個性:クラスチェンジ


・ゲームをしていなくても判る様に頑張りますが、やっている方が判りやすいかも
・捏造パレード





ぶん、と水色を纏った短刀が白金目掛けて振り抜かれる。
それを顎を引く事で躱した彼の掌が、少女の薄い腹に鋭く放たれた。
身を捩って躱すと、少女の細い脚が少年の脇腹を狙う。
振り抜かれた脚を腕で防ぎ、少年が再び彼女の腹部を狙った。
軌道も速度もさっきと同じだ。
少女もそう考えたのだろう。先程と同じく僅かに身を捩って避けたが、そこで前の手とは違う事が起きる。
────少女の身体の直ぐ傍で、掌が爆ぜた。


『うわっ』


剥き出しの腹部に火の粉が掠ったのか、菫青の瞳が見開かれる。
対する鮮やかな紅い瞳は弓形に歪んで。
宵闇と夕焼けが交差した、瞬間。


『ぐえっ』


「俺の勝ちだァ!!!」


べしゃりと組み伏せられた少女の上で、少年が勝鬨を上げた。
















『うう、かっちゃん今日爆破全然してこなかったじゃん…』


「誰も今日は個性抜きとか言ってませんけどォ?」


『クッソムカつく…』


倒れた少女に手を貸しながら、少年が得意気に笑った。
コートの下に露出の激しい衣装を纏った彼女が長く息を吐くと、光に包まれる。
光が消えると服装はTシャツとデニムに戻っていて、僕はほっと息を吐いた。
あの格好が彼女の個性なのは判っているけれど、怪我しないかヒヤヒヤするのだ


「おい出久、動画は」


「バッチリ録ってたよ、かっちゃん」


『ありがとう出久、それ凄く助かるんだよね』


「ううん、気にしないでよせっちゃん。僕も助かってるし」


此方に向かってきた二人に、僕は用意してあったスポドリとタオルを手渡した。
にこりと笑ったせっちゃんに、意地悪く笑ったかっちゃんが絡む


「へぇ、毎度俺に負けンの見るのが好きなンかよ?」


『黙れ経験値!今のでレベル上がったんだからな!』


「ハッ!毎日俺にボコられてレベル上がるとか、どんなドM個性だっての」


『ほんっっっっっと動かなきゃ良い男なのに』


「あー?動いてる俺が好きな癖に何言ってやがる」


『好きとか言った覚えないな?妄想か?』


「へぇ?お前は好きでもねぇ男の部屋に入り浸るンか?」


くすくすと笑いながら、かっちゃんが彼女の耳に顔を寄せた


「お前じゃビッチぶんのは無理だよ。素直に俺に惚れてろ」


囁かれたせっちゃんの顔がじわじわと赤く染まっていく。遂には耐えきれなくなったのか、勢い良く此方を見た


『………………出久!!!ビデオ!!!!!』


「顔赤ェぞ刹那チャンwwwwwwww」


『黙れ爆発坊っちゃん!!!』


「かっちゃん、からかい過ぎだよ…」


「からかい甲斐のあるコイツが悪ィ」


爆笑しながら三脚にセットした僕のスマホを覗き込むと、かっちゃんは再生を始めた。
それをじとっとした目で睨みつつ、せっちゃんがスポドリを口にする。


────爆豪勝己。
個性は爆破。
爆発的な白金の髪に紅い瞳の、自信家で、実際やれば出来る天才。性格に難アリ。


────白露刹那。
個性はクラスチェンジ。
癖のない黒髪に菫青の瞳を持った、穏やかな女の子。たまに愉快犯。


二人と僕は所謂幼馴染というヤツで。
世界総人口の八割が個性という特殊能力を持つこの世界でも、きっと彼等の個性は強力な部類に入るだろう。


「刹那、あとどんぐらいでレベマだ?」


『シーフは今9だから…あと11かな』


「残りは五種類だっけ?」


『そう。そしたらファーストはコンプ』


せっちゃんが宙に手を翳すと、モニターの様なものが現れた。
表示されたのはクラスジョブというもので、彼女は複数あるジョブの中から一つを選ぶと、その能力を使える様になる。
ジョブのレベルは20まで。限界まで上げると、ボーナスとしてちょっとした強化が付与される。
そして特定のジョブをレベルマックスにすれば、次のランクのジョブが開放される仕組みだ。
現在せっちゃんはファーストを全て開けようとしていた。最低限のバフを得てから、次のランクに行きたいらしい。
彼女の隣ですいすいとモニターを動かしながら、かっちゃんが言う


「ファースト開けたらクレリック行けよ。回復役が居ンのは安定感が違ェ」


『はーい』


「本当にせっちゃんの個性って面白いよね。RPGの編成画面みたいだ」


『出久もチームに編成されてるのはどういう理由なんだろうね?勝己は判るんだけどさ』


せっちゃんの個性の強みは手数の多さと、チーム編成によるバフだ。
この編成画面でせっちゃんがバフ効果を持った武器を装備する事で、チームに組み込まれた相手にもバフを付与出来る。
武器枠はメインの一つと、サポートに編成すればバフを発揮する合計十個。
チームの属性と武器の属性を合わせれば全員がバフを受け取れるので、本来ならそうすべきなんだけど……


「おいバフが少ねェ。もっと効率良く行ける武器付けろや」


『ウケる、かっちゃんバフ一個wwwwww』


「いやそれ僕もかっちゃんも殆どバフないね?なんで闇属性で組んでるの?かっちゃん火だよ?」


『綺麗だった』


「ダメだ、ゲーム苦手なアホに任せてらんね。武器弄ンぞ」


『どーぞー』


武器編成を弄るかっちゃんを眺めながら、せっちゃんは笑った。


『出久は水属性になると良いよ。そしたら勝己に勝てるだろうし』


「あぁ!?俺が負けるかクソデクゥ!!!!」


「ちょっとせっちゃん?僕流れ弾で死にそうなんだけど???」


『ウケるwwwwwwww』


「せっちゃん???」


「おうクソデク今からロードワークだ前回のタイムから一秒でも遅れたら承知しねぇからな!!!!」


「ねぇやっぱり僕流れ弾で死ぬんだけど」


『wwwwwwwwwwww』


「君ほんと覚えとけよ」


軽く筋を伸ばして走り出してしまった幼馴染二人を追い掛ける。
せっちゃんの編成画面で、僕に属性はない。
火、水、土、風、闇、光と六つもあるのにどれにも該当しないのは────僕が、無個性だからだ。
















小さい頃は、どんな個性が出るだろうかと楽しみにしていた。
個性は四歳までに発現する。
僕達の中ではかっちゃんが最初で、四歳の誕生日の少し前にせっちゃんが発現した。
当時は組が違ったから遠目に見ているだけだったけど、掌から火花を出すかっちゃんと、小さな身に鎧と剣を持つせっちゃんが羨ましかった。


僕はまだかな。どんな個性かな。
父さんと母さんに似た個性かな。
オールマイトみたいな凄いパワーが出たら良いな。


ずっと、楽しみにしていた。
…けれど、四歳過ぎても、僕に個性が現れる事はなかった。
母さんに病院に連れていかれ、僕には足の指の関節が二つある事を知った。


………無個性の、特徴だった。


母さんにはごめんねって謝られた。
それが当時の僕にはとてもショックで。
…違うんだ、母さん。僕は個性を持たせてあげられなくてごめんねじゃなくて、無個性でもヒーローになれるって、言って欲しかったんだ。
でも、泣いている母さんにそんな事は言えないまま。


「いずく、ムコセーなんだって!」


噂は直ぐに広まった。
それと同時に、意地悪が始まった。


「やーいムコセー!」


「くやしかったらコセーだせよ!」


「や、やめてよぉ…!」


個性がない。
それだけで、暴れん坊な男の子に苛められる様になった。先生は止めてくれない。皆遠目に此方を見て笑うだけ。
僕には味方なんて、居なかった。
何時も苛めてくる子が、その日は僕の大事にしていたオールマイトのキーホルダーを持って走り出した。
泣きながら走る僕の足じゃ、鹿の個性を持つその子には追い付けなくて。


もう、無理だ。


その場でへたり込んだ、その時だった


「やーいムコセー…うわあ!!」


此方を振り向きながら走っていた鹿の子が、何かに引っ掛かった。
足許に仕掛けてあったらしいそれ……網が鹿の子を包み、幼稚園児には高い木の枝にぶら下げる。
その姿は宛ら罠に掛かった鹿そのもので。
取り巻きの子達が、焦った様子で木に駆け寄った

「やすくん!?」


「なんだこれ!!」


「こっ…こわ…こわいよおおおお!!!」


鹿の子は急な事態に驚いたのか、細い目から大粒の涙を溢し始めた。

────その時だった。
何が起きているのか判らず見上げる僕の傍で、急にテンションの高い声が上がったのは。


『よっしゃークソジカとったどー!!!』


「おいせつな!!センセーにバレんだろ!!しずかにしろ!!!」


『かっちゃんのがうるさくない?』


「いいから!バレねぇうちにいくぞ!」


『はーい』


「か、かっちゃんだ」


「せっちゃんもいる…」


僕の隣を駆けていったのは黒髪の女の子と、タンポポみたいな髪の男の子だった。
当時からヒーロー向きの個性を持っていると皆から尊敬されていた、かっちゃんとせっちゃん。僕なんかとは違う、凄い二人。
驚き肩を跳ねさせた僕なんて見る事もなく、怯えた取り巻きの子達を気にする事もなく、彼等は木に近付いた。
そして泣きじゃくる鹿の子を見上げ、声を張る


「おいクソジカ!せつなにもうイジワルしねぇならおろしてやるぞ!」


『かみひっぱったのあやまれ!それからわたしのクレヨンかくしたのと、ぶつかったのにごめんねしなかったのもゆるしてない!
あとわたしのことブスっていったろ!おまえよりはかわいい!!!』


「は?せつながブスとかめだまついてねーんじゃねぇの?つーかかずがおおいな?」


『きのうもわたしのかみぐちゃぐちゃにしただろ!あとどろだんごなげてきた!
あしひっかけてころばせてきたのもおこってるからな!』


「…やっぱかえろーぜ。
たすけんでいいわあんなクソヤロー」


『いいの?』


「いいよ。ジゴージトクっていうヤツだ」


『じごーじとく』


トラップはどうやらあの二人が鹿の子への仕返しとしてやった様だけど、どうにも雲行きが怪しくなってきた。
かっちゃんが思っていたよりせっちゃんの被害が大きかったらしい。
途端に助ける気を失くしたかっちゃんに手を引かれ、彼女は頷いている。


いやちょっと待って?
助けないの??あの子めちゃくちゃ泣いてるよ???


「ごめっ、ごめんなさいいいいいいい!!!」


二人が去ってしまうと思ったのだろう、とうとう上空から半狂乱の謝罪が降ってきた。
それを聞いた二人が顔を見合わせる


『かつき、シカがごめんなさいした』


「しゃーねぇな…センセーがくるまえにおろすぞ」


『ん』


非常に不服そうにかっちゃんが言うと、せっちゃんは頷いた。
二人はたっと走り出すと、園庭に置いてあった大きなトランポリンクッションを引っ張ってきた。
それを木の下に配置したと思えば、かっちゃんがするすると木に登っていく。
あっという間に泣きじゃくる鹿の子の許まで辿り着くと、掌から火花を散らした。


「え」


「いくぞせつな」


『おっけー』


恐怖で顔を引き攣らせた鹿の子に目を向ける事もなく、かっちゃんは紐を小さな爆発で焼き切った。
当然、支えを失った網は重力に逆らわない。


「うわああああああああっ!!!!」


鹿の子は呆気なく落下して、トランポリンクッションに受け止められた。
それを見届けたかっちゃんが木から降りてくると、泣いている鹿の子と取り巻き二人を見下ろして、言い放った


「いいか、つぎせつなにイジワルしたらおろしてやんねーからな!」


「うえええええええええんっ!!!!!」


鹿の子は泣きながら去ってしまった。
その際、ずっと彼が握っていたんだろうオールマイトのキーホルダーが、ぽてんと地に投げ出される。
追い掛けていった取り巻きの背を呆然と眺めていると、すっと、目の前にオールマイトを差し出された。
見上げた先、紅い目が此方をひたと見据えていた


「オマエのだろ」


「あ、ありがとう…」


受け取ったキーホルダーをぎゅっと抱き締める。
そのまま去ってしまったかっちゃんの背を、僕は未だ鮮明に覚えていた。















あれから十一年。
僕達は中学生になり、受験を控えていた。


「オイ出久!ペース落ちてンぞ!!!」


「ひい…!!」


『出久wwwww顔やばいwwwwww』


目を吊り上げて怒鳴るかっちゃんと、此方を見て爆笑するせっちゃん。
僕は慌てて脚に力を入れた。かっちゃんの後ろに付けば、満足そうに鼻を鳴らされる。
そのまま運動神経抜群のかっちゃんの背が小さく見える程度の距離で、僕はロードワークを終えた。
荒く息を吐く僕に、せっちゃんがスポドリを差し出してくれる


「ありがとうせっちゃん…」


『お疲れ出久。大分体力付いたんじゃない?』


「そうかな?」


ロードワークを始めた当初、僕は途中で失速した。ふらふらした足取りでどうにか二人の許に辿り着いたのを覚えている。
それからすれば、息を乱してはいるものの以前よりキツくはない。
汗をタオルで拭いながら、かっちゃんがせっちゃんをちらりと見た


「キツくねぇか」


『うん。ありがとう』


かっちゃんは、せっちゃんにはとても丁寧に接していると思う。
今だってそうだし、何時も然り気無く気遣っているのだ。
キャップを緩めてペットボトルを渡しつつ、腕時計に目を向ける


「そろそろ時間か」


『あ、来た来た』


二人の声で、公園の入り口に目を向ける。
そこに現れたのは、金髪のひょろっとした人だった


「やぁ、少年少女!やってるかい?」


「居酒屋かよ」


『お疲れ様です、八木さん』


「お疲れ様です!」


HAHAHAとアメリカンに笑いながら近付いてきたのは八木さん。最近僕達のトレーニングを見てくれている先生だ。
なんでも彼はあのオールマイトの知り合いで、秘書として働いているらしい。
最初こそかっちゃんとせっちゃんが怪しんで攻撃しようとしたけれど、流石に三人で小さい頃から送っているオールマイトへの手紙を出されてしまっては、かのヒーローとの繋がりを疑えなかった。


「今日のタイムはこんぐれぇだ」


「ふむ、良いね!爆豪少年と白露少女はこれから個性も使ったメニューを組もうか」


「フン、ヨユーでこなしてやンよ!」


『楽しみ』


ワクワクした様子の二人を眺めていれば、ぽんと肩に手を置かれた。
落ち窪んだ目許で、優しい碧が僕を見ていた


「緑谷少年は、土台となる身体作りだ。良いかい?」


「勿論です!」


八木さんに笑って返す。
そう、僕に個性はない。
…けれどそれは、これからもそうとは限らない。


「僕は、オールマイトみたいな個性を作るんだから!」


『こせいがない?
じゃあ、いずくにあうこせい、つくればいいじゃん!』


「コセーつくんのか?じゃあオレとせつなのコセーさんこうにしろよ!
そんで、しょうらいバクゴーじむしょにはいれ!」



…二人が、ヒーローになりたい僕の夢を救ってくれた。
笑って何も言えなくなっていた僕に、光をくれたのだ。


緑谷出久。
個性はナシ。
将来の夢は────オールマイトみたいな個性を、作る事である。








夢の始まり







刹那→幼馴染。
個性はグラブルのジョブチェンジ。
無個性だからヒーローになれないと言っていた緑谷に、ならお前が個性の開発者第一号になれよと言った人。因みに覚えてない。
三人で居るとフリーダム。

爆豪→幼馴染。
個性は爆破。
無個性の緑谷を何とも思ってなかったけど、刹那が夢を肯定したので自分も肯定した。ちゃんと覚えている。
基本刹那の世話を焼いている。

緑谷→幼馴染。
無個性。
強い二人に肯定された事で、夢を持てた。
現在身体を鍛えているのは、高校に入ったら自分の身体を使って個性の実験をしたいから。
三人で居ると苦労人。

八木さん→子供の字で「個性は開発出来ますか?」と届き、それから毎年論文みたいな手紙を送ってくる三人組が気になって接触した。




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