未来が知らない内に折れてた

「育児で大事な事って何ですか?」


「そうねぇ、その子の良いところをちゃんと見付けてあげる事、かな。怒ってばかりじゃお母さんもその子も悲しいでしょ?」


「なるほど」


「ねぇあれどんな図よ?」


『二児の母に育児相談する男子高校生』


「事案か???ウケる」


「相談してんのお前の事だけどな」


「は??????????」


現在私達は埼玉に任務で飛ばされ、そこで出会った優しいお姉さんとお茶をしている。
発端は任務の帰り、彼女の肩に呪霊が手を伸ばしていた事。
素早く悟が祓った(傑に言われて、物凄く嫌そうに)のは良いが、お姉さんの荷物があまりにも一人で持つには多かったので傑が手伝いを申し出た。
そのお礼として私達はおしゃれなカフェに誘われたのである


「傑くんはその子にどんな風に育って欲しい、とかはあるの?」


「うーん…健やかに育ってくれれば、と言うにはあまりにもこう…やんちゃが過ぎるので、もう少し周りに気を遣える様になってくれれば良いですね」


「何これ?遠回しな煽り耐久レース?
俺めっちゃ気ィ遣ってんじゃん。オマエらの事思いやってんじゃん。最近も頑張ってんのに。
靴下みてぇな前髪垂らしてるオマエのママ今まで俺の何を見て生きてきたの???」


『やめなさい悟。外で喧嘩しない』


「オマエまでママか」


「お前の周りママしか居ねぇな」


「コイツはママじゃねぇ。テディベアだ」


「そこじゃなくて育児相談する親友どうにかしろよ」


おしゃれな丸みを帯びたテーブルでお姉さんを黒ずくめの高校生四人が囲っているとか普通にカツアゲの現場では?
てか傑もよく本人を隣に置いた状況で育児相談なんかしようと思ったね?あれ、これ悟の言う通り遠回しな煽り耐久レース?


「ふふ、仲良しね」


「ありがとうございます。四人も居れば誰かがフォローに入れるので」


「刹那、それ一口チョーダイ」


『ほれ。硝子もどうぞ』


「ありがと。刹那、口開けな」


『わーい』


「オマエらドーゾ」


「ありがと」


『おいしー』


「硝子のは……何で苦いの頼むの…?俺避け…?」


「熊避けかよ。熊の方が可愛いわ。刹那」


『はいはい。悟、ココ甘くて美味しいよ。コーヒーのところは私が貰うから』


「やった!!!」


コーヒーゼリー(クリーム載せ)の苦いとこ取ったらただのクリームでは?貰った一口分からコーヒーゼリーを外し、残りを悟にあげる。
硝子は呆れた顔で笑顔の悟を見つめていた。


「ふふふ、本当に仲良しね」


「ありがとうございます」


「傑ー、オマエ甘いの嫌って言うからコレあげる。硝子と刹那の分も載ってんぞ」


「ああ、ありがとう。皆もコレ食べて。上品な味で美味しいよ」


「ありがと」


『あ、美味しい』


「え、もう少し甘くて良くない?」


「お前はもう砂糖齧ってろ」


「それは風情がないじゃん。判ってねぇな硝子は」


「お前ほんとなんなの??????」


全員がケラケラ笑う。ちらりと見ればお姉さんも笑っていて安心した。
良かった、四人と一人じゃ明らかにアウェー感出ちゃうから。お姉さんも楽しめているなら何よりだ


「お姉さん、旦那さんってどんな人なんですか?」


硝子がお姉さんに質問した。
子供は二人。男の子と女の子で、優しく良い子。
お姉さん自身が優しい雰囲気だから、旦那さんもさぞ出来た人だろうと思った、ら


「ああ、夫はね。…何してるんだろう?」


「ん?」


「なんかね?仕事行ってくるーって言ってふらーっと居なくなっちゃって。それで帰ってきたら大金持って帰ってくるのよ」


『は?』


「それで、またふらーっと居なくなって競馬とかパチンコですっからかんになって帰ってくるのよ。お小遣い制にしてるから良いんだけど」


「良いんですか?それ」


「良いのよ、元は彼が稼いだお金だし。凄い筋肉質だし運動神経が良いから、土木関係かなって私は思ってるんだけど」


「いやぜってぇ違ぇだろ。ヤバい仕事じゃねぇの?」


「こら悟、失礼だろう」


窘められた悟がべぇっと舌を出す。
すみませんと謝る傑がマジでママ。悟はこれでママじゃねぇしみたいな態度はやめた方が良いと思うの。
失礼な態度を笑って流すお姉さんはとても良い人だ


「元気なのね、五条くん」


「いやこれは元気というレベルでは」


「全然平気よ。夫もね、最初はこんな感じだったから」


「『「は?????????」』」


「いやオマエらの反応がは????なんだけど」


それただの人格破綻者では???
もしかしてお姉さんとお子さん以外猿認定かましちゃう系???
傑と硝子と私の目が死んだ。悟が文句を言いながら私のティラミスを盗んでいる。おい盗むな。自分のは…食べきったの?マジで?ショートケーキとレアチーズケーキとシフォンケーキを?早くね??悟はやっぱりダイソンだった???


「最初はね?私が落とし物を拾って、それを届けたのがきっかけ。その時にお礼だって言って、肩の辺りをぺいってしてくれたんだけど。
その時のあの人、人間不信ですーみたいな目をしててね?
あ、この人は一人にしちゃいけないなって思ったの」


全員が無言で悟を見た。
人間不信。一人にしちゃいけない奴。
つまり、この御三家の坊っちゃんみたいな尖り具合。そして何より、肩の辺りを払った。つまり、祓った。
お姉さんの旦那さん……呪術師かな?


「お姉さん、そういえばお名前を伺っていませんでした。差し支えなければ、教えて頂けますか?」


術師なら多かれ少なかれ何処かがひん曲がっている。
悟が反応すれば、クロ。
傑の問いに、そうだったねとお姉さんは笑った


「あ、ごめんなさい!名乗ってなかった!私はね────」












「────伏黒、ねぇ。聞いた事ねぇな」


お姉さんと別れて向かった街中で悟が呟いた。
人間としての諸々の代わりに呪術師としての英才教育を受けた男でも判らないという事は、お姉さんの旦那さんは呪術師ではないのだろうか。


「じゃあ一般出身の呪術師か?」


「知らね。高専の名簿調べりゃ出るんじゃね?つーかそんな気になる?」


「興味本位かな。あんなに優しい人を捕まえたギャンブル大好き呪術師って逆に気にならないか?」


「んー、どうでも良い。幾ら優しかろうが、馬のケツ追っ掛けてるパチンカス捕まえたんならあの女が見る目ねぇってだけだし。
逆にあの女がダメ男製造機な可能性もワンチャンあるんじゃね?」


「悟、そういう言い方は良くないよ。あの女じゃなくて伏黒さんだ」


「チッ、スイマセンデシター」


この圧倒的興味のなさよ。
興味関心が私達の方に全振りし過ぎ。…いや、猿じゃなくてあの女って言っただけマシなの…?いかんそれは人としてクズ。


「あ、すぐるークレープ食いたい」


「甘いものはさっき食べただろう」


「ごく普通にママ」


『ごく普通にwwwママwwwwwwwwww』


ちょっと硝子さんしれっとした顔で笑わせないで。
笑っていれば約一名、集団行動出来ない白い奴がクレープの幟に誘われていく。


『嘘でしょ秒で単独行動に走った』


「置いてく?」


「良いけど悟泣いちゃうよ?」


「泣かせとけよあんな一歳児」


『普通に並んじゃった』


「ねぇめっちゃ此方見てる」


「ゆけっ硝子!」


「お前が行けよ」


「何が悲しくて男二人でクレープの列に並ばなきゃいけないの」


『悟可哀想じゃん行けよ傑』


「それなら刹那も並ぼうね」


『やっぱ行かなくて良いよ傑』


「掌クルーwwwwwwwwww」


「早いなwwwwwwwww」


というか周りの視線が凄い。
クレープの列に並んだ白いのは勿論、傑と硝子も注目の的だ。判るよ、イケメンに美少女は目の保養だからね。


「こうやって見てたらお腹空いてきたな。私も何か買ってくる。二人はどうする?」


「私あそこのカフェに行ってくるかな。刹那は?」


『そう?じゃあそこのお店少し見てくるね。それから硝子の方に行くわ』


「判った。じゃ、かいさーん」


『「かいさーん」』


手を振って別れ、私は向かいにあるこじんまりとしたお店に入った。
落ち着いたデザインの物が多く、見ていて楽しい。
店内を冷やかして外に出ると、向かいのクレープ屋に人集りが出来ていた。
きゃっきゃと騒ぐキラキラ女子に囲まれた白いの。彼女らが話し掛けているにも関わらずフルシカトである。
凄いなあいつ、クレープのメニューしか見てない。顔の角度変えないから人の頭すら見てない。
というかあの絶世の美貌にアタックする女性陣のメンタル凄いね?私だったら無理。あんな顔の良い男の隣には立てない。
さて、暇になったし硝子と合流しようかな。そう思ってカフェの方に身体の向きを変えると、妙に緩い笑みを浮かべた男二人と目が合った。


「ねぇねぇお姉さん、一人?」


「めっちゃ可愛いね。俺らとそこでお茶しない?」


凄いなテンプレだ。
私なんかに声掛けるって暇なの?あそこの白いのにアタックしてる女性狙いな?美人揃いだぞ?


『すみません、連れが居ます』


愛想笑いを浮かべて一歩下がる。
すると男達は広げた距離を埋めてきた。お前ら顔が緩いんだよ出直せ


「え?でもお姉さんさっきそこの店から一人で出てきたじゃん?良いでしょ?」


「俺さっきそこのカフェに似た制服着てる女の子見掛けたよ。あの子も可愛かったよね。女の子二人なら丁度良いじゃん?」


しつけーーーーーーー!!!!
なんだこいつら!!連れが居るって言ってんじゃん!!そこのクレープ屋に居る白いのと何か買いに行った黒いのも連れだよ!!女だけ認識してんじゃねぇぞ!!
初めてナンパに会いましたけど随分しつこいんですね!硝子達毎回こんなダル絡みされてんの!?もう二度とされたくないです!!!


『結構です。人数なら間に合ってるんで』


「えー?良いじゃん行こうよ。男も必要でしょ?」


『結構です。男も居るんで』


「どうせ俺らよりブサイクでしょー?」


無理。
お前らの顔は無理。逆立ちしたってミジンコからやり直したって無理。
あいつらに顔面で勝てる人間ってこの世に存在するの…?
宇宙猫を召喚してしまって動けない私の身体が、後ろからぐいっと引き寄せられた。


「何してんだ、バーカ」


ぽそりと呟かれた低い声。
ふわりと香るコロンは今日の気分だろうか、昨日とは違ってレモンが効いたさっぱりした香りだ。
乱入者は、意図的にふざけた声で真上から私に話しかけた


「もーダーリンったら何で一人で居るのぉ?さっちゃん今日こそはピアノで猫踏んじゃった弾ける様になりたくて一時間前から待ってたんだからぁ!!!」


『んっっっっっっっっっぐ』


「「は?」」


待って、やめてとんでもない設定で絡んでこないで。何でそこで猫踏んじゃった選んだの?あれか?昨日さとるっちにおちょくられたから?猫への恨み?
そもそもあんたが一時間前から待ってるなんて有り得ないから。寧ろ怒る程じゃないけど微妙に遅刻するじゃん。そして私はダーリンじゃない。
噴き出すのを懸命に我慢する私を見下ろして、奴はあろう事かサングラスをずらしてウインクした。


「ダーリンはあとでオシオキだっちゃ♡」


『もうむりwwwwwwwwwwwwww』


判った、うる星やつら観たなあんた。
笑いすぎてお腹が痛い。何で助けに来た筈の仲間を殺すの?フレンドリーファイアが斬新すぎない?ナンパされてる仲間を笑い殺しにするってなに???私にトドメ刺してどうする。オニーサン達を殺せ。
ひーひー言っている私の頬に頬を押し付けた戦犯は、先程とは違う低い声で言葉を吐き出した


「こんにちわぁ、イケメンなオニーサン方。俺コイツの男なんだけど、ダーリンに何か用?」


イケメンと呼びながらサングラスをずらして男達を睨み上げるその性格の悪さよ。顔面でマウント取るな。緩い顔のオニーサン達が可哀想でしょ。
案の定言葉を紡げなくなった二人は、挙動不審な様子で早口に謝るとさっさと撤収してしまった。
残されたのは笑い続ける私と、男達の背にべぇっと舌を出す悟のみ。


「馬鹿か。何で一人になってんの?」


『最初に集団行動止めた奴がそれ言う?』


「俺は雌猿フルシカト出来るもん。でもオマエ無理じゃん。わざわざ猿に集られる隙作ってんなよ」


猿かぁ…やっぱり伏黒さんをあの女認識してたのは悟なりの小さな成長だったのかぁ…倫理の一般水準は遠いなぁ。
しょっぱい顔になっているであろう私をブサイクと笑い、悟はクレープに齧りついた。


『悪かったな、あんたに比べりゃ皆ブスよ』


「なぁに?傷付いたの?随分食い付くじゃん」


『傷付くわけないだろ。慣れたわ』


「じゃあなに?機嫌悪い?」


サングラスをずらした悟がじいっと私を凝視する。機嫌が悪い…訳ではないだろう。多分、慣れない絡みに疲れただけだ。


『ナンパに疲れたのかも。初めてだったからさ』


「へぇ、そりゃオメデトウ。ハジメテはどうだった?」


『クソ面倒。毎回悟達はこんな怠いの躱してんの?って尊敬した』


「ウケる。元気出せよ、クレープ一口やるから」


『ありがとう』


差し出された異様にクリームの乗ったクレープを一口貰い、悟が食べるのを眺める。これ何クレープ頼んだの?クリームしかいなかったんだけど


『これ何頼んだの?』


「イチゴクレープデラックス。なんかクリームおまけしてくれた」


『生クリームクレープじゃん。イチゴいなかったんだけど』


「あとで見付けたらやるよ。覚えてたらな」


『生クリームまみれはつらいから早くね』


「もう何か飲めよ。あ、そこにイチゴミルク売ってるけど」


『脂肪分を砂糖で塗り替えるの?コーヒー飲みたい』


「じゃあカフェ行こ。俺ホワイトラテのクリームましましが良い」


『脂肪分地獄…?』


「デブみてぇに言うな。昨日も俺の裸見た癖に何言ってんの?」


だらだらとカフェに向かって歩いていると馬鹿がこんな発言をかましやがったので、道行くレディーが視線だけで私を殺そうとしてきた。
やめてほしい。軽率に呪霊を生まないでほしい。
誤解しないで。こいつ風呂上がり上半身裸でうろうろするの。そんで硝子にぶっ叩かれて背中が赤くなってるの。毎日。馬鹿じゃん。


『悟くん、お外でそういうの言うのやめよう?呪霊を誘発しないで』


「あ?俺らが何話そうが猿に関係ねぇだろ。つーかやっぱ話しにくいわ。抱き上げて良い?」


『やめて。羞恥心で私を殺さないで』


「悟、また刹那を苛めてるのかい?」


『ママ!!!!!』


「刹那、お外でそういうのはやめようね」


「人の事言えねぇじゃんwwwwwwwwww」









スマートな救い方とは









伏黒さん家の“子供”の片方は養子です。
ただ、デリケートな問題なので出会ったばかりの高校生に言っていないだけです。
これから彼等に明かすかどうかもまだ未定です。養子でも伏黒さん家の大事な子である事は確かなので。

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