フルボッコだドン!

あーたーらしーいーさーるがきた
てーんーしょんーさーがーる
ぜつぼーうにかおをゆーがめ
おおぞーらあーおーげー


────これは新しい体術講師を見た五条悟が歌い上げたパワハラソングである。
お陰で甚爾さんにボコられる術師第一号は悟に決定した。がんばれ。


「ギャンブル大好き二児のパパ」


「ふらっと居なくなっては大金を手に戻ってくる仕事不明のマッチョパパ」


「パパ矯正プログラムでも始める気かい?」


『五条悟育成計画の一部ですよ、ママ』


「嘘だろwwwwwww関係あるのwwwwwwwwwwww」


「うるせーぞクソゲラ」


悟が甚爾さんと組手を行っている間、私達は階段に座って見学していた。
手足の長さを活かして戦う悟だが、甚爾さんは涼しい顔で攻撃を受け流している。
音がエグい。びゅおうって首が飛びそうな音ばっかりする。殺す気かな?


『ついでに言うと、悟の人類皆猿思想を打ち崩す一手になるんじゃないかと』


「…五条のアレをか?無理だろ」


眉を寄せた硝子と笑いながらも否定的な目を向ける傑。
だよね、悟のあの思想は変える事が難しい。
でもそれは、やっぱり私達も非術師との接触が少ないからだと思うのだ


『質問です。天与呪縛とは?』


「本来持ちうるものを奪われ、代わりに何か別の突出するものを与えられる事、かな」


『正解。じゃあ────それが、呪力だったら?奪われたものが呪力だったら、その人は呪術師?それとも非術師?』


「非術師だろう」


傑の言葉に深く頷く。
そしてやはり、呪術師にとってあの人は危険だと再確認した


『普通はそう。でも、呪力ゼロの代わりに────天与呪縛でフィジカルギフテッドになってたら、それは非術師って言える?』


硝子が目を丸くした。
傑がそれでもと首を振る


「幾ら常人離れした肉体を持っていたとしても、呪霊が見えないならそれは非術師だろう」


『いや、私もそう思ったんだけどさ。祓えるの、あの人』


「任務に連れていったの?」


『夜蛾先生にやべぇ非術師モドキが居るって話して、先生と一緒に一級に連れていった』


「先生公認ならまぁ良いのか。それで?」


『一級呪霊を呪具ですぱーん!!した』


「マジか」


「見えてないのに?」


『なんかね、五感フル強化されてるから見えるんだって』


「「??????」」


だよね、私もそうなった。
呪力ゼロなのに呪霊が見えるって意味不明だよね


『因みに水の上を走れるそうです』


「それは本当に人か?」


『臭いとかで人の追跡も出来るそうです』


「ゴリラじゃないかな」


『「それだ」』


伏黒甚爾ゴリラ説が普通に定着した。
夜蛾ゴリラはびっくりしていたし、私もとても驚いた。
というか呪具格納庫みたいな呪霊口から出したの何で?それ猛毒じゃない?飲んで大丈夫?
色々聞いても天与呪縛、とだけ。
任務に連れていった結果、甚爾さんの謎が増えただけだった


『思うに、あれだけ身体能力が底上げされてるならアレはもう自己強化型の呪術師だと思う』


「語部みたいなって事?」


『そう。語部さんのバフを強めて自分にだけ全振りしたタイプ。自己完結型激強ゴリラ』


「じゃあ語部もゴリラになれる可能性アリ?」


「ナシだろう。女性が悟と体術で戦り合える様になるのは難しい」


『自己バフもりもりの身体鍛え上げたらいけるんじゃない?』


同じクラスの優しい女の子。
あの子は自分と他人にバフをかけるサポータータイプだけど、仮に恵まれた体格があれば、それは甚爾さんと同じ系統に分類出来るのではないだろうか。


『呪力ゼロだけど、呪霊は見えてる。術式もないけど下手な呪術師より強い。これはもう非術師じゃないでしょ』


呪力があれば呪術師なのか。
呪力がなくても呪霊を祓えれば呪術師なのか。
呪術師と非術師の境界線に立っているのがあの人だと、私は思う。


「つまり……希望の猿?」


「希望の朝みたいに言うなよwwwwww」


『パワハラソングじゃんwwwwwwww』


「ああ、猿じゃなくてゴリラか」


『ちがうwwwwwそこじゃないwwwwwww』


「結局ゴリラwwwwwwwwwwwww」


悟が宙を舞った。
甚爾さんは地に転がされ、ブチキレている悟をニヤニヤしながら見下ろしている


「クソ…調子乗んなよゴリラ!!」


「何だ?五条の坊は縦に伸びただけで体術はからっきしか?それならあのお嬢ちゃんの方がまだ動けるんじゃねぇか?」


「あ゙あ゙??だぁれがテディベアに負けるって?あんなゆるふわ雑魚パンチで呪霊が倒せるかよ。アイツ体術は三級だわ」


『ほーん?んな事思ってたんだ?ふーん???』


「テディおこだよ」


「ちょいおこ?」


「何時かガチギレしても怒られないとは思う」


『ちょいおこだよ』


「ちょいおこかぁ」


「私ならおこだな」


「夏油はもうちょい堪忍袋鍛えろ。お前の堪忍袋の緒は茹でた饂飩じゃん」


「ふにゃふにゃだね」


「自分で言うな」


「我慢はするんだよ?」


『茹でたうどんで?』


「せめて乾燥した饂飩になれよ」


「それ逆に折れやすくない?」


『ぱきっといくね』


悪かったなゆるふわ雑魚パンチで。
そのゆるふわ雑魚パンチでこの間も一級倒したんだよ。ゆるふわ雑魚だけどな????
私前に言ったな?本当の事でも言って良い事と悪い事があるって。
校庭で戦う悟に向けて声を張った


『はーい!!!ゆるふわ雑魚三級のテディちゃん、今日は悟くんだいっきらいでーす!!!!!』


「エッ」


悟が目を丸くして此方を振り向いた。
だからなんでお前フレーメン反応するの?


「馬鹿だ、馬鹿が居るぞ」


「悟はちょっと刹那に甘え過ぎだね」


『腹が立った。甚爾さーん、バカボンにフルボッコだドン!してー!!』


「あ、面白そう。甚爾さんのー、ちょっと良いとこ見てみたーい!!」


『「イーッキ!イーッキ!」』


「なんだコイツらノリ良過ぎねぇ?」


「なんで!!オマエらは!!俺の応援しねぇの!!!!!!!」


『何でして貰えると思ってんだ馬鹿か』


「教育的指導だよ」


「良いからフルボッコだドン!されろよ。治療は私の代わりにアシがやるから」


「アシ?アシスタント居るの?」


「出来た。アイツがボコられたら呼ぶわ」


『悟のフルボッコに乞うご期待』


「Coming Soon」


「wwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」


傑が使い物にならなくなった。硝子と合掌した。
ガチギレした悟が甚爾さんに殴りかかった。それをひょいと避けて腹部を狙う拳。それを払い、悟が腰を入れた蹴りを放つ。


『……甚爾さんを引き入れた理由さぁ』


「うん」


『大まかに言うと三つあるんだ』


夜蛾先生に報告兼勧誘を勧めたのは、三つの動機があった。
そしてそれを先生が是としたからこそ、甚爾さんは此処に来た。


「一つ目は純粋な体術面の強化、かな?」


『そ。あんな化物みたいなフィジカルギフテッド、呪術界でも珍しいでしょ?強い人に相手して貰えれば私達も強化に繋がるし。
甚爾さん的には合法的に呪術師を転がせるから楽しいらしいよ』


なんならそれで高専所属を決めたらしい。
言えば傑が渋い顔になった


「性格が悪いな」


「呪術師なんてそんなもんだろ」


「硝子?何で私を見ながら言うのかな?」


「自分の胸に手を当てて考えてみろよ」


「心音しか判らないな」


『傑って身体に厚みあるよね。筋トレ何してる?』


「スクワットとか」


『……スクワット毎日してるのに、筋肉が付かない場合はどうすれば?』


「透明な筋肉が付いてるって思えば良いんだよ」


「エア筋肉何の足しにもならねぇよ」


拳を弾かれ、蹴りを避けられ、向かってくる拳をいなした途端に倍の速度で放たれた逆の拳が薄い腹を抉った。
けふっと空気を吐き出した瞬間に頬を撃ち抜かれる。よろめいた悟が掴み上げられ、此方に放り投げられた。
溜め息を吐いた傑が立ち上がり、受け止めた。


「やれやれ。情けないな、悟」


「るっせばーか……くたばれゴリラ…」


『傑がんばれー』


「フルボッコだドン!期待してまーす」


「せめて応援してくれよ、硝子」


「あのゴリラに勝てんの?」


「親友をやられたんだし、タダで負けるつもりはないかな」


「タダでって事は負けはするんだな」


「挙げ足取りは良くないよ」


「ブーメランだぞ、それ」


ゆっくりと寝かされた悟は完全にグロッキー。わぁ、マジでフルボッコだドン!しちゃった。凄いな甚爾さん。


「骨は無事だな。アシ呼ぶか」


『飲み物要る?』


「起きたらスポドリ飲ませよ。タオルで枕作って、治療かな」


『はーい』


タオルを悟の首の後ろに差し込んでいる間に硝子が合図を送ったらしい。
医務室のある窓からぬいぐるみがぽぽぽぽーんしてきた。
クマのあるウサギのぬいぐるみがわらわらと現れると、一斉に硝子を見上げる


「アレ、よろしく」


こくりと頷いたしょうこっちが悟を囲んだ。ぐるりと一周すると、ぬいぐるみが手を繋いだ。
そして、歌いだした


<<<<<かーごめ かーごーめ>>>>>


『んっっっっっっっっっふwwwwwww』


「wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」


「おい待てお前まで笑うなよ夏油wwwww」


「まてwwwwwwwwなんだそれwwwwwwwwwwwwww」


『甚爾さんまでwwwwwwwwwwwwwww』


手を繋いだぬいぐるみがゆっくりと回りだした。歌声がひっっっっくい。なんで?
なんで硝子の声でそんなデスボ出すの?やめて????
この治療を初めて見る私は兎も角、今から戦う傑と甚爾さんまで噴き出してしまったのは完全に事故。
全員が崩れ落ちる中、地獄みたいな声がした


「……テメェら、あとで校舎裏な…」












結局全員の復活まで五分を要した。
未だしょうこっちは悟を囲んで回っている。なので私と硝子は絶対にそちらを見ない様にしている。


<<<<<かーごめ かーごーめ>>>>>


『この歌エンドレスリピートなの?』


「みたいだよ。だからこいつら治療中ずっと歌ってんの」


<<<<<かーごのなーかのとーりーはー>>>>>


『何で治すのに縁起悪い歌なんだろうね?』


「さぁ?夜蛾の趣味じゃね?」


「なぁコイツら止めて?夢に出そう」


『「ウケる」』


「オイ」


傑と甚爾さんは絶対に此方を見ない様に頑張っている。既に一回傑が此方を見てしまって崩れ落ち、甚爾さんも釣られて被弾してしまって動けなくなった。
悟はしょうこっちに囲まれながらキレていた。


「ねぇ刹那」


『ん?』


「ゴリラを引き入れた理由は?」


『あー』


さっき途中だったっけ。
スポドリを飲み、歌声に紛れる程度の小さな声で言う


『二つ目は、あの人がお金で動いて此方を狙ってこない様にしたかったのと、お金で動いて他の呪術師の任務を横流しさせない為』


「なに、アイツ金で動くの?」


『みたいだよ?実際菊田さんの任務、あの人が代わりにやってた』


呪術師の任務は等級が上がれば上がる程死のリスクが上がっていく。それと同時に達成報酬も上がる。
甚爾さんが横流しして貰っていた任務の三割程は彼女からのものだったそうだ。


全額渡すから、任務達成の結果を譲れ。


それが彼女との契約だったらしい。
しかしそれを悟がバルサンで消してしまった。
そうなれば甚爾さんは大口の依頼を失った状況だ。
下手をすれば、金額次第で呪詛師側に付いても可笑しくはなかった。
だって彼の能力は、呪術師を殺すのに打ってつけだから


『…ぶっちゃけあの人に勝てるイメージが浮かばなかった。私なんか瞬殺だし。ただでさえ強いのに、あの人術式無効の呪具なんてヤバいもの持ってるらしくてさ。…上手くやれば、悟も殺れると思う』


「……本人聞いたらキレそうだけど、そんな呪具持ってるフィジカルギフテッドなら」


ちらり、と硝子がぬいぐるみの群れを見た


「有り得るね」


現に術式ナシという制限があったが、あの五条悟がズタボロにされたのだ。
もし暗殺任務が彼に来ていたら、四人纏めてあの世行き、なんて。
そんな嫌な未来も否定出来なかった。
だからこそ、引き入れた。


「三つ目は?」


『三つ目はね……伏黒一家を、悟に見て欲しかったから、かな』


仲の良い家族。
私や悟が知らない、愛に溢れた家族。
それを悟に見て欲しかった。
そうすれば少しは結婚に関しての考え方が変わるんじゃないかと期待しているから。
優しい非術師を見れば、猿なんて言葉を少しは控えるんじゃないかという希望的観測だ


「ああ。教員になるから、家族も教員寮に入るのか」


『そうそう。それで、悟が伏黒さん家を観察する様になれば万々歳だと思って』


「道のりは長いな」


『汝は猿!!をやめてくれたらなぁ』


「無理だろ。この間もナンパされてキレたアイツ何て言ったと思う?群がんな雌猿!だぞ」


『あー……』


こいつはやべえ。
せめて猿呼びをやめさせたいなぁ。人類皆兄弟って言うじゃん?私も貴方も人間な筈なんだけどなぁ。
二人でぼそぼそと話していたからか、ぬいぐるみサークルの姫が騒ぎだした


「ねー!!刹那?硝子?何で俺放置すんの?ねぇ?居る?居るでしょ?おーい!!悟くん独り嫌ですけどー!?」


「独りじゃねぇじゃん。しょうこっち居るだろ」


「ねぇ仲間外れ嫌なんですけど!?刹那!?もしかしてまだキレてんの!?ごめんね!!体術クソ雑魚ゆるふわテディベアだって思っててももう言わねぇから!!」


『やっぱり許さない事にするね♡』


「それが良い。治るまでシカトしよ」


「硝子ちゃん!?刹那ちゃん!?無視すんなよ!!なぁ!!!なぁってば!!!!構って!!!!!!!」


<<<<<「『かーごめ かーごーめ』」>>>>>


「構って!!!!!!!!!!!!」


「おや、バブちゃんがぐずってるな」


「なぁアレ本当に五条の坊か?アレが??同級生に放置されただけであんなに駄々こねてるアレが???五条の至宝????」


「伏黒先生、世の中には時として受け入れなければならない事もあるんですよ」


笑顔でシカトする私と硝子。おやおやと笑う傑。宇宙猫な甚爾さん。騒ぐ悟。メリーゴーランドなしょうこっち。
高専は今日も平和である。










アシスタントが出来ました










しょうこっちは反転術式を使えますが、一体一体は微弱なので皆で手をつないでかごめかごめします。

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