雪梟(MHA夢/爆豪に世話される)


・ヘイトではない。ただし拗れている
上記の注意事項が許容できる方のみお進みください。





一つ、質問するとしたら。
この世を創造した神に、問う事が許されるとしたら。


何故、個性の遺伝なんて可能にしたのか。


……それを、切実に問い質したいと思っている。










この世は、個性という超人的な能力を宿した人間で溢れている。
大体三歳から四歳程度で個性の発露が始まり、総人口で言うならば、八割は何らかの特殊能力を有している事となるんだったか。
千差万別の個性。それはほぼ意味のないものから、容易に人を殺せるものまで様々。
そうなれば、強力な個性を悪い事に使おうと考える者も出てきたって可笑しくない。
そういう存在…ヴィランを取り締まるのが、ヒーローという職だ。
そして私は、その専門職を目指す雄英高校ヒーロー科の一年生。
ひよっこどころか有精卵である身では、まだまだ至らない事ばかり。


身嗜みを整え、欠伸を一つ。
ワンルームの室内には既にコーヒーの香りが漂っていて、今日も物好きだなと思いつつパーテーションから出る。
顔を上げた先、キッチンに立つ淡い金髪の男に声を掛けた。


『おはよう、バク』


「はよ。…寝癖やべぇぞ」


『昨日乾かさずに寝たからかな』


そう返し、しまったと口を閉ざす。
しかし時既に遅く、男は切れ長の目を吊り上げて低い声を出した


「ぁあ?テメェ寝る前に髪は乾かせっつっとんだろうが!これで何回目だこの自己管理底辺女が!!」


『あーあーすみませんでした!朝から怒鳴んないで!せめて高い声にして!』


「誰が高ぇ声で怒鳴るかカス!殺すぞ!!」


『あ、私今日はコーヒーに砂糖入れたい。ミルクはやめてね、朝から牛乳はお腹痛くなっちゃうから』


「テメェの腹のザコさなんぞ知っとんだわボケェ!!とっととその寝惚けたツラどうにかして来いやぁ!!」


『はーい』


朝から元気だなコイツ。怒鳴り過ぎて喉ヤったりしないのかな。心配だしのど飴あげよう。
そんな事を思いつつ、洗面台に向かった。
手早く用を済ませてリビングに戻れば、テーブルに薄切りの食パンと卵ペーストが並べてあった。これは挟んで食えという無言の指示だろう。
バクは既にソファに座り、コーヒーを飲みながらスマホを弄っている。


『おー、美味しそう』


「はよ食え。冷めんだろが」


『はーい。ありがとう』


「フン」


指示通りに卵ペーストを食パンに挟む。
いただきますと手を合わせて食パンに噛み付けば、甘じょっぱい卵が口いっぱいに広がった。
もそもそとパンを咀嚼していると、向かいから紅い瞳が此方に向けられているのに気付く。
何を考えているのか良く判らない。でも多分、保護猫の観察みたいなもんなんだろうなとは思っている。


『なんか面白いニュースある?』


「ンなモンあるかよ」


『そっか』


家にはテレビがないので、双方黙り込めば沈黙が落ちるのみ。
私も無駄に話すタイプではないし、バクは意外な事に、怒らせなければ寡黙だ。
そして互いに何かをしていれば見事に無言になる。
空気を揺らすのはタマゴサンドを咀嚼する音と、微かな衣擦れ。それからたまにコーヒーカップがテーブルと触れ合う固い音。
いつの間にか鎮座していたコーヒーメーカーによって淹れられた、微糖のコーヒーを口にしつつ瞬いた。
気まずくはない。彼の存在は有り難い。
だがただ、不思議だとは思う


────何故、爆豪勝己は私の世話を焼いているのか。












うとうとしつつ電車に揺られ、学校へ。
教室に挨拶をしつつ足を踏み入れ、席に向かう。
因みに席はバクの後ろ。バクと幼馴染らしい緑谷との間にすぽんと入る位置だ。


『おはようお茶子、切島、緑谷』


「刹那ちゃんおはよー!」


「おーっす!バクゴーもおはよ!」


「おはよう白露さん」


「うっせぇわ後ろで騒ぐなクソが!!」


クラスメイトに挨拶をしただけでこの仕打ち。謎である。というかバクも挨拶しようよ。挨拶は人として基本でしょうに。
無言で上から覗き込めば、ふんぞり返る様に席に着くバクは此方をキツく睨み上げてきた。


「何見てんだ雪女!殺すぞ!!」


『うーん、物騒』


「ぁあ!?」


今日も見事にツンツンである。教室に来るまでは寡黙だったのにな。
あ、そうだ。さっきコンビニでアレ買ったんだった。
リュックを開けて、袋を開ける。
包装を破って、大きく開かれた口にそれを放り込んだ。


「ぁ゙あ゙!?…っあ゙ま゙…テメェコラ!!何食わせてんだブッ殺すぞ!!!」


『え?のど飴。レモン味だよ、美味しいでしょ?』


「クソ甘ぇわ!!!」


『甘すぎなきゃ食べられるよね?…あ、バクは辛いの好きだし、辛いのど飴の方が良い…?え、唐辛子飴とかあるの?』


「要らんわボケ!!!」


『へぇ…生姜飴だけど、辛味絶佳とか鬼辛とかあるって。次それにするね』


「のど飴が要らねぇっつっとんだクソが聞けやァ!!!」


「wwwwwwwwwwwww」


「動じない刹那ちゃんやばない?」


「白露さん、なんであんなに動じずに居られるんだろう…かっちゃん目の前で怒鳴ってるのに…」


爆笑している切島が爆破の憂き目に遭うが、この男は個性が硬化なので問題はない。
現に爆煙の中でもまだ笑っているので平気だろう。
流れてくる煙を手で払いながら、スマホで飴の一覧を眺めた


『バク』


「ぁ゙あ゙?」


『カルシウム飴ってあるんだって。高齢者にもオススメらしいから、多分バクにも直ぐ効くんじゃない?』


「ぶはぁwwwwwwwww」


真面目にオススメしたと言うのに、切島が噴き出した。
そしてバクは目を完全に三角形にして怒鳴り出す


「誰がジジィだクソ女ァ!!!笑ってんじゃねぇぞクソ髪ィ!!テメェらンなに死にてぇなら今すぐブッ殺してやらァ!!!!」


ボンボン爆発する掌から逃げる様に身を反らしつつ、スマホをスクロールする。
避けた所為か知らないが、再び切島が爆笑しながら煙に包まれた。煙たい。


『飯田が言ってた。バクが爆速キレ太郎さんなのって、カルシウム足りてないからだって』


「爆速キレ太郎さんwwwwwwwww」


『あ、爆速ブチギレさん太郎の方が良い?でもさんって付くなら太郎さんの方が良い感じじゃない?』


「今気にするトコそこじゃねぇwwwwww」


「どっちでも変わんねぇわクソ共ォ!!!マジでブッ殺したる!!!」















爆豪勝己とは粗暴で、直ぐに怒鳴るとても取っ付きにくい男である。
見た目だって淡い金髪のツンツン頭で、切れ長の目に紅い瞳。顔は整っているのだが、何時も顰めっ面をしている。
おまけに制服のネクタイは何処ぞへ失踪しているし、シャツは第二ボタンまで開けっ広げ、極めつけは腰パンである。もうフォロー出来ない。お前はヤンキー。
…そんなヤンキーが私の世話をするのは、一体どういう風の吹き回しなのか。


『ねぇバク』


「あ?」


『私の十秒チャージ知らない?』


「俺が飲んだ」


『えっ』


昼休み、お昼として買っておいた筈の十秒チャージがリュックから消えていた。
なので問い掛けてみれば、振り返ったバクがんべ、と舌を出す。
手に持っているのは、中身のなくなったゼリー飲料だった


「テメェたまには栄養ドリンク味以外の買えや。此方が飽きるわ」


『毎日バクが飲まなきゃ良い話なんだけどな』


「うるせぇ。おら、付いてこいや」


『はぁ…』


今日は何時もと違う場所に隠したのにな。
溜め息を落としつつ、淡い金髪の背中を追い掛ける。
バクは、私のお昼ご飯になる予定の十秒チャージを勝手に飲んでしまう。
そしてそのお詫びと称して、お昼を奢ってくれるのだ。
流石に高いものを奢られるのは申し訳ないので、その日のお昼から十秒チャージの値段を引いた分を、帰りのコンビニで買う様になったのは何時からだったか。


『栄養ドリンク味以外にバクが飲めるのってあったっけ』


「テメェが無駄な足掻きを止めりゃあ済む話だろが」


『…でもご飯って早く終わらせたいじゃん?』


「うるせぇ黙れ。そんなんだからウェイト足りてねぇんだクソガリ」


『うーん、辛辣』


私の歩調が遅いのか、気付けば手を引かれているのは何時もの事だ。でも早歩きさせられている感じはないから、もしかしたら迷子防止なのかもしれない。
体重が軽いと簡単に浮けて楽なんだけどな。バク的にはダメらしい。
廊下を進む間もチクチクと説教をかましてくる


「大体テメェのその体重は栄養不足だ。個性で軽く浮ける浮けねぇの前に、摂取カロリーの基準ぐれぇ守れや」


『…十秒チャージで』


「食えっつっとんだボケ。アレはあくまでもちゃんと食っとる奴のサポートだろ」


『…んー』


独り暮らしなので自炊がメインになるが、料理が出来ない訳ではない。
ただ、食事という行為が苦手だった。
料理を目の前に置いて誰かと向かい合わせに座ると、どうしても母の事を思い出してしまうから。
食堂に着き、既に出来上がっていた行列に並ぶ。
手はまだ離して貰えない


「何食う」


『んー………』


「お前餡掛け卵粥な」


『えっ、まだ悩み始めたトコ』


「俺が決めたんだから良いだろ」


そう言われ、首を捻る。
良いんだろうか。今日はカレーを食べたいかもしれない気分だったのに。


『カレー食べたいかも』


「あ?お前スパイスなんぞブッ込んだら胃が痛くなんぞ」


『今日は大丈夫な気がする』


「流動食辞めたてなんだよ自覚しろや。やっとパン食える程度なんだぞ、ザコ臓器にスパイスはまだ早ェ」


『流動食?』


「十秒チャージオンリーの生活を流動食じゃなきゃ何て言うんだよ」


『…食べたかった』


「また今度な」


『…また今度』


「気が向いたら作ってやるよ」


平然とそう言ってのけた男に静かに首を傾げた。
ありがたい。ありがたいけども、何故この男は私の世話を焼くのか。
注文して、料理を受け取り空いていた席に並んで座る。
お粥を前に手を合わせた所で気付いた。
…いや餡掛け熱そうだな?
湯気ヤバいな?これ丁度良い温度になるのいつ?


「食わねぇんか」


『良く見て。火傷する』


「冷やせや」


『あ』


そっか。個性で冷やしちゃえば良いのか。
隣から馬鹿を見る目を向けられているが無視する。
そっと両手を濃緑の器に触れさせ、個性を使った。
私の個性は雪女。雪女っぽい事は大体出来るという結構曖昧なものだ。
使いすぎによる反動は眠気。体温も下がっていくので、恐らく冬眠だろう。
個性を調節しつつ使えば、湯気は程よく収まった。


『バク』


「あ?」


『お昼ご飯ありがとう。いただきます』


「…クソ真面目。とっとと食え」


毎日する挨拶にそう毒吐いて、バクは激辛担々麺を啜った。












午後の授業はヒーロー基礎学だ。
文字通り、ヒーローになる為の基礎を実技で学ぶもの。
今回の授業は二対二。ヒーローチームと敵チームに分かれ、ヒーローチームは捕獲テープを敵チームに巻けば勝利。
対する敵チームはヒーローチームを戦闘不能にする、若しくは演習場内に設置された脱出地点まで逃げれば勝ちというルールだった。


「チームは私がくじ引きで決めた!1チームのみ三人だが、そことマッチアップしたチームは臨機応変に動く為のチャンスだと考えるんだ!」


オールマイトがアメリカンに笑いながら、対戦表をモニターに映した。
先ずは自分の名前を探し、次に対戦相手。
それを見て、静かに目を見開く。


────轟、焦凍。


対戦相手として表示された名をじっと見つめていれば、背後から頭をひっぱたかれた。
こんな事するのは奴しか居ない。
頭を擦りつつ振り向けば、アイマスクを着けた悪人面が私を見下ろしていた


「テメェ突っ走んなよ。ちゃんとチーム見ろ」


『……バクが仲間』


「ン。半分野郎のチームは」


『お茶子』


「…テメェが捕獲テープ巻くのは」


『轟』


「ンな訳あるかボケ!!どう考えたって丸顔だわクソが!!!」


バクが怒鳴ったものだから、秒で敵チームに狙いがバレた。
轟が此方を見て、静かに口を開く


「なんだ刹那、お前が来んのか。手加減しねぇぞ」


『なんだアイツ。余裕かましやがってブッ飛ばす』


「ぁ゙あ゙?テメェチームワークって知ってるか?テメェが殺るのは丸顔だっつっとんだろが!!!」


『いや、バクにチームワークとか諭されても…』


「良い度胸じゃねぇか先ずはテメェからブッ殺す!!!」


「仲良いなお前ら」


「黙れ半分野郎!!!」


『お茶子、敵だけど宜しくね』


「うん!お互い頑張ろーね!」


オールマイトから捕獲テープを受け取り、肩を怒らせモニター室を出ていくバクを追う。
今回の演習場はビルが立ち並ぶ、市街地を想定したフィールドだ。障害物が多い事を踏まえると、脱出地点まで逃げれば勝ちを拾える敵チームが有利だろう。


「オイ」


『判ってる』


此処まで来て私情に走るつもりはない。
轟を倒せればそれは本懐だが、残念ながら今の私では奴には敵わない。
捕獲テープを一本差し出しながら、此方を見下ろす紅玉に頷いて見せた


『お茶子を狙う。だから』


────あんたなんか、あの子の劣化版じゃない。


────姉さんの子供に勝てないあんたなんか、要らない。


『だから、轟に勝って』


紅玉が輝いた。
捕獲テープを引ったくる様に取って、バクは歯を剥き出しにして笑った


「ハッ、当然だわ。足引っ張んなよ、刹那」












結果で言えば、タイムアップによる引き分けだった。
歩く核弾頭みたいな男と、ファイヤーとフリーザーをジョグレスした男の大乱闘により、私とお茶子は気絶した。
途中までは良かったんだけどなぁ…お茶子の足を凍らせて捕獲テープを巻くまでは良かったのに、隣で大爆発が起きた所為で、二人してビルに叩き付けられてしまったのだ。
あれは多分、轟の氷で冷えた空気の中でバクが個性使った所為。そしてバクも予想出来てなかった。
だって、気絶する寸前に見たバクはやべって顔してたし。


『うーん…』


相澤先生から鍵を借りて演習場を借りた放課後。掌から冷気を放出し、空中で留まってみる。
厳密に言うと掌に触れた空気を冷やして下に押し出し、反発を利用して自身を浮かせているのだが、どうにもバランスが取りにくい。
うーん、バクを参考にすれば私も長く飛べそうだと思ったのにな。恐らく体幹の問題だろう。
仕方なく、一度ビルの上に降りる。
体育祭まで残り十三日。自身の強化として空を自在に飛べる様になりたいのだが、やっぱりそう上手くはいかないらしい


『父さんみたいに翼があればな…』


父の背には鷲の翼が存在していた。弟も父の個性と同じで鳥類の翼を受け継いでいたが、それは私にはないものだ。
肩甲骨を動かしつつ、眉を寄せる。


『羽がな…羽があればな…飛べれば楽しそうだよな…』


ホークスとかめちゃくちゃ格好いいし。飛ぶの気持ち良さそうだし。何よりも、速く飛べれば直ぐに助けに行ける。
良いよな翼…ただ寝る時は大変そうだけど。
ぐいぐいと肩甲骨を動かしていれば、頭をひっぱたかれた。デジャヴ。


「何しとんだお前」


『翼が欲しい』


「あ?氷で作れや」


『』


思わず真上を見る。
真後ろに立って見下ろしてくる悪人面は、呆れた顔をしていた。


『それだ』


「あ?」


『翼が欲しいなら生やせば良いんだ!』


「……とうとうイカれたんか?」


『ありがとうバク!ちょっとやってみる!』


「テメェほんと話聞かねぇな」


降ろされていた手を取りぶんぶん振ってから、バクから距離を取った。
自らを抱き締める様に、背中に手を回す。
思い描くのは静かな狩人の翼。夜に音もなく飛ぶ、力強い双翼。
個性を使いながら、腕を広げる。
バキバキ、と背中から伸びた透き通った翼を目にして、自然と頬が緩んだ


『バク!!見て!!!翼!!!』


「おー、見りゃ判るわ。飛べんのか、ソレ」


『やってみる!』


「オイ待てまさか」


だっと走り出し、勢いを付ける。
そのままビルから飛び出して────


『あれ?』


「秒でフラグ回収すんなボケェェェェェ!!!!!」


バクが盛大に怒鳴りながら、落下する私を掬い上げた。
器用に爆破の反動を使って飛び、地面に着いた瞬間すぱーん!!と頭をひっぱたかれる


「ンのボケカスがァ!!!羽生やして五秒で飛べりゃあ雛鳥なんか存在しねぇんだよ!!!」


『助けてくれてありがとう。見てバク、翼動くの』


「テメェは!!俺の!!!話を!!!!聞けやァ!!!!!」


『聞いてるよ?一週間で飛べたら嬉しいね』


「マジで良い加減にしろよクソ女ァ!!!」


今日も元気だな。良く怒鳴る。
目を吊り上げたバクを笑いつつ、梟を模した翼をぱたぱたさせてみる。肩甲骨というか、肩甲骨の先端を動かす事をイメージすると動く様だ。なるほど攣りそう。
まさか動かせると思わなかったけれど、これはもしかして父さんの個性の遺伝だろうか。
家族は嫌いだが、これはちょっと…いや、大分嬉しい。


『轟もこれは出来ないでしょ?…私だけの個性の使い方が見付かった。嬉しいな』


氷と炎を自在に操る従兄弟。それに対し、冷気しか出せない私。
轟とは違う個性の使い道は、ずっと奴の劣化版だと詰られ続けてきた私にとっては嬉しいもので。


『バク』


「あ゙?」


機嫌が悪そうな彼に、笑いかける。


『ありがとう。凄く嬉しい』


私の何気ない呟きを形にしてくれたお礼を言えば、フン、と鼻で笑われた


「…今日は身体を浮かせる訓練だけにしろ。ぜってぇ飛ぼうとすんな。次やったらマジで殺す」


『ふふ、はーい』












「お前達、そろそろ下校時間だぞ」


『はーい。あ、先生見て!私ちょっと飛べる様になりました!
父の個性が少し遺伝してるっぽくて!』


「ほう…面白い個性の応用だな。翼に痛覚はあるのか?」


『痛覚はないです。ただ、なんか当たったり欠けたりすると判ります』


「便利だな」


その場で浮いて見せれば、相澤先生は何時ものやる気の無さそうな顔で質問してきた。
先生と話していれば、離れた場所で特訓していたバクも此方に向かってくる


「オイポンコツ、それ以上高く飛ぶな。また落ちてぇんか」


「なんだ、落ちたのかお前」


「30階建てのビルから羽生やして五秒でダイブ」


「白露……」


『飛べると思いました』


「せめて階段にしろ…」


『それはただのジャンプでは…?』


先生が額を押さえてしまった。
先日の事件で包帯まみれなのに、心配させてしまったらしい。申し訳ない。
演習場の戸締まりを済ませ、バクと共に更衣室に向かう。
タオルで汗を拭きつつ、スポドリを飲むバクを見上げた


『飛べる様になったらさ、飛行訓練付き合ってよ』


「ぁあ?ヒヨコが飛べんのか?」


『フクロウだよ。飛べる様に頑張るから、そしたらおいかけっこしよ。バクが鬼ね』


「ハッ、何時になんだか」


『三日ぐらいで飛べる様になると思うよ』


翼の動かし方を習得し、飛び方を覚える。
全力でトレーニングすればそのくらいで行ける筈。
スポドリを口に含めば、隣からめちゃくちゃ怖い顔で睨まれた


「オイ…テメェどんだけ自主練する気だ…」


『え?帰ってから寝るまで』


「ンのボケ!!個性の練習は九時までだ!それ以上やったらブッ飛ばすぞ!!!」


『えー…』


「返事!」


『はーい』


「伸ばすんじゃねぇ!!」


『はい』


出来ればやりたいけどな。でも言う事聞かないと怒るよなぁ…
まぁまだこの個性を使い過ぎた場合の反動も掴めてないし、今日はバクの言う事を聞いておこうか。
そう考えてちゃんと返事したというのに、バクはまだ疑いの目を向けてくる。


『ちゃんと九時には止めるよ』


「どうせ今日だけ聞きゃあ良いって思ってんだろが。体育祭までずっとだぞ。判っとんのか?」


『えっ』


「マジでクソボケだなテメェ…」


はあああああ、と深い溜め息を吐かれてしまった。
なんだろう、バクがどんどん保護者みたいになってる気がする。













今日も今日とて授業を受け、ヒーロー基礎学で個性を多用した事で、少し眠気が来ていた頃。
頭がブドウみたいな同級生、峰田がやって来た。それも良く話しているのを見掛ける上鳴や緑谷ではなく、私の許に。


峰田と言えば、変態である。


知り合って日は浅いが、それでも散見されるちょっと敬遠したい発言の数々。
先日のUSJ襲撃事件では、どさくさに紛れ梅雨ちゃんの胸に触れたらしい前科持ちな訳だが、何故此方に来ているのか。
バクか?バクに用があるとか?
それとも耳郎?葉隠?取り敢えず私に用はないよね。だって接点ないし。
そんな事を思っていれば、小柄な影は私の隣でピタリと止まった。…私かーい。


「なぁ、白露」


『なに?』


「お前、個性が雪女なんだろ?」


『?…そうだけど』


話が見えない。
…ああ、もしかして、放課後に個性の特訓をしたくて誘いに来たんだろうか。
確か彼の個性はブドウみたいな髪の毛を捥いで投げ付けるもので、くっついたら効力が切れるまで、本人の意思でも外せないんだったっけ。
あれ、爆弾でも仕込めたら一気に攻撃力上がるよな。
静かに峰田を観察していれば、彼は両手をわきわきと動かしながら、言うのだ


「雪女ってアレだろ?男を誘惑して精気を吸い取るんだろ?なぁ、オイラも誘惑してみてくれよ…精気吸ってくれよ…」


『』


「峰田ちゃん、セクハラよ」


「うわ、キッモ…」


「峰田サイテー!」


「峰田くん…」


うわぁ…気持ち悪い…
ごめん、あんまり話した事ないんだけどごめん、気持ち悪い…


あまりの衝撃に眠気が吹っ飛んだ。
第一それは伝承の雪女であって、私の個性にはそこまで付随していない。
そしてその表情が…なんか鬼気迫る感じの顔がイヤ。眼から闇を感じて怖い。…うん、逃げよう。
峰田を躊躇なくひっぱたく梅雨ちゃんの所に行こう。
そっと席を立とうとした瞬間、左側から手が伸びてきた。


「ごばぁっ!!!!」


大きな手が峰田の顔まで伸びた瞬間、標的を爆破した。
プスプスと煙を上げて峰田が倒れる。
そっと前を見ると、静かな紅玉が此方を見つめていた。
数秒合っていた目が、静かに逸らされる


「…キメェ話してんじゃねぇクソが」


低く吐き捨てて、正面に向き直って頬杖を付く。
倒れた峰田をどうするべきか悩むが、放置する事に決めた。復活して絡まれたくない。
少しだけ丸まった背中を指先でつつく。
面倒そうに視線だけ向けるバクに、笑顔を向けた


『ありがとう、助かった』


「次からはテメェでどうにかしろや」


『そうする。急に気持ち悪い事言われてびっくりしたからさ、対応が遅れた』


「どんくせェな。…気が向いたらブッ殺してやんよ」


『ふふ、ありがとう』


正直、とても助かった。
初めて此処まで露骨なセクハラに遭ったのだが、気持ち悪いというのが先行して何も出来なかったのだ。
なので、バクが物理で黙らせてくれた事に感謝している。


「なぁなぁ、前から気になってたんだけどさ。爆豪と白露って付き合ってんの?」


そんな問いを投げてきたのは上鳴だ。
流石チャラ男、そういう話題が好きなんだろう。
因みに首を突っ込んできた上鳴は即座に顔面を爆破された。二人目の焦げた男が床に転がる。
別に爆破するのは良いけど、足許に同級生の屍を量産するのはやめてほしい。
机をそっと窓際に寄せた。


『付き合ってないよ。バクが優しいだけ』


「爆豪が…優しい…???」


「そもそもそのバクって呼び方もさ、俺達がやったらキレられそうだよな」


「略すな殺すぞ」


「ほら」


切島と瀬呂の言葉に目を瞬かせる。
だって爆豪って言いにくいのだ。だからバクって呼んだら最初こそ動物と一緒にすんなって怒られたけど、今じゃ何も言われなくなった。多分諦めたんだろう


『バク』


「なんだよ」


『いつもありがとう』


そう考えると、本当は略されるのが嫌なのに、渋々妥協してくれている様に思えた。
そして私は日々迷惑を掛けている。
その自覚があるので礼を言えば、奇妙な生き物を見る目を向けられてしまった。















「オイ」


『ん』


「寝んなコラ、起きろ」


『ん』


「チッ」


帰りの電車というのは何故こんなにも眠いんだろう。
満員電車の中、立ったままうとうとする私を低い声が呼ぶ。


起きてる。
起きてるんだよ。ただ目が開いてないだけ。起きてるの。ちゃんと聞いてる。
一瞬気が遠くなるけどね、起きてるよ。


がたん、と揺れが来る。
かくん、と膝から力が抜け、咄嗟に踏ん張った。
その揺れでほんの少し眠気が散った気がして、重たい目蓋を抉じ開けた。
半分ほど開けた視界の中で、呆れきった顔のバクが私を見下ろしている


「お前…立ったまま寝んなや…」


『おきてる』


「寝とんだろ。……ハァ」


深く溜め息を吐いたかと思えば、ぐっと引き寄せられた。
目の前には白いカッターシャツと、はだけた胸元。
腰に回されたしっかりしたものは、バクの腕だろう。安定感半端ない。
これ、寝ていいよって事かな。体重預けていいかな。
気配で判ったのか、低い声がぼそりと呟いた


「目の前で転けそうになりながら寝惚けられんのはウゼェ。とっとと寝ろクソモヤシ」


『…ありがと』


目の前の鍛えられた身体に体重を預ける。
はだけた胸元に突っ伏し、目を閉じた。
即座に全力疾走で姿を眩ます意識を手放しながら、ふと思った。


バクって、なんで私の世話焼いてくれるんだろう。














「おう寝坊助、そろそろ起きろや。テメェの所為で降り損ねたら殺すぞ」


『ん』


「起きろっつっとんだろ」


『ん』


「チッ」


水の中で音が聞こえてくる感覚に似ている。低い声にぼんやりと返事をしていれば、動かしてもないのに身体が動いていく気がした。
背中とお尻の下をぐっと固定され、運ばれているらしい。
少しの間揺れたあと、すとん、と何処かに座らされた。
べちっという音と共に額に痛みを覚え、目を開ける。
視界いっぱいに映ったのは、口角を上げて青筋を立てているバクの姿だった


『……おはよう』


「テメェ…誰が電車で人に凭れて爆睡しろっつったよ…まさか前からンな事してねェだろうな、ぁ゙あ゙?」


『バクが寝て良いって言うから寝た』


「転た寝程度なら仕方ねぇが許したんだよ…爆睡しやがったからキレとんじゃコッチは…!!あんなモブまみれの密室で爆睡こきやがって、危機意識欠如しとんのかボケェ!!!」


『?倒れなかったから迷惑掛けてないよ?…ああ、バクには迷惑掛けたか。ごめんね』


「そうじゃねぇわクソが!!!」


『あ、今日までのクーポンあるじゃん。バク、マック行こ』


「テメェは!俺の!!話を!!!聞けやァ!!!!」


相変わらずブチギレ太郎さんなバクの手を引いて歩き出す。
バクって生きてるだけで疲れそう。
怒りやすい人って大変だなぁと思いつつ、眉間に皺を寄せるバクを見上げた


『バク』


「…なんだよ」


たとえば、どんなに怒っていてもちゃんと返事してくれる所。
何時も私の歩幅に合わせてくれて、車道側を歩いてくれる所。
それから、話す時はしっかり目を合わせてくれる所。
どんな話でも、ちゃん聞いてくれている所。
こういう所が、優しいなぁと思うのだ


『ありがとう、バク』


私の面倒を見てくれる理由は判らないけれど、これが彼の優しさだと判るから。
突然感謝されて、バクは意味が判らないだろう。
切れ長の目をぱちくりさせて、それからバクは、ふっと微笑んだ


「…おー。面倒見殺したるから安心しろや」


『殺されるのはやだなぁ』









拾った猫は









白露刹那→個性は雪女。
雪女っぽい事は大体可能。でも精気は吸わない。
とある人の従姉妹な所為で家庭関係は安定の地獄。
食事は家で詰られていた事を思い出すので苦手。ほっとけば十秒チャージ三個で一日を過ごす馬鹿。
生活力はあるけど食事関連は死んでるポンコツ。
気付いたら同級生に通い妻なのかママなのか判らないレベルで世話されている。

爆豪→個性は爆破。
USJ事件の時に吹っ飛んできた刹那を受け止め、結構勢い付いていたにも関わらず軽かった刹那に「!?」ってなった人。
昼休みに木の上で寝てる刹那と十秒チャージ一個しか入ってない袋を見て、コイツはダメだと悟った。
刹那と一緒に居るのは楽らしい。



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