迷い込んでパルデア(名前変換無し)


・主人公がポケモン
・名前変換する場所がない
・捏造パレード






それは五歳の頃の話だ。
俺は付いてくる奴等を率いて、森の探検に向かっていた。
通い慣れた森の小道を、拾った枝を剣代わりに振りながら歩いた。


「すっすめー、すっすめー♪」


当時の俺は一番だった。
誰より脚が速かったし、漢字だって読めた。個性も強かった。
何だって、他の奴等より凄かった。


何でも出来る俺が一番凄くて、一番凄くないのがデクで。


だからこそ、俺がする事を全員が肯定した。
俺が歩けば皆が後ろを付いてきた。
そして、俺がデクをバカにすれば、皆それに倣った。
俺は無敵で、何でも出来た。
出来ない事も、怖い事も何もなかった


「びぃ?」


────ざぁ、と風が吹く。
淡い緑の影が目の前を過ったのには気付かないまま、ずんずんと奥に進んでいった


「あれ?カツキ?おーい、どこだー?」


「かっちゃん?どこー…?」


遠くで俺を探す声がした事なんて、知らずに

















森を抜けた先、知らない世界が広がっていた。
広い海、切り立った崖、風に運ばれてくる花の香り。
初めて見たそこはとても魅力的で、俺は直ぐに駆け出した。


「おいテメーら!はやくこいよ!!」


てっきりアイツらは付いてきていると思っていたのだ。
興奮のままに勢い良く振り向いて────そこに誰も居ない事が受け入れられず、目を丸めた。
幼馴染達どころか、人影も、森すらないのだ。
どうやら此処は海にぽつんと浮かぶ小島の様で、申し訳程度の木と無骨な岩が飛び出しているだけだった。


「うそだ…うそだろ…?」


呆然と呟いた声が震えていて、それを耳にした事でよりぞわぞわした感覚が強くなった。
風で揺れる葉の音が、妙に響いて。
綺麗だと感じた世界が、急に悍ましくなる


何処だ、此処は。
なんで誰も居ないんだ。


怖いものなんてなかった。
けれどその時は、全てが怖くて仕方無かった。
ぎゅっと眉を寄せた時、背後からばき、と小枝を踏み折る音がした。
誰か追い付いてきたのか。
そう思って、慌てて振り向くと────


「ぎゅわっ」


水色の身体の、嘴を持つ生物が立っていた。
額に赤い石が輝いていて、手には水掻きと、鋭い爪が備わっている。
石と同じく赤い目はぎろりと俺を睨め付けて、眉間にぎっちりと皺を寄せていた。
これは異形系の個性の人間なのか、それとも個性を持った生物なのか。
判断が付かずじっと見つめていれば、ソイツの背後からざばりと波を立て、同じ顔が並んだ。


────コイツら、個性持った動物だ。


人間であれば、彼処まで酷似した個性なんて有り得ない。
最初から“こういう”生き物なのだと言われた方がまだ納得出来る。動物が個性を持つなんてレアケースだと言われているけれど。
奴等はがぱ、と大きく口を開くと、獣の様な咆哮を発した


「「ぎゅわああああああああ!!!!!」」


「っ…!!!」


身を刺すそれが殺気であると、この時の俺はまだ知らなかった。
ただ、オールマイトは逃げたりしないと、そんな下らねぇ考えの所為で、単純に逃げ損ねていた。…いや、それ以前に初めて浴びる殺気に震える脚が、ちゃんと動いたかも判らねぇが。
水色の生き物は、鋭い爪が輝く腕を真上に振り上げた。
もう片方は掌に水の塊を産み出し、此方に放とうとしていた。


逃げたらヒーローにはなれねぇ。
どうにかして、倒さねぇと。


潤んできた視界を頭を振って振り払い、両手を構えた────瞬間。
ソイツは、空から現れた


『ガアアアアアアアアアアア!!!!』


腹に響く低い雄叫び。
漆黒の、太陽光を弾く鋼鉄の翼。
俺なんて簡単に握り潰せそうな、鋭い爪。
太い嘴に、ぎらりと光る赤い瞳。
巨大なソイツが鳥だと認識した瞬間、俺の身体は宙に浮いていた。
離せと個性を使おうとして、掴まれている胴体が全く痛くない事に気付く。
俺を抱えたソイツが来た時の勢いのまま、凄い勢いで飛んでいくのを見てもしかして、と思った。


…もしかして、助けてくれんのか?
……いや待て、この扱いは餌では?


だって鳥が脚で掴んで運んでるのって、獲物だろう。
今すぐ脱出したいけれど、此処で暴れたら俺が危ない。
地面が近付いたら暴れよう。
そう結論を出し、俺は声を上げた


「よけろ!」


「ぎゅわあああ!!!」


『!』


振り向いた先、水色の生き物の掌から、凄まじい勢いで水が発射された。
俺の声で襲撃に気付いたらしい鴉は、身体を傾ける事で水の槍を躱した。
そのまま高く飛び上がり、水色の脅威はどんどん小さくなっていった。


「すげー…」


鴉に抱えられて気付いたのだが、海だと思っていたのはどうやら湖だったらしい。
鋼鉄の鴉は湖を渡って陸地に着くと、草原の上にそっと俺を降ろした。
手を構え威嚇するも、かくりと首が傾いただけ。…こういうのって、油断させて頭からバクッといったりするんだろうか。
少しでも可笑しな動きを見せたら即爆破してやろうと思って睨み付けていると────ぽふん、と。


「!?」


鴉が突然白い煙に包まれた。
煙が晴れて露になったのは黒い生き物。
額に炎の様な小さな鬣と、首をぐるりと囲むたっぷりとした毛。背中には子供が背負うサイズのリュックを乗せている。
所々に青を差した小型犬の様なソイツは、俺を見上げてへらっと笑った


『良かった!怪我もなさそうだね!』


「…………は?」


喋った。
目を丸くする俺を他所に、ソイツはかしかしと後ろ足で首もとを掻いた


『ほんとビックリしたよ。
君小さいし、まだ十歳いってないだろ?ポケモンも連れてないみたいだし。
それなのに、何で一人でオージャの湖なんかに居たの?
しかも湖のど真ん中。逆にあんなトコ、一人でどうやって行ったの?イキリンコのタクシーから落ちでもした?』


流暢に話す犬という衝撃的な光景に加え、何を言っているのか殆ど理解出来なかった。
ポケモン?オージャの湖?イキリンコ?
聞いた事もない言葉にじわじわと嫌な予感が競り上がってきて、ぎゅっと拳を握り締めた。


『ねぇ、聞いてる?……って、そっか。人間って私達の言葉、判んないんだっけ』


何気無い様子でそう呟かれ、俺は思わず首を捻った


「いや、わかるけど」


『え?』


「つーか、ポケモンってなんだ?
オレはもりのたんけんしてたら、きゅうにあそこにいたんだ。だからイキリンコってのもしらねー。あとここがどこかもしらねー」


俺の言葉に赤い目は丸くなった。
じいっと俺を見つめたかと思えば、ぴょんぴょんと飛び跳ねる


『えっ、嘘!?私の言葉判るの!?凄いね!?
ていうかポケモン知らないってどんな場所で暮らしてんの?
ポケモンって地上にも地中にも居るけど』


「わかるっていってんだろ。どんなばしょって…おるでらだよ」


『オルデラ?オルデラ地方?んー…?何処だそれ…
私も流石にパルデアしか知らないけど…どっか別の地方から、テレポートか何かで来ちゃったのかな?』


「わかんね。なぁイヌ、オマエこうばんどこにあるかしらねー?」


『犬?犬じゃないよ、犬はパピモッチとかボチだよ』


何だソイツら。
首を捻った俺を無視してもふもふとした尻尾を振ると、ソイツはふんす!と胸を張った


『私はゾロア!犬じゃないよ、狐だよ!』


その名乗りにまじまじと黒い生き物を見下ろして、俺は首を振った


「…いやウソだろ。どうぶつえんのキツネはもっとしゅっとしてたぞ。
オマエみたいにみじかくてくちゃっとしてなかった」


『失礼だなお前!!!!!』


















結局、犬基ゾロアに付いて歩く事になったのだが、此処は見るもの見るもの不思議ばかりだった。
空は見た事もない鳥が飛んでいて、時折大きなドラゴンみたいなものまで影を落とす。
川沿いには黄色いアヒルが頭を抱えて突っ立っているし、ぽやっとしたピンクの変なヤツが口をかっ開いている。
川からはあの水色のヤツが此方を見ていたりして、思わず首を竦めた。…怖くねぇ。倒す方法を考えてただけだ。
ゾロアはヤツを横目に見ながら言う


『さっきあんたを襲ってたのはゴルダック。アイツら大概群れで居るし、縄張り意識凄いから近付いちゃダメだよ』


「ゴルダックっつーなまえなんか?」


『うん。アイツらの種族名はゴルダックって言うの。彼処に居るコダックの進化系だよ』


「コダック?」


『彼処の黄色いヤツ』


「…???」


あのボーッとしてる黄色いのが、あんなシュッとした青いのになるか…?なんで???


『あはは、コダックがゴルダックになるのはビックリだよね。
ああ、そこに居るコイキングってヤツもね、進化するとやべーのになるよ』


「…あのあけェビチビチしとるヤツがか?」


『ギャラドスっていう青いおっきな竜みたいなのになるの。めちゃくちゃ凶暴。
だから、弱いポケモンでも舐めたら痛い目見るよ』


てとてちと歩くゾロアは、時折草むらに落ちている物を拾っては俺に渡してきた。
俺はそれを、ゾロアから受け取ったリュックに放り込んでいる。
大半が薬やらピンクの人形で、次に多いのは木の実やボール。
カラフルな羽根やハーブに真珠、変なディスクなんかもあった。


『あのピンクのヤツはヤドン。アイツの尻尾は甘くて美味しいよ。でもコイキングは、人間にとっては骨と皮と鱗しかない。
魚食べたいならミガルーサの肉が運良く流れ着くのを待つか…直ぐ食べたいならバスラオ捕まえるかなぁ。そこら辺に居るし』


「…くうんか?」


え、ポケモンって事はお前ら仲間なんじゃねぇの?若干引いた目を向けると、ゾロアはぱちくりと目を瞬かせた


『そりゃ食べるよ。弱肉強食って知らない?』


「…なかまじゃないんか?」


『仲間?…ああ、そっか。勝己の地方にはポケモン居ないんだっけ?』


ゾロアの言葉に頷いて返す。
俺の世界には、こんな個性を持った動物なんて存在しなかった。
アヒルっぽい個性の人間は居ても、掌から水を噴射するアヒルは居ないのだ。


『カツキの地方に、人間以外の生き物は居る?』


「おう」


『じゃあ、それにポケモンって付けてみて』


「いぬポケモン、ねこポケモン、きつねポケモン…?」


『そ。それが私達の、相手に対する認識。
つまりモンスターボールに入る仲間だとは思うけど、特に同族意識とかない感じ。
寧ろ油断したら食われるんだから、敵?』


「こえーな」


『野生なんてこんなモンよ?シェルダーが居ればワシボンが狙うし、アーマーガアが飛べばデカヌチャンが岩をぶつける。
ケイコウオも昼間に海面に上がればキャモメにやられる。ほら、普通でしょ?』


…そう説明されるとまぁ、そんな気もしてくる。
確かに犬とアヒルが同じ生き物かと聞かれれば、俺だって違うと言うし。
結局は弱肉強食も本人達次第というか、そういうものなのだろうか。というかデカヌチャンって誰だ。
木で出来た橋を渡り、草原に敷かれた一本道を歩く。
途中デカい猫や葉っぱの翼を持った恐竜みたいなヤツも居たが、ゾロアは全てシカトした


『此処ではぶつかりさえしなきゃ、面倒事は起きないよ。だからポケモンもトレーナーも無視すれば大丈夫。
中には縄張り意識強いヤツとか、好戦的なヤツも居るから、そういうヤツからは走って逃げる事』


「わーった。…なぁ、どこむかってんだ?」


『ポケモンセンター。あの赤いヤツね。覚えとくと得だよ』


「こうばんは?」


『そこに居るジョーイさんに聞くと良いよ。
あんたが巻き込まれたのはポケモン関連の神隠しってヤツだろうし。
パルデアのトレーナーは大体ジョーイさんに色々聞いてる』


「じゃあそれでいいや」


緩やかな丘の先にある赤い屋根を目指し、二人で歩く。


「そういえば、さいしょなんであんなでっけぇカラスだったんだ?」


『ああ、あれ?イリュージョンって言ってね、ゾロアと進化系のゾロアークが使える特技だよ。人間は特性って呼ぶけど』


「しんかすんのオマエ」


『するよ。めちゃくちゃ格好良いよ』


そう言うと、ぽふん、とゾロアが煙に包まれた。
次にその場に現れたのは俺で、目を丸くする


「え、ニンゲンにもなれんの!?」


『見たものなら何でもなれるよ。ただゾロアだとまだ人間に化けるのは苦手だから、尻尾生えてんの』


にしし、と笑った俺がくるりと背を向けた。
ソイツの腰からは黒い尻尾が生えている


『あとまだ人間の声を出すのは苦手だから、基本的には無口な子供に化けるかな』


「?オマエずっとニンゲンのことばしゃべってんだろ?」


『実はずっと普通に喋ってるから、カツキはキュンだのロアーだの鳴いてる自分そっくりな子供と大真面目な顔して喋ってるやべぇ子供になってる』


「オイやめろいますぐもどれ」


『wwwwwwwwwwwwwwww』


俺の顔でゲラゲラ笑いながらも直ぐに変身を解いたゾロアに、むすっと口を尖らせた。
そして特技…俺達で言う個性を教えてくれたのだからと、俺も自分の掌をゾロアに見せた


「おいゾロア、みてろ」


『?』


赤い目が掌を見つめているのを確認して、花火の様な爆破を起こした。
火花を映したゾロアの目が、キラキラと輝く


『わー!?火の粉じゃん!カツキ、ポケモンだったの!?』


「ちげー!!これはこせいっつって、オレたちのせかいだとふつうにあるのうりょくなんだよ」


『皆火の粉出せんの?』


「これはオレのこせいだ!ほかのヤツはほかのこせいがあんの」


『へぇ…私のイリュージョンみたいなもん?』


「ゾロアっつーしゅぞくのとくせいみたいなかんじじゃなくて、マジでひとりひとりちげーの。にたのはあっても、まったくいっしょはないんだって」


『じゃあそれは、カツキだけの特別だね』


ふわりと微笑んだゾロアに、胸の奧がじんわりと熱を持った。
それからぽかぽかと暖まる感覚に、俺は笑みを浮かべる。
小さいけれど凄い生き物に認めて貰えた事が、純粋に嬉しかった


「おう!!」














ジョーイというらしい桃色の髪の女に経緯を説明すると、俺はチャンブルタウンという街の建物に連れて行かれた。
何でもそこはポケモンセンター直轄の宿泊施設らしく、退っ引きならない事情の者や宝探し中のアカデミーの学生なんかを主に泊めるんだとか。


「カツキくん、何かあったらこれを押してね。私かこの子、ラッキーが直ぐに来るわ」


「ラッキー!」


「ん。ありがと」


「どういたしまして。明日には研究所の方も来てくれるそうだから。じゃあゾロア、宜しくね」


『任せてよ』


俺に抱えられたゾロアがひょこひょこと前足を振った。
因みにコイツは俺をポケモンセンターに届けてさっさか逃亡しようとしたので、阻止する為に抱き上げた。
街に足を踏み入れてから、ゾロアは何処か落ち着きがない。
たまたま擦れ違った俺より年上の子供には警戒していたが、ジョーイさんは平気そうだった。もしかして、子供が苦手なんだろうか。


「なぁゾロア」


『んー?』


てちてちと部屋の中を散策したかと思えば、隣のバスルームに入っていく黒い影を追い掛けた。
湯船の縁を歩き、壁にある赤いボタンを押す。
タイルに降りると器用に上下式のハンドルを動かして、鼻先で動かした洗面器に水を張り始めた。


「なんでオマエそんなにいろいろできるんだ?」


『知ってる?人間の文字とポケモンの文字って一緒なんだよ。アンノーンってヤツが元になってる。
確かにちょこっと違ったりとかはあるけどさ、まぁ文字読んで、そんでちょいちょいやれば覚えるよね』


またまた器用に水を止めると、ゾロアは洗面器に足を突っ込んだ。
そのまま水浴びを始めた狐に、俺は取り敢えず籠に入れてあるボトルを指差した


「ゾロア、ポケモンってせんようシャンプーとかあんの?」


『あるみたいだよ。使った事ないけど』


「ねぇの?」


『だって野生だもん。
人ん家に入って水浴びしたのも、ギモーに騙されてヌメイルの粘液でぐちょぐちょになった時ぐらい』


「かってにひとんちはいんのダメだぞ」


『わるぎつねだからね、仕方無いね』


コイツは反省という言葉は知らないらしい。
洗面器の水は真っ黒くなっていて、ゾロアはじゃばりとタイルに上がる。


『先ずは汚れを落とさないとね。野生のポケモンは土と埃まみれだって忘れちゃダメだよ』


「ばっちいなオマエ」


『腹立つなこのチビ』


前足で汚れた水を溢して、新しく溜めていく。
俺はボトルを何個か抱え、ゾロアの前に並べた


「ポケモンのシャンプーどれ?」


『青いの』


「コンディショナーは?」


『ピンク』


「ニンゲンのは?」


『オレンジがシャンプーで、黄色がコンディショナー』


「わーった。つちおとせたらいえ。あらったる」


『はーい』


ポケモン用を残し、人間用は端に退けた。
ついでに服を脱ぎ、ランドリーに運ばれるという籠に入れた。
勝手に引っくり返って洗濯物が消え、記号みたいな文字が表示されたので浴室に声を掛ける


「ゾロア、なんかもじでた」


『お風呂上がったら読むよ。土落とせた』


「ん」


浴室に戻り、洗面器に水を張り始めたゾロアの前に座る。
シャンプーを掌に出して泡立てていると、赤い目が興味津々という色を隠さず此方を見ていた


『シャンプーって初めて見る。美味しいのかな』


「なめるなよ。こういうのってすっげぇにげーぞ」


『食べた事あるの?』


「たべたんじゃねぇ、くちにはいったんだ」


『へぇ、じゃあ止めとこ』


緩く尻尾を振りながら此方を見ている狐はかわいい。洗面器に入ってじっと待ってるのもかわいい。
ペットなんざ飼った事はないけれど、情操教育だとかでババァに動物触れ合い教室に連れて行かれた事はあるから、犬を洗った経験ならある。
似た様なモンだろうと泡を作り、黒い毛並みに優しく乗せた


『良い匂い』


「モモみてぇなのとサクランボがかいてある」


『あー、モモンとヒメリか。良い匂いだもんねアレ』


甘い香りを嗅いだゾロアが嬉しそうに笑った。
皮膚を優しく揉む様に指を動かすと、狐はふんふんと鼻歌を歌い始めた


「かゆいところはございませんかー?」


『気持ちいいでーす。シャンプーってこんなに良いものなんだね』


「ふふ、そりゃオレだからな!シャンプーだってうまくできる!」


背中を洗い、腹、手足、細くなった尻尾を泡立て、重たそうな胸の毛を絡まない様に丁寧に洗う。
それから顔を優しく泡で覆い、へちゃっとなった額の毛を、角の様に二本立ててみた


「みろ、オールマイト!」


『オールマイト?』


正面の鏡に映った自分を見つめ、ゾロアが首を傾げた。
その様子を見て、ハッとする。
コイツはオールマイトを知らないんだ。
あんなに有名なのに。俺の世界に、こんな狐は居ないのに。


……此処、俺の知らない世界なんだ。


そう改めて認識した瞬間、ひくっと喉が痙攣した。
不思議そうに此方を見上げたゾロアが目を丸くする。
じっと俺を見つめたかと思えば、掌に擦り付いてきた


『カツキ、大丈夫だよ。きっと帰れる』


「…テキトーいうなよ」


『嘘じゃないよ。あのね、カツキ。ポケモンには色んな種類が居る。
その中でも伝説とか幻って言われるポケモンは、何でも出来るんだよ』


「…まぼろし?」


『そう。だから、先ずはそのポケモンを調べよう。オレンジアカデミーって所にね、本が沢山あるんだ。そこに行って、神隠し出来るポケモンを調べよう。
そしたらきっと、帰る方法だって見付かるよ』


「……うん」


手の甲で滲んできた目許を擦る。
それからゾロアの泡を流す作業を始めた。
泡を流し終わり、俺も自分を洗う。
湯船に浸かった所で、爪先で湯をつついて警戒しているゾロアに声を掛けた


「なぁ。なんでオマエ、そんなにおれによくしてくれんだ」


『ん?そんなの簡単だよ』


覚悟が決まったのか、ゾロアはざぷんと湯に沈んだ。
犬掻きするゾロアの腹に手を添えてやりつつ、赤い目を見つめる。


『私の言葉が判るから。私を、色違いだって目で見なかったから』


「いろちがい?」


『ゾロアの色ってね、普通は此方の色なの』


ぽふん、と音を立ててゾロアのカラーリングが変わった。
青かった毛は赤に、赤い瞳は水色に。
数秒で見慣れた青と黒に戻ると、ゾロアはふす、と鼻を鳴らした


『色違いは珍しいんだ。中でもメスはもっとレア。お陰で人間に良く狙われた。
その所為で、仲間には群れから追い出されたよ。私の他に色違いは居なかったから』


「……オマエ、ひとりぼっちなんか」


『そうだよ。
だから、カツキが私の言葉を理解してくれたのが…私を色違いだって目で見なかったのが、何より嬉しかった』


一人だけ毛色の違う存在。
そう聞いて俺が思い出したのは、モジャモジャ頭の無個性だった。
…コイツがデクと同じ立場なら、俺は群れから追い出したヤツだろうか。


『カツキが家に帰れる様に一緒に悩む。カツキの地方の方が楽しそうなら、私も付いていく。
だから、心配しないでね』


…ああ、コイツは絶対に俺を裏切らない。
そう直感的に思った。
















慣れない環境ながらも疲れが溜まっていたんだろう。風呂を上がると、俺はゾロアを抱えて眠っていた。
翌朝くうくうと眠るゾロアを起こし、ラッキーが運んできた朝飯を食う。


「それうまいんか?」


『木の実とかバスラオの方が美味しいけど、毎日怪我せずに食べられるって言われたら魅力的』


「すっげーすきじゃねぇけどまぁすきってかんじ?」


『そうそう』


デカいペットフードみてぇなのをポリポリと食うゾロアは、やっぱりバスラオってヤツの肉が好きらしい。そこまで言われると逆に気になってきた。


『カツキのそれなに?黄色いお湯』


「コレか?コーンスープってヤツだよ。のむ?」


『良いの?』


「ん。あちぃからやけどすんなよ」


空いていた皿にコーンスープをよそってやると、ゾロアは鼻を近付けた。
すんすんと匂いを嗅いでから、ちろりと出した舌でスープを掬う。
美味かったのか、もふもふの尻尾がピンと伸びた様に笑ってしまった


『カツキ、コーンスープ美味しいね!』


「おー。トーストは?くったことあんの?」


『あ、そっちはパン屋さんから貰った事あるよ。夕方に余ってたらくれるの』


「へぇ」


トーストとコーンスープを食べ終わり手を合わせると、モモンを最後に残していたゾロアが言う


『カツキは好きな食べ物、あるの?』


「おれ?ハンバーグすきだ。あとカレー」


『へぇ。どんな食べ物?』


「どんな?んーと、まるめたにくをやいたヤツと、ちゃいろいドロッとしたヤツだよ」


『…肉は良いけど、茶色…?食べて良いヤツ…?』


「うめぇっつってんだろ!!!!!」


三十分後、迎えに来たラッキーに連れられて、ゾロアと共に部屋を出る。
黒にオレンジのラインが入ったリュックを背負った所で、隣を歩くゾロアに訊ねた


「なぁゾロア、そういやこのリュックどうしたんだ?」


ゾロアは野生の筈だ。
それなのに何故、人間の使うものを持っていたのか。
俺の問いに、ゾロアはにっこり笑った


『それ?アカデミーの子供が置いてったヤツ』


「……ぬすんだんか?」


『人聞きが悪いな。一週間待っても取りに来なかったから、私が貰っただけだよ。
それに荷物幾ら入れても重くないし、木の実腐らないし』


便利グッズがまさかの出自でちょっと使うのを躊躇うが、俺は無言で背負い直した。
大丈夫、ゾロアは一週間待ったって言ってたし。多分時効だ。たぶん。


「ラッキー、ララッ!」


『えー、だって子供来なかったし。ちゃんと一週間って猶予あげたけど来なかったんだよ?
それに、ポケモンとスマホロトムは持ってったみたいだし良いじゃん?
リュックだって木の実と傷薬くらいしか入ってなかったし』


「…なんて?」


『ん?悪い事しちゃダメよだってさ。
これは資源の有効活用ってヤツでしょ、今私とカツキが助かってんだから、悪さじゃないよ』


ねぇ?と笑いかけてくる狐はなかなかに強かだ。
ラッキーは何処か納得いっていない様子だったが、俺をちらりと見ると口を閉ざした。
ラッキーに連れられて施設のエントランスに向かうと、痩身の男が一人、佇んでいた。
ブカブカの白衣。げっそりと痩けた頬に細い双眸、四角い眼鏡。
目が合った瞬間に思わず一歩下がった俺の前に、黒い影が素早く躍り出た


「ほぉ、色違いのゾロアか。随分と珍しい…」


『なんだお前、燃やすぞ』


「うんうん、トレーナーを護るという最低限の躾は出来ている様だね。
…それで、君が神隠しの子かい?」


「……アンタが、ジョーイさんがよんでくれたひと?」


敢えて名乗らずに問い掛けると、それを気にした風もなく男はにこりと笑った


「そうだ。私はズオウ。ポケモンによる神隠しの研究をしている者だよ」
















ズオウに連れられて、施設の近くにある研究所に移動した。
ゾロアは男を警戒しているのか、俺とズオウの間に立ってじっと見据えたままでいる。
紙の束と本で溢れた部屋に着くと、ズオウは俺に椅子を勧めた。
よじ登って座ると、冷蔵庫から出した飲み物がコップに注がれる


「先ずは君の話を聞かせてほしい。カツキくん、君は何処から来たんだい?」


『…カツキ、いざとなったら逃げるよ。呼んだら直ぐ立てる様にしてて』


堂々とゾロアが逃亡宣言をしたにも関わらず、ズオウはそれを咎める事もなかった。
そこで俺は、ゾロアの言葉は本当に他のヤツには判らないんだと知った。
それなら、俺が変な反応をしなければ大丈夫な筈。
判ったの意味も込めて、隣の椅子に座ったゾロアを撫でた。
伝わったらしいゾロアは、俺の前のコップに鼻を近付けている


「…おれは、いえのちかくのもりであそんでたんだ。もりをぬけたら、オージャのみずうみってトコにいた」


「オージャの湖!?君一人でか!?」


『カツキ、私がイリュージョンで助けたって言って。アーマーガアに化けて空を飛んだ事は伝えちゃダメ』


「…ゾロアがイリュージョンでたすけてくれた」


「ああ…ゾロアが強いポケモンに化けたのか。それでチャンブルタウンに?」


「うん」


「ふむ…ジョーイさんの話によると、君はポケモンの居ない地方から来たそうだね。
その地方の名前は言えるかい?」


「おるでら」


「オルデラ地方…聞いた事もないな。地図にもないし…君はやはり、テレポートで何処かの地方から飛ばされたというよりは、伝説レベルのポケモンによって、世界を跨いだ神隠しに遭ったと考える方がしっくり来るな」


ぶつぶつと呟きながら、ズオウが本がぎっちり詰まった棚の間を行ったり来たり。
それを眺めつつ、出されたジュースを口にした


「因みにそのゾロアは既にゲット済みかい?」


『ボール投げた瞬間に火炎放射な』


「オマエがボールなげたらコイツここめちゃくちゃにすんぞ」


「大丈夫、幾ら色違いでもゾロアは要らないよ。何時騙されるか判ったもんじゃない」


『ムカつくなお前』


ゾロアはつまらなそうに呟いただけだったが、俺には無理だった。我慢なんて出来なかった


「ゾロアのことなんもしらねーくせに、わるくいうな!
ほかのゾロアはしらねーけど、おれのゾロアはやさしくていいヤツだ!」


たった今顔を合わせたばかりのヤツに、ゾロアを馬鹿にされるのは無視出来なかった。
苛立ちのままに掌を爆破させる。
小さな火花を見たズオウは、目を丸くした


「これは火の粉か!?」


『あっ、こらカツキ!』


そして俺は、ズオウが目を輝かせた事で、この行動が間違いであった事に気付いた。
かさついた手が俺の腕を掴み、形を確かめる様に撫でてきた。
驚き腕を引くが、大人の男に五歳児の腕力が勝てるはずもなく。
低い体温の掌で撫で回される間に、ボソボソと低い声が降ってきて鳥肌が立った


「ポケモンが居ない世界の人間が、ポケモンの技を使える?
ポケモンが居ない?居ないのか?本当に?
種として人間に吸収された?シンオウ神話の様な、人とポケモンの交わりが深い地域?
だとすれば、ポケモンは居ないのではなく、姿を変えて人間に近付いていった?
ああ、それならば、君が火を出せる事も説明が付く。
もしかすると────君は私達よりもポケモンに近い遺伝子を持っているんじゃないか!?」


『良い加減放せ!』


ゾロアが鋭い爪でズオウの手を引っ掻いた。
ぱっと大きな手が外れ、その隙に俺は椅子から飛び降りた。
ゾロアの後ろに逃げるが、ねっとりとした視線は外れない。
頭のてっぺんから足の先まで、舐め回す様な視線が何度も這い回り、怖気が走った


「少しで良い、少しで良いんだ…君の血と肉を分けて欲しい。
それさえあれば私はずっと知りたかったポケモンの能力を人間に取り入れる方法が見付かると思うんだ夢だったんだねぇだから少しで良いんだ血をくれよ!!!!!」


『寄んな変態!!!』


ゾロアが叫び、それに呼応する様に星が現れた。眩い星が一直線にズオウに向かっていって、ぶつかる寸前────


「まったく、邪魔をしないでくれないか」


ズオウの前に立っていたのは、ピンク色の小鬼の様なポケモンだった。
尖った耳と鼻を持つソイツを睨み、ゾロアが苛立たしそうに床を踏みつける


『…ギモー…フェアリーかよ、ムカつくな』


「ゾロア…フェアリーって?」


『後で教えてあげる。今は私と死ぬ程相性悪いって覚えてくれたら良いよ』


ぐるる、とゾロアが低い唸り声を発しながら、体制を低くした。
弾丸の様に飛び出して、一瞬にしてトップギアに入る


「ギモー、不意討ち!」


「ギッ!」


『残念でしたー。うーん、どうしてやろっかなぁ』


ギモーにぶつかる寸前、ゾロアがニマニマと笑みを浮かべながら飛び退いた。
ゾロアを迎え撃とうとしていた腕が空を切り、狐は笑う


『人間との遊びに慣れきってるからこうなるんだよ!食らえ!!!』


ゾロアの周囲に毒々しい色の球体が発生した。
それが彼女の一鳴きと共に飛び出して、ギモーに炸裂する。
悲鳴を上げて倒れたギモーにズオウが赤と白のボールを向けると、赤い光に包まれて、ギモーは消えてしまった


「驚いたな。技マシンの技まで覚えているのか…」


『人間の遊びじゃワザってのは四つまでなんだっけ?残念、私は全部使って勝つんだよね』


つまり四つしか技とやらを使えないギモーに対し、ゾロアは何でもアリで挑んだという事だろうか。
確かにゾロアに負けられたら困る。けどあんまりにも卑怯なのは…
悩むおれをちらりと見て、ゾロアはにっこりと笑った


『ゾロア、野生だから!』










運命との遭遇









ゾロア(色違い/♀)→後々名前を貰える。
まだ野生。レベル50、進化の輝石持ちのずる賢いゾロア。
拡大解釈と野生故の冷酷さで逞しく生きてる。
爆豪を助けたのは気まぐれ。助けたらまさかの自分の言葉を理解出来る子供だったので、護る事にした。

爆豪→時渡りする緑の子に突然飛ばされた不運な五歳児。
ゾロアが色違いでも気にしない。取り敢えずこの狐は持って帰る。
これから耳やら尻尾やら生えたりする。

ズオウ→マッドサイエンティスト。



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