モモ2

※Dom/Subユニバースの設定あり
※「モモ」の続篇







colorとは、信頼関係を築いたDomがSubに贈るものだ。
首に巻くチョーカータイプが多いが、それを巻いていれば自らがSubであると示すのと同時、パートナーが居るというアピールにもなる。
また、“パートナーのDomに所有されている”という感覚でSubは安定するし、Domも“自分のSubがcolorを巻く事を許している”という幸福感を覚えるらしい。


……そんな、Switchである私には関係無い筈のcolorを、悟が微笑んで差し出してきているのはどういう状況なのか。


『……あの、悟くん?』


「なぁに?」


とろとろな甘い声で返事されてしまった。なんだか悟とPlayしてから、そういう“何時もの私への反応”で胸の辺りがぽかぽかしてしまうから困る。
そわ、と落ち着きなく指の先を擦り合わせつつ、優しい顔で私を見つめる悟と目を合わせた。


『…私、Switchだよ?Subじゃないよ?』


「でも俺、刹那とのPlayすっごく気持ち良かった。刹那は?俺じゃイけなかった?」


『え?い、いけなくはないけど……でも、私Switchだよ。Subじゃない』


悟がそっと手を重ねてきた。
落ち着きのなかった手を指先まで絡め取り、ゆるりと微笑んで見せる


「ねぇ、刹那。俺はオマエと気持ち良くなりたいよ。オマエはSwitchだろうけど、俺が愛でたいのは刹那だけなんだよ。
……Domはね、パートナーが自分の贈ったcolorを巻いてくれるとすっげぇ嬉しくなるの。だから、刹那が俺を嫌いじゃないなら、巻いてほしい」


何故だろう。
悟に強く求められていると理解した瞬間、脳の奥がじんわりと熱を持った


『………その言い方は狡くない?』


「知らなかった?俺ってズルいんだよ」


クスクスと笑った悟が、白銀の繊細な刺繍が施された白いベルトに空色の宝石を提げたcolorを、ゆっくりと私の首に巻き付けた。
至近距離で私を覗き込んで、奇跡の蒼が笑う


「ね、良い?」


俺を嫌いじゃないなら、なんてあんまりにも卑怯な言葉を吐いておいて。
イエスしか選択出来ない様にしておきながら、最終的な許可を私にねだる。
あくまでも私に全てを選ばせたフリをする狡い男に、それでも小さく頷いた


『…………いいよ』


ゆっくりと金具が噛み合い、パチリと音がした。
身体を離し、チョーカーを指の背で撫でた悟がうっとりと笑う


「……ふふ、ありがとう俺のSub」


『……忘れないでね。私Switchだからね。Subみたいに全部委ねるなんて出来ないんだからね』


SwitchはあくまでSwitchのまま。幾ら両方の素養を持ち合わせているとは言え、互いの属性で中和してしまってほぼ無に等しいのだ。
だから私では、Domである悟が一番嬉しいであろうSub spaceも出来ない。
出来ればちゃんとしたSubを探した方が良い。
だからそう言ったものの、悟はにっこりと微笑んで私にキスをした


「大丈夫、全部俺に任せて」















俺のSubにcolorを贈ってみたら、目に見えて刹那が俺にSub性を見せる様になった。
たとえばちょっとした事で褒めると照れやすくなったし、抱き締めると幸せそうな顔をする。
寝る前のキスも可愛い顔でねだる様になった。


「俺のSub可愛すぎない…?というか何でアレで私Switchですけど?って顔して生きてんの…?あんなにSubみ出しておいて外ではSwitchなの…?俺にだけSubなの…?え、可愛いな…???」


「そういえば、刹那は最近ランクの低いDomのcommandなら跳ね返せる様になったって言ってたな」


「は????????」


刹那が任務で居ない家の中、何気無く落とされた硝子の声に堪らず低い声が出た。
commandを???跳ね返せる様になった???
……つまり?


俺じゃねぇDomがアイツにcommand使ったの?
……刹那は俺のSubなのに?


「悟、Glare出すの止めな。硝子にはキツいよ」


「…………あ゙ー、悪い。つい出た」


「きっつ。お前らのGlareキツいんだから、Switchの私に使うなよな」


顔色が悪くなっている硝子に気付いて、慌てて無意識に放出していたGlareを抑えた。
傑に背を擦られながら、硝子はひらひらと手を振る。
その手にそっと貢ぎ物(タバコ)を乗せれば頭を撫でられた。


「何でそんな馬鹿が湧いてんだよ、今までンなヤツ居なかっただろ」


そこまで口にして、はた、と止まる。
今までDomにcommandを出されるなんて被害に刹那は遭った事なんてない。
そんな被害に遭ったのは前に会ったDom至上主義の雑魚のみ。
でも、そんな被害がまた起きているとしたら。その理由は。
アイツに俺が贈ったのは────


「…俺の所為かよ、クソが」


「まぁ悟とパートナーになってcolorを着けた事で、刹那がSubだって言うアピールになってるかな」


「本人はSwitchですけど?って言ってるけどな」


「…刹那が格下のDomのcommandを跳ね返せる様になったってのは?」


「それは私から説明するよ」


硝子が見せてきたのはダイナミクス研究論文。分厚いそれを開き、とある文章を細い指がなぞった


「パートナー契約をしたSubは、部分的にだけど自分のDomの能力を借りられる事がある。
つまり自分のパートナーのDomとしてのランクで、他所のDomの望まない命令を無効化出来るってこと。ランクによっちゃGlareも弾けるらしいよ。
…とはいえこんなのよっぽどDomが秀でてないといけないし、Subとの相性が遺伝子レベルでマッチングしてなきゃ起きない世界でも数例しかない事態だ」


「………………エッッッッッッッ」


つまり俺と刹那は遺伝子レベルでパートナーだった…?
俺の声を聞いて机にデコをぶつけた前髪はシカトする。
ざっと研究論文に目を通し、それから目を眇める


「…無効化出来るっつってもSubには相応の精神的負荷が掛かる、ねぇ」


「そりゃそうだろ。Domに命令されたって感覚がSubの本能に直接残るんだ。
幾らお前の格で護れても、careは必要ってワケ」


「care関連は問題なし。毎日夜にカウンセリングしてるから、その時に聞き出す。
あとは…………取り敢えず、刹那にcommandなんか使った身の程知らずを潰すか」


colorの色と俺との関係性で十分予測出来ただろうに、手を出した馬鹿。
誰のSubに手を出したのか、きっちり知らしめて後悔させてやる。
呟いた俺を見て、硝子がわざとらしく腕を擦った


「おーこわ。せめて殺しだけはするなよ」
















それは家のリビングで、四人でとある番組を観ていた時の事。
刹那がテレビの影響を受けて言い出したのだ。


『私もGlareしてみたい!』


世の中にはGlareを放てるSwitchも居るらしい。強弱はそのSwitchのDom比率とランクにもよるそうだが、一部では私達Domに匹敵するGlareを放てるSwitchも存在するのだとか。
そしてその放送を見た刹那が、自分もGlareをしてみたいと言い出したのである。
私と硝子は無言で目を見合わせた。


「(無理じゃね?Switchならともかく)」


「(刹那には絶対無理だろうね)」


刹那はSubである。
本人はダイナミクス性をSwitchだと認識している様だが、実際はSubだ。おまけに最高ランクのDomとパートナー契約を交わしたSubである。
DomもSubも併せ持つSwitchならともかく、Subである刹那にDom特有の攻撃方法であるGlareは使える筈がない。
ただそれを、目をキラキラさせている可愛い娘にどうやって伝えるか。
私と硝子がアイコンタクトで相談していると、今まで黙っていた彼女のパートナーが動いた


「刹那、Glareしたいの?」


『うん!Switchなら使える可能性あるんでしょ?やってみたい!』


「良いよ。じゃあ俺にやってみて」


『良いの!?』


「ウン、良いよ。Glareはね、目に力込めて、相手を威圧するイメージでやんの。やってみ?」


いややらせるの???Subに???よくみて?私の娘がじいって見つめてきてかわいいだけでは???
これGlareが下手だったねって片付ける気かと悟を見ていれば、黙っていれば恐ろしい程に美しい男はにっこりと微笑んだ。


「上手だね刹那。ちょこっとだけど、出来てるよ」


『ほんと!?え、じゃあ私もDomみたいにcommand出せるの?』


出来てないよ刹那、ただ真剣に悟を見てたのが可愛かっただけだよ。
しかし、悟の虚言に目をキラキラさせている刹那に本当の事など言えなかった。
硝子も悟の動きが読めないからか、様子見しようと目で言ってくる。
悟は刹那のDomだ、悪い様にはしないだろう。
そう思って二人のやり取りを眺めていると


「Playしてぇの?じゃあ俺がSubやってあげる」


いや待て変な方向に話が転がったな???


『え?悟Domなのに?嫌じゃないの?』


「ヘーキヘーキ。試しにcommand使ってみろよ。あ、safe wordは雪見だいふくな」


へらりと笑った悟がリビングの端に移動した。いや急に何始めたんだろうあの若白髪。普通に考えて、Domがcommandに従うなんて無理だ。


Domは元来相手を支配したい、所謂攻めの側。
そんな一種の狂暴性を孕む存在が、上から押さえ付けられる事を受け入れられる筈がない。


下手すれば悟がcommandを受けるストレスをコントロール出来ず、刹那にGlareを放ってしまうかも知れない。
たまたま二人の向かい側のソファーに座っていた私は、何時でも悟を抑え込める様に身構える。危険性に気付いているであろう硝子も表情を固くしていた。
そんな私達には気付かず、ソファーに座ったままの刹那が口を開いた


『えーと、悟、“おいで”』


力なんてなんにもない純粋な言葉。それでも“Subに命令された”と取ればDomとしてはストレスとなりうる。
煽り耐性の低い悟はもう雪見だいふくを口にするのでは?寧ろsafe wordを口にするのもDomにとってはストレスなのでは?
あれ?これは悟と私のスマブラ一択…???
そう危惧する私の前で、悟は笑った


「はーい♡」


……普通に近付いていったな???
え?それ命令じゃないの?私なら嫌だよ?
平然と近付いていった悟に刹那は嬉しそうだ。いや危機感。
ソイツ最強クラスのDomだよ?幾ら自分のパートナーでももう少しやってる事の危険性認知して???


『ありがとう悟、command聞けて偉いね。んーと、次どうしよ…』


「俺が立ったまんまじゃ刹那の首が痛ぇだろ?座れkneelって言やぁ良いんだよ」


『でもラグ敷いてるけど嫌じゃない?あ、ソファーに座れば…』


「ヘーキヘーキ、ほぉら、俺におすわりって命令して?」


なんでノリノリなんだアイツ。
しかも自分達の座り方じゃなく、世間一般のおすわりkneelをするつもりだ。
困惑しつつ、刹那は悟の言う事を信じる事にしたらしい


『痛かったら直ぐに言ってね。悟、“座って”』


「はーい♡」


嫌味な程長い脚を折り畳み、腰をぺたんと床に付ける。股関節が柔らかくなきゃまず出来ないし、そもそもDomとしてはストレスでぶちギレそうな体勢を、悟は笑顔でこなしたのだ。


「ほら、上手に出来ただろ?」


しかも刹那の膝に顎を置き、撫でてと上目遣いまでしている。
刹那は自分のcommandが効いたと思っているのだろう、目を輝かせて喜んだ


『え、悟すごい!いいこだね、上手におすわり出来て偉いよ悟』


「!……ふふ、でしょ?もっとほめて。もっとなでてよ」


『うん、お利口だねさとる』


細い指が白銀の髪を優しく撫でる。
にこにこ笑って撫でている刹那と、満足げに撫でられている悟。


「(私が可笑しいのか?のジェスチャー)」


「(アイツが特殊すぎる、のジェスチャー)」


まって???
Domがぺたんこ座りで頭撫でられるとか屈辱が過ぎない???
私なら幾ら自分のパートナーのおねだりでも無理だ。“Subに命令されている”という事実に、“Domである自分がSub扱いされている”という状況に、己のDom性がどうしたって頷かない。寧ろ怒りすら覚えそう。
私と同レベルの強さであろう悟が、アレを許容出来ているのが理解出来ない。
そもそもぺたんこ座り出来るのすごいな???悟身体柔らかいね???


Subにぺたんこ座りで撫でられているDomという世にも不思議な光景を硝子と二人で凝視していると、異変が起きた


『?……??…、…?、???』


笑顔で悟の髪を撫でていた刹那の身体が、かくりと糸が切れた様に前に傾いだ。


まさか、悟がGlareを放った?


青ざめた私がソファーから立ち上がる前に、長い腕が刹那に絡み付く。
ぺたんこ座りから胡座に組み替え、その膝の上に刹那を乗せた悟は、柔らかな笑みを浮かべていた


「ふふ、入っちゃった〜♡かーわい♡」


入った。
その発言で、改めて刹那を観察する。
ぽやっとした菫青の瞳。
ほんのりと桜色に染まった頬。くったりと力の抜けた身体。
この状況は別人でとは言え、私も何度も見た事がある。
Subのみに起きる、信頼するDomに導かれ引き起こされる一種のトランス状態。
だがどう考えても先程の状況で引き起こされるとは思えないもの


「……Sub space…?」


「そ。……あんまり見るなよ傑。幾らオマエでも、Sub spaceに入ったパートナーを他所のDomがジロジロ見んのはマナー違反だ」


「…ああ、そうだな。済まない」


口許だけは笑みを象りながらも、ピンポイントで私だけに弱いGlareを放ってきた悟に、謝罪しつつ背を向けた。
それはそうだ、Sub spaceはDomにとって一番の悦び。セックスで言えば自身のテクニックで女性をオーガズムに導いた時と同じなのだ。
それを他所のDomに無遠慮に見つめられれば、余程の特殊性癖でない限り激昂する。
……恐らく、私でなければ悟は今のGlareでマナーの悪いDomを潰したのだろう。
うん、今のは私の配慮が足りなかった。


「悟、硝子も何時の間にか居なくなっているし、私も部屋に戻るよ。終わったら呼んでくれ」


「おー、悪いな」


実質Play中に警戒すべきはDomの方だ。
Sub spaceに入った状態だとよりDomの警戒状況は上がるし、直ぐにdefence状態に入りやすくなってしまう。
SubがSub spaceに入った状態でDomがdefence状態になると最悪だ。
そうなれば己のコントロール権をDomに委ねていたSubは、自身のDomの怒りを無防備な状態で感じてSub dropする可能性がぐんと上がる。
悟を刺激しない様に声を掛けて、部屋に戻る。
……いや待て明らかにソファーに押し倒したぞあの若白髪。













「先日の奇妙なDomの研究論文なんだが」


「嘘だろパパが二歳児で論文書いてる」


「良く考えろ、commandモドキを利けるDomだぞ?研究対象だろ」


「せめて硝子の参考資料として留めてくれよ」


呪術師が論文で世界に公表されるとかどんなコメディだ。
そもそも公表する側も呪術師だし。呪術師は秘匿されるべき存在では?
真面目な顔でコメディを持ち掛けてきた硝子と二人、教室の席に着く。
悟と刹那は私用、語部さんと湖島さんは一緒に任務、黒川は直哉との任務らしい。面倒見の良い黒川を直哉と当てるのは判る。しかし何故リアルに仲良く出来ない語部さんと湖島さんを組ませたのか。上層部は馬鹿か?いや馬鹿だったな。


「取り敢えず、複数考察したんだ。研究論文漁りまくっても似たケースはなくて本投げたけど」


「物は優しく扱おうね」


「ママ、あとで私の部屋片付けに来てよ」


「おや、ベッドのお誘いかな?」


「ははは、ブツにタバコでキスしてやろうか」


「ごめんなさい」


ヒュンッてした。パパがこわい。
そっと前屈みになった私を馬鹿にする様に鼻で笑うと、硝子が机にB6サイズの紙を並べた。
すごい、びっちり書いてある。


「ケース1、五条が特殊なDomであった場合。
その場合、アイツのDom性がある程度の命令を許容出来るって事になる」


「いやそれはない。それならあんなに反抗的な腕白坊やにはならないだろう」


即座に硝子が書類の一番上に×を書いた。
次、と細い指が紙を示す


「ケース2、五条がSubの性質も持ったDomであった場合。
これなら五条はあの時だけSubになった可能性が出てくる」


「いやそれもない。あれだけDomらしいDomも居ないだろう。
切り替えが出来るならそれはSwitchになるよ」


「確かにダイナミクス検査もアイツは受けてるだろうし…これもナシ、か」


二枚目にも×が付いた。
残る一枚を指差して、硝子が言う


「これで最後、でも自信作だ。
ケース3、五条がSubの影響を受けている場合。
遺伝子レベルでマッチングしたSubは、Domのランクによる恩恵を受けられるって言ったろ?
その逆、五条が刹那のSub性の影響を受けて、commandを受ける事に過度なストレスを感じなくなっている可能性」


ふむ、と顎を撫でる。
それから此方を見上げる硝子にゆっくりと返答した。


「確かにパートナー契約の影響を考えれば、もしかしたらという気もするけれど。
悟に限ってそれはないよ」


「理由は?」


「Domはね、どんな事でも“相手に下に見られた”と感じると苛立つんだ。その最たる例がcommandだよ。
…私も、悟と同じレベルのDomだから判るんだ。
“強いDomほど、commandを受けるなんて有り得ない”ってね」


Domはそのダイナミクス性が強ければ強いほど、有する特性が顕著になる。
悟が己より弱い上層部連中に従う事を嫌がるのはこの特性の所為とも言えるし、純粋に雑魚に従うかよバーカという奴の元来の性格の所為とも言える。


Domは“命令される事を嫌う”。
だから、幾ら娘の様に可愛がっている刹那でも彼女が私にcommandを使ったとしたら。
たとえ意味のないただの言葉でも、それが明確な“命令”の意味を帯びたとすれば。


「……それがたとえどんな立場のSubでも、私ならGlareを放つよ」


間。
暫くして、硝子が溜め息を落とした


「……チッ、まだまだ考察の余地ありか。学会出られそうだったのにな」


「おや、硝子はそういう地位に興味なんてないと思っていたけど?」


「ないよ。せいぜい上層部に胎として使うには惜しいって思わせてやりたいだけさ」


最後の仮説に×を書くと、硝子は紙を手早く纏めた。
丁度その時、がらりと教室の扉が開いた。
入ってきたのは悟一人。
とても上機嫌なソイツは此方をみるなりにぱっと笑った。


「おっつー!!あ、ねぇ見てコレ!!やーっと出来たんだー!!」


そう言いながら、悟が学ランのボタンを外し大きく広げた。
何時も通り、高専規定のシャツに包まれた身体。一体なんだと悟の顔を見ようとして────

「似合ってる?刹那の色にしたオーダーメイドのcolor!」


「…………………………………は?」


「は??????」


悟がcolorを巻いていた。
白銀の糸で繊細に刺繍の施された漆黒のベルトに菫青の宝石を中央に飾った、刹那のcolorと全く同じ型のチョーカー。
スイング式の宝石を指先でつつき、悟が笑う。


「んふふ、刹那に巻いてもらったんだー。飾りが揺れんのって鬱陶しそうって思ってたけど、刹那の目の色だって思ったらなんか此処に居るよってアピールみたいで可愛くなってくるよね」


刹那の色だったら宝石も可愛くなるの?それはもう病気じゃない?
そもそもcolorを巻くとか無理。正気の沙汰じゃない。
ドン引く私を他所に、硝子が考察の書かれた紙の裏面とペンを手に、笑顔の悟に問い掛けた


「五条、たとえばの話を聞くぞ」


「んー?なに?」


「もしそれが、刹那からの物じゃな「千切って捨てる」……あー、うん」


食い気味どころか遮って拒否した。
恐らくは想像するのも嫌なんだろう、オッエ゙ーと舌を出している悟に私は頷いた。
判るよ悟、colorは嫌だよね。
今巻いてるお前が一切理解出来ないけど


「……じゃあ、刹那だからそれは巻いてんの?」


「そうだよ。他に理由とかある?」


巻かない理由は数あれど、巻く理由はないかな。
内心そう思いつつ、硝子がカリカリとペンを走らせるのを眺めた


「じゃあ、この間のSubごっこは?」


「あ?」


「Domは命令されるの嫌いなんだろ?じゃあ何で刹那のcommandは受け入れられたの?」


きょとん、と大きな目が瞬いた。
そして、悟が言う


「そんなの、刹那だからに決まってんだろ」


「…定義としては?刹那のcommandをそのまま“命令”として捉えたのか?」


「んー?…ああ、なるほど、そういう。
アレね、オマエらは“Domである俺がSubの命令に従った”のが不思議なワケね」


納得したと言わんばかりに呟いて、悟はゆるりと微笑んだ。


「そもそもcommandと命令って言葉に縛られ過ぎなんだよ。オマエら解釈の幅狭すぎ。賞味期限切れたちくわみてぇ。


────アレはさ、命令じゃなくておねだりだよ。


Domの真似事をしたいっていう刹那のおねだり。
こうしたいって甘えを見せてくれたなら、そりゃ叶えるだろ?だって俺はアイツのDomなんだから」


「………?????」


いやさっぱり判らない。
甘え?命令が、おねだり…???
困惑する私を見て悟が笑う。硝子は何か納得したのか、ふむと頷いた。


「じゃああれは“自分のおねだりをDomが聞いてくれている”って事で刹那がSub spaceに入ったのか」


「そ。でも普段しないPlayでSub spaceに入っちゃったから、刹那も自分がどうしてふわふわしてんのか判ってなくて何時もより不安定だった」


「へぇ……結局答えはコレか」


ぴっとペンが横線を引き、〆を書く。
それから硝子は此方に書き終えた考察を見せてきた。
その言葉に、私も笑う。


────五条悟は桜花刹那にのみ解釈の幅を広げ、概ね許容する。
結論:刹那全肯定bot










あの子限定










刹那→Sub。この度正式に五条のSubになった。でも本人はSwitchのつもり。
colorを貰って以降Domにcommandを向けられるけど、全然平気。
だって私Switchだし(五条のDomのランクによる恩恵)
Glareが出来ると思っている。commandも出来ると思っている。今日もすくすく育つポンコツテディベア。
「俺はオマエのSubだから、colorを巻くんだよ♡」と言われ最強のDomに自分の色のcolorを巻いた。
Play中のふわふわは「Switchでも相性が良ければSub spaceに入れるんだよ♡」と教えられた。信じたアホ。

五条→Dom。ニュータイプのDom。
この度正式に刹那のパートナーになった。そしたら遺伝子レベルでマッチングしてた。にっこり。
おいでもぺたんこ座りもへっちゃら。だって可愛いSubのおねだりだし。
この度自らの首にもcolorを巻いた。
五条曰く「だって、持ち物には名前書くでしょ?」
お互いのcolorに相手の名前がローマ字で刺繍してある。

この後五条悟がSub…?と呪術界がざわつく。

夏油→Dom。一般的なDom。
幾らパートナーでも命令されたら躾してくるタイプ。
なので命令されるDomもcolor巻くDomもずーっっっっっっと理解出来ない。宇宙猫がサンバを踊った。

硝子→Switch。特に特性のないSwitch。
命令を笑顔で受けるDomを見て論文を漁った。
結果、五条が刹那全肯定botなだけだった。納得。
刹那が五条にcommandを出す様子は、子羊が狼にお座りさせている図に見えたらしい。

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