重ねの漣

「誠に申し訳ありませんでした」


翌日、リビングにて鮮やかに土下座を決めた傑を無言で連写し出す硝子と、むうっと口を尖らせ頬杖を着く悟。
謝られている私は苦笑いしか出来なかった


『うーん、次は気を付けてね……?』


「は???オイオイオイオイ刹那チャン???まさかそんだけで許すつもり????嘘でしょ???オマエ怒るって知ってる???」


隣からツッコミが入り、悟に目を向ける。
悟は明らかに不服そう。しかし此方から言える事も少ない気がするのだ。
だって別れたら近い距離に居る女を殺しに来るとか、普通は思い付かないと思うの。
それに傑にも男女交際の自由はあるべきだし……まぁめちゃくちゃ爛れているとは言え、そこに私が口を出すのは違う気もする。
となると、結局私が言えるのはさっきの一言だけだ。


「まさか切った女が刹那を襲うなんて思わなかったんだ…」


『大丈夫だって、怪我もしてないし。寧ろ襲われたのが硝子じゃなくて良かったよ。私なら対処は出来るし』


「はー????じゃあオマエを襲われてブチキレてる俺の感情はどうなんの?何でそもそもオマエが怒んねぇんだよ。こんな理不尽も滅多にねぇだろ」


『んー…割りと理不尽な目に遭いやすい人生ですし…』


そもそも産みの親に金で売り飛ばされてますし。
ちょいちょい面倒な事態に巻き込まれますし。多分そういう星の下に産まれたんじゃないかな。
そんな事を呟くと、三人が死んだ


「やめるんだ刹那、とても心が痛い」


「あー…急に闇見せてくるじゃん…」


「え、ごめんね刹那、泣く?ごめんね???」


『いや泣かないけど』


そっと目尻を長い指が拭う。
眉の下がった悟の頬を両手で包み込んで笑ってやれば、悟も安心した様に相好を崩した


「でも夏油これからどうすんの?オトモダチ(意味深)全員切るの?」


「………遊びだと割り切ってくれる人だけ残すかな」


「残すのかよ。良い機会だし全員切れば?」


悟の言葉にがばっと傑が顔を上げた


「は???じゃあ昂った傑のスグルはどうすれば良いんだ???」


「風俗行けよ」


「学ラン脱げば未成年だなんて思われねぇだろ。お色気猿とビジネスライクな付き合いしてこいよ」


二人して散々な言い方である。
しかし言っている事もごもっともなので、何も言えない。
そもそも傑が一般人に手を出したからこんな事態になったのだし。
多分本職の人ならば、此処まで拗れる事もなかっただろうに。


「つーかなんで一般人に手ぇ出したんだよ。お前特級なんだから金はあんだろ?」


「ヤれれば良い訳ではあるけど、風俗みたいな明らかにビジネスじゃなくて恋人っぽい雰囲気を楽しみつつ押し倒したかったんだよ」


「デリヘルにそういうプレイ頼めよ」


「素人っぽさがないだろ」


「オマエの性癖なんざ知るかよムッツリ」


んべ、と悟が舌を出して煽る。
カーン!と最近聞かなかったゴングが脳裏で高らかに鳴り響いた


「へぇ?毎晩女の子を抱いて爆睡しちゃう二歳児にこういう話は早かったかな?
私だったら憎からず想っている相手を穏やかに寝かせてあげる自信はないのだけど」


「へぇ???下半身と脳味噌直通男は生きてるだけでチンコイライラしてんだ?カッワイソ、早漏クンは女の気持ちも考えずに襲っちゃうんですぅ♡って?
そんなの雰囲気で流す男の常套手段だろ俺テクあるんでって自己中理論でキモチヨクなってんなよバーカ」


「安心すると良い、ちゃんと相手の気持ちも考慮した上で手を出すから。
可哀相にガタイは良いのに下は不全なんて五条家も将来が不安だろう。
ああ、誕生日に精力剤とオナホでもプレゼントしてあげようか?」


「あ゙?発情期の雌猿孕ませる機能なんざ要らねぇよ。つーか不能じゃねぇし、淡白なだけですけど???
オマエこそそこら辺の雌猿に手当たり次第に腰振ってんなよ誕生日に動物病院の去勢手術の予約プレゼントしてあげようか?」


ぺらぺらと良く回った舌が止まったかと思えば、デカい男二人が立ち上がってメンチを切っている。
私は思わず溜め息を吐いた。


「……外でオハナシしようぜ早漏。家壊して刹那と硝子巻き込むのは困るし」


「良いとも遅漏。いや、EDか?」


「あ゙???黙れよ太ぇだけの粗チンでイキッてんな」


「は???長いだけの童貞がイキるなよ。せめて卒業してから吠えな」


……非常に口汚く罵り合いながら、悟と傑が玄関に向かっていった。
バタンと扉を壊しそうな勢いで出ていった奴等の騒音が遠くから聞こえ出して、私達は同時に溜め息を吐いた。


「クズ共、下ネタで喧嘩すんなよ気持ち悪い」


『なんであんなに煽り合うのか…』


「てか五条は長いらしいよ。あんた、入んの?」


『急にエグい下ネタ振ってくるじゃん』



















珍しく三年生が全員居る今日、折角だという事で二年と組手の合同練習をする事になった。
体術指南担当の甚爾さんが適当に生徒を選び、戦わせるシンプルなもの。
術式ナシ、呪力を纏って身体強化するのはアリの────百回殺さない組手である。


「んー、三年は特進以外が出るって話だろ?じゃあ二年を単純にどつき回しゃあ良いワケだ。はい、殺りたい奴きょーしゅ」


「ハイハーイ!甚爾!!俺やりたい!!」


「楽しそうだね、私も立候補しようかな」


甚爾さんの言葉に笑顔で手を挙げたのは最強コンビである。それを見た七海の顔が引き攣った。それはそう、あの二人、今からオマエらボッコボコにしてやんよ☆って顔が言ってるから。
此方は医療関係の授業で一人抜けた硝子以外、悟と傑に苦笑いしかしていない。
せめてその輝かんばかりの殺意を引っ込めてあげて?七海の顔が死んでるから。


「五条さんと夏油さんに相手して貰えるの!?じゃあ私やりたいです♡」


「え〜ずる〜い♡私も〜♡」


「アタシも!!アタシもやりたいです!!」


…そしてきゃあきゃあと挙がる手と黄色い声。ちらりと見れば直哉がゴミを見る目で同じクラスである筈の女子を見ていた。
ウチの最強コンビも汚物を見る目をしていた。
そしてそんな悟と傑にうわ…と引いているのが黒川くん。語部さんは正気か???と女子達に首を傾げていて、湖島さんは宇宙人を見た顔をしていた。
まぁ皆の反応も判るよね。だってコイツらボッコボコにするつもりなのに。
何で彼女らは、悟と傑に急接近出来るゲリライベントみたいな捉え方をしているのか。


「あーーーーーーーーーー、面倒だな」


ボリボリと口許の傷を爪の先で引っ掻いて、甚爾さんは二年生を吟味する様に視線を滑らせた。
そして二人の許で目を留める。


「灰原、七海。それから……」


切れ長の双眸が此方に向けられる。
……ん?目が合ってる?嘘でしょ?


「坊とお嬢ちゃん、お前らで殺れ」


「お、マジで?やった!!」


「は!?!?!?ほんなら俺混ぜてや!!!」


「直哉、お前は後でな」


『え?甚爾さん、私体術雑魚ですよ?』


術式アリなら兎も角、私は純粋な体術だとまぁ弱い。悟のお陰で判明した天与呪縛により、一般人以上の身体機能は望めない事も判ったのだ。
呪力強化をしたにせよ、それは相手も同じ。正直体術メインの七海と灰原なんて相性が悪過ぎる。
それは指名された悟も思ったのか、隣に座っていた私に寄り掛かりながら甚爾さんに質問した


「ねぇ甚爾、刹那ってオマエの逆バージョンの天与呪縛持ちだよ?流石に七海と灰原は分が悪くね?」


「だからこそだよ。今回のは共闘だ、オヒメサマを上手く護りながら戦うのが坊の目的。
んで、二年二人は最強をどうやって出し抜いてオヒメサマを狙うかの訓練だ」


順に指差され、がっくりと項垂れた。
共闘が苦手な悟はその練習、七海と灰原は圧倒的に格上の相手と立ち回る練習。
……つまり、私は餌な訳だ。
肩を落とす私の背をママがそっと撫でた


「刹那、君は術式ならそうそう敵う者は居ないよ。自信持ちな」


『ママは敵うじゃん…私勝てないじゃん…』


「私は君のママなんだから当たり前だよ。娘に負けたら護れないじゃないか」


『ママ、すき』


「私も大好きさ、可愛い子。さぁ、頑張っておいで」


傑とハグしてから、悟と共に中央に立った。
向かいには緊張した面持ちの七海と灰原。悟がぐっと背を曲げて、私の耳許で囁いた


「作戦、どーする?」


『多分純粋な体術だと七海は無理。体格的にまだ灰原の方が良いかな』


「ん。じゃあ七海は引き受ける。んで?灰原には勝てそう?」


『体術のみ、でしょ…?』


んー、と唸る。
七海より小柄ではあるが、灰原も決して小さくはない。
そして普段から体術で呪霊を祓っている術師だ、術式使ってひょーい!な私とは身体のキレも違うだろう。
経験値の差で上回ったとして、身体能力の差がエグい。
結論、きつい。


『分が悪すぎる。助けてマリオ』


「ウン、良いよ。じゃあ極力ダメージ避けて、時々攻撃叩き込め。
そしたら俺が倒してあげるから」


にいっと笑った悟の表情がまぁ悪いこと。
ちゅ、と耳殻の先に口付けて背を伸ばした悟の脇を肘で小突いて、正面に立つ灰原と対峙した


「ルールは誰かが倒れた時点でそのチームの負け。負けたら校庭百周な」


『えっ、罰ゲームあるんですか?』


聞いてませんけど。
二度見すればしれっとした顔で甚爾さんが言う


「言ってねぇもん」


『オイ教師』


「じゃ、始め!!」


『オイ教師!!!』


甚爾さんが開始の合図を告げた所為で七海と灰原が動き出した。
先に突進してきた七海を、一歩前に出た悟が迎え撃つ。


「ピーチ姫が助けてって言うからさぁ、オマエにはヘイホーやって貰わなきゃ困るんだよね」


「すみませんが、戯れ言に付き合う余裕はありません!」


「良いよ、勝手に俺が喋るだけだし。ほらほら動き固すぎ。普段からそんなにバッキバキなワケ?
そんなに固いと受け入れる灰原辛いんじゃない?」


早速悟が煽っている。
それを耳にしつつ、突進してきた灰原の拳を避けた。


「宜しくお願いします、桜花さん!」


『宜しく。でも私体術下手だから、お手柔らかに』


「僕の拳全部避けてるのにそんな事言います!?」


『ははは、まぁ避けなきゃ私死んじゃうし』


そもそも百殺組手でしょっちゅう最強コンビに殺されている私だ。その時もひたすら躱す訓練に身を投じている(それでも百回殺られている)ので、回避に関しては秀でている自信がある。
拳を避け、胴を狙った脚を呪力強化した腕で防いだ。
……あ、やばい。思ったより強いかも。
じいん、と骨まで響く痛みに眉を顰めたその時────隣から長い脚が伸びてきて、灰原を蹴っ飛ばした。


『ありがと悟』


「ドーイタシマシテ。灰原の見た目で油断した?アイツも七海の次ぐらいにはゴリラだよ」


『マジか。えー、じゃあ結局何時もの攻撃躱しゲーム?』


「そうなるな。でもまぁ俺達と殺る時よりは簡単でしょ。躱して躱して隙が出来たら殴る、それが今回のゲームだよ」


隣に並んだ悟がゆったりと構え直した。
先に吹き飛ばされていた七海が向かってくるのが見える。


「俺達の敗北条件は刹那の脱落。勝利条件はオマエが耐えている間に俺がアイツらのどっちかを倒す事。
……刹那、やれるか?」


『オーケー、頑張る』


ゆっくりと拳を握る。
それを隣に向ければ、にっと笑った悟が拳を合わせてきた


「じゃあやるか!合わせてやるから好きに動けよ」


















ハローハロー、語部です。
今は体術の授業、五刹対七海灰原コンビを観戦中!


「嘘やん、そこ当たる?」


向かってきた七海に立ち向かったのは、まさかの刹那ちゃんだった。
一瞬七海が虚を突かれた様に目を見開いたが、直ぐに表情を引き締めて拳を振るった。


「桜花さん、申し訳ありませんがこれも訓練ですので、本気でいきます!」


『うん、宜しく。私も手荒にしちゃうと思うから、恨みっこナシね!』


七海の拳は重い。それが呪力を纏って強化されているのだから、多分地面にクレーター作れるレベル。
原作の白スーツに鉈で大分吃驚したのに、時間外労働宣言からのボクシングスタイルには目を剥いた。え、紳士が拳で解決しに行くの???パワーisジャスティス???ってなった。
そんな彼も今は私の後輩で、同じ体術特化の呪術師同士組手も行うから、七海の強さは良く知っている。


『うわ、当たったら折れそう…』


「なら死んでも避けてください!」


『なかなか無茶言うね七海…』


ぶおんぶおんと音を立てて振るわれる拳と脚を、刹那ちゃんは流れる様に避けている。
風に揺れる柳の様に躱し続け、ぶん、と突き出された拳を首を傾けて回避すると、今まで防戦一方だった刹那ちゃんが動いた。


『せー、の!!』


だん、と関節の内側に小さな拳が叩きつけられた。…あ、ダメだ。浅い。
攻撃で一瞬固まった七海だが、不意の一撃はやはり威力が弱かったらしい。
大きな手で細い腕を掴み、そのまま刹那ちゃんを拘束しようとして────


「ヘタクソ。関節潰すのはこうやんだよ」


「ぐっ!!」


…刹那ちゃんを掴もうと伸ばされた伸びきった七海の腕、その肘関節に遠慮のない一撃が叩き込まれた。
アレは絶対折れた。だって肘から先がぐにょんって絶対曲がっちゃいけない方に曲がったもん。


「かわいそうなななみ」


「俺絶対五条とはやりたくねぇっす…」


「じゃあ次は私と殺ろうか」


「え゙」


「かわいそうなくろかわ」


「おい語部、あんた私にツラ貸しなさいよ。ほんとは桜花が良かったけどあんたで妥協してあげるわ」


「お前ほんといちいちイラつくな??刹那ちゃんはファンクラブ会員ですら手合わせ厳禁ぞ???お前みたいなニワカは見る事すら烏滸がましいぞ???」


「おや、私の可愛い子にはファンクラブなんて出来ていたのか。
名簿を見せてくれないか?母としてファンの素性が気になるからね」


「語部、収拾つかなくなるからやめなさい語部」


此方が騒いでいる間にも試合は動く。
七海を助けようと五条の背後から飛び掛かる灰原を見て、刹那ちゃんが叫んだ


『さーとーるくん!』


「ハイハイ、ドーゾ」


すっと五条が前屈みになる。
その肩を、刹那ちゃんが踏み台にして弾丸の様に飛び出した。
その勢いに一瞬怯んだ灰原の顔面に、小さな拳がめり込む。


「アレは痛い」


「ロケットパンチだ。刹那は何時の間にゆびをふるを覚えたのかな?」


「桜花はピッピだった…?」


「アレは横取りでしょ。あの女はきっと悪タイプよ」


「やめろよ悪タイプだと格闘タイプの灰原に四倍ダメ食らうじゃん。いや待て、ピッピってダイパだとまだノーマルだっけ?じゃあ此方も四倍ダメ…?刹那ちゃんに格闘タイプは鬼門だった…???」


「語部さんもポケモンしてるの?」


「初代からダイパまで今のところ全部制覇済みです」


ピッピ(テディベアのすがた)が灰原を殴り、そのまま地に引き倒そうとする。
しかしその腕を逆に捕らえられ地面に押し倒された所で、再び五条が助けに入った


「刹那、泣いてない?」


『呪力強化したし受け身も取ったから平気。ありがとう悟』


「ドーイタシマシテ。なんか十秒おきに助けてるレベルなんだけど」


『ごめんなさいね体術雑魚だからね!!!!!』


「あー、ゴメンって。拗ねるなよ可愛いな」


手を貸して立ち上がらせた刹那ちゃんの背中の土を払ってあげてるのが流れる様に五刹。
灰原を殴った手を取って怪我がないか確認するのほんと五刹。
ぶっちゃけ秒で負けそうな刹那ちゃんを五条が助けながら戦う様子は、レベル1のイーブイを護りながら戦うレベル100のアルセウスにしか見えない。タッグバトルの初手でアルセウスが薙ぎ払ってくるヤツ。経験値保育園かな???


「じゃあそろそろ終わらせるか。どっちも程良く弱らせたからさ、後は一発入れて寝技に持ち込めばオッケー。
あ、腕壊したし七海の方が良いかな」


『判った』


「つっても弱った獣ほど形振り構わねぇヤツもねぇ。乱戦になるけど、好きに動けよ。俺が合わせてやる」


『うん、宜しくね』


拳を作った刹那ちゃんが飛び出して、五条がその後に続く。
右手を負傷した七海を狙い蹴りを放つ刹那ちゃんの攻撃を割って入った灰原が防ぎ、その隙に刹那ちゃんを捕らえようとする七海の手を五条が払う。
五条を狙った灰原の蹴りを刹那ちゃんが往なし、五条が灰原の腹部を狙って拳を打つ。
それを苦しげな顔の七海が左手で防ぎ、灰原が刹那ちゃんの脚を払いに掛かった。


「刹那!」


華奢な身体が転がる前に、長い腕が首根っこを掴んで引き寄せる。
自分の背後に刹那ちゃんを退避させ、その代償に、五条は七海の拳を食らってしまった。
けふっと薄い唇から酸素が漏れる。
アレは痛い。モロに鳩尾に入った。


「ってぇな!!」


『ごめん悟、踏む!』


「ハイハイ好きにしやがれ!」


五条を踏み台にして刹那ちゃんが跳ぶ。
綺麗な青紫が爛々と輝いている。彼女が狙っているのは、地面に叩き付けられた七海を救おうと動いた灰原だ。


『ごめん、絞めるね』


「うわ!?」


背後から灰原に飛び付き、その勢いで地面に引き倒すと、刹那ちゃんは細い腕で頸動脈の圧迫に掛かった。
所謂スリーパーホールド。チョークスリーパーとは違いやられる側に痛みはないが、眠る様に意識を堕とす絞め技だ。


「ぐうっ!!」


『!』


灰原も拘束を振り払おうと、刹那ちゃんの腕を掴んだ。痛みに顔を顰めるも彼女は離そうとしない。
懸命に絞めてはいるが、多分刹那ちゃんの力が弱いんだろう。なかなか落ちない。
ぎゅっと目を閉じて腕に力を込めている刹那ちゃんに、地に臥した七海を踏みつけた五条が声援を贈っている


「良いぞー刹那。そのまま呪力込めて絞めろ」


「灰原!!」


『とっとと…堕ちろぉ!!!』


「っ……七海、ごめ…」


頸動脈を絞められ続け、限界が来たんだろう。灰原の目が閉じてゆき、がくりと首が落ちた。
それを見た刹那ちゃんがそっと拘束を外し、灰原を横にさせる。
治療係として見学していたしょうこっちが近付いてきて、灰原の脈と呼吸を確認した。
それからマル、と手で合図を送ると、今までじっと組手を見ていた伏黒先生が口を開く。


「灰原、戦闘不能。勝者、坊とお嬢ちゃんチーム」


伏黒先生の宣言に五条がにっと笑った。
ゆっくりと立ち上がりながら、刹那ちゃんも安心した様に笑う


「よっしゃ、お疲れ刹那」


『お疲れ様、悟。サポートありがとうね』


「ん。……あ、馬鹿!おま、呪力操作を急に止めたら────」


組手が終わり、少しだけ弛んだ空気の中、急に五条が慌てた声を出した。
一体なんだろうか。
私も慌てる五条が見つめる先に目を向けて────ぱあん!!!


『えっ』


………刹那ちゃんの両腕から、弾ける様に血が噴き出した。
え?血?…血!?!?!?
全員が目を丸くする中、五条がさっと近付いてきて刹那ちゃんに言う。


「止血しろ。術式で瘡蓋みたいに固めるだけで良い。後は硝子んトコに運ぶから」


その言葉を聞きながら刹那ちゃんが素早く印を組み、血が収まっていった。
因みに夏油は刹那ちゃんに血相を変えて駆け寄っている


「刹那!!大丈夫!?一体何時そんな怪我したの!?灰原か!?殺す!?!?」


『大丈夫だよ傑。びっくりした、噴水みたいに血が出たね』


「クソ暢気じゃん。オマエが呪力強化をいきなり解くからだよ。
体内も表面もみっちみちに呪力詰めてたのに表面だけ一気に解くから、灰原を絞める時に無理した負荷が表面から噴き出したの」


ぺちん、とデコピンしてから五条は刹那ちゃんを抱き上げた。
そのまま長い足で校舎に向かって走っていく背を見送る。
しかし先程の五条の説明で、一般女性より決して強くなれない刹那ちゃんが、同じ様に呪力強化をした灰原の抵抗をものともせず絞め落とせたのかも納得がいった。


刹那ちゃんはあの時、腕に呪力を内からも外からも、限界まで詰め込んでいたのだ。


謂わば鋼鉄で首を絞められた様なもの。そりゃあ流石の灰原も落ちる。
しかしそこで無理をした負荷が腕に蓄積された状態で、表面に纏った鎧の役割を果たす呪力を解いてしまった。
その結果、開放された箇所から負荷が流れ出し、先程の大量出血…という事だろうか。


「いや刹那ちゃんの体術危なっかしいな?まさか男を絞め落とすだけで腕から血が噴き出しちゃうの?え、か弱い…デコピンも愛を感じる…え、五条に襲われたらそのまま食べられちゃうしかないの?かわいい…何時でも出来るのに清らかな五刹てえてぇ……」


静かに拝んでいただけの私に、無粋にも喧嘩を売ってくるのはクソゴスロリである


「は???あんたそうやって何でも五刹に繋げんのマジ止めなさいよ。五条くんは五夏か五悠か五伏だから。タチ専門総責めか女なら私しか許せません五刹地雷です」


「は????五刹以外全て地雷です。まぁ五条が他を望むならそれで良いけど?良く考えろよあの二歳児刹那ちゃんしか女として見てないだろ。硝子ちゃんはパパだし私はメスゴリだしお前なんかリボン女って言われてんぞ」


「メスゴリよりマシだわ」


「正確に言うと爆破系リボン女な。五条のヤツ、お前の名前湖島手榴弾だと思ってる」


「死ね」


「五条に言えば」


「あんたが死ね」


「いやお前が死ねゴスロリ」


「お前ら喧嘩やめろよ…」


溜め息混じりに私と湖島を宥める黒川。
しかし今まで此方を放置していた伏黒先生が、黒川に指先を向けた。


「黒川。お前直哉と組め。相手は夏油と語部で」


「えっ」


「はーい。宜しくお願いしますね夏油」


「ああ、宜しくね」


「ん?俺は匠くんとなん?ええで、匠くん優しいし。宜しゅうな匠くん」


嫌がる黒川だったが、禪院直哉ににっこり笑って挨拶されると頷くしか出来なかった様だ。
冷や汗を流す黒川の肩を叩き、中央に向かう。
羨ましいのか此方を睨む湖島にはプークスクスwwwwwwwしておいた。


「宜しゅうな傑くんと結ちゃん。手加減しいひんさかいな」


「ははは、そんな事は一度でも私を投げ飛ばしてから言いな」


「腹立つ!匠くん、傑くんの弱点なんや知らへんの!?」


「私知ってまーす。この間大事な娘を危うく刺されかけたママ(♂)が────」


「語部さん!?!?!?君と私は味方じゃなかったかな!?!?!?」


「よーし、始めんぞー」










脆き刃よ









刹那→ナシ汁みたいに腕から血がぶしゃー!!した。びっくり。
しかしとても冷静に止血した。

今回の事態は、刹那の身体では到底耐えきれないエネルギーを呪力強化(筋肉に至るまでみっちみちにした)で無理矢理引き出した所為。
呪力コーティングで内にも外にもいけない負荷が腕から飛び出したから今回はそれで済んだけど、場所によっては脳味噌がぱーん!とか心臓がぱーん!とか普通に有り得るから使わない方が身の為。
体術のレベル1。経験値を稼いでもセンスがないので、この先も呪力強化(みっちみち)を使えばこんな事態になる(センスがあればきっと自分に掛けて良い負荷の加減は測れる)

五条→血が出るって判ってた。
なのでこの呪力強化(みっちみち)も話し合いが必要だと思っている。

刹那がどのくらい戦えるかなーと少し放置したら十秒おきに助けないといけないくらい雑魚だった。というか相手が悪過ぎた。
彼女が七海と灰原相手にあんなに戦えたのは五条のお陰。弱いヤツに合わせるのは疲れるが、刹那が懸命に戦っているのを助けてやるのはなんだか楽しかったらしい。

夏油→これからはオトモダチ(恋愛感情を抱いてくる女性も相性によっては可)からオトモダチ(完全なる行為のみの関係)のみにしようと思った。

刹那の腕から血がぶしゃー!!して焦った人。
その後は直哉をからかいつつしばいた。
刹那にチョークスリーパーを教えたのはこの人。

硝子→夏油のオトモダチ関係でクズだわーとしか思わない人。
刹那の腕を部分解凍しながらひゅーっとやってひょいした。
五条が鳩尾やられた治してーと甘えてきたのでデコピンした。

語部→刹那の腕から血がぶしゃー!!してビビった。
刹那より体術は確実に上手い人。
一緒に戦う五条と刹那に五刹てえてぇ…と鳴いてた。
直哉とは組んだ事があるので良い人認定されている。
五刹以外は地雷です。

黒川→刹那の腕から血がぶしゃー!!して青ざめた人。
刹那より体術は確実に上手い。
何時の間にか直哉に懐かれたし、見付けたら「匠くんやー!!あそんでー!!」と纏わり付かれる。苦労人。

七海→頑張ったけど軽い調子で肘を破壊された。かわいそう。

灰原→頑張ったけどチョークスリーパーされた。かわいそう。

直哉→刹那の腕から血がぶしゃー!!してビビった人。
湖島以外の三年特進とは組んだ事があるので懐いている。
あの後夏油にしばかれた。
体術よわよわテディの過保護が増えそう。

甚爾→自分と正反対の天与呪縛を生後一日の子猫を見守る気分で眺めていた。
血がぶしゃー!!して無言で目をひん剥いた。
え???それだけで血がぶしゃーなの…???え…???
体術よわよわテディの過保護が増えそう。

湖島→五刹は地雷です。

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