学年が上がり、その学校特有の空気に慣れた頃、それは起こる。
「私、五条先輩の事が好きなんです…!!」
「私は夏油先輩の事が好きで…!!」
「(それ、何で毎回私らに言うの???)」
『(ほんとそれな)』
自販機の前で新入生二人組に呼び止められたと思えばこれだ。私と硝子は視線だけでやり取りした。
ほんとマジで何で毎回コイツら文句を私らに言うの???ほんとそれな。
『それ、本人に直接どうぞ。私達に言われても困るんで』
「だって!五条先輩は声を掛けても立ち止まってくれません!」
「追えよ」
「夏油先輩は笑顔で手を振って行っちゃうし!」
『だから追えよ』
「普通女の子が話し掛けたら立ち止まるでしょ!?」
「普通じゃないんだろ」
「私達こんなに可愛いのにフルシカトとか可笑しくないですか!?」
『あ、こいつらが普通じゃないかも』
「ほんとそれな」
確かに二人共可愛いけど、自分に自信を持ち過ぎである。ぶっちゃけ硝子と悟の方が綺麗で可愛い。
そもそも悟は可愛いだけなら鏡で見飽きているだろうし、傑もオトモダチ(意味深)のレベルが軒並み高水準と聞く。
見た目だけであの二人の気を惹くのは難しいんじゃないだろうか
「あーもうめんどくさい。屋上から好きですって叫んでこいよ」
「フラれたらどうしてくれるんですか!!」
『新しい恋探せば?』
「大体先輩達が一緒に居るから私達が見て貰えないんですよ!付き合う気がないなら、協力ぐらいしたらどうなんです!?」
傑狙いのボブの女の子の言葉に、堪らず硝子と顔を見合わせた。
え?なんでそうなるの?何処をどう解析したらそんな妙ちくりんな答えに辿り着いたの?
首を捻る私達を他所に、二人は鬼の首でも獲ったかの様に騒ぎ出す
「先輩達は五条先輩と夏油先輩の彼女じゃないんですよね!?それなら毎日ベタベタするのもどうかと思います!!」
「寧ろ毎日くっついてお二人が迷惑してるって気付かないんですか!?」
『?』(自分と硝子を指すジェスチャー)
「?」(自分と刹那を指すジェスチャー)
失礼ながら、後輩二人が言っている事が理解出来ない。
それはどうやら硝子も同じ様で、最終的に二人で肩を竦めるジェスチャーで終わった。
それから此方を睨む二人に目を向ける
『じゃあ、席に座ってたらわざわざ持ち上げて膝に移動させてくる男にどう対処すれば良いか教えてくれる?』
「は?」
「私らが女二人でデートに行くと毎回やぁ、偶然だねとか言って乱入してくるクズ共にどう対処すれば良いか教えてくれる?」
「え?」
『毎晩寝てる間に爪切りもマニキュアもしてくれるんだけど、最近何でか自分の香水を私に掛ける様になった二歳児への対処法考えてくれる?』
「えっ」
「タバコ吸う時に火貸してくれるし携帯灰皿も貸してくれるけど、時々シガーキス迫ってくるクズへの対処法考えてくれる?」
「えっ」
「ああ、だから最近アンタから五条の匂いがするのか。マーキングヤバいな」
『悟って香水毎日変えるじゃん。だから毎日違う香水掛けられるんだよね。あいつが使うの全部良い匂いだから良いけど。
ああ、今日傑からタバコの匂いがしたと思ったらそれか』
のんびりとお互いの匂いへの感想を伝えていると、女の子達は走り去ってしまった。
小さくなる背を眺め、怠そうな硝子と目を見合わせた
『…この程度で逃げるって弱すぎじゃない?』
「ほんとそれな」
「なんでアンタも一緒なのよ。私と五条くんだけで十分なんだけど」
「黙れ雑魚。俺と刹那がコンビなのは当たり前なの。寧ろオマエがお荷物だって気付け」
『わー、仲良くする気が微塵もないな』
「そもそもこの任務私と湖島要ります???」
私と刹那ちゃんと五条、それから湖島が組まれた任務など最早闇鍋である。
現にさっきから湖島は刹那ちゃんに当たりがキツいし、それに反応した五条が湖島を威嚇していた。
刹那ちゃんは苦笑いして五条に抱え込まれている。そこはとても良き。五刹は息する様に自然に行われるべきなので、車の中で護る様に抱え込まれる刹那ちゃんは正しい五刹を遂行している。萌えですねありがとうございます。
『悟、あんまり抱っこされると眠くなるんだけど』
「寝て良いよ?着いたら起こすし」
『いやいや、起きとくよ。起き抜けで任務も身体動くか判んなくて怖いし』
「オマエ寝起き良いじゃん。それに今日ってコイツらの見張りでしょ?ヘーキヘーキ」
『慢心は怪我のもと……ああああぽんぽんするな…ああああああああ……………。………………。………』
「はいおやすみー」
刹那ちゃんの呻き声が消えた。
寝落ちたんだろう彼女を扉に寄り掛かりつつしっかりと抱え直し、五条はポケットから出したサングラスを掛けた。
それと同時、今まで緩く弧を描いていた唇が真一文字になる。
つまり、宝物対応の笑顔が終了した合図だ。
お前ほんとそういうトコーーーーー!!!!!!!!
その刹那ちゃんが起きてたからにこにこしてました感よ!!!良いぞ!!私達モブに愛想悪い五条悟めちゃくちゃ推せる!!!!ありがとうございます!!!!
お前ほんと鑑賞向きなのよ!!!ずっと五刹とさしすせカルテット永久展開してて!!!此方には来んなよ絡まれたら死ぬほどムカつくからな!!!!!!
「語部、暇だから面白い話して。刹那が起きない様に十文字以内ね」
此方来んなっつったろ!!!!!!
「出来るか!!!!!!」
「バッカ声がデケぇわ。快眠テディちゃんが起きんだろ」
五条が素早く刹那ちゃんの顔を覗き込んで、それからほっとした様に微笑んだ。
刹那ちゃんを抱え直してまた無表情に戻った五条は、綺麗な黒髪を指に巻き付けて遊んでいる。
多分こいつ、二人だけの任務だったらこうやってずっと静かに遊んでるんだろうな。
「ホントはさ、今日俺達休みだったんだよ?一緒に遊ぼうねって約束してたの。
それなのに刹那がオマエらのお守り言い渡されてさ、ひどくない?
マジで勝手に祓ってこいよ」
「ん?という事は私達のお守りは刹那ちゃんだけだったんです??」
「ウン。俺は飛び入り参加」
「帰れ」
刹那ちゃんだけ置いてけ。
私の言葉に五条は口を尖らせ、それから不機嫌そうな低い声を出す
「別に良くない?オマエらの邪魔はしねぇし、刹那も俺が連れ回しても良いって許可が降りてる。
だから俺はオマエらの任務が終わったら、刹那とどっかテキトーなトコで降りて遊びに行く」
「彼氏の仕事場に押し掛けた彼女か」
「ハー???俺が彼氏なら判るけどなんで彼女???あ、俺可愛いもんね。判るよ、語部より睫毛も長いしバサバサだし眼もぱっちりしてるし可愛いもんね」
「ウゼェ!!!!!!!!」
「だーかーらぁ、大きな声出すなってば。脳味噌酸欠なの?ちゃんと機能してる?
歩いてもねぇのに数分前の会話忘れるとかニワトリ以下かよ」
「死ね!!!!(小声)」
「ほんとオマエといい歌姫といい語彙力ねぇな。直ぐウゼェ死ねは止めろよ。頭緩いボキャ貧に見えるよ。…あ、そっか。
ゴメンね?ボキャブラリーが貧困に喘いでいるって意味だったんだけど通じた?あ、そもそもボキャブラリーって判る?
日本語で言うと語彙って意味なんだけど、あ、語彙って判る?語彙って言うのはねー」
「クッソマジで口開いたらムカつかせるしかないのかよ黙れ」
「えー?俺普通に喋ってるだけなのにオマエが勝手にキレてるんじゃん?
もう少しお淑やかにすれば?ヒスはモテないよ?
てかオマエそもそもゴリラじゃん?お淑やかにしないとマジでモテないよ???」
「キレさせてんのは誰だよモヤシ!!!!」
「あー俺それキラーイ。いーけないんだーいけないんだー。
人が嫌がる事って言っちゃいけないんだよ?語部そんな事も知らねぇの???
一般出身の癖に俺より常識ないとか終わってんね????」
殴って良い???
すっごいウザいんだけど殴って良い???
そもそも女の子にゴリラとか言っといて、自分がモヤシって言われたら責めたな?嘘だろゴリラを嫌がる事だと思ってない…???
膝の上の拳がうっかり飛び掛からない様に必死こいて抑え込んでいると、五条は唸った刹那ちゃんの背中をぽんぽんと叩いた。
「あーごめんね刹那。うるさかった?起こすまで眠ってて良いよ、おやすみ」
『んぐぅ』
「唸り声が全然可愛くなくて可愛い」
「どういうこと…???」
「馬鹿め。刹那ちゃんが媚を売ってない自然体なのが可愛いって言ったんだろ何で判んないのお前」
「いや普通に可愛くないじゃない。何よんぐぅって。なんの鳴き声?」
「テディちゃんの鳴き声だよ可愛いだろ。つーかオマエに可愛いとか思って欲しくねぇから。刹那を見るな」
ぎゅうっと刹那ちゃんを抱え込んで助手席の湖島から隠す五条。うん、お前ほんと刹那ちゃん関連だとかわいい。
やっぱりね、五刹は正義。
単品だと死ねとしか思わんけど。
「右よ!あ、左!!嘘、もう退いて爆破するわ!!!」
「お前実は協力プレイ死ぬほど苦手だな!?!?!?」
「指示が下手、直ぐ爆破する、仲間まで殺す……ウケる。共闘でやっちゃいけないリスト役満じゃん」
『さとるっちー、おねがーい』
〈オマカセアレ!〉
私の肩に乗っていたさとるっちが威勢良く鳴いて、直ぐ近くで破裂した手榴弾から護ってくれた。
煙が晴れた先に呪霊は居らず、無事祓えたのだというのは理解出来た。
自分の身体を確認し、白猫をぎゅうっと抱き締める。
「ありがとうさとるっち…!!私の協力プレイの相手はお前だった…!!!」
〈オレ サポートキャラ デスケド??〉
「サポートキャラより使えないあの女」
「はぁ!?アンタがチョロチョロするからでしょ!!!」
「普通は仲間居るのに手榴弾投げないんだよ!!!ぶっちゃけ散弾銃もナシ!!!当たるだろ私に!!!!!」
「そのぐらい避けなさいよ!!黒川は避けたわよ!!!!」
「アイツはスピード狂だろうが!!!!」
「おーおー喧嘩し始めたぞ」
『さとるっちー、交代しよっか。今で二回目だしそろそろ疲れるんじゃない?』
〈バトンタッチー〉
〈アトハマカセター〉
さとるっちが新しい子と入れ替わり、今まで頑張っていた子は刹那ちゃんの膝に向かった。
倒木に腰かける五条の膝の上の刹那ちゃんの膝に乗るさとるっち。……膝ばっかでややこしいな???
『どうする?まだ呪霊残ってるでしょ。一旦語部さんが私と組む?湖島さんは悟と組めば?』
「やだ。俺今刹那と組んでるでしょ。嫌だ」
「おい五条刹那ちゃん寄越せ!!湖島だといずれ私が死ぬぞ!!!」
「クソ猫が居れば死なねぇよ。……呪力切れたら死ぬけど」
「ほらぁ!!!!!!」
〈ムゲンハ レンゾク サンカイマデ!〉
〈アトハ コウタイ スイショウ!!〉
『三回も無限使えるのって凄いよね。何時もありがとう。たまに限界まで使わせちゃってごめんね、さとるっち』
〈オキニ ナサラズ!〉
〈キュウケイ スレバ モーマンタイ!〉
甘えてくるさとるっちを笑って撫でている刹那ちゃん。それを優しい顔で見ている五条。
いやなにこれ宗教画???これさえあれば世界平和が訪れるな??
エッお布施は何処に持っていけば…???
「てえてぇ……とても良き……」
世界平和の象徴に静かに手を合わせていると、隣から空気が読めない女が声を上げやがった
「ちょっと何時まで五条くんの膝に居るのよ桜花。此方来なさいよ」
「は?何で刹那の事オマエが決めんの?雑魚が調子乗んなよ」
しれっとした顔で五条がそう返し、膝に座らせた刹那ちゃんをぎゅうっと抱き締める。
刹那ちゃんは苦笑いするだけで何も言わない。
うん、それが最適解。下手に刹那ちゃんが湖島を庇えば五条は勿論、湖島もキレると思う。
この女、大分めんどくさそうなので。
「語部、奥進んで。クソ猫五匹貸してあげるから行ってこいよ」
『え?私達は行かないの?』
「俺達は此処で待機。何かあったらクソ猫が知らせるだろ」
ゴングが鳴る音が遠くで聞こえた
「大体何で五条くんの膝にあの女は乗ってるの?そこはあれでしょ?夏油くんの席でしょ?
そもそも何で桜花が膝の上?
私的には夏油くんか私以外は全員解釈違いなんですけど???」
「は???あのモヤシが夏油を膝に乗せたら潰れるぞ???
そもそも此処はどう見ても五刹世界だろ。
明らかに五条が刹那ちゃんを世界を越えても追い掛けそうな愛情向けてんだろ夏油もだけどお前の方が解釈違いだゴスロリ女」
「は???真実の愛に気付いてないだけだろ桜花が退けば親友だと思ってた夏油くんがどんどん色っぽく見えてくるんだよ良く見ろゴリラ」
「は???真実の愛こそ今育んでる五刹だろ。刹那ちゃんの立ち位置も術式の弱点も全部解決する程愛を注いでんだぞ???今も二人でトラウマ克服中だぞ???
寧ろ今刹那ちゃんを五条から離したら世界は滅亡しかしないぞ馬鹿???」
〈ミギー!〉
「了解!」
さとるっちの声に合わせて刀を振るう。
鋭い爪を備えた腕を斬り落とし、脚力を強化して背後に飛び退く。
その瞬間に銃弾が呪霊の身体を撃ち抜いて、敵は悲鳴を上げながら消滅した。
「サンキューさとるっち。助かったよ」
〈ドウイタシマシテ!〉
〈オツカレー〉
〈ノーダメ!〉
〈カエロー〉
〈オワッター〉
さとるっち五匹を連れてボロボロの建物を後にした。
その間も後ろの湖島はぶちぶちと有り得ないCPを呟いている
「そもそも何で伏黒甚爾もママ黒も生きてんのよ。孔時雨も此方に付いてるし。
……でもこれなら遠慮なく五夏を推せるのでは?離反なしの教師夏油を見られるのでは?
え?五夏が教師の格好で教室でイチャつくの見られるのでは????」
「妄想乙。五条がイチャイチャすんのは刹那ちゃんだけでーす。夏油は離反しないかもだけどこれからも五条がベタベタするのは刹那ちゃんだけでーす」
そもそもアイツ二歳児だぞ?そんな奴が攻められるか?あのガチムチの体術バリ強夏油を???無理だろ(真顔)
「判った、じゃあ五悠を待つわ。五伏でも可」
「可じゃねぇよその頃には五刹もう心も身体も繋がってんじゃない?
今も結構チュッチュするんだから十年もあれば結婚…???
え、原作ではなかった五条刹那ちゃんを拝める…???
マジで?ついに御祝儀として札束を貢げる日が来るというの…????」
「オイふざけんなよメスゴリィ!!!五条くんは男としか身体繋げませーん!!!桜花は夏油くんとくっつく前の前座でーす!!!」
「ふざけんなよゴスロリィ!!!あのポンコツ二歳児を包み込めるのはテディちゃんに決まってんだろ!!!
初恋も愛もぜぇーんぶテディちゃんに捧げる定めなんですぅ!!!!!」
「は????????」
「は????????」
────ガァン!!!と互いの得物が叩き付けられた
和解?無理です。
刹那→ごじょったりげとったりする。
でも圧倒的にごじょる事が多い。この時期の知らない女子は敵だと思ってる。
最近五条が自分の香水を掛けてくるのを不思議に思っている。
五条→刹那と硝子関連で絡まれたら無表情で蹴散らす。
刹那に自分の香水を掛ける事にハマった。だって自分よりも甘くて良い匂いになるから。どれを付けさせても好みど真ん中な匂いになるので選ぶのが楽しい。
後日、刹那に鼻先を埋めてすんすんしてたら「犬だwwwwww」と夏油に笑われてスマブラした。
硝子→ごじょったりげとったりする。
でも圧倒的にげとる事が多い。この時期の知らない女子は発情期の猫だと思っている。
夏油がシガーキスをねだるのを面倒そうな目で見ている。
五条の香りを身に纏う刹那に「今日もマーキングされてんなー」と思っている。
語部→五刹強火担。
湖島とは死ぬほど相性が悪いと感じている。
湖島→五夏推し五条総攻め推進派。
語部とは死ぬほど相性が悪いと感じている。
さとるっち→三回までならリスクなしで無限を使える。
三回使うと自分から鉄扇に帰っていく。自動で次のさとるっちが出てくるので、刹那にはポケモンの「バトンタッチ」か「とんぼがえり」を使っていると思われている。