転生マスターとグランドセイバーはじめちゃん3


・捏造パレード






すっと意識が浮上して、ゆっくりと目を開けた。
映るのは肌色。
身体に巻き付いているのは長い手足。人を抱き枕の如く抱え込んでいるのは、私のファーストサーヴァントである。
残念な事に、枕が硬いのにも慣れた。地肌に鼻先を突っ込まれるのも嫌だけどもう慣れた。
そもそもコイツが護衛とか抜かして同室を勝ち取った(口論で負けた)時点で、こうなるのはお察しである。流石公式メロ男、やる事が乙女ゲー。
筋力A+の腕枕の上で欠伸をし、ゆっくり瞬きを繰り返す。
どうにかこうにか拘束を脱し、眠るはじめちゃんの顔を見つめた。
眉間に皺はない。良く角度を変える眉は下がり、鋭さを隠しきれない不言色の双眸は隠されている。


表情は穏やか。
…悪夢を見ていないなら、良かった。


そっと頬を撫でて、身を起こした。
起きる時は声を掛けてと言われているけど…良いか。寝てるし。というか護衛がぐっすりとはこれ如何に。まぁ、妙な気配がすれば秒で刀抜いてそうだけど。
そんな事を思いつつ、着替えを持って洗面台に向かった。
白露の魔術防壁を込めたくった魔術礼装を身に纏い、部屋に戻る。
ベッドの上で、はじめちゃんが身を起こして此方を見ていた。


『おはよう、はじめちゃん』


「おはようマスターちゃん。声掛けてくれれば良かったのに」


『寝てたから』


「起きたら居ねぇのって心臓に悪いんだって…いや、剣客の癖に起きねぇ僕も悪いんだけどさ…」


『良いんじゃない?此処ならはじめちゃんも気が抜けるって事なんだし』


「そうだけどさ…そうなんだけどさぁ…」


『それに部屋に私達以外の気配がすれば、起きる所か刀抜くでしょ?』


「そうだけどさぁ……斬るけどさぁ…」


『うん、相手確認してからなら斬って良いよ』


はじめちゃんの要望である“許可なく侵入した相手の魔力を強制的に外に排出、並びに強制スタン”というえげつない罠を盛り込んだ結果(実験台は以蔵さん)、はじめちゃんは前よりぐっすり眠れる様になった。因みにそれでも標的が動く場合、元々埋め込んであった四肢切り落としからの燃やしますトラップが発動する。
アヴァロンと玉藻にも魔術防壁を張って貰ったこの部屋は、最早シェルターに近い。
多分言峰のロケットランチャーも、何発かは凌げるんじゃないだろうか。


「んーっ…良く寝た。
マスターちゃん、本日の御予定は?」


『食堂のサポートに入って、ブリーフィング。
それから────二時間後に』


魔術礼装の長い袖をベルトで固定して、着流し姿の彼にちらりと目を向けた


『……オルレアン攻略』















邪竜百年戦争オルレアン。
一人の聖女の在り方を巡る、白と黒のジャンヌ・ダルクの物語。
ぼんやりと随分前にクリアした章の内容を思い返していると、声を掛けられた


「────白露くん。
君には藤丸くんに頼めない任務を、頼む事になるかもしれない」


官制室にまだ私とはじめちゃんしか居ない時、ドクターはそう切り出した。
無言でそちらに視線を向ける私の隣で、軽薄な笑顔を張り付けたのははじめちゃんだ。
彼が動かない様に、そっと腕に触れる。
鯉口を切らんと添えられた親指が、鍔を持ち上げる寸前で止まったのを視界の端で捉えた。
………あっっっっっぶな!!!!私のはじめちゃん、短気過ぎんか???
内心叫びつつ、平静を装って返事をする


『……敵の殲滅、とかですか?』


ぶっちゃけそれだけで済むならまだマシだ。
はじめちゃんが危惧しているのは、きっともう一つの方だろう


「…もし危険度が高い任務の遂行が必要となった場合、出来れば君に当たって貰いたい」


『……まぁ、そうなるでしょうね。良いですよ、私は』


当たっちゃったかー。…ああ、うん。じゃあ、仕方無い。これも自分のサーヴァントと円滑な関係を保つ為である。
へらりと笑えば、ドクターも気が抜けた様に相好を崩した。
それを見ながら、手を離す。
瞬間、銀色の輝きが翔けた。


────ひたり。
ドクターの首筋に、刃が突き付けられている


「えっ」


『此方としては、魔術の魔の字も知らぬ子供を最前線に放り込むのはどうかと思うので、異論はありません。
召喚システムの為にも肉体の寿命的にも、マシュに負荷を掛け過ぎたくないのも判る。
実際サーヴァントとマスターの能力を比較しても、ドクターの提案は理に適っています』


良しの一言を待つ私の狼の後ろから、青ざめるドクターを眺める。
…これ、良しって言ったらほんとに首落としそう。いや怖いな?何がって、一通り此方の旅の記録を読んだと言った癖に、終章の鍵ソロモンを今此処で殺そうとする迷いのなさが。
やっぱり幕末の人斬りはメンタルガンギマリ。敵に回したら怖いね。


『……ただ、私のセイバーは有り難い事に私第一主義なので。そこを忘れないで頂ければ、私をどう使って頂いても結構ですよ。
────全ては人理の為に。なんてね』


定番の“私は許そう。ただし私のセイバーが許すかな!?”を食らわせた所で、はじめちゃんを真似たへらへら笑いを止めた。


『セイバー』


声を掛ければ、ゆっくりと刃が退かれた。
キン、と鍔が音を立てると同時、一歩此方側へとはじめちゃんが下がる。
どうせ目をかっ開いたアルカイックスマイルを浮かべているんだろう。完全に由来の意味での笑顔である。
幕末の人斬りに真正面から殺気をぶつけられるドクターに同情しつつ、礼装の確認をした。
それから使用予定のコフィンに妙な仕掛けがないか、魔術で透視する。
…爆薬、及び妙な魔術の形跡はなし、と。よし。


『セイバー』


「……はいはい、何です?マスターちゃん」


良い加減可哀想になってきたので、はじめちゃんを呼んだ。
此方に戻ってくるはじめちゃんは何時も通り飄々とした顔をしているが、どうせ去り際に片目を眇めた睨みを効かせてきたんだろう。
小声でそっと、問い掛ける


『気は済んだ?』


「いやいや────あの程度で足りるとでも?」


『相手は人間なんだから、加減してね』


かの有名なソロモン王とはいえ、現在は力のない青年だ。サーヴァントの殺気など、抵抗する手段のない身では恐ろしいだろう。
私の言葉に肩を竦め、はじめちゃんは嘲る様な表情を浮かべた


「僕からすりゃあ、こんな事態を引き起こした原因の大元に心を砕いてやる筋合いはねぇんだが」


『まぁ…うん。でもほら、あの人はあの人なりに、足掻いてるし』


全能だった自分を捨てた事で人間性を得たのに、手出しの出来ない歯痒さ。そんなもの味わうとは思ってもいなかっただろう。
おまけに人理焼却を行ったのは、自分の遺体を使う魔術式。
折角普通の人間になれたのに、その寸前に自分の所為で世界が滅びるのを視るとか、運が良いのか悪いのか。


『まぁ私達は最前線贔屓で行くから。作戦名はいのちだいじにで』


「はーい。マスターちゃんだいじに、ね」


『……藤丸くんとマシュもね』


なんかしれっと主人公主従見捨てたりしない?
思わずじとっとした目を向けると、へらりと笑ったはじめちゃんは言う


「判ってますって、藤丸ちゃん死なせたら色々面倒になる事くらい。
だから、死なない程度に気に掛けますよ。
盾のお嬢さんもまぁ、気が向いたら鍛えましょうかね。オルテナウスになる前のあの娘のスキルと宝具、便利ですし」


『………うん。もう良いや、それで…』


ほんとにこの男、当初のスタンスを崩さない。
最初こそあれはポーズで、オルレアンに行く前に、藤丸くん達を気にしたりしてくれないかと思った時期もありました。
…ええ、普通に無関心を貫かれました。
いや、まぁ私を気に掛けてくれるのは有り難いんだけどさ…ぶっちゃけ玉藻とアヴァロンの方があの子達の面倒見てるってどうなのよ。
何だかなぁ、ファーストサーヴァントって立場がはじめちゃんに無理させてやしないかと、心配になるのだ。
どうせそう聞いた所で、この男はドロッドロな感情をお出ししてくるだけなので、言わないけれど。


「マスターちゃん、ちょっと聞きたいんだけどさ。魔力放出ってどうやるの?」


全然違う話題を振られ一瞬固まるも、直ぐに内容に首を捻った


『魔術云々より斬った方が早い時代の人が、いきなりどうしたの?』


「いやぁ、マスターちゃんと契約してステータスが上がったろ?
Eランクだった魔力がCになってるしさ、騎士王みたいにビームとまではいかなくても、刀からなんか出せたら面白いと思って」


『……ああ、そうなれば攻撃の幅も広がるね』


例えば、私が炎の神を顕す梵字をはじめちゃんの刀に刻むとする。
今では私が魔力を流さなければ炎は出ないが、はじめちゃんが魔力放出を出来る様になれば、自ら刀に炎を纏わせる戦い方も可能になるという訳だ。
そんな魔改造、本来ならば有り得ない事だが────戦力が足りていると言えば足りているけど圧倒的に人数が足りない我が陣営としては、とても有り難い。


『んー…作戦決行まで時間あるし、ちょっとシュミレーションルーム行こっか』


「了解」


何より私が見たいよね、魔力放出する斎藤一。
炎を日本刀に纏わせる斎藤一。氷とか雷を操る斎藤一。
……いや想像だけで格好良いな???




















「安全なレイシフトってあるんだなぁ」


レイシフトした特異点にて、藤丸くんが呑気な声を上げた。


『まぁ、冬木のはねぇ…レイシフト適性ある人間を片っ端から放り込んだっぽいし』


「前回は事故による転移でしたが、今回はコフィンによる正常な転移です。身体状況も問題ありません」


「フィーウ!フォーウ、フォーウ!」


「フォウさん!?また付いてきてしまったのですか!?」


何処からともなくひょこっと顔を出したフォウくん。そういえば、私フォウくんと遭遇した事ないな。そりゃそうか、私は絶対に秩序・善じゃない。
恐らく彼の思う善き人ではないのだろう。
周囲を興味津々で見つめる二人を眺めていれば、何故か一人だけぽつんと離れた場所に立っていたはじめちゃんがやって来た。


「マスターちゃん、周囲に生体反応はないよ」


『判った。……ん?生体反応?
はじめちゃんってスキャン系のスキルあったっけ?』


あまりにも平然と言われたものだから、納得しそうになった。
いやいや幕末の人斬りはそんなモン持ってないわ。
内心突っ込んで問い掛けると、けろりとした顔で彼は言う


「殺気をぶちまけたけど、反応なかったの。
試しに殺気乗せて魔力飛ばしてみたけど何も出てこなかったから、厄介なモンは居ないと思うよ」


『幕末式危険探知…』


「あはは、何それ。だって隠れてるモン炙り出すなら、自分から此処ですよーって言って貰った方が楽でしょ?
鼠って隠れるのが上手いからねぇ」


『そういうの笑顔で言うから怖いんだよなぁ』


離れた場所に居ると思ったら、敵の炙り出しをしてたのか。
まぁレイシフトはマスターと本契約のサーヴァントのみだから、彼が警戒してくれるのは有り難い。
ゲームではサーヴァントを何騎も連れてレイシフトしていたけれど、此方はマスターが二人、人でいえば三人だ。
万全の状態でレイシフトを行いたいというドクター達観測側の意見により、本契約以外のサーヴァントは、ベースキャンプから召喚で喚ぶ手筈となった。


『藤丸くん、この辺りには生体反応はないみたい。移動しよう』


「はい、ベースキャンプになる場所を捜します!」


「作戦開始ですね!」


「んじゃまぁ、行きますか」


ひょい、と抱き上げられ、自分が悟りを開いた顔をしているのは鏡を見なくとも判った。
原因はコートを風に靡かせながら、涼しい顔で長閑な丘を歩いていく。
所謂、これぞヨーロッパの昔の風景という様な、だだっ広くて何もないという景観だ。丘と緑しかない。
はじめちゃんに抱えられながら、のんびりと周囲を見渡す。


「マスター、白露さん、斎藤さん。時間軸の座標を確認しました。どうやら1431年です。
現状、百年戦争の真っ只中という訳ですね。
ただ、この時期はちょうど戦争の休止期間の筈です」


「戦争に休みがあるの?」


「はい。百年戦争はその名の通り、百年間継続して戦争を行っていた訳ではありません。
この時代の戦争は比較的のんびりしたものでしたから。
捕らえられた騎士が、金を払って釈放されるなど日常茶事だったそうで。…先輩?」


「…白露さん、斎藤さん。あれって」


『んー……魔術式だろうね。凄い大きさ』


「へぇ……あれが奴さんの人理焼却した魔術って事?とんでもないねぇ」


上空に浮かぶ光の輪。一瞬解析しようかと思ったけれど、止めておく。
あんな規格外、覗けばあまりの情報量に、此方の脳がやられるだろう事は判りきっていた。


〈よし、回線が繋がった!画像は粗いけど、映像も通る様になったぞ!〉


宙に現れたドクターの映像を一瞥し、もう一度空に目を向けた。うーん、あれが人類史丸ごと使いました!とかいうヤバい物体じゃなければ綺麗なんだけどなぁ


〈って、どうしたんだい皆?揃って空を見上げちゃったりして〉


「ドクター、映像を送ります。 あれは、何ですか?」


〈これは────光の輪…いや、衛星軌道上に展開した何らかの魔術式か…?
なんにせよとんでもない大きさだ。下手をすると北米大陸と同サイズか…?
ともあれ、1431年にこんな現象が起きたという記録はない。間違いなく未来消失の理由の一端だろう。 アレは此方で解析するしかないな…〉


「マスターちゃん、あれ」


『ん?…そういや現地民と接触するトコあったね』


はじめちゃんに小声で促され、目を凝らす。
少し先に鎧の集団が居るのが見えて、もう朧気なストーリーの断片を思い返した。
確か盾で峰打ちとか、意味判らん話をしていた様な気がする。


〈君達は現地の調査に専念してくれて良い。
先ずは霊脈を探してくれ〉


「ドクターの言う通りです。
周囲の探索、この時代の人間との接触、召喚サークルの設置…やるべき事は山ほどあります」


「俺海外って初めてだなぁ!
白露さんって海外旅行とか行った事あります?」


『一応ロンドンにならあるかな。時計塔…魔術関連のものではあるけど』


「ロンドン!スターゲイザーパイ食べました!?」


『ああ、アレ…うん、なかなか前衛的な食べ物だったな…』


何をどうしたらあんな見た目にしようと思うんだろう。案外味は悪くなかった気はする。見た目のインパクトが凄いってだけで。
数年前の記憶を思い返していると、そっとはじめちゃんに呼ばれた


「マスターちゃん、どうする?あの御一行に声掛けるかい?」


『んー…尾行が楽そうだけど………藤丸くん、現地民見付けたよ。声掛ける?』


どうせ声を掛けてもバトルだった筈。
黙って尾行でも良いと思うが、此処は主人公に任せるべきか。
声を掛けると、彼は鎧の集団にぱっと目を輝かせた


「行きましょう!」


「確認……どうやらフランスの斥候部隊の様です。
見た所ヒューマノイドです。
話し合えばきっと、和平的に解決します」


「良し、第一現地民へGO!」


それを聞いた藤丸くんが、マシュを伴い彼等に接近する。
私を抱えたまま速度を変えないはじめちゃんは、静かに呟いた


「……予想以上に機械っぽいんだな、あの娘」


『うん。…あれ、はじめちゃんってウチ来たの何時だっけ』


「確か終局前よ。マスターちゃんがソロモンに新人の僕連れていったのは良く覚えてる」


『あー…終局って聞いてクリアさぼってたなぁ』


第二部があると聞いて漸く重い腰を上げた気がする。随分と前の事なので、最早朧気なのだ。


『ソロモンが怠かったのは覚えてるわ』


「僕もマスターちゃんがキレてたのは覚えてるよ」


『いやだってめんどくさいギミックだったと思う…無敵貫通とかだったっけ?』


「確か、ある程度削ったら味方全体の強化解除、そんでもうちょい削ったら、チャージ最大即宝具だったかな」


『最悪』


「そもそものスキルがチャージ1増加とかクリティカル3ターンアップとか、他にも色々…頭抱えてたね、マスターちゃん」


『コマコで剥がせないのにそれとか…何個石割ったんだろうな…』


「さぁ?沢山だったのは判るけど」


『うわぁ…』


思い出したくない、銀さんの声で喋りながらクソハメスキルをガンガン使ってくる鹿面のラスボス。
私のカルデアにマーリンなんて便利なキャスターは居なかったので、フレンドのマーリンを借りていた筈。そしてマーリンは微妙にはじめちゃんと噛み合わないので、宝具1だった彼の攻撃力は今と比べるととても低かった。
おまけにコマンドコードや足跡といった強化アイテムもなかったので、文字通り石で勝ちを買うバトルだったのだ


『今ならはじめちゃんでフルボッコ…』


「無敵の一ちゃんに任せときな。コマンドコードの恐ろしさを思い知らせてやるさ」


『普通に怖いよね。解除系と宝具威力アップとか便利過ぎて』


「あれ、そっち系のが好きなの?僕それとクリティカルアップ三枚貼ってるけど」


『はじめちゃんのコンセプトはアーツクリティカルゴリラなので』


「やだなぁゴリラ…でも筋力A+でゴリラじゃないってのは無理だもんなぁ」


『諦めて。貴方はゴリラ。礼装のお陰で星吸ってぶん殴って宝具連射するゴリラ』


「悪意しかねぇなぁ」


ぼやくはじめちゃんを見て笑う。
だって星を吸ったはじめちゃんの威力がエグいのが悪い。バフを盛った状態で三回限定のクリアップが噛み合うと、ランサーやバーサーカー相手ならボスでも1ターンキルが可能だったりする。
バスター宝具アーツのブレイブチェインで三体斬り捨てる、撫で斬りごっこも楽しかった。因みに三枚目でクリティカルを出せば、次ターンにもう一度宝具である。エグい


『楽しかったなぁ撫で斬りごっこ。最初のバスターで確実に一体仕留める必要はあるけど、はじめちゃん殆ど仕損じないし』


「あー、1ターンで三体斬り捨てるアレかぁ。まぁクリティカル出せなくても、大概バスターで死ぬしね。
…ねぇ名前どうして撫で斬りにした?もう少し可愛い名前なかったの???」


『えっ、通り魔ごっこ…?…ストーカーごっこ…?』


「もう良いや、撫で斬りごっこねストーカーはやめろ殺意が沸く」


『えっ急に怖い顔するじゃん…』


「被害者お前なんだが?頭可笑しいの???」


『いや、あれもう終わった私の事だしな…』


確かにストーカーに殺されたが、それは今の私じゃないしな…というのが本音だ。はじめちゃんはどうにもその件が引っ掛かっている様だが、別にそんな気にしなくとも良いのに…って言うのは違うな。それははじめちゃんへの侮辱か。
うーん、難しい。この優しくて不器用な人は、どう言えば納得してくれるのか。


『おっ、接触した』


「コイツ……はぁ、切り替えますよ。後で話し合いね、マスターちゃん」


『えっ、すごくいや…』


「ヒッ……!!
敵襲!!敵襲ーーーーー!!!!!」


『はい、和平的に解決出来ませんでした』


「お疲れ様でしたー」


しれっとその場で留まろうとしたはじめちゃんの肩を叩く。進め。私無関係ですって顔するな


「えええめんどくさぁ…人じゃん…斬っちゃダメなんでしょ?お嬢さんが全部盾で殴れば良いじゃない…」


『こんな時の峰打ちでしょうが。数多いんだから文句言わない』


「刀抜きたくなーい」


溜め息を落としたと思えば、急に踏み込んだ。
たん、と飛んだ男の革靴が、此方に背を向けていた斥候部隊の後頭部を捉える


「がっ…!」


「なので、蹴り落としま〜す。
あ、首折っちまったらごめんねぇ?仕事はきっちりやるけどさ、僕ってば鼠の扱いは慣れてないのよ」


へらりと笑った男に思わず頭を抱えた。
囲まれている藤丸くんとマシュに、せめてとアドバイスを送る


『…マシュ!!藤丸くん!!!
殴れ!!!その盾のちょっととんがったトコでちょっと殴ればきっと死なないから!!!あっもしそれで死んだらごめん!!!!』


「ねぇ白露さん、ドクターもマシュも言うんだけどさ、盾で峰打ちって何!?!?!?
実は俺が知らないだけで世界共通だったりします!?」


「え〜知らないの藤丸ちゃん、盾で峰打ちとか僕らの時代から常識よ?」


「はっ、そうなんですか!?新選組の時代から…!?」


『いやいや嘘でしょ藤丸くん、違うよ!?
コイツ君の事からかってんの!!見て!!めっちゃ笑うの堪えてるから!!!!!』


何だあの子素直すぎんか?大丈夫??変な壺とか買わされた事ない???














フランス兵を蹴飛ばし盾で殴打し、どうにか退けたのは良い。
ただマシュが優しく殴ったらしい一部の兵が、気絶した仲間を引き摺って逃げてしまった。


「殴打が甘かった様です、撤退されてしまいました」


〈どうやら砦に逃げ帰る様だね。そっと追い掛けて、状況を問い詰めよう〉


『んー、やっぱり黙って尾行した方が良かったのかな?なんか無実の現地民をゴリラで蹂躙しただけな気が…』


「命じたのはマスターちゃんでーす」


「はっ、つまり接触しましょうって言った俺に責任が…!?」


『あー、気にしなくて良いよ。
人間ボコるのは大変って、マシュが学ぶ良い機会になりましたって事にしよう』


「そうですね。次は完璧に峰打ちを出来る様に訓練します」


「いやいや、先ず盾の峰って何処よ?」


「さっきめちゃくちゃ俺の事騙したのに…!!」


「ははっ、何でもかんでも信じたら痛い目見るよ?
特に僕みたいなのは信用しない方が、ね」


『大丈夫、この人は基本信用して良いよ』


「おーいマスターちゃん」


『…ただ、私と藤丸くんを天秤に掛けたら、絶対にセイバーは君を見捨てるって事は、覚えておいて』


はじめちゃんに抱えられたまま、藤丸くんと視線を合わせる。
彼だけじゃない、私が召喚したサーヴァントは、私を一番に考える。藤丸くんのサーヴァントもそう。彼等は究極の選択で、もう一人のマスターを見捨てる。それが道理だ。
ただ恐ろしいのは、私のサーヴァントに二騎ほど────必要とあらば、本当に藤丸くんを斬って捨ててしまいそうな人が居るという事で。


『これはね、マスターが二人居るって時点で避けられない事だよ。勿論そんな事態に陥らない様に善処するし、対策もする。
でも、君が一番危ない時に頼るべきなのは、マシュだって覚えておいて』


本契約だし、一部なら基本居るからね、マシュ。二部ではイベストでちょいちょいお留守番だが。
頼むよ藤丸くん、万が一にも、はじめちゃんと以蔵さんだけは頼らないでね。お前が死ねば良いのでは?なんて闇のアイデアロール成功した瞬間に刀抜くから。
私の言葉を聞いたマシュはびしっと背筋を伸ばした。
藤丸くんは、真っ直ぐな瞳で此方を見つめている


「白露さんは、斎藤さん?」


『そう。私のセイバーは無敵だから』


「無敵の一ちゃんに任せときな。……護りきるさ、絶対に」


今度こそ、と続いた小さな言葉に、そっと彼の腕を撫でた。


「判りました。マシュ、いざって時は頼むね」


「お任せ下さい。マシュ・キリエライト、先輩のファーストサーヴァントとして務めを果たしてみせます!」


〈マシュ、立派になって…〉


…良し、そのまま素直に自分のサーヴァントに真っ先に頼りなさいね。
ウチのサーヴァントは絆レベルが高い上に聖杯入りだからか、どうにも過激派が多い様に思う。アヴァロンはセーフだけど、玉藻辺りも微妙だからね。私はあの人を実は隠れ過激派だと思っている。
…こっそりと音声遮断の意味を込めた絶の梵字を描いた。これで音声は何処にも拾われない筈だ


『ねぇ、私が喚べるのって聖杯入りで絆レベルが高いサーヴァントだと思うんだけど』


「うん」


『はじめちゃん的に来ても良いかなっていう全体宝具のサーヴァントは?』


過激派筆頭であるはじめちゃんとぶつからず、出来れば藤丸くんも気に掛けてくれそうな全体宝具のサーヴァント。…そんな聖人みたいなサーヴァント育ててたっけ???
不安になりつつ問えば、斜め上を見てから、はじめちゃんが口を開いた


「全体宝具なら、近藤さんかインドラ神かダンテの兄さん、あとはエミヤの兄さんかな。村正の旦那と騎士王とパーシヴァルの旦那は絆は上がってても、聖杯を入れてないし。
サポーターなら蘭陵王も良いんじゃない?」


『聖杯入れてないとダメ?』


「此方に来るには、聖杯で霊基を保護してるらしいからね。僕は何となくで無理矢理来たけど、それもアヴァロンの姉さんとかに保護魔術を掛けられたから無事だったって聞いたし」


『なんて無茶を…そういえばどうやって来たの?』


「え?あんたが犬神を“喚ぶ”術式に無理矢理介入して、勝手に出てきた。
ほら、こう…ぐいって狭い隙間に手を突っ込んで、無理矢理通り抜ける感じよ」


『なんて無茶を……』


「いやぁ絆レベル15って凄いよねぇ。
誰も気付いてなかったけど、勘であ、これマスターちゃんだって思って目の前の何もないトコに手ぇ突っ込んだらさ、急に青紫の裂け目が出来て。しかもそれがあんたの魔術だって言うじゃない?
僕がそいつを抉じ開けてる間に、キャスターさん方が色んな魔術を掛けてくれたってワケ」


怖すぎる。なにその行動力。
────確かにあの時、私は犬神を召喚した。
けれどそれは魔術刻印に刻まれた魔術を起動しただけであって、間違っても英霊を喚ぶ規格でも魔力量でもなかった筈なのだ。
それを無理矢理抉じ開けて通るって…例えるなら針の穴に指先を押し込む様なもの。あまりにも大きさが違う。
下手したら腕とか失くしてそう…というか霊基が砕けても可笑しくなかったのでは…
思わず頭を撫でると、はじめちゃんは擽ったそうにはにかんだ


「なぁに?褒めてくれるの?あは、ありがとね」


『……来てくれてありがとう。何もなくて良かった…』


「だぁいじょうぶだいじょぶ、一ちゃんってば無敵だから。
それに────お前が育てたサーヴァントが全力で俺を保護したんだ。無事に決まってんだろ」


急に低い声でそう囁かれ、心臓がきゅうっとなった。だからこいつ…急に真面目になるなと何度も…


「お前がサーヴァントを育てたお陰で、俺は無傷で此処に来た。…ありがとうな、マスター。
お前のお陰で、俺は無敵の剣で居られる。
…赦してくれるなら護らせてくれよ。これからずっと、お前の傍で」


『』


「……なぁんてね。あは、照れちゃったのマスターちゃん?かぁいいねぇ」


『またなんてねって言った…!んの匂わせ男が…!!』


お前は!そうやって!!人をメロつかせる!!!
赤くなった顔を隠せば、頭上から全然笑えない言葉が降ってきた


「えっ、匂わせ止めたら本気で口説くけど良いの?……良いんだな?二言はねぇよな?」


『アッ待ってある二言ありますダメです』


「はーい却下〜。…んじゃまぁ、本気で口説くとしますか。
そもそもアレだ。今すぐは抱かねぇが、口説いちゃダメとは言われてねぇもんな」


『アーーーーーーーーーー……』


「なにそれ鶏の断末魔?面白いねマスターちゃんwwwwwww」


墓穴…また墓穴掘った…
なに?私墓穴掘るってスキルでもあんの…?


























「え、白露さん大丈夫ですか?今の間に何が…?」


『大丈夫…ウチのサーヴァントと戦り合ってるだけだから』


「人聞き悪いなぁ。これからもお傍に置いてねって頼んでるだけよ?」


あんたのお傍には死ぬまでなんだよなぁ…というか死んでも一緒に居そうまである。
なんだろう、ゲームの時の大人の男の余裕がヤバい方向に全振りされてる感。
そもそもゲームだったから、バレストのクソ重い独白も知っているとバレた時の鳥肌よ。
あ、じゃあ隠さなくて良いのね?オッケーこれから表に出すわwwwみたいな雰囲気で、クソ重感情を投げ付けてくる様になったのである。しかも二人の時に。軽率にドロドロをお出しするな怖いし重い。
今も目が合えばふわりと微笑んでくる辺り、完璧にロックオンされている。ワァ、イケメンの本気って怖い…


「────これは… 酷い、ですね…」


斥候部隊を追尾して辿り着いたのは、内側が大きく崩壊した砦だった。


〈中がボロボロじゃないか…外壁はそこそこ無事だけど、砦とは呼べないぞ、これ〉


「戦争中だから?」


「……いえ、それは有り得ません。
1431年、フランス側のシャルル七世がイギリス側についたフィリップ三世と、休戦条約を結んだ筈です。
勿論小競り合いはあったかも知れませんが────」


「外壁は無事で中だけボロボロって、明らかに可笑しいよね。
まるで大きな生き物が────空を飛んでやって来た、みたいでさ」


『あ』


はじめちゃんの見つめる先、黒い影が此方を目指して飛んでいる。
それなりに離れているだろうにこの大きさだ、実際はかなりの巨体だろう。
影は七。きっとはじめちゃんの敵ではないだろうが、飛んでいる分時間が掛かりそうだ。


『藤丸くん、推定敵影発見。私とセイバーはアレの制圧に動く。君達は…』


「藤丸ちゃんと盾のお嬢さんは、そいつらの相手しててよ。準備運動には丁度良いだろ?」


私の言葉を遮って、はじめちゃんは丘の向こうからやって来る骸骨兵を指差した。
凶骨祭りか、良いな。この男バリボリ凶骨食ったもんな。


「判りました!マシュ、頼む!」


「はい!マシュ・キリエライト突貫します!」


盾を構え走っていったマシュを見送り、此方も敵影目掛け動く。
砦から少し離れた場所を陣取ると、はじめちゃんは岩影に私を降ろした。


「マスターちゃん、念の為、出来るだけ防御系の魔術張ってて。んで犬神も出して此処に隠れてな」


『了解』


「数が多いし、魔力放出でサクッと終わらせたいな。好きなの書いてよ、使いこなして見せるからさ」


『良いの!?』


腰から抜いた刀の柄を向けられ、思わず声を弾ませてしまった。
浮わつきを隠せなかった私を笑顔で見下ろして、はじめちゃんが頷く


「正直飛んでなきゃ蹴り殺すんだけどね。
相手が飛んでるなら、此方も斬撃飛ばした方が早いだろう?」


『可哀想なワイバーン……良し、書いた。雷出るからね』


「はいよ。じゃ、見てな」


帝釈天の梵字を日本刀の柄にそれぞれ刻んだ。私が扱う魔術は、梵字に意味を込めて使うもの。簡単に言うとルーン魔術の下位互換である。
いやルーンが便利すぎるのよ。何あれどうしたら霊基変更とか出来るんだ…
犬神を呼び出し、こっそりと岩影から顔を出した。
此方に背を向けるはじめちゃんが、低く腰を落とした。


「さて────殺すか」


居合の構えだ。
風に煽られ、コートの裾がはためく。
一切の動きを止めたはじめちゃんの頭上に影が差した。


「GUOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!」


ワイバーンの咆哮が響く。
複数の影が重なり、薄緑の巨体が身動ぎもしない彼に狙いを定めた、瞬間


「────死ね」


凪いだ、囁く様な声と共に、銀色が翔けた。
ばじり、と爆ぜる音を伴った三日月型の斬撃が真っ直ぐに真上に放たれ、頭上に集っていた四頭のワイバーンの首を落とした。
血の雨が降る中、瞬く間に納刀したと思えば、正面に長脇差を一閃。青白い光が迅り、大口を開けて迫っていたワイバーンが一瞬で黒焦げになり、両断された。
キン、と刃が戻る音。
不言色がきろりと此方に向けられた瞬間、目の前が一瞬で真っ黒になる。
何事か判らず悪寒が走った時、それが先程まで少し離れた場所に居たはじめちゃんの背中だと気付いた。


「結界でも張って傘作りな。血塗れにしちまうからよ」


『了解』


水の梵字を書き、半球状に水の膜を作った。
その瞬間に打刀が抜かれ、金色の斬撃が放たれる。頭上のワイバーン二頭がざっくりと斬り捨てられた。
ばたばたと血の雨が降ってきて、水の壁に当たっては滑り落ちていく。


『うわぁ…』


「あーあ血塗れ…あ、ごめんねマスターちゃん。血って平気?」


『まぁね。これでも魔術師ですし』


首と翼を喪った巨体の群れが地に落ちる。身体まで響く震動を感じながら、隣を見上げた。
ぶちまけられた血の雨を被ったはじめちゃんはドロドロだ。
鬱陶しそうに目許を拭うと、はじめちゃんは一瞬姿を消した。
次に現れた時にはすっかり元通りだったので、熟サーヴァントとは便利なものだと思う。


「撃ち漏らしはなさそうだし、帰るとしますか」


『お疲れ様、はじめちゃん』


「いえいえ、お安い御用よこんなの。雷なんて扱った事もないから面白かったしね」


『次何にしようかな。炎も似合いそうだし、二振り別のでも格好良いよね。え、どうしよ…』


今回は雷にしたが、やっぱり炎も良いと思う。
青い炎とかめちゃくちゃはじめちゃんっぽいし。赤と青の炎でも良いな。うわぁ、白露の魔術師で良かったって思う日が来ようとは…
にこにこしている私を、はじめちゃんも同じ様な表情で見ていた事を私は知らない







一刀纏雷







刹那→転生マスター
斎藤に魔力放出を教えた。アーツクリティカルゴリラに飛び道具を与えた戦犯。
斎藤が無敵っぷりを発揮しているのが好きなので、雷とか自在に操ってると語彙がなくなる。
判りにくいがちゃんと斎藤を異性として意識している

斎藤一→サーヴァント
ステータスが上がっているので、折角だからと魔力放出を覚えた。生前出来なかった奇術師みたいな事が出来て楽しい。
刹那を三人の現地調査班の中で一番下に置くロマニが嫌い。
強制召喚は地味に綱渡りだったと判明した。下手したら霊基が崩壊するレベル。成功したのはレベル120まで注がれた聖杯と、キャスター勢の努力、そして彼自身の幸運のお陰。
刹那が嬉しそうだと自分も嬉しい。

ロマニ→ドクター
決して上に立つ者として間違った判断はしていないのに、蛇蝎の如く斎藤から嫌われている。

藤丸→マスター
素直な良い子。
しれっとした斎藤に騙される事が多い

マシュ→デミ・サーヴァント
素直な良い子。
まだ機械っぽい。



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