やっほー私モブ!
うっかり前世を思い出しちゃった系三級呪術師だよ!
今日は同級生(二級呪術師・美容室行きたてのイケメン)と一緒に三級討伐してきました!
ほんとな、術式ある奴は良いよな。
私呪力はあっても術式ないから。このホスト擬きが三級倒す間に蠅頭祓ってました。
術式使うのヘタクソでも二級になれるんだぜ…?こいつ呪力の込め方滅茶苦茶なのに…絶対私の方が上手く扱えるのに…
補助監督の車に乗って高専に帰る途中、運転席に設置されていたケータイに連絡が入った。
「はい、了解です。…すみません二人共、近くで任務が終わった生徒さんを二人迎えに行きますね」
「はーい」
「了解です」
今私が助手席で同級生が運転席側の後部座席に座っている。二人という事は私達みたいに組んで近くの任務に当たっていたんだろうか。
ぶっちゃけ転生者が多い所為で迎えの車内が四〜五人とか良くあるのだ。少人数での送迎の方が珍しいと思う。
同じクラスでも皆仲が良いとは言い切れないので、取り敢えず五条様夏油様狙いの夢女は嫌だなーとか思っていると、車が停まった。
大して間を置かず扉が開く。
『お疲れ様です。お迎えありがとうございます』
「いえいえ、お疲れ様です桜花さん、五条さん」
「お疲れー」
え?????????
唐突に推しが降臨した。
綺麗な黒髪に菫青の瞳。クール系美人がにこやかに車内に入るとその後から白皙の美貌を持った彼が乗り込んだ。
刹那ちゃんに五条様。
え?????????
マジで???此処で五刹に遭遇するとか私前世でそんなに徳積んだ???
思わず背後に宇宙を背負っていると、ルームミラー越しに目が合った推しがにこっと笑ってくれた
『お疲れ様です』
「ヒョッ…オツカレサマデス」
推しに!!!!声を!!!掛けられた!!!!!!!!存在を!!!認知された!!!!!!
可愛い!!綺麗!!!美人!!!好き!!!!!
えっこんなモブにも微笑んでくれるとか女神じゃん…?知ってたけど女神じゃん…?一生推すね…?銀行口座教えて…???
真ん中にちょこんと座る刹那ちゃんの隣、同級生が明らかにニヤニヤしている。
おい待てお前まさか刹那ちゃん推しか!?推すのは良いけどグイグイ行くなよ!!フリじゃねぇぞ今車内には最強も居るんだぞ!!!!
「初めまして刹那ちゃん、俺は「雑魚が勝手に口開いてんじゃねぇよ、耳障り」……てめぇ」
『悟……』
気持ち悪い笑みを浮かべながら名乗ろうとした同級生の言葉を遮ったのは五条様だった。長過ぎる脚を組んだ彼は刹那ちゃんの肩を引き寄せて、車内で強制的に同級生との距離を作った。
悔しそうな同級生をサングラス越しに睨んで、しっかりと刹那ちゃんを抱き寄せる。
あああああああぎゅうぎゅうにくっついててかわいいね…???不思議そうな刹那ちゃんびっくりするくらいかわいいね…?????
『悟?狭くない?』
「別に。寧ろ脚がつっかえるわ」
『十センチで良い、分けてくれよ』
「人の脚をアンパンマンの頭みたいな扱いすんな」
軽口を叩きつつしっかり刹那ちゃんを引き寄せている五条様はもう拝むしかない。
ぐぬぬ…してる同級生お前鏡見た事ある?五条様の前では全て霞むんだぞ?
顔良しスタイル良し才能も地位も権力も金もある男だぞ?持ってないのは性格だけだぞ?
「なぁ、このクリスマス限定パフェ美味そうじゃね?」
『ん?あ、ほんとだ』
二人でケータイを覗き込んでいる姿がルームミラーに映っていてほんとにかわいい。
ぴったりくっついた体勢を怪訝に思わない刹那ちゃんは間違いなく五条様にそういう風に調教されてる。
美少女を絶世の美人が調教…?おおう、イケナイ香りがする……
『んー?パフェ今日までじゃん』
「あ?マジかよ、おい今から行くぞ」
『は?私も行くの?』
「当たり前だろ。ついでに飯も奢ってやるから来いよ」
『ゴチでーす。あ、補助監督さん、私と五条、渋谷で降ろして貰うのは可能ですか?無理そうならその近辺でも良いんですけど』
「は?どうせこいつら他の任務なんかねぇだろうし高専に戻るだけだろ?無理なわけあるかよ」
『悟、ちょっと静かにしててねー』
しれっとイラつかせてくる五条様を黙らせる刹那ちゃんは流石である。悪かったな他の任務なくて。
雑魚は雑魚なりに命だいじに生きてるんだよ
「渋谷ですね?大丈夫ですよ」
『ありがとうございます。じゃあそこまでお願いします』
艶々な黒髪を指に巻き付け遊ぶ五条様を放置して頭を下げる刹那ちゃん。もうあれ夫婦じゃん…傲岸不遜な旦那とそれを支える妻じゃん…式場はどこ???
『渋谷までってまだ掛かる?』
「一時間ぐらいだろ」
『悟、ちょっと離れて良い?』
「あ゙?何で」
『悟あったかくて眠くなる』
「寝ろよ。着いたら起こしてやるから」
えっ会話がかわいいね????
しっかり抱え直す五条様からは絶対離さねぇぞって意志を感じるし、目を擦る刹那ちゃんが問答無用でかわいい。
『なんかさぁ、私ってぶっちゃけ水持ってないと無能じゃん?』
「そうだな」
いや刹那ちゃんって同級生が最強だから劣って見えるけど、女の子で一年で一級って凄いからね?
液体使役も滅茶苦茶強いし。体術も私なんかじゃ目で追えない動きだったりする。
だから決して無能とか有り得ないのだけどそこは五条悟、普通に頷きやがった。さすごじょ。痺れないし憧れないけども
『だから、もう少し便利な使い方出来ないかなーって思ってて』
「便利?」
『悟の無限ほど万能にはなれないけど、空気中に存在する水素を使役できれば……あふ』
「眠ぃなら寝ろ。勉強会は帰ってからな」
『ん……おやすみ…』
こてっと落ちた刹那ちゃんの頭をそっと自分に寄り掛からせて、五条様はケータイを弄り始めた。
首を痛めない様に頭を支えてあげてる五条様素敵。性格に難しかないけど。
一時間後、二人は仲睦まじくデートに向かったとだけ記しておこう
『ねぇ硝子、傑の味覚ってどうにか出来ないのかな』
「あいつってそんな壊滅的な味音痴だっけ?」
『や、あれ。術式の方』
傑は呪霊操術という術式を扱う為に、調伏した呪霊を呑み込むというプロセスが必要だ。
以前訊ねた時に、吐瀉物を拭いた雑巾の味と言っていたので美味しくないのは明らか。なので傑と同じ任務があった時はそのまま美味しいものを食べに行く。
でもやっぱり不味いと判りきっているものを呑み込むのは精神的にキツいし、そもそも呪霊なんて人の負の感情の煮凝りみたいなもの。そんなものを呑み込んでいれば精神を病んでも仕方無いだろう。
もう殆ど覚えていないけれど、“夏油傑”は呪詛師になる。
最悪の未来を避けるには、先ずは小さな一歩から。
そう考えて、地味に傑のメンタルを毎回ぶん殴ってそうな呪霊の味に注目した
「んー…味覚をどうにかしたいなら、毒とか?」
『毒?』
「そ。毎回呑む時に薬飲んで味覚麻痺させるとか。でもそれだと何れ耐性が付くから、あんまりオススメはしないよ」
『あー…それに毒だって判って飲むのはしんどいよね。んー、味覚って私の液体使役じゃどうしようもないしな』
「仮に出来たとして、味覚神経を弄れば日常生活に支障を来すよ。夏油の味覚を限定的に弄るか、恒常的に壊すかの二択じゃない?」
『悟に呑み込む時無限張って貰う?』
「あいつの場合喉を破裂させそうだけどね」
脳内で傑が爆発四散したので直ぐ様悟を追い出した。
レモンティーを飲みつつ教室でだらける。悟と傑は任務だ。私達はお留守番なので、任務が入った先生から出された課題を解きつつお喋り中。自習というのは暇である
『じゃあさ、呪言師に頼む?』
「五条に言えば直ぐ見付かるかもだけど、夏油の任務前に毎回言わせられるかってなると難しくない?」
『…洗脳系?』
「先ずそんな奴を五条が私らに近付けると思う?」
『無理ですね、判ります』
悟は控え目に言って私達が大好きなので、そもそも洗脳系の術師を近付けないと思う。
どうしたって最後に立ち塞がるのが五条悟である件。最強が最強の闇堕ちを応援するってどんな状況?
んー、と唸って、悟の机に落書きして、窓際で煙草をふかす硝子を見る。
『良し、悟も巻き込もっか』
「三人寄れば文殊の知恵って?マトモな案出すかな、あいつ」
『仲間外れにすると寂しくて拗ねちゃうから』
「私に被害が来なきゃ全然オッケー」
『鬼じゃん』
────という訳で、帰宅した悟を巻き込んでみたのだが
「呪言師どうよ?」
「ハァ?呪言師?ダメに決まってんだろ。効かねぇにせよ死ねとか言ってきたら俺がそいつブッ殺す自信あるわ」
『じゃあ洗脳系は?』
「論外。最初だけ言う事聞いて、どーせ此方に取り入ってくるぞ。オマエなんか簡単に洗脳されて即堕ち2コマ決めんのがオチ」
「あー」
『おい待て。何で私だけ即堕ち2コマなの?』
「そもそも五条に洗脳されてるのに何で専門家に勝てると思ったんだよ」
『待って硝子。この男が持てるスペック全て使って甘やかしてくるんだよ?洗脳されない?』
「別に堕ちないですね。好みじゃないんで」
『悟、今度硝子にメンタルケアしてあげて』
「悟クンのメンタルケアって刹那チャン専用だから。そろそろ舌入れてぇんだけどどう?」
『どう?じゃねぇよメンタルケアにセクハラ織り混ぜんな』
「刹那ファーストキスだったってよ」
「マジで?責任取る?」
『結構でーす』
「寧ろ俺も初めてだったわ。責任取れ」
『お断りしまーす』
「嘘だろそんだけ遊んでそうなツラしてんのに?童貞なの?」
「オマエ俺を何だと思ってんの?夜這い上等の香水臭い媚売りアバズレ女に口くっ付けたいと思う?触りたいと思う?ちんこブッ挿したいと思う?
明らかにブスなのに?ブスなのに??なんなら俺の方が可愛いのに???無理だろ」
『うわぁ』
「大体種をバラ蒔くなって方針だったから、家でアバズレ襲来イベは起きなかったけど。その代わりに此方来てから股の緩い女が色目使ってきてクソウゼぇ。
此方は限定のフラペチーノ飲みてぇのにラブホ誘ってくんなよ空気読め。つーか正直今の時点で覚えのない女に認知迫られてんのマジで何??
顔すら認知してない女に使った事ねぇちんこブッ挿した事になってるの何なの???俺何時の間に概念童貞になったの????」
「それは…おかわいそうに……wwwwww」
『硝子めっちゃ笑うじゃん』
「なので悟クンは大体ハジメテでーす。桜花刹那ちゃん、悟クンの唇奪った責任取ってくださーい」
「具体的には?」
「処女膜破らせろ」
『おととい来やがってくださーい』
「お前ほんとクズだな」
もう滅茶苦茶である。
何だっけ?私のメンタルケアの話だっけ?ファーストキスの責任の話?悟が顔に似合わず身持ち固いって?悟のセクハラ発言?いや違うわ。傑の味覚の話だわ
『硝子、反転術式の応用でそれっぽいのとか資料ないの?』
「ないな。そもそも一般出身の術師なんて取説ない薬と一緒だ。当然サンプルもない」
『んー……傑ってさ、取り込むには必ず経口摂取なの?実は手から吸収とか出来ない?』
「それは本人に聞くしかねぇだろ。でもまぁ、術式の解釈次第でそこら辺はどうにか出来そうではあるな」
テーブルの前で正座した私の太股に白い頭が乗った。此方をじっと見るので、サングラスを外してやる。
何となくで掛けてみて、直ぐに外す。真っ暗で何も見えん。こいつこんな視界で何を見ながら生きてるの?
サングラスをテーブルに置いて、積んであったみかんに手を伸ばした
『んー、もしそれで傑の悩みが解決するならそれが一番なんだけど。他の案が浮かぶ人ー』
「ないでーす」
「もう傑どうにか出来ねぇなら呪霊玉どうにかしろよ。水飴でも塗ってやろうか」
「何それクソ不味そう」
あ、と開かれた口の中にみかんを落とす。
それから硝子と自分の口にも一房入れて、呪霊玉を思い浮かべた。
結構な大きさの、明らかに禍々しい泥団子みたいなアレ。
水飴でコーティングするとサイズ的に呑むのがしんどいんじゃないだろうか。
噛んだみかんから甘い果汁が溢れ出る。
確か、人が味を判断するのは舌にある味蕾という器官だった筈。
だったら、案外悟の言ったコーティングは良いのではないか。
『硝子、舌に触れなきゃ味って判んなかったりする?』
「まぁ簡単に言えばそうだね。なに、良い考え浮かんだ?」
「刹那、みかん」
膝の上の白いのにみかんをやりながら頷いた。
ぶっちゃけヒントをくれた本人はもう飽きちゃってみかん食べてるけど。
コーティング、で思ったのだ。
飲みにくいものを飲む為に、人類が開発したアレならばどうだろうかと
「────刹那、これは?」
『オブラートです』
翌日、偶々私と傑がペアで一級任務に向かった。
十分な強さを持った呪霊を祓うのではなく、弱らせる。そして呪霊玉にした傑がいざ飲まんとした時に、私はポーチからとあるケースを取り出した。
ケースを開けて、ペラペラのフィルムを傑に渡す。
そう、薬を飲む時の強い味方…オブラートである。
馬鹿かってレベルの味の薬でも、包んでしまえば味覚情報無しで胃まで配達出来る優れもの。飲みにくいものの必需品。
あの時の悟のコーティングという発言で思い付いたのがこれだった。
医学的な観点で見ても硝子のお墨付き。呪言とも毒とも洗脳とも違って安全性では問題なしだ。
不思議そうな顔をする傑はオブラートをまじまじと見て、それから私を見下ろした
「…これで包むの?」
『理論的にそれでいけないかなって。皆で考えたんだ』
「…ふふ、やってみるよ。ありがとう、刹那」
よしよしと私の頭を撫でて、傑が呪霊玉をオブラートで包んだ。
少しだけ身構えて、ぐっと口に押し込む。
それからくっきりした喉仏が上下して────切れ長の目が、丸くなった
「………………」
『傑?どうだった?』
「…味が、しなかった」
呆然とした様子の傑を凝視して、それから、言葉の意味がじわじわと理解出来て。
『マジで!?良かったー!!!!』
両手を突き上げた私の身体が宙に舞う。
私を持ち上げた傑がぐるぐるとその場で回りだしたからだ
「ありがとう刹那!これであの雑巾味とおさらば出来る…!!」
『どういたしまして!帰ったら悟と硝子にも言ってあげてね!』
「ああ!…本当にありがとう…」
最後の泣き出しそうな顔に、此方も泣きそうになった。
きっととても辛かったのだろう。
顔も知らない誰かを護る為に、吐瀉物を拭いた雑巾みたいな味がする誰かの悪意を口にする。
普通に考えて、私には出来ない。
誰かの呪いを食べるなんて、私なんかじゃ出来そうにない。
『……傑、すごいね』
「どうしたの、刹那。泣きそうな顔をしているよ」
『………取り込みたくないものを取り込んで、非術師を助けようとして。傑は凄いね』
目を瞬かせた傑がふっと笑う。
仕方がない子を見る目で此方を見下ろしながら、私をひょいと横抱きにして歩きだした。
……凄く滑らかに運搬するな?
私はもう地面を歩かせて貰えないのかな?
「…私は幸せ者だね」
『そうであって欲しいけど、珍しいね。傑がそんな事言うなんて』
そういう発言は五条の坊っちゃんが良くしている。傑はそれを諌めたりからかったりする立場だったけれど。
じっと見上げていれば、悟とは別ジャンルのイケメンはふわりと微笑んだ
「親友達が私の個人的な問題を気にしてくれて、打開策まで練ってくれる。親身になって考えてくれる。こんなに嬉しい事もないよ」
『…ふふふ、そっか』
「ああ、そうだとも」
傑が喜んでくれた。無事に解決出来た。それが嬉しくてくふくふと笑う。
すると傑もつられた様に笑うのだから、結局補助監督の許に向かうまでずっと二人で笑っていた。
君とずっと笑っていたい