背を向けるべからず

「せつなちゃん、さっちゃんとはどこまでいったの?」


『ん????????』


「恵ーーーーーーー!?!?!?!?」


「wwwwwwwwwwwwwwwwwwww」


…伏黒家は今日も賑やかである。
















今日は任務がなかったので、伏黒さん家にお邪魔していた私。
最近は会える時間が少なかったからか、めぐと津美紀は私を見るなりぱっと笑顔を見せてくれた。
それから甚爾さんとママ黒さんも交え寛いでいた所に、めぐが冒頭の発言をブッ放したのである。


『悟と何処まで行ったか…?』


え、嘘でしょ?
まさかオトナな意味で言ったんじゃないよね?まだめぐそんな事知らないよね?


『えっと、この間は映画観に行きましたけど…』


なのでわざとそのままの意味で受け取ったフリをしてみれば、めぐはぷくっと頬を膨らませた


「ちーがーう!!おててはつないだの?ちゅーはした?もういちy」


「恵!!!!!ちょーーーっと静かにしよっか!!!!!!!」


「wwwwwwwwwwwwwwwwwww」


「せつなちゃん、おかあさんどうしたの?」


『あはは……つーちゃん、クッキーどうぞ』


「ありがとう!」


めぐの口をママ黒さんが塞ぎ、隣で甚爾さんが爆笑している。
それを津美紀と眺めながら、最早私は笑うしか出来なかった。
ママ黒さん、めぐから昼ドラを遠ざけた方が良いかも。
意味は判ってないんだろうけど、言葉めちゃくちゃ覚えてますよ。


『悟とは仲良くしてるよ。一緒に遊んだりしてるし』


「すぐるくんは?」


『傑も仲良しだよ。この間ご飯一緒に作ったし』


「しょうこちゃんは?」


『硝子も仲良しだよ。一緒にお出掛けしてお揃いとか買ったりするね』


なんだろう、何故友人関係を精査されている犯人の気持ちになるのか。
じいっと此方を大きな目で見てくるめぐが、見事に二人の成分を受け継いでいる見た目でほっこりした。
津美紀はどちらかと言えば母親似なんだろうか。甚爾さん成分が見当たらない様に思う。


「ねぇせつなちゃん」


『ん?』


「あのね、さいきんぼくおとうとがふえたの。なおちゃんっていうんだけどね、さっちゃんみたいにおっきいの」


「wwwwwwwwwwwwwwwwww」


「甚爾くん、ちょっと声が大きいかなぁ」


今度はママ黒さんが転がるゲラの口を塞いだ。
判るよ甚爾さん、でもね?
貴方の息子さん、真面目な顔で直哉の事弟だって言ってるの。
なんなら御三家の当主まで自分の弟だと思ってんの。
そう考えるとこの子凄いな?
大きくなった時に、御三家当主と次期当主候補を弟扱いしてたって黒歴史にならなきゃ良いけど


「なおちゃんね、おとうさんになりたいんだって。んーと、まじかるにふてっど?はつよいんやー!!っていってた」


『フィジカルギフテッドかな。まぁ甚爾さんに憧れてるみたいだったもんね』


「せつなちゃん、かみのけみつあみにしていい?」


『良いよー』


「やった!おかあさんくしとかわいいゴムどこ!?」


「ふふ、一緒に選ぶ?」


「うん!ちょっとまっててねせつなちゃん!」


『はーい』


津美紀がママ黒さんと一緒に部屋に駆けていって、リビングには転がる甚爾さんと私と、膝の上によじ登ってきためぐが取り残された。
下に居るめぐが、くりくりした目で此方を見上げてくる


「せつなちゃん」


『なに?』


「せつなちゃん、さっちゃんのことすき?」


『うん、好きだよ』


「じゃあなおちゃんは?」


『好きだよ』


「じゃあ、さっちゃんとなおちゃんならどっちがすき?」


『凄い質問するじゃん』


「なんかソイツ、嫁とドラマ観てるからか妙にマセてんだよ」


ごろりと寝返りを打った甚爾さんが続ける


「俺も今まで何人と付き合ってきたかって聞かれた」


『それ良いの?』


「覚えてねぇぐらいって返しといた」


『嘘だろ』


そんな答え方をこんな小さい子にしちゃう…???
思わず理解出来ないものを見る目を向ければ、競馬厨はニヤリと笑った。


「退くなよ。夏油も似た様なモンだろ?」


そう言われ、考えてみる。
複数人、それこそ日替わりレベルでオトモダチ(意味深)が居る傑と、数えきれない程の女性とお付き合いしてきた甚爾さん。


『…誰かと付き合ってる間に浮気とかは?』


「複数同時進行アリ」


『どっちもクズ』

















「……なぁ、お嬢ちゃん」


『何ですか?』


伏黒家からの帰り道、コンビニに行くらしい甚爾さんと連れ立って歩いていると、甚爾さんが静かに口を開いた。


「…実際、坊の事はどう思ってんだ?」


『え?』


思わぬ質問に脚が止まった。
立ち止まった私を、少し先で留まった甚爾さんが振り向いて見下ろしている。


『……どう、とは?』


「男として見てんのかって話だよ」


甚爾さんの言葉に息が詰まった。
……悟は男ですけど?なんて誤魔化しは効かないんだろう。
溜め息を吐いて、ゆっくりと切れ長な目を見つめた


『……愛を告げられても気持ち悪くないです』


深くは話していないが、甚爾さんも私のトラウマを察しているんだろう。
ぼそぼそと口にした心を鋭敏な耳でしっかり拾い上げると、ふっと吐息の様に微笑んだ


「……そりゃあ重畳。フラれる五条家当主は見なくて済むって訳だ」


落ち着いた声音から安堵が伝わってきて、何となく心がむず痒くなった。
そんな私を見下ろしながら、甚爾さんは続ける


「まぁ、坊も夏休みの自由研究みてぇに自分の感情分析ばっかしてるけどよ」


『自由研究……』


「その感情分析が終わったら、だ」


ぴっと、太い指が此方に向けられる。
そして、傷を刻んだ唇が迷いなく言葉を落とした


「お嬢ちゃんは一生坊から逃げられなくなっから、覚悟しとけよ」


『は?????????』


一生????なんで????人生丸々って事??????え??????何それどういう事?????
疑問符ばかりが浮かぶ脳は既に思考を放棄している。いやもう少し頑張って?私の脳味噌諦め早いね???
困惑で固まった私に甚爾さんは溜め息を一つ落とした。
それから覚えの悪い生徒に教える様に、ゆっくりと話し出す


「坊の普段の態度思い出せよ。お嬢ちゃんに二十四時間執着してんだろ?
聞くけどよ、お嬢ちゃん、少しでも坊から放置された事あるか?」


『……………………………………ナイ,カモシレナイ』


おはようからおやすみまで五条悟。
なんだこのパワーワード。不穏な気配しかない。
でも私の朝は悟に埋もれて始まるし、おやすみも悟の腕の中で迎える。
あれ、これ私の日常が大分悟に毒されてない…?


「カワイソーに。朝から晩まで坊に粘着されてんだろ?寧ろそれで良くどっかで離れられると思ったな???」


『え?いや、だって…悟は御三家の当主ですし。結婚は良家のお嬢さんを迎えるのかなって』


卒業して、何時か綺麗な人と笑顔で並ぶ悟に、きっと私達は笑顔で祝福の言葉を紡ぐ。
それが私の中で揺るぎない未来だったのだ。
でも、どうやらこれは甚爾さんにとって有り得ない未来だったらしい。
信じられないものを見る目を向けられてしまった


「おま………予想以上に拗れてんな…」


『失礼な教師だな???』


「こりゃあ坊ぐらい規格外じゃねぇと無理だわ。お似合いだよお前ら」


『何を自己完結した???』


呆れた表情を浮かべる甚爾さんの背中を叩くが、自分の手が痛いだけだった。
背中を叩いた筈なのに、跳ね返ってきた感覚が最早壁だったのは何故…???
痛さを飛ばそうと手をヒラヒラさせる私を馬鹿にする様な顔で見下ろしながら、ゴリラは言う


「執着するタイプの男はな、一途なんだよ。この女しか居ねぇって思ったら、ソイツをどうやってでも手に入れる」


『……悟が、そのタイプだって?』


「お前らへの執着は尋常じゃねぇだろ」


さらりと返され閉口した。
確かに悟の私達への執着は凄い。何から何まで知りたいらしいし、実際悟は私より私の事を知っていると思う。


「…お嬢ちゃん」


『なんです?』


「…坊に告白されたら、逃げるって選択肢が最悪の選択になるってのは、忘れんな」


『………………』


頬を、嫌な汗が伝った。


「プロポーズされたら、もう坊がお前の全てを食い散らす気だって理解しろ」


切れ長の瞳が、真摯に私を貫いた


「ああいうタイプは、一度欲したら一生しゃぶり続けるんだよ。
飽きるなんて有り得ねぇ。余所見なんて論外。心が決まれば坊はお嬢ちゃんしか見えなくなる。
つまり、告白はお前を明確に縛る下準備。プロポーズが、お前を一生貪るって宣告だ。
……間違っても坊の前から姿を消したりするな。
────そんな事したら、お前は」














「……二度と外を自分の脚で歩けなくなるぞ」












逃げるなよ、助かりはしないのだから











刹那→伏黒家に遊びに来た。恵がどんどんヤババな言葉を口にするのが心配。
この度甚爾の親切心から丁寧に脅された人。ヒエッ

……だって、いずれ■■に至る■という感情を五条が自分に抱くとも思っていなかったし、いつか■を成す関係が未だ恐ろしい彼女は、五条と■■になるなんて考えもしなかった。

つまり、彼女は五条に自分は女として意識されていないと思い込んでいた。
だって一瞬『え?』と思っても、距離感がぬいぐるみと幼児のそれだから。
そもそも異性として意識しているなら、笑顔で何事もなくアヒル風呂に一緒に入らないだろうと考えていた(普通は正解)

このまま行けば、笑顔で未来の婚約者(強制)と五条に『お似合いだね!』とか絶対零度をぶちかます所だった。その瞬間五条の眼からハイライトが消える。

でも此処で親切に丁寧に脅された事で、ヤンデレルート回避の選択肢が浮上した。よかったね。

これからは彼女もトラウマに向き合わなきゃいけない。

甚爾→ヤンデレルート回避の救世主。
テディちゃんがこのまま選択肢を誤れば、未来の甥っ子(仮)がテディちゃんの脚の腱に手を出すか、足枷か合意なしの孕まセッッッをしそうだと察知したフィジカルギフテッド。
どうせなら可愛がってる存在には幸せになって欲しいらしい。
「は???坊と結婚しない気で居るの…???は??????正気か????????」となった。
このあとなんとなく嫁と子供たちにハグした。笑顔の家族を見るのがマイブーム。

恵→昼ドラがバイブル。ゴリラを滑り台にするのがマイブーム。

津美紀→刹那みたいに風で髪がふわっと靡く様になりたいらしい。
ゴリラを滑り台にするのがマイブーム。

ママ黒→昼ドラ観ながら「女々しい!!泣き寝入りするな!!男の横っ面ひっ叩け!!!」と声援贈るのがマイブーム。

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