ピカピカの一年生


『修二』


「なァに?」


夕飯後。
落ち着いた声に呼ばれ振り向けば、ラッピングされた黒い箱を差し出された。
あれ、俺って誕生日今日だっけ?
首を傾げつつ受け取れば、刹那ちゃんに笑われた


『誕プレじゃないよ』


「言ってた?」


『顔に出過ぎ。ポーカーフェイス目指しなよ』


「はァい」


基本何考えてっか判ンねぇって言われっから、多分、刹那ちゃんが鋭過ぎンじゃねぇかなァ。
そう思いつつ、開けて良いか訊ねれば是の返答。
ちまちまとセロテープに爪を立てるのはダリィが、刹那ちゃんからの贈り物を粗末に扱うつもりもなく。
丁寧に包装を剥ぐと、黒い箱が露になった。
そっと開けてみて、自然と目が見開かれる


中には黒い手袋が入っていた。
手の甲の部分には、艶やかな銀糸で、罪と罰という漢字がそれぞれ刺繍されている。


「これ……」


『妙な刺青される前に、書いといてやろうと思って』


さらりとした手触りの手袋は、俺の手のサイズぴったりだった。
数度手の開閉をして、鎌を握ってみる。
馴染みの良い手袋は滑る事なく、程よい通気性もある様だ。
吸い付く様な握り心地に、自然と口角が上がった


「えっ、何コレすげー。ぜってー落とさねぇじゃん」


『着け心地と握り心地良いヤツ…あと頑丈っていう面倒なオーダーをしたの。冥さんに』


「お前も頼んでんじゃん」


『使えるものは使うのが礼儀でしょ。そしたらオーダーメイドでこれ作ってくれた』


「マジか。ありがとな、すっげー嬉しい」


『どういたしまして。気分が良いのでコレもやろう』


そう言った刹那ちゃんが、今度は青い箱を差し出してきた。というか俺、誕生日でもねぇのにめちゃくちゃ貢がれてね?


「刹那ちゃん大分俺に貢いでね?貯金大丈夫?援助要る?」


『森へお帰り脚長ピクミン。元々の貯金と、なんかやたら冥さんから振り込まれてるから大丈夫』


やたら振り込まれてるというのはきっと、刹那ちゃんの計画に関する報酬だろう。
冥さんは刹那ちゃんに、問題と称して様々な計画を立てさせている。
そしてそれは実際、冥さんから依頼人に渡される計画となるのだ。
それを知らない彼女はパトロンに問われるままに計画を立て、冥さんが適切な価格で売り付ける。
そして仲介料を引いた報酬が、俺が作った刹那ちゃんの口座に振り込まれるという訳だった。


『面白い話の礼だよって言ってガンガン振り込んでくるんだけど、どうやったら止められるのか…』


「お礼なんだろ?じゃあ受け取っとけば?」


『なんか知らんけど課金されてる気分って判るか?罪悪感半端ないぞ?』


「刹那ちゃんとのオハナシはそんだけ価値があるって事だろォ?安心して受け取っとけよ、冥さんが金の使い方間違う様に見える?」


『見えない』


冥さんと金の関係性への信頼が凄い。
まァあの守銭奴、自分が損しない様に動くもんな。適切な売り付けや支払いをするのも、自身をクリーンに保つ為の処世術ってヤツだし。
もう一つの箱を開けると、今度は少々変わった手袋が出てきた。
関節までしか面積のない、先程のものと同じ生地の手袋。縁が金色で縁取られたそれを嵌めてみると、やっぱり手の甲はほぼ露出している


「なんか変わってンな」


『ハーフグローブっていうヤツ。修二、手が綺麗だから似合いそうだなって』


「キレイ…?ただの手が…?」


『綺麗だよ。指長いし、爪の形も綺麗』


「ふーん…?」


良く判ンねぇけど、刹那ちゃんが言うからにはそうなんだろう。俺は手がキレイ。
ほぼ指だけを覆った斬新なグローブを両手に嵌めた。お手をする様に両手を差し出すと、刹那ちゃんは満足そうに笑う


『うん、似合ってる』


「ありがと。これって普段使い出来るモン?」


『普段は此方着けて。ムラサキの時に罪と罰ね』


「りょ」


黒くしっとりと光を跳ね返す生地の上に、白魚の様な指が乗る。
遊ぶ様に関節を撫でる光景が何だか妙に色っぽくて、どきりとした。
直ぐ傍、伏せられた長い睫毛の向こうに、理知的な光を湛えた菫青が見える。
つんと尖った小さな鼻に、柔らかそうな薄紅色の唇。
白い頬を撫でる様に、艶やかな黒絹がさらりと落ちた


……やっぱり、綺麗なのは刹那ちゃんだと思うんだけどなァ。


何も言われないのを良い事に、至近距離で刹那ちゃんを観察する。
睫毛にシャー芯とか積んだら怒るかな。めっちゃ乗せられそう。あ、でも万が一目に入ったら危ねぇから却下。
散々遊び回った指が、グローブと肌の境目を擽る様になぞったかと思えば、小さな唇が開かれた


『……うん。これで殴っても手が保護出来る』


「あー………」


すっげぇ真剣な顔してると思ったら、安定の反社だった。
…待って?グローブの上から手ェ撫でられただけでドキドキするとか俺チョロすぎじゃね???
あーでもその手の動きがさぁ、なんかこうさぁ、イケナイもの見ちゃった感あんだよなぁ!!!


「あああああああああマジで罪な女だなオイ…!!」


『うわっ、急に何?』


「だりぃ!!でも好き!!!!!!」


『ははーん?病院へドーゾ』


コイツ、秒で面倒になりやがった。
でも俺をこんなにしてんのお前なー!!!!!



















四月。
真新しい制服に身を包み、私達は校門前に並んでいた


「はいチーズ♡」


『待って私ブスじゃない?目ぇ閉じた』


「は???刹那ちゃんにブスな時とかねぇから」


『すんごい強火じゃん』


「その内業火になりそうだなソイツ」


「あ、待ってこの刹那ちゃん保存しよ。カワイー」


『いや消せって。目ぇ閉じてんの』


「えっ、キス待ち顔っていうヤツと一緒じゃん?つーか目ェ閉じたって綺麗だから保存しますけど」


『流れる様に保存しやがった』


「強火担だししゃーない」


ブレザーのポケットに押し込まれたケータイに、私は溜め息を落とした。どうせならちゃんとした顔で写りたかったなぁ。
左手がそっと腰に添えられ、次に行くぞとやんわり押される。
それに従い校門を潜り、入学式の会場である体育館に向かった。


「私ら同じクラスだったよな?」


『同じ学校で全員同じクラスって珍しい分け方だよね。もし仲悪かったらどうすんだろ』


「逆じゃね?仲良いって判ってっから纏めたンじゃねェの?」


『だとしたら百パー修二が原因だな』


「んあ?俺?何でェ?」


「お前が中学でやらかしたからだろ」


事前に配送された資料にクラスも明記されていた。
そこで三人揃って同じクラスだと知ったのだが、修二のストッパーという理由なら納得である。
修二に案内され、体育館に到着した。
そしてそこに居る入学生の面々に、内心うわぁ、と呟いた


見事にヤンキーと真面目で二分されている。


金髪やゴリゴリに耳を痛め付けたピアスまみれ、違法改造レベルのスカート。あれは歩くだけで下着を見せる系の公害なので、近付きたくない。
逆に反対側で固まっているのは明らかにガリ勉系と、不良とは縁遠いであろう一般生徒。
さて、丁度真ん中付近に立つ私達はどうすべきか。
そこで私は、ちらりと隣の巨人を見上げた。


今日の修二はソフトモヒカン。初日からナメられんのはだりぃとの事。
最近安定したピアス穴から、ゴールドのアメリカンピアスが揺れる。
服装は、学校規定なんぞガン無視のシャツのボタン二つ開け。ネクタイはリード代わりに私が首に引っ掛けた。
紺のブレザーのボタンも全開、手には黒のハーフグローブ。因みに大男の癖にブレザーとシャツは大きめで萌え袖である。かわいい。
シャツ出しはしているが腰パンじゃないのは、恐らく蹴りの時に腰の辺りがもたついて不快だからだろう。
靴は学校指定の黒。
ただしスラックスで判らないだけで、ショートブーツを履いている。革靴だとパルクールした時に脱げそうらしい。


…確実に不良に分類される見た目である。
そしてピアスとグローブは私の所為。誠に申し訳ない。でも似合ってる。
というかグローブとブーツが確実に喧嘩の為なのが何とも…
ぼーっと真正面を無表情で眺めていた修二は、直ぐに此方を見下ろしてふにゃりと笑った


「なァに?アイツらボコす?」


『やめなさい。目も合ってないのに襲わない』


「熊よりやベーじゃん」


「安心しろよ、メスゴリよりはマシだから」


「は???」


「あ???」


『入学式だよやめなさい』


頼むから、入学式の前から注目されないでくれ。
二人を止め、ちらりと周囲を見る。
……ああ、うん。めちゃくちゃ不良エリアが此方見てた。
というか真面目エリアも此方を見ている。
恐らく私と…硝子もか?あちらに分類されると思っているんだろう。私もピアス開けてるけど、それだけだもんな。
視線を集めた修二は気分が悪いのだろう、私の顔の傍まで腰を折ると、唸る様に囁いた


「あ゙ーだりぃなァ。…全員潰すか?」


『先に手を出したら此方が悪くなるでしょ』


「うい」


あっちから仕掛けてくるのを待ちなさい、という指示を的確に汲み取った修二は、姿勢を戻すと面倒そうに欠伸を溢した。



















席順は何処でも良し。
そしてテストで成績を維持すれば、見た目も素行も人を殺しでもしない限りは放置ときた。


入学式のあと、教室に移動した私達は早速窓際の席を陣取った。
他の不良が何も言わない…というか特に揉める事なくスムーズに決まったのは、とっとと教師を退場させたいからだろう


「此方は君達が成績を維持すれば、何も言わない。個性を否定しない。ただやるべき事をしっかりこなせば文句はない。……質問は?」


誰も手を挙げない。
そろそろ終わる雰囲気を感じ取り、私は左隣の修二に目を向けた。
判ってる、とでも言う様に悪戯っぽく笑いながら、パチリとウインクをしてくる梔子。
それに小さく笑って、右隣の硝子を見た。
彼女の頷きに頷き返し、正面に視線を戻した。


「では、これでHRを終了する。…あんまりヤンチャするなよ」


「起立、礼」


本日の号令係にされた生徒の声に合わせて動く。
先生が教室を出た所で、先程まで静かだった不良が一斉に此方に顔を向けた


「オイ、そこのでかいの」


「ちょっとツラ貸せよ」


「あ?」


早速近付いてきた金髪とドレッドに、修二が面倒そうに声を発した。
私は修二の鞄を持ち、硝子と共に教室の隅に避難する。


『基本一発、ノーダメ。
ただとっととリーダーを教えといた方が楽だから、ちょっと派手にやって』


「りょ♡」


鞄を取りながら、早口に囁く。
修二はにんまりと笑って、正面に立ったドレッドを見下ろした


「なぁ、テメェちょっとデケェからってイキってんじゃねぇぞ?俺らは吉中の鬼って有名だったんだぜ?」


「取り敢えずさぁ、席代わってくんね?俺ら前でセンコーと見つめ合いたくねぇからさぁ。
あとあの娘らオマエのツレ?俺らに紹介してよ」


恐らく190はいったであろう修二を睨め上げる二人組。二人は本気なんだろう。背の高い相手にも、今までは勝てていたのかもしれない。
ただ、純粋に相手が悪かった

「ダッサwwwwwwwwwww何処だよ吉中wwwww吉牛の間違いかァ?」


先ず面倒そうに眺めていた修二が噴き出した。
それに激昂したドレッドが、高い位置にある胸倉を掴もうとして────逆にその腕と胸倉を掴むと、修二はそのまま相手の勢いを殺さず、開いた窓からドレッドを投げ飛ばした。


「ああああああああああ!!!!」


窓の傍の躑躅に突っ込んだので、死んではいないだろう。柔道の様に鮮やかに投げ飛ばした修二は、目を丸くするギャラリーを見渡し、首を傾げた


「何あれ、小鬼じゃん」


「っテメェ、よくもタケシを!!!」


ぐっと拳を振りかぶった金髪。
ソイツの胸倉を掴むと、次は下手投げで外にぶん投げた


「鬼は〜外〜ってなァ」


「クソウケる」


『硝子、しっ』


先程と同じ様に躑躅に抱擁された金髪から目を外し、修二は次に前に出た不良に片方の眉を吊り上げた。ゆっくりと、梔子が教室の中を見渡す。
それからにいっと、口角を上げるのだ


「雑魚がちまちま来んなよ、だりぃ。
時短だ────纏めて掛かって来いや」























「────ひゃっほう!!!
オイオイどーしたァ!?
スイミーみてぇに散ってんじゃねェぞ小魚共ォ!!!!」


向かってきた不良を嫌味な程長い脚で蹴り飛ばし、修二は笑った。
人間を軽く持ち上げる腕力で教卓を持ち上げると、勢い良く投げ飛ばす。不良が三人潰れ、ついでとばかりに近くに居た不良もぶん投げた。
ガラスの割れる音が、綺麗なお空に響いている


『ウチのにゃんこ、イキイキしてますね』


「猫じゃないだろ。
鮫がメダカ皆殺しにしてる映像にしか見えないんだが」


私と硝子は危険なので教室から出て、廊下から暴れん坊将軍を見守っていた。
無言で着いてきたのは真面目組と、喧嘩に自信はないだろうギャル組だ。
教室を出る私達に続いて避難した彼等は、さっさと帰ったり興味本位か喧嘩を眺めていたりする。


『これでクラスの平定は上手くいくかな』


「男はこれで良いだろうけど、次は私達じゃないか?」


『やっぱそう思う?』


硝子と言葉を交わしながら、然り気無く周囲を見る。
見た感じギャルっぽいのが数名。ただ女子というのは共通の敵を持つと、それまでいがみ合っていても協力出来る生き物だ。
今日のこれで修二がクラスのリーダーになるのは確実。そしてそうなると、つるんでいる二人の女が目障りだと思う同性も出てくるだろう


『女って、強い男が好きって良く言うよね』


「好かれる可能性ないのに猛アタックする女も居るよな」


単純に強い男に惹かれるのか、それとも強い男の持つ権力が好きなのかは知らないけど。


『硝子に手を出すなら話は別だよ。遠慮なくやってやる』


「じゃあ私は刹那に手ェ出すヤツの顔面凹ますかな」


『やだカッコイイ』


「半間より良い男になれる自信あるわ」


硝子と笑い合っていると、騒がしかった教室の音が止んだ。
積み上げたらしい屍の山に座った男は、梔子の双眸を冷たく輝かせ、呟いた


「────無礼とは、強者を真似した弱者の態度である。
これで判ったろ?お前らは弱者。無礼を働いちゃいけねェの。
弱者は弱者らしく、頭低くして生きてけよ」


『哲学者の名言で貶すな』


「あれってボコりながら考えてんのかな」


硝子の言葉に確かにと思っていれば、屍の山を下山した修二が此方を見た。
目が合った瞬間、虚ろに見えていた梔子が、ぱっと輝きを灯す瞬間を見てしまった。落差がひどい。


「刹那ちゃん!!!俺頑張ったァ!!!!」


『おおう……』


まぁ普段なら蹴りで終わるのを、わざわざ投げたり割ったりしてたもんな。楽しそうだと思っていたけど、弱い相手だとストレスも溜まるんだろう。
駆け降りてきた勢いのまま大きな身体に包まれ、堪らず目を瞑った。
凄い、衝撃とか全然ない。抱き締めるプロかな?
豹とかライオンにじゃれつかれる生肉ってこんな気分なんだろうか。いや違うな、マタタビか。
首筋に顔を埋められすーはーされている。止めて、お風呂入ってない女子の匂い嗅がないで…
思いっきり虚無った顔になっているだろう事が、自分でも判った


『すんごい吸われてる…猫に吸われてる…』


「ソイツ絶対猫じゃないだろ。というか刹那、アッチ見てみ」


硝子の指した方をこっそり見る。
そちらには此方を見ている女子の塊が居て、総じて好意的ではない目をしていた。


『……ほぉ?』


早速釣れたっぽいな。どうせならと考え、修二のタケノコが崩れない様に、後頭部を撫でてみた。
嬉しそうに修二がぐりぐりと首筋に鼻を埋めてきて、彼方の女子の視線が明らかに険を増した。


はい確定、アイツら敵だな。


今ので修二に惚れたか、それとも強い男をバッグみたいに持ちたいタイプか、彼女らは一体どちらなんだろう。
前者ならまだ許せるけど、後者はなぁ…


『お疲れ様、修二。人数多かったでしょ』


「弱ェから力加減だるかったァ」


『うん。適度な力加減出来て凄いね』


「俺えらい?」


『うん。修二えらい』


「ばはっ、頑張った甲斐あったわァ♡」


喉を鳴らしそうな勢いですりすりしてくる修二の頭を撫でていれば、硝子が半目になって言った


「猫被りやべー」


「だ〜まれ♡」


笑顔で立てられた中指をそっと折り畳む。
修二はにこにこしたまま、私の耳許でそっと囁いた


「────で?
あのクソアマ共は、俺が潰して良いん?」


修二は勿論彼女らの視線に気付いていた。
離したらすっ飛んで行きそうな修二を抱え直し、私はにっこりと笑っておく


『あれは私の獲物だよ』



















朝、目が覚めると美形が一番に飛び込んでくるのに慣れたのは、何時だっただろうか。
ぼんやりする目をぱちぱちと瞬かせ、おでこ同士をくっ付けて寝ていたらしい修二を見る。これ私の前髪大丈夫か?妙な癖付いてないだろうな…
額を離して前髪に触る。あ、うん。無事だった。良かった。
絡み付いた腕と脚から逃れ、大きく伸びをする。
テーブルに起きっぱなしだったコップを手に、修二の部屋を出た。


『……あれ、昨日って自分の部屋で寝なかったっけ?』


まぁいっか。
支度をする為に、洗面台に向かった。


「おはよぉ」


味噌玉を溶いていると、背後からのしっとデカイ猫がのし掛かってきた。
首筋にぐりぐりしてくる黒髪を撫でて、ぽんぽんと叩く


『おはよう修二、ご飯よそって』


「うい」


戸棚から茶碗を二つ取り出し、炊飯器に向かう背を見送って、フライパンの上のベーコンに卵を落とした。
戻ってきた修二が小皿とフライ返しを置いて、味噌汁のお椀を二つ運んでいく。
最後に焼き上がった目玉焼きを小皿に乗せて、テーブルに戻った


『おまたせー』


「朝飯ありがとー刹那ちゃん」


『どういたしまして。配膳ありがとう』


「どーいたしましてェ」


並んで座り、手を合わせる。


「『いただきます』」


お味噌汁を口に運ぶ。
隣で目玉焼きを割りながら、修二がのんびりと口を開いた


「そういえばさぁ、刹那ちゃんってめっちゃありがとう言うじゃん?」


『ん?そう?』


「ウン。ちょっとなんかしたら直ぐありがとうって言われる」


『そうだっけ…?』


全然気にしてなかったけど、そうなんだろうか。
首を傾げていると、修二が目玉焼きに醤油を掛けた


「だからさァ、俺も出来るだけありがとう言う様にしたのね。
そしたら刹那ちゃん、どういたしましてって言う様になった」


『凄い冷静に観察しないで。そんな言ってる…?』


本当に自覚がない。
思わず固まる私の傍で、修二が箸を置いた。
凪いだ梔子を伏せた酷く穏やかな表情で、そっと胸に手を当てる


「言ってる。
なんかね、一緒に生活する様になってから、俺も刹那ちゃんも変わってきたんかなァって思ったら、こう…胸ン所がぽかぽかする」


『………』


此方に向けられた梔子が、艶っぽく細められた


「……あは♡なぁ刹那、顔真っ赤♡」


『やめろ言うな』


私はそっと顔を覆った。























学校に着き、教室に向かう。
修二が扉を開けた瞬間、室内が静まり返った。


『おはよう硝子』


「おはよォ」


「おはよう二人共」


ひらりと手を上げた硝子の隣に腰を降ろす。
修二がゆったりと席に着くと、少し離れた場所から二人の影が近付いてきた。
机の下で、修二が無言で脚を引いた。恐らく何かあれば、机を蹴って相手にぶち当てる算段だろう。
ガーゼや包帯まみれの二人はよくよく見れば、昨日一番に喧嘩を売ってきた奴等だった。
というかこのクラスのほぼ半数は包帯まみれだが、そこは突っ込んじゃいけない。
コイツら、また喧嘩を吹っ掛けるつもりだろうか。
何時でも席を立てる様、僅かに腰を浮かせた、瞬間


「「おはようございます、兄貴!!!」」


「『「ん???」』」


いやちょっと待って?大分判んなかったな?
思わず修二の方を見る。
彼は不思議そうに目を瞬かせていた。
次に硝子の方を見る。
彼女は珍獣を見る様な目を二人に向けていた。


「…お前ら頭でも打ったん?」


「違います!兄貴の強さに痺れたんスよ!」


「俺らを舎弟にして下さい!!」


そう言って直角に頭を下げるドレッドと金髪。
見事な最敬礼だ、元々運動部だったんだろうか。
そんな下らない事を考えていると、修二が面倒そうな顔で、埃を払う様に手を振った


「舎弟とか要らねーンだわ。帰ってどーぞォ」


「そこを何とか!!」


「パシリでも何でも良いんで!!」


「だりぃ……刹那ちゃあん、どうにかしてェ?」


言葉通り考えるのが怠くなったんだろう、甘えた声で絡み付いてきた修二に苦笑いする。
黒と金の綺麗な髪を撫でつつ、此方をガン見する二人に顔を引き攣らせた。
どうするべきか。修二はさっき言った通り、舎弟もパシリも要らないらしいが…


「白露さんって、兄貴のヨメですか?」


『「「ん???」」』


ドレッドの言葉に三人揃って首を傾げた。
ヨメ?まさか、嫁か?


『日本の法律だと十六で結婚出来るのは女性のみなんだけど』


「あ、不良の言葉に詳しくねぇ感じっスか?
ヨメっつーのは彼女って意味っス。俺の女とか、そういう使い方なんスよ」


『そうなんだ。教えてくれてありがとう』


「う、うす!」


そう言えば、中学で不良ってほぼ居なかったもんな。それで修二は不良じゃないつもりだし、不良言葉に詳しくなくても可笑しくないか。
一人納得していると、修二にきゅうっと抱え込まれた。
首筋に顔を押し付ける形になって驚いていれば、直ぐ傍で喉仏が動く


「うん。刹那ちゃんは俺のヨメだから、手ェ出したら潰す」


『修二』


「大丈夫、悪い様にはしねぇよ」


難を示した私にだけ聞こえる様に囁いて、修二は目を細めた。
…まぁ、修二が嫌じゃないなら良いか。
動かなくなった私から同意を察したか、腕に力が込められる。


「じゃあ、家入さんは?」


「刹那ちゃんの親友。付き合いてぇなら本人口説けよ」


「お断りしまーす」


「早wwwwwwwwwwwwww」


秒で拒否した硝子に思わず笑ってしまった。
修二に抱え込まれたままで、室内をそれとなく見渡す。
此方を見ている中に、攻撃的な目をしている者は少数。こうやって修二が宣言した事で、被害が来るのは恐らく私だけで済む。
それに安堵していると、修二がそっと囁いてきた


「一人でヤるのはナシな」


『…男が入ると卑怯に思われない?』


「俺の事、ヨメも助けられねェ甲斐性ナシにしてぇワケ?」


その言葉で嵌められた事に気付いた。
皆の前でヨメ宣言した一番の理由はこれか。
てっきり硝子を狙われない様にしたかった私の思惑に乗ってくれたのかと思ったが、そうじゃない。


────コイツ、私に手を出したヤツをシメる大義名分が欲しかったのだ。


溜め息を溢し、細い身体を抱き締める。
満足そうに笑った修二は、頬を私の髪に擦り付けた










初日は大事











刹那→高一になった。
何か落書きされる前にグローブを贈った人。
これから定期的にグローブを贈る事になる。
クラスの平定(女子)をヤル気満々である。

半間→高一になった。
グローブを貰ってハッピー。基本着けてる。
一緒に暮らす事で刹那と自分に起きる変化が嬉しくて、恥ずかしい。
クラスの平定(蹂躙)を行った人。キャットファイトにも介入する気満々である。

家入→高一になった。
半間がグローブを嵌めているのを見て贈り物だと察した。
クラスの平定(女子)をヤル気満々である。



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