どうも、モブです。

はじめまして、モブです。名前は黒川匠。いや、俺の名前は覚えなくて大丈夫っす。モブなんで。
簡単に説明すると、俺は所謂転生者。
前世は見事に社畜なサラリーマンで、死因は過労。
ある日すこん、と記憶を思い出したのと同時に絶望した。


モブ、死にますやんって。


此処が呪術廻戦の世界だと気付いたのは、単に呪霊が見えたのと、術式を使えたから。
いやライト勢の俺ですら知ってるぞ、此処一般人が羽根より軽い世界じゃん。モブなんてコマが変わる間に死ぬじゃん。
そう察した俺は、そりゃあもう死ぬ気で術式を磨いた。
残念な事に俺の術式はショボくて、そう強いもんじゃない。
でも呪霊は殴れば死ぬのだ。
だから殴った。気付けば結界=撲殺の為の棘バットになってしまっていたが問題はない。
殴れば死ぬ。それが世界の真理だった。


そんな若干バーサーカーな俺は呪術高専に入学し、何だかんだ頑張り、そして二年になると同時に特進クラス────原作キャラの居るクラスに編入した。


そこで初っ端ブチキレた五条悟に恐れ戦き、それからも定期的に開催されるスマブラにガクブルしつつ生きている。あいつらこわい。
因みに同時に編入した語部は同じく転生者で良い友達。
菊田は何やらズルをしていたらしく、五条に罪を暴かれクラスを追い出された。


「ああ、かわいい…しすせかわいい…」


「良かったっすね」


語部は今日もクラスの中心であるさしすせカルテットを見てにこにこしている。コイツは固定カプ強火坦、というものらしく、五条と桜花が絡むのをそれはそれは好んでいた。
本日は五条が遅れてくるらしく、絡みが見られなくて残念なのかな、と思っていたのだが。
語部は嬉しそうにしすせトリオを眺めていた。


「五条居なくても良いんすか?」


「えっ何言ってんの?さしすせカルテットが笑ってるのを見たいのがオタクの心よ?皆できゃっきゃする中でほんのり恋心を認識していく五条を見るのが五刹の正しい観賞法では????
矢印に気付きたくないせを無自覚なさが追い回すのを見守るのが正しいオタクでは??????」


「お、おう…?」


圧が凄い。
すまん、俺は漫画として呪術廻戦が好きだっただけで、推しとか特に作らないタイプのオタクだったんだ。しかもライト勢だし


「でも恋心を認識した時にはもう原作じゃあ刹那ちゃんが感情縛っちゃった後だし夏油居ないしいつか笑ってって約束するし刹那ちゃん死んじゃうし五条封印されちゃうし渋谷事変はほんと心臓が…」


「落ち着け。深呼吸深呼吸」


「すー、はー……おっけ、落ち着いた」


「それは良かった」


「ねぇ知ってる?この世界の五条はなんか知らんけどヤンデレなの。俺の目玉食べて♡とか電話で縛りかまそうとしたりとか普通にするの。
あと独占欲がヤバいのか刹那ちゃんの全部を知りたいっぽい。
前に泊まりの任務一緒になったんだけどさ、唇美容液塗った刹那ちゃんにキスしまくってた。なんか初めて美容液塗ってるの見たからって口移しで自分にも塗ったっぽい。
突然押し倒して唇ぬるぬる押し付けてるからついに拗らせてカラダから関係始めるのかと思ったよね」


「全然落ち着いてないな?」


「お前に判るか?咄嗟に寝たフリするけどちゅぷちゅぷクソエロい音立てながらリップ塗りやがる顔面国宝のヤバさが。美と美が吐息漏らしながらちゅっちゅしてる絵のヤバさが。
キスされて真っ赤になってる刹那ちゃんにかわいい♡って言ってそのまま同じ布団で寝る五条悟のヤバさが。
そもそも二部屋取ったのになんで平然と侵入してるの???私は空気だった???AVの寝取られモノの彼氏役になった気分でしたけどなにか??????」


「女の子がAVとか言うな」


「悪いか。女だって観るんだよ。
ていうかあんなにエロいキスしといてなんで普通に寝るの?性欲どこ行ったの?何で友達なの?キスフレ?雰囲気とかめっちゃ健全やん?プラトニックが過ぎない?」


「ほら、此処はジャンプだから」


「他の連載なんか最近はもっと過激な行為してんぞ。清々しい程に性の匂いがしないよね。恋愛初心者?かわいいかよ」


俺はお前のかわいいが判らない。
取り敢えずうら若き女子が真っ昼間からエロいを連呼しないで欲しい。
でもこうやって話し出した語部はなかなか止まらないのだ。
マシンガントークを止めるとしたら、語部の意識が逸れた時だけ。俺の胃がかわいそうなので、どうにか上手く気を逸らす事は出来ないか。
視線を彷徨わせていると、遠くからドスドスと荒い足音が聞こえてきた。
誰だこれ、近付いてくるな。
ぼんやりと考えていると、扉が飛んだ。


「は?」


正確には扉が屑紙みたいにくしゃっと丸められ、床に落ちたのだ。
えっなんだこれ。敵襲?
エグい音を立ててコンパクトになった扉ががあん!!!!とこれまた鼓膜に優しくない音を立てて窓ガラスを突き破った。
鼓膜が死んだ。
遅すぎるが耳を塞ぐ。語部は死んだ。
既にしっかり耳を塞いでいたしすせの目は死んでいた。


「はーーーーーーっっっっマジでクソだわ!!!!!五条はクソ!!!!!!!!!!」


自己紹介しながら五条が教室に入ってきた。丸くなった扉でサッカーしたのはこいつ。ドスドスと荒っぽく教室に入ってきたと思ったら、壁に蹴りをぶちこんで亀裂を刻んだ。
いや待って?脚力可笑しくない??その細い脚の何処にそんな力あったの???


「頼むから来てくれって言うから帰ってやったのに?またずらっと雌猿が並べてあって?また懲りずに母胎品評会開催してて?
悟様がお決めになられないので此方で婚約者を選んでおきました?本日中に種を仕込んで下さい?
それが出来ないのであれば高専を退学させます?え?なんでオマエにそんな権限あると思ってんの?
婚約者がどうしても嫌なら高専で悟様が囲っている女共に種を仕込めば良いではありませんか?は??
片方は良い胸ですしもう片方は良い脚ですね?呪力も豊富ですしどちらも良い胎になるでしょう?はあ?????」


恐ろしくひっっっっくい声で念仏の様に唱える内容が只管にかわいそう。
何それ扱いが完全に種馬。そして堂々と同級生がセクハラされてる。
しすせは無言で耳を塞いでいた。
察した。あ、こりゃ第二波来るんだな。
俺が耳を塞ぎ直した瞬間、五条が吼えた


「てんめぇふざっっっっっっけんな俺の親友穢らわしい目で見てんじゃねぇぞバーーーーーーーーーーーーカ!!!!!
大体俺の傍に居る奴等見たらテメーらが選抜したオオサンショウウオ共じゃ近付きたくもねぇって何で気付かねぇの!?馬鹿なの!?ああウン馬鹿だったなオマエら頭の中蛆沸いたメロンパンだもんな!!!墓に帰れ墓石は彼方です走ってドウゾ!!!!!!
つーか今更何言ってんの???硝子と刹那が可愛いのは当たり前だろ!!!!
毎日スキンケアとか柔軟とかヘアオイルとかボディクリームとかクッソめんどくせぇ事頑張ってんだぞテメーらそれを知らずに乳と脚が良いですねぇだぁ!?見んな!!!硝子も傑も刹那も俺のモンだ!!!!!!!」


あっ待って、桜花と家入がぷるぷるしてる。
夏油はバイブレーションかかってる。あれは爆笑してるな?照れてぷるぷるしてる女子を笑ってるぞアイツ。


「そもそもオオサンショウウオに人間の遺伝子が継げるか!ミミズ人間が産まれるだけだよ!!相伝ガチャも全部ミミズ!!ミミズ増やしてどうすんだ家で畑でもやんのか後先考えてガチャ回せ!!
大体何件来るんだよエア子供!!俺は童貞だって言ってんだろ面白い冗談ですねじゃねぇんだよクソジジイ!!!!まだちんこ使ってねぇよ綺麗なままだよ!!!!
あーあー着物柄の変な魚持ち込むな池に捨てとけ錦鯉に食わせろ!!ダース数えのガチャ台なんか押し付けんな他所に持ってけ俺に魚姦の趣味はねぇ!!!
でしたらやはり此方に子種の提供をじゃねぇんだよビーカー出すなクソジジイ!!
種馬扱いすんなって言ってんだろ五条悟は人間です!!!テメーら猿の用意した魚とはぜってー交尾しませーーーーーーーん!!!!!!
つーか前もテメーの頭で割ってやっただろうがいい加減学習しろハゲ!!もっかいテメーのハゲ頭で割ってやったんだから今度こそ覚えやがれ!!!
次やったらテメーの首捥いで花瓶にしてやっからな!!!!!」


吼えながらガンガン壁を蹴ってる所為で、とうとう崩れる様に穴が空いた。
それでも長い脚は壁をしばき続ける。
もうサンドバッグ吊るせよ…教室がかわいそう。


「ハイハイ右からオタマジャクシこけしサナギヤモリカナブンコガネムシにダンゴムシ!!!
虫ばっか揃えてんな夏休みのガキか!!虫取網に入った奴並べてンじゃねぇよせめてカブトムシ見付けてこい!!!
はじめまして未来の妻です♡じゃねぇんだよ誰だサナギを畳に置いた奴!!!喋ってんぞ研究所に持ってけ!!!
呪力も術式も顔面も雑魚な癖に私家事出来ます♡じゃねぇんだよ!!
寧ろそれしか伸ばせるトコねーから百円ぽっちのダンゴムシを二百円にする為に家事出来る様にしたんだよ気付け!!!
お茶会はお任せ下さい♡じゃねぇんだよオタマジャクシテメー茶器の中で泳ぐ気か焼け死ね!!!
この娘は安産型ですね良い尻だぁ?


俺 が 知 る か よ!!!!


どーっっでも良いわ!!こけしのケツ眺める趣味なんかねぇ!!!まっすぐだろ!!何処に凹凸見付けたんだよジジイ!!寧ろンな目で見るならテメーのうっすい子種でガチャしろよハゲ死ね!!!!
つーかハゲも虫も殺す為にバルサン焚きまくったんだぞ死ね!!!!!!
オマエら虫だろ虫ならバルサン焚いたんだから素直に死ね!!!!!!!!!!!!」


いや待って?後半普通に殺人計画じゃね???
ドン引く俺を他所に、五条は文句を出しきったのかぜーはーと荒い息をしつつも静かになった。壁は大破。見事にお外がこんにちわしている。とてもかわいそう。
ひょろりとした背を暫し見つめた桜花は残り二人とアイコンタクトを取ると、ゆっくりと立ち上がった。


『お疲れ様、悟』


「………刹那…」


『ほら、座ろ。悟の好きなお菓子沢山あるよ』


「お疲れ、悟。大変だったね」


「おつかれー。何飲む?色々あるぞ」


五条の手を引いて席に着かせると、桜花はその膝によいしょと座った。細い腕が五条を抱き締めると、口許をもにゃりと緩ませて、五条も桜花を長い腕で包み込む。
家入が五条の頭を撫で始め、夏油が彼のサングラスを外してオレンジジュースのストローを向けた辺りで語部が復活した


「かわええ……さしすせカルテットかわええ………」


生き返りはしたが変な鳴き声になった。
やはりお前のかわいいは判らない。


「バルサン地下までしっかり焚いたんだ…これでもう虫と魚まみれのゲテモノバーゲンセールに行かなくても良いよな?」


「入念に焚いたね。退学云々は大丈夫なのか?」


「あのジジイにんな権限ねぇよ。それに今回は脅しとして家を少し壊した。退学なんて手を取れば次はオマエらがこうなる番だってな。
フン、年食っただけの老いぼれが偉そうな顔してふんぞり返ってんなっての」


やってる事が普通にこわい。
え?お見合い潰す為に地下までしっかりバルサンしたの?人相手に???大丈夫???五条悟人として色々大丈夫???
いやそもそも人を虫だの魚だの言う辺りでアウト。相手は人間ですバルサンは駄目。
しかも退学ちらつかせただけで家が見せしめに潰されるという。
いや、どんな環境で育てばこんなかっ飛んだ手段を躊躇いなく実行する子が育つの?五条家?それなら自業自得だわ。鶴の恩返しならぬ鶴の仇返しかな?
織物の代わりにバルサン準備すんの?嫌だよ怖ぇよ


「女なら直ぐ子種仕込めーとか言い出すよな呪術界のジジイって。頭ン中子作りと金しかねぇの?馬鹿じゃん」


『まぁ私も硝子もオッサンの縁談ばっかだしね』


「アンタのお陰で断りやすくなってるけど、やっぱり金と権力でゴリ押しするトコはあるよね」


「はぁ?どこのクズだよそれ。あとで全員釣書持ってこい。確認してからキャンプファイヤーすんぞ」


「『「はーい」』」


良い返事をしたかと思えばスンッと女子が表情を消した


「てか男共はまだ良いじゃん。相手のご令嬢はまだ見た目に気を遣ってるだろ?私らに来る見合いの奴等、デブハゲ年上は勿論視線でセクハラかましてくんぞ」


『喋ったら喋ったで可愛いね、具合は良さそうだよねとか言うぞ。あいつらセクハラしかしない』


「さぞかし触り心地の良い胸だろうねって開始早々セクハラかまされた私の話する?」


『君は褥で美しく啼く金糸雀だねって斬新なセクハラされた私の話する?』


「燃やそう。硝子、刹那、そいつらの名前教えて。燃やすから」


「悟、ステイ!二人も悪ノリしない!」


『「はーいママ」』


「てえてぇ…てえてぇよぉ……」


「あれが??????」


とうとう拝み始めた語部に引いた。
セクハラ被害に怒って燃やそうとするあれが??????尊いの?????大丈夫????
そもそも同級生女子を抱き締めてるのはセクハラじゃないのか?え、良いの?合意があるから?


「そういや伏黒先生からお菓子貰ったよ。食べる?」


「珍しいね、誰かあの人にお金あげたの?」


「パチンコの景品だけど、この間私がチビ達の面倒見たからだろ」


「へぇ、津美紀ちゃん達泣かなかった?」


「んなヘマするか。寝かし付けたわ」


「刹那、ポッキーゲームしよ」


『いきなりだな』


「負けたら何でも言うこと聞くヤツ」


『王様ゲームかな?』


桜花の意見をまるっと無視した五条が小さな口にポッキーを突っ込んだ。


「よーい、スタート」


『オア……』


「はーい俺の勝ち♡」


五条は二口程でプレッツェルまで食べてしまった。
妙な声を漏らした桜花に新しいポッキーを与えながら、夏油が苦笑する


「意地悪だな。あまり苛めると嫌われるよ?」


「あ゙?」


きっと何気ない言葉だったんだろう。俺も今の夏油の言葉に妙な匂わせは見付けられなかった。


しかし奴は────五条悟は、違ったらしい。


にまりと笑っていた顔から、急にすとんと表情が抜ける。
あまりにも急激な変化。
ひえ、と間抜けな声を漏らしたのは誰だったか


「刹那が俺を嫌いになる?
有り得ないよね?有ったらいけない事だよね?
だってオマエらが俺に愛を教えたんだよ。オマエらが俺を愛したから、俺も愛そうと思ったんだよ。愛したいって思ったんだよ。
よく言うよね?自分の行いには責任を持ちましょうって。
じゃあオマエらは俺に愛を教えた責任として、生涯俺を愛さなきゃいけないよね??????」


唐突に病んだ。
いやそれ愛が重い。押し付けでは?
愛を教えたら生涯愛さなきゃいけないの?お前は観用少女か何か?愛さなきゃ枯れるの?見た目はミルク以外を摂取した観用少女っぽいけども。
それにしても無表情な美人って迫力あり過ぎこわい。
かっ開かれた六眼がギラギラしてて瞳孔もガン開きでとてもこわい。
何よりひっっっくい声が平淡に愛を吐き出すのがこわい。夢に出そう。


「はーい、質問でーす」


ガチで怖い男に向かって家入は普通に手を挙げた。
嘘だろ怖くないの?何で夏油は普通に飲み物飲んでるの?桜花もうわ…って顔しつつポッキーもしゃってんの?
お前ら可笑しくない???


「なに、硝子」


「私は彼氏作ったり夏油も彼女だったりオトモダチが居たりするだろ?そこら辺どうなの?セーフ?」


「セウト」


「その心は?」


夏油の問いに、真っ白なバサバサ睫毛を上下させ、五条が口を開いた


「別にオマエらが誰と付き合っても良いよ?セフレもワンナイトも全然オッケー。子供もどっかで適当にこさえたって良い。でも、俺よりそいつらを優先させるのは駄目」


「んー…具体例は?」


「今日彼氏とかセフレに会うから飯一緒行けねぇとかは許す。でも俺がどうしても一緒に居てぇって時に、その他大勢を優先するのはアウト」


『……つまり悟にしか基準が判らないの?』


「うん」


「『「うわ……」』」


自己中の極みかな?
桜花を抱え込みながら、五条はゆらゆらと椅子を前後させた。


「だって判んねーもん。愛してるから相手の一番になりてぇってのは普通じゃねぇの?俺がオマエらの一番になっちゃダメなの?俺はオマエらを一番に考えるのに?なんで??」


いやそれもなかなか暴論では?
所謂情愛の類いでは?え、五条悟恋愛の方で三人共好きなの?
恐々見守る俺の前で、平然と家入が問うた


「じゃあお前私とヤれんの?」


「えっ」


「いや何でお前が動揺してんだよ夏油。つーかお前も一緒。五条、お前夏油とヤれる?」


「「えっ」」


夏油が飲み物を噴いた。それに汚ぇなと毒吐いて、家入がタオルを投げ付けた。めっちゃ男前だけど大体お前の所為。
言われた五条は目を丸くして固まった。それからじいっと家入を見て、夏油を見る。夏油の冷や汗が凄い。頼むやめてって吹き出しが見えるレベル。そりゃそうだ、軽率に薔薇の扉を親友が開かされてるんだから。しかも相手は自分。軽率に地獄。とてもかわいそう。


多分、想像したんだろう。
白い顔が赤くなって、それからさーっと青ざめて。


「……………オ゙ッ゙エ゙ーーーーーー!!!!!!!」


絶叫した。
家入はすかさずうるせークズと悶える白い頭をひっぱたいた。
この世界ほんと女が強いな。そして五条が叫んだのはお前の所為。


「なんで??なんでこんなひどいことするの???おれしょうこになんかした??こないだのみやげきにいらなかった??」


『待って、パパちょっと待って。悟泣きそう』


「泣かせろそんな奴」


「パパが厳しいな」


「ママが何だかんだ笑って許すからだろ。お前は飴、私は鞭」


「テディちゃんは?」


「生贄」


『パパ??????????』


「目がマジじゃんウケる」


ぎゅうううううと抱き込まれながら真顔で桜花が家入を見た。
首筋に顔を埋めてくる五条をあやしながら桜花は生贄を訂正しろと視線で叫んでいた。パパもママも笑顔で流した。世は無情。
ぐりぐりと鼻先をテディベアに押し付ける五条の頭をくしゃくしゃと撫でながら、家入が口を開いた


「何でもかんでもお前の基準で決めんなって事。今確認したろ?性的交渉を持てない、または持ちたくないって事は、私と夏油にお前が向けてるのは友愛。情愛じゃない。
それならせめて、その愛の範囲で許される基準を考えな。
それで良い案出せば私達も受け入れるから」


「………」


のろのろと顔を上げた五条に、家入は仕方ないと言う様に表情を緩めた


「確かに私も夏油もお前に甘いからな、恋人よりお前を優先する事も多いだろうよ。でもお前がアウトラインを曖昧にして、それを私達に強要するのは違う。
前から言ってんだろ、私達は友達であって、支配する側とされる側じゃない。拒否権があるの」


「…………おれをきょひすんの?」


「短絡的だなお前、頭良いんだからちゃんと考えろ。私達が大事なら、私達としっかり話し合いしましょうねって事だよ。
友愛ってのは基本的に人間性のリスペクトとか好ましさから成り立つ感情だ。
それを一方的な押し付けなんかで無くしたら、今みたいに皆で馬鹿やって笑えなくなるよ。そんなの嫌だろ?」


「やだ」


…完全に子供に言い聞かせる親の図だが絶対に突っ込んではならない。
ぐしゃぐしゃと綺麗な髪を撫で回し、家入はあたりめをつまんだ。


「自分が捧げた分だけ同じ熱量を返して欲しいと望むのは人として当然の事だよ。ちゃんと人間らしくなってきてんじゃん、良い事だ。
でも五条が望んだ感情を、相手が100%同じ量で返してくれるとは限らない。
だから、アンタが今学ぶべきは妥協だ。
感情の100%の等価交換は起こり得ないんだって考えろ。
相手が100%のつもりでも、お前からしたら30%かも知れない。そう感じて、何でってしんどくなるのはお前だよ。
だから等価交換じゃないって理解しろ。今は納得出来なくて良いから、覚えとけ。
人間なんて直ぐにフラフラ揺れ動く。それは勿論私達にも当て嵌まるんだ。
もしかしたら私が恋愛を大事にするタイプかも知れない。夏油が私達より恋人を大事にするかも知れない。
知らねぇよ?今のところ私もコイツもそうじゃないから。
それでも、何時か一番じゃなくなるにしても、今は私達はそれぞれを一番にしてる。
それが変わる不確定な未来を怖がるんじゃなくて、今を目一杯楽しみな」


「「『パパ………』」」


「可愛いのが娘しか居ねぇ」


あたりめを齧りながら家入が笑った。
凄ぇ、考え方が大人。ぶっちゃけ転生者ですって言われても納得出来る。
語部はてえてぇって鳴いてた。拝むな。見られたらどうする。


「そうだパパ、今年の賭けはまだだったよね?」


「ん?…あー、あれね?夜蛾の方針としては今年で理解させるって腹積もりみたいだけど」


「じゃあ私は今年で把握する、に賭けようかな」


「へぇ?綾波レイ(ポンコツ型)をあんま買い被んなよ。私は今年も把握出来ないにしとくわ」


「何の賭け?」


『うん、悟は知らなくて良いかな。あ、何食べたい?この間美味しかったシュークリーム入れてあるけど、食べる?』


「食べさせて」


『はいはい』


突然謎の賭けを始めた二人と、笑顔で五条にシュークリームを食べさせ始める桜花。普通にカオス。
取り敢えず俺が把握したのは、五条悟の情緒はジェットコースターって事だけだった。











死ぬまで(死んでも)責任取ってね♡










黒川くんのイメージはアトランティスのマイフレンド。
しすせは「やべ、スイッチ入った」と思ったので黒川くんみたいにガクブルしませんでした。
因みに去年の賭けは今年中にヤるかどうか。
ヤるに賭けていた硝子が負けたので、高級土産を献上しました。

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