先輩(人間歴一年)だよ

「灰原雄、三級術師です!宜しくお願いします!」


「七海建人、三級術師です。宜しくお願いします」


にっこにこなのと無表情なのと、まぁ見事に真逆な二人組だなと感心した。
今日は高専の敷地内にある桜の傍で花見をしたいと悟が言うので、私達はレジャーシートを敷いていた。
其処に、任務終わりの傑が一年生を連れてやって来たのだ。


「家入硝子、宜しく」


『桜花刹那です、宜しく』


「……五条悟」


私と硝子の間に挟まれた悟が滅茶苦茶不機嫌そうな顔で名乗った。
うん、名乗っただけでも十分な進歩だ。初見で術式バラして貶さなくなっただけでかなりの成長。
知らない人の術式を初対面でバラすな。どんな人にも名乗られたら名乗りなさい。一年生は右も左も判らないバブちゃんだから、三回我慢してから口撃しなさいとママが言い聞かせた甲斐があった。あ、ママが泣きそう。


『良し、その調子だよ悟。はい桜餅』


「食わせて」


『ほれ』


ぱかっと開かれた口に桜餅を突っ込む。むふーと嬉しそうな顔をしているのが可愛い。顔が良いって得だね


「偉いぞ五条。やりゃ出来んじゃん」


「だって俺最強だし」


『そうだね。悟は出来るけどやってないだけだもんね』


「ウン」


『ちょっとはやってみない?』


「みない」


『みないかぁ』


「夏油、桜餅要るか?」


「三つ貰えるかい?」


『どうぞー』


私が悟の世話、硝子が悟の頭を撫でつつ傑と会話、そして傑が一年生を此方に溶け込ませる。今はレジャーシートの端に座る形だが、まぁ少しすれば悟も慣れるだろう。
悟は私達以外には塩どころかツンドラ対応だが、一応他人と対話だって出来るのだ。ただ、相手との相性が悪いと帰ってきてからの暴言が凄いが。
更に言うと対話が超豪速球ドッジボールだったりするが


「今年の一年は何人なの?」


「えーと、確か三クラス分は居ました」


「一クラス約三十人ですので、九十人程度かと」


『今年も沢山入ったねぇ。悟、何飲む?』


「コーラ」


『傑と灰原と七海は?何飲む?色々あるよ』


問い掛けた瞬間に隣がちょいむすになったので、すかさず硝子が白い頭をぽんぽんした。機嫌が治った。ナイスアシスト。
硝子が任せろと小さく笑った。うん、私のパパ格好良い。
コーラを用意しつつ、悟をちらりと見る。
んー、見た所機嫌は悪くない。でも相手がどういう人間か判らないから、警戒してる。
というかこれは、悟的には七海達はどうでも良いんだけど、傑が優しくしているから様子見しているが正しいな。
そしてあまり一年に構い過ぎると悟がヤキモチ妬くパターン。要注意。
そしてそれを傑は悟っている。視線を投げれば笑顔で頷かれた。流石ママ。


『はい悟、コーラどうぞ』


「さんきゅ」


サングラスをかけ直した悟がコーラを飲みつつ私の袖を握っている。その時点で私が悟のお世話係になるのが決まり、硝子が飲み物の入ったグラスを手に灰原と七海に近付いた。
因みに傑は一年二人を然り気無く、一歩近くに誘導している。
これは完全に、何時か見た五条悟育成計画のイラストの状態。夜蛾正道は予言者だった…?


「五条先輩は凄い強いんですよね?呪霊相手に苦戦した事ってありますか?」


無邪気な顔で訊ねてきた灰原にサングラスの奥で一瞬鋭く目を眇めたものの、他意はないと判断したのだろう。
険の抜けた表情で悟はゆるりと首を傾けた。それからポツポツと言葉を落としていく


「あー……ねぇかも。特級相手の時に、祓えたけど骨が折れた。多分、大怪我はそんくらい」


「えっ、特級!?祓ったんですか!?先輩凄ぇ!!」


「エッ」


滅茶苦茶尊敬します!!という視線を向ける灰原。
思ってもなかった反応だったのか、サングラスの奥の悟の目が真ん丸になった。まさに初めて見るものに戸惑う猫。ウケる。
笑っていると腕を引かれ、悟に抱き込まれた。
単純に盾が欲しかったらしい。困惑がありありと浮かぶ悟の頭をぽんぽんする。
大丈夫、なんにも怖くないよ。焦らなくて良いよ。テディベアが居るだろ、安心しろ。
暫くすると落ち着いたのか、少しだけ肩の力が抜けた


「おお、これは良い反応では?」


「刹那を外すのはまだ無理だけど、裏表のない灰原なら素直な後輩役にピッタリだろう。それに彼には妹が居るらしいから、年下の扱いは慣れているさ」


「ああ、だからか。距離の詰め方が上手いと思った」


「…夏油さん、五条さんは年上では?」


「悟は特殊な環境で育ってきたからね。術師としては最強でも、人間としては今年で一歳だよ。七海もそういうつもりで接してあげてね」


やめろコソコソ話してんの全部聞こえてるんだよ。一歳だよは笑っちゃうだろやめろよ傑。
悟は今灰原にタジタジだから聞いてないけど、これ聞いてたら即スマブラだぞ。


「因みに悟は君達一年生の事を0歳のバブちゃんだと思ってるから、三回はイラッとしても我慢する様に頑張るよ。
でも悟なりに頑張る、だから。許容量を越したら一回でキレるから気を付けて」


「夏油さん、貴方子育てでもなさってるんですか?」


「それ言うなら私らアイツの親みたいなモンだよ。最近パパママ扱いされるからな」


「…夏油さんは」


「ママだよ」


「………家入さんは」


「パパだ」


「………フーーーーーーー。…ええ、性別の反転に付いては問いません。そういう事もあるんでしょう。では、桜花さんは」


「あの子は私と硝子の娘。そして悟のテディベア。
ああ、悟が機嫌悪くてどうしようもなかったら刹那を渡しな。あの子を抱えただけでバチキレカチカチすじこ丸からちょいむすぐらいに治まるから」


「五条さんはおにぎりの具か何かですか?」


「おにぎり?僕お米大好きです!!」


「そう、じゃあ今度おにぎりパーティーでもしようか。悟、好きなおにぎりの具はある?」


さらっと傑がフレーメン反応みたいな顔してる悟を会話に混ぜた。
ぴくりと大きな身体が小さく跳ねる。
私をぎゅうっと抱えたまま、悟はサングラスを少しだけずらした。


ああ、私達の顔が見たいのか。
こういう下の立場の人間からの、純粋な称賛に慣れていないから。


悟から見やすい様に、自分から綺麗な蒼を覗き込んで笑ってみせる。
光を乱反射する蒼は私をじっと見て、それから灰原を見た。
灰原は悟と目が合うとにこっと笑った。良し、対応百点。
悟は暫し固まって、それからにじり寄っていた傑達に目を向けた。何時の間にか普通に桜餅を囲む距離である。隠密のプロかな?
傑と硝子が笑って、七海も表情はぎこちないが微笑んで会釈する。あれは多分七海の一歳児への対応。困惑がアホほど滲んでてウケる。


「……………、」


悟は皆を見て、それからまた私を見た。
ぱちぱちと瞬く蒼ににっこりと笑って頷いてやる。


大丈夫、なんにも気にしなくて良いんだよ。慣れてないんだから戸惑うのは当たり前。焦らなくて良いよ。


「………ふはっ」


軈て、悟の表情がふわりと溶けた。
風が真っ白な髪を揺らし、薄紅色が舞い踊る


「……俺、天むす?食べたい。四人で食った、あれ。俺あれ食うの初めてで、あん時めちゃくちゃ美味かったから」


「………良いとも。皆で作ろうね…」


「夏油、空を仰ぐな…」


「家入さんも心臓を抑えていますが」


「あはは、先輩達大丈夫ですか?」


傑が静かに天を仰ぎ、硝子が胸を抑えている。
もうほんと呪術師すぐ死ぬ…呪霊なんて汚いものばっかり見てるから…


「???おい、オマエのパパとママ苦しんでんぞ」


『可愛いものを見るとね、最近すぐ死ぬの』


「は?????」









保護者をどんどん増やそうね








七海、灰原は三級スタートという設定です。
星漿体の後に二級になるのかな、と。

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