五条に拾われる話(脱色→呪術)
今日も今日とて馬車馬の様に呪霊を祓う。
基本的に五条が任されるのは一級や特級────つまり最上級の呪いであり、彼以外に対処出来ないものだ。
とあるユーチューバーが軽率に心霊スポットとして取り上げた事で有名になり、訪れた者が帰って来なくなるという廃ホテルごと盛大に破壊しつつ、五条は溜め息を吐く。
「えー何これめんどくさ。うじゃうじゃ沸くじゃんゴキブリかよ。
てか呪霊の中にしれっとヤツが混じってない?」
消し飛ばしても何故か復活する大量の腕が生えた、蛇の様な呪霊。そしてその傍で牙を剥く白い仮面の異形。
呪霊だけならまだ良い。並の呪術師では歯が立たなくとも、五条であれば幾らでも対処出来る。
しかしアレは。
あの仮面の異形は駄目だった。
祓えないのではなく、彼が祓ってはいけないモノだ
五条はさっとポケットから今時珍しい折り畳み式の携帯を取り出すと、通話ボタンを押した。
呪霊の夥しい程に生えた真っ黒な腕を不可侵の壁で防ぎながらコールを聞く。
数回繰り返されたそれは、直ぐにぷつりと途切れた
〈はい、もしもし〉
「もっしもーし、悟くんだよ。お疲れサマンサー!
早速なんだけどさ、今から此方来れる?」
〈お疲れさまんさー。何?出たの?〉
「そ、前に聞いたちょっと強いヤツっぽい。討伐おねがーい」
〈ん。直ぐ行く〉
電話の向こうの人物は言葉通り、直ぐに動いたのだろう。掛けた時点で移動を開始していたのか、ばたんと扉の開閉音が聞こえた。
ぱちん、と携帯を閉じ、鎌を振り上げ五条を真っ二つにせんと迫る異形に向かい手にしたそれを向ける。
携帯電話に貼られた空色の花のシールが光を放ち────光の中から、細身の刃が飛び出した。
長い刀身は自ら飛び込んできた異形の眉間を呆気なく貫いた。後頭部まで串刺しにされた異形は苦悶の表情を浮かべ、足先からぼろぼろと崩れ落ちていく。
黒い粒子が空気に溶けた所で、五条は足許で蠢く呪霊を叩き潰した。
殲滅完了、廃墟の壊滅具合も凄まじいが、まぁそこは伊地知に任せれば良いだろう
『ねぇ、何で浮いてるの?』
少年とも少女とも取れる中性的な声が五条の鼓膜を揺らした。
彼女を此方に呼び出す門は五条が手許で開いたというのに地面に降り立っている着物姿の少女を見下ろして、五条は笑う。
「グッドルッキングガイはね、定期的に浮かばなきゃ全人類を虜にしちゃって戦争が起きるからだよ」
『???……ぐっどる、るっき…るっきぐー…?』
「グッドルッキングガイね」
『ぐっどるっきんぐがい』
「そ。僕の事でぇす!」
『悟くんが浮かばなきゃ戦争が起きる』
「グッドルッキングガイは大人気だからね」
『ん…?………ぐっどるっきんぐがい、は取り敢えず誉め言葉っていう事は判った』
五条の冗談を真顔で受け止め、疑うどころか真面目な顔で『綺麗な人は大変だ』などと宣う少女に元凶は堪えきれず爆笑した
虚という存在が居る。
それは人の魂魄が未練や強い恨みから負の方向へ変じ、身を堕とした化物だ。
虚に心はない。故に化物の胸には孔がある。そしてその孔を埋める為に、虚は生前愛した者に牙を剥く。
虚となった魂魄の罪を斬るのが死神の持つ斬魄刀。これで斬らなければ虚は倒せないし、仮にそれ以外の方法で虚を消せば、それは魂魄を成仏ではなく消滅させた事となる。
実際滅却師は魂魄の大量消滅を引き起こし、世界を傾けかけた。
幾度となく制止を求めた死神の言葉に耳を貸さなかった彼等。故に滅却師は滅ばされたのだ。
それを正義と呼ぶ気はない。殺し合いに正義なんてないと考えるからだ。
勝てば官軍という言葉がある様に、僕が霊術院で学んだこの知識も、本当は死神側が都合良く改竄した可能性だってあるのだし。
兎に角、虚を斬るには斬魄刀が必要だ。そこに例外はない。
完現術者も滅却師も厳密には魂魄の昇華ではなく消滅だし、呪霊を祓う呪術師も本来なら虚を攻撃は出来ても、倒す事までは出来ない。
彼等、呪術師の使う呪力は負の力に属し、それは虚に対して相性が悪いのだ。
十の力で消せるのが呪霊なら、百や二百掛けても低級の虚を倒せない、なんて事もままある。
逆に死神は呪霊が苦手だったりする。
主に陽の気を、しかも魂の罪を斬るという事に力を発揮する斬魄刀は呪霊を斬れないのだ。
魂魄が堕ちて形成された呪霊ならばまだ戦える。しかし人の負の感情から生まれた呪霊に対しては、斬魄刀はただの爪楊枝と化す。
斬れないし刺せないし、下手すれば折れる。鬼道に至っては喰って糧にされたりする。つまりあいつらにとって死神は極上の餌だ。
ぶっちゃけ僕もそれで死にかけたし、何度も悟くんの世話になった。
故に呪術師に虚は倒せない。死神に呪霊は倒せない。それが事実だ。
けれど、僕の前でパフェを堪能する呪術師────五条悟は規格外だった。
この男、以前巨大虚を危うく滅しかけたのである。
それも、三体も。
そんな事されたらあっという間に魂魄の調節が狂う。大体巨大虚一体で百程度の魂魄が詰まっているという換算だ。それを一気に三体も、輪廻の環に還すのではなく消滅なんかさせたら瀞霊廷が発狂しそう。
あの時は、たまたま居合わせた僕が巨大虚を斬り、此方の事情を説明し、なし崩しに友人になった。それが彼が学生の頃である
「んー、やっぱ仕事の後には甘いものだよね。どうしても糖分足りなくなっちゃうからさぁ」
『お疲れ様。今日の相手は特級?』
「そ。参っちゃうよねぇ、俺が幾ら最強だからって休む時間が移動時間だけとか有り得ないでしょ。馬鹿じゃねぇのあいつら。
今の呪術界は労基法も真っ青なブラックさ。まぁ夏さえ越せちゃえば落ち着くとは思うんだけど」
『此方も夏だからか虚が沸くよ。お陰で報告書は増えるし怪我人も出る。あいつら夏バテとかないの?』
「何それ呪霊に夏バテとかウケるんだけど」
ケラケラ笑いながら悟くんはパフェに刺さったプレッツェルを僕に差し出した。
ぽりぽりと咀嚼しつつお返しにパンケーキにバニラアイスを添えて彼にフォークを向ける。
サングラスの向こうで空色の瞳がゆるりと細くなった
「ありがと。んー、美味しいね」
『悟くん、無理は駄目だよ。…しんどかったら何時でも此方においで』
直哉さんに作って貰った通魂符は技局のものを更に改良したものだ。
一見ただの御札だけど、悟くんが呪力を込めれば一瞬で尸魂界に移動出来る便利アイテム。因みに転送先は僕の霊圧か僕の部屋の二択なので、ふらりとやって来た彼は執務室のソファーか僕の部屋の布団に伸びていた。
「うん、ありがとうね独月。また近々お邪魔させて貰うよ」
『おいでおいで。大体悟くんのトコの腐ったミカン共は悟くんの事嫌いな癖に顎で使い過ぎ。ほら、もっと食べなよ』
「はーい。あいつら俺の事が嫌いだから使いまくるんだと思うけど。独月のトコは上腐ってないの?」
『此方はゴタゴタが起きた時に上層部が敵に一掃されたからね。不幸中の幸いってヤツかな』
「良いなー。此方じゃんな事したって首がすげ変わるだけでぜぇーんぶ腐ってんだよなぁ。俺もちらっと考えた事はあるけど」
『考えたかぁ』
「考えちゃった☆」
テヘペロ、じゃないんだよなぁ。そんな事簡単に出来る奴がさらっと思い付いてるっていうのが大分怖いんだよなぁ。
八月の、あの夏の日。
大罪人・藍染惣右介が四十六室を一掃してくれた事で護廷の全権を総隊長が握ったし、それにより瀞霊廷での業務はとてもやりやすくなった。
そう考えると奴の謀反は上層部の風通しを良くするのに大いに役立ったとも言える。いや、殺すのが良い事とは言わないけれど
『まぁでも決戦は冬らしいからさ。冬に空座に来ちゃ駄目だよ。というか今も割とポンポンヤバいのが彼処に侵攻してるから、絶対来ないでね』
「えー、じゃあ独月も暫く会えなくなんの?俺も手伝おっか?」
『修行に専念するから暫くは現世には来られないかな。申し出は嬉しいけど、人間を巻き込む気はないよ』
現状やむを得ず黒崎一護を巻き込んでしまっているけれど、そもそも総隊長は護るべき対象である人間をこの全面戦争に巻き込むつもりはなかった。その為に現在急ピッチで開発を進められているのが転界結柱と偽物の空座町だ。
現在しれっと黒崎達現世組を遠ざけようという計画は進行しているらしい
悟くんも色々と規格外とは言え、その身は人だ。そして何より、僕の数年来の友人だ。
僕は、この癖が強いが優しい友人を此方の戦いに巻き込みたくない。
………そして何より、藍染が興味を持ってしまいそうなレベルで強いのが駄目。
この人強過ぎて絶対あいつに目を付けられる。
下手したら崩玉で何かされる未来しか見えないのだ。
…いや、藍染と悟くんってどっちが強いんだろうね?
『まだ時間はあるし、僕だって隊長やる程度には強いんだ。直ぐに裏切り者を絞めて来るから、安心してよ』
「んー、でもやっぱ心配だなぁ。独月は俺より弱いじゃん?いや、俺より強い奴とか居る訳ないけど。だって俺最強だし」
『正論なんだけどなーんかイラッとするなぁ』
そもそも隊長相手に弱いとか面と向かって言ってくる奴なんて居ないのだ。瀞霊廷は実力主義。そこで隊を纏める存在ともなれば、下手な貴族よりも権力を持つ事になるのだから
『…まぁ、真正面から弱いって言ってくれるのは有り難いよ。隊長なんて立場になれば周りは言ってくれないから』
「でしょ?だからもっとオマエは俺を誉めてくれても良いよ。俺は独月の実力も性格もしっかり理解してアドバイスしてあげてるんだから」
『はいはい悟サマ、パンケーキをどうぞ』
「んー、適当だけど許してあげる」
こいつ、ほんと良い性格をしている。
苦笑しつつパンケーキを刺したフォークを差し出せば、嬉しそうな顔で食べる悟くん。
まぁどんなに毒を吐かれても許せてしまうので、気にしないけど
『好きなだけ食べて。今日は時間あるから討伐もスイーツマップも手伝えるよ』
パンケーキを待つ美人の口にお待ちかねの物を放り込み、頭を撫でる。
…本当に見れば見る程美人だな。両手で頬を包む様にして顎を支えるというあざといポーズが全然違和感がない。普通に可愛い。嘘だろ違和感仕事しろ。こいつ修兵さんに顔面詐欺のクズって言われてたぞ。
白銀の髪に空色の瞳……色合いとしては僕も似ている筈なのに、何故彼はこうも綺麗なのか。
ばっさばさの白銀の睫毛を上下させ、悟くんはくつりと笑う。
「あはは、見た目頑張ってJKな150歳オーバーとかとんだ合法ロリだよね。その合法ロリに甘やかされてる俺も俺だけど」
『合法ろりとは?』
「可愛いって事」
ほんとか?合法って付いた時点で滅茶苦茶怪しいぞ?
ニコってしたって誤魔化されないからな???
────空が見える。
最後の最後、藍染に向けた牙は届かなかった。
刀身の中程で折れた斬魄刀が傍に転がっている。
僕の身も藤凍月と同じ様に、大きく斬り裂かれたまま硬いアスファルトの上に投げてある。
『は、はは………もう少しは、やれそうだと思ったのに、なぁ…………』
ごふ、と噎せた拍子に血を吐き出した。
口許を拭おうにも腕が動かない。最早指一本動かすのも億劫で、のろのろと目蓋を動かした
────空が見える。
動かない指の先からじわじわと熱が抜けていく。ああ、死が近付いてくる。
もう何度目かの隣人の足音はひたひたと、確実に此方に忍び寄ってくる。
今まで幾度も運良く救われた命ではあれど、流石に今回は無理だろう。近くに上級医療班が待機している訳でもなし、場所も判りにくい。
回道を自身に施すには血を流し過ぎた。
……ごめんね、修兵さん。
僕、帰れないや。
重たい目蓋を降ろす、直前。
ふ、と視界が翳って
「ほーらね、だから言ったじゃん。俺も手伝おっか?って」
死神がズタボロの死にかけとかマジウケんね。
────逆さまで映り込み、にんまりと笑う、空が見えた
空が見える
脱色×呪術廻戦ネタ。
アニメとシブから知識を得ているので大分にわか。
五条は独月が高校からの知り合いなので気を遣わず俺口調という設定。
口も性格も悪い高専五条がツボだったんだ…
死神は神に通じると考えると陰陽でいう陽の気を使ってるのかな?と思い呪霊には勝てない様にしました。
だって斬魄刀は罪を斬るのが仕事ですし。多分斬ってもまたくっつくとかそんなん。
イメージは+と−の掛け算。これで呪霊も倒せたら呪術師要らんな?ってなるし。
これは地味に気になってたんですけど、脱色の世界で石田やチャドが虚を倒しても怒られないのは何でなのかなって。
だって滅却師って魂魄ごと消しちゃうから滅ぼされたんでしょ?つまり斬魄刀以外の方法は駄目って事でしょ?
なら完現術も同じだよね?魂の調節者が十や二重なら魂魄消されても良いやーとか考えてたの?マジで?止めて?アニメ版とか石田滅茶苦茶虚を消しまくってるよ?世界の天秤傾かない?
もう護廷は現世組に協力求める前に斬魄刀握らせた方が良かったのでは?とか思ってた。
short storyへ
トップページへ