場には松に鶴、紅葉に青短、菖蒲に赤短、牡丹に蝶、菊に盃、カスが三枚。
私の手持ちは場に出た絵柄と関係無いカスばかりで、唯一取れそうなのは青短だけ。ふざけんな猪シリーズを手札で揃えてどうする。これほんとに札シャッフルした?
「刹那、私は次に九月の札を狙うね」
『えっ、待って。遠回しにお前負け確なとかやめて』
「私もう満月持ってるんだ。刹那タネもカスも出来ないでしょ?」
『出来るかもよ?これで役作るかも』
「青短集める前に勝ち逃げするね」
『こいこいしないの?』
「無駄な勝負を長引かせる意味はあるかな?」
笑顔が腹立たしい。
『なんで?なんでそんな意地悪言うの??』
「刹那が弱いから」
『真正面から侮辱するじゃん』
胡散臭い笑みを浮かべる傑に呻きつつ、柳のカスを取った。
山札を捲っても場に増えただけ。傑がにっこり笑った。
「はい、月見で一杯。こいこいナシで」
『うう……』
「また負け?刹那弱っ」
「刹那はね、絵柄で決めすぎだよ。鶴とか狙わなくても短冊でも勝てるって忘れてない?」
『悟はしょっちゅう五光してくる…』
「運ゲー雑魚過ぎじゃない?」
硝子に雑によしよしされた。
何でだろうね、私カードゲームめちゃくちゃ弱いの。手札が高確率で雑魚だし。強いの持ってると思ったら揃わなくて場の肥やしにしかならないし。
なんなの?カードゲーム弱い天与呪縛でも持ってんの?
「悟はね、わざとこいこいしておきながら場の絵柄札掻っ攫っていくんだよ。しかも刹那が役を作る為に必要な絵柄ばっかり狙う。
つまり刹那の手札の大体の予想とか立ててるの。頭の無駄遣いだね。
それで刹那を苛めてニヤニヤしてる」
「それはクズ」
『一撃で潰すクズとこいこいして希望をちらつかせておきながらネチネチ潰してくるクズ、どっちがクズ?』
「どっちもクズ」
「心外だな。私は刹那だからサクッと潰すんだよ。勝てないのにこいこいしても可哀想だし」
「最低だな」
「逆に悟も刹那だからネチネチ潰してくるんだよ。どうでも良い相手なら一撃で潰すタイプだろ、アイツは」
『最低だな』
つまりどっちもクズ。
札を集めてこれでもかとシャッフルする。
それから札を配り、自分の手札を見た所で机に放り投げた
『ふざけんな!!だから!!シリーズで手札をコンプするな!!!』
「新手のマジックかよwwwwwwwwww」
「天与呪縛かなwwwwwwwwwwwww」
『え?カードゲームの運を失った代わりに私は何を得たの?呪力?鉄扇?』
「五条に執着される権利じゃね?」
『投げ捨てたい』
「可哀想に、悟泣いちゃうよ」
『めっちゃ良い笑顔ですねママ』
「楽しいからね」
『うん……皆が笑ってるなら良いよ…』
「泣かないでテディちゃんwwwwwwww」
「元気出してテディちゃんwwwwwwwww」
『お前らやっぱどっちも笑わないで????』
ケラケラ笑う奴等を尻目に札を切り、傑の分をそっと置いてやる。
何気無く捲った傑が爆笑した
「なんでwwwwwwwwなんで私の札で五光決めるのwwwwwwwwwwww」
「どういう原理だよそれwwwwww」
『硝子も道連れにしてあげるね』
もういい。お前らの腹筋痛め付ける。
先程と同じ様に札を置く。それを表にした硝子が突っ伏した
「鹿シリーズコンプすんなwwwwwwwww」
「どうなってんのwwwwwwwwなんであれだけ混ぜたのに揃えるのwwwwwww」
『今度皆でカードゲームする時は私が配るね』
「終わらねぇじゃんwwwwwwwwwww」
「地獄宣言wwwwwwwwwwwwwwwwww」
『クソゲラ共め』
マジでこいつら笑いすぎでは?
口を尖らせつつ煎餅を齧る。甘じょっぱい煎餅を咀嚼しながら何気無く窓の外を見ると、白い塊が動いているのが目に入った。
何だあれ、悟?いや違うな、さとるっちだ。
『さとるっち?何してんの?』
〈せつなっち!!!!〉
『刹那だね。せつなっちではないね』
〈せつなっち!!!!!〉
『人の話全然聞かないじゃん』
此方を見上げた白猫がぽとっと落としたのは、黒いテディベアだった。待って、テディベア首が裂けてる。
やめて、虚ろな目で此方見ないで。片目飛び出してるしなんなら下半身も綿で繋がってるのみ。腕が白猫の後方にぽとりと落ちていた。
なんで?なんでそんなエグい事するの?テディちゃん可哀想じゃん此方見ないで。
アニマルホラーなんて新ジャンルは要らない
「まってあれせつなっちかwwwwwwwwwwしんでるwwwwwwwww」
「おいクマこっちみんなwwwwwwwwww」
〈コレ ニセモノ!せつなっち!オイデ!〉
「ねこがよんでるwwwwwwwwwww」
「ニセモノwwwwwwwwwwwww」
『マジで恨むぞあのヤクザ』
〈オイデ!!!〉
「意地でも呼ぶwwwwwwwwww」
〈オイデ!!!!!!!〉
「何度でも呼ぶwwwwwwwwwwww」
『いや猫、お前が来い』
〈ワカッタ!!〉
「来るんかいwwwwwwwwwwww」
「せめてせつなっち拾ってきてwwww」
まさかの空中を駆け上がってきた猫に全員が目を丸くした。嘘でしょ、この猫無限使えるの?
確かにしょうこっちが反転術式使えるっていうのは聞いてたけど、さとるっちもなの?
〈せつなっち!!!〉
『やっほーさとるっち。夜蛾先生は?』
〈ナイテタ!〉
「じゃああれせつなっち五号機かwwwwwwwwwww」
「懲りねぇなwwwwwwwwwwwwww」
『目の前で裂いたんか…』
〈アノクマ せつなモドキ!!〉
「あのクマwwwwwwwwwwwwww」
「モコナモドキみたいに言うwwwwwww」
『二人ともずっとゲラじゃん』
窓から飛び込んできた白猫を抱え上げ、笑いすぎて蹲る二人を冷めた目で見る。いや、多分私も笑えてたのよ?自分の名前のぬいぐるみじゃなければ。
でも流石にせつなっち五号機大破は笑えないわ。寝て先生。今すぐ寝て。もうせつなっちを犠牲にするのやめて。
〈せつなっち アソボ!!〉
『何すんの?』
〈スグルデ スベリダイ!〉
『判った。背中からびゅーんって行くか』
「wwwwwwwwwww」
「まってwwwwww私はスグルなのwwwwそれなのに刹那はせつなっちなのwwwwwwwwwwwwww」
『おい気付くなよ。スルーしたのに』
もういい。お前らで面白映像録って任務中の悟に送りつける。あいつの腹筋も痛め付けてやる。連帯責任。
ケータイを丁度良い角度にセットして、プルプルする黒いクズの首もとに白猫を置いた。
『離すよー』
手を離した瞬間、サングラスを掛けた白猫が男子高校生の背中をびゅんっ!!!と滑り落ちていった。めっちゃ速い。一瞬かよ
「wwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
「もうやめてwwwwwwwwwwwwwww」
〈モウイッカイ!!〉
『いいよー』
「もうwwwwwやめてwwwwwwwwwww」
〈オレモー!!〉
〈オレモー!!〉
〈オレモー!!〉
〈オレモー!!〉
「『「ん?????」』」
思わず三人で顔を見合わせた。
なんか声が多かったな?なんで??声がした方に目を向けて、顔が引き攣るのを感じた
「……ねぇ刹那、太股の辺りから猫が出て来てるよ。手品?」
『…鉄扇ってホルスターに入れてても私が触ってる判定なの?私はホルスターだったの?』
「それかそのホルスターがアンタの呪力を通す様に出来てるんじゃないか?五条が刹那の為に作らせたんならそのぐらい有り得るだろ」
〈ソウダヨ!〉
〈セイカイ!〉
〈ネコダヨ!〉
〈フエルヨ!〉
気付いたら猫が太股の辺りで反復横跳びしてて、滅茶苦茶に頭数を増やしていたらどう対応すべきなのか。
いやこれ普通に怒られるな?先生にバレたらヤバいよね?
どうするかと猫を抱え上げると、滑り台になっていた傑が笑った
「よし。どうせ怒られるなら、遊ぼうか」
夜蛾正道は嘆きの底に居た。
原因は襲い来る任務と最強コンビの引き起こす問題に耐えきれず作っていた教え子のぬいぐるみを、白猫のぬいぐるみに目の前で引き裂かれた事だ。
嘗てなく良い出来だったのに。黒いふわふわボディに菫青のビーズも綺麗に収まり、モデルとなった本人さながらに癒し系であったというのに。
せつなっち五号機は、問題児さとるっちに無惨にも綿に戻されてしまった。
「俺はどうすればせつなっちを救えるのだ…」
もう作るな。寝ろと生徒に言われた事すら男は忘れている。
何が悪かったのか。六号機を作る前にモデルをもう一度観察するべきか。
そんな事を考えながら歩いていると、校舎の方角がわいわいと騒がしい。
確か五条は任務で居なかったから、今日こそは平和だと思っていたんだが。
また最強コンビが校舎を壊したか。それとも校庭を殺したか。
夜蛾は痛む胃をそっと擦りながら校舎に向かい────目を疑った。
「おい右だ!!違ぇテメーらの右じゃねぇよバカ猫!!!」
「さとるっち、左に五歩、それから真ん中の出っ張った子が下向きになる様に回って、下に落ちてくれ」
〈ニャーン!〉
「ははは、どんどん底が上がっていくね、悟」
「だああああああ!!なんっでそっち回んだバカ!!今のは左向きゃ一発だろ!!」
〈ヘタクソー!〉
〈ヤーイ!〉
〈バーカ!〉
〈ヘタクソー!〉
〈ヘタクソー!〉
〈ヘタクソー!〉
「黙れ猫!!!!!!!!!!!!!」
「五条が五条に馬鹿にされてんのクッソウケんだけど」
『お客さーん、物理でにゃんこ消さないでねー』
〈ニャーン!〉
校庭に積み上がる、白。
それは良く見れば白い猫の群れで、三階の窓から顔を出す五条と夏油が何やら声を張っている。
一定のリズムで上から降ってくる縦に十匹並んだ白猫が、夏油の指示で端に寄り、ひゅんっと落ちた。綺麗に十列、隙間なく埋まった所で猫が鳴く
〈ニャーン!〉
ぽん、と十列分の猫が姿を消して、五条の方の猫の群れが、底上げする様に一列追加された。
『やっぱり傑は上手いな。呪霊に指示出すからかな?』
「五条が下手なだけだろ」
上を見上げながらそう話す女子二人は、抱き上げた猫をせっせと積んでいる。
沢山の猫に纏わり付かれながら、宙に立ってぐらぐらと揺れる猫の塔をどんどん高くしていくのだ。なんだこの悪夢
「ねぇ猫まみれ飽きてきたわ。次何する?」
『んー、ジェンガとか?さとるっちに無限張らせれば多分出来るでしょ。さとるっち、やれる?』
〈デキルヨ!〉
「って事はピンボールいけるな。こいつらにバーもボールもターゲットの丸いのも全部させられる」
『ピンボールやろうぜ!お前ボールな!をリアルでやるのか』
「インベーダーもやれんね」
『あ、ぷよぷよやりたい』
「ぷよぷよやるならさとるっちの毛染めて色分けしたら?」
〈〈〈〈〈イヤダ!!!!!!〉〉〉〉〉
『猫の圧よ』
「じゃあリボンで分けるか」
『あ、ぷよぷよはやるのね』
「アイツらのネコリスが楽しそうだった」
ネコリスとはテトリスを猫でやるからネコリスなのか、とか。
猫まみれとは先日夜蛾がパンダに土産として渡したパンダまみれの猫バージョンかとか。
その猫無限を張ってないかとか。
猫の数が可笑しくないかとか。
そもそも動物の見た目をしているものを積むなとか。猫でピンボールするなとか。ぷよぷよするなとか。インベーダーするなとか。言いたい事が渋滞しているさしすせカルテットほんといい加減にしろ。
「なぁ刹那!マリカー出来ねぇ?コイツらカートにしてさ」
「いとも容易く行われる動物虐待」
〈イジメダー!〉
〈サイテー!〉
〈バーカ!〉
「決めた。コイツら轢き潰すわ」
『お客さーん、物理はダメって言ったでしょー』
何の躊躇もなく猫を潰そうとする五条に夜蛾は溜め息を吐いた。
そして、さしすせカルテットに向けて声を張る
「お前達、さとるっちを増やして世界征服でもする気か!?!?!?」
夜蛾の声にぴたりと固まった四人は目を見合わせた。
それから代表する様に、猫にそっくりな生徒が口を開く
「征服するぐらいなら滅ぼすんで大丈夫でーす!!!」
何も大丈夫ではない。
「そうだ、こんなに増えたんだ。家畜枠はさとるっちにしようか」
『え、ウシ丸鷹野信さんは?』
「ウシ丸鷹野信さんはさとるっちの奴隷になる未来しか見えないからね。リストラ」
「何の話?てか誰???」
「アンタが世界滅ぼした後のスタイリッシュ原始人開拓ゲームの話。ウシ丸さんは夏油の呪霊」
「ネーミングセンスwwwwwwwwwww」
表情も変えずに世界を滅ぼすな。洒落にならん話をするな。ネコリスを続けるな。ジェンガを始めるな。猫を投げるな。投げ合うな。猫もノリノリでボールになるな。
注意をしようするが言いたい事が山ほどあって目詰まりを起こした。
なんでこう…最強コンビだけなら純粋な校舎破壊とか校庭殺害とか、物理的な被害で済むのに(それも決して良くはない)、何故女子組を足すと一気にカオスになるのだろう。
夜蛾正道はやっぱり胃が痛い。
A.お前が呪骸作った所為