モモ3

※Dom/Subユニバース設定あり
※「モモ2」の続篇
※原作軸








世界には、第二性と呼ばれるものがある。
支配を望むDom。
支配される事を望むSub。
どちらも併せ持つSwitch。
ダイナミクス性と呼称されるそれは、過ぎれば生命にすら関係してくる重要なもので。
だからこそ義務教育の中にも組み込まれ、現代社会でダイナミクス性との付き合い方も広く普及している。


ついこの間まで一般人であった虎杖悠仁も、ダイナミクス性については勿論知っていた。
だから彼が驚いているのは、人によっては好まない類いのアクセサリーを担任の教師が教育機関で装着している不真面目さにではない。


五条悟が、colorを装着しているという事実にである。















「え?」


不意に教え子から驚きを含んだ声が漏れて、俺は顔を上げた。
ベンチに座ってミルクティーを飲んでいた自分の斜め後ろ、立ち上がったままで、悠仁は目を丸くしている。
俺なんかした?いや、別に口調は崩してないし、今日は何もやらかしていない筈だ。そもそも悠仁に会ったのは五日振りだし。まだ話してもねぇし。
だって、何かやってたら夜蛾さんが怒鳴り込んで来る筈だし。
内心浮かんだ可能性を片っ端から潰した結果、悠仁の頭が可笑しいのでは?という結論に至った。
宿儺の指食うぐらい衛生概念バグってるしな、何か拾い食いでもしたのかな。ウケる。
ミルクティーをくぴりと一口。
ずらしていたアイマスクを着け直して────“僕”はにぱっと笑った。


「やぁ悠仁、お疲れサマンサ!五日振りだねぇ、しっかりやってるかい?」


「お疲れ様、先生。いや、あの……これって急に聞いて良い事なんかな…?」


言い淀む悠仁におや、と思う。
珍しい。悠仁は快活という言葉が似合う子供だ。
そんな彼が聞くのを躊躇う様な事って、何だろう。
僕は首を捻り、ちゃり、と微かに首もとから音がした事で気付いた。
簡単に計算するのは悠仁の立ち位置と、そこから見渡せる範囲、それから僕の見える角度。
それらから導き出せた結論に納得しつつ……反応が面白いので、すっとぼけてみる事にする


「どうしたの?何か歯切れ悪いじゃない?あ、アレか!落ちてたペコちゃんチョコでも食べたの?ダメだよ拾い食いは。
ちょっとアレな物食べるなら宿儺の指だけにしときな」


「先生俺の事犬だと思ってる???」


「柴犬っぽいよね」


「えっマジか…」


「でも落ち着きないし、ポメラニアンでも良いんじゃない?
知ってた?ポメラニアンって怒られても怒られたって思わないポジティブ思考らしいよ」


「ん?いやそれ先生じゃね?」


「どういう意味かな???」


しばくぞクソガキ。本音を隠して教え子に強めにデコピンをかます。
からかうのにも飽きたので、僕はとっとと質問させる事にした。


「因みに僕は悠仁の質問に気付いてまーす!僕のスリーサイズか、僕の休日の過ごし方か、僕のオススメのお土産。
僕的にはオススメのお土産が良いな」


「すげー!!全然合ってない!!」


「しってるー。うん、もう良いや、飽きた。コレだろ?悠仁が聞きたいの」


飽きてもからかうのって何でだろうね。飽きてんのにね。
つい、とマウンテンパーカーの首もとを引っ張って見せればやっぱり悠仁は目を丸くしている。
この反応だとアレだな、勘違いパターン。


「そんなに驚くこと?」


「いやそうでしょ!!だって五条先生がSubって…!!マジで!?」


「うん、嘘」


「マジ有り得ねー…………って、嘘!?!?!?!?嘘なの!?!?!?!?」


やっぱり。誤解パターンだわ。
目玉を落っことしそうな程に見開いている悠仁にケラケラと笑いつつ、そんなに驚くこと?ともう一度首を捻った。
僕って可愛いし健気だし、Subでもいけそうじゃない?


「ははは、声デカ過ぎない?あんまりうるさいと硝子が上からメス投げてくるかもよ」


「え、家入先生こわっ」


「そうだよー?硝子は今禁煙中だからめちゃくちゃ短気なの。うっかり騒いだらヤニ切れのアイツに麻酔キメられて、悠仁なんてそのまま実験サンプルにされちゃうかもね?」


笑いながら適当な事を吹き込んでみると、不意に上空から強い殺意を感じた。
同時にびたっと無限が何かを留める。
のんびりと真上を見ると、丁度眉間の辺りに銀の切っ先が見えた。


「ウケる。これ僕じゃなきゃ脳天にメスとか言う面白映像撮れたんじゃない?あ、もしかしてこの状況もバズっちゃう感じ?
いやー人気者は何したってウケちゃうからツラいねー」


「五条先生、上!窓から家入先生睨んでるって!」


慌てる悠仁を放置しつつ、夜中の急患によるオーバーワークでイラついているパパ(♀)にひらひらと手を振ってみた。あ、眉間の皺が増えた。おこだねおこ。


「お疲れサマンサ!今日で何徹目?窓からメス落とすとか判断力の低下がヤバくね?老化?」


「お疲れ五条。うるさい馬鹿猫を追い払おうと思ったんでな、間違ってないよ」


「あっはっは、メスで永遠に黙らせる医者とか笑えねー」


おこが激おこになったので、仕方なく僕は立ち上がった。メスの刃先を指先で摘まみ、術式で空を歩く。
二階まで上がった所で硝子にメスを差し出した


「ほら、落とし物。次はもっと僕が喜ぶ物にしてよね」


「それなら私が居ると気付きながらわざと煽る癖を直すんだな」


「あは、無理なんじゃない?“僕”はこういう性格だしねぇ」


“五条先生”は軽薄で、誰にでも適当じゃなきゃいけないから。
へらりと笑いつつ、間近で見ると硝子のクマがめちゃくちゃ濃い事に気付き、少しだけ悩む。
思考数秒。メスを受け取った手に、ポケットから引っ張り出したチロルチョコを乗せてやった。オマエこれ好きだろ。多分コーヒーと合うと思うよ。
すると諦めた様に溜め息を落とした硝子が手を伸ばし、僕の頭をくしゃりと掻き混ぜた


「……あの子も一時間後には戻ってくる。それまで問題は起こすなよ」


「………はーい。判ったよ、パパ」


硝子にだけ聞こえる声で呟けば、彼女はふっと笑って踵を返した。恐らく医務室に帰るんだろう。
白衣の背を見送って地に戻れば、悠仁がキラキラした目で僕を見上げていた


「ねぇ先生、もしかして先生のパートナーって、家入先生なん!?」


なに言ってんだコイツ目ン玉飾りか???
本音に横線を引き、僕はにっこりと笑ってみせた


「違うよ。もっと癒し系」


間違っても人の脳天に刺さらねぇからってメス落とす様なサイコパス系パパじゃねぇから。
















任務が終わって伸びをしつつ、ゆっくりと高専の敷地内を歩く。
隣を歩くさとるっちも快晴が心地よいのか、尻尾が揺れていた。


〈コノアトノ ゴヨテイハ?〉


『確か、二時間後に一年の術式指導で入ってたっけ。さとるっち、スケジュールお願い』


〈ニジカンゴ イチネン ノ ジュツシキシドウ
ソノアト ホウコクショ サクセイ
ゴゴ ニンム サンケン ゼンブ チカバ
イジョウ デス!〉


『判った、ありがとう』


〈オキニ ナサラズ!〉


今日は任務も詰め込まれていない様だ。
術式指導まで時間もあるし、硝子の所に行って少しゆっくりしようか。
大体の予定を組んでいると────背後から伸びてきた腕がゆるりと絡み付いてきた。
そのままぎゅうっと抱き着いてきたので、足を止める。
ぽんぽんと頭を撫でてやれば、首もとでくぐもった声が聞こえてきた。


「……俺じゃなかったらどうするつもり?」


『悟じゃなかったら?そもそも抱き着かせないから大丈夫』


「背後取ったの気付かなかった癖に」


『私じゃなくてもさとるっちが居るし』


〈ミノガシテ ヤッタ!〉


「むっかつくー」


高専教員の制服であるマウンテンパーカーの首もとに大きな手が差し込まれ、するりとcolorを撫でる。
白いベルトを見て満足そうに蒼が細められ、ちう、と薄い唇が重ねられた


『五条先生?此処高専ですけど?』


「良いだろ、誰も居ないし」


『外でキスするのはあまり好ましくない』


「外じゃなきゃ良いワケ?」


しれっとした返答に口を閉ざした。確かに嫌じゃない。しかしそれを正面から言うのは気恥ずかしくて、目を伏せた。
そんな私をクスクスと笑って、悟が頬を擦り付けてきた。


「おかえり、刹那。次二時間後でしょ?時間まで俺の相手してよ」


『悟忙しいんじゃないの?』


「クソ忙しいよ、でもオマエに合わせて休憩もぎ取ったの。
大体パートナーと引き離して任務に出ずっぱりにするとか上層部クソじゃん。馬鹿なの?
パートナーに会えなきゃDomはイライラしやすくなるしSubは体調崩すって判ってんだろ。
幾ら俺が嫌いでも俺が潰れたら連鎖的に刹那も使えなくなるし、皺寄せが傑と憂太と一級術師に向かって傑がキレるぞ。
ボイコットでも起こされたら辛うじて回ってるサイクルが成り立たなくなるって何で理解出来ねぇの馬鹿???」


『馬鹿だからするんでしょうねぇ』


「んーーーーーーーーその適度に流しつつ受け止めてくれるの最高。結婚しよ」


『いつかね』


「五日後?後見人どうする?」


『雪光が強くなったらね』


「今から死ぬほどしばいて良い?」


『それで皆一級になれたら誰も苦労しないんだよなぁ』


すぅりすぅりと擦り付く姿は到底Domに見えない。
絡み付いてくる190cmをそのままに校舎に向かえば、長い足ものそのそと動き出す。


「ねーぇ、どこ行くの?」


『補助監室にお土産持っていって、硝子にお土産渡す。傑は今九州でしょ?だから硝子に渡しとく』


「じゃあ、その後は?」


耳許で囁く声が、どろりと甘みを帯びた。
どうしても私に言わせたいらしい可愛いDomに、小さく笑いつつ応えてやる


『そうだなぁ…私のDomに甘やかして貰おうかな』


「……ふふ、早く行こっか、俺のSub」


一気にお花を飛ばしだした悟にお手軽だなぁと思いつつ、ずるずると引き摺って歩いた。
















「ねぇ二時間ってすっごい短くない?補助監督と硝子に構ってたらもう一時間半しかないじゃん。嘘だろ倍にしろよ」


『それって一日を四十八時間にするって事?悟と傑の過労死が現実味を帯びるだけだから止めた方が良いよ』


「俺は死なないよ。刹那が足りなくなったら喚んで貰えば良いんだから。
マジで死ぬのは傑の方。多分過労と欲求不満で死ぬね」


ずるずると悟を引き摺りながらさて家に行くかと敷地内を歩いていると、不意に悟が立ち止まった。
ぎゅううううっと締められ息が詰まる。
慌ててタップすると、首もとに顔を埋めたままいやいやと首を振っていた。


『え?どうしたの?』


「あっちの道一年四人組居んじゃん」


『ん?そうなんだ。ダメなの?』


剥き出しの六眼で教え子達の呪力を捉えたらしい。悟は首を振ったまま、もごもごと言う。


「嫌。五条先生に戻んなきゃじゃん嫌」


『通りすがる数分だけ頑張れ』


「やだ、もう俺今すぐ刹那とPlayしなきゃ爆発する。この状況で五条先生は無理。教え子に毒吐くよ」


『大体デリカシーないけどね』


「デリカシーはなくてもなけなしの良心はあるんだよ」


『何処に?』


「悠仁に幾らヤベェ状況でも赤の他人の為に人の指のミイラ食うとか衛生概念死んでるしそもそもその思考回路が善人過ぎて偽善者よりキモいって思ってるけど黙ってる」


『うん、一生その良心は大事にしようね』


嘘じゃん、教え子にそんな事思ってたの?
ノンブレスの毒舌に苦笑いしつつ、仕方がないので道を変える事にした。
誰にも会わない様に悟を連れ帰ると、その瞬間に抱き上げられる。


『靴』


「はいはい」


ずぼっと抜いた靴が並べられ、長い足で部屋に連れ込まれた。
そのままベッドに雪崩れ込み、ぎゅうっと抱き着いて動かなくなった悟に思わず噴き出す


『ちょっと?commandどこ行った?』


「んーーーーーーーー刹那だ。刹那が居る……ちょっと待って、充電してる」


『充電wwwwwww』


「だって五日振りだよ?ふざけんなよ三十分でしんどいわ俺のDom衝動舐めんなよマジで」


『じゃあ早くcommand出しなよ。時間は待っちゃくれないよ?』


ぽんぽんと背中を叩いてやると、じとっした目で悟が此方を睨んできた


「なに?オマエ何でそんなに余裕なの?俺ばっか余裕ねぇじゃん」


『余裕というか、私からしたらこれでもう満たされるし……』


ぶっちゃけ悟にくっつくだけで満たされるのだ。だって私Switchだし。
正直悟を遠目に見るだけでも安定するし。
それを呟くと、此方を睨んでいた蒼がうろうろと急に定まらなくなった。
じわじわと白い頬が染まっていくのを見て、笑ってしまう


『なに?照れてんの?』


「そりゃ照れるでしょ…見るだけで良いって何それ可愛すぎない?健気…なんでそんな可愛いの???」


『ありがとう。悟は格好よくて可愛いね』


照れている悟をよしよしと撫で続ける。
暫くそうすると充電が終わったのか、ゆっくりと悟が身を起こした。
ベッドに座り直すと、すっと此方に手を広げる


「safe wordは?」


『夜蛾先生』


「オーケー、夜蛾先生ね。……お待たせ、刹那。“おいで”」


『はーい』


広げられた腕の中に身を預ける。
包み込まれる感覚に頭の奥がじんわりと熱を持って、心地好さに息が漏れた


「ふふ、いいこだね。気持ち良さそうな声出てるよ。“どんな気持ちかおしえて”?」


『ん……きもちい…とける……』


「自分の気持ちを言えて偉いね。いいこだよ刹那、気持ち良さそうな顔、すっげぇかわいい。あー…俺も気持ちいい…すき…」


さとるの声が蜂蜜みたいに甘く蕩けて、耳から脳に流し込まれてくる。
もぞりと身を捩ると、あやす様に腰骨の辺りを撫でられた。
それが堪らなく気持ち良くて、悟の肩口に額を押し付ける


「ふふ、今日は随分感じやすいね?久々だからかな。直ぐSub space入れちゃうかも。…イけたらちょっとだけ、泳がせてあげようか。きっととっても気持ち良いよ」


『んー……んぅ…さとる…』


「ん?なぁに?」


蒼い瞳を蕩けさせた悟の首もとに手を伸ばす。マウンテンパーカーの襟で遮られたそこに触れたい。
伸ばした指の先に気付いたのだろう、心得ているとばかりに悟が首もとを寛げた。


指が、黒いベルトに触れた。
かり、と光沢のある表面を爪が弱く撫でて、それを許されている事に脳裏でぱちぱちと快楽が弾ける


────わたしの、Dom。


「俺はオマエのものだよ。かわいい俺のSub」


滴り落ちる程の甘さを正面から浴びせられ、その瞬間────じぶんのかたちもわからなくなるほどにほどけてしまった
















「あー、やっぱパートナーとは最低でも一日一回Playしなきゃね。そうじゃなきゃパフォーマンス下がっちゃう」


『ふふ、最強がそれ言うの?』


「僕だって人間よ?だぁい好きな子を愛でなきゃ特級祓うのに何時もよりプラス一秒掛かっちゃう」


『一秒なら誤差でしょ』


「えー、そんな事言っちゃう?一秒を笑うものは一秒に泣くんだよ。呪術師たる者時間は大事にしなきゃ」


『責めるほどでもない遅刻をする奴にだけは言われたくないかも』


「んえ、僕のテディちゃんったら今日はとっても意地悪。オマエとの待ち合わせにだけは遅れた事ないのに」


『皆にそうしな。伊地知とか可哀想』


「野郎なんざ知るかよ」


Playを行った身体はとても軽い。
アイマスクを着け直し、僕は刹那と並び立って校庭に向かっていた。
先に集合していた特進四人組にひらりと手を挙げる


「やぁ諸君、お疲れサマンサー!
今日は僕と刹那で見るからね」


『皆さん、今日は宜しくお願いします』


「あ、刹那さん!私刹那さんが良いでーす!」


『だそうですが。どうします、五条先生?』


挨拶した瞬間に刹那の指導を希望した野薔薇にひどーい!!とおどけておく。
特進四人は術式型が三人と、状況故に僕の管理下である特進に入らざるを得なかった呪術師とも言えない子供が一人。
まぁそれでも悠仁は素がゴリラなので、呪力を纏える様になれば二級に届くだろう。
そこから黒閃でも掴んでくれれば一級は固い。
ズブの素人は性格も素直なので、知識の吸収も問題ナシ。
逆に、問題があるとすれば────


「刹那、恵と野薔薇を頼むよ」


『野薔薇は私の術式と近い面があるから判るけど、恵は?相伝なんて指導出来ないよ』


「恵の場合はメンタル面だ、僕じゃ教えられない。刹那じゃなきゃダメな事、だよ」


自殺技を持つ者特有の、“いざとなれば自分が死んでどうにかする”という考え方。
周りを気にする恵は、アイツの中で、護ると決めたものより自分の命が軽い様に見える。
そこをどうにかすべきだと思った。
刹那なら恵の護りたい善人の括りに入るだろうし、自殺技も持っているからきっと話が解るだろう。


『悠仁は判るとして、雪光は?それこそ私と近いでしょ』


「似てるだけで使い方が違うんだ。オマエが指導すれば無駄なヘイト稼ぐよ」


桜花の相伝と、加茂分家の相伝は似通ってはいるが実質全然違う。
演算のクソ怠い威力重視の術式からすれば、自身の体温を少ない呪力に乗せて放出する事で空気中の水分を操れる術式は、己の上位互換に見える筈。
刹那と雪光の仲は悪くないが、呪術師としてのプライドなんかが関わってくればそこもどうなるか判らない。
どうせ雪光が此処を卒業する頃には刹那を桜花から開放するつもりだし、今関係を悪くする必要はないだろう。
どうしてもって時は已む無しだけど。
刹那はちらりと此方を見て、それからふわりと微笑んだ


『判りました。じゃあ弟を宜しくお願いしますね、五条先生』


「まっかせなさい!じゃあ悠仁と雪光は僕の方おいで」


「うっす!宜しくお願いしまっす!!」


「えっ、刹那姉様じゃないんですか!!!!!」


「雪光うるさーい。僕でーす残念でしたー!やーいシスコン良い加減姉離れしな?」


「アンタがずーーーーーーーーーーっと独占してんだろクソが!!!!!!」


「やーだー口わるーい!えー誰に似たの?恵?」


「俺巻き込むのやめてくれます?」


「じゃあ直哉か。アイツ口悪いし」


「一番口悪かった奴が何かほざいてますね」


「あは、何の事?」


このクソガキ直哉か恵に似てきたよな。たまに僕の事親の敵みたいな目で見るし。
オマエの敵は桜花自身だよ。ぶっちゃけオマエを売ったの実の父親なんだからそっち恨めよ。
本音を口走らない様ににんまりと笑って、恵と野薔薇を連れて少し離れた場所に向かう刹那を横目で見た。


項からちらりと覗く赤に、目を細めた。















『恵はもう少し自分を大事にしようね。仲間を優先するのは悪くないけど、それで自分が死ぬのは論外かな。
野薔薇は必中率を上げようか。
私みたいに道具が尽きないなら良いけど、釘は限りがあるでしょ。
必ず当てて、必ず祓う。
最終目標は一撃必殺かなぁ』


「……はい」


「はーい」


二人と術式混じりの手合わせをして、簡単なアドバイスをしておく。
それから悟と合流しに最初に集合した場所に向かえば、まぁズタボロの二人が立っていた。
私の後ろからうわ、と声が漏れる。


「お疲れ刹那。そっちも終わった?」


『お疲れ様です五条先生。…随分熱が入った様で』


「やだなー、ちょーっと熱血指導しちゃっただけだよ!僕っては生徒想いなグレートティーチャーだから!」


にっこり笑う悟の後ろで口許を血で汚した雪光が射殺さんばかりの目をしているし、苦笑いする悠仁は額からだらだらと血を流している。
おいグレートティーチャー、せめて止血はしてやれ。
溜め息を吐きつつ私は声を張った


『しょうこっちー!患者が二名、軽傷者が二名居まーす!出てきてー!!』


がさがさ、と近くの藪が震える。
茂みからぽぽぽぽーん!したウサギのぬいぐるみは各々患者に向かっていった。


「わ、なにこの子!かわいい!」


『それ硝子と夜蛾学長に言ってあげて。喜ぶから』


「硝子は喜ぶかぁ?」


『喜ぶんじゃない?自分の名前付いてるんだし』


かごまれている生徒達を眺めながら、芝生の上に座った悟を見る。
ぽんぽん、と叩かれた膝を見なかった事にすると、強引に腕を引かれた。


強制的に悟の膝の上である。


まって?これはない。生徒の前であるまじき振る舞いである。
笑顔で咎める前に、悟がアイマスクをずり落とした。
────アイマスクは、“五条先生”のスイッチだ。


うん、それ一番ダメなやつ。
悟は生徒の前で出すのは危険過ぎる。


『五条、先生?今は、授業中、ですよ?』


がっとアイマスクを掴んで無理矢理引き上げる。髪が降ろされた状態でアイマスクをしている男はにっこりと笑った。


「んー、無理だわ。ねぇ取り敢えず何処まで接触OKか話し合わない?」


『世間一般の範疇です』


「ぶっちゃけさぁ、オマエのその生徒に僕を教師として扱わせようと思って使ってくれる敬語、僕達がそんなに仲良くないって思われるだけなんだよね。
現にほら、この面子じゃ恵と雪光しか敬語使わないし。その二人だってオマエが絡むとめんどくさいし」


『えっ』


嘘でしょ?仲良くないなんて思われてるの???
目を丸くする私の背を指の先で擽る様に撫で下ろし、もう片方の手で頬に触れた。


「だから、もう下手な芝居とかせずに悟って呼んでよ。そもそもパートナーなのに高専じゃ触れ合っちゃダメとか馬鹿馬鹿しくない?
僕ら只でさえ忙しくてお互い会えないんだよ?それなのにちょっとしたスキンシップもダメってなると────普通に暴走するよね、僕が」


『えっ』


「ねぇ刹那、僕沢山我慢したよ?だからさ」


アイマスクをずらし、蒼い瞳を少しだけ覗かせながら、悟は微笑み囁いた


「────俺を愛してるなら、上層部のクソジジイ共を殺させない為に芝居を止めて。
出来るよね、刹那?」

















翌日、虎杖が同期の三人と高専内を歩いていると、向かいから見知った人影が来るのに気付いた。
白銀の逆立てた長身の男と………その腕に抱えられた、黒髪の女。


目隠しをした男が女を抱えて歩いている。普通に事案である。


実際釘崎と雪光は無言でスマホを取り出した。すごい、担任なのに一切信頼されてない


「姉様を今すぐ降ろして頂けます?そしたら学長への通報だけで勘弁してあげますから」


「やぁやぁ皆、調子はどうだい?これはちゃーんと双方納得の上行われている行為でーす。シスコン雪光くんに付け入る隙なんてありませーん」


そう言って煽る様に桜花に頬を寄せた為、雪光の蟀谷にぴきりと血管が浮いた。
苦笑いした桜花が弟に伸ばそうとした手すら甘く絡め取った五条に、控え目に言って釘崎はドン引いた。


「被害女性の弟に合意だって言ってマウント取るクズ」


「何それ担任なのに信頼されてないね???」


『野薔薇、安心して。私とこの人パートナーだから』


ほら、と桜花が己の襟元を引っ張って、白いベルトに水色の宝石が提げられたcolorを見せた。
それを見た釘崎は驚愕に目を丸くして、雪光は苦虫を五百匹噛み潰した顔になった。
伏黒は特に驚く事もなく静観していて、虎杖は一人、あれ?と首を捻る。


「刹那さん、何でそんなちゃらんぽらんとパートナー契約を?まさか脅されたとか…???」


「野薔薇、実は僕の事嫌いでしょ」


「今までのアンタの何処に好かれる要素があったのよ」


「嘘でしょ???この子僕を傷付かない生き物と勘違いしてない???
刹那、僕とっても傷付いた。慰めて」


『あーうん。かわいそうに』


「もう少しだけ演技出来ない?大根過ぎじゃね???」


『私がそういうの下手だって知ってるでしょ』


平然とそう返し、桜花は甘えてきた男の頭を撫でた。
白銀の髪を梳る様に触れられ、五条は猫の様に桜花に甘えて見せる。
その姿は前に見たcolorの通りに見えて、しかし桜花もcolorを着けているから、虎杖はやっぱり首を捻る。


「なぁなぁ、五条先生」


「んー?」


「ダイナミクスの話なんだけどさ。五条先生は、Switchなの?」


ダイナミクス性のパートナー契約は、一般的にDomとSubが結ぶものだ。
一部ではSwitchとDom、SwitchとSub、またはSwitch同士という事もあるらしいが、それもSwitchがどちらかのダイナミクスに当て嵌まる。
虎杖は前に五条から「Subではない」と言われていた。
Domはcolorなんて許容出来ないと聞くし、Dom寄りの自分も着けたいとは思わない。
それなら五条はSwitchで、桜花がSubか、Subの割合が多いSwitchなんだろう。
そう思って、聞いたのだけれど


「は?僕がSwitchだと思う?
Domだよ。それも計測器ブッ壊れるレベルの」


「えっ」


虎杖は目を丸くする。
しかしそれ以外の面子は容易に想像出来たのか、頷いた。


「計測器がブッ壊れるレベルってどんだけよ。刹那さん、やっぱりパートナー契約早まったんじゃないですか?」


『ははは、大丈夫だよ。Domとしては普通っぽいし』


「まぁその人がSwitchとか有り得ませんもんね」


「夏油先生も同レベルのDomだったろ。そもそもこの人がSwitchとか有り得ねぇ」


口々に話す中、虎杖はでも、と困惑した目で五条を見た。
じゃあそれどういうこと?先生それお洒落アクセだと思ってるん?
いやそれcolorだよ???Domが巻くとかブチキレるヤツでは???
五条は暫し怪訝そうに虎杖を見下ろして、それからああ!と納得した様に声を出した


「なるほど、そういう……悠仁が気になってるのって、コレでしょ?」


高い襟元を引っ張って、五条が白い喉元を生徒達の前で晒した。
普段見えないそこは男らしい喉仏と、その下に。


青紫の宝石が提げられた、白銀の繊細な刺繍が施された黒いベルトが、我が物顔で鎮座していた。


「「えっ」」


二重に響いたのは釘崎と雪光の声だ。
一度目にした虎杖は真正面から見た事がなかったのでまじまじと凝視して、伏黒はやっぱり静かに同期を眺めていた。


「そんなに驚く事?」


『まぁDomは普通巻かないらしいし』


「傑もそう言うんだよ。でもコレ着いてるとめちゃくちゃ安定するよ?オマエを置いたままで三十分は我慢出来る」


『三十分しか我慢出来ないの?バブじゃん』


「仕方無いじゃんイライラするんだから!!でも伊地知の席後ろから蹴るだけで我慢してんの!!!!」


『我慢…???』


首を傾げつつ、すりすりしてくる五条をあやす桜花はやっぱり慣れていた。
三十分大人しくしているのが我慢…?
伊地知さんの席を後ろから蹴るのが我慢…???
虎杖は考えるのをやめた








規格外








刹那→Sub。Switchだと思ってるSub。
甘やかされるのが好きなタイプ。でもパートナー契約で常に五条のランクに護られている(defence状態で包まれている感覚)所為か、五条を見ただけで何となく満たされる程度に欲求は薄い。
実はcolorをして連絡さえ取れれば、一ヶ月とか会えなくても平気だったりする。我慢強い。
あんまりにも五条先生が敬われないので、せめて教師同士で敬語を使われているのを見れば少しは生徒からの認識も変わるのでは?ときっちりした態度で接していたのだが、「桜花と五条は不仲」という刹那からすれば意味の判らない噂が出回った。学生時代に散々密着していればそうなる。

Play中、五条の首に嵌まるcolorを撫でるのが好き。

五条→Dom。計測器ブッ壊すレベルのDom。
アイマスクとスクエア型のサングラスが“五条先生”のスイッチ。
二重人格という訳じゃないけど、“五条先生”と五条の思考回路は違う。“五条先生”は生徒を大事にしてる。でも五条は宝物の為にしか生きてない。
これは「この心、叶わぬならば」時点での原作軸なので、ゴミ箱もこうなるかもしれないしならないかもしれない。

刹那の考えを察して聞き分けていたけど、不仲説なんて流されて限界に達した。
甘やかすのがこの上なく好きなタイプ。しかし自分のSub限定で撫でられるのも大好き。要は触れていたい。
取り敢えず触れていないと三十分で不機嫌になる。我慢が辞書にないけどこれでも我慢してる方。我慢とは???

Play中、自分が嵌めたcolorを撫でてSub spaceに入っちゃうSubの滅多に見せない独占欲が堪らなくDom性を刺激するらしい。
ぽやっとしている最中に首筋に印を刻むのが好き。

硝子→Switch。特に特性のないSwitch。
テディに触れていないと寂しくてちょっかい出してくる五条の相手もお手の物。
しょうこっちも居るので原作よりはクマが薄い。

虎杖→Switch。Dom寄りの尽くしたいタイプ。
ベンチに座る五条先生の首にcolorが見えて「???」となった。
colorを嬉々として巻いて頭も撫でられてる計測器ブッ壊すレベルのDomに考えるのをやめた。

伏黒→Switch。Sub寄りの尽くしたいタイプ。
さしすせと小さい頃から面識があるので、五条がcolorをしているのも五条先生のスイッチも知っている。
というか下手な事を言って五条先生に小さい頃の話を暴露されるのが嫌。

野薔薇→Dom。撫でたりするのが好きなタイプ。
五条先生は軽薄なので、呪術師としては尊敬するが、パートナーとしては死んでも無理。
刹那が抱えられているのを見て事案だと思ったし、colorをしているのを見て事案では?と思った。
colorをしている五条の頭を疑った。

雪光→Dom。のびのび生きるSubを愛でたいタイプ。
どういう進化をしたのか絶賛反抗期。というか五条限定で反抗期。
姉を独占する男が憎いらしい。

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