モモ4

※Dom/Subユニバース設定あり
※原作軸
※「モモ3」の続篇










それは出張を終えた私が高専に顔を出した時の事だ。
軽薄なフリを覚えた悟があんまりにも敬われないので、せめて自分だけでもと、一ヶ月程前から悟に対してきっちりした態度を取っていた筈の私の娘。
その子が悟に抱えられているのを見て、空回り作戦が終わったのを悟った


「やぁ、二人とも。敬語で接しよう作戦は終わったのかい?」


「お疲れサマンサー!そう、これ以上は無駄だし僕が暴走する前にやめようねって説得したの」


『お帰り、傑。まさか不仲説なんて流されてるとは思わなかったよね…』


額を押さえる刹那に苦笑いしか出ない。
いや朝から晩までベッタベタだったのに、急に距離を置いて敬語なんかになったらそりゃあ不仲を疑うだろう。
悟からすれば、恋人との不仲()を狙って擦り寄ってくる馬鹿の選別が捗るのもあって、刹那の空回り作戦に付き合ったんだろうけど。ついでに言うと何時もの“刹那におねだりされている”とか言う謎理論も働いたんだろうけど。
抱えた刹那に頬擦りをして、応える様に髪を撫でる手に薄い唇がにんまりと上がる。
そうしていると、本当にDomには見えないな。Subっぽい。


「そういえば悟、また君のSub説が再燃しているらしいよ」


「あー?またぁ?知能の足りない猿共も飽きないねぇ」


『何でだろう、悟なんかした?』


「えー……?なんかしたかな…」


ぶつぶつと呟きながら、刹那の黒髪に鼻先をくっ付けてみたり頬を寄せたりして歩く悟。
その姿を見た女性達は大体が顔を歪めたり、青ざめたり、一部では拝んだり。
最後の反応は同期の語部さんが良くやるものだから慣れているけれど、嫉妬や敵意を刹那に向けるのは頂けない。
目を隠している悟では、睨んでいても愚鈍な雌猿は気付かないだろうから。
私は刹那に気付かれない様に、ピンポイントで醜い顔を曝す彼女らにGlareを飛ばした。


「………っ!!」


瞬く間に青ざめた二人の補助監督が慌ただしく去っていく。負け犬の背を横目で見ていれば、悟が上機嫌に笑った


「んふふ、ママったら過激派じゃん?」


「娘の障害は殴って壊すのが母だよ」


「キングコングかよ」


「キングコングは雄だろ。私はママだよ」


「いやオマエ何時チンコ取ったの???」


『…障害?どうしたの傑、何かあった?』


私達の軽口にワンテンポ遅れて混ざってきた、少しぼーっとした声。
全幅の信頼を寄せるDomに包まれている時のSubは、己に向けられる感情に対して著しく鈍くなる。要は、Dom以外どうでも良くなるらしい。
今の刹那も正にその状態だった。
ぽーっとした顔で悟に身を任せ、時折甘えてくる悟の頭を撫でながら運ばれている。


「ふふ、大丈夫だよ刹那。何でもないよ」


『ん…?そっか』


Subから心も身体も委ねられること程、Dom冥利に尽きる事もないだろう。
現に今、悟はアイマスクをしているのにふやふやな顔をしているのが良く判る


「あーかわいい。傑もパートナー見付ければ?パートナーってこんなに可愛いのよ?自分にだけずぇーんぶ預けてくれるんだよ?そういう子欲しくないの?」


「んー、確かに可愛いけれど。添い遂げたいと思えるSubに巡り会えていないんだよ」


「合コンでも行けば?尽くしてくれるSub希望です♡とか言ってちょっと笑ってやればオマエなら直ぐ釣れんだろ」


「それはオトモダチ(意味深)の釣り方だよ」


「信者(意味深)の間違いだろ。つかやってんのかよ」


「まぁやるよね。私も男だし」


悟とは違ってパートナーのSubが居ない私は、複数のオトモダチ(意味深)と任務終わりに落ち合う事が多い。
ホテルに移動後Playをして、そのままベッドへ雪崩れ込む。大体二時間程度でセックスを終わらせ帰宅。
それが何時もの流れだし、前に刹那を私のオトモダチ(意味深)関連で巻き込んでしまってからは、その関係に至るまでに審査を設ける事にした。
要は、ビジネスPlayの出来るSubとSwitchだけをオトモダチ(意味深)にしているのだ。


ダイナミクスと性関連は今のままで満足しているし、楽だ。


だから悟の様に、身を捧げたいと思えるSubは、正直求めていない。
だって、私が一番大事にしたいものはもう増やしたくないし。
不器用な私では、何時か取り零すのが目に見えている。
そしてそれが……パートナーが、親友や家族よりも上に来る事はないだろうと、予想出来るから


「ふーん、刹那以外の女って大体大根に見えるんだよな。だから傑が農家に見える時ある」


「硝子に言ってごらん、刺されるから」


「それ一昨日二階から脳天にメスされた僕に言っちゃう?」


「何だそれ。見たかった」


「ねぇ此処は二階から刃物落とした硝子を怒る場面じゃない?ママ何喜んでんの?」


「刺さらないんだから何したって一緒だろ」


「オマエらほんとそういうトコそっくりよ?結婚すれば?」


「私は全然良いのだけれども。硝子に一昨日来やがれって尻を蹴られるんだ」


「あっは、フラれてやんの」


ははは、ぶん殴ろうかなこの中二病。















「おーっす、やってるかガキ共」


「ボス、重要書類はちゃんと持ってけって何時も言ってるでしょうが…」


「あ、甚爾と時雨だ。お疲れサマンサー」


「げっ」


「おとうさん!!!!!」


「あ、パパ黒先生だ」


「なにあいつら凄い対極的ね」


『はは、まぁ男の子だし…』


悟の補佐で一年の組手の授業に入っていた所、一年(普通コース)をしばいていた甚爾さんと、悟が本家に置いてきた書類を届けに来たらしい時雨さんがやって来た。
時雨さんに抱き付く雪光と、ニヤニヤした甚爾さんに頭を撫でられている恵の差よ。
思わず笑えば恵にじとっとした目で睨まれた


「刹那さん……」


『ふふ、ごめんね恵。かわいいなぁと思って』


「はー???刹那が可愛いって言って良いのは僕だけなんだけどー???」


『凄いヤキモチだね?』


「僕のテディちゃんは人気者だからね。しっかり夢中にさせとかなきゃ」


すり、と大きな猫の様に甘えてきた悟に笑ってしまう。よしよしと宥める様に背を擦っていれば、息子を弄り終えたらしい甚爾さんが此方にやって来た。


「おーおー、相変わらずどっちがDomか判んねぇな」


『大丈夫ですよ。悟、Play中はちゃんとDomですから。甘やかすのもとっても上手ですし』


「へぇ、あの人間歴ゼロだった坊がねぇ…」


「ちょっと甚爾、止めてよ。生徒の前で恥ずかしい事バラすのナシね!」


小声だったからか、一年達には聞かれなかった様だ。
詮索されずに済む事に悟はほっと息を吐き、それから口を開く


「そうだ甚爾、悠仁の相手してやってよ。甚爾ならゴリラしばくのお手の物でしょ?」


「先生俺の事ゴリラって思ってたん???」


「やだなぁ、最初からそう思ってたよ?」


「坊、それフォローになってねぇぞ」


『嘘でしょゴリラって思ってたの?』


いや衛生概念ゼロの馬鹿って思ってたのは前に本人から聞いていたから知ってたけど。そうか、ゴリラか…いや身体能力凄いし、ゴリラだな?


「甚爾は傑ゴリラも七海ゴリラも語部ゴリラもしばいてきたゴリラマスターだからね!悠仁、遠慮なくしばかれておいで!!」


「オイモヤシ、お前もしばいてやろうか?」


「あ???????誰がモヤシだって????」


『五条先生、元ヤン感が出てますよー』


「あ、やっぱり五条先生って元ヤンなの?」


「いや、今も大して変わんねぇだろ」


「恵ィ、ガキの頃の初恋が刹那だったってバラしていーい?(クソデカボイス)」


「声がデケェんだよクソ教師!!!」


『wwwwwwwwwwwwwwwww』
















語部は今まで頑張ってきた。
呪術廻戦という、死が賞味期限の近付いた野菜の叩き売りレベルでわんさと転がっているこの世界で、準一級という死にそうで死なないレベルの級を死守してきた。
そして、主要キャラが誰も死なないという正しくボーナスステージみたいな世界を、今語部は堪能している。


『悟、なに描いてるの?』


「んー?月下美人。オマエに似合う花だよね」


『ありがとう。凄く恥ずかしいんだけど』


「んふふ、照れてるの?かわいい。でも事実だからしょうがないね」


カフェスペースで休憩をしている五刹に私はにっこりしている。
刹那ちゃんの手を恭しく取って、空色の爪にライナーブラシで繊細な花を描き込んでいく五条。
ネイルアートをする為かアイマスクは下げられていて、久々に見る素顔は文句なしに綺麗だった。
そう、鑑賞するにはもってこいなのだ。見た目だけは良いので。見た目だけは。


「ねぇ刹那、今日任務俺と一緒でしょ?そのあとデートしよ?」


『任務終わりに?どこ行くの?』


「ホテル取ってる。そこでディナーとスイーツビュッフェ楽しんで、お泊まりしよ」


『任務終わりの小汚ない見た目で行きたくないんだけど』


「ヘーキだよ、俺が片付けるから。ぶっちゃけ刹那は車に残ってくれてれば良い」


『それ私が同伴の意味は?』


「デートの為に頑張る俺のやる気の為?」


『なんだそれ』


くすくすと笑う刹那ちゃんに五条も釣られて笑った。その笑みがまぁ優しいこと。
最初こそこの世界観でDom/Subなんて混ぜんなよ世界ちゃん暇か???とか思ったけれど。


甘やかす五条に甘やかされる刹那ちゃんの五刹を合法的に不定期開催して貰えるんなら全然Dom/Subアリーーーーー!!!!!


「あ、語部ちょっと良いっすか?」


「黒川じゃんお疲れ様」


「あ、黒川じゃんお疲れ」


『お疲れ様黒川くん』


「お疲れ様っす。七海と灰原知りません?次アイツらと一緒なんですけど」


ふらりとやって来た黒川に手を振ると後輩二人の居場所を訊ねられ、首を振った。
聞けば探しているのだが、どちらからも連絡が来ないらしい。


「珍しいね。五条なら兎も角、七海と灰原が連絡してこないなんて」


「オイメスゴリー?聞こえてんぞー」


「頭めきょってされたいモヤシはだーれだ☆」


「なにゴリラから見たら俺ってモヤシなの???オマエといい甚爾といいモヤシモヤシうるせぇな!!俺だって鍛えてんの!!俺は傑とか甚爾みたいに瞬発力だけじゃなくて持久力に重きを置いてるからしなやかな筋肉なの!!!あとタッパあるからヒョロく見えるの!!!
なぁ刹那俺脱いだら凄いよね!?!?」


『パンプアップしたらめちゃくちゃムキムキになるよね。なんか収納式筋肉みたいで面白いよ』


「え、面白いの?じゃあいっか」


収納式って言われてるって事はつまり夏油とか伏黒先生より細いって言われてるんだけど、そこら辺気付いてるんだろうか。気付いてないんだろうな全肯定botだし。
そもそも夏油と大して身長変わんないの気付いてるんだろうかこのモヤシ。
ネイルアートを終えたらしい爪にトップコートを乗せながら、五条が言う


「そういや七海と灰原、さっき直哉に連れてかれんの見たよ」


「え゙、どこ行ったか判ります?」


「知るかよンな事。真希でも扱いてんじゃね?」


『あ、直哉から返事来たよ。此方来るって』


空いた手でスマホをタップしていた刹那ちゃんが、そう言って黒川に笑いかけた。
トップコートの乾きを確認した五条が、にっこりと笑って小さな手を開放する


「ハイ、かんせーい」


『ありがとう悟。凄くかわいい』


「どういたしまして。ふふ、今日のディナー楽しみだなぁ」


『まぁ派手な袖だし、これでも行けるのか…?』


確かに五条が選ぶホテルって高そう。
刹那ちゃんの教員服も学ランの時とほぼ同じ、綺麗な袖のものだし、まぁ派手に土埃でも被らなきゃ大丈夫そうな気もする。
刹那ちゃんが袖を伸ばしていると、ふにゃっと微笑んだ五条がとある提案をした


「気になるなら先にホテルにドレス預けよっか?あ、それならさぁ、俺着て欲しいドレスあんのね。それにするわ。ちょっと待ってて────もしもーし」


スマホを耳に当てて何処かに電話を掛け始めた五条に、刹那ちゃんは目を丸くしていた。
いや流れる様にドレスを着せる展開に持っていったな?これ狙ってたな?
驚いていたものの、やがて仕方無いと苦笑いに変わった刹那ちゃんは目許を和らげて爪を眺めていた。


「隙あらば刹那ちゃんに尽くす五条とそれを受け入れる刹那ちゃん…愛じゃん…五刹はやっぱり最高の推しカプでは…?」


「語部、拝むのはやめなさい語部」


「お、居った居った。匠くん、迎えに来たでー」


「黒川さん、お疲れ様でーす!すみません、直哉が真希ちゃんの指導で熱入っちゃって…」


「申し訳ありません黒川さん、私達が付いていながら…」


「いやいや、気にしなくて良いっすよ。じゃあ行きましょうか」















────五条悟は、Subである。


それは呪術界で実しやかに囁かれている噂話だ。
五条悟といえば数百年振りの五条の相伝と六眼を完全に受け継いだ、奇跡の子。
そんな男が隷属する側であるなどと。
本来ならば、誰も相手にしない様な眉唾物。
しかし火のない所に煙は立たぬという言葉もある様に、噂が立つとすればそこには必ず根拠がある。


誰かは言う。
五条悟が、その首にcolorを巻いているのを見た、と。


誰かは言う。
五条悟が、女の足許でお座りkneelをしているのを見た、と。


それはその二人のみが言っている訳ではなく、注意深く噂を辿ってみればあちこちから拾える情報だった。
そこで男は確信する。
五条悟はその圧倒的な強さと見た目からDomだと思われているが────奴は、Subなのだと。
















月に一度の定例会議。
そこには名だたる名家の重鎮達がずらりと並び、所謂上層部の小間使いとして漸く顔を覚えられ始めた男は、その時をずっと待っていた。


「あーあー今日も茶と若人虐めしか楽しみがないおじいちゃん達は元気そうね。あ、あの世の方から受け入れお断りされてんのかな?」


長い脚に、すらりとした体躯、逆立てた白銀の髪。
高専教員の制服に身を包むその首もとは、高い襟に覆われていて男からは見えなかった。


「それで?私を呼んだ理由は?
忙しいんですよね、日がな一日席に着いてダラダラ会議っつー名の井戸端会議するだけじゃないので。この後任務が入ってますし?手短に願いたいもんだ」


「口を慎め。…今回の議題はそうさな」


老獪が醜悪に嗤う。
衝立で顔を隠したその席から、別の声が踊った。


「────そろそろ、貴様の囲う女をどちらか寄越せ」















定例会議、終了後。
男は苛立つ五条ににんまりと口角を上げ、近付いた。
女は若ければ若い程胎として価値が上がるし、見た目も整っていればより良い。
それでいて呪力と術式を持っていて従順ならば、言う事はない。


五条が囲う女は二人。
同期である女共は美しいが、年齢的に十代の女より価値が下がる。
特に家入硝子は貴重な反転術式を他者に使用出来る者だ。上層部としては、家入に早めに次を作らせておきたい。
対する桜花刹那は小さな家の当主で、呪力も術式もあるが、家入ほどの希少性はない。
桜花こそ顔は良いが乳がないのだし、細くて床の具合も悪そうだ。とっとと何処かに嫁がせれば良いのに。
あの五条の御手付きならば、歳がいっていようが痩せぎすだろうが貰い手は付くだろう。何せ最強のお古を受け入れれば、その家に箔が付く。
まぁ、複数の男相手にあの痩せぎすの体力が持つかは知らないが。
そんな事を考えながら、男は五条にゆっくりと近付いた。


「────何の用?もう話す事はないと思ったけど、何か言い忘れた?」


鋭く牽制する様な声が鼓膜を刺した。
しかし男には、その姿は最早毛を逆立てる猫にしか見えていなかった。


雪の様に美しい髪。
シミ一つない白磁の肌。
すらりと伸びた手足。
モナ・リザも裸足で逃げ出すであろう完璧な造形のかんばせ。
低く甘い、良く通るテノール。


全てが美しいこの男は、しかしその美しさ故に神に妬まれたのだろう。
五条悟は支配する側ではなく、支配される側として産み出された。


こんなにも美しいけものを、支配したいと望まずに居られようか。


脱げstripしろ、五条悟」


「!」


目隠し越しにも五条の驚いた気配が伝わってくる。
男は己のダイナミクスのランクに自信を持っていた。
恐らく五条のDomは桜花だ。
あんな華奢な女に負ける気などないし、第一桜花はSwitchだと言うではないか。
半端者Switch強者Domに敵う筈もない


最早男には、負けなどイメージ出来なかった。


「……どういうつもり?」


おや、と男は思う。
流石と言うべきか、Domのcommandを跳ね返す事が出来るらしい。
しかしそれはSubのメンタル面で大きくダメージを負う行為だ。
所詮Subなど、Domに虐げられる為だけに産まれ落ちた奴隷に過ぎない。
この美しい男も、表情は怪訝そうにしつつも内心己に支配されたくて堪らないに決まっている。


脱げstripと言ったんだ。早く従った方が身の為だぞ」


「んーーーーーーー、いや大分面白いけど。いっそ清々しいけど何をどうしたらそうなった?」


「声から動揺が透けて見えるぞ?ほら、“早く脱げ”。Subのお前は従いたくて仕方ないだろう?」


「ウケる、馬鹿だ」


どうやら強靭な精神をお持ちらしい。流石、最強の名は伊達ではない様だ。
しかし男には見えている。
数分もすれば目の前の男はその衣服を脱ぎ捨て、己に蕩けた表情を晒す事になる未来が。


脱げstrip


屈服しろ


脱げstrip


頭を垂れろ


脱げstrip


────俺に支配されろ


脱げstrip!!!!」


渾身のcommandを放ち、男は荒くなった息を整える為に目を閉じ大きく息をした。
これだけ命令を重ねてやれば、幾ら最強でも屈せざるを得ない筈だ。
その禁欲的な制服を自ら乱す美しいけものを思い描きながら、ゆっくりと目を開ける。


……五条は、


「うーん、こんなの僕の意思じゃないのにぃ…♡とか言う馬鹿丸出しの安っぽいAVみたいな猿芝居してやっても良いんだけどさぁ……」


……スマホを取り出し、遊んでいた。


指の動きが明らかにパズルゲームのそれだった。男の表情が引き攣る。


……あれだけcommandを重ねたのに?
それを全て跳ね返したと言うのか?ただのSubが???


混乱を極めた男の前で、のんびりと艶めく唇が言葉を紡いだ


「刹那に言われんのは全然良いのよ?興奮する。それって愛のあるPlayじゃん?あ、ドレスでそれやって貰おうかな。…ウン、良いね!
まぁ刹那なら全然オッケー。寧ろ命令されたい。媚薬盛ったら出来そうだよね。素面で言わせても恥ずかしがってる様子が楽しめそうだ。目の前で一枚ずつゆっくり脱いで焦らしてやりたい。
良いなぁ、蕩けた目で此方見るのか、それともお預け食らったシャチみたいな目で見るのか……あは、エロいし可愛いしやりたいね。良い女なら何したって様になる。
…でもさぁ、臭そうなオッサン相手に何でAVごっこしなきゃなんないの???それって僕に何かメリットある?ないよね?
だって汚ぇツラのオッサンに組み敷かれる趣味ねーし。


てかさぁ………これってやり返しても正当防衛成立すんじゃん?


しょっちゅう傑が言うんだよねー。“悟は教師なんだから、相手が手を出してから、存分にやり返しなさい”って。
つまり?散々commandっていう嫌がらせを無抵抗で耐えた僕は、今から存分にやり返して良いってワケだ。
いやー流石教祖、我が親友サマはタメになる事教えてくれるよ!
ハイハイ耳タコーって思ってたけど、やっぱり親友が言う事は覚えとかなきゃ!」


にっこりと柔らかそうな唇が弧を描き、長い指がアイマスクに掛けられた。
するりと目許を隠す黒が取り払われ、けぶる様な睫毛に包まれた奇跡の蒼が開かれる。
天色が男を捕らえ────


「ひぃ……っ!!!」


心臓を握り潰す様なGlareに、頭を抱えた。
見開かれた蒼が、男の存在を磨り潰すが如く圧を掛ける。


「オラ、“脱げよ”。
野郎の裸なんざ興味ねぇけどさぁ、やられた事はトラウマになるぐらいやり返すのが筋ってモンだろ?
“早く脱げよ”、時間取らせんな雑魚」


殴り潰す。蹴り砕く。擂り潰す。削ぎ落とす。叩き潰す。刺し殺す。縊り殺す。踏み潰す。踏み躙る。


圧倒的上位であるDomからの、攻撃。
男の心を砕く為のGlare。
こんなものを、Subが放てる筈がない。
こんなものを放つ存在が、Switchである筈がない。
嗚呼、なんて馬鹿な真似をしてしまったのだろう。


────五条悟は、Domだ。


………ぱりん、と。
心が砕ける音を、男は何処か遠くで聞いた。















『────それで?その男を全裸で木に吊るして、下から火炙りしたって?』


「言いがかりだよ。俺はただ焚き火してただけだって。急に焼き芋食べたくなってさぁ」


『焼き芋ねぇ……まぁ、お咎めなしなら良いんじゃない?』


五条が上層部の人間を火炙りしている。
そんな言葉だけが実体もなく高専内を駆け巡って、先ず学長が「ガッデム!!!!!!」と叫んだ。
その叫びを聞いて驚いた直哉がお茶を噴いて、目の前に座っていた黒川くんに直撃した。
それを見て固まった七海にうっかり滑った灰原がパイを顔面にぶつけ、床に落ちたクリームを踏んだ伊地知がすっ転んだ。
伊地知が持っていた印鑑がソファーでお茶を飲んでいた傑のお団子に突き刺さり、最後に何故か撮影していた硝子が爆笑した。


「妙なピタゴラ起きてんじゃん、ウケる」


『原因だーれだ?』


「おーーーーーれだ☆」


『きゃぴっ☆ってすんなアラサー』


「え?アラサーでも俺可愛いでしょ?じゃあ無問題」


『んー、そういうトコ…』


あとで映像貰おうと笑っている悟に苦笑いしか出ない。
件の情報も、悟ならやりそうなので学長室が荒れたのだ。
やられたら十倍返しがこの最強コンビの座右の銘だし


「まぁ傑からも聞いてたからな。俺の噂の再燃。まさか此処までの馬鹿が来るとは思ってなかったけど」


『やっぱりcommandってイラッとするの?』


「まぁね。刹那からのおねだりcommandなら良いけど、見知らぬDomにcommandなんか使われたらムカつくよね。
それって単純にマウントな訳だし」


『ふーん…』


ディナーを楽しみつつそんな会話をして、食事後に悟が私を抱き上げた。
長い裾がゆらりと揺れる。
今日悟が用意してくれたのはビスチェタイプのマーメイドドレスだった。腰から下が水色になる、グラデーションが美しいドレス。
…というか高確率でマーメイドだ。ヒールを履いても裾を引き摺る長さ。


『前から気になってたんだけど』


「ん?なぁに?」


『何でマーメイドドレスが多いの?悟毎回抱えるの面倒じゃない?』


ドレスコードが決められたレストランで食事を取る時、悟が贈ってくるのは高確率で裾が広がるドレスだ。
お陰で車から降りる時からホテルの部屋に向かうまで、悟が私を抱える事になる。
幾ら何でも面倒だろうと問い掛ければ、悟はふんわりと微笑んだ。


「なんで?寧ろコレを狙ってそのドレスにしてんのに」


『えっ』


こつ、こつ、と高級な靴がエレベーターホールに上品な音を響かせる。
ダークグレーのスーツに身を包む悟は、擦れ違う女性達の視線を独り占めしていた。
ひらり、悟の動きに合わせて薄い水色の裾が波打つ


「慣れない高いヒールに引き摺る長さのドレスなら、オマエを外でも抱けるだろ?」


『………うわぁ、確信犯じゃん』


「人魚姫のエスコートしてるだけでーす」


前から外で顔が遠いだの抱えたいだの言っていたけれど、まさかそれを実行するとは。
思わず苦笑いしつつ、エレベーターに乗り込む。
眺めの良い事で有名な階で止まると、悟は静かに足を動かした


「今日はどっちが良い?俺を従わせたい?それとも甘やかして欲しい?」


『んー、この格好だと動きにくいから、動かないヤツなら良いよ』


「判った。じゃあ最初からベッドに座った状態でPlayしようか」


『うん』


深い赤の絨毯を歩き、カードキーを刺して部屋に入る。
広いリビングを突っ切って、ベッドに一直線。キングサイズのベッドに私を降ろすと、悟はふにゃっと笑った。


「safe wordは?」


『夜蛾先生』


「オッケー、夜蛾先生ね。……始めよっか、刹那。“キスして”?」


『はーい』


ベッドに腰掛けた悟の肩に手を添えて、そっと口付ける。
ちゅ、と小さく音を立てて唇を離すと、蒼がゆるりと細められた


「いいこ。上手に出来たね。…刹那、“今どんな気持ちか教えて”?」


『ん……あたま、ふわふわする』


「ふふ、ちゃんと自分の気持ちを言えてえらいね刹那。“もっとキスして”?」


『ん……』


悟の甘い声に従い、薄く色付いた唇に顔を寄せる。
commandに従えた事を褒める様に、悟の手が頬を撫でた。頭の奥がちりちりと熱を持つ。
引き寄せる様に後頭部にもう片方の手が回って、顔を傾けた悟の口が大きく開かれた。
言葉もなくおいで、と促され、口を開ける。
伸ばした舌が、待ち構えていた悟の舌に絡め取られた。


『ん……っふ…ぅ』


「ん…」


くちゅ、と唾液が混ざり合う音が鼓膜を叩いた。くしゃりと髪を掻き混ぜる指が地肌を撫でて、ぞわりと肌がざわめく。
ぱちん、と髪を留めていた梅の花のバレッタが外されて、悟がサイドチェストに置くのが見えた


「いいこだね、せつな……は…もっと、きもちよくなって」


『んぅ…ぅ、っふ』


吐息混じりの言葉にぱちりと快感が爆ぜる。
ほめられた。
うれしい。
きもちいい。
もっとほめてほしい。
もっとしたい。
さとるの首にうでを回して、懸命にしたを動かした。
じゅうじゅうと吸い付けば、すぐちかくであおが笑う


「…っふ、かわいい。きもちいいよ、せつな…じょうずだね…」


『っ…ぅ…んん…っ』


「は……そう、もっと絡めて…うん、いいこ」


『っ…、ん…んー、っ』


何時しか身体はベッドに押し倒されて、悟に咥内を舐め回されていた。
さり、と指が悟の刈り上げられた襟足に触れた。


あたまが、ぼーっとする。


じょりじょりしたそこをぼんやりと指先でなぞっていれば、ふ、と悟が吐息で笑った。
指を下げると襟に当たる。
……color、どこ?
もぞもぞと指を突っ込むと、擽ったいのか悟が舌を動かしながら笑う。
じゅう、と最後に強く吸って開放された舌は、じんじんと甘く痺れていた。


『はっ……はぁ……っ』


息を乱す私の口許を拭いながら、悟が青紫のネクタイを緩めた。
シャツのボタンを外し、顔を覗かせたcolorに指を触れさせた。


『………あった』


「うん。俺はオマエのものだからね」


『………うぅ…ゔー…』


「あは、かぁいいなぁ♡」


くすくす笑いながら悟は私の頬を撫でた。
そのまままた唇を貪られる。


『んぅ……うー……』


「かわいい♡………あー、でもこれ以上はダメか…」


ふわふわ、でもどこかぴんと張り詰めた、状態。へんなかんじ。もやもやする。
まだぼんやりしている私の首もとに柔く噛み付いて、低い声が呟く


「colorが触れなくてイキ損ねたか。まだぼんやりしてんね。…ふふ、俺のcolor触んないとSub spaceに入れないのほんとかわいい」


『……さとる…いじわるした…』


「ごめんね?スーツだと首もと見えねぇの考えてなかった」


悟を力の入らない腕で引き寄せる。
身を寄せてくれた悟のcolorに歯を立てていれば、宥める様に頭を撫でられた。
もう片方の手が、腰をやんわりと擦る


「んー、Sub spaceに入ってからセックスする?それともセックスしながらSub spaceに入ってみる?」


『………あくまか???』


あんまりな発言に若干ぼんやりが吹っ飛んだ。
嘘でしょ?両方は死ぬよ???
信じられないものを見る目をしているであろう私を至近距離で真っ直ぐに見つめ、悟はにっこりと笑った


「両方は気持ち良すぎて薬キメたレベルでトぶかも。でもぶっちゃけ心も身体もイッてる刹那は見てみたいよね」


『………あくまか』


「ねぇ疑問符は???」











頭を垂れるのは










刹那→Sub。Switchだと思ってるSub。
ちょくちょく五条にドレスを贈られる。
この度理由を知ってびっくりした。
五条が上層部の人間を火炙りしているという情報に「あ、やりそう」とは思った。

五条の刷り込みにより、自分はどうやらSub spaceに入れる珍しいSwitchらしい、と思っている。十年経ってもポンコツ。

五条→Dom。甘やかしたいDom。
刹那を抱えて歩くのが好き。なのでディナーのお誘いには高確率で裾が長いドレスを贈ってくる。

刹那が自分のcolorに触れないとSub spaceに入れないのが堪らなく好き。
Sub spaceに入り損ねて唸っているのを見るとIQが3になる。スーツでcolorを触れないようにしたのは確信犯。
このあと刹那は地獄、五条は天国だったらしい。

親友に「相手にやられたらやり返しして良いよ」と言われたので、ちゃんと耐えて(パズルゲームして)から心を壊すほど仕返しした。

雪光が一級になり次第、刹那と籍を入れるつもりでいる。

夏油→Dom。ランクは高いが普通のDomらしいDom。
出張から帰ってきたら娘がご機嫌な五条に抱えられていた。オトモダチ(意味深)の審査が厳しくなっている。
「やられたらやり返して良いよ(にっこり)」と教えた人。ハンムラビ法典の信者。

たとえパートナーを作ったとして、それは親友よりも優先順位は低いんだろうなぁ、と思っている。

語部→Switch。特に特性はないSwitch。
なんでこんな世界にDom/Sub入れたん???とは思ったが、甘やかす五条と甘える刹那を見たら秒でてえてぇ鳥になった。

黒川→Switch。特に特性はないSwitch。
現在は五条派として活動中。
相変わらず不憫枠。

甚爾→Dom。ランクは高いが一般的なDom。
高専非常勤教師をしている。最近息子が反抗期。

時雨→Switch。Dom寄りの甘やかしたいSwitch。
五条の秘書になった。
寮に入った息子が会う度全力で甘えてきてかわいい。

男→Dom。一般的なDom。
五条をSubだと思い込んでいた。
commandを使ったら心を壊された。


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