキが多い。
ただバイク転がしてるだけなら良いが、半グレも居るしなぁ」
「東卍とか、黒龍とか?」
「東卍はカタギには手ェ出さねぇらしいし、そこで考えると黒龍だな。
暴力を売るっつービジネスしてるって話だし、お前らが幾ら自警団でも、目障りなら潰しに来るだろうよ」
『あーもうめんどくさ………ん?』
そう呟こうとして、気付く。
…ちょっと待て、この人何で自警団……ホコタテの事を知ってる?
私話してないよね?ちらりと見れば、硝子が一つ頷いた
「私らが矛盾創ったって、この人には言ってある」
『……まぁ良いか。伏黒先生なら』
この人なら、無駄に事実を広めたりしないだろう。
でも取り敢えず、バラすなら此方にも一言入れてほしいかな。
正座し直して、伏黒先生に目を向けた
『絡まれずにダラダラ出来る場所が欲しくて、自警団を創りました。
まだ水面下でしか動いてませんが、基本的に一般人に迷惑を掛ける不良が撃退対象です。勿論、此処に迷惑が掛からない様にします』
「ああ。此方は気にすんな、嬢ちゃんの好きにやんな」
あまりにもあっさり返され、何とも言えない表情になってしまったのは仕方がないと思う。
そんな私を見て先生は笑った。
大きな手が伸びてきて、くしゃくしゃと髪を乱す
「ガキは周りに迷惑掛けるくらいが丁度良い。だから今度は、我慢せずに好きにしな」
『……ありがとうございます』
切れ長の瞳は何処か遠くを懐かしむ様な、不思議な色を宿していた
「なぁなぁなぁなぁ刹那ちゃん、今日家に遊びに行っていーい?」
『えらいテンション高いな?どうした?後半電池切れしない?』
「今日は百年に一度元気な俺の日ィ♡えー、ねぇ、質問答えてくれてねェんだけど」
『ああ、別に良いけど。どしたん?』
今日はチョコを作る予定だったんだけど。
そう考えて、修二の狙いを察した
『百年に一度元気な俺は手伝ってくれんの?』
コイツ、チョコのつまみ食いを狙ってるな。
それを匂わせた言い方をすれば、キリッとした顔で言う
「荷物持ちなら任せろ」
『作らんのかい』
「純度100%刹那ちゃんお手製が食べてぇの♡」
小さな顔を両手で挟み、にっこり笑うコイツは自分のツラの良さを良く判っている。
思わず溜め息を吐き、さらさらな黒髪を撫でた
『ああ、そういえば冥さんにお返ししなきゃね。修二連絡取れんの?』
「取れっけど、下手に金掛かってるモンよりケーキ屋のクッキーとかの方が良いと思うぜェ?
俺ら三人で選んだ消えものって方がウケ良さげ」
『そっかぁ。今日は硝子が無理みたいだし、冥さんに予定聞いて、それからお菓子選ぼうか』
「りょ♡一週間後なら良いって♡」
『いや連絡早いな?』
ケータイを閉じた修二に苦笑いする。
冥さんは初めて会う人だが、一体どんな人なのか。
写真から見ても、自分というものをしっかりと持った、大人の女性であろう事しか判らなかった。
あと気になるのは硝子が言っていた、金を貰えば割と何でもする、みたいな話か。
修二と硝子が世話になっているから、下手な事は出来ない。
でも犯罪に利用され、尻尾切りに使われるのも困る。
二人は悪い人ではないと言うけれど、一応警戒心は持っておいた方が良いだろう。だって冥さんの為人知らんし。
思案していると、つん、と頬をつつかれる感触。
視線を上げると、頬杖を付いた修二が此方を見つめていた
「冥さんと会うの、不安なん?」
『…そりゃあね。私は初めて会う訳だし』
「警戒してんね。んー、平気だと思うけどなァ。
でも刹那ちゃんがそうしてェなら、それで良いと思う」
『…あんた達みたいに強くないからね。色んな可能性を考えなきゃなんだよ』
我が身は可愛いが、その身を護れる強さもないのが私という生き物だ。
だからこそ、危険な目に遭わない様に、頭を回す。出来る限り危険は回避する。
そんな小心者が初めて会う人に、オマケにどういう意図で修二に支援しているか判らない人に会うのを警戒しないなんて、無理があろう
「良いんじゃねぇの?
冥さん多分、刹那ちゃんがどんぐらい警戒するか見たそうな感じするし」
『…それは勘?それともそう思う行動が見えた?』
「勘♡」
『オッケ、素直に警戒していくわ』
修二の勘なら信用出来る。
なんせこの男、「此処今日は何かヤベェからヤダ」という大層意味不明な理由で、朝の通学路を変更させた事がある。
仕方無く迂回した結果、居眠り運転による事故が発生した。
本来なら、私達が通る時間帯。
その事故を聞いた私と硝子は青ざめ、修二は猫の様に欠伸をしていた。
「刹那ちゃんって、俺の勘信用してくれるよなぁ」
『それで助けて貰ったしね。
そもそもそういう第六感的な感覚は、後天的に得るのは難しいでしょ。
感覚の優れた人間の意見を聞かないのは勿体無いし、愚か』
「ばはっ、刹那ちゃん好きィ♡」
『ありがとー』
本人曰く、ゾワゾワしたり刺されるみたいな感じが来るのだそうだ。
そういうのを感じた時、素直にその場を離れるなりすれば、面倒は回避出来るのだとか。
因みにあの日は全身がビリビリしたので、あのまま行けば轢かれて死んだんじゃないかと言う事だった。怖いわ。
『修二って幽霊とか見えんの?』
「何だよ急に?」
『いや、勘が良いからさ。見えんのかなって』
修二は何も答えず、にまぁっと笑った。
いや怖いわ。
家に帰り、買った材料と荷物持ちの修二をリビングに通した。
手を洗って着替えてと動き回る私を他所に、我が物顔で冷蔵庫からほうじ茶を持っていくノッポ。最早この家の住人感すらある
『修二、冷蔵庫に雪見だいふく入れた?』
「刹那ちゃん好きっしょ?一緒食お」
『わーい大好き』
「チョッロwwwwwwwww
…いやちょっと待て?
オイ俺が好きっつっても返さねぇのに雪見だいふくで大好きって俺が雪見だいふくに負けたみてぇじゃね???は???
ふざけんなよ刹那ちゃんオイコラ」
『ドス効いた声で念仏止めてくんない?』
「ばはっ、キレそう♡」
キレそうとか言いながらにっこりしている辺り、本当に言葉と表情が比例しない男である。
テレビの前のソファーに腰掛け、つまらなそうに修二が眺めているのは株価指数。
最早何を覚えるのか判らない…いやこれ覚えてるのか?
『修二ってさ、覚えるのは得意じゃん』
「うん」
『じゃあ逆に、忘れるとかって出来るの?』
チョコを溶かしながら問うと、端整な顔が此方に向けられた。
綺麗な梔子が、今は満月みたいになっている。
「……考えた事なかったなァ」
『そうなの?』
「うん。でもボコったヤツとかは覚えてねぇからァ、もしかしたら興味ねぇのは覚えらんねェのかも」
『便利なのか不便なのか…興味ないのに覚えるの大変そう』
「そうでもねぇよ?だって俺、勉強に興味なかっただろ?」
『そう言えばそうだね』
生クリームを入れつつ、あと数ヵ月もすれば一年前になる、半間ショック(先生達の間での通称)を思い出す。
あれはビックリした。テストに名前だけ書いて出す様な面倒臭がりが、突然小テストで満点。
しかも教科書を読んだだけ、なんて言ってのけたのだから
「あの時もさ、必要だったから見て覚えたんだよ。
刹那ちゃんと家入が、同じトコ行くっつーから」
『皆受かってたら良いね』
「落ちるとしたら内申足んなくて俺じゃね?
まぁそうなったらプログラマーか何かやるし、良いけど」
『いや数学死んでる私かも知れない。自己採点悪くなかったけどさ、飛び抜けて良い訳でもないし…』
「もしかしたら家入も英語死んだかもなァ。だりぃ引っ掛け何個かあったろ」
『ああああああ受験終わったのにしんどいのやめろ』
「ばはっ、受験の話始めたのオマエ〜♡」
ケラケラ笑う修二はコップを口許に運ぶと、ゆっくりと目蓋を上下させた。
長過ぎる脚を放り出す様に座る姿は、完全に我が家である
「なぁ刹那ちゃん」
『ん?』
「最近さ、変な事とか、ねぇ?」
『変な事…?』
問われ、此処最近の事を思い返してみる。
基本的に修二と硝子と一緒に居て、一週間に一度伏黒先生の許に行く。
そして新宿でバトルを仕掛けてきた不良を修二がシバき、街をふらふらする。
家に戻ったら明日の準備とご飯、お風呂。
明日のご飯の下拵えも済ませ、勉強。最後にケータイを弄ってから眠る。
私の一日は大体こんなものだ。
最近妙な事なんてあっただろうか。
弱火にしてくるくると鍋をかき混ぜつつ首を捻れば、修二はへらりと笑みを浮かべた
「何かあったら直ぐ言えよ。俺が潰すから」
『?うん、頼りにしてる』
え、これは私何か起こるフラグか…?
翌日、私は眠そうな修二を連れて、教室に向かった。
何時もの様に硝子に挨拶。それから窓際二列目の一番後ろの席に、近付いた。
座ろうとして鞄を置き、椅子を引く。
────その瞬間、大きく骨張った手が肩を掴んだ
「刹那、止まれ」
『修二?』
首だけで振り向いて、目を丸くする。
……恐ろしい程に無表情な顔で、修二が私の肩を掴んでいたから。
え、何で?私何かしたっけ?
驚く私を見てハッとした様に瞬くと、次の瞬間、修二はにぱっと笑った
「なぁ刹那ちゃん、悪ィんだけどさァ、自販機でコーラ買ってきてくんね?」
『えっ、あ、うん?』
「はい財布。お駄賃に好きなの買ってこいよ♡」
「お、じゃあ私も行こうかな」
「はー???まぁ良いケド。
じゃあ刹那ちゃん、お使い宜しくなァ?」
にぱっと笑ったまま財布を手に握らされ、くるりと身体を反転させられる。ぱんぱん、と肩を払われた。
そして流れる様に硝子に引き渡され、あれよあれよと言う間に教室から連れ出されていた。
『………えっ?』
「はよ行くよ刹那。HR遅れたら怠いし」
『…ねぇ修二何か可笑しくなかった?アイツ何を見付けた…?』
急に様子が可笑しくなった修二の事を口にすると、硝子は平然とした様子でこう返してきた
「いや割とアイツ何時でも可笑しいぞ」
『えっ』
「そういや刹那、チョコ隠す場所何処にする?今日持ち検するかもって」
『えっっっっ』
…チョコの話になり、修二の異変をすぽんと忘れるのは私の良くない所である。
あれからコーラを買って戻ったが、修二は至って何時も通りだった。
朝のあの反応は何だったのか。首を捻りつつ、まぁそれが修二の勘に引っ掛かったものであったなら、その場を離れた私は難を逃れたのだろうと納得する事にした
『修二』
「なァにィ?」
『良く判んないけどありがとうね』
「…ん???良く判んないのに礼言うのォ?」
珍妙な生き物を見る目を向けられた。
いやだって此方だって理由判んないし。でも何かをしてくれたのは確かだから、礼を言うのだ
『朝、私を教室から出してくれたでしょ?
だから、ありがとう』
「………」
『理由は知らないけど、私の為っぽいからさ。だからお礼言っとく』
「……あー、だから良く判んないけど、ね」
納得したらしい修二が目を細めた。
何を考えているのか判らない無表情で、静かに目を伏せる。
その表情を頬杖を付きながら、じっくりと眺めてみる。
綺麗に整えられた眉。切れ長の双眸は吊り気味。すっと通った高い鼻。薄い唇の、大きな口。
…こうして見ると、随分圧のある顔なんだなぁと思った。
所謂、黙っていると迫力のある美形ってヤツなのだろう。
眉が下がり気味で優しく見えはするけど、それも口角が上がっていないと威力半減な気がするし。
というか目が怖い。感情の窺えない梔子が、虚みたいに見える。
瞳が何も映していない様に見えるから、何だかとても恐ろしく思えるのだ
『………』
基本姿勢はナマケロを装ったヤルキモノみたいな妙な奴だし、よくよく考えると修二って謎だ。
だりぃって口癖の癖に、めちゃくちゃ活発。
やろうと思えば何でも出来る。けど料理はしたくないらしい。食べる専門って言っていた。
あとは…大分直感に従って生きてる。
それから優しい。喧嘩が強い。気分屋。
修二に関して知っている事って、これぐらいだろうか。
「珍しいな、コイツが黙ってるとか」
自分の席からやって来た硝子がそう言いながら、何か考え込んでいる修二を指差した。
人を指差しちゃいけません。そっと綺麗な人差し指を降ろさせつつ、小さく笑った
「な〜ァ、刹那ちゃん」
『猫ちゃんみたいな声出すじゃん可愛いね』
「こんな可愛くない猫なんか居るか。ソイツ猫っていうより蛇っぽくない?」
昼休み、硝子がそんな事を言うので、私は席を立った。
頬杖を付きながら此方を見ていた修二の頬を手で挟んだ。長めの前髪を払い、硝子に良く見える様にする。
文句を言うでもなく、ぱちぱちと目を瞬かせるのは猫っぽい
『えー、目許良く見て。目尻の上がり具合とか猫では?』
「口とか良く見てみな?犬歯とか完璧蛇の牙だろ」
そう言われ、顎を軽く下に引っ張る。
素直に口を開けた修二の犬歯は随分強そうだった。
『うわ、尖ってる……いや、猫も犬歯凄いじゃん?』
「雰囲気が蛇」
『マジで?こんなに黒猫っぽくて可愛いのに…?』
「それはアンタの前では可愛い子ぶってるからだろ」
『ええ…?』
「お前ら人の顔掴んで言い合いすんの良い加減やめろ???」
その声で視線を下げると、口を少し開けたままの修二が、呆れた様な目で此方を見つめていた。
『…今のちょっと眉下げてるの可愛くない?』
「アンタ悪い男に捕まりそうだよね。金蔓とかにされてそう」
『えっ』
「金蔓なんかにさせっかよ。俺が居るしィ?」
「ああ、既に捕まってたわ」
「あ???」
「は???」
メンチを切り始めた二人を笑っていると、ふと何処かから視線を感じた。
其方に目を向けようとして、ぐいっと腕を引かれる。
修二の膝の上に座り込む形となり驚いていれば、何故か修二も目を丸くしていた。おい犯人
「………えっ?」
『は?』
「えっ?ちょっと待って?
刹那ちゃんちょっと引っ張っただけでこんななるの…?」
『ちょっと…?ぐいってやったのに…?』
「『えっ???』」
いや今強かったじゃん?身体ごと引っ張られるレベルだったじゃん?
ふるふると首を振る私と、はわわと口許を手で覆う修二。硝子は笑い死んでいた。
おいお前、はわわじゃねぇんだわ。被害者は私なんだが???
「wwwwwwwwwwwww」
『おい家入。はわわどうにかしろ家入』
「はわわ…刹那ちゃんって烏瓜の花だったん…?」
『カラスウリ……?
待ってすんごい繊細な花に例えてきたな?』
というか花にも詳しいのかあんた。検索して出てきた花の繊細さに驚きつつ、いやこれよりは頑丈だな?と思い直す
『流石にこれよりは頑丈ですね』
「月下美人…?」
『なんで夜にしか咲かない花にしたがる?』
「刹那ちゃんは花火だから」
『詩的に例えろとは言ってないんだよな』
「刹那ちゃんはパンダだから」
『皮肉で例えろとは言ってないんだよな』
人間がサポートしないと絶滅する種に人を例えるな。
取り敢えず人を弱いと言いたいらしいノッポの頬を摘まんだ。
んい、と間抜けな声が漏れる
『修二、力加減を覚えろ。無駄に怪我させられるのは御免だし』
「んいぃ」
『私の事は……爪楊枝だと思って』
「は???爪楊枝の方が強ェし。刹那ちゃんは茹でる前の素麺だろ」
『マジキレそう♡』
「wwwwwwwwwwwwwwwww」
真顔やめろ半間。
あと家入、お前は許さない。
HRが終わり、席を立つ。
今日はどうしようかと言う前に、ぽんと掌が肩に乗る。
見上げると、修二がにぱっと笑った。力加減は再度覚え直しをさせたので、バッチリである
「刹那ちゃん、俺ちょっと職員室行ってから合流すっからさァ、家入と図書館行っててくんね?」
『ん、判った。何したの?』
「何かしたの前提なのウケんだけど。じゃあ、後でなぁ♡」
『いってらー』
ひらひらと手を振って去っていく背中を見送り、私も鞄を持って硝子の許に向かった
「……まぁ、今からするんだけど♡」
────それを感知した瞬間、背筋がゾワゾワした。
刹那ちゃんが見ていない隙に家入にアイコンタクトを送り、教室から連れ出して貰う。
表情を取り繕えなかったのは、純粋にミスった。反省。
刹那ちゃんの机の中を確認し、中から便箋が出てきた所で悪寒は増した。
それを持って、直ぐ傍にある空き教室に移動する。
正直、此処までキツいのは普段なら見ずに捨てる。
けどこれは俺じゃなく、刹那ちゃんに宛てたものだ
「………だりぃなァ」
仕方無く、カッターで封を切る。
机の上に中身を出して、顔を顰めた。
……笑う刹那ちゃんの写真と、手紙。
それにべっとりと付着した、白いもの。
「…………………だる」
ホラ見ろ見ずに燃やす案件だった。
深い溜め息を落とし、指先で手紙を開いた
────いつも貴女を見ています。
貴女は聡明で、愛想も良く、優しい女性です。
だからこそ、あの男を拒絶出来ないのだと判っています。
僕の方があんな男よりも貴女の事を理解しているし、愛しています。
「………いやキメェな?」
ゾワゾワし過ぎて最早寒ィ。出来れば今すぐ燃やしたい。あ゙ーでもそうすると証拠…
大きく溜め息を落とし、写真を便箋に戻した。つーかこれ、刹那ちゃん盗撮されてんな。
ジャージ持ってるから、体育の授業の帰り。
この角度で撮れる場所っつーと……ああ、うん。犯人判ったかも。
「ったく、盗撮くらい気付けよ家入ィ…」
見切れてるのは家入だろう。恐らく俺の居ない時に撮られたそれに悪態を吐き、教室を出た。
「家入」
「なに」
「俺ちょっと放課後用があるからさぁ、刹那ちゃん連れて図書館行ってて」
「貸し1な」
「いや寧ろテメーが貸し1だボケ。テメーが気付いときゃもっと早くにシメてたわ」
「は?」
怪訝そうな顔を向けてきたメスゴリラに、すっと例のブツを渡した。
それを受け取り、中を見た家入の顔といったら!!
「ひゃはぁwwwwwwwwwwwwww」
「んのクソ野郎…!!」
「ああオモロかったぁ♡
……つー訳だから、刹那ちゃん任すわ」
「チッ……犯人判ってんの?」
「これで判んねェとか脳味噌生きてるかァ?
この角度で撮れンの、東棟一階中庭側、奥から三番目の部屋しかねぇんだわ」
「ほんと無駄に煽るなお前……社会科準備室か」
「ン」
刹那ちゃんが席を外している間に家入と情報共有。つーかこれ、コイツの不手際が原因なんだよなぁ。
「チッ、盗撮くらい気付けや」
「馬鹿が。私は忍者じゃないんだよ」
「ヤな感覚あんだろ、感覚も死んでンのかぁ?」
「うるせぇ野獣。それがあれば人間ストーカーに悩まされたりしないだろ殺すぞ」
「……オイ、今マジで苛ついてンだ。あんま煽んな……潰すぞ」
女は煩いから手を出さないだけで、殴れねぇ訳じゃない。刹那ちゃんが良い顔をしないだろうから、やらないのもあるが。
正直、コイツと相性は良くない。
本来なら話もしない人種だと思う。
それでもつるんでいるのは、仲が良い様に装うのは────刹那ちゃんが、三人で居るのを望むからだ。
殺気を込めて見下ろせば、焦げ茶色の瞳が負けじと睨め上げてきた。
一瞬睨み合い、直ぐに視線を切る。
「刹那ちゃん、おかえりィ♡」
飲み物を買いに行っていた刹那ちゃんが戻ってきたので、笑みを浮かべて出迎える。
俺の切り替えの早さに、隣で猫被りがという呟きが落とされた。オイ聞こえてんぞメスゴリ
『ただいまー。山下にめんどいの頼まれた…一人で行くんじゃなかったわ…』
「山下何だって?」
『明日の現国ノート回収だってさ』
「だりぃヤツじゃん。手伝うかァ?」
『ありがと。無理そうだったら頼むわ』
「りょ♡」
撫でて♡と腰を折れば、小さな手が髪に触れる。
俺の魔法使いの手に甘えながら、今日中に面倒を片付ける為の方法を考える事にした
本来俺は作戦を立てる側ではなく、作戦を遂行する手足である。
確かに刹那ちゃんが苦手な分野から、出来れば便利な分野まで多岐に渡って手を伸ばしてはいるが、俺の本分はか弱きオリマーの紫ピクミンである。
細々策を練るのは面倒臭い。物理でどーん!が楽。
故に色々考えていて力加減を間違え、細い手首を握る訓練なんかが行われたりしたが、無事放課後を迎えた。
刹那ちゃんに声を掛け、教室を出た。
向かう先はただ一つ、社会科準備室。
「しつれーしまァす」
「えっ、誰!?」
ノック?知らねぇ文化ですねお帰りクダサイ。
脚で扉を押し退け、部屋に入る。
地図や地球儀が壁に並び、様々な資料が陳列された室内。
────此処の鍵を持っているのは、部屋の主たるコイツだけだ
「加藤センセーさぁ、心当たり、ねぇの?」
ああ、ゾワゾワする。気持ち悪ィ。
敢えてにっこりと笑みを浮かべて訊いてやれば、男は顔を青ざめさせた。
それを見下ろしながら、柔らかな声を意識して吐き出していく
「反応が気になったのか知らねぇケド、何回かウチの教室覗いてたみてぇじゃん?
そりゃあ気になるよなぁ?可愛い生徒にあんなモン送ったんだもんなァ?」
その度に俺が壁になって、刹那ちゃんの目隠しになってたけど。
「な、何の話だ?俺は……」
「あーあ、可哀想になァ。アイツめちゃくちゃ怯えてたぜェ?
そりゃあそうだ、アイツからしたら、誰からか判んねェのが急に置いてあった訳だし」
「っ…そんな訳ないだろう!!
あの子は優しくて良い子だ!!
俺からの手紙だって喜んだに決まってる!!!」
ハイ、かかった。
「でもよぉ、写真カピカピしてたじゃん?アイツ、アレを飲み物溢したんだって勘違いしてたぜ?」
「ははっ、精液を見た事ないのか…ああ、可愛いなぁ…やっぱりあの子はそこら辺のガキより清らかで聡明だ…あの子は俺と結ばれる運命なんだ…」
あ、やだこれ予想以上に気持ち悪い。
思わず真顔になりつつ、ケータイを耳に当てた
「…っつー訳なんだけどさァ、コイツどうすれば良いの、オマワリサン」
《至急其方に向かいます!半間くんは無理しない様に先生の逃亡阻止しててくれるかな?》
「りょ、社会科準備室な。急げよ〜」
「は?…は???」
部屋に入る時からずっと繋いでいた通話を切り、パチンとケータイを畳む。ついでにポケットに突っ込んであったボイレコも切った。
呆然とする男を見下ろして、静かに口角を吊り上げた
「別にボコしても良かったんだけどさァ、万が一騒ぎになって、俺の受験に影響あったら困ンだろ?
でもアンタ、放置したら100パーだりぃヤツじゃん?その内刹那ちゃん刺しに来そうだし。
だからァ────アンタをブタ箱にブチ込む事にしましたぁ♡」
簡単な事だ。
ボコって気を晴らすのは直ぐに出来る。でもそうすると、此方への影響が計り知れない。
それが理由で受験落とされたりしたら堪ったモンじゃねぇし、迷惑。
でもこういうタイプはさっさとどうにかしねぇと、勝手に妄想してエスカレート、最後には包丁片手に家に突撃するのだ。刹那ちゃんが前に言っていた、女子大生の殺害事件もそんな感じだったし。
校長に伝えても良かったが、学校の為とか言って隠蔽しそうな感じがする為除外。
その結果、伏黒センセー経由で知り合ったサツのオニーサンの召喚に至ったのである。
焦った顔で扉を見た男の前で、ざり、と足音をわざと立てた
「逃げんなよォ?
そうした瞬間、逃亡防止って口実でテメーの歯ァ、折るから」
「ひ……っ」
ぶっちゃけ今すぐそうしたい。
でもメリットとデメリットが釣り合ってないんだから、仕方無い。
刹那ちゃんの居ない高校に行くぐらいなら、握った拳を隠すぐらい、どうって事ないのだ
あーあ、受験生って不便。
それからサツにストーカーを引き渡し、俺は刹那ちゃん達と合流した。
遅くなった理由をゴミ掃除っつったのはダメだったらしい。刹那ちゃんからは訝しむ目を、家入からは呆れた視線を向けられてしまった。別に間違っちゃいねぇのに
『それにしても先生が生徒の盗撮ねぇ…ロリコンか?』
「最近多いらしいし、気を付けなよ」
『私?ないない。硝子こそ美人なんだから気を付けてね。適当な男に優しくしちゃダメだよ』
「ブーメラン突き刺さってんの気付けよ刹那」
『え?』
合流後、刹那ちゃんの家にて。
キッチンに立つ俺は、蒸らしたコーヒーを並べたマグカップに注ぐ。
────学校で起きた生徒盗撮事件の事をのんびりと話す刹那ちゃんは、自分がメンヘラストーカーの被害者である事を知らない。
それは単に、俺がそう進言したからだ。
あの後、やって来たオニーサンに俺は例のブツとボイレコを渡した。
同時に、刹那ちゃんは自分が被害者である事を知らない事を伝えたのだ。
そして、これを知ればきっと傷付いてしまうから、出来れば被害者が割れない様にして欲しい、とも。
正直、刹那ちゃんが被害者だとバレない様にヤツのパソコンを弄っても良かった。
しかしそうするには少々時間が足りなかったし、そもそも例のブツを偽装するのがダリィ。
なので仕方無く、刹那ちゃんが被害者だと本人及び周囲に漏れない様、オニーサンに頼んだという訳だ。
あの人妹居るらしいし、親身になって訊いてくれてたから、多分大丈夫だろ。ダメだったら俺がどうにかすりゃあ良い。
『修二も気を付けなね。綺麗な顔してるんだから』
「俺ェ?刹那ちゃんが無事ならどうでも良いわ」
『またそういう事言う…』
事実である。
俺と家入は物理でどーん!出来るが、刹那ちゃんは生まれたてのパンダみたいなモンなので。よちよちしてて可愛いだけで、自衛なんて出来やしねぇ
『はい、ウチで食べる用のチョコでーす』
「はい、コーヒーでーす♡」
「うぇーい」
「オイ家入運べ。何一人で座ってンだ刹那ちゃんに重いモン持たすな」
『トレイは重くないんだが…?』
「ソイツ最近過保護過ぎじゃね?」
苦笑いする刹那ちゃんだが、俺は彼女の脆弱具合を知っている。
力加減としてのイメージは花だ。花弁を掌で包むイメージで繊細に、優しく扱わなくてはならない。
だと言うのにその本人が自分を雑に扱うとは、一体どういう事なのか
「刹那ちゃん、もっと自分を大事にして?じゃねぇと俺暴れんぞ?」
『斬新な脅迫…』
「俺は刹那ちゃんを絹ごし豆腐に触るイメージで触ってんのね?」
『待ってせめて木綿』
「は???木綿ほど硬いと思ってんの???」
『何これ腹立つな???』
「絹ごし豆腐レベルの強度wwwwwwwwww」
ゲラゲラ笑う家入に何とも言えない顔をする刹那ちゃん。
あれ、花だと伝わりにくいと思って絹ごし豆腐にしたんだけど、ダメだった様だ。
でもそんな顔が出来る程硬くはないので、認めてほしい
「俺はさァ、刹那ちゃんが楽しく生きてくれてればそれで良いよ。
だから、刹那ちゃんはもっと自分を大事にしてくんね?
俺もこれからはもっと気を付けるけど、刹那ちゃんも気ィ付けてくれればもっと安全だろ?」
俺らの事は気にするが、刹那ちゃんは自分の事は気にしない。
今回の事もそうだ、どうせアイツに内申とかそこら辺だけ考えて、優しい態度を取ったんだろう。
ただ忘れちゃいけないのが、刹那ちゃんは学校で高嶺の花って呼ばれている事。
刹那ちゃんは興味のない相手に対し、作り笑いで対処する事が多い。
基本的に自分から話し掛けに行く事もない。刹那ちゃんが自分から動くのは、俺と家入に対してだけ。
それを知っていたからこそ、あの先公も勘違いしたんだろう。
あーあ、やっぱ一発ぐらい殴りたかったなァ。
『思ったより修二って愛情深い生き物だった…?』
菫青がぱちりぱちりと瞬いている。
つんと尖った鼻先を柔く詰まんで、俺は口角を吊り上げた
「知らなかったん?俺って実はめちゃくちゃ一途よ?」
知らぬ所で
刹那→中3。もうすぐ卒業してくれる筈。
今回知らない内にやらかし、知らない内に被害に遭っていた。
半間にスイッチを付けたのはファインプレー。軽率に半殺しにするリスクを減らした。
後日ストーカーの件を警察に訊かれるが、女子全員が話を訊かれている状態だったので、自分が被害者だなんて思いもしない。
バレンタインはトリュフを量産した。
半間→中3。もうすぐ卒業してくれる筈。
今回殺る気スイッチが発見された人。
スイッチが入れば、オリマーが止めるまで暴れる紫ピクミンになった。
野生の勘でヤバいブツを感知、ストーカーを刹那にバレない様に撃退した。
実は家入とは、刹那が間に挟まらなきゃつるまない程度の仲。
大好きな人が使っている、自分とは全く趣味の合わないマグカップぐらいの認識。
つまり万が一を起こせばコイツは割る。
刹那からのトリュフは他の人より多め(良く判らないが超直感で危険を回避させてくれたお礼)だったので、うれしい。
家入→中3。もうすぐ卒業してくれる筈。
淡白かと思ったら、気まぐれに人に優しくする(本人その自覚がない)刹那を危なっかしく思っている。
実は半間とは、刹那が間に挟まらなきゃつるまない程度の仲。
親友が持っている、自分とは全く趣味の合わないぬいぐるみぐらいの認識。
いざとなったら捨ててやりたいが、気付かれない様にどうやって捨てようかな…
バレンタインなのでガトーショコラを作ったが、本当は面倒なので既製品が良い。
伏黒→半間の殺る気スイッチを見付けてあげた人。
加藤先生→恐らく元々素質があった。
警察のオニーサン→伏黒先生の道場で知り合いになった。名前は灰原。
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