桜祭り

「なぁ桜祭り行こうぜ!今から十分後に正門集合!」


全員が起きてリビングで顔を合わせた瞬間、今日の料理当番だった悟がそう提案した。提案というか決定していた。十分?嘘だろ正気か?


「馬鹿か女がそんなに早く準備出来るかよ。三十分寄越せ」


「悟、授業はどうするんだい?」


「は?フケるに決まってんだろ。全員居るし晴れてんだからボイコット日和だっつーの」


甘いフレンチトーストを食べつつ、隣でブラックコーヒーを飲む硝子に話し掛ける


『硝子、折角だしこないだ買った服着ていく?』


「良いね、オソロで行こ」


『りょーかーい』


「え、女子ずりぃ。傑ー、俺らもアイツらになんか揃える?」


口を尖らせた悟に傑が苦笑した


「何を揃えるんだい」


「………柄?」


「花柄にしてやろうか」


「お花畑四人組とか何の宣伝だよ」


「桜祭りの宣伝部隊じゃないか?」


「敢えての向日葵柄にしちゃう?」


「そこは流石に空気読んでやれよ。桜が可哀想じゃん」


『じゃあ判った。色決めよう。オソロにする色』


「水色と白」


『まさかの二色』


「しかも即答」


「お前は自分の色をゴリ押しするな」












三十分後。
結局ゴリ押された三人が白と水色を取り入れているのを見て、言い出した犯人はご満悦である。


『オソロのニットが水色で良かった…』


「これないと普通に水色とかなかったわ」


「んふふ、かわいい。着いたら四人で桜バックに写真撮ろうぜ」


「水色を捜すので時間掛かった私の話する?」


『ヘアゴム水色で可愛いね、ママ』


「ありがとう刹那。今日の格好も可愛いよ」


『わーい、ありがとうママ。ママは今日もイケメンだよ』


「イケメンなママwwwwwwwwwwwwww」


「うるせーぞゲラ」


悟の瞬間移動で一気に山を降り、バスで祭りに向かう。
幸い席が空いていたので最奥の長座席に四人で座った。デカいのを両端、女子が真ん中の何時もの順番だ。


「刹那、ブレーキで飛んだら困るからもっと此方寄れ」


『いや踏ん張れるよ?』


「もー、良いから来いよ」


『なんだこいつ』


「刹那、悟は可愛い格好の君を近くで見たいんだってさ」


『えっ』


「何で言うの????」


「お?思春期か?」


「早かったね、パパ」


「子供は直ぐに育つんだな、ママ」


「ついこの間まで一歳だったのに」


「秒で十代に」


「オマエら俺の親なの????」


『wwwwwwwwwwwwwwwwwww』


人が少ないからってコントするな。そしてあんたの情緒の育ての親は間違いなくこの二人。
会話に混ざらず笑っていれば隣から引き寄せられた。
大きな手が顎を掴み、サングラスをずらした蒼がじいっと私を見下ろしてくる。


「なぁ、リップ変えた?俺塗って貰ってないんだけど」


『今日のは初めて塗るヤツだよ。結構しっかり色出るけど良いの?』


悟はまぁ唇がピンクでも…平気だな?あんた何でそんなツヤツヤなの?
じっと綺麗な唇を見ていれば、柳眉がふにゃんと下がった。
捨てられた子犬みたいな顔で、悟がおねだりしてくる


「オソロが良い。だめ?」


『………うん、かわいいね…いいよ…』


顔が良い…くっそこいつ直ぐ顔面でゴリ押しする…負けた私をパパとママが笑って見ていた


「また負けてる」


「悟、あんまり無理を押し通すものではないよ」


「無理じゃないでーすオネダリでーす」


「それを無理強いって言うんだよ」


「え?知らない言葉ですね。俺の見てた辞書には載ってなかった」


「不良品だったんじゃない?」


「前髪不良品な奴が不良品とか言ってくんのクソウケんだけど」


あ、やべ。
傑のゴングが鳴った


「……悟?ちょっと外で話そうか」


「見て判んねぇの?俺今日デートしたいから無理。両手に華で楽しみてぇから表なら一人で行けよ」


「自分中心な悟じゃあ女性をエスコート出来ないだろ?私が二人と回るから悟が一人で行けよ」


「ハー?????硝子の好みも刹那の好みも大体把握してますけど???
オマエこそ一人で行けよ今日はユキエちゃんの日だろホテルでワンナイト決めてこいよ」


「判ってないな、女性の好みを把握していると調子に乗って予想を押し付けるのは童貞のやる事だよ。
可哀想に、恋愛も肉体もチェリーなんだね同情する。そんなに一人相撲が好きなら人形でも買ってお部屋で腰振っときな」


「……表出ろよ、傑」


「寂しんぼか?一人で行けよ」


嘘だろコイツら公共の場で下ネタオンパレードの喧嘩するの?
乗客少ないし小さめの声で口撃してるからまだギリギリセーフだけどさ。これ普通に嫌だわ。なんで男子って直ぐ下ネタ言うの?


「喧嘩すんな。四人で遊びに行くんだろうがクズ共」


「硝子!だって傑が!!」


「先に煽ったのはお前だろ。ごめんで終わんだから意地張んな」


喧嘩をばっさり切って捨てたのは硝子だった。流石パパ。格好良い。
拍手すればよせよとニヒルに笑う。あとで鉄扇に入れてあるタバコを献上しよう。
隣でむすっとした悟が此方を見ている。うん、あれでしょ?お前は俺の味方しろって言いたいんでしょ?
うん、テディちゃんね?甘やかすだけだと駄目だと思うの。


『悟』


「なぁに」


『ごめんなさいしようか』


「エッ」


フレーメン反応すんなよネコチャン。
怒らないと思った?流石にね?一歳になったからにはごめんなさいも出来る様になった方が良いと思うの。相手に自分から歩み寄る経験は大事。此処でごめんを言えないと、どんどん言えなくなっちゃうし。親しき仲にも礼儀ありって言うし。
ずらしたサングラスの向こうで蒼が揺れる。
指通りの良い髪を梳かす様に撫でながら、出来るだけ優しく聞こえる様に話し掛けた


『今から私達遊びに行くんだよ?もし外でなーんかモヤッとするな、さっきの喧嘩の所為でテンション上がんないなってなったら悟も皆も嫌でしょ?』


「うん」


『だから、これはそうならない様に今喧嘩終わりな、恨むなよって合図。悟が先に言うのは、今のは悟が先に傑を煽ったから。
大丈夫、悟がごめんって言ったら傑もごめんって返してくれるよ』


「………………」


わたしテディちゃん、お友達に謝れないさとるくんにごめんなさいの仕方を教えているの。
お友達に謝れない190オーバーの十六才児…???やめろ自分で洗脳を解くな。
そしてこっそり笑ってんじゃないよ硝子。傑も必死こいて笑うの堪えてんのバレてんだぞクソゲラめ。


にこにこ笑ったまま悟をじっと見つめる。
ぶっちゃけ普段なら此処まで干渉はしない。寧ろ硝子と共に避難する。
でも此処は外だし、何時も傑ばかりが妥協するのもどうなの?と思うので。
だって普通、喧嘩するだけしてごめんもナシでまた何時も通り話し掛けられたらモヤッとするし。
そういう所で毎回片方だけが我慢するのは何というか、違うと思うのだ


「………傑」


「なんだい、悟?」


ちらりと蒼が此方を見る。
頑張れ。言え。ほら傑めっちゃ微笑ましいものを見る顔で待ってるから。ママが待ってるから。パパは此方に背中向けてサイレント爆笑かましてるけどな。
深く深く頷いてやると、ぱちりと白い睫毛が上下した。
それから薄い唇がほんの少し開いて、三つの音が転がり落ちた


「………………ごめん」


小さな声。
けれどしっかりとそれを掬い上げて、傑は笑った


「ふふ、良いよ。私もごめんね」


「ウン」


「ほんとお前謝罪受け取るのは早ぇな」


『硝子ちゃん!ネコチャンが泣いちゃうでしょ!』


「おい女共表出ろ」


『「ごめーんね☆」』


「私はママなんだけどどっちに入るのかな?」


「此処でママ(♂)捩じ込むのやめろやwwwwwwwwwwwwwwww」


『うわうるさっ』


「声がでけーぞクズ」


────このあと大きな桜を背に撮った写真は、示し合わせてもいないのに全員が待ち受けにしていた。








口では何と言ったって





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