本当にふざけてはいない夜蛾正道

その授業は悟が任務で居ない日を狙い、再び戻ってきた。


《五条悟育成計画》


真顔で教壇に立つ夜蛾先生。
教壇に置かれた白い猫のぬいぐるみと、黒い犬のぬいぐるみ、そしてクマのあるうさぎのぬいぐるみ。
傑は既に後ろで呼吸困難である。ゲラかな?


「前回、悟の情緒面での成長を促す為に映画観賞会を開く様に言ったな」


『先生、そのぬいぐるみ何ですか?』


「後で説明する」


「先生、今白い猫の尻尾動かなかった?」


「後で説明する」


「無視wwwwwwwwwwwww」


先生がプロジェクターを操作して、スクリーンの映像を変えた。
映されたのは雑な筆記の数々。全てに「さとる」と書いてある時点でお察しである。
おい何で四角にポップな呪骸のイラスト描いた???チューチュートレインを呪骸でやるなとあれ程…


「刹那、これは何を見た感想か判るか?」


でけでん!
いや今の音はなに???


《問一・この感想はどの映画?》


《特級過呪怨霊じゃん早く祓えよ。さとる》


『いや待って???情報少な過ぎでは???』


「映画当てクイズwwwwwwwwwww」


「クソゲラうるせー」


『ヒント!せめてヒント下さい!』


「ラブストーリーだ」


『何処が???????』


「全然ヒントじゃないwwwwwwwwwww」


「あれ絶対動いてるって。尻尾また動いたぞ」


前回以上に授業が酷い。序盤からトップスピード。
爆笑する傑を放置して考える。ラブストーリーで特級過呪怨霊?どういう事?


『ゴーストバスターズ的なのですか?』


〈チガウヨ!〉


「おい何だ今の声。めっちゃ腹立つ」


『えー…じゃあキャスパー?』


〈チガウヨ!〉


「じゃあ千と千尋?」


〈ンナワケネーダロ!〉


「おい待て明らかに今の五条だろ」


『ねぇマジで何が喋ってるの?先生?ボイスチェンジャー使ってんの?』


〈チガウヨ!〉


「ミッキーみたいな声出すじゃん」


〈ナグルヨ!〉


『えっ』


〈チガウヨ!〉


「wwwwwwwwwwwwwwwww」


傑がゲラなのは判りきっているので放置する。果たして私はその観賞会に出たんだろうか。そんなホラーとラブストーリー掛け合わせた映画なんて見た覚えないんだけど。


『じゃあ先生、その時の観賞会一緒に出てたのは?』


「硝子と傑だ」


「先生、さっきの声は?」


「後で説明する」


硝子と共に悩み、そして硝子があ、と声を上げた


「ゴースト?」


〈セイカイ!〉


『え、硝子すご』


「いや待ってwwwwwゴーストを特級過呪怨霊扱いしたのか悟wwwwwwwww」


「ラブストーリーだと前以て知識を与えたのに、何故か特級過呪怨霊を祓う方法を考えていたらしい」


『駄目じゃん』


「そして結局蒼で殲滅するという結論に落ち着いた」


『何時もの事じゃん』


「恋人を護ってるのに守護霊じゃなくて怨霊扱いwwwwwww」


「憐れ過ぎるwwwwwwww」


でけでん!とまた明らかにクイズ番組で流す音を出して、先生は第二問を出題した。
マジで疲れてるんだよ先生…


《問二・この感想はどの映画?》


《大体鏡の所為じゃん割っちまえ。さとる》


『だから!!内容が!!判りません!!!』


「wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」


「待ってwwwwwww鏡何したのwwwwww」


「ヒントはディズニーだ」


『はい白雪姫!!』


〈セイカイ!〉


「急にわかりやすいwwwwwwwwww」


「セイカイ!じゃねぇよwwwww早押しクイズかwwwwwwww」


いや確かに鏡がお妃様の前で白雪姫褒めたのが原因だけどさ?何で白雪姫観た感想がそれ?王子のキスシーンとか小人とか毒リンゴとかもう少し書く事あったよね?なんで鏡??


「慣れて来たな。次だ」


だからでけでん!じゃねぇよこの時間なに?何の授業なの?私達クイズ同好会だっけ???


《問三・この感想はどの映画?》


《もうそのクソガキ捨てとけ。つーか死んでねぇ?祓えば?さとる》


『ねぇ判る訳ないじゃん。何でこんなの問題にするの?先生ちゃんと寝てる?』


「最近徹夜が多い」


『寝て?』


「wwwwwwwwwwwwwwwwwww」


「もうやめてくれwwwwwwwwwwww」


「ヒントはジブリだ」


『ジブリのクソガキって?』


「ジブリのwwwwwクソガキwwwwwww」


ゲラが使い物にならなくなった。
なのでもう硝子と考える事にする。


『クソガキって事は男の子?カンタ?』


「パズーはクソガキ?」


『ハウルはガキに入るの?』


「ハクってガキ?神様?」


「ジブリでwwwwクソガキ探しwwwwww
おえwwwwwwwwwwwww」


「うるさいぞ傑」


「だからなんで真面目に授業できるのwwwwwwwwwwwwwww」


マジで後ろのママがゲラ。
ひいこら言ってる傑をフルシカトして硝子の隣に椅子を持っていった。
丁度真正面に来た白猫のぬいぐるみと目が合った気がして、じっと見てみる。
ふっかふかの猫。パッと見本物だ。
正直ぬいぐるみかなと思ったのは、見た目があまりにも夜蛾先生が描いたさとるっちだったから


『小さいサングラスしてる。可愛い』


〈アリガト!〉


「ねぇそいつ呪骸?センセ何仕込んだの?」


「後で説明する。お前は少し黙っていろ」


〈セイカイ!!オレ ジュガイ!!〉


「言う事全然聞かねぇじゃん」


とうとう白猫は尻尾を大々的に振り始めた。言う事聞かない辺りが物凄く悟っぽい。


『先生、クソガキのヒントは?』


「言う事を聞かない」


「五条じゃね?」


〈ブットバスゾ!!〉


『猫ちゃんめっちゃ物騒』


〈オレ ネコダヨ!!カワイイヨ!!〉


「猫が猫被ってるwwwwwwwwwwwwww」


「夏油うるせー」


ジブリで言う事を聞かないクソガキ…?
いやほんと誰?しかも死んでるの?どういう事?


『シータ?』


〈チガウヨ!〉


「ジジ」


〈ネコダヨ!〉


『じゃあキキ?』


〈チガウヨ!〉


『判った、あの子だ。あの、ほら、妹。何だっけ、トトロの』


「トトロの妹?……ああ、めい?」


〈セイカイ!!〉


正解だった。え、めい死んでるの?
びっくりしていれば硝子がああ、と思い当たる事があるのか頷いた


「そういやネットで見た事あるよ。ネコバスに乗ってから?だっけ?さつきとめいの影がないんだって」


『え、マジで死んでるじゃん』


「子供の心情と成長を見せた筈なのに、悟は何故かめいとさつきを呪霊として認識していた。トトロも呪霊だった」


『職業病ですかね』


「wwwwwwwwwwwwwwwwwww」


「これらはほんの一部だ。そして此方が何とも言い難い感想一覧だ」


スクリーンに映された淡々とした文章に、私と硝子は揃ってしょっぱい顔になった


海の動物のドキュメンタリー
《刹那がペンギン喰ってた。ウケる。さとる》


『私はペンギンを喰った覚えはないんですけど』


「シャチが刹那に見えたそうだ」


「なんでwwwwwwwwwwww」


王蟲が出るジブリ
《かずがおおくてきもちわるい。スプレー効く?さとる》


「扱いがゴキブリじゃね?」


「外だからバルサンは無理、と結論付けたらしい」


『アイツすぐバルサンするwwwwww』


ディズニーの人魚系
《そんなヤリチン刺せば一発だろ。なんで刺さねぇの?縛り?さとる》


『いや、好きだから刺せないんですけど…』


「王子は何でヤリチン決定してんの?」


「女子が卑猥な言葉を多用するな。誰にでも甘い顔をする辺りタラシ、と書いてある」


『それは何処かのママでは?』


「あー、クズか」


「ん???????」


『「ごめーんね☆」』


呪いのビデオ系ホラー
《見たら呪われるって判ってて何で見るの?それ絶対呪物だろ?幾ら非術師でもなんかやべぇってビデオ見て思わねぇの?馬鹿なの?見るなよ。自衛手段ねぇのに見て呪われて死にそうになって焦る猿ってほんと何なの?
しかも何で他の奴巻き込むの?一人で死ね。自業自得だろ諦めて死ね。
せいぜい七日間悔いのない様に生きて死ね。呪霊を生むな。
俺なら絶対傑達に見せねぇし、見る前にビデオ潰す。さとる》


「ホラー系だけ一気に感想が増えたな」


「しかもwwwwwしれっと私達にデレてるwwwwwwwww」


『ママ、笑うか喋るかどっちかになさって』


「なさってwwwwwwwwwwwwwww」


「クソゲラだな」


〈セイカイ!〉


「正解だった」


『ウケる』


夜蛾先生が溜め息を吐いた


「現状映画観賞会の結果は微妙としか言い様がない。そもそも悟の着眼点がズレているのだ。何故白雪姫で鏡に注目する…?」


『多分姫より俺の方が可愛いとは思ってる筈』


〈セイカイ!〉


『正解だった』


「ウケる」


「wwwwwwwwwwwwwwwww」


「次のページを開け」


先生に従い資料を捲り、背後で傑が噴き出した


《しすせの三人以外と関わったさとるっちの感情グラフ》


やめろ棒グラフに全部不快って書くな。グラフに火の背景を入れるな。ネズミを焼くな。やめろ猫、テディベアを噛むな綿が出てる。
怒(死)怒(死)怒(死)ってなにこれドとシの演奏かよ。他の感情ないの?悟は怒りに纏わる感情しか抱けない縛りでもあるの?
これはあんまりだ悟がただのバチキレサイコじゃん


『先生、これはあんまりでは?』


「下を見ろ。その文章はお前達が居ない時の口撃記録だ」


「記録って」


ブチキレた白猫が描かれた部分に目を向けて、目が死んだ


《さとるっちの口撃記録より一部抜粋》


補助監督・男
《おはようございます、五条さん》


さとるっち
《早く出せ。五分で着かなきゃマジビンタ》


「うわパワハラ」


二級術師・男
《おはようございます、今日はよろしくお願いします》


さとるっち
《雑魚が気安く話し掛けんな。失せろ》


『………oh』


一級術師・女
《お久し振りです五条さん!今日はよろ》


さとるっち
《ハイハイ挨拶とか良いから黙れ。離れろ。香水キツいんだよオバサン》


「……クズだな」


補助監督・女
《五条さん、》


さとるっち
《寄るな。呼ぶな。キショイ。声が無理。ねぇ知ってる?声が無理って事は生理的に無理って事らしいよ。チェンジで》


『ホステスじゃないんだからチェンジは無理』


〈セイカイ!〉


「さっきからこの合いの手要る?」


「wwwwwwwwwwwwwwwwwww」


「これもほんの一部だ。まだまだ記録はある」


『……なんか女性に当たりが強くないですか?』


「確かに。アイツってそんなに女嫌いだっけ?」


読んだ感じ女性が言葉を遮られたり、より直接的な口撃を受けている様に見える。
何故だろう、別に外でも女の人を毛嫌いしてる様には見えないんだけどな。そもそも女性が無理なら私と硝子も無理では?
私の質問に夜蛾先生が額を押さえた。


「……悟が嫌いな事は判るか?」


「ん?弱い奴と組まされる?」


「それもあるが、それではない」


『じゃあ煽られた』


「それもあるが、それではない」


「菓子食われた」


「それもあるが、それではない」


『洗濯物傑のと間違って部屋に置いた』


「それは知らん」


「ああ、あれは怒ってなかったよ」


『そっか』


じゃあどれだ?あいつ割と嫌いな事多いよ?
硝子がすっと教壇に手を伸ばした。
猫がすっと避けた。硝子が舌打ちした。


「はー、笑った……違うよ二人共、悟を怒らせるにはもっと簡単な事があるだろ?」


〈ソウダヨ!〉


「悟の声でwwwwwwwwミッキーのマネwwwwwwwwwwwwwww」


〈ブットバスゾ!!〉


「もうむりwwwwwwwwwwwwwwwwww」


まともになったママが一瞬で駄目になった。しかし傑のヒントは正確だったらしい。
先生が深く頷いたので、もう一度口撃記録を読み込んでみる。
口撃しているのは女性ばかり。何だろう、女性がしがちな事?


『先生、これって冒頭食らわせてます?それともある程度会話してからの口撃?』


「場合によるな。一級術師は前回の会話が悟の脳内に残っているし、補助監督の場合はある程度会話してからの方に入る」


会話の中で、多分悟に取り入りたい女性がしがちな事……あっ。


『あー、じゃあ判った』


「え、マジ?」


『多分』


目を丸くした硝子に頷く。いや、これアレだ、外してたら滅茶苦茶恥ずかしいけど、悟だからこそ有り得る。


私達と、五条悟であるからこそ有り得る事、それは。


『これ、もしかして私達の事悪く言いました?』


〈セイカイ!〉


「ふふふ、流石悟検定特級。ちゃんと判ったんだね」


「……あー…アイツ私らの事好き過ぎない?」


『硝子も判ってたでしょ』


「判ってても言いにくい事ってあるだろ」


〈ハズカシイ?ハズカシイノ?ネエネエハズカシイ?〉


「燃やすぞクソネコ」


あ、硝子のほっぺちょっと赤い。かわいい。くすくす笑えば恥ずかしいのか硝子に抱き締められた。わーい役得。
きゃっきゃしてれば復活したらしい傑が先生に質問していた


「先生、その呪骸達は?」


「……ある日、山が一つ吹き飛ぶのと壊すなと言ったにも関わらず建物が倒壊するという被害が同時発生した」


「へぇ、それは大変でしたね」


「五条悟という問題児が山を、夏油傑という問題児が建物を壊した」


「それはひどい話ですね」


相槌打ってる奴が元凶。
深い溜め息を吐いた先生が、何時の間にか教室の窓辺で日向ぼっこしている黒い犬のぬいぐるみとクマがあるうさぎのぬいぐるみを見た


「あまりにも疲れ、胃の痛みに耐えきれず、俺は呪骸を作った」


「いや、休めよ」


「気付けば教え子にそっくりな呪骸が出来ていた」


「寝ろよ」


「最初に出来た呪骸にさとるっちと名前を付けた途端、何故か意思を持って動き出した。さとるっちは破壊が随分と得意だった。おまけに良く喋る」


『マジで突然変異じゃん』


「次に作ったすぐるっちは物静かだが、人捜しが異様に得意だと気付いた」


「すぐるっちwwwwwwwwwwwwww」


「しょうこっちも無口だが、反転術式を僅かに使える事に気付いた」


『しょうこっちやばいwwwwwwwwwww』


「そして最後に────せつなっちを作った。だが……」


そこで悲痛な顔をした先生は、白猫に目を向けた


「これはせつなっちではない、と叫び、さとるっちが作る度にせつなっちを引き裂くのだ」


「wwwwwwwwwwwwwwwwwwww」


「マジで生贄wwwwwwwwwwwww」


「お陰でせつなっちは四号機まで製造され、その度にさとるっちの牙に掛かった。俺はもう、どうすればせつなっちを救ってやれるのか判らんのだ……」


「やめてwwwwwwwwwしぬwwwwwwww」


「むりwwwwwほんきかこいつwwwwww」


『おい。私は何処から突っ込みを入れれば良いんだ????』


救いたいならもう作るな。そして寝ろ。先ずあんたに必要なのは睡眠だ。頼むから寝ろ。寝て?寝てくださいお願いします。
そしたらきっとせつなっち達も報われるから。ぶっちゃけせつなっち達はあんたがムキになって作った所為で生まれた犠牲者だから。
爆笑する親友達、嘆きの海に沈む先生、虚無る私。〈イケニエ〉と鳴く猫。日向ぼっこする犬とうさぎ。ただのカオス。
おい誰か助けろ、マジで。












あれから五分。
何とか落ち着いた先生は咳払いした。


「五条悟育成計画の経過報告を続けるぞ」


『今日はもう止めません?傑が笑いすぎて死にました』


「この機を逃すと次は二週間後になる。子供の成長は早いんだ、リアルタイムでの情報共有は何より重要だろう」


「マジで五条をバブちゃん扱いしてんな」


〈ブットバスゾ!〉


『さとるっち、大人しくしてようねー』


〈ワカッタ!〉


「テディベアにだけ素直なのムカつくな」


『硝子?それを知らない内に四号機まで製造されて殺され続けた私に言うの???』


「目がマジじゃんwwwwwwwww」


硝子がケラケラ笑う。傑はもう笑いすぎてピクリとも動かなくなった。死因:笑いすぎによる酸素欠乏とかダサい事この上無い。
ぶっちゃけ知らない内に自分と同じ名前のぬいぐるみをひたすら引き裂かれるとか、なんとも言えない気分である。
そしてあの猫、多分私をせつなっちだと認識している。めっちゃ此方見てる。私をぬいぐるみだと思っている。やめろ私は人間だいい加減にしろ


「お前達には言っていなかったが、悟にはノートを渡してある。用途は自由、好きに使えと伝えてあるものだ」


そう言って先生が出したのはB5サイズのノートだった。
明らかにジャポニカ。学習帳じゃなくて自由帳?どっちでも良いよいい加減にしろ


『先生、それ悟ブチキレませんでした?』


「は??????とは言った」


「キレてんじゃんwwwwwwwwwwwww」


「因みにこれを俺達が盗み見ている事がバレたら校舎が消える。資料の取り扱いには注意しろ」


「命懸けwwwwwwwwwwww」


硝子がばんばん机を叩いた。
流石にジャポニカ渡されたら悟も怒るわ。良く破らなかったな。悟というよりもう夜蛾が煽りに行ってる


「最初こそ落書きなどで埋まっていたが、ある程度すると急に細かく書き込まれる様になった」


ぺらぺら捲っていた手が止まる。


「資料の17ページを開け」


載せられているのは細かい文字でびっしりと埋まったノートだった。
そこに書いてある文章を読み、硝子がにんまり笑った


「月曜日はカナちゃん」


『火曜日はミズキちゃん』


「水曜日はユウカちゃん」


「まっっっっっっっっっっって????何で??????????」


過去一混乱を極めているママの声に爆笑した。そう、書き込まれているのは傑の情報である。
身長、体重は勿論、趣味や癖まで。
そして一番ヤバいのは、曜日と共に羅列された女の人の名前だろう


「やべぇなお前。曜日毎に女居るの?」


「違うよ?その曜日に良くお茶する友人の名前だよ?」


『第二金曜日のマミちゃんは?』


「子持ちのママさんだよ。良く相談に乗ってるんだ」


「浮気男の堂々とした言い訳見てる気分だわ。クズだな」


「何の事かな??????」


『……いや、うん。まぁ………刺されない様にね?』


胡散臭い笑顔で圧を掛けてきたので、結局傑のオトモダチに関しては見なかった事にした。
というかどうやって調べたの、これ


「次のページに行くぞ」


先生これ見た時どんな気分だったの?高校生が女性複数人とオトモダチ(意味深)ってどう捉えてるの?
次のページには硝子の情報が載っていて、本人がドン引いた顔になった


「アイツどうやって調べたの???」


『歴代彼氏の名前が…』


「ユウト、タケル、コウキ、サトシ…おや硝子、コウキとサトシの時期が少し被ってるんじゃないか?」


「被ってねぇよ。サトシはコウキ捨てた三日後だし」


『めっちゃモテるね。流石硝子』


「ありがと。アンタもモテても可笑しくないんだけどね…」


えっ、なんか憐れむ目を向けられた。
彼氏は別に欲しいと思った事ないから良いけど。その目はめっちゃ気になる。


「次のページ」


此処まで来ればあとは簡単、私のページである。
しかし、それを見た瞬間に目が死んだ。資料を閉めた


『こわいこわいこわいこわいこわい』


「いや待って?スリーサイズだけじゃなくて指の長さまで書いてあるんだけど」


「悟……これは、犯罪では…???」


私の名前、身長、体重、誕生日、血液型は勿論、指の長さから足首の太さまで記録してある。


いやこっわ。


私の腰骨がお前の人生に関係あるのか?足の指の長さが今後参考になるのか?首の太さが生きていく上で影響するのか?手の甲の骨の長さを知って得するのか?睫毛の長さと本数を知って意味があるのか?ないだろ。やめろ。調べるな。書くな。記録を取るな。私は標本じゃないんだぞ。
これは控えめに言って怖い。突き抜けてやがる。純粋に怖い。


「先生、ヤンデレ予備軍の相談って何処です?警察ですか?」


真面目な顔をした傑の問い掛けに、夜蛾先生はゆっくりとこう言った


「人身御供という言葉を知っているか?」


『おいふざけんな私を生贄にする気か?????』


「厳密に言うと、お前達全員が生贄だな」


「「『教師がクソ』」」


全員の心が一つになった瞬間である。
しかし夜蛾正道はめげなかった


「まぁ落ち着け。次のページを見れば少しは心境も変わる筈だ」


いや、ヤンデレ予備軍をまざまざと見せ付けられた後に何を見ろと?
恐る恐る資料を開く。


《────夏油傑》


《俺の親友。善悪が自分の中でしっかり定まってんのすげぇと思ってる。やさしい。オマエはママ。
ほんとはコンビニに行ったの、オマエに連れてって貰ったのが初めてだった。駄菓子屋も初めて。友達もオマエが最初。
直ぐ喧嘩になってマジで死ねって思う時もちょいちょいあるけど、つるんでんの楽しい。本気で死ねって思いながら喧嘩出来んのは、俺と同じでオマエも最強だから。
喧嘩して直ぐ仲直り出来るのは、傑が合わせてくれてるからだよ。何時かちゃんとお礼を言うんだよって刹那に言われた。ありがと。その内ちゃんと言う。
クソ真面目だから術師として生きてくのはしんどいかも知れねぇけど、ずっと俺達と一緒に笑っててほしい》


そこには笑顔の傑が描いてあって、端に小さく文が書いてあった。
ごん、と背後で硬いものをぶつけた音がした。先生が合掌した。私と硝子もそれに倣う。安らかにお休みください。


「いやだ私まだ死にたくない」


「次のページ」


段々先生が死刑執行人に見えてきた。
ぺらり、紙を捲る


《────家入硝子》


《俺の親友。酒もタバコも似合ってんのがカッコイイと思ってる。
反転術式を他人に使うのは多分、術式で祓う俺達とは違うしんどさがあるんだと最近思う様になった。猿の傷を見ねぇといけねぇ訳だし。見捨てるのは多分、硝子的にはナシなのかも。
しんどいのを傑にも刹那にも気付かせてねぇっぽいのも、ほんとはすげぇんだって気付いた。流石パパ。
傑と喧嘩した時と任務で怪我した時、ダッセーって言いながら怪我治してくれんの助かる。言わねぇけど。いや、何時か言う。多分。ありがと。
これからも俺達とずっと一緒に笑っててほしい》


にっと笑った硝子の絵と、添えられた文章。
隣で静かに硝子が死んだ。先生と共に合掌した。安らかにお眠りください。


『先生、いやだ。死にたくない。私はまだ死にたくない』


「現実を受け止めろ。次のページ」


『あああああああああああ』


先生がページを捲る。
いやだ、死にたくない。
死刑執行人は私の訴えを無視してスクリーンにそれを映した


《────桜花刹那》


《俺のテディベア。優しくて明るい性格に癒される。抱き心地が良い。
一緒に居ると心臓がぽかぽかするから何で?って聞くけど、いつも恥ずかしがる。かわいい。もっといろんな顔が見たい。今のトコ一番好きなのは、ふにゃって溶けたみたいに笑う顔。多分その内溶ける。
俺が刹那に感じる愛は、傑と硝子に感じる愛とは違うんだって。わかんね、オマエがテディベアだからじゃねぇの?
つーかたまにはオマエからぎゅってしてほしい。俺からばっかりって不公平だろ。何で傑と硝子ばっかり抱き締めんだ馬鹿。
そういや傑から、かわいいって思う女にはブチ犯すぞって簡単に言うなって言われた。言われたら刹那が悲しい気持ちになるんだって。気を付ける。ごめん。
真面目だからしんどい事も多いかも知れねぇけど、これからもずっと傍で笑っててほしい》


ふにゃっと笑った私の絵と、丁寧に書かれた言葉。
無事に私も死んだ。
生徒三人が死ぬ教室で、先生が静かに手を合わせていた。









順調に成長中…?






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