もっと最高にしよう
十年前のジムチャレンジ。
参加する条件として、絶対にフィルを一人にしない事を約束させられたオレは律儀にそれを守っていた。
当時、最初のジムはみずタイプで、そんなに相性が悪くなかったフィルは一発で通過。逆にナックラーしか居なかったオレは躓いて。
その間フィルは怒るでもなく、急かすでもなく、一緒にナックラーで勝つ方法を考えてくれた。
その結果オレは途中でゲットしたピカチュウを中心にしてジムを突破したし、フィルはイーブイに進化の石を触らせては首を捻っていた。
二つ目はほのお。当時はでんきタイプで、今度はオレが一発で通過、フィルが足踏みした。…いや、まさかのサンダースでのちくでん地獄を敢行するとは夢にも思わなかったが。
そこまではまぁ、良かった。
だがその後のキャンプで、フィルはカレーを食べずに転がったのである











「フィル、どうした?具合わるい?」


ごろんと転がったフィルは胃の辺りを擦っている。まさか食あたり?
病院の場所をロトムに聞くべきかと視線を泳がせた所で、小さな声がぽつりと落ちた。


『……胃が、あれる………』


「………なんて???」


……胃???胃が荒れんの?
何で?カレーで?
困惑するオレをちらっと見て、俯せになる。隣ではイーブイがごろんごろんと転がっていた。ロコンはトレーナーに構わずカレーを食べている。
なんだろう、初めてのポケモンはトレーナーに似るって言うけど、二匹目のイーブイの方がフィルに性格が似てる


『毎日カレーにフィッシュアンドチップスにパン類って胃が荒れる……味噌をくれ……』


「味噌?……ロトムー、ここら辺で味噌って使ってる店ある?」


「ないロトー。あ、でも近くのディスカウントストアにミソが売ってるらしいロ」


「え、味噌売ってんの?フィル…」


『買いに行ってくる!!!!』


「まてまてまてまて皆フィルを止めろ!せめてカレー片付けさせて!!!」












ロトムの案内で辿り着いたのは初めて来るディスカウントストアだった。
店内の地図を見て、味噌を探す。ポケモン同伴OKの店だったので、ナックラーとイーブイはボールから出したままだった。


「ナナッナー♪」


「ぶぶっい〜♪」


「オマエ達ご機嫌だね」


『みーそっ、みーそっ♪』


「フィルもご機嫌ね……」


カートに乗ったナックラーを連れるオレと、嬉しそうに味噌を籠に入れて喜ぶイーブイとフィル。
味噌だけではなくゴボウも入れているフィルに着いていきながら、そういえば何を作るつもりなのだろうと首を傾げた。


「なぁフィル、何作るの?」


『豚汁!』


「ぶいぶい!」


…ああ、フィルのお母さんが作ってくれるあれか。カントー料理はなんと言うか繊細で、胃が暖まる気がする。


「オレも手伝えるか?」


『勿論。あ、我儘言ってごめんねキバナ。キバナの分大盛りにする』


「おっ、ラッキー。体調管理はトレーナーの基本なんだから、謝らなくて良いよ」


それにオレ、カントー料理好きだし。
にっと笑ったオレを見て、フィルも安心した様に笑った


『ありがとう、キバナ』












最初のキャンプ地点に戻り、早速料理を開始した。
火の周りで踊るポケモン達を見つつ、ニンジンを切る。


「ニンジンと、じゃがいもと、豚肉と、ゴボウと、コンニャク?コンニャクって?」


『このふにゃふにゃのヤツ』


「……黒っぽいゼリーみたいだな」


『食べたら美味しいよ。臭いはちょっと独特だけど』


ピカチュウの電気で点けた火の上にやかんを吊るし、フィルはじゃがいもを切った。


「うわっ、くさ!!」


『ははは、キバナが来てる時にこんにゃく開けた事なかったっけ?お湯かけて臭み抜きするの』


切った素材を鍋に入れて、お湯をかけたコンニャクも入れて、暫し待つ、らしい。
たまに蓋をずらして灰汁を取って。
軈てゴボウの良い匂いが漂ってきて、野生のポケモン達も草むらから顔を覗かせてきた


『もう少しかかるけど、食べたい子達はおいで』


フィルが声をかけると繁みから覗いていたポケモンが此方に近寄ってきた。
皆良い匂いなのか嬉しそうな顔をしている。


『はーい、味噌入れまーす』


「ナナナー!」


「ぶぶぶーい!」


「ぴかちゅう!」


お玉で掬った味噌を溶き、そのあとに擦り下ろしたしょうがを投入。
あー、なんだろ。味噌の匂い嗅ぐとフィルの家を思い出す。リビングから見えるキッチンで、フィルのお母さんが何かを作ってる背中を一緒に眺めるのが好きだった。


『できたよー』


「はーい、ポケモン達には大皿で出す?」


『そうしよ。皆、熱いから気を付けてねー』


フィルからよそって貰った大皿をポケモン達の前に置き、オレ自身はフィルの向かいに座る。
簡易テーブルの前に置かれたご飯パックと豚汁は少ししか経っていないのに懐かしい光景で、自然と笑みが零れた。


『「いただきます」』


早速豚汁を手に取った。黄土色の湯気の立つスープを一口。
口に含んだ瞬間ぶわっと広がるゴボウの味。それから味噌がじんわりと広がって、最後に生姜が爽やかに締めていく。
喉を通る暖かな液体に、ほう、と息が漏れた。


「おいしい……なんかほっとする」


『ふふ、それは良かった』


豚汁を持つフィルが嬉しそうにオレを見ていて、なんだか恥ずかしくなった。
フィルのお母さんの豚汁より生姜が効いていて、身体がぽかぽか暖まる。
ご飯も頬張って、向かいでんーーー!!と嬉しそうな声を上げるフィルを見た。


「フィル、次はご飯も炊こうぜ。やっぱ炊きたてご飯と豚汁が一番だ」


『でもお米って重くない?』


「オレが持つよ。オマエが料理してくれるなら、最高の状態で食べたい」


豚汁は最高なのに、暖めただけのご飯がなんだか物足りない。どうせなら最高に美味しい状態が良い。
きょとんとしたフィルは何度か瞬きをして、それから恥ずかしそうに笑った


『じゃあ、次はご飯も炊こう』


「おう!」











「────キバナさんに質問です。ポケッターで良くその日のお食事を載せてらっしゃいますが、一番お気に入りのご飯はなんですか?」


とあるラジオ番組で届いたリスナーからの質問に、ふと昔の事を思い出した。
ジムチャレンジの途中で起きた味噌騒動。
くすりと笑って、ゆっくりと口を開いた


「そうだなぁ…豚汁、かな」










いつか見たほうき星






1/2
prev  next