彼等はヒーローではないのだ

・後味が悪いかも
・途中スレッド風










〈学ランの〉心霊体験救助スレpart27〈ヒーロー〉



1 名無しの幽霊

・此処は心霊体験に遭い、学ランの彼等に助けてもらった人がその体験談を書き込むスレです。
・彼等の穏やかな日常をこっそり見守り隊
・誹謗中傷は禁止
・彼等の名前を本名で書くのは禁止
・990を踏んだ人が次のスレを作る事

2 名無しの幽霊

人物紹介

・サングラス
銀髪の高身長
自販機よりでかい
顔面国宝
全身で国家予算

・前髪
黒髪のお団子
ボンタン履いてる
自販機よりでかい
塩顔イケメン
ガッチリ系

・テディちゃん
黒髪のセミロング
振袖みたいな学ランでスラックス
青紫の大きな目が特徴
スレンダー美人

・泣き黒子ちゃん
黒髪のボブ
襟の高い学ランにスカート姿
右目の下の泣き黒子がえっち
巨乳なアンニュイ美人

・メッシュ
黒髪に白いメッシュ
短めに学ランで腕捲り
三白眼
塩顔イケメン

・眼鏡ちゃん
黒髪ポニーテール
学ランにスラックス
眼鏡の可愛い系女子

・七三
金髪の七三
目鼻立ちハッキリしてるしハーフかも
自販機並みのでかさ
クッキリハッキリした顔のイケメン
多分上記六人の後輩

・わんこ
黒髪の前髪ある系男子
短めの学ラン
ニコニコしているわんこ系イケメン
多分上記六人の後輩


呪霊
幽霊の名称
彼等の会話から推測するに奴等には等級があるっぽい



大まかに言うとこんな感じ
他にも学ランの彼等は居るけどメインは上記八人








125 名無しの幽霊
俺こういうオカルト信じない派だったのに
一ヶ月ぐらい前に呪霊に襲われてサングラスに助けられた

126 名無しの幽霊
お?マジ?
サングラスはレアよ

127 名無しの幽霊
え?125だけどアイツレアなん?

128 名無しの幽霊
取り敢えず125はコテハン付けろ
破壊規模がヤバイらしいって噂があるから多分サングラスはガチヤバ案件か緊急事態しか人前に出ない
そんで泣き黒子ちゃんも戦闘員じゃないっぽいからレア

129 名無しの幽霊
テディちゃんと前髪は良く見るよな
その二人は単品だったりペアだったりするけどメッシュと眼鏡ちゃんはほぼペア

130 名無しの幽霊
七三とわんこもペアじゃない?
私は七三とわんことメッシュに助けてもらった

131 ごぼう
125です
コテハンは取り敢えずこれ

132 名無しの幽霊
なんでwwwwwwwwwwwwww

133 名無しの幽霊
ごぼうwwwwwwwwwwwwww

134 名無しの幽霊
マジかwwwwwwwwwwww

135 ごぼう
今食ってたから

136 名無しの幽霊
メシ食いながら携帯弄んなwwwwwww

137 ごぼう
すまんな
取り敢えず俺のスペック


バイトと大学生活をエンジョイする苦学生

138 名無しの幽霊
ははーん?さては肝試しで廃墟辺りに行ったな?

139 名無しの幽霊
やめてやれよ…ごぼうまだ話してないのに当てるとかさぁ

140 ごぼう
廃墟は合ってる

141 名無しの幽霊
あれ、肝試しじゃないの?

142 名無しの幽霊
じゃあ廃墟の写真撮影とか?

143 ごぼう
廃墟でリンチに遭った

144 名無しの幽霊
えっ

145 名無しの幽霊
えっ

146 名無しの幽霊
えっ

147 名無しの幽霊
どういうことだってばよ

148 名無しの幽霊
廃墟で???リンチに遭った???

149 ごぼう
先輩に呼び出されて「俺の彼女に手ぇ出しただろ!」とか言いがかりをつけられ集団リンチされたナリ
ちな彼女とやらと俺は面識すらなかった
つまり:勘違い

150 名無しの幽霊
うわ…(´・ω・)カワイソス

151 名無しの幽霊
怪我は?
やばい怪我はなかった?

152 名無しの幽霊
そうだぞ
下手したら内臓破裂なんてのもあるからな

153 名無しの幽霊
優しさで溢れるスレ

154 ごぼう
ありがとう
多分泣き黒子ちゃんらしき美少女に治してもらったけどアバラが逝ってて肺に突き刺さってたって
だからどうりで呼吸するとひゅーひゅー言うと思った

155 名無しの幽霊
重傷だった

156 名無しの幽霊
泣き黒子ちゃんにも会ったのか
レアコンプしたな

157 名無しの幽霊
無事で良かったね……

158 名無しの幽霊
ほんそれ
ごぼう、そろそろ本題に入れる?

159 ごぼう
はーい
ちょっと書き溜めてきます

160 名無しの幽霊
いってらー

161 名無しの幽霊
よろー

162 名無しの幽霊
保守はまかせろー

163 名無しの幽霊
はーい今から学ランの彼等の穏やかな日常をこっそり見守り隊の活動報告タイムでーす
期限はごぼうが戻るまで
よーいスタート!

164 名無しの幽霊
一番私行きまーす
以前地下鉄で起きた呪霊事件(のちにガス爆発と報道されてた)で助けられた女性・カフェ店員でーす

先日サングラスくんとテディちゃんが当店にいらっしゃいましたー

165 名無しの幽霊
えっえっサングラスとテディちゃん!?!?
いいなー!!!!!!!!!!!!

166 名無しの幽霊
なんだこの圧

167 名無しの幽霊
おまえさては新参者だな?
サングラスとテディちゃんは公式カプだぞ

168 名無しの幽霊
ちょいちょい二人でデートしてるよね
私も交差点で二人見付けた
サングラスくんがでかいから目立つんよ

169 名無しの幽霊
わかる
頭白いしサングラスだしでまぁ目立つ
しかも大概斜め下見てる

170 名無しの幽霊
あー
左斜め下にテディちゃん居るよな

171 名無しの幽霊
歩いてる時サングラスくんは必ずテディちゃんの腰に手を添えてるよな

172 カフェ店員
投下ー
三時過ぎぐらいの時間帯だったんだけど
めちゃくちゃスタイル良いサングラスの子と黒髪の女の子のカップルが来た
前に地下鉄事件で助けてくれた四人のうちの二人でめっちゃテンション上がった
あっちは気付いてなかったっぽいけど

173 名無しの幽霊
まぁ学ランの彼等は色んな人助けてるしね
私らなんて記憶には残ってないよ

174 名無しの幽霊
だからこそ逆に見守り隊出来るんだよな

175 名無しの幽霊
ほんそれ

176 カフェ店員
サングラスくん「キャラメルフラペチーノホイップ大盛りのクラッシュナッツとキャラメルソースましましで」

テディちゃん「バニラモカで」




サングラスくんの女子力よ

177 名無しの幽霊
wwwwwwwwwwwwwwwwwww

178 名無しの幽霊
女子力wwwwwwwwwwww

179 名無しの幽霊
あ、何処でもそんな感じなのかサングラスくん
おれも前見掛けた時甘味の暴力みたいなパフェ食ってた

180 名無しの幽霊
甘味の暴力wwwwwwwwwwwww

181 ごぼう
書けたー
投下すんね


都内廃墟で集団リンチに遭ってて、あ、俺もう死んじゃうのかなーって思ってたら

「オラッ!テメェがアカリに手をだ」

急に先輩の声が途絶えた
それから先輩の仲間達が急に悲鳴を上げたんだ
俺その時は頭を抱えて目を閉じてたから状況が判んなくて
恐る恐る目を開けたら

「アアアア、あアそそそそそそソそ、ボォおおおおオォぉぉォォォ」

って声を上げる真っ黒なナニカが、口っぽい所からジーンズを履いた脚を生やしてた





ついさっきまで俺に蹴りを入れてた先輩の脚だった

182 名無しの幽霊
ヒエッ

183 名無しの幽霊
急に怖い話するじゃん…

184 名無しの幽霊
ついさっきまでサングラスくんの甘党話でほっこりしていたというのに…

185 ごぼう
なんかすまん
続きな



沢山生えた腕で逃げようとする先輩の仲間達を一気に呪霊が薙ぎ払った
一人は壁から突き出した鉄骨に頭を貫かれて、一人は薙ぎ払われる時に首が飛んだ
五人居た先輩の仲間はその一撃だけで二人死んだ
残り三人もぐったりしてて、俺も動けないぐらいボコボコにされてて
呪霊のギョロってした目が俺を見て
あ、死ぬなーって思ったら




「なにこれ。猿が四匹居んじゃん」




カツン、て足音がして
ぐちゃめきょって音がした
呪霊はなんかブラックホールに吸い込まれてるみたいにぐちゃぐちゃになってた

186 名無しの幽霊
サングラスくーーーーーーーん!!!!!

187 名無しの幽霊
出たwwwww猿wwwwwwww

188 名無しの幽霊
いやまって?サングラスくんめっちゃ性格悪くない????

189 名無しの幽霊
新参者め
サングラス様が一般人を猿呼びするのは公然の事実だぞ

190 名無しの幽霊
正確には呪霊を産み出しちゃう側であるらしい俺ら一般人を猿と呼んでた

191 名無しの幽霊
あれ?俺前に学ランの人に助けてもらった時「これぐらい自分で祓えよ猿」ってその人に言ってんの見た

192 名無しの幽霊
サングラスの猿の定義って仲間にも適用するんか

193 名無しの幽霊
というかサングラスってあれか
青い目の世界遺産か
前髪と泣き黒子ちゃんとテディちゃんと見掛けた時にサングラスしてなかったから最初誰かわかんなかった

194 名無しの幽霊
サングラスしてたら国宝
サングラス外してたら世界遺産

195 名無しの幽霊
wwwwwwwwwwwwwwwww

196 名無しの幽霊
サングラス外したらランクアップwwww

197 ごぼう
そのあとはどっかに連絡し始めて
「猿が四匹も居るとか聞いてなかったんだけど。窓サボらせてんなよ」とか死んだ先輩の仲間を見て「全部で七匹居たっぽいよ。でも三匹死んでる。遺体はあるから大丈夫じゃない?」とか言ってた
なんだろう、興味もない蟻を見下ろしてるみたいな、すっごい冷めた態度だった

198 名無しの幽霊
安心しろ、サングラスくんはそれがデフォ

199 名無しの幽霊
サングラスくん一人だったんでしょ?じゃあそれは通常運転

200 名無しの幽霊
200ゲト
サングラスくんは基本前髪かテディちゃんか泣き黒子ちゃんが居ないと人形みたい

201 名無しの幽霊
200おめ
つまり助けてもらえただけ御の字

202 名無しの幽霊
なにそれ
ヒーローとか書いてある癖に何でそんな横柄なの?ムカつく

203 名無しの幽霊
え、まだ居るのこの思想の人
お前にドン引きだわ

204 名無しの幽霊
じゃあ202に聞くけど
彼等が戦ってる呪霊って、俺達みたいにそういうものが見えない人間の負の感情から産まれるって知ってた?
それを倒せるのは彼等だけだし、俺達って生きてれば誰でも負の感情を抱くでしょ?
日本国民が毎日何かしらやだなーって思ったそれが呪霊になって、彼等は毎日それと戦ってる
きっと強い呪霊と戦えば仲間も死ぬよ
それでも俺達を見捨てずに助けてくれる彼等を横柄とかムカつくって言うの?

205 名無しの幽霊
ぶっちゃけサングラス達からすれば俺達を助ける理由なんかないもんなぁ

206 名無しの幽霊
ほんそれ
だって「助けに行きましたが間に合いませんでしたー!!ごめーん!!」って言っちゃえば良いんじゃない?
正直サングラスくん達は呪霊を倒す事を絶対にしてるけど、居合わせちゃった私達の命は二の次だと思うし

207 名無しの幽霊
俺前に一般人庇いながら戦ってた学ランの男の子が呪霊に腕ばくってやられたの見た
彼等だって命懸けだよ
正直呪霊を産み出しちゃう俺達を助けたくないって言われても、文句は言えないと思ってる

208 名無しの幽霊
そもそも彼等がテロ行為せずに生きてるってだけで御の字だろ
俺達を簡単に殺せる呪霊を倒しちゃうんだから、彼等はきっと暴動なんて簡単に起こせるよ
それをせずに居てくれてるんだからそれはありがとうって思わなきゃ

209 名無しの幽霊
202だけど
なにそれ宗教みたいで気持ち悪いんだけど
バカじゃないの?
助けてもらったからって神格化しすぎ

210 名無しの幽霊
お前助けてもらったことないだろ
助けてもらえばわかるよ

211 名無しの幽霊
死ぬって思った時に助けてくれる彼等は、ヒーローにしか見えないから
















ああ、下らないものを見た。
女は携帯を閉じて鼻を鳴らした。
ヒーロー?学ランの彼等?どんなに言葉を並べたって、結局は異能力者というだけだ。社会に適応出来ない爪弾き者の集まりに過ぎない。
ひっそりこっそりと存在するサイトを偶然見付け、開いてみればこれだ。
助けてくれるだけ御の字?暴れないだけありがたい?
女は力を持っているのなら戦えよ、としか思わないし、それが当たり前だと感じていた。そいつらが暴れないのは社会の当然のルールだろう。


持てる者が待たざる者の為に身を削るのは当たり前だ。


それを奴等はありがたいとか、助けてもらえるだけ御の字などと宣っていた。
女はそうは思わない。
確かに助けて貰えば感謝はするだろう。しかしその呪霊とやらを倒すのが学ラン達の使命であるならば、事件に巻き込まれた自分達を彼等が助けるのは当然だ。
だから、感謝こそすれど数日できっと気持ちは薄れる。


あんパンの顔のヒーローだって、進んで身を粉にしている。
戦隊モノのヒーローだって、一般人を何よりも優先する。


強い者が弱い者を護るのは当たり前だ。
というかそもそも呪霊なんて存在も女は見た事がなかった。
今回のサイトも、どうせガセネタをそれらしく語って楽しんでいるだけだろう。
UFOやビッグフット、ヴァンパイアなんかと同じ。ありもしない虚構をさも事実の様に撒き散らす。
そう理解した彼女はやはり冒頭の感想を抱いた。
ああ、下らないものを見た。















日常とはただ同じ作業を繰り返し、特に変わった事もなく凡庸な時間を過ごす事だ。
女はそれを是として来たし、それなりに満喫して生きてきた。
毎朝煩わしい目覚ましも、毎朝飲むお気に入りのアップルティーも、鎧として念入りに施すメイクも。
家を出て感じる季節の移り変わりも、仕事の慌ただしい空気も、仕事終わりのビールも。
ぜんぶぜんぶ、きっと人によっては取るに足らないものであったとしても。
女にとっては、充実した日々だったのだ。


「きゃあああああああああああ!!!」


「たすけて!!助けてぇ!!」


「いやああああああああああ!!!」


「痛い!!痛いよぉ!!!」


それは街中で、突如引き起こされた。
あちこちで上がる悲鳴。
大きく抉れたビルに、割れた窓。
お気に入りのカフェは人だったものが壁一面にぶちまけられていて、今も目の前で悲鳴を上げる人が、雑巾を絞るみたいにぎちぎちと捻られていた。


女には、宙に浮かんだ人が関節の可動域を無視してバキゴキと捻れていく様にしか見えていなかった。


ぶちぶちと筋繊維が引き千切られていく。
ぼぐり、と重く鈍い音が響いて、腰の辺りが縦に折り畳まれた。
身体を背骨の辺りから綺麗に折り畳んだ所為か、目玉がぐちゃりと飛び出した。
人であったそれが腹部を中心に捻れ、歪な形になっていき────遂に、千切れた。


「ひ……っ」


どちゃどちゃと水分を持った質量のあるものがアスファルトの上に投げ捨てられた。
人だったものが興味をなくした様に打ち捨てられる。
物音はしない。
ただ、痛みと恐怖で泣き叫ぶ人の声が聞こえるだけだ。
助かったのだろうか。女は周囲を見渡して────気付く。


女の脚が、嫌な音を立てて可笑しな方向に曲がった。


最初は何が起きたのか判らなかった。
しかしどんどん焼ける様な痛みと熱が神経を侵食し、女は堪らず悲鳴を上げた。


「い、ぎ────ああああああああああああ!!!!」


悲鳴が迸った。
ぼきっと音を立ててまた別の箇所が折れ曲がった。
女の反応を楽しむ様に、べき、と今度は反対の脚の関節が増やされる。
脚に感じていた圧迫感が、腕に移った。
女の目は目の前で嗤う呪霊を映せない。何もない筈なのに、まるで何かにじわじわと締め上げられていく恐怖しか与えられない。
恐怖で見開かれた女の眼から、涙が零れた────瞬間


「術式順転・蒼」


つまらなそうな声が落ちた。
次いで、ぐちゃ、と何かを潰す様な音が鼓膜を叩いた。
腕の圧迫感も消え去り、女は慌てて顔を上げる。


離れた場所に、ぽつねんと学ランの男が立っていた。


白銀の髪に、真っ黒なサングラス。自販機も抜くであろう高身長。
恐らく彼こそが、スレッドで書かれていた“サングラス”なのだろう。
サングラスは周囲に首を巡らせて、心底面倒そうに口を開く


「大惨事じゃん。しょうこっちは要救護者の保護。すぐるっちは生存者の確認。クソ猫は半々で護衛。行け」


〈オマカセアレ!〉


〈イクゾー!〉


〈ニャーン!!〉


「クソ猫、認識同期。
此方悟、一級祓ったよ。取り敢えず怪我人をしょうこっちに片っ端から投げとくわ」


〈オッケー!〉


何処からか現れた大量の白猫とウサギ、それから犬のぬいぐるみがわらわらと動いていく。
呆然としていた女の許にもウサギと猫のぬいぐるみがやって来た。


〈アルケル?〉


「えっ……折れてる、し……無理かも」


ぬいぐるみに話し掛けられるなど有り得ない。多分、これらは電池で動くぬいぐるみなんだろう。
痛みに呻きつつ首を振れば、ソッカーと呑気な返事を受けた。というか脚を見れば動けない事ぐらい判るだろう。


〈コチラせつなっち! ショウコッチヲ ツイカデ ダスネ!!〉


「お、助かる。此方怪我人多いから三十ぐらい派遣ヨロシク」


〈リョーカイ!ショウコッチツイカ!!イマ ムカッテ マース!〉


「今更だけどクソ猫にせつなっちって呼ばれてんのウケんね」


〈アトデ フルボッコ!!!〉


「いや今のどっちが言った???」


呑気に猫のぬいぐるみに話し掛けているサングラスをぼんやりと眺めていれば、いつの間にか増えたウサギのぬいぐるみが手を繋いで輪を作っていた。
ぼんやりとぬいぐるみが光って、彼等はゆっくりと回り始める


〈〈〈〈かーごめ かーごーめー〉〉〉〉


「うわ……」


縁起でもない曲を唄いながら回るぬいぐるみに、女は生贄の儀式だろうかと本気で思った。
サングラスはゆったりと此方に歩を進めていて、だんだんとその顔もはっきりしてくる。
有り体に言えばイケメンだった。
サングラスで目は判らないものの、既に造形が美しい。
そんな男が偶々だろうが女の前で足を止めた。


「良かったね、アンタ。死ななくて済んで」


偶々生きていたから、目に付いたから投げ掛ける様な、そんな声。
女は瞬時に怒りを燃え上がらせた。
良かった?
こんなにも脚を折られているのに?
腕だって折られそうになったのに?


ヒーローだと名乗るお前達が遅れた所為で────こんなにも酷い目に遭ったのに。


「あんたが………」


「あ?」


「あんたがっ!!あんたが遅れた所為で!!私の脚が折れたじゃないっ!!!」


女は叫んだ。
本来ならお気に入りのカフェに寄って、新作のフラペチーノを飲む予定だった。
それから会社に戻って仕事を終わらせて、家に帰るつもりだったのだ。
平凡でよかった。ハプニングなんて望んでなかったのに。
こんな事件に巻き込まれて、あまつさえ脚も折られた。
それもこれも全て、この男の到着が遅れたからだ。


「ヒーローならもっと早く来なさいよ!!なんでダラダラ来てんのよ!!
あんたの所為で、皆死んだんだよ人殺し!!!」


思いの丈を吐き出して、男を見る。
女は目を見開いた。
……男は、口笛を吹きながら携帯を弄っていたのだ。
泣き叫ぶ女の慟哭なんて、知らん顔で。
女が唖然として見つめていれば、サングラスをかけ直した男が漸く此方に目を向けた。


「あ、ステレオ被害者トークは終わった?」


「はぁ!?大体あんたがっ!!」


「そもそもさぁ、そのヒーローって何?俺らの仕事は呪霊を祓う事。
誰も猿の救助が第一とか言ってねぇんだけど?」


……信じられなかった。
目の前には脚が歪に折れ曲がった女が居るのに。
左手側には腕が無くなった男が居るのに。
右手側には頭から血を流す女子高生が居るのに。
サングラスの男は誰に寄り添うでもなく、ただその場で怪我に呻く被害者を見下ろしている。
男の長く白い指がゆっくりと、唄いながら回るウサギのぬいぐるみを指し示した。


「ソイツらは簡単に言うと回復魔法絶賛発動中なの。ぶっちゃけ俺からすればアンタら全員どうでも良いし、更に言っちゃうと勝手な勘違いで猿を救うべきとか考えてるアンタみたいな奴が俺の宝物のメンタル削るんだよね。すげー迷惑」


冷めた声でそう言って、薄い唇がゆるりと持ち上がった。
こつ、こつ、と足音が近付いてくる。
動けない女の真正面で、足音が止まった


「…呪術師はね、非術師を護るべしって言われてるだけで、必ず護れなんざ言われてねぇの。
いい加減学習しろよ、呪術師がオマエら猿を助けてやってんの。呪霊を祓うだけじゃなく今みたいに治療回してやってんのは俺らの慈悲なワケ。
……アンタが死んでないのは、俺が情けをかけてやったからだって理解してね、オバサン」


「……バケモノ………っ」


気持ち悪い、異能を宿したハズレもの。
睨み付ける女を前に、男がサングラスをずらした。
……宝石の様な蒼が、軽蔑を宿して女を射抜く。
軽薄な声が血濡れた惨状でさらりと踊った


「強くてごめんね、猿♡」











バケモノとケダモノ











猿→一般人女性。
頭が固い。持つ者が待たざる者に尽くすのは当たり前と考えるタイプ。
この度見事に五条の地雷を踏んだ。

五条→緊急派遣で四人で現着し、一番ヤバそうだと思ったエリアに率先して向かった。
助けてやったのになんでもっと早く来なかったなんて詰られいらっとした。
でもこんな勘違い系の猿がママとテディに遭遇しなくて良かったとも思っている。
全ての猿が“こう”じゃないのは判っているけれど、やっぱり猿は好きじゃない。

ごぼう→牛蒡を丸かじりしてた訳ではなく、彼はきんぴらごぼうを食べていた



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