『あっつ…』
「こうも暑いと参ってしまうな。刹那、大丈夫?」
『ありがとう、大丈夫。傑は?バテてない?』
「ふふ、平気だよ」
九月。
蝉がうるさい山を進み、傑と二人で任務先の村に向かう。
真夏に厚い生地の学ランを着ているのは流石にしんどくて、私達は手に掛けて歩いていた。
「足場が悪いな。刹那、大丈夫?抱えようか?」
『平気だよママ。それにこういう所もすいすい歩ける様にならなきゃね』
「偉いね刹那。じゃあ転ばない様に手を繋ごうか」
『完璧に子守り体制wwwwwwwww』
にっこりと笑って差し出された大きな手をしっかり掴み、手を繋いで山を進む。
何だか薄暗くて気味が悪い山だが、親友が傍に居てくれれば百人力だ。
二人でもりのくまさんを口ずさみつつ進んで────遂に、目的地に辿り着いた。
■■村。
任務概要はこうだ。
此処暫く村落内で神隠しや変死が相次いでいる。
私達のやるべき事は、その原因と思われる呪霊の祓除。
…私達は、呪霊を祓いに来た。
その筈だ。それなのに、これは。
「────これは、なんですか?」
額を掻いた傑が、正面を隠す様に私の前に立った。
実際私達は直ぐに呪霊を祓った。
それでもう帰ろうと、今から戻れば明日には高専に戻れるかな、なんて。傑と一緒に、笑っていたのに。
元凶は閉じ込めてあるのだと、彼等は言った。
そして私達が案内されたのは、村の奥にひっそりと佇む荒屋。
そしてそこに────酷く怯えた幼子が、二人で牢の中に閉じ込められていた。
「何とは?この二人が一連の事件の原因でしょう?」
「違います」
「この二人は頭が可笑しい。不思議な力で村人を度々襲うのです!」
「事件の原因はもう私達が取り除きました」
「私の孫もこの二人に殺されかけた事があります!!」
────コイツら、人間か?
漠然とした脳裏の中で、そんな言葉が落ちた。
それがじんわりと、波紋みたいに心の中で広がる。
殴られたり蹴られたりしたんだろう、顔を腫らした二人が、格子の傍まで寄ってきて村人に言い返した。
「それはあっちが────」
「黙りなさい化け物め!!!」
老婦人が、子供達を指差して口汚く喚くのだ
「貴方達の親もそうだった!!やっぱり赤子の内に殺しておくべきだった!!!」
皺の寄った枯れ木みたいな指の先から、呪霊が産まれるのを見た。
初めてだ。呪霊が産まれ落ちる光景なんて。
…此処まで醜い人間は、初めて見た。
これは、人なのだろうか。
此方が幾ら原因を取り除いたと言っても、あの子供達が悪いのだと決め付けている。
そして大の大人が寄って集って、子供を罵倒し、暴力を振るっている。
幼い子供。醜悪な大人。
違う。
呪術師を、搾取する非術師。
コイツらの方が、呪霊なんかより余程…
静かにホルスターに手を掛ける。
ひんやりとした鉄扇を引き抜こうとして、大きな手に優しく止められた。
「刹那」
『すぐ、る』
「深呼吸しな。呼吸が浅いよ」
…あったかい手が、私の手を掴んでいる。
それは駄目だと、優しい声が諭している。
鉄扇から手を離すと、ぽん、と頭に手を乗せられた。
優しい顔で此方をじっと見つめると、傑は静かに牢の方を見ながらこっそりと囁いた
「刹那、あの子達を頼む」
『…傑は?』
私の頭を撫でて、傑は何時もの笑みで言った。
「ちょっと外で話してくるよ」
「────は?」
五条はサングラスの奥の目を見開いた。
珍しく、五条のみが高専に留まっているその日は、奇しくも桜花の誕生日だった。
夏油と共に任務に当たっている彼女は、遅くとも昨日には戻っている筈。
そう思って、今年は多忙ゆえに仕方無く市販のケーキで勘弁してやろう、なんて。
そんな事を考えながら、帰ってきたのだ。
「何度も言わせるな。傑と刹那が────」
大型バイクで風を切りながら、九十九はふと面白い回答をした学生を思い出した。
八月の中旬だっただろうか、九十九は高専を訪れた事があった。
そこで出会ったのが灰原という純朴そうな少年と、夏油傑。
九十九と同じ、特級の号を冠す呪術高専三年生。
「非術師は嫌いかい?夏油くん」
自販機の傍のベンチに腰掛けながら、九十九は夏油にそう訊ねた。
すると彼は────九十九の調べによると一般出身で、弱者を護るべきと考えているとされていた夏油は、涼やかに微笑んでこう返したのだ
「好きでも嫌いでもないです。
私の愛する者に害を成さないなら、それで」
「ほう?」
意外だった。
九十九の予想とは違う返しをした夏油を覗き込みながら、彼女は問う。
「ならもし────もし、非術師が君の愛する者に手を出したなら。
そうしたら君は、どう対処する?」
意地の悪い問いだというのは理解していた。
けれど彼女は、己の見立てとは違う反応を示した彼を知りたくなった。
夏油は切れ長の目をきょとんとさせて、それから小さく笑った。
「性格の悪い人だ」
「ははは、灰原くんには悪い人じゃないと言って貰えたのにな」
「私は人を見る目はあるので」
そう嘯いて、夏油はコーラを口にした。
それからにっこりと、胡散臭く笑ったのだ。
「もし、非術師が私の愛する者に害を及ぼしたなら、その時は────」
「何度も言わせるな。
傑と刹那が────村人112人をスケキヨの刑に処して、謹慎処分を食らった」
「は????????」
ヒグラシの声
刹那→やっちゃった☆
夏油→やっちゃった☆
五条→は????????
夜蛾→頭を抱えている
九十九→夏油が思っていたのと大分違って好感触。
甚爾に協力を取り付けようとしたが拒否された。