狼の牙
・前サイトのシリーズです。
・檜佐木の始解が少々特殊



────“風死”。
漆黒の鎖で繋がれた、一対の鎌。
尸魂界に於いて二刀一対は厳密には有り得ず、風死もまた厳密にはそれと異なる。


風死の本体は鎌ではなく、何処までも伸びる鎖である。











「独月さんが言うには、巨大虚三体それに引き寄せられた虚が相手だっけ?」


独りごち、斬魄刀を抜く。
独月さんに言われたのは突如流魂街に出現した巨大虚の討伐だった。
此処に来たのは俺と独月さんと弓親さん。
二人は此処一帯を鬼道で囲い込み、外で待機している。


「さて、やるか」


────俺が独りで此処に居るという事は、つまり。
此処を破壊しても、文句を言われないという事だ。


目の前にゆらりと現れた異形に口角を吊り上げた


「刈れ────“風死”」


漆黒の霊圧が俺を取り囲み、弾ける。
随分と聞こえの良くなった耳を動かして、隣に黒い旋風と共に現れた黒狼に目を向けた


〈よぉ、相棒。こいつらが獲物かぁ?〉


「そ。遊ぼうぜ!暴れても良いって独月さんから許可貰ってんだ!」


〈そりゃあ良い!姐さんに折られんのはごめんだからなぁ!!!〉


にいっと歯を剥き出した風死が旋風と共に巨大虚に突っ込んだ。
俺もそれに続き、鎌を鋭く振るった。
すぱっと大量に生えた腕の一つが落ちる。
上空の俺に腕が殺到する。
その腕を鎖鎌を振り回す事で膾斬りにし、そのまま突っ込む。


「あはははははははははははは!!」


〈ひゃはははははははははははは!!!〉


血が飛ぶ。肉が飛ぶ。虚が叫ぶ。
霊子を蹴飛ばし弾丸の様に宙を駆け、擦れ違う虚を撫で斬りにする。
彼方では黒狼が哄笑を高らかに上げながら爪を振り上げた巨大虚の腹を食い破っていて、それが面白くてまた笑った。


「うっわドロドロじゃねぇか!!きったね!!!」


〈オメーも人の事言えねぇだろ!!ベチャベチャだ!!〉


「あはっ、怒られっかな」


〈俺は戻れば平気だけどなぁ〉


「うわ卑怯だなお前!!」


〈ひゃはははははははははははは!!!〉










「ねぇ、隊長」


『ん?』


「…どっちが悪者なのか判らなくなりません?」


『あー…』


頬を掻きながら弓親の言葉に頷いた。
僕達の前には今鬼道による大きな結界が張ってあって、その中で現在問題児が盛大に暴れていた。


『結界の基点の位置は伝えてあるよな?あれを壊されたらこんな結界直ぐに壊れるぞ』


「伝えましたけど、覚えてるかは微妙な所ですね。そもそも虚と修兵、どっちを閉じ込めてるんです?」


『修兵に決まってるだろ』


半径四霊厘に渡る結界だ。つまりは現世でいうドッグラン。
そこにうちの狂狗を放しただけのこと。
ぐちゃあ、と結界に叩き付けられた虚の腕に、うわ、と弓親が眉を潜めた。


「戻ってきたら修兵を風呂に放り込まなきゃですね」


『犬か』


「犬でしょ。泥だらけの犬と一緒」


『ふん、まぁ狩りをするだけマシか』












「あはははははははははははは!!」


〈オラオラもっと耐えろよぉ!!!つまんねぇだろぉ!?!?〉


頭上の虚を投げ放った鎖鎌で両断した。
水の入った風船を割った様に、上空から降り注ぐ血を避けるでもなく、ばしゃりと被る。


「次」


狂気すら感じる程の歓喜。
頭頂部から獣のつんと尖った耳を生やし、長い獣の尾を揺らす男は頭から被った血を垂れ流しけらけら笑う。


────恐怖を、覚えた。


それは本来虚にはないとされている、感情。
有り得ざるものの発露に感動する暇など皆無。虚は先ず心のままに、退却を選んだ。


しかし────背を向けた虚の視界がぐるんと回る。


「?……??」


ぐるぐると、まるで丸いものが飛んでいく様な回転をする己に疑問を持ち、そこで。
そこで、気付いた。


────何故、自分の身体が下にあるのだろう。


────何故、首から上がないのだろう。


虚は、今此処で感情を芽生えさせるべきではなかった。
感情がなければ……純粋な獣としての生存本能のままに身を翻すか、闘争本能のままに敵に牙を剥き、一瞬で消滅出来たというのに。


「はい残念。死んでくれ」


にっこりと微笑んだ男が、鎖鎌を振り下ろす。
首のまま投げ上げられていた虚は、絶望と共に消滅した。











「独月さん!終わった!」


「うわ、汚い」


『お帰り修兵。まぁ良く暴れたな』


「あは、楽しかったですよ」


頭からびしゃびしゃな男は僕を見て笑っている。
その表情は何時もより少しはしゃいでいる程度。始解を解いたから、もう何時もの狂気も抑え込まれたのだろう。


『帰るぞ』


「「はい」」








鋸草




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