ふとした時に

「よーし、じゃあ流すぞ」


『はーい』


お腹に大きな手が乗せられた。
掌からどぷり、と悟の呪力が注がれて、お腹の中でぐるぐると蜷局を巻くのを感じる。
私の術式反転を抉じ開ける為に流された呪力はプラスのもので、お腹に溜まったそれがずるりと動き始めた


『んぐぅうううう…』


「ほら、今からオマエの術式を叩くよ。ちゃんと集中して感じ取れ」


ずるずると呪力が蛇みたいに蠢いて、その度にぞわぞわと鳥肌が立つ。
他者に体内を開かれ手を突っ込まれている様な、不快感。ぐっと熱が上がるのを感じる。
眉を寄せているであろう私の額の汗を拭いながら、悟がくっと下腹部に添えた手に力を込めた


「ほら、此処だよ。今何度も叩いてる。判る?」


『きもちわるい』


「ほんとは正攻法じゃねぇし、開いてもただ正しい流れで呪力通しちゃ意味がないからいっそ逆流させたいけど……まだ無理だよなぁ」


『悟、ちょっと待ってうごかないで。しぬ』


「んー?…もうちょい奥まで入れたいんだけど。もう頑張れない?」


『しぬ』


「判った。じゃあ次は一番奥まで行こうね」


『んぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐ』


ずるずると這いずる呪力に不快感がひどい。ベッドに寝そべる私に寄り添う様に身を横たえた悟にしがみつくと、額の汗を拭っていた手で優しく抱き締められた


「もうちょい我慢な。今全部抜くから」


『ううううううううううう』


「サイレンみたい。ウケる」


くすくす笑う悟がゆっくりと体内に侵入した呪力を引き抜いていく。残りもう少し、となった所でノックが聞こえ、がちゃりと扉が開いた


「悟、明日の任務が私と黒川で交代になったから引き継ぎを……」


顔を覗かせた傑が此方を見て固まった。
悟が一旦呪力操作をやめて首を傾げる。


「傑?どうした?」


悟に問われると、傑は菩薩みたいな笑みを浮かべた


「悟、幾ら好きだからといって初っ端から特殊プレイはどうかと思うよ」


「は?」


「惚けなくても良い。確かに女性の初めては何にも代えがたい稀少なものだ。
けれどそうやって体外から調教していくのは少し違うだろう?判るかな?」


「いや判んねぇ。オマエどうしたの?変なモンでも拾い食いした?」


ドン引いた悟にきゅっと抱き直され、身体に残る呪力が角度を変えた事で唸り声が漏れた。
それに気付いた悟が呪力操作をしようとして、傑がまた変な事を言い始める


「悟、先ずは刹那のお腹を刺激するのを止めてあげるんだ。ソコは焦らず躾るべきだよ。
体質によっては時間が掛かるから、焦りは禁物だ」


「???」


『???』


コイツ何言ってるの?と悟が無言で私にヘルプを求めてきた。
私が判ると思う?と目で返す。
私達の反応を困惑と取ったらしい傑が、にっこりと笑って口を動かした


「おや、判らないかな?それはね、体外式p」


「ふざけんなエロ前髪。なに娘と二歳児なりたてにセクハラしてんだクズ」


ズガン、と恐ろしい音を立てて扉が傑に叩き付けられた。パパである。
だがしかし、タイミングが悪すぎた。
びくっと震えた大きな手が、私から離れる。
ついでに言うと、途中まで引き抜いていた呪力が全て、お腹にどぷりと戻されて────


『あああああああああああああ』


「あ、やべ」


慌てた顔の悟が映るが、もう遅い。
悟の呪力がお腹どころか全身でぐるぐると動き始めて、瞬く間に視界が真っ暗になった。




















「────ねぇこれは体外式ポルチオだと思うよね?だって頬を赤くしてしがみつく女の子の下腹部に手を添えてるんだよ?しかも密着してるんだよ?
これはもうソレだよね?私は間違ってないよね???」


「夏油、それ何で任務中に言うの…???」


黒川くんもう帰りたいです。
八つ当たりの様に祓われる呪霊がかわいそう。俺も八つ当たりしているけども。


術式反転の取得で、桜花が結構アレな訓練をしているというのは五条が平然と言っていたから知っている。
あいつ普通に子宮に呪力を注ぐって言ってたけど、良く考えなくてもセクハラ。
女の子の下腹部に手を添えるのも際どいし、子宮の話をするのも正直セクハラだと思う。俺には如何わしく聞こえちゃうから無理。


夏油はその特訓をたまたま目にしてしまったらしい。
そして先ず浮かんだのが最初の言葉。こいつも大概セクハラがひどい。


「硝子に扉で挟まれて顔は痛いし、刹那は悟の呪力に当てられて熱出しちゃうし、悟は泣きそうだし、私は硝子に説教されるしで散々だったよ。こう考えたら私とても可哀想じゃない?」


「寝込んでる桜花が可哀想では?」


「それは悟と概念セックスしてたからで通せるよ。昨日はお楽しみでしたねってヤツ。私もたまに無理させ過ぎてベッドから動けなくしちゃうし。でも次は一週間後なんだから良いよね。ははは」


「おまえ……………………」


にっこり微笑んだ夏油がこわい。
こいつアレだな?女性関係大分クズだな?いや知ってたけど。でも今までマイルドに匂わせてたのに今日は露骨にクズだな???
連絡だろうか、携帯を見た夏油がゆるりと口角を上げた


「今日はリリカちゃんの日だな。黒川、報告書頼んでも良いかな?私このまま直帰するから」


「……その内刺されそうっすね」


「ははは、何の事かな」


俺の肩に逞しい腕を回した夏油がにっこりと笑う


「…仕方ないだろう?危険性はなくとも任務で命を懸けている事に変わりはない。
任務の後は特に高揚するんだ。悟みたいに徹夜で桃鉄したくなる訳じゃないし、刹那みたいに空腹で眠くなる訳でもない。これはリスクマネジメントの一環だよ」


「……メンタル保ちます?」


今年で俺達は三年生。つまり、夏油が居なくなる年だ。
昇級と重なる災害による激務で夏油は疲弊し、道を違える。少しずつ歯車が狂っていくのは星漿体護衛任務での失敗から。
…つまり本来なら、今の時点で予兆が見えていても可笑しくはない筈だ。
じっと隣の整った顔を見つめていると、夏油はからかう様に笑った


「なんだい?男を抱く趣味はないけど」


「マジで刺されそうっすね」


「ふふ、黒川は話してて安心するな」


楽しそうに笑って夏油は歩き出した。
その背を追って足を動かす俺に、切れ長の目が向けられる


「悟は勿論、刹那も結構ズレてるからね。硝子も基本冷めてるし。
だから、黒川や七海、灰原と話すとホッとするよ。君達は、私が捨てても良いと判断した常識を拾ってくれそうだから」


「……捨てても良いと思うものがあるんすか?」


問い掛けると、夏油は静かに目を伏せた。


「悟じゃないけど……」









「時折ね、非術師が猿に見えるんだ」











一歩踏み外せば











刹那→術式反転の特訓中。
熱が出ない様に全部呪力を抜いてもらう予定だったのに、やっぱり寝込んだ。

五条→術式反転の特訓中。
夏油の言葉に終始首を捻った。
びっくりした拍子に呪力をたっぷり流しちゃって半泣き。

硝子→ママのセクハラを物理で止めた。

夏油→特訓を特訓(意味深)だと思った。
非術師が猿に見える。イベントはすぐそこ。

黒川→唐突にセクハラを聞かされた。
闇も見せられたかわいそうなひと。


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