ゴミ箱から闇鍋へ(ゴミ箱からMHAに転生)
・刹那に呪術長篇の記憶がある
「刹那!!!!!!」
命と引き換えに放った絶対零度の一撃。
十年という月日を掛けて溜めた呪力だったのだが────親友の身体を奪った忌々しい輩を道連れにするには少し、足りなかったらしい。
「犬死だね。
十年も無駄な足掻き、御苦労様」
「刹那!逃げろ!!なぁまだ動けんだろ!?逃げろって、なぁ!!!」
額に縫い目が刻まれてしまった親友は蔑む様に笑って、特級呪物で身動きを封じられた親友は、大声で私に撤退を叫んでいた。
ばきり。
自らの術式で氷と化した右腕が落ちる。
それでも、残る左手で傑の偽者の腕を掴んだ。
瞬く間に凍り付いていく右腕に、男が舌を打つ。
ばきり。
腰から下が、氷に変わった
「しつこい女は嫌われるよ!」
『大丈夫!私もお前は嫌いだから!!』
そもそも私が取り戻したいのは傑の身体であって、脳味噌は要らん。
己に縛りを課して、あれから十年。
縛り続けた感情の起伏は解き放たれ、私は心のままに────きっと酷く醜い笑みを浮かべている。
制御もままならず垂れ流しとなる呪力は、周囲は勿論私の自壊を引き起こしていた。
見慣れた大きな手が、首まで凍り付いた私に伸ばされるのを、もう躱せやしない
『約束したろ、傑!!』
────ねぇ、刹那。
悟が私を殺せなさそうだったら、その時は
『一緒に死のうぜ!!!!!』
────ああ、そうだね。
君となら、一緒に死ぬのも悪くない。
困った様な、でも何処か嬉しそうな。
そんな傑の笑みが、脳裏を過って。
ばきり。
ぐるんと回る視界の中で、限界まで見開かれた蒼を見た。
『う?』
ぱちくり。
まさしくそんな感じで、私は覚醒した。
あれ、なんで?
私は傑の偽者に首を折られた筈じゃ…
目に映ったのは知らない天井。
ただ頭上では、星やハートをあしらったベッドメリーが揺れていた。
どうやら子供の居る家らしい。
もしかして、あの状態で生き残れたんだろうか。
だとすればどんな方法で?
絶対零度は自爆技だ。自らの肉体全てを氷にする事で、触れた相手を道連れにする。
故に絶対零度を使った私が生きているとなると、死ぬ前に術式を解除するしかない。
ただあの時は既に首まで凍っていたし、道連れにするつもりしかなかったから、縛りを破棄してずっと溜め込んでいた呪力も使っていた。
そもそも首を折られたんだから、生き返るのは普通に無理では…?
取り敢えず現状把握をしようと、身を起こそうとして────
『………う?』
ぱた、と視界の端で動いたぷくぷくしたものに固まった。
コッペパンをくっつけたみたいな、白くむちっとしたもの。
それは私が動かそうと思った方向に動く。
『?…??…???』
恐る恐る、手をゆっくりと開く。
私の意思に従って、それもゆっくりと開いた。
コッペパンの先に付いた、小さなもみじ。
首を動かせばアイボリーの棒が四角く私を囲っているのが見えた。
寝かされているのはベッド。頭上には可愛らしいベッドメリー。
そこで漸く、私は有り得ない事態を認識したのだ
この家の赤ちゃん、私なのでは???
結論:私は赤ちゃんだった。
小さなおててに喃語しか出せない口。
おまけに寝返りも難しい身体。
これで赤ちゃんじゃなければ逆に困る。
現状此方が理解している事は少ない。
先ず、今生の私の名前は白露刹那であるという事。
住んでいるのは一軒家。他に兄弟はナシ。
そして何よりこの世界には────個性という特殊な力と、ヒーローという偶像が当たり前に存在している
「刹那、ミルク飲みましょうねー」
『うー…』
笑顔のお母さんに差し出された哺乳瓶を咥える。
最初こそ羞恥心で死にそうだったが、三ヶ月も経った今は平気である。オムツやお風呂もへっちゃら。
言ってしまえば八割は私の思考だけれど、ふとした時にお腹空いたとか、眩しいとか、そういう短絡的な思考に埋め尽くされる時がある。
オムツやミルクは正しくその時間に値するので、今のところは助かっているけれど。
もしかしたら、二十八歳の私の意識もいずれ肉体に引っ張られて消えるのかも知れない。
まぁ、それはそれで自然の摂理であるので、全然良いのだが。
前世の記憶を持っているのも子供の頃が多いと聞く。
今生の私に今の私が溶け込んで消えるのは、当然とも思えた
「うーあ?うぅー!」
『う?』
ある日、我が家にお客様がやって来た。
淡い金髪の女性と、その腕に抱えられた同じ髪色の赤ちゃん。
どうやらお母さんと友人関係にあるらしい彼女は、赤ちゃんを私の隣に寝かせた。
「初めまして刹那ちゃん。私は爆豪光己、この子は息子の勝己っていうの」
『うー?』
「うぅー!うーう!」
「あら、勝己ったら刹那ちゃんと仲良くなりたいのね」
「勝己くん、光己ちゃんにそっくりねー」
「そうなのよ!旦那の要素何処行ったんだか。性格に出れば良いんだけど。
刹那ちゃんは旦那さん似なのね」
「そうなの、私の要素どっか行っちゃって!」
淡い金髪に真っ赤な瞳。
勝己というらしい彼は、じいっと私を見つめながら指を握ってきた。
彼はお母さん似の様だ。そして私はお父さんに良く似ている。
家族という関係性に、ふと彼方へ投げていた疑問が顔を出す。
…そういえば、この家族は私を売ったあの家族なんだろうか。
私を桜花に売って五億を手に入れ、小さな子供と赤ちゃんを抱えて幸せそうに歩いていたあの家族。
顔はマジックで塗り潰した様になってしまって、思い出せないけれど。
…もしそうならば、私はまた、売られるんだろうか。
彼方では五歳くらいだったけど、此処では個性────術式に似た能力が、四歳までには発現する。
…ならば、今度は四歳で売られてしまうのだろうか。
この世界にも桜花があったら嫌だなぁ。そういえば此方って、ヒーローは良く聞くけど、呪術師は居るんだろうか。
悟は。
傑は。
硝子は。
……私は、独りぼっちなんだろうか。
「あー!!!」
『っ!?』
不意に大きな声が直ぐ傍から上がって、思わずびくっとしてしまった。
もしかして、ぐずってしまったのか。
隣に目を向けると、真っ赤な瞳がじいっと私を見つめていた。
零れそうな紅は涙で潤んでいる訳でもなく、小さな手で私の手をぎゅっぎゅと握ってくる。
『…???』
「うーぅ!あー!」
「あらあら、ウチのが困らせちゃってるね」
「元気ねぇ勝己くん。ウチの子ったら全然声出してくれないから心配になるのよ…」
「何それ羨ましい。勝己なんか基本騒いでるわよ?」
「いや刹那ったらぼんやりベッドメリー見つめてたりするのよ…あんまりにもぼーっとしてるからちょっと心配で…」
「勝己なんか寝てる時以外は基本もぞもぞしてんのよ?ぬいぐるみ投げてベッドメリーにぶつけるし」
「あら元気ねぇ」
「産まれたばっかであんなに暴れん坊って、将来どうなるんだか…」
ぬいぐるみぶつけるの?あの高さに?こんな小さい手で?いや凄いな?
私より高い体温の存在に寄り添われ、手を包まれていると、だんだん眠くなってくる。
目を閉じる寸前、にこにこした赤ちゃんが見えた。
あれから爆豪さん親子と交流を重ねる事が増えた。家に二人が来る事もあれば、此方から爆豪さん宅に出向く事もある。
というのも爆豪さん、お隣さんなのだ。
お家が真横。家の距離がめちゃくちゃ近いので、窓から移動とか出来そう。
防犯面とかプライバシーとか大丈夫か?
「あそぼ!」
『いいよ』
にこにこした勝己が大変かわいい。
光己さん曰く暴れん坊らしいのだが、今のところそんな面は見た事がない。
ただちょっとやんちゃかな?とは思うけれど。
「おーるまいとかっけー!!」
『そうだね』
勝己はどうやらこの金髪のマッチョが好きらしい。
ぴょこんとクワガタのハサミの様な触角を生やした男は、妙に濃い顔でアメリカンに笑いながら敵を拳で仕留めるのだ。その姿は勝己のみならず、世界中の子供に人気なんだとか。
というかこれ、お昼のニュースだよね?良いの?こんな暴力的なシーン流しちゃって。
だってこれって、前世だったら警官が殴って犯人捕まえてるって感じじゃないの?いいの?大分物理に訴えてるけど。
首を傾げるも、お母さんも光己さんも当然といった顔でニュースを見ていた。
テレビに映る濃いめのマッチョを見て、目をキラキラさせている勝己を見る。
…まぁ、隠す事なく術式を使える世界って考えればいっか。
でもそれって、傑の目指していた世界みたいだ。
呪術師しか居ない世界。特殊な力を持つものが排除されるんじゃなく、力のないものが排除された世界。
…傑も此方に来てたらなぁ。
そう考えた瞬間、ぎゅむっと細い腕に絡み付かれた。
『んむ』
唐突にぎゅうっとされて其方に目を向けると、勝己が眉間に皺を寄せて私を見下ろしていた。
…あれ、さっきまでご機嫌だったのにな。
すぐ目の前にある紅い瞳をじっと見つめる。吊り気味の紅玉は私の目をじいっと覗き込むと、にっと笑った
「せつな、おーるまいとみようぜ!」
『?…うん』
ぱっと離したかと思えば、勝己はまたテレビに顔を戻してしまった。
なんだ今の。子供特有の気まぐれだろうか。
困惑しつつ、私もテレビに向き直った。
月日の流れは早い。
私達はあっという間に三歳になった。
…そう、私の第一次売られるイベントの発生である。
三歳の誕生日は両親と、爆豪さん親子が祝ってくれた。勝己の父、勝さんは穏やかな人で、勝己には恐らく性格のみが引き継がれているのではないかと思う。彼の見た目はまんま光己さんなので。
そして三歳になった事で、私達は幼稚園に通う事になった。
「せつなちゃん、あそぼー!!」
『いいよー』
前世では幼稚園なんて通っていなかったので初体験な訳だが、幼稚園児というのもなかなか忙しい。
先ずもって子供特有の甲高い声はうるさいし、おままごとの設定がくるんくるん変わったりする。そして遊んでいた筈の子が、次の瞬間には別の子と他の遊びを始める。
行事ごとに絵を描くのは面倒だし、歌の時間も何やってんだろうな私と思う事が増えた。
そもそもあれだ、殺伐とした世界を生きてきたアラサー呪術師を三歳にするからいけない。
ぶっちゃけ感情を縛ってしまった分、十九歳で精神が止まっていた気もするが、それでも幼稚園児はしんどいのである。トイトレも嫌。
「ちえがゆうきくんのおくさんでー、ゆうきくんがだんなさんでー」
『うん』
「せつなちゃんはゆうきくんのうわきあいてねー!」
『うわぁ』
おい三歳児、何を家で見ている???
「ゆうきくんはヒーローじむしょのしゃちょーでぇ」
若干引いている私を他所に、ちえちゃんはおままごとを続けていた。
因みに旦那さんことゆうきくんは隣でブロック遊びをしているだけなのだが、何故か家族に組み込まれている。
「ちえがとなりのヒーローじむしょのしゃちょー!」
『うん』
「それでね、せつなちゃんはゆうきくんのしんじんサイドキック!」
職場の上司と部下…不倫の定番パターンだな。
そういう経緯で発生した呪霊って結構多いし。
玩具のコーヒーカップを小さなテーブルに並べながら、楽しそうに彼女は続ける
「ゆうきくんとせつなちゃんがふりんしててー!でもね、せつなちゃんもだんなさんいるの!」
『どろぬまじゃん』
「それでね!じつはゆうきくんとせつなちゃんはきょうだいだったの!!!」
『しゅらのせかいじゃん』
「でねでね!すきだったけどわかれちゃったせつなちゃんのもとカレがでてくるの!!!」
『ましょうのおんなじゃん』
なんだそのヤベェ女。
というか自分の設定盛れよ。私の設定ぐちゃぐちゃにするなよ。
前世なら滅多刺しにされるレベルで業が深いわ。
「ここちえとゆうきくんのおうちね!せつなちゃんは、ちえとゆうきくんのおうちきたの!」
いや家に乗り込む不倫相手とか強いな?
奥さんしか居ないの判ってて乗り込んだ設定?凄いな?
というかマジで何を見たらこんな泥沼おままごと始めるの???
スペースキャットが脳内に降臨した私を他所に、設定に入り込んでしまったちえちゃんがテーブルを叩いた
「ゆうきくんとりこんして!!!」
『いやそれわたしがいうべきでは?』
「なにー?よんだー?」
カオスである。
ゆうきくんは都合上名前だけを借りた設定であるというのに、本人がちえちゃんの声に反応して寄ってきてしまった。
とてとてと近付いてきたゆうきくんを指差して、ちえちゃんはヒステリックに叫ぶ
「みたのよ!あなたとせつなちゃんがごはんたべてるところ!」
「きょうのカレーおいしかったね!あしたはなにかなぁ?」
「あしたもあうつもりなのね、このドロボーねこ!!!」
『まってwwwwwwwwナチュラルにまざらないでwwwww』
今日の給食が綺麗にマッチしてしまった。
おまけに私とゆうきくんは机を並べた時に隣だったので、そこもまた彼女のおままごとに当て嵌まっている。
堪らず噴き出してしまった私をびしっと指差して、ちえちゃんは言うのだ
「ふりんのしょーこはあがってるのよ!いしゃりょーをせーきゅーするわ!!!」
「ねぇねぇせつなちゃん、うさぎおれる?」
「ゆうきくんともりこんよ!!いしゃりょーふんだくってやる!!!」
「あ、ちえちゃんうさぎおれる?」
『めちゃくちゃwwwwwww』
慰謝料を踏んだくって離婚するらしいちえちゃんと、そんな事より折り紙をしたいらしいゆうきくん。不倫相手の私。
あんまりな内容に笑っていれば、さっきまで居なかった筈の声が割り込んできた
「オイせつな、あそびいくぞ!」
『かつき』
因みに拒否権はない。
部屋に入るなり私を抱え上げた勝己に、ちえちゃんが目を見開いてこう言った
「もとカレ…!!!」
『もうだめだwwwwwwwwwwwww』
後から知ったのだが、ちえちゃんの個性は台本だった。
それにしたってド修羅場な内容である。
歳を重ねる毎に活発になっていく勝己に連れられ、私も外に出る事が増えた。
そこで出会ったのが緑谷出久。控えめでオドオドしているけれど、優しい男の子である。
「オールマイトだ!かっこいいなぁ…!」
「オイせつな、オマエもこい!オールマイトかっけぇぞ!!!」
『はーい』
勝己に出久を紹介され、私達は三人で遊ぶ事が増えた。
今日も公園で元気にヒーローごっこをこなし、さぁ帰ろうという時に、家電量販店のテレビに映る金髪マッチョを出久が発見してしまったのである。
〈────DETROIT SMASH!!!〉
「カッケー!!!!」
「わああああああ!!!やっぱりすごいやオールマイト!!!」
タツノオトシゴみたいな口をした敵を、オールマイトがぶん殴った。
それを見て歓声を上げる子供の姿を見ていると、やっぱりこの世界は私の居た場所とは違うのだと痛感する。
私の親友達。
誰よりも自由な様でいて、その実誰よりも不自由だった男。
一歩引いた関わり方をするけれど、本当は優しくて、四人で居ると年相応の笑顔を見せてくれた彼女。
真面目過ぎた故に、優し過ぎた故に、脚を止められなかった彼。
此処なら、悟はヒーローとして自由になれただろうか。
硝子はあの術式だから医療の要になりそうだけど、彼方よりはきっと楽出来る筈だ。だって此方は個性の数が多いし。
そして、傑は。
……傑は、この世界なら上手く笑えたんだろうか。
「────せつな」
名を呼ばれ、はっと顔を上げた。
紅い瞳が真っ直ぐに此方を見つめている。じいっと覗き込んできたかと思えば、そっと手を握られた。
そのままテレビに目を戻した勝己を見て、同じ様に前を向く。
……そういえば、悟達の事を考えていると必ず勝己に目を覗き込まれている気がする
────POM!
「みたかせつな!おれのこせい!!」
『て、いたくない?だいじょうぶ?』
「ちげー!!!すげーだろって!!」
『ああ、うん。かっこいいね』
「へへっ」
幼稚園で二人で遊んでいた時、突然勝己の掌から火花が出た。
驚き掌を確認する私を他所に、誇らしげな勝己。小さな手は少しだけ赤くなっているが、裂けたり焼けたりはしていない様だ。
それにしてもとんでもなく危険な個性が出たな。これは早急に扱い方を覚えなきゃ、危ないぞ。
危惧する私を他所に、此方に近付いてきた先生は笑顔を浮かべた
「勝己くんの個性はヒーロー向きね!」
……思えば、これが始まりだったのかもしれない。
勝己の個性が判明した数日後、私も個性が発現した。
私の体温を乗せた呪力を潜り込ませ、水と炎を操るもの。
────温度使役術式。
随分と懐かしいそれは個性というか、完璧に術式だった。
術式を使った事で気付いたのだが、私には呪力がある。
個性なんてものがあるから、この世界に呪力はないのだろうと思っていたけれど、そんな事はない。
なんなら私には足の小指に関節が二つあった。つまり無個性だ。
まさか自分が総人口二割の確率に当たってしまうとは思わなかったけれど、術式を個性として扱えば問題はないだろう。
初めて使ったのは勝己の前。手を叩いて喜んでくれた。
その次は出久に見せた。彼は随分興奮した目で動く水を見ていた。
「なぁせつな、なんでおじさんとおばさんにこせいみせねーの?」
「エッ、せっちゃんまだおじさんとおばさんにみせてないの!?」
『うん…』
三人で公園で遊んでいると、勝己に尋ねられた。驚いた顔の出久はまだ個性は出ていない。
勝己の個性は強いし、出久も個性が出る日を心待ちにしている。
だからこそ、両親に言えていない私の事が理解出来ないのだろう。
ジャングルジムのてっぺんに登った勝己の傍に、水の階段を上って近付く。
はしゃぐ出久が階段を上がってくるのを見下ろしながら、じいっと此方を見つめる勝己だけに聞こえる様、呟いた
『………こせいでこどもをかいとるところって、あるとおもう?』
「は?」
『…つよいこせいとか、かわったこせいのこどもをかうってこと』
それは私を買った桜花の様に。
私を五億で売った、あの世界の家族の様に。
それに総人口の八割が何らかの能力を持つ世界だ、もしかしたら誘拐なんて方法も横行しているかもしれない。
そう考えると、両親に私の術式の事を話すのは、怖い。
私が桜花に売られたのは五歳の頃だ。
あの世界での家族の顔は思い出せないけれど、もし両親は彼方と同じ存在で、此方でも売られてしまったら?
仲良くなった勝己や出久と引き離されて、桜花での暮らしをもう一度する事になったら?
そもそも買い取る家が、敵じゃないとは言えない。
彼方では呪術師という貴重な存在を育てる免罪符があったが、此処ではきっと、そんな行為に及ぶなら敵の可能性が高い。
そう考えると、どんどん怖くなった。
どんどん、話せなくなっていった。
一度あの経験をしている私は、二人からの愛を知ってしまった私は。
個性を聞いた親が血が繋がるだけの他人と成り果てるのが、怖いのだ
ぽん、と頭に掌が乗る。
ゆっくりと顔を上げると、紅い瞳がじいっと此方を見つめていた
「…こせいがねらわれたこどもっつーのは、おれもニュースでみた」
『……うん』
「でも、そういうのっておじさんとおばさんにもいっとかねーと、ぎゃくにじけんがおきるんじゃねぇの?」
『え?』
「だっておまえのこせい、おれといずくしかしらねーじゃん。
このじょうたいでおまえがゆーかいされたら、おじさんとおばさんなんもできねぇぞ?
だって、おじさんとおばさんからしたら、“ムコセー”のおまえがさらわれたんだから」
『……確かに』
仮に私が誘拐されたとして。そしてそれが、巷を賑わす良い個性を持つ子供を狙う誘拐犯の仕業だったとして。
私に個性…術式があると知らない両親は、誘拐は別の犯人だと考えてしまうだろう。
何故なら個性を狙った犯罪の場合、大抵その子の個性が近所で有名になっていたりする。そういう情報を集め、実際目で見て誘拐犯はターゲットを決めるのだ
でもこのまま私が術式を隠した場合、両親は別件の誘拐だと考える。
そうなれば初動は遅れ、敵に洗脳系の個性持ちなんかが居ればジ・エンド。私は見事に敵の兵器となるだろう。
沈黙した私の頬をむにむにしながら、勝己が吊り気味の目を細めた
「おじさんとおばさん、おまえのこときらいなんか?」
『……すき、だとおもう』
「やべぇしゃっきんとかしてそうなんか?」
『…してない、とおもう』
お父さんもお母さんも、私を愛してくれていると思う。お金にも困っていない様に見える。
でも、術式を見て急に目の色を変えないか。
五億なんてちらつかせたら、どうせまた私を売るんじゃないか。
…その不安が、消えない。
「つーかよぉ────おまえのこせい、そんなにめずらしくねーよ?」
『えっ』
思わぬ言葉に目を丸くした。
そんな私を見て、紅い瞳は水の階段を駆ける出久に向けられる
「オイいずく!みずのこせいのヒーローって誰がいる!?」
「みずのこせいのヒーロー?アクアマリンとかシーロムとか!?
ほかにもスイレンとかウォーターフォールとかまだまだ」
「ほらみろ、たくさんいンぞ」
ぺらぺらと話し始めた出久を放置して、勝己は此方に視線を戻した。
「みずをつかうヒーローならたくさんいンだよ。そんなかなら、おまえのこせいはめずらしくねー。
むしろ、てからばくはつおこせるおれのほうがレア!!」
「てのひらからばくはつはいないけど、ほのおけいってかんがえたらエンデヴァーとかいるよ!」
「うるせー!!!!」
自信満々に自らを親指で差した勝己は、秒で入った出久の横槍に全力で怒鳴り返した。
ジャングルジムから飛び降りて出久に突撃し、そのままじゃれ合い始めた二人を、私は呆然と見つめるしかない
『……そっか』
…………そっか。
私の術式、珍しくないのか。
術式にも匹敵する特殊能力は、この世界で溢れんばかりに存在している。
そうだ、もう私は呪術師じゃない。
搾取されるだけの、存在じゃないのだ。
『かつき!いずく!』
「なんだよ!」
「せっちゃん、どうしたの?」
氷で即席の滑り台を作り、二人の傍に降り立つ。キラキラ輝く氷に目を輝かせる二人を見ながら、私は笑った
『ありがとう、私のヒーロー』
きっと二人からしたら大した事じゃないだろうけど。
私にとっては、救われた日なのだ。
事ある毎に勝己にしがみつく魔の三歳児を乗り越え、現在トラウマの五歳児。
やっぱり事ある毎にしがみつく私を背中に貼り付けて、勝己はニトログリセリンについてという本を読んでいた。しがみつかれても動じない辺りに年季を感じる
「オマエあったけぇから、ねむくなる」
『わたし、こせいのえいきょうでたいおんたかいから』
「ゆたんぽかよ」
そっと背中から離れて隣に座る。
ぴとっとくっつく私に慣れたのか、勝己は文句も言わない。それどころか丁度良いとばかりに、私の肩に頭を預けてきた
「わたとかにつけるとすっげーもえるけど、あちぃもののうえにたらしたり、たたくとばくはつするんだって」
『げきぶつじゃん』
「おれのてってそれにそっくりなのがでるんだって」
『じゃあばくはももやすのもできるね』
「おう。すげぇだろ!」
『かえんほうしゃもだいばくはつもできるね』
「いやちげぇ。そこはブラストバーンだろ!なんでじばくわざなんだよ!!」
『あれ?』
ああ、大爆発って自爆技だわ。
そんな事を思いつつ、本に目を落とす。
『かつきさぁ』
「んー?」
『さいきんいずくにいじわるなの、なんで?』
何気無い風を装って、問い掛ける。
すると勝己の手はぴたりと止まって、静かに紅い瞳が此方に向けられた
『でくのぼうのデクってよんでるんだって?』
「……アイツがチクったんか」
『ちがうよ。あんなにさわいでればいやでもきこえる』
最近、幼稚園で勝己を持ち上げる流れが顕著になってきた。
勝己はやれば誰よりも上手に出来てしまう。
そしてその派手な個性。
判りやすく凄い勝己を、幼稚園の先生はヒーロー向きな個性だと褒めた。
天才気質の彼は、最近では周りに持ち上げられるがまま、少しずつ傲慢さが出ている様に見える。
…それは、出会ったばかりの親友にそっくりで。
悟の場合は最高傑作として、周りの人間が感情を見せずに彼を育てた。
その結果、悟は感情を知らず、急拵えの対人レベルのまま高専に来た。
その点で言えば、勝己の事はこれから光己さんが叩いて矯正するかも知れない。
…だがそれでバランスは取れるんだろうか。
長時間、多数から気持ちの良い言葉だけを贈られる外と、耳が痛い言葉だけを押し付けられる家。
どちらを聞くのが楽かなんて、考えずとも判る
「デクのはなしはもういいだろ。なんかおもしろいはなししろよ」
勝己の無茶振りに、静かに目を瞬かせる。
面白いかどうかは別として、これは…丁度良い流れだろう
『────むかしむかし、あるところに』
そこは、総人口の八割が無個性の世界。
二割の個性持ちは、隠れる様にこっそりと暮らしていました。
その世界で産まれた女の子…桜ちゃんで良いか。桜ちゃんは、普通の家に産まれました。
暖かな家に、優しい両親。
普通じゃなかったとすれば、桜ちゃんは総人口の二割に当て嵌まる事でした。
桜ちゃんの個性が初めて出たのは雨の日でした。
手を伸ばし、触れた雨粒が凍り付いた事で、お母さんは桜ちゃんが個性を持っている事に気付きました。
そして────両親は、桜ちゃんを五億でとあるお家に売りました。
その世界での個性は、人の心から生まれる敵を倒すための特別な力でした。
個性でしか敵は倒せない。そして、個性も敵も日常を生きる人間には見えないし、判らない。
無個性にとって個性持ちは気持ちの悪い存在でした。だって理解出来ない力を振るうんだから、そりゃ怖い。
そんな訳で、家族は桜ちゃんを売りました。
それから桜ちゃんはクソやr………桜花というお家で育てられました。
ん?警察に駆け込む?…ああ、無理無理。
あんなんでも国家公認の職業だったからね。
下っ端でもそれなりに権力持ってたから、もし私が交番に駆け込んでたとして、どうなったかは判んない。
話戻すね。
その家は、自分の家から強いヒーローを輩出したくて、無個性の家に産まれた個性持ちを買ったのです。
その世界のヒーローは、殆どがそういう家に所属していました。
家は事務所の様なもので、お金もコネもあるからです。
その家で桜ちゃんは育てられました。
ヒーローになるか、高値でクソジj………他所のお家に嫁入りするか、どっちかしかなかったので、桜ちゃんはヒーローの道を選びました。
高校生になる時、桜ちゃんはヒーロー養成学校に入れられました。
そこで、生涯の親友達に出会います。
御三家と呼ばれる、ヒーロー界でも特に大きな力を持つ家に産まれた悟くん。
とっても珍しい治癒個性を持つ硝子ちゃん。
無個性の家出身だけど、とても珍しい個性を持った傑くん。
桜ちゃんにとって、彼等は初めての友達でした。
沢山喧嘩もして、でも沢山一緒に笑いました。
一緒に居るだけで楽しくて。ヒーローの仕事はキツかったけど、それでも桜花に居る頃よりずっと、笑っていました。
次の年には後輩も出来て、皆で笑いながらヒーローの勉強をしていました。
ですが、三年生になったある日の事。
桜ちゃん達の後輩が、死んでしまいました。
それは、力も才能もある悟くんを嫌った、ヒーロー界の上層部の仕業でした。
悟くんは最初こそワガママで、人の話なんか聞かなくて、直ぐにスタンドプレーに走るクズでしたが、桜ちゃん達と過ごす内に、周りに思いやりを持てる様になっていました。
上層部は、そんな悟くんの変化が気に入らなかったのです。
自分達の言うことを聞かず、桜ちゃん達を護るために権力を使う悟くんが目障りでした。
だから、悟くん達が大事にしていた後輩に、明らかに彼等より強い敵と戦わせました。
ヒーローは少ないので、基本的に自分より強い敵とは戦いません。死んで数が減る方が困るからです。
だから、後輩も疑わずに敵を倒しに行きました。
けれど、彼は冷たくなって戻ってきました。
彼が特に仲が良かったのは傑くんで、大層落ち込んでいました。
それから数ヶ月。
傑くんが、沢山の無個性を殺してしまいました。
優しくて強くて、性格に難アリだったけど弱いものイジメが嫌いだった傑くん。
彼は、その世界でずっとヒーローが戦わなきゃいけない事を嘆いていました。
だって、その世界の敵は無個性の心から生まれます。沢山の負の感情がくっついて、敵は強くなる。無個性の分だけ強く、沢山産まれてくる。でもヒーローは少ししか居ない。増える事は殆どなく、どんどん減っていく。
後輩が死んで、傑くんはなんで戦っているのか、判らなくなっていきました。
そして────とある村で、沢山の無個性に個性持ちの小さな子供が苛められている姿を見て、爆発してしまったのです。
傑くんは大量殺人犯として、ヒーロー界から姿を消しました。
その十年後、悟くんは傑くんを殺しました。
ずっと潜伏していた傑くんがテロを起こしたのです。
無個性の所為でヒーローが虐げられるなら、無個性を全て殺してしまえば良い。
彼はそう言って、大規模なテロを起こしました。
傑くんは優しくて、強かった。
そして彼にはカリスマ性があったから、どんどん人が集まってきました。
彼は、皆の期待と想いを背負ってしまった。強いから、背負いきれてしまった。
だからもう、自分じゃ止まれなくなっていました。
そんな彼を、悟くんが殺しました。
ずっとその才能の所為で独りぼっちだった悟くんと同じくらい強かった傑くん。
何でも話せる大事な人を、それでも悟くんは殺しました。…殺して、止めてくれました。
────まぁその一年後、傑くんの偽者が出るんですけど。
ついでに悟くんは封印されて桜ちゃんも死ぬけど、キリが良いからこれでおしまい。
ふぅ、と息を吐いてジュースを口に含んだ。
簡潔に話したけれど、やっぱり呪術界はクソ。
上層部死なないかな、なんて感情を縛るまで良く思っていたものだ。
とは言え随分長く話してしまった。五歳にはつまらなかっただろうと勝己を覗き込んで────
『えっ』
ぼとぼとと真っ赤な目から涙を流す勝己に、言葉を失ってしまった。
……今の話、泣く要素あった?
焦りつつ涙を拭いてあげると、勝己は私の背中に腕を回してきた。
そのまま耳許でぐすぐす言っている彼の背を撫でていると、ぽつりと震える声が落とされた
「……さくらは」
『ん?』
「…さくらは、なんでしんだ」
『あー……すぐるくんのしたいをつかうにせものとたたかって、まけたの』
え、もしかして私が死んだ事に反応して泣いてんの?なんで?序盤しかほぼ出番ないのに?
キョトンとしつつ、慌ててフォローを入れる
『あ、でもだいじょうぶだよ!
さくらちゃんはね、すぐるくんがさつじんはんになったつぎのとしに、かんじょうなくなるから!
だからぜんぜんだいじょうぶだよ!!』
溜め込んだ呪力で戦ったから最期は感情も戻ったけど、どちらにせよ今よりずっと起伏は乏しかった。
だから、人型アンドロイドが壊れたとでも思って貰えば良いだろう。
そう思って言ったのだが────
『えっっっっっっ、なんでなくの…!?!?!?』
真っ赤な目から更に涙が溢れ出してしまった
急募:五歳児の泣き止ませ方
桜花刹那→白露刹那
呪術産、記憶あり。
術式も付いてきたので、無個性だが関係無い。
呪術産なので当然イカれている。
前世でメロンパンと心中しようとしたが、力及ばず五条の心にダイレクトアタックを決めて無駄死にした(ゴミ箱原作軸ルート)
売られた経験持ちなので、個性が出た三歳と売られた五歳の時はめちゃくちゃ警戒心が跳ね上がっていた。安全圏と認識した爆豪の背中に張り付くので、暫く大人にはコアラの個性か?と思われていた。
五歳児にクソ重い昔話をかましたが、本人何で爆豪が泣いたか全然判ってない。
だって自分の過去は良くある話だから(呪術基準)
寧ろ悟くんと傑くんの辺りで爆豪が態度を改めてくれればとか考えていた。
これから爆豪が張り付く様になる。
大人からはコアラ(大人しい方)と呼ばれる。
爆豪→心にダイレクトアタックされた五歳児。
ちょいちょい寂しそうな顔をする刹那を、その度に構ってあげていた良い子。
水を操るという割とメジャーな個性で何をそんなに怯えているのかと不思議だったが、頼られるのは悪くなかったので好きにさせていた。
個性が出て周りに褒められ、無個性である緑谷を見下し始めていた時に妙にリアルな昔話をされ、泣いた。
桜ちゃんの既視感と死に泣く。さらっと語られた感情なくなった発言に号泣。
悟くんみたいな性格だと、大事なものを全部失くすんだと学習した。
次の日緑谷に謝りに行くし、それから刹那に張り付く様になる。
大人からはコアラ(爆破の方)と呼ばれる。
緑谷→突然謝られる五歳児。
個性が出たのに親に話していなかった刹那を疑問に思っていたが、後日話せたと聞いて安心した。
無個性だと判明し、爆豪に虐められ始めていたがある日突然謝られる。
明日槍が降るのかな?と本気で心配した。
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