サプライズ!

ぱく、と包まれて、ちゅう、と吸われる。
ちゅぱ、と離れたそれがまた直ぐに隙間を埋め尽くして、襞を擦り合わせた。
暫し身を寄せているかと思えば、今度は下唇を挟み込んだ。
ちゅっちゅと戯れる様に吸われ、じゅう、と強く吸われる。
びく、と跳ねた肩に空と海を融かし込んだ蒼がゆるりと笑んだ。
ほんの少し顔が離れて、吐息が濡れた唇を撫でる


『…さとる』


「うん?なぁに?」


『それ、ぞわぞわしていやだ』


「わかった。じゃあまたちゅうしよ」


『ん』


指まで絡め合った手に優しく力が込められる。
それを握り返しながら、また唇を重ねてくる悟に目を閉じた。

















「………とてもえっちなきすをしているな…???」


「?刹那の唇食べてるだけだけど」


「うーん、御三家の性教育………」


何時も通り忙しく過ごしていれば、あっという間に六月。
頭を抱えてしまった時雨に首を捻りつつ、饅頭を口に放り込んだ。
うん、美味い。でも今は何だろう、チープな甘さが欲しい気分だ。
刹那の事を話したら、初めて食べたクッキーとホワイトチョコのチロルチョコが食べたくなった


「時雨、チロルチョコねぇの?青と白のヤツ」


「雪光くん用に買ったのなら何個かあるけど」


「んえ、雪光用……?」


暫し思考する。
これが傑用なら半分は勝手に食べただろう。七海のでもそのぐらいは取っていた。黒川と語部なら一個だけ残してやった。
でも相手はガキ。オマケに刹那の弟だ。
……むむ、と意味もなく口を尖らせて、それから頭の後ろで腕を組んだ


「……じゃあ良い。がまんする」


「ふふ、良いんだぞ?雪光くんのならまた買ってくれば良いんだし」


「良いの!小さいヤツには優しくしてやれって傑が言ってた!!」


「ははは!そうかそうか!!偉いぞボス、思いやりは大事だもんな!!」


破顔した時雨にわっしゃわっしゃと頭を撫でられてめちゃくちゃびっくりした。
え?…そんなに褒められる事した…??
…いや、褒められる事したな…?だってチロルチョコ我慢したもんな…???
………俺めちゃくちゃ偉いじゃん。帰ったら傑に自慢しよ。


「ふふ、良い子なボスには……ほら!!これをあげよう!!」


「!!!!!!!!!!!!!!」


────クマのチョコレートが、缶詰一杯に詰められていた。
動けなくなった俺の手に時雨がそっとクマを乗せる。
え、え?え??


「刹那じゃない?睫毛まで描いてあるよ?それに黒いクマだよ?目が黄色なのが減点だけどこれは80%刹那じゃない????」


「80%かぁ。俺は100%かと思ってボスに買ってきたんだけどなぁ」


「良く見て時雨。刹那の眼はアイオライトみたいな綺麗な菫青だよ。キラキラしてるでしょ。このクマは可愛いけど眼が黄色。
そんでもって耳がちょっと上に付いてるだろ。もうちょい角度的には下が良い。そしたら100%刹那」


「んー、難しいな…もうどっかで鋳型作って貰った方が早そうだな…?」


「その手があったか」


「何の話してんのお前ら」


時雨とクマのチョコレートを前に話し込んでいたら、玄関の方から甚爾がやって来た。
片手にビニール袋を提げた男に俺はクマを掲げて見せた


「見て甚爾!!80%刹那!!!」


俺の手許をじっと見て、それから甚爾が首を傾げた


「…もう100%で良くね?何で80?」


「眼の色で十五点減点。耳の位置で五点減点」


「あ、テディちゃんの眼の色が大きいんだな」


「当たり前でしょ???刹那の眼だよ???菫青だよ????一日眺められるでしょ?????」


「圧が凄ぇwwwwwwwwwwwwwww」


ゲラゲラ笑う甚爾は放置して、苦笑いする時雨にキッチリ訂正を入れておく。あれは断じて紫じゃないし、青でもない。菫青だ。
あの菫青は何時もキラキラしていて綺麗なのだ。見ていて飽きないし、ずっと眺めていたいと思う。実際眺めたら刹那は苦笑いしていたけど。
手を上げている80%刹那をじっと見て、それから口に放り込んだ。
舌の上でじんわりと溶け出すクマは美味しい。
俺は笑みを浮かべつつ、時雨の手を掴んでそこにお座りしたクマのチョコレートを乗せた。
それから隣に座った甚爾にも寝転がった80%を渡す


「美味いものは皆で食ったらもっと美味いんだって!仲が良ければもっと美味いんだって傑が言ってた!!だからあげる!!」


これも俺の宝物が教えてくれた大事な事だ。愛されてるって実感出来る、暖かな記憶だ。
にっと笑った俺を見て、時雨は優しく笑った。甚爾は目許を押さえ、上を向いている。


「……うん、ありがとうなボス。有り難く頂くよ」


「アーーーーーー……何だろう、この甥っ子マジでホントこういうトコあるんだよな」


「?甚爾食わねぇの?」


「食うよ。ありがとな」


がしがしと頭を撫でられて、首を竦めつつ笑った。
頭を撫でられるのは好きだ。
俺の頭を撫でてくれる人は、何時だってその時に笑ってくれる。力強さに個人差はあれど、皆優しい顔で、俺に好きだよって感情を伝えてくれるから。


「んふふ、美味い」


「良かったなぁボス。俺もとっても美味しいよ」


「こうやって笑ってりゃ無害なのにな…」


「甚爾は?美味い?」


「おー。美味いよ」


チョコレートを小皿の上に並べてみる。
手を上げる、寝転がる、お座り、ハートを抱えたもの、それから天使の羽が生えたもの。種類が豊富なのは加点ポイントかな。
クマを綺麗に並べてから、静かに時雨を見た。


「時雨、雪光はどんな感じ?」


「元気にしてるよ。今日は伏黒のトコで恵と遊んでる」


「恵と津美紀も入れた三人で直哉の面倒見てるんじゃねぇの?」


「直哉の?…甚爾って禪院嫌いじゃなかった?」


思わぬ言葉の目を瞬かせると、甚爾は深く頷いた。めっちゃ深いな。


「当主も禪院にしては話しやすいってだけで、あの家は嫌いだよ」


そこまで言って、甚爾はビニール袋から缶ビールを取り出した


「けど、それで直哉を嫌う理由にはならねぇだろ。……あんなにキラキラした眼で見てくるガキを、名字が禪院って理由で切り捨てるほど、俺は情を捨ててねぇ」


プルタブが起こされる。
カシュッと炭酸が抜ける音がして銀の缶を口に運ぶ甚爾を見て、俺はサングラスをかけ直した


「甚爾、やさしいね」


「ハ、馬鹿言うな。気紛れだよ」


「ふふ、そうだな。伏黒は気紛れだもんなぁ」


言葉が途切れて、自然と全員の口許が緩く上がっていた。
















「な、なぁ、驚いた?
俺今年から此方に来たんや。なぁ刹那ちゃんびっくりした???」


…つり目がとてもキラキラしている。
任務終わりの街中で突如現れた彼の某二歳児のバブちゃん時を思わせる表情に、私はにっこりと微笑んだ


『うん、すっごくびっくりした!!久しぶりだね直哉!!元気にしてた?』


「!おん!あのな、友達も出来たんやで!あと甚爾くんに体術見て貰うてる!」


『そっかそっか、楽しそうで安心したよ』


……ぶっちゃけてしまうと、四月の時点で灰原から禪院直哉という同い年だが弟みたいな存在が来たと連絡を貰っていた。
だから直哉が編入してきたのは知っていたし、伏黒一家でお世話になっていたりするのも時雨さんから聞いている。
けれど、どうやら直哉が私にサプライズをしたいそうだと七海から聞いたので、先程の反応をしたのである。
隣に立った直哉は相変わらず目をキラキラさせていた。とても嬉しそう。
…私こんなに懐かれる様な事したっけな?


「なぁ、どっか行かへん?この辺りは美味いものが多いって聞いた!」


『良いよ。食べたい物ってある?』


「名前片仮名のものがええな。禪院じゃそんなん殆ど出えへんし」


『名前が片仮名…???』


範囲広いな…???
直哉のリクエストに小さく笑いつつ、街に繰り出した。


















「直哉とデートしたんですって?オマエは俺のテディちゃんなのに???
え?浮気??それとも此方が浮気相手だった????サト子は遊びだったの???」


「wwwwwwwwwwwwwwwwww」


「wwwwwwwwwwwwwwwwww」


『うわぁめんどくさい状況だな』


無表情で詰め寄る悟に私は苦笑いして、ゲラ共は崩れ落ちた。こいつらマジでゲラ。


夕方、家に戻った私を待ち受けていたのはソファーで腕を組んだ無表情の悟と、既にひいひい言っていた傑と硝子だった。
三者の間での温度差がひどい。


私は取り敢えずテーブルにお土産を置いた。
ドーナツの文字に一瞬表情を輝かせつつ、直ぐに無表情になった悟を直視した傑が噴き出して死んだ。おいクソゲラ


『ただいま。今日は任務終わりに直哉に会ってね。久々だったし街の案内してきたよ』


「ヤツが四月から此方に来てたって知ってるのにわざわざ街の案内してやったの?
アイツ七海と灰原にちょいちょい街に連れてって貰ってるよ?
なんなら甚爾が居ない時のママ黒サンの護衛で一緒にスーパーとか行ってるよ?
そんな奴に案内するトコある???」


『片仮名のものが食べたいって言うから』


「ドーナツ食べに行ったの?」


『うん』


「一緒の席座って?」


『?うん』


いや一緒に行ってるのに別の席に座って食べるの???可笑しくない???
首を捻りつつ頷いた瞬間、悟がシャウトした


「浮気だ!!!!!!!!!!!!!!」


「ひいwwwwwwwwwwwwwwwwww」


「しぬwwwwwwwwwwwwwwwwww」


『わー、クソデカボイス』


このクソゲラ共ふん縛って転がしてやりたい。泣くほど笑うな。床に転がるな。床を叩くなゲラゲラすんな。
腹立たしいが、今はゲラの相手をしている場合じゃない。
先ずは目の前の二歳児をどうにかしなくては


『悟、私は今日直哉と街ふらふらしてドーナツ一緒に食べただけだよ?』


「でも今日俺午後休みだって刹那に言ってた。それなのに俺ほっといて刹那は直哉と遊びに行ったんだろ?」


『任務の後に会ったし久々だったから直哉を優先しちゃった。ごめんね。
悟に合流しようって言った方が良かった?』


「ううん、そしたら直哉とスマブラになってた」


いやめんどくさいな?
仮に悟を呼び出してたら直哉を排除しようとしたってこと?じゃあ呼ばなくて正解だった?
話している間に激おこ状態は脱したのか、むすっとしている悟に苦笑いしつつ、自分用に持ってきた紅茶を口にした。


『悟は今日何してたの?』


「時雨と甚爾と話し合いしてた。刹那が居なかったから」


「束縛系彼女かよwwwwwwwwwwwwww」


『そっか、次の休みは遊びに行こうね』


「絶対だからな。次もまた直哉に構ったら俺怒るからな」


「もう怒ってるよwwwwwwwwwwww」


『うん。約束ね』


「縛る?」


『ん??????』


「デートの約束でwwwwww縛り使うなwwwwwwwwwwww」


「ひいwwwwwwwwwもうやめてwwwwwwwwwwwwww」


硝子が床バンバンを止めない。傑はもう息も出来ないのかぷるぷるしている。こいつらはもうほんとゲラ。
というか遊びに行く約束で縛り使っちゃうの?重いな?
悟はむすっとしたままだ。つまり真面目にふざけた事を抜かしている。
……うーん、滅多にこんな事もないし、縛りくらい良いのかな?
頷きかけたその時、悟が静かに私を呼んだ


「ねぇ、刹那」


『ん?』


悟はソファーに腰掛けたまま、首を傾げていた。先程までの怒りの気配は消え、ただただ困惑している様に見える。


「……オマエが傑でも硝子でも七海でも黒川でも……誰と一緒に遊びに行っても、俺も一緒に行きたいって思うだけで、行くのが嫌だって思った事はなかった。
……でも、直哉はやだって思った。なんで?俺なんで、こんなに嫌だって思ってんの?」


「」


「」


『』


急募:至極真面目に嫉妬していますと伝えられた時の返し方












ヤキモチですが、なにか?












刹那→弟が増えた。
弟のサプライズを笑顔で受け入れ一緒にデート(食い道楽)したら、二歳児に「私は貴女が彼と出掛けるのが物凄く嫌だと思いました。この感情はなんですか?」と問われ宇宙猫を背負った。

五条→刹那が戻ってこないので伯父さんの所に行った。クマちゃんチョコが美味しかった。最近小さな子への配慮を覚えた。
刹那が直哉とデート()したと聞いておこ。
でも自分の感情をよくよく解析するとただの怒りとも違う気がして素直に聞いてみると、三人が動かなくなった。
初めて明確に嫉妬という感情を抱いたかもしれない。

夏油→ゲラ。
「僕はテディちゃんがぽっと出の野良に取られてとても怒っています。この感情はなんですか?」と問われ宇宙猫がサンバを躍り始めた。

硝子→ゲラ。
「俺はテディちゃんが俺をほっといた癖に他の男とデートしたのでとても怒っています。この感情はなんですか?」と問われ宇宙猫がブレイクダンスを始めた。

直哉→お姉ちゃんにサプライズ出来てにっこり。

甚爾→甥っ子(仮)とチョコを食べてほっこり。
ビールを飲んだのは気紛れ。ジンジャーエールの気分じゃなかった。

時雨→甥っ子(仮)の成長ににっこり。

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