個性:ポケモントレーナー


・ポケモンが過去に世界に居た設定





この世界は、個性という特殊能力で溢れている。
個性の発露は大体四歳まで。中国で発光する赤子が産まれて以降、様々な個性が絡み合い、深化していった。
今では総人口の八割が、各々個性を持っている世界


「いずく!せつな!はやくこいよ!」


「かっちゃんはやいよ!」


『まってかっくん!』


先頭を走る淡い金髪の男の子。
此方を気にしつつ追い掛ける緑の髪の男の子。
そして、二人を追い掛ける私。


ずっと、このままだと思っていた。
個性が三人共出たとしても、何も変わらない、と。















本の海を歩いて回る。
もう三つは回っているというのに滅多に人と擦れ違わないのは、此処が図鑑コーナーだからだろう。


『これ、は…違うか。これも違う…』


「びぶら?」


『あ、それだ。ありがとうビブラーバ』


「びぃぶら!」


菱形の緑の羽根を動かしながら、彼女はくるりと一回転した。
にこにこした蜻蛉は私に分厚い図鑑を差し出すと、肩にそっと手を乗せた。
席に着き、重厚な表紙を開く。


────ポケモン大全集。


遥か昔に存在していたというモンスターの図鑑だ。
見た目は勿論、特性と呼ばれる固有の能力からポケモンが使う技まで事細かに記されている。
ぺらぺらと捲っていれば、とあるページでビブラーバがぎゅっと目を瞑った


「び!」


『ふふ、氷タイプは嫌い?』


「びぃ!びぃび!!」


『四倍弱点だもんねぇ』


ポケモンにはタイプと呼ばれる分類が存在する。複合タイプでも、掛け合わせによってはどちらのタイプでも弱点となるタイプもあるので、奧が深い。
そしてこの子は地面・ドラゴンタイプなので、氷タイプは四倍弱点。苦手レベルではなく天敵だった。
フリーザーのページを通過して、ぺらぺらと捲っていく。
何気なく開いたページには見慣れたポケモンが載っていて、思わず笑った。


『マグマラシって、背中を此方に向けたら攻撃の合図なんだって』


「びぃ」


『毛は燃えないんだってさ』


「ぶぅ」


『リオルって進化したらルカリオになるんだって。へぇ、鋼付くんだ』


「らー?」


見慣れたポケモン達を見て、それから他のポケモン達の情報を頭に詰め込んでいく。
これは決して過去の生物への興味というだけでなく、その知識が私にとって必要だからだ


私の個性はポケモントレーナー。
人に触れる事で、その人からポケモンを出現させる。


この個性に気付いたのは、幼馴染と三人で遊んでいた時の事。
私の掌から突然、赤と白の小さなボールが出てきたのだ。
付いていたボタンを押すとボールは大きくなった。
その中から飛び出したのは、オレンジでコロッとした体型の、謎の生き物


「なっくらー!」


「すっげぇ!もしかしてポケモンか!?」


「ポケモン?」


『かっくん、ポケモンって?』


「おまえらしらねーの!?ずーっとむかしいきてたモンスターだ!」


その時から博識だったかっくん────爆豪勝己がナックラーを見て大興奮。そのテンションのまま私といっくん────緑谷出久、それからナックラーを連れて爆豪家に向かい、絵本を見せてくれたのだ。
同時に他人に触れる事でポケモンを出現させられる事に気付き、二人のテンションは爆上がりした。


「なー?」


『あれ、ナックラーに戻ったの?』


「なっく!」


私の呼び出したポケモンは進化段階を戻せる。なので進化して身体が大きい子も、進化前に戻れば問題なくなる事も多い。
初めて出会った時と同じ姿になったナックラーは、テーブルに座って図鑑を眺め始めた。


私の個性は細かく説明すると、脳内にポケモン図鑑みたいなものがあって、そこに出現させたポケモンを登録していくイメージ。
ただそれはポケモンに出会わなければ真っ白なまま。今だって穴だらけだ。
だからこそ、どういうポケモンが居るのかという情報をしっかり蓄えておくべきだと考えて、週一回図鑑の日を設けている。


一見遥か昔の強いモンスターを喚べるチートだと思われがちだが、そんな事は全然ない。


図鑑に登録したポケモンを出せるとはいえ、連れていけるのは六匹までだし、戦闘は今のところダブルバトルが限界だ。
もしかしたら三匹同時とかもいけるかもしれないけど、頭がこんがらがる。
因みに初めての人から呼び出すとなると、どんなポケモンが出てくるか判らない。
おまけに呼び出したばかりのポケモンはレベル1である。5もないのだ。
レベル1だと転けただけで瀕死である。ポケモンのHPは私に反映されるので、レベルアップなしじゃ危なくて使えない。
つまり、初見の相手からポケモンを出現させてどーん!は無理。出現三秒で瀕死はポケモンが可哀想。ついでに私も死ぬ


『フライゴンかぁ。いつ進化出来るかなぁ』


「なー」


『楽しみだね、ナックラー』


「なー!」


緑の龍を撫でて、私は笑った














図書館を出て、家に向かう。
ビブラーバに進化した相棒は私の傍で飛んでいて、時折擽る様に長い尻尾が頬を撫でた


『今日のご飯は何だろうね』


「びぶらぁ?」


『ご飯楽しみ?』


「びぃぶら!」


『ふふ、そっか』


ニコニコしながら飛ぶビブラーバが可愛い。
顎の下を指先で擽って笑っていると、不意にざわめいた声が耳に飛び込んできた。


「中学生が敵に捕まってるらしいよ」


「なに?ヒーロー棒立ちじゃん」


声の方に顔を向けると、商店街のアーケードの奧から黒煙が立ち上っているのが見えた。
同時に、聞き慣れた爆発音が聞こえた気がして、ひゅっと息を呑む


『び、ビブラーバ』


「びび?」


『その、捕まってる中学生って、まさか────』


「────こんのおおおおおおおおおお!!!!!!」


聞き慣れた怒鳴り声と、爆発音。
それを認識した瞬間、私は駆け出していた


「おい!危ないぞ!!!」


「子供達があっちに!」


野次馬の隙間を縫って、規制線の前に出る。
視界一面に広がるのは、あちこちに広まる火の手と巨大なヘドロ。


そしてその中で懸命に藻搔く、幼馴染。


右の手首を叩く。
そこに刺青の様に刻まれた赤と白の円が、手首から実体を伴って放出された。
一度ボタンを押し、モンスターボールのロックを外す。
ビブラーバは既に、何時でも飛び出せる様に構えている。


『ビブラーバ、エアスラッシュ!』


「びぃぶら!!」


小さな翼から風の刃が生み出される。
鋭利な風が当たった部分のみだが、敵が弾け飛んだ。
少しだけヘドロが剥げた勝己が、私を見て目を丸くする


「刹那!」


『かっくん!口閉じてて!!』


口から体内に侵入なんかされたら大変だ。
ビブラーバが牽制している内に、手にしたボールを投げた。
若草色の髪を揺らし、ゆるりと微笑んだ彼女は私の前に立つ


「邪魔を、するなぁ!!!!」


『キルリア、守る!』


「きるっ!」


ヘドロの腕が、思い切り此方に叩き付けられた。
その一撃はキルリアに当たる前に押し留められ、その隙に私は勝己に駆け寄り腕を取った。ヘドロの目がぎょろりと此方を睨め付ける。
敵から浴びせられる明確な殺意に、背筋を冷たいものが滑り落ちた。
それでも、強く学ランを掴み直す


「あと少しなんだ…邪魔を、するなああああああ!!!!」


『ビブラーバ、龍の息吹!』


「びぶらぁ!!」


青みを帯びた息吹がヘドロを襲う。これで麻痺でも入ればラッキーだが、確率技ではそう上手くはいかないらしい。
ヘドロの腕が持ち上がる。それを見咎めた紅い目が、焦燥を湛え真っ直ぐに私を捉えた


「逃げろ!!刹那!!!」


「死ねクソガキ!!」


濁った色の腕が此方に向けられる。
こうなったら、ギリギリまで引き付けてキルリアに攻撃してもらうしかない。
敵はベトベトンに似ているし、毒タイプと仮定して良い筈だ。
フェアリーを持つキルリアには天敵だが、殺られる前に殺れば問題ない筈。


「刹那!!!!」


「死ねぇ!!!!」


ぐっと足に力を込める。
大きな腕が振り下ろされる、寸前。


「────あああああああ!!!!!」


聞き慣れた声の叫びと共に、鞄がヘドロの目玉目掛けて投げ付けられた。
驚いたものの、直ぐに意識を切り替えた。
敵が怯んだ隙に、すかさずキルリアを見る


『サイコウェーブ!』


「きるっ!!」


「ぐう…っ!!!」


紫の念波を至近距離でヘドロに叩き付ける。
エスパーがやはり弱点なのか、濁った色はビブラーバの攻撃よりも大きく後退した。
隣からも学ランに包まれた腕が伸びてきて、私と共に勝己を引っ張っている。
そんな彼を見て、切れ長の目が丸くなった


「かっちゃん!!」


「刹那!……デク!何で!てめェが!!」


「足が勝手に!何でって…判んないけど……!!」


腕の主────出久は、涙を流しながら、笑った


「君が、救けを求める顔してた」


「もう少しなんだから邪魔するなぁ!!」


怒号と共に振るわれた、左腕の横薙ぎ。
狙いは────私だ。


「せっちゃん!!」


「逃げろ!刹那!!」


『ビブラーバ!』


「びぶらっ!!!」


ビブラーバが翼を鈍色に光らせた。
鋼の翼で迎え撃とうと相棒が低く構えた、その時


突如、背後から大きな手が伸びてきて、三人纏めて腕を掴まれた。


空気が変わる。


さっきまで悲鳴が上がっていた群衆から、ちらほらと歓声が上がり始めた。
動きを止めたヘドロがありありと、恐怖をその目に滲ませたのが見えた


「君を諭しておいて…己が実践しないなんて!!!」


それは昨日もテレビで聞いた声だった。
ゆっくりと背後を見上げる。
何時も画面の中で誰かを救う手が、今確かに私達を掴んでいた


「プロは何時だって命懸け!!!!」


…よかった、たすかったんだ。
知らず、息を吐く。
高く振り上げられた右腕が、ヘドロに叩き付けられた


「DETROIT────SMASH!!!!」
















あのあと無事家に帰ると、お母さんと弟に飛び付かれた。
どうやら全国中継されていたらしく、捕まった勝己のみならず私と出久までバッチリとの事。
テレビは私達のニュースで持ちきりで、それを目にした火山ポケモンは面白くなさそうに鼻を鳴らした。


「グルル…」


『ごめんねマグマラシ。商店街だったし、着いた時には勝己が色々燃やしちゃってたから…』


「グル…」


部屋の隅で、むすっとした顔でそっぽを向いてしまうマグマラシに苦笑いが零れた。
マグマラシはベースの人物に似て、戦うのが好きだ。故に今回彼を出さなかった事が不満だったんだろう。


「わう?」


「ガウッ!!」


「わうぅ…」


可哀想に、リオルは怒られてしまった様だ。
しょぼんとして戻ってきた彼を迎え、頭を撫でてやる。
それを見てイラッとした顔をしているマグマラシが勝己に似ていて、思わず笑ってしまった。


『ほんと関係性までそっくりだね、あんた達』


家では基本六匹を出している。
メンバーは基本的に父、母、弟からの三匹と、私と勝己と出久からの三匹だ。


そしてポケモン達の関係性は、ベースの人物達と何となく似ている。


勝己のマグマラシと出久のリオルは一緒に居ると火事になりそうだし、お父さんのアマルスとお母さんのキルリアは仲良しだ。
そして、彼女はとても面倒見が良い


「きるっ、きるる?」


「わう?」


「きるる、きる!」


「わうっ!!」


しょんぼりしたリオルに、部屋にやって来たキルリアが声を掛けた。
するとリオルが表情を明るくして此方を見た。多分、おやつにでも誘われたんだろう。
優しく頭を撫でて、そっと背中を押してあげた


『行っておいで。キルリア、宜しくね』


「きる!」


「わんっ!」


部屋を出る直前に、キルリアがちらりと此方を見た。大きな目が次いで不貞腐れる紺色に向けられて、思わず苦笑いが零れた。


うん、大丈夫。
あの子の機嫌取りはちゃんとするよ。


頷いた私に満足したのか、キルリアはリオルの手を引いて部屋を出ていった。
私の部屋に居るのは私とマグマラシのみ。
他の子達は、皆一階のリビングでおやつを食べているんだろう。
いやビブラーバは私がベースなんだから残れよとは思ったものの、逆に私だからこそ逃げたなと納得した。私、逃げられる厄介事なら回避したいタイプだし。
薄情な相棒に溜め息を溢しつつ、腕を広げてみる


『マグマラシ』


「グルル…」


炎を出す程じゃないけれど、怒っている様だ。
低く唸る彼を見つめたまま、ゆっくりと立ち上がった。
目の前に腰を降ろし、もう一度腕を広げてみる


『ごめんねマグマラシ。次からは頼る様にする』


「……グル」


『…え?ちょっと待って?マグマラシ、何で泣いて…』


真っ赤な瞳がうるうると揺らいでいるのを見て、ぎょっとした。
ほろり、と零れた雫をそっと拭ってやると、きゅっと優しく抱き締められた。
そのまま首筋にすりすりしてくる紺色の背中を擦っていれば、がらりと窓が開く音がした。
隣接した家から窓を越えてやって来た勝己は、私達を見て目を丸くした


「………何しとんだ、ソイツ」


『あ、勝己』


ぐすぐすと泣いているマグマラシは、勝己の方を見もしない。
寧ろしがみつく力が増したので背を擦っていれば、隣に腰を降ろした勝己が大きな溜め息を溢した


「…今日」


『ん?』


「何で来た」


その問いに一度口を閉ざし、視線を彷徨わせた。
白い天井を視界に映しながら、ゆっくりと口を開く


『…勝己の声が聞こえて、怖くなって、走ってた』


「…怖くなって、だぁ?」


『勝己が強いとか弱いとか、そういうのじゃなくてさ。私が怖かったんだよ。
怖いヤツにくっつかれてたから、どうにか勝己からアイツを剥がしたかった。そんだけ』


そう、詰まる所自分の為でしかないのだ。
勝己に纏わり付くあのヘドロが気持ち悪くて、怖くて。
それを排除したかった。ただ、それだけだった。
紅い目は暫し此方をじっと見つめ、それから正面に戻された


「……デクみてぇに、俺が救けを求めてたなんて抜かしやがったら燃やすトコだったわ」


『私には救けなんて求めないでしょ』


「一億歩譲ってデクよかマシだわ」


『消去法なのウケる』


くすくすと笑いつつ、泣き止んだらしいマグマラシの背をゆっくり撫でる。
そういえば、この子はなんで泣いたんだろうか。
ぼんやりと考えていると、ぽすん、と肩に頭が乗っかってきた。


「…俺ァもう、あんな無様は晒さねぇ」


『うん』


「そもそも俺自身に爆破を向けりゃあきっと剥ぎ取れてた」


『うん』


小さな声に相槌を打つ。
だって今の勝己は、私の言葉なんか求めてはいないから。
心の内を吐き出して、心境を整理する。
昔から、辛い事があると行われる勝己の落ち着き方だった


「焦ったンだ。相手に巻き付かれて、息が出来なくなって…怖くて。冷静に動けんかった」


『うん』


「…次はねぇ。俺ァもう、負けねぇ」


『うん。…信じてるよ、勝己』


淡い金色の髪に一度だけ指を通す。
すっと重みが引いて、隣に座り直した。メンタル持ち直し会はもうおしまいらしい。


「おい、明日からトレーニング増やすぞ」


『良いけど…あ。勝己にタウリンとか使えるか試して良い?』


「いやちょっと待てや。
それポケモンの基礎ポイント上げるヤツだろ。人間には…」


『マグマラシ』


「ガウッ!」


「てんめェ俺から生まれとる癖に俺を裏切ってンじゃねー!!!!」


しっかりと勝己を羽交い締めにしたマグマラシ。
それを見て、私はアイテムを取り出した


『大丈夫だって。効き目ヤバくても暴れとけば抜けるでしょ。
アイテムだって、強くなるなら打ってつけじゃない?』


「オイふざけんなポケモンと人間じゃ大体基本構造が違……んぐぇ!!!!」


大口を開けるのは、勝己の悪い癖だと思う









不思議なモンスター











刹那→個性はポケモントレーナー。
触れた相手からその個性に似たポケモンを出現させる。
爆豪への信頼が斜め上。根拠も理由も言わないので、アイテム関連ではしょっちゅう怒られる。
パートナーはビブラーバ。

爆豪→個性は爆破。
刹那に振り回される事が多い。
これから幼馴染に魔改造される未来が待っている。
出現したポケモンはヒノアラシ。

緑谷→今は無個性。
個性を受け継ぐと進化するので、直ぐに何かあった事がバレる。
出現したポケモンはリオル。

ビブラーバ→穏やかな性格。
マグマラシ関連では割とパートナーを見捨てる。

マグマラシ→意地っ張りな性格。
夜な夜なモンスターボールを壊そうとしている。

リオル→控えめな性格。
マグマラシに良く威嚇される。

キルリア→おっとりした性格。
皆に優しいお母さん。



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