チラリズムするヤンデレ

ごきげんよう、語部です。
この度準一級になりまして、さしすせカルテットと同じクラスになりました。最近二級に上がった同士が呪霊になりそうな顔で此方を見送っていた。ふははは、羨ましいか?


だが良く考えろ、特進クラスだと死が近いぞ???


初日にさしすせのさ担当の人が教室をバルコニーに劇的リフォームしちゃったりとかさとすの人がお空でスマブラ始めちゃったりとかあったけど、それ以降は割と平和。
先ずは私達転入生を馴染ませる為、夜蛾先生はカルテットを二人一組にして転入生と任務に当てた。
約一名死んでも無理、みたいな反応を見せる問題児以外は任務遂行に問題なし、と判断され、私達も無事任務に組み込まれる様になった。


今回の任務は泊まりだ。
任務地に着くのは夜。そこで祓い、予約してある宿で一泊して帰りも一件向かい、帰還。
語部、五条とあと一人という明らかに子守りはお前らどちらかにしろという人数設定。
硝子ちゃんは居なかったので、必然的に夏油と刹那ちゃんのどちらかが彼の子守りになる


その際ママと娘による熱いじゃんけんバトルが開催されたが、三回勝負で娘が見事に全敗した。母は強し。
結果、しょぼんとした刹那ちゃんが五条の子守りとして同行しているのである。


「つーか何で俺と刹那じゃねぇの?コイツ要る?」


『語部さんの術式はありがたいの。バフの有る無しで難易度が変わるのはポケモンも一緒でしょ?』


「つるぎのまい積んで殴るのと一緒って?積む間に殴られるなら初手ワンパンが良いに決まってんだろ。
つーか俺オマエと違ってつるぎのまい積んだ状態がデフォですけど」


『破壊神じゃん。ムカつくし危ないからマスターボールで捕まえてパソコンに永久封印するね』


「ハァ?連れてけよ。パーティーの殿に入れろよふんぞり返って仲間の雑魚が負けるの見とくから」


『性格が悪い……あ、ラティアスとラティオスにさとるとサトルって付けたんだけどどう?』


「んぐふwwwwwwwwwやめろやwwwww俺を増やすなwwwww」


『……いや、五条悟が二人とか世界が終わるね…?かわいそう、名前変えよっかな』


「急な真顔止めてくんない?」


お分かり頂けるだろうか。滅茶苦茶仲良し。かわいい。
後部座席でわちゃわちゃしてる五刹可愛すぎて何も言えない。
助手席のモブはニコニコしながら見守るね。寧ろ私を空気だと思って


『あ、語部さん、チョコ食べる?』


「ヒエッ、オキヅカイナク」


『えっ、めっちゃ片仮名』


待って推し、軽率に話し掛けないで?空気だと思ってって今言ったじゃん…
話し掛けるねって三メートル向こうから声を掛けて五秒開けてから話し掛けて?
そうじゃないとオタク死ぬから。推しはね?癒しであり猛毒なの。今も心臓が全力でドラミングかましてるから。


「あ?何それ俺も食う」


『レディーファーストって知ってる?』


「レディーだぁ?芋とテディベアしか乗ってねぇだろ」


敢えて言うとこの場は女子三人の男一人である。その場でこいつ失礼過ぎない?私が可愛くないのは判るがそれ補助監督さんまで芋って言ってない?ふざけんなよ補助監督さん美人だぞ。
眉を寄せた時、落ち着いた声が素早く反論した


『その目玉抉ってやろうか。補助監督さんも語部さんも可愛いだろうが』


「あぁん?かわいい…??
……………オマエの目ぇ腐ってんの????」


『女性の綺麗な顔が識別出来ないなら六眼なんか要らんな?要らないだろ??寄越せ。硝子に提供してやる』


刹那ちゃんイケメン…呪術廻戦ってマジで女の子がイケメンだよね…しゅき…
きゅーんとしていると、五条が薄い唇で綺麗な三日月を象った。
かちゃり、とサングラスがずらされて、空と海を混ぜた様な蒼が菫青を捉える


「オマエが直食いすんなら良いよ♡残さず食べてね♡」


『うわ………』


「ねぇだから真顔止めてくんない??」


五条が言うと本気か冗談か判りにくいんだよな。しかも直食いってアレ?ツバサであったあの目玉もぐもぐならオッケーって事?
こっっっっっっっっっっっっわ。
病んでるじゃん。刹那ちゃんになら目を食べられても良いよって愛が重い。
嘘でも六眼を食べても良いとか言っちゃダメ。ただでさえ二期のアニメOPが不吉とか言われてたのに。
鳥肌が立った腕をそっと擦っていれば、隣からすっと手が伸びてきた。
何気なく隣を見て、息が止まった。


推しが、直ぐ隣で私にチョコを差し出している。


ごめんなさいありがとう待って死んじゃう推し可愛い目がキラキラだねえっ優しい好き(0.3秒)


『はい、どれが良いか判んないから取り敢えずこれ、どうぞ。
あ、補助監督さんも宜しければどうぞ、沢山あるので食べて下さい』


「ああ、すみません桜花さん。いただきますね」


『いえいえ、お気になさらず。長距離運転お疲れ様です』


「ありがとうございます…永久保存します…」


『いや食べて?』


くすくすと笑いながらお皿の形にした私の掌に山が出来るぐらいの量のお菓子を乗せて、刹那ちゃんは頭を引っ込めた。
うわぁ推し可愛かった…あ、残り香好き…さっぱりしたバニラみたいな匂いする…
思わず深呼吸していると後ろがまた騒がしい。今度は何だとサイドミラーを覗くと、クソでかい男が横になっていた。


刹那ちゃんの膝枕だと…???


バグった私を他所に、サングラスを渡された刹那ちゃんは困った様に笑っていた。


『今寝るの?確か仮眠摂ってきたんじゃなかった?』


「めっちゃ寝た」


『宿で眠れなくても知らないよ?』


「そん時はオマエも巻き込んでオールするから」


『迷惑。一人で起きてて。それか今寝ないで』


「は?オマエ俺が明日寝不足で怪我しても良いって事?冷たくない?」


『違うよ。悟は宿にポイして私が語部さんと行くって言ったの』


「ハァ?ふざけんなオマエは俺のモンだろ。俺から勝手に離れてんじゃねぇよ」


『あーーーーーーー電波が悪かったんで聞こえませんでした。申し訳ございません』


「この距離で途切れる電波って逆に何?俺ら茹でた素麺で糸電話でもしてんの?
耳詰まってんのかよ耳鼻科で蓋破って貰えば?」


『私は悟の鼓膜破りたいわー』


「最近妙にバイオレンスね?誰に似た?硝子?傑?」


『パパとママを悪く言わないで!』


「うはははははははははは!やめろ同期を親にすんなwwwwwwwつーか硝子もパパになったのかよwwwwwwwwww」


『パパ(♀)とママ(♂)ですがなにか?』


「ひいwwwwwwwなんでwwwwwwww逆だろwwwwwww」


『だってママも硝子にパパって言ったしなぁ』


「ヤリチンママ(♂)とニコチンパパ(♀)とかオマエん家大丈夫かwwwwwwww」


『実家より断然好き。良いだろ私のパパとママ、強くて格好良くて綺麗で優しくて可愛いんだぞ。
あとママにそれ言うなよスマブラ始まんぞ』


「マジ無理wwwwwwwwwwwwwwwwww」


『クソゲラじゃん』


無言で刹那ちゃんが窓を全開にした。多分五条の爆笑がうるさかったんだろう。
ていうか刹那ちゃん待って、五条折り曲げながら向かいの窓開けないで。
五条もゲラゲラ笑いながら文句もなく折り畳まれてんのウケる。開けたら普通に膝枕に戻るのほんと何?お前ら可愛すぎんか???


「なぁ愛してるゲームしよ」


『はい愛してるマジ好き世界一好き大好き大好きー』


「感情乗せろや何だその無味乾燥な告白」


『五条悟は文句しか言えない様に初期設定永久保存してあんの???』


「オマエもっと素直に可愛く愛してるって言えないの???」


『めんど。いや私が愛してる前提なのマジで何で?』


「え?オマエ俺の事愛してるだろ?」


えっっっっっっっっっっっっっ。
思わずぐりんと首を回して振り向いてしまった。
呆然とする刹那ちゃんと目が合った。あっデジャヴ。
彼女はぱちりぱちりと瞬き、私に愛想笑いしてからゆっくり膝に頭を乗せる男に目を向ける。顔がめっちゃ引き攣ってる可哀想に


『…どうして私が悟を愛してるって結論に至ったのかな?』


ぱちくり、と横から見たらエグいぐらいの睫毛が動いた。
そして、至極当然と言わんばかりの顔で言う


「前に夜蛾センセーが言ってただろ。恋愛感情とは特定の誰かを想うと愛しく思ったり、その誰かの為ならどんな事も出来ると思う事だって。
で、傑と硝子に向けてる俺の感情は友愛だって言ってた。
友だろうが愛ってヤツが含まれてんだろ?
んで、その愛情ってヤツの判断基準はソイツを大事だなって思えるかどうか。
じゃあ刹那も何愛か知らねぇけど俺の事愛してるし、俺も刹那を愛してるって思ったんだけど、違うの?」


えっっっっっっっっっっかわいい。
何か判んないけど確実に愛してるし愛されてる自覚ある五条悟かわいい。
何これ五条悟ってこんなに可愛かったの…?嘘でしょ顔だけじゃなくて中身も…?これって軽率に変態ブタ野郎湧かない…?アッだから別校舎に五条可愛いぐへへな男が居たのか…既に湧いてたわ…強く生きて…
刹那ちゃんは無言になり、それから無表情になり、じわじわと顔が赤く染まっていき、最後にはそっと手で顔を覆った。
そして蚊の鳴く様な声で抗議した


『ほんとそういうトコだぞ五条悟………』


「困惑?照れ?嬉しい?あと恥ずかしいもあったな?照れと恥ずかしいが大きかった?耳真っ赤。かわいい。…ん?なぁ俺今きゅーんってした。なんで?
おい今何考えてる?どんな気持ち?見せろ」


『いやだ…きゅーんって…きゅーんって………なんで傑も硝子も居ないの…?やめろ手は絶対退けないやめろ』


「オラ見せろや。なんだっけ、俺の情緒を育てたいんだろ?夜蛾が言ってたじゃん。なら協力しやがれ。きゅーんを教えろ」


『ほんと夜蛾許さないあいつ私を生贄のテディベアとか言いやがって』


「え、生贄なの?なら余計に協力しなきゃじゃん?見ーせろ♡」


『……はいどーぞ好きなだけ見ろよ!ほら!!狐様だぞオラ!!!』


「あっテメどっから出したその仮面!!」


『夜蛾先生がくれた。中国のあのめっちゃ高速で代わるお面』


「何に使うの????」


照れてる刹那ちゃんとかわいい五条悟という萌えに私は無事召された。かわいい。ひたすらにかわいい。補助監督さんもにっこにこ。
もう語彙力も溶けるくらいほんとかわいい。五刹幸せになって…












任務地は閉園した遊園地。
等級は準一級と一級が一体ずつ、そしてそれ以下の呪霊が複数集まってきているとの事。
状態が良いものは別の遊園地や博物館に運ばれる予定なので、遊具を破壊しないのが望ましい。


「で?俺と刹那、眼鏡で分けるか」


閑散としたメリーゴーランドを長い脚で蹴飛ばして、五条は振り向いた。
いや待ってそれ私死なない?何でサポーターを単体で突貫させるの?さては五条悟、RPG知らないな???


『ボケナスかな???私と語部さんで行くから、悟が一人だよ』


「あ゙ぁ?何でだよ?」


『悟にバフ掛けたら遊園地吹っ飛ばすでしょ。私と語部さんで準一級とそれに釣られた呪霊を狙うから、悟は単騎で一級祓って。それで合流すれば良いでしょ』


確かに五条にバフは必要ない。
原作同様無下限を使う彼の攻撃力を上げるより、刹那ちゃんにバフを掛けた方が良いだろう。
その説明にむすっとしつつ、五条は頷いた


「………なら一級と雑魚全部此方回せ。オマエらは準一級だけで良い」


『良いの?じゃあ宜しく。気を付けてね』


「誰に言ってんの?……何かあったら呼べよ」


『はーい』


ひらひらと手を振って去っていく五条を見送って、それから刹那ちゃんは私に笑顔を向けた。


『良し、じゃあ行こっか』


「はい!」


『前も言ったかも知れないけど、語部さんは語部さんを一番に護ってね。私も私を一番に護るから。
術式も私には使えたらで良いよ。基本は私が叩くから、語部さんは打ち漏らしをお願いします』


「了解しました!」


『ふふ、良い返事。あ、でも別に敬語じゃなくて良いんだよ?同じクラスなんだし』


「あ、これは癖なので」


『そっか』


鉄扇をゆらゆらさせながら歩く刹那ちゃんに付いていく。
草が隙間から生える煉瓦の道を進みながら残穢を捜すが、あちこちにべたべたくっついていて判らなかった


「窓からの報告だと二十は居るんですよね…?」


『下手するともっと居そうだね。五条が呪霊を潰しながら先行してるけど、多分まだまだ居るな』


すっと刹那ちゃんが印を組み、鉄扇から水が飛び出した。
水の槍が前方にある老朽化した建物から顔を覗かせる呪霊を貫いて、何事もなかったかの様に戻ってくる。
私も飛び出してきた呪霊を持参した呪具で一閃した。
刹那ちゃんは私の呪具を見て、おお、と声を漏らす


『やっぱ日本刀って格好良いよね。私も一振りぐらい用意するかなぁ』


「え、刹那ちゃん鉄扇似合ってるのに」


『あはは、ありがとう。うーん、でもやっぱ日本刀で呪霊すぱーん!とか見ると格好良い!ってなるんだよね。
私はほら、ハリセンでしばいてるみたいに見えちゃうから』


「ハリセン」


『横っ面ひっぱたくと余計にそう見えるよ』


いや笑って言う事じゃないな???
さらっと呪霊の顔面張り飛ばしてますって推しからのカミングアウトどう受け止めたら良いの?いや構わんけども。寧ろごちそうさまですかわいいです


『まぁ刀使えないのは私の筋力不足が原因なんだけどさぁ。格好良いのは憧れるよね』


「可愛いより格好良いが好きなんですか?」


『可愛いのも嫌いじゃないけど、ガラじゃないかな。あと戦うならこう、冥さんみたいに格好良く戦える様になりたい』


「あー」


『あ、冥さん判る?あの人めっちゃ格好良いよね!ザ・大人の女って感じがする』


この会話の間、刹那ちゃんは近付いてきた呪霊の横っ面をマジで張り飛ばしていた。マジか。すぱあん!!ってやったけどそれ億越えの呪具でしょ?ハリセンじゃないよ?
私も自身にバフを掛けて呪霊を斬りまくる。いや数が多い。精々三級だから良いけど、これで二級とかだったらしんどかった。


「って嘘、二級の群れ…!?」


『うん、手間が省ける』


フラグだったのか、明らかに禍々しい呪力を纏う呪霊が十体、同時に飛び掛かってきた。
呪具を構える私の一歩前に出て、刹那ちゃんは印を結んだ


『縛裟・竹刺』


大量の水が細長く凍り付き、頭上から降り注ぐ。次から次へと勢い良く飛び出してくる呪霊は氷の円柱に縫い止められて、気付けば白い竹林が完成していた。
上手く切り抜けたらしい呪霊は氷の刃が首を刈り、紫の血を流しながら消失した


「凄いですね…」


『ありがとう。語部さんも綺麗な太刀筋だね』


「えっっっっっっっっっアリガトウゴザイマス」


『だから何で片仮名?』


吹き出す刹那ちゃんがマジで女神。
大体何だその学ラン。神掛かってんなデザイナー誰?口座教えて振り込むから。
真っ白なファー付きフードに綺麗な赤と青の袖とかもう振袖じゃん。めっちゃ綺麗。しかも白い紫陽花ってひたむきな愛情って花言葉あるよ…?あああエモい…
原作にもこんな学ラン姿出てないぞ。
……ん?いや待て、出てない…?


……もしかして、此処って原作からずれた世界線?


いや、もしかしたら出てこない過去編でこの学ランかもしれない。星漿体護衛の時は一年生の時のあの格好だった。
いや、でも夏油も硝子ちゃんもあんな腕章着けてなかったな…?
やっぱアレ?原作とは違う未来に進んでる?
もしかして転生者の勝利?それかやっぱり五条悟逆行説?いや待てまだ気は抜けない。
だってそうだろう、理子ちゃん助かったー!って思ったら次の年夏油闇堕ちとかどれだけ支部で読んできたと思っているんだ。
それだけミミナナ事件は地雷。
……今の所夏油は楽しそうにしているけど、来年には居なくなってしまうんだろうか。
仲の良い彼等を置いて、行ってしまうのだろうか。


『────語部さん?大丈夫?具合悪いなら帳の外に出とく?』


落ち着いた声に名を呼ばれ、はっと顔を上げた。
やっべ今任務中じゃん!しかも推しと!!何してんだ私刹那ちゃんの勇姿をしかとこの目に焼き付け────


「」


目の前には綺麗な菫青。語彙が消失した


『語部さん?』


「ダイジョウブ,デス」


『いや、片仮名だな?』


やめて至近距離で見ないで可愛いおめめがめっちゃ綺麗睫毛が長いあー良い匂いふわっと笑うの可愛い髪ツヤッツヤあーーーーーーー好き(ノンブレス)


『大丈夫なら良いけど、もうすぐ準一級とぶつかるから。気は抜かない様に』


「はい!」


『マジで良い返事。五条もそうやって言ったら……いやキモいな?』


「あの性格では無理では?」


『だよね。先輩にも完全見下しモードだしなぁ』


ドォン!!と遠くでエグい音がしたのはきっと気の所為。
刹那ちゃんは溜め息を溢しはしたが、決して其方に顔を向けようとはしなかった。絶対にあれは大規模破壊しましたね。保存要請されてる物以外である事を祈ろう


『この辺りかな?』


「恐らく」


推しと同じ世界に生きている事だけで奇跡なのに、推しと空気を吸って会話まで出来るって神様大判振る舞ってるけどどうした?
私死ぬの?原因は推しとふれ合った対価?え、それならもうちょっと見たいわ。
どうせなら原作軸でも幸せなさしすせカルテット見て死にたい。
脳内でオタクの主張を展開していた私と刹那ちゃんは、遊園地の奥の方に建っている寂れた建物に辿り着いた。
剥げたペンキで辛うじて何だったのか判る程度に劣化した建物から、滲み出る様な濃い呪力が漏れている


『ミラーハウスか。…此処って壊しちゃ駄目リストに入ってなかったよね?』


「はい。特に護って欲しいのは観覧車とメリーゴーランドでした。確か、歴史的観点から博物館に持っていく、とかで」


『博物館に持っていくなら最初から大事にしなよって話なんだけどさぁ。数多そうだし…良し、じゃあミラーハウスは今から水没します』


「えっ」


そんな今からお出掛けしますのノリで水没させるの?
驚く私に前には出ない様にと声を掛け、刹那ちゃんは鉄扇を振るった。ずお、と引き出された水は、朽ちたミラーハウスの上からどぷんと落ちて、建物を閉じ込める様に半球になった。


『これで外はオッケー。じゃあ、水責めしようか』


ぶん、と白銀が空を裂き、そこから引きずり出された水の龍が一直線に水のドームに飛び込んだ。


「助けエエエエエ手エエエエエエエエエエエエエ!!!」


「ぎゃあアアアアアアアアアアああ!!」


「■■■■■■■■■■■■■!!!」


「蜉ゥ縺代※縺医∴縺医∴縺医∴縺医∴縺医∴縺医∴縺医∴縺」縺ァ縺???シ?シ!!!!」


悲鳴がすんごい。
ミラーハウスの壁を突き破った呪霊が水のドームに阻まれてるのが憐れ。あっぷあっぷしながら水の壁をバンバン叩いてる。
あ、あいつが多分準一級。呪力の密度が段違い。いや、壁殴ってるけど。必死だけど。
相手がどうしたって悪役なのに、こうも一方的だと少し可哀想に思えるのは何故だろう。


『助けて?今まで人喰ってた奴が吐く台詞じゃないな』


温度のない声で呟いて、フードを被った刹那ちゃんは印を結んだ


『縛裟・水中花』


パキィン、と高く澄んだ音を立ててドームが一瞬で凍り付いた。
中に居た呪霊も全て凍てついたのか、先程まで響いていた声も消えた。
ピシリ、と鋭い音が走り、氷のドームに亀裂が入っていく。
ミラーハウスだったものが綺麗に崩落し、その残骸で蠢く影がないのを見届けてから、刹那ちゃんは大きく息を吐き出した。


『準一級、祓除完了。…帰ろっか』


「は、はい!」


笑顔を浮かべた刹那ちゃんに後ろから付いていく。これ私必要なかったな?
ただ刹那ちゃんの勇姿を見に来ただけだな?
レベルの違いに虚無りつつ、背筋を伸ばす彼女の背を追い掛けた。


「刹那」


『お疲れ様、悟。どうだった?』


「誰に聞いてんだ、あんなの雑魚だよ」


『ははは…流石最強』


あはは一級が雑魚かー(遠い目)
ぶっちゃけこちとら準一級でバチクソビビったんですけどね?その後水責め見てスンッてなったけど。
遊園地入口で合流した五条はすっと手を伸ばすと、刹那ちゃんの頬に触れた。
そして眉を潜める


「体温下がってんぞ。何した?」


『ミラーハウスを凍らせました』


「あー、凍らせる規模がデカくてって事ね。暖房グッズねぇのかよ」


そう訊ねながらひょいと刹那ちゃんを抱き上げてすたすたと歩き始めたので私は大変びっくりしました。
え?おいせめて行くぞとか言えよ。お前清々しい程刹那ちゃんしか優先しないな?
慌てて付いていく私を他所に、五条は刹那ちゃんに問い掛ける


「カイロとか毛布とか今度から入れとけよ」


『はーい』


…えっ、術式でまさか体温下がってる?
そっか原作とは違ってもう刹那ちゃんは自分の術式を理解してるんだった。あーカイロ持ってくれば良かった…推しの状態把握を怠るとはオタク失格…
しっかり抱え込まれた刹那ちゃんは寒いのか、五条の首に手を触れさせていた。完全に寒い日に暖かい人の首に手を突っ込む図である


『悟体温高いね』


「何時もはオマエの方が温けぇよ。宿戻ったら風呂入れ」


『はーい』


うん、いちゃついてくれるんなら私は空気になります。五刹うまうま。









未だ未熟なれど






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