歩幅合わせて
「何持ってく?」
『家電一式揃ってるんでしょ?じゃあ服とか勉強道具くらい?』
「足りなきゃ買えば良いよ。俺も金持ってるし、流石に家買えとかじゃなきゃ大概いけんぜ?」
『中学生の言う台詞じゃない…』
「何か買いたかったら口座から引き落として使っても良いからな?これ俺のカード」
『ほいほいカード渡さないで…』
「あ、冥さんさっき報酬振り込んだってさァ。また頼むよって」
『え?何事?私何かした?それとも修二?』
「ばはっ」
いや笑って誤魔化すな。怖いんだが?
良く判らないが、修二が何かしたんだろうと無理矢理納得する事にした。パソコンで冥さんの手伝いをしている様だし、きっとそれ。
昨日冥さんと電話したけど、あの人ほんと良く判んないな
『冥さん問題出して来たんだけど、あれブームなのかな?』
「昨日電話したんだったかァ?どんな問題?」
『んーと、陥れ系』
簡単に言うと、こうだ。
Aさんを陥れたいとします。Aさんは会社の取締役、50代、男。家族構成は妻、18歳の娘。父と母は存命。
金の流れに可笑しな点はなし、家族を大事にするので、終業後は基本直帰。
────さて、この男を陥れるとしたらどうすれば良いでしょうか?
「凄ェ良い子じゃん?」
『因みに暴力はナシとする』
「あ、だりぃ。無理」
『修二の見切り付ける早さは潔いな』
爆速でやる気を失くした修二に笑ってしまう。
まぁ修二って物理でどうにかする方が楽って思ってそうだしなぁ。というか他人に興味がない。なのでこの天才に気持ちを汲み取れ問題は鬼門である。
服をボストンバッグに詰め込みながら、口を動かす
『正面が硬いだけで、側面から見たらそうでもないものってあるでしょ』
「カステラとか?」
『例えが斬新だな?…まぁあれも上だけ固めだもんな…普通に考えて、この条件だとAさんを落とすのは難しい。でも────』
服を畳み直し、笑った
『周りから落としてしまえば、一面だけ硬くても意味ないんだよ』
「へェ?」
『奥さんは社交的で自分の話を訊いてほしいタイプ。Aさんは家族を大事にしてるってわりに、話をあまり訊いてくれないみたいだね。
なら聞き上手な男でロミトラ仕掛けて、不貞を作る。
娘は所謂箱入りのお嬢様。少女漫画の信者。
それなら漫画に在り来たりな、不良に絡まれた所を助けさせるとかそういう出会いをさせて、ソイツに惚れさせて貢がせる。
お祖父ちゃんとお祖母ちゃんは株かな。
要は家族から崩して、Aさんの金に手を付けさせる。
…とはいえ、Aさん自身も攻略しにくいってだけで、攻略出来ないって訳じゃない』
「そうなん?」
『基本は直帰だけど、会食や付き合いを全部しない訳じゃない。
じゃあそこでAさんの好みの女を投入するか、Aさんの口にするものに薬でも入れてしまえば良い。
女とホテルに行く姿を撮れば勝手に火は点くし、女が性的暴行を受けたって週刊誌なんかで騒げばまぁ…大炎上だよね』
家族を攻めるのがプランAなら、Aさんを直に狙うのはプランBだ。
陥れるの度合いにもよるが、大筋はこれで良いんじゃないか。
これを言うと、冥さんは何だか楽しそうだった。
洋服を詰め終え、次に筆記用具に手を付ける。
『情報が少ないからね、ぱっと思い付くのはそのくらいかな。もう少しターゲットの詳細が判れば、細かい所も詰められるけど』
まぁ、こんなの定番ですし、誰でも思い付くけどね。
呟いた私に修二はにっこり笑っていた。
「刹那ちゃん、好き♡」
『ありがとう。やらないからな』
それからタクシーでマンションまで移動した。中学生がタクシー…金銭感覚…
戦慄く私を不思議そうに眺めながら、修二はボストンバッグを肩に掛けた。
「とうちゃーく。このマンションでェす」
『うわ、綺麗なトコ…』
「冥さんの紹介で大分安くして貰ってンの。
あ、母親には住所言ってねぇからさ、会ってもシカトな」
『えっ、何で?』
「諸事情〜」
私の手を取ってすたすたと歩き始めた修二に連れられて、マンションの入り口を潜った。
エントランスを抜けて、エレベーターに乗る。
手を引かれるがままに進み、角部屋の前に立つと、修二はポケットから鍵を出した。
するりと自分だけ入ると、ぱたんと扉を閉めるノッポ。は?何事?
意味が判らず固まっていると、かちゃりと扉が開いた。
梔子はゆるりと笑んで、低い声が優しく響く
「刹那ちゃん、おかえり」
『────、』
馴染みのない言葉を認識するのに数秒掛かった。
それを自分に向けられたものとして理解し、なんともむず痒い気分になった
『……ただいま』
「ばはっ、次俺ね。刹那ちゃん交代してー」
『判った鍵閉めるわ』
「鍵持ってンの俺〜」
入れ替りで扉を閉める。
そっと開くと、梔子は期待でキラキラと輝いていた。
その様子に思わず笑いつつ、待っている言葉を掛けてやる
『おかえり、修二』
出迎えてやれば、修二は照れ臭そうに笑った
「刹那ちゃん、ただいまァ」
引っ越したばかりだと言う家は、正しく越したてというか、余分なものがなかった。
伽藍としたリビングにはテレビとソファー、食事用のテーブルだけが佇んでいる。そして何処と無く、既視感
『モデルルームみたい』
「あー、何置こうか考えてなかったから。取り敢えず刹那ちゃん家の配置にした」
『何時から私を誘おうと思っていた?』
「最初から♡」
『お前……』
いやそれ、ルームシェア断られたら寂しくなるヤツじゃん。
良かったな、私が優しくて。
溜め息を吐きつつ、奥に進む修二に続いた
「此処、刹那ちゃんの部屋ね。
取り敢えず必要そうなモンだけ入れてあっから、欲しいモンあったら買い足してって」
『私の部屋丸写しじゃん…』
「本人持ってくりゃあ完成〜ってな。此処弄ってる時めちゃくちゃ寂しかった」
『でしょうよ。頭良いのに何してんだか…』
肝心のその人が居ない部屋をそっくりそのまま作り出すとか、普通に頭可笑しいんだよな。
まぁ私の部屋は必要最低限の物しかないから、真似しやすかったのかもしれないけど。
ボストンバッグを置いて部屋を出る修二を追う
「んで、此方が俺の部屋ね。
好きに入って良いけどパソコンは止めとけ。下手に触ったらやべぇの入ってっから」
『うん、入らない事にするわ』
「ばはっ、寂しい事言うなよォ♡マジでパソコン触んなきゃ大丈夫だから、来て?」
笑いながら招かれた部屋は生活感に溢れていた。
部屋の奥に鎮座するパソコンと、窓際にある布団の捲れたベッド。脱ぎっぱなしの服。
中途半端に開いたカーテン。なんかごちゃごちゃしているテーブル。壁に斜めになって、辛うじて掛かっているハンガー。
ベッドの枕元にちょこんと座る豹のぬいぐるみは、誕生日に私があげたものだった
『やっと生活感のある部屋を見たな』
「まぁ基本此方に居っからなぁ。でも今日から刹那ちゃん居るし、リビング出るわ」
『うん、折角一緒に居るならそれが良いよ。
あ、邪魔にならないなら、修二がパソコン触んなきゃいけない時に私が此方来るけど』
「マジで?そうして。めちゃくちゃやる気出る」
『りょ』
『今日のご飯はどうしようかな……』
夕飯時。
冷蔵庫を開けて、作れそうな物を考える。
料理をしないと言っていたわりに結構食材が入っているのは、恐らく私に作らせる為だろう
『修二、今日ミートパスタで良い?』
「良いよォ」
許可を得たので、玉ねぎとミンチを用意した。
ついでに生姜と大蒜も出しておく。
換気扇を回して玉ねぎを切る。さくっとみじん切りにして、フライパンに投入。
軽く炒めてからミンチを入れた。
キッチンに入ってきた修二は、何をするでもなく私をじいっと見つめている。
『なに、作り方覚えてんの?』
「んーん、メシ作ってる刹那ちゃん覚えてる」
『なんだその無駄な記憶』
「無駄じゃねぇって。良いじゃん、思い出すだけで幸せな記憶ってヤツ?」
『修二ってご飯作れるんだっけ?』
「やだ」
『えー、明日私具合悪くなる予定なのにwww』
「じゃあ作ってやろうかァ?今覚えてっから」
『病人にミートパスタやめろwwwwwwww』
「クッソ重てェモン食わすじゃん俺wwwwww鬼かよwwwwwww」
二人してゲラゲラ笑った。
火が通った所でフライパンに水を入れる。隣のコンロにポットのお湯を入れて貰って、火に掛けた。
レタスとプチトマトを洗い、レタスは水に浸けておく。プチトマトは水気を取って冷蔵庫へ。
パスタを取り出し、半分にしようと思ったところで、此方を眺める修二に渡す
『これ半分にしてくれない?』
「おー」
軽く返事をすると、修二は乾麺の袋を両手で持った。そしてあっさりと、バキリと折ってみせた
『つよ…』
「んあ?何が?」
『そんな簡単に麺折るの…?』
「えっ、折れねぇの…???」
『普通に無理』
良く考えてほしい、500gの麺だぞ。
パスタを入れた鍋に油を入れるか悩み、修二を見上げた
『修二、350くらい食べられる?』
「ヨユー。つか足んねェ」
『……ソース多めに作る予定だし、ミートドリアもする?』
「さんせー♡」
『野菜も食べなよ』
「うい」
『暇ならパスタ菜箸で混ぜてて』
「りょ♡」
コイツやっぱり沢山食べるな。明日まで残る計算だったけど、何も残んないわ。
『あんたの場合、食費めちゃくちゃ掛かりそうだね?』
「ンー、基本外で食ってるからなァ。刹那ちゃんが作ってくれる日があるんだったら、今よりは安くなっかも」
『…修二、貯金とかしてる?』
「メシ代とか刹那ちゃんと遊ぶ時の金とか、必要なの以外は全部貯めてる。つーか手ェ付けねェから増える」
『案外堅実だった…』
「通帳見る?」
『怖いので見ません』
「ひゃはっ♡」
ソースに砂糖とケチャップ、隠し味にお好み焼きソースと醤油を入れる。
それから大蒜と生姜を刻み、ソースに混ぜた。
少し煮てから味見して、修二に小皿を渡す
「んま」
『よし。麺は?』
「オッケー」
『じゃあ麺を上げましょう』
「危ねェから離れてろよ」
『りょ。あ、シンクに水流しながらお湯溢してね。排水溝熔けるよ』
「うい」
パスタを修二に任せ、冷蔵庫に入れてあったプチトマトを出す。
キッチンペーパーでレタスの水分を軽く取ってから同じ皿に乗せ、ついでにフォークもテーブルに運んだ。
「お湯切ったァ。皿適当で良いん?」
『良いよー』
出してくれたお皿にパスタを盛り、ソースを掛けた。
結構な山になったんだが、大丈夫かこれ…
「おー、美味そう」
『食べきれる?多くない?』
「え、食えるよ。あとでミートドリアもするし」
『そう…?』
「家入居ねェ分、何時もより食えんだろ?テンション上がるわ〜」
『カービィかな…???』
あのほっそい身体の何処に入るんだろう。
意気揚々とお皿を運ぶ修二に付いていき、席に着いた。
『はい、じゃあ手を合わせて下さい』
「はァい♡」
『「いただきます」』
先ずはレタスとプチトマトに手を付ける。
しゃきしゃきのレタスを口に運ぶと、ミートパスタを食べた修二がふにゃりと笑った
「んまー♡メシ作ってくれてありがと、刹那ちゃん」
『どういたしまして。パスタ茹でてくれてありがとう』
「どういたしまして♡」
私もパスタに手を伸ばした。
トマトの甘酸っぱさと大蒜のパンチが最初に口の中に広がり、最後に生姜がスッと整えていく。
パスタも程よい柔らかさだ。ふにゃふにゃではなく、歯応えもある。
『美味しい』
私の言葉に修二も笑った。
そしてふと、真顔になる
「…足りっかな?幾らでも食えそうなんだけど」
『えっ』
結局修二はあの後パスタを完食、ご飯にミートソースとチーズを乗せてオーブンで焼いたミートドリアまで食べきり、サラダも食い尽くした。
最早此処まで綺麗に平らげれば気持ちが良い。
満足そうな修二と共に食器を片付け、お風呂に入った。
お互いお風呂上がりの状態でソファーに座る。
長い指が髪に触れ、梔子がぱちりと瞬いた
「刹那ちゃん、髪乾かさねぇの?」
『面倒だから自然乾燥』
「えー、髪綺麗なのに勿体ね。あ、俺乾かして良い?」
『ドライヤーあるの?』
「ありまァす、刹那ちゃん用に」
『本人より女子力高いな…』
ドライヤーを持ってくると、電源を入れた。
タオルを頭に被せ、髪を軽く掴む様にして水気を取っていく。てっきりがしゃがしゃ拭かれると思っていたので、驚いた
『わしゃわしゃ拭きじゃないんだ』
「あれ髪痛むんだぜェ。出来るだけ摩擦与えねぇのが綺麗な髪の鉄則ゥ」
『女子力…』
頭を包む様に大きな手が動き、ドライヤーが少し離れた位置から温風を当ててくる。
髪が大体乾くと、今度は弱温風になった
『ちょっと弱めんの?』
「これでセットしま〜す」
『へぇ』
全然判らん。取り敢えず日々自然乾燥と櫛だけで生きている身としては、逆にそんな事するの…?めんど…とか思ってしまうレベル。
手櫛で髪を整えると、修二は冷風に切り替えた
『冷たい』
「髪は冷風当ててキューティクル整えんだって」
『へぇ…』
「熱抜いて、そんで櫛通せばオッケ」
『手順多いな…』
「じゃあ俺にやってっつったら?」
『楽しそう』
「刹那ちゃんほんと自分の事大事に出来ねぇよなァ…」
『いや、自分に毎日これとかだる…』
え?髪を拭いて、タオルで優しく拭きながら温風で乾かして、途中から弱にしてセット、最後に冷風…?いや手順多いな…?
げんなりした私に、修二は柔らかく笑った
「ウン。大丈夫、俺が刹那ちゃん大事にすっから」
『え、私そんなに自分を雑に扱ってる…?』
「結構雑。俺的に許せねぇ感じ」
『真顔…』
すん、とした顔で言った挙げ句、思い知らせる様に丁寧に櫛を掛けられた。
その結果、めちゃくちゃ艶々な髪になった
『うわ、すご…プロじゃん…』
「元が綺麗だからな。これで手間掛けたらもっと艶々なりそう」
『ありがとう。次、私にやらせて』
「俺は別に良いんだけど」
『というか化粧水付けるのが先か。そんで乳液塗って、髪かな』
「ええ、だりぃ…」
『じゃあ私の顔やってって言ったら?』
「あ、それ覚えてなかった。やろっか?」
やる気のない顔になった癖に、一瞬で目をキラキラさせる修二に苦笑いした
『修二も自分を雑に扱ってるよねぇ』
「メシ食う分刹那ちゃんよりマシ〜」
『うっ』
お風呂もご飯も終わり、後は寝るまでのフリータイム。
さて何をするかと言った時、修二が持ってきたのがコレだった。
……素晴らしくにっこりしているこの男を、信用すべきではなかったのだ。
《ぎゃああああああああああああああ!!!!》
『あああああああああああああバカじゃんほら死んだあああああああああああ!!!!』
「ばはぁwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
暗がり、水、独りとは、日本のホラーに於いて切っても切り離せないファクターである。
生白い手に背後から引きずり込まれた女の絹を裂く様な悲鳴。頭を抱える私、爆笑する元凶。
ダメなのだ、ホラーは。
だって対策出来ないから。
『ほら見ろ怪異を舐めるから死ぬんだ大体超常的な事態を面白半分につつくからそんな事に《ごしゃっ》二人目死んだぁ!!!!』
「クッソ早口wwwwwwwwwwwwwww」
ずるりと伸びた黒髪が、男の首に絡み付いた。
そのまま堅いアスファルトに叩き付けられ絶命した姿に、ぐっと眉を寄せる。
隣から私を見た修二は、不思議そうに首を傾げた
「死体は平気なン?」
『死体は人が生命活動を止めれば出来る。でも心霊現象は説明出来ない。そして対策出来ない』
だって此方が祈祷だの御札だの塩だのやった所で、幽霊が諦めない限り心霊現象は終わらないのだ。
幾ら謝っても赦されない。そもそも相手が何を望んでいるのか、どう思っているのかすら理解出来ない。そんなの恐ろしすぎるではないか
「ああ、そういう……じゃあ刹那ちゃんに憑いてるヤツは、落とすのが正解なんだな」
『怖いじゃん自分でどうにも出来ないとか……ちょっと待って???
憑いてる?今憑いてるって言った???』
修二は何も言わず、にまぁっと笑った
『クッソお前ほんと笑顔で黙らすの得意だな《ユル…さ…ナ……ぃ》あああああああああ喋ったああああああああああああ!!!!!!』
「ばはぁっwwwwwwwwwwwwwwwwやべぇwwwwwwwwww刹那ちゃん、カワイソウでカワイー♡」
『死ね半間ァ!!!!!!』
『………………』
深夜一時。
すんっとした顔で、私はソファーに転がっている。
抱えているのは、冥さんに貰った肥前忠広。
身体を折り曲げて、小さくなっているのは単に眠れないからだ。
いやだって怖くない?
個室で扉閉めるの無理じゃない???
そう考えた瞬間、部屋で寝るのは諦めた。
越してきたばかりの家で、与えられた自分の部屋はまだ馴染みがない。
余所余所しい部屋に居るくらいなら、今日長く過ごしたリビングの方がまだマシだった。
因みに元凶は部屋に帰っている。マジでクソ。
刀を抱えたまま、真っ暗な部屋の中でじっとしている。
眠れそうにないが、明日が休みで良かった。
どうにか眠れるまでケータイでも弄るかとテーブルに手を伸ばした、瞬間
「ばぁ♡」
『ぎゃああああああああああああああ!!!!』
金色の丸いものが二つ、真上から此方を見下ろしていた。
堪らず悲鳴を上げ、肥前を突き出す。
ばしっと受け止められた感触と同時、急に部屋が明るくなって、思わず目を閉じた
『ああああああああああああ幽霊はお帰りください塩だの御札だのないんで!!!!!!』
「ばはっwwwwwwwwwそんなんで幽霊帰ンねぇだろwwwwwwwww」
弾けた特徴的な笑い声と、知っている声音。
明るさに慣れた目を開けつつソファーの背を覗けば、デカい芋虫が誕生していた
『…貴様半間か???』
「きwwwwwwwさwwwwwwwまwwwwwww」
『恨むぞ…一生恨んでやる……』
「もうwwwwwwやめてwwwwwwwww笑いすぎて死ぬwwwwwwwwww」
『死ね。殺すぞクソが』
「バチクソキレてんじゃんwwwwwwwwwww」
人を恐怖で震え上がらせておいて、何を言ってやがるんだろうかコイツは。
腹が立ったので肥前で黒い頭をつつく。暫くゲラゲラと笑ったあと、目許を拭いながら修二が身を起こす
「あー笑った。刹那ちゃん、何してんの?」
『判らんか?お前人の心ないんか???』
「んふっwwwwwwwごめんwwwwwwww俺の所為でごめんねwwwwwwww」
『クソがよ』
「口悪いwwwwwwwwwwwwww」
むすっとした私に一頻り爆笑しやがったタケノコは、ソファーにだらりと長い腕を付いた。
真上から私を見下ろして、梔子をゆるりと細める
「ンー、じゃあさ、俺の部屋来る?」
『は?』
「だって、独りは嫌なんだろ?俺も此処で寝て良いけど、二人でソファーじゃ絶対落ちるって」
何でもない顔で言ってくる修二に、思わず目を瞬かせた。
まぁ確かに修二の部屋なら生活感があるけど…
『………』
「?」
ニコニコしながら此方の答えを待つ修二。
スキンケアによりもちもちになったほっぺをつつきつつ、梔子を覗き込んだ
『私、邪魔にならない?』
「なんねェって。じゃ、行くかァ」
ひょいと抱き上げられ、そのまま長い脚で歩いていく修二に連れていかれた。
ぱたんと扉を閉めて、肥前をテーブルに置く。
私を大きなベッドに横にすると、自分も布団に入ってきた。
『壁際良いの?』
「良いよ。俺何処でも良いし」
『ありがとう』
肩まで布団を掛けられ、目を瞬かせた。
どうにもめちゃくちゃ大事な事を忘れている気がするが、何だろう。
すん、と息を吸うと修二の匂いがした
『めちゃくちゃ修二の匂いする』
「そりゃそうだろォ。俺の部屋だし」
『なんか忘れてる気がするんだけど、何だと思う?』
「幽霊の手が何本あるかじゃね?」
『シバキ回すぞ』
「wwwwwwwwwwwwwww」
楽しそうな修二を眺めていると腹立たしいが、少しずつ眠くなってきた。
大きなベッドに向かい合って寝そべったまま、小さく欠伸を溢す
『そういえば、誰かと寝るって初めてだ』
「……そっかぁ」
『………放置するなら、なんで私なんか作ったんだろうね』
面倒を見られないなら、堕ろせば良かったのに。
夢現に呟く私を、梔子が静かに見つめていた
「……忘れてンのはきっと、危機感じゃねぇかなァ」
寝入ってしまった刹那ちゃんを眺めながら、呟く。
俺は性転換とかした覚えはないので男の筈なのだが、刹那ちゃんはどうにもそれを忘れている気がする。
普通男の部屋で寝るか???
明らかにお前に好意的な男の目の前で???
すやぁ…と子パンダみたいにあどけない顔で寝転ける刹那ちゃんを見つめ、口許をもにゃりとさせた。
ンー、かわいい。けどこれって実際どうなん?
白露刹那という女は、外面を取り繕うのが上手い。そして自分にとって大事か、大事じゃないかの線引きが明確な女だ。
そして大事であると認識した存在には、信じられない程甘くなる
大事だと認識されているのは俺と家入。
伏黒センセーや冥さんは、大事だが俺ら程じゃねぇ。
今回も、俺だからこそ全て受け入れているんだろうけれど。それにしたって迂闊じゃないか
「良かったな刹那ちゃん、俺がヤりてぇだけの猿じゃなくて」
勿論セックスに興味がない訳じゃない。ただ、これまでの関係性を崩してまでやってみたいかと問われると、そうでもないとしか言えないだけだ。
俺の興味は刹那ちゃんにしかないので。
もし俺が手を出して、傍に居られなくなるのだとしたら、それをする必要はねぇってだけ。
人は体験するからもう一度したくなるのだ。クスリや煙草と同じである
「……ねみぃ」
刹那ちゃんは誰かと寝るのは初めてだと言っていたけれど、俺も似た様なものだと気付いた。
物心付いた頃から、俺はあの女にとってお荷物だった。
気紛れに与えられる菓子パンと水。
女が帰ってくる時間には押し入れに逃げ込み、息を殺す。
襖越しに聞こえる声を、最初はあの女のものだと認識出来なかった。
身長が伸びてくると押し入れがしんどくなってきて、ベランダに逃げる様になった。
少しするとベランダに鍵と靴を隠し、外をふらつく様になった。
金が足りねぇ時は、適当なヤツを背後から襲って金をせしめた。
世界は灰色で、つまらなくて。
このまま一生灰色なんかなって思っていたら、刹那ちゃんと出会った。
「おやすみ、俺の魔法使い」
頬に掛かっている髪をそっと払い、目を閉じた。
誰かと寝るって、不思議な気分だ
ゆっくりと目を開ける。
目の前に整った寝顔があって、思わず呼吸が止まった。
『………しゅうじ?』
すやぁ…と寝ているのはどう見ても親友である。
あれ、一緒寝たっけ?私昨日……ああ、寝たわ。
びっくりしたものの、コイツが元凶である事を思い出してすんっとなった。
寒かったのか、長い腕が緩く絡み付いている。
深い呼吸でぐっすり眠っている彼を起こすのは流石に可哀想なので、そっと腕の中から抜け出した。
『朝ごはん、どうするかな』
取り敢えず、味噌汁作るか。
────ぱちり、と目が開いた。
あ、時間か。
そう思うのは、何時に起きると強く思うだけで起きられるという、妙な特技があるからだ。
数回しぱしぱする目で瞬きを繰り返し、ゆっくりと身を起こす。
部屋に刹那ちゃんの姿はない。
気を遣って静かに出ていったのだろうか。どうせなら起こして欲しかったなぁ。
「くあ……」
大きく欠伸を溢し、背伸びを一つ。首の付け根を掻きつつ部屋を出た。
すると鼻先を良い匂いが擽って、瞬き。
のそりとリビングに向かうと、キッチンで小人がうろちょろしていた。
『〜♪』
ゴジラを口ずさんでいる理由が判んなくてウケる。
刹那ちゃんはゴジラになりたいんだろうか。
鍋に味噌を溶かし、片方のコンロで卵をくるくると巻いている。
そんな家庭的な光景をまさか俺が経験するとは思っていなくて、暫し魅入っていた
『……おわ、何突っ立ってんの?トーテムポールみたいだけど』
軈て俺に気付いた刹那ちゃんがそう言って、笑った。
『おはよう修二。ご飯もう出来るよ』
開いたカーテンから射し込む陽射しで、キラキラと輝く刹那ちゃん。
優しい味噌汁の匂いと、じゅうじゅうと食欲を掻き立てるフライパンの音。
…パチパチと輝く光景に、ゆっくりと口を開いた
「結婚しよ(おはよー)」
『えっ』
あ、間違えた。でもまぁいっか♡
ルームシェア一日目
刹那→ルームシェアを始めた。
家族の温もりを知らないもの同士で住み始めた。
幽霊は対処の出来ないから苦手。
これから出来るだけ食事を作るし、食べる様になる。
半間→ルームシェアを始めた。
本人に許可を取らずに家を再現するやべぇ奴。
マンションに引っ越したのは、母親がパソコンを売ろうとしている事に気付いたから。
南京錠を掛けた部屋(勝手に自分の部屋にした)に侵入しようとした形跡を見付けたので、今まで払って貰ってきた金を置いて家を出た。
刹那にホラーを見せたのはわざと。予想以上に面白かった。
top