ごきげんよう、語部です。
前回のさしすせ愛情講座が最高過ぎて私は無様なてえてぇバードになりました。
五条唐突に病むね?硝子ちゃんイケメン過ぎない?ヤバいね?私とヤれんの?発言で五条が受けだったのは私だけじゃない筈。かっけぇ姉御抱いてー!!
黒川は終始ガクブルだったので、あいつには近々さしすせカルテットを布教する所存。此方の沼は温かいぞ。おいで、引き摺り落としてあげようね。
『あ、これ硝子似合いそう』
「私も刹那に合いそうなの見付けたよ」
『見てみて、語部さんこれとかどう?』
「ヒエッ、カワイスギテムリ」
「なんだその片仮名」
現在私は所謂ショッピングに来ていた。
推しと、三人で。
良く見て欲しい、推しと!!!三人で!!!ショッピング!!!!!
待って死ぬ硝子ちゃんめっちゃお姉さんだし刹那ちゃんもクール系美女だしなんだこれ国宝??????
私は何故国宝とショッピングしてるの?護衛?もう護衛で良い。国宝の移送。いや何処にだよ馬鹿これだからオタクは。
だって推しに女の子だけで買い物行かない?って聞かれたら頷くよね???断れる筈ないよね???
たとえ刻一刻と推しの供給過多で命を削られる定めでも!!!!
『うん、語部さん色白いしそのリップ映えるね』
「そ、そうですか…?」
「良いじゃん。あ、刹那このマニキュア良いんじゃない?」
『わぁ、綺麗な水色。あれかな、手の爪は直ぐボロボロになっちゃうし、脚の爪に塗ろっかな』
「良いね。あの馬鹿はどんな反応するかな」
『……脚掴んでとったどポーズされそう』
「そのまま脚ガン見しそうだよね」
「うわぁ……」
刹那ちゃんを舐める様に見る五条は簡単に想像出来る。というか普段がそれ。三人の僅かな感情の機敏さえ逃したくないのか、彼は教室では良くサングラスを外していた。キラキラした六眼は何時でもトリオをロックオン。このまま何も見落とさずに過ごしてね…呪詛師堕ちやめてね…
ショッピングを楽しみ、お茶でもしようと近くのカフェに入った。
そこで思い出した、と言わんばかりの顔で刹那ちゃんが口を開いた
『そういえばさぁ、最近めっちゃごじょるんだけど何で?』
「私めっちゃげとるよ。アレじゃね?一年入ったばっかだから」
『あー……中身知らない系?』
「そうそう。そんで、中身見てそんな人だと思わなかったわ!って言うタイプ」
うんざりと言わんばかりの顔で話す二人だが、ちょっと待って欲しい。
ごじょるとげとるisなに??????
五条悟の略?夏油傑の略?
なんか動詞っぽい使い方だったよ?面白いけどなに???
目を瞬かせる私に気付いた硝子ちゃんがどうした?と声を掛けてくれた。泣きボクロめっちゃセクシーですね
「いや、ごじょるとげとるって何かなって…」
「ん?…ああ、アレだよ。あいつらの顔に釣られた女共のマウント」
『五条先輩と別れて下さい!とかね。いや、付き合ってないんだわ。アピールならどうぞご自由に』
「夏油先輩も迷惑してます!とか?いやお前アイツと話した?私らアイツらの親友ですけど?」
『ほんとそれ。どうせ悟にウゼぇぞ雌猿!って一喝されて泣くヤツ』
「そして私らにヘイトが集まる」
『「あーやだやだ」』
同じタイミングで肩を竦めた二人にオタクはついキャっキャしてしまうんですがこれは病気ですか?そうですね。強いお薬出しときますね。
刹那ちゃんが溜め息混じりに頬杖を付いた
『大体さぁ、悟が性格良い様に見える?銀髪サングラスとかもう完全ヤンキーじゃない?』
「夏油も大概だろ。長髪ボンタンピアスだぞ?しかも笑みが胡散臭い」
『いや傑は笑っとかないと目付きが』
「ああ、真顔キツめだっけ?五条もじゃない?」
『あいつの無表情は怖い。まだ不機嫌顔の方がマシ』
「かっ開き六眼のガン開き瞳孔ヤバかったね」
『やめてくださいトラウマです』
「感情の起伏のない低い声ヤバかったね」
『やめてくださいトラウマです』
「ウケる」
頭を抱える刹那ちゃんとケラケラ笑う硝子ちゃん。とても絶景。此処はサンクチュアリだった?
『この間は硝子居てくれて助かったよ。私と傑じゃ多分押しきられてたし』
「お前らはアイツに甘すぎなんだよ。ああいう地頭良い上に舌が回るタイプは、此方が攻めあぐねると一気に詰めてくるぞ」
『テディちゃんも恋とか出来るのかな』
「無理。六眼かっ開きの瞳孔ガン開きで俺より猿を選ぶの???って圧掛けられて終わり」
『オア………………』
とても想像しやすいですね。
呻き声を上げた刹那ちゃんはコーヒーを口にして、問いを投げた
『大体さぁ?異性ってどうやって好きになれば良いの?』
「あれ、実は恋愛ベタか?アンタモテるのに」
『呪術師からモテたって胎目当てじゃない。
ぶっちゃけ誰かに好きーっ!!これが恋!?ってなった事ないわ。桜花は性格悪いジジババとオッサンオバサンの巣窟だし。
正直同年代って硝子達が初めて』
「えっ」
思わず声を漏らした私に刹那ちゃんは笑った。
『そうだよ?私小中通ってないからさ。正直悟よりも近い年代と接してない自信がある』
「まぁアイツは分家とかあるし、小さい頃からお見合い祭りだっただろうしな」
「それでこんな天使が産まれるの…?」
「おいテディちゃん、天使だってよ」
『天使の羽根生えたテディベアかな?』
「パルックは?」
『100均で買っちゃう?』
「ラッパも買うか」
ケラケラ笑っているが私は本気である。
え?同年代の居ない呪術師家系からこんな良い子が生まれたの?遺伝子の奇跡?
確かにファンブックには五歳の時に一般家庭から買われたって書いてあったけど、それまでに培った感性を今までずっと保持し続けてきたって事?
────控えめに言ってイカれてない?
だって、味方なんて居ない呪術師の家でずっと洗脳されてたのに、それを跳ね退け続けたって事でしょ?
それってどんなメンタルしてんの?私なら無理。だって人が洗脳されるのは、楽になりたいからだ。
その主張に逆らって精神的にも肉体的にも辛い思いをしたくないから、それにもう耐えられないから、人は洗脳を受け入れる。
なのに、刹那ちゃんは耐え抜いた。
呪術師の家で、一般的な感性を護り抜いた。独りぼっちで、何年も。
異常の中で平常で居続ける事は、異質だ。
ああ、彼女もやっぱり呪術師らしく“イカれ”ているのだ。
『よし、そろそろ行こっか。次何処行く?』
「あ、この間香水専門店出来たらしいよ。そこ行きたい」
『オッケー。語部さんは?行きたいトコある?』
「お二人の行きたいところへ何処へでも参る所存…」
「武士かよウケる」
『やっぱりめっちゃ面白いな語部さん』
もうね、推しが笑ってくれるならそれで良い。私はお二人のボディーガード。さしすせ箱推しの刹那ちゃん最推しオタクです。
二人と色んな店に行って、お茶して、プリクラ撮って、そりゃあもう楽しかった。プリクラは家宝にしたい。美人が天元突破してる。
だが最後、このイベントは要らんだろう
「ねぇ、ちょっと時間ある?一緒にお茶しない?」
ナンパイベント要らねーーーー!!!!!
何でだよ!幸せなまま終わらせろよ!!ブサイクはお呼びじゃねぇんだよ!!!せめて二人に見合うイケメン連れてこいよ!!!!
華やかな通りで私達を囲うのは四人のチャラ男。
多分イケイケ系なオニーサンなんだろう。でも毎日教室で顔面国宝を拝んでいる身としては霞んで見える。
顔面国宝と塩顔超絶イケメンとつるんでいる硝子ちゃんと刹那ちゃんは尚更だろう、顔にめんどくせーって書いてあった。
硝子ちゃんを肘で小突き、刹那ちゃんが小声で言う
『ちょっと硝子ちゃん、幾ら美人だからって何でも惹き付けるのやめな?』
「ちょっと刹那ちゃん、幾ら可愛いからって何でも惹き付けるのやめな?」
『いや私はないから……ああ、語部さんか』
「軽率にビューティージョークに平凡顔混ぜるのやめて???????」
「んっっっっふwwwwwwww」
『ビューティージョークってなにwwwww』
美少女二人が一気に使えなくなった。これはやべえ。
てかなんでこの二人ナンパシカトしてコント始めたの?仲良しでかわいいね?
「二人共めっちゃ美人だよね?幾つ?高校生?大学生?」
「はー笑った。…ああ、私ら時間ないんで」
「ええ?少しぐらいなら良いっしょ?」
『すみません、帰らないといけないので』
「何で?今すぐって訳じゃないっしょ?遊ぼうよ」
いやしつこいな?無理だって言ってるのにしつこいな?
というか私を然り気無く後ろに下げて護ってくれる二人がイケメン過ぎない?一生推す。そしてナチュラルに私をシカトするコイツらクズ過ぎない?一生死ね。
溜め息を吐いた硝子ちゃんが歩き出したので、刹那ちゃんに手を引かれる形で私も続く。
推しに!!!手を!!!!引かれている!!!!!!
あああああああもう手を洗えない…何時もと違ってポニーテールにした黒髪がツヤッツヤできれい…はわわ、きれい……オタクすぐ語彙力死ぬ……
「ねぇってば!!置いてかないでよ!!」
「連れじゃないんで」
「ちょっとで良いんだってば!!ね!?」
『そろそろしばく?』
「いいね」
「いやいやダメでは?」
するりと細い指が撫でたのは左足のホルスター。あ、ハリセンするんですかね流石にダメでは?一般人に鉄扇ビンタはダメでは???死なない????
『お兄さん達、あんまりしつこいと警察呼びますよ』
「えー?俺達キレーな子とお茶したいだけだって!!君達が頷いてくれればオッケーじゃん?」
「そんな意地張ってないで行こ?そっちの子も一緒で良いからさ」
チャラ男の一人が私を見ながらそう言った。
その瞬間、は????と呟きが聞こえて思わず耳を疑った。
今のってマイエンジェルの声では???
『はーい無理でーす。私の友達ついで扱いしたな?もう無理。サヨウナラ』
静かにそう告げて、刹那ちゃんが男達からは見えない様に印を組んだ。
するとチャラ男達は突然進めなくなって、転んだ。
良く見れば足許、靴の先が凍り付いていた。
無様な男達を鼻で笑って、刹那ちゃんが微笑んだ
『走ろっか』
「おっけー。競争する?」
『バス停まで?』
「待って私に不利では?バフありですか?」
「私と語部はバフあり。刹那はナシ」
『待って私に不利では?』
「よーいどん」
『ええええええ嘘でしょ硝子ちゃん!?』
硝子ちゃんが走り出して、私と刹那ちゃんも続く。
キラキラした街を走りながら、可笑しくなって皆で笑った。
……待って刹那ちゃんもしかして私の事友達って言ってくれた?まってまって死んじゃうからやめてせめて静かな場所でもう一度聞かせて録音するから(迫真)
────そこまでは良かったのになぁ!!
厄日かな!?今日は厄日!?!?!?
異性関連で地獄です☆の日なの!?可笑しくない!?確率イカれてない!?神様急に有給休暇とるの止めなってあれほど言ったでしょ!?!?!?
「五条先輩に近付かないで下さい!!」
「夏油先輩も迷惑してます!付き纏うのはやめて下さい!!!」
高専の門を潜った私達を待ち受けていたのは、明らかに転生しました〜ピンクの髪と緑から黄色のグラデーションヘアーを添えて〜のタイトルが頭上に浮いてそうな可愛い系女子二人だった。
見た瞬間に察した。二人の目が一瞬で死んだ
『ちょっと硝子ちゃん、私ナンパからのごじょげとるとか聞いてないんですけど?』
「私だって聞いてねぇよ。聞いてたら時間ズラして遊んだわ」
『だよねー。今日絡まれ過ぎ、星座最下位?』
「マジそれな。どうせならナンパもコレもなくこのまま女子会したかったってのに」
舌打ちした硝子ちゃんの圧よ。
というかマジで何でこいつら軽率にマウントかますの?どうせこの頭は転生者だろ?ドギツイピンクとかこの世界居ないぞ?どうせ地毛だろ?そっちのグラデーションも地毛だろ?
地毛で目立つのは転生者、モブ知ってる。
ついでにコイツら目の色もピンクと赤。個性で殴るな目がいてぇ。
『で、何用ですか?一応私達先輩ですよね?五条と夏油が何か???』
「お、かましていくじゃんテディちゃん。おこなの?」
『皆でお話し出来る時間を意味もなく削られてると思うといらっとした』
「ああ、語部も混ぜて話す事そうそうないしね」
「えっ、拙僧の為…?」
「拙僧wwwwwwwwwwwwwwwwwww」
『なんで急に拙僧wwwwwwwwwwwwww』
やっべ、オタクすぐ一人称ぶれる。
うっかり溢した言葉に二人が噴き出した。
「何笑ってるんですか!?」
「私達は五条先輩と夏油先輩に付き纏うなって言ってるのよ!!聞いてんの!!!?」
『うわ、めっちゃ気ぃ強いじゃん。ねぇ硝子、歳上には最低限敬語を使いましょうって社会のルールじゃなかった?』
「社会っつーか人間として大事にすべきルールだろ。初っ端喧嘩売っていくスタイルはクズの専売特許」
明らかに上から威圧してきたからだろう、刹那ちゃんが目が笑っていないまま口角を吊り上げて、硝子ちゃんが鋭く目を眇めた。
「もうめんどくせーから言うぞ。文句があんなら本人達に言えよ。私らはただ楽しいからつるんでるだけだ。
付き纏ってねぇし部外者にとやかく言われる筋合いもねぇ」
「はぁ!?私知ってるんだから!!この間夏油先輩に荷物持ちさせてたじゃない!!」
「任務の後に買い物行って何が悪いんだよ」
「夏油先輩嫌そうな顔してた!!」
「私は此方が似合ってると思うよ?ってノリノリで女の服選んできた前髪の話する?」
『めっちゃ煽ってるwwwwwwwwwwww』
「硝子ちゃんつえーwwwwwwwwwww」
平然と返す硝子ちゃんイケメン過ぎない?
これはパパって言われるわ。おっぱい付いたイケメンじゃん。
転生者二人は硝子ちゃんには勝てないと思ったのか、今度は笑っていた刹那ちゃんを睨み付けた
「あんただって!!しょっちゅう五条先輩の膝に乗ってるじゃない!!邪魔よ!!先輩を何だと思ってるの!?」
『バブちゃん』
「wwwwwwwwwwwww」
「それはあかんwwwwwwwwwwwww」
『えー。じゃあ座椅子』
「まじかwwwwwwwwwwwwwwwww」
「それもあかんwwwwwwwwwwwww」
『座り心地良いのに』
「ふざけないで!!五条先輩は六眼と無下限呪術を持ち合わせた至宝なのよ!?本来なら貴女みたいな落ちぶれた家の女が軽々しく話し掛けて良い存在じゃないの!!!」
『はいはい呪術師ってほんとお家マウント好きだよね。つーかそんな風に術式と眼しか見てやらないから、あいつあんな風になったんじゃない?』
「私ら以外皆猿ってな」
そう言えば五条ってしすせトリオ以外猿って呼ぶよね?なんか原作より過激じゃない?
あれでどうやって五条先生になるの?せめて猿呼びやめさせなきゃ駄目じゃない?大丈夫?進化先スカルグレイモンじゃない?
『五条悟は私達の親友です。それ以上でもそれ以下でもございません。
私達にとってはクソ生意気で、でも優しくて、最近私達を一生懸命観察して人間を勉強してる人間歴一年の坊っちゃんです。
以上、帰って女子会してもよろしいですか?』
「っ……あんた達が五条先輩と夏油先輩を洗脳したんでしょ!!」
「そうに決まってるわ!!!」
「いや洗脳されてんの私らだろ」
『闇堕ちを圧倒的闇で叩き潰された私と傑の話する?』
「なにそれ詳しく」
「あれ、語部が食い付いたな」
『女子会で話すね。…なぁ、マジでとっとと帰らせろよ。私達今から朝までオールすんの。あんたらに削る時間勿体無いの。退け』
威圧する刹那ちゃんから感じる五条みと闇堕ちを圧倒的闇に叩き潰された話と五条悟への理解度で白米がうめぇ。
それでもまだギャンギャン吠える負け犬に溜め息を吐くと、あ、と刹那ちゃんが呟いた。
『もう良いや。ヤなやり方だけど、とっとと帰りたいし』
「何すんの?」
『じゃじゃーん。おいお前らコレ見ろよ』
刹那ちゃんは太股のホルスターごと取り外すと、顔の前で掲げた。
怪訝そうな二人を見据え、菫青が煌めく
『これは、貴女がたのだーい好きな五条さん家の家紋が入ってまーす。そして色は五条さん家の次期当主のもの。
つまり私は五条悟のお気に入りでーす』
「「え」」
『さぁやるぞ。────この紋所が眼に入らぬか!!!!』
「wwwwwwwwwwwwwwwwwww」
「水戸黄門wwwwwwwwww」
『ほら助さん格さん位置について!』
「どこだよwwwwwwwwwww」
「もうやめてwwwwwwwwww」
面倒な修羅場が一気にコント会場になった。さしすせカルテットは何でこうも手を変え品を変えでコントするの?女子高生が水戸黄門ごっこってなに????
笑うじゃん。普通に無理。青ざめてる転生者二人がとてもかわいそう。
顔色の悪い後輩とホルスターを掲げる女子と爆笑する女子二人と言う大変カオスな現場。
何時までも続く地獄に突然、低い声が割り込んだ
「何してんの、水戸黄門?」
『一発で通じたwwwwwwwwww』
「なんでだよwwwwwwwww」
「ひいwwwwwwwwwwwwww」
「ご、五条先輩…!!」
「あ、あの、これは…」
しどろもどろになる転生者に構う事なく、家のある方向から歩いてきた彼はホルスターを付け直した刹那ちゃんの髪をするりと指先に巻き付けた
「可愛いじゃん。お出掛けしたの?」
『女子チームでお買い物。今から朝まで女子会します』
「は?俺聞いてねぇけど」
「お前男じゃん」
「サト子とスグ子も誘えよ寂しいだろ」
『女子とは』
「ママ(♂)が通るならサト子もイケんだろ」
「随分ムサい女だな」
「ねぇ刹那ちゃん、パパの当たりキツいんだけど。何で?」
『今ごじょってげとってるからかなぁ』
「あ?……ああ、そういう」
そこで漸く認識したと言わんばかりの顔で、五条は転生者に顔を向けた。
意識を向けて貰えたと顔を明るくさせる二人を静かに見下ろして、サングラスをゆっくりと外した五条はかくりとぎこちなく首を傾げる。
そこに先程までの人間らしさは欠片もなく、なまじ見た目が整っている所為で無機質な人形にさえ思えた。
すらりとした人影から発される冷たい威圧感に、ぞわり、と肌が粟立つのを感じる
「オマエら、何?刹那と硝子に何か用?」
「ご、五条先輩に付き纏っている様ですので、やめる様に説得を…」
「────へぇ?」
こっっっっっっわ。
すとんと感情が抜け落ちた、低い声。
ちらりと目を向けると刹那ちゃんが非常に虚無。硝子ちゃんは顔に逃げてぇって書いてあった。
白くてすらりとした指がするりと刹那ちゃんの細い顎を撫で、リップで艶めく唇に触れた。
つつ、と指先が光沢をなぞり、はっ、と薄い唇から吐息の様な笑い声が溢れた
「洗脳。洗脳、ねぇ?
じゃあさ、毎晩毎晩寝室に引き摺り込んで、俺達とオマエの命以外に価値なんてないんだよって刷り込む俺のこれは何て言うの?説教?説法?託宣?神託?…ああ、俺がコイツの神様になっても良いのか。
……覚えとけ。コイツを洗脳してるのは俺だよ。
桜花刹那の思考を染めて、何れは頭の天辺から足の先まで俺の色に染め上げる。他の色なんて許さない。必要ない。
コイツは俺のものだ。
硝子も傑も刹那も俺のもの。
だから────俺の大事な三人に手を出せばそれは俺への反逆だと思え、雌猿」
ゾッとするほど低い声が耳朶を打つ。
あまりの圧に耐えられなかったのか、ピンクの髪が先に逃げ出した。グラデーションも涙を流しながら踵を返す。
敗走する二人の背を色のない目で見つめると、五条はゆっくりと刹那ちゃんを見下ろした。
それから氷の様だった美貌が、ぱっと色付く
「厄介事終わらせたぜ?褒めて♡」
『…平然と洗脳を仄めかす五条悟』
「平然と将来の完全洗脳を仄めかす五条悟」
「アカンやつでは???」
お病みあそばされてない?大丈夫?オタク的にはヤンデレ五条全然オッケーだけど。こう、リアルで洗脳って大丈夫?とか思う訳で。最推しが良いなら良いよ?けど刹那ちゃん虚無ってんの。
これからのヤンデレに虚無ってんの。逃げられないだろうけど。
『なんだろう、悟は闇で全部押し潰していくタイプだね』
「?褒めてる?」
『ウン。ホメテルヨ』
「そっか。なら良いや」
笑った五条がひょいと刹那ちゃんを抱き上げた。
闇堕ちも悪意も全部圧倒的闇で押し潰すスタイルらしい五条は、刹那ちゃんを抱えたまま此方に目を向けた。
「硝子と………語部、早く来いよ。女子会すんだろ」
「お前女子だっけ?」
「サト子でーす♡何処でやんの?寮の部屋?」
『そ。私達の部屋完全に引き払う事になったから、お部屋お別れ会としてそこでやる』
えっ、五条悟今私を認識した???初めて名前で呼ばれたぞ?今まで眼鏡だったのに。
あれか?お二人を笑顔で連れ帰ったから?有象無象の猿から名前付きの猿に昇格した?
驚く私の背中をぽん、と硝子ちゃんが叩いた。
にっと笑って、前の二人には聞こえない様に囁く
「良かったね。名前で覚えれば猿から半猿になるのは早いよ」
「何ですかその猿制度」
「私達、半猿、それから猿。それが今の五条の人類の認識だから」
「ほぼ猿……」
「そ。アイツ猿の惑星で生きてんの。ウケるでしょ」
くすくすと笑って、それから硝子ちゃんは緩く苦笑した
「これでも大分緩和してるんだよ。最初はオマエら以外どうでも良い、の一点張りだったから」
「……大変だったんですね」
「ほんとそれ。まぁ、楽しいから良いけど」
刹那ちゃんを抱え、何故かけんけんぱを始めた最強に硝子ちゃんは笑う
「多分、今は私らが仲良くしてる人間は半猿にしてやっても良いかな、みたいな感じなんだよ。
私らが選んだ人間なら大丈夫、みたいな。だから黒川も最近名前で呼ぶ。
後輩の七海と灰原もちゃんと覚えてるし、一年はバブちゃんみたいなもんだから、やさしくしてやれって夏油に言われてあいつなりに一年の面倒も見てるんだ。七海は嫌がってるけど」
「夏油くんがほんとにママ…」
「マジでそれな。今度お疲れな私らに何か差し入れて」
「承知致した」
「致すんだwwwwwwww」
噴き出す様に笑った硝子ちゃんは、きゃあきゃあと騒がしい二人の背を見つめて優しく微笑んだ。
「刹那と夏油はアイツの性格矯正したいみたいだけどさ……正直、私は猿呼びさえ隠せばそれで良いと思ってるんだ」
「……どうして?」
「…だって、アイツをあんなに歪めたのは呪術師だろ?」
けんけんぱどころか刹那ちゃんを抱えたまま屋根に飛び乗ったり飛び降りたりしている五条は、とても楽しそうだ。
最早それはジェットコースターごっこ。オシャレした女子にすべき行為ではない。
先程まで表情の抜けた顔で女の子達を見ていた人物と同じだとは思えなくて、私はその姿をじっと見つめる
「アイツの性格は自己防衛の末の人間不信が原型だ。
自分以外に人は居ない。だから判り合えないし、大事にしない。与えられても決して返さない。だって猿が人間に何かを捧げるのは当然だから。
愛情を貰えずに悲しい思いをしたくないから、相手を同じものだと、心を通わせる事の出来る人間だと認識しなかった。
…アイツをそうしたのは五条の家の連中だ。
五条悟の人間性を無視して、呪術師として術式とその眼の使い方だけを只管に鍛えた結果、可哀想に出来上がったのは力ばっかり持ってる寂しがり屋の赤ちゃん。
……世界を壊さずに十五年間生きてたってだけで、五条家はアイツに感謝すべきだよ」
「………………」
「だから、私は外で猿って呼ばなきゃ好きに振る舞って良いとは思ってる。利用しようとしか思ってない奴等に媚びへつらう理由もないし。
それに最近はちゃんと我慢も出来るんだ。私らが嫌がってる雰囲気を出さなきゃ、出来るだけ黙って相手を観察する様になってる。多分一発で仕留めるつもりなだけだろうけど、最初に手と口が出ないだけ随分成長してる。
アイツの一番は私らだし、私らもちゃんとアイツに愛を返す。
……多分その内クソ重たい愛を認識するだろうけど、それが向かう先はテディベアだから私に被害はない。全然オッケー」
「いや最後」
それ刹那ちゃんに全ての被害が向かってない?
思わず硝子ちゃんを見れば、彼女は酷く楽しそうに笑った
「だってアイツ、“女”として認識してんのは刹那だけだぞ?他の女は魚呼ばわりするし、私はパパだから違うんだと。
試しに誰ならヤれそうか聞いたら刹那って答えたからさ。
可哀想に、刹那にはテディベアと恋人兼任する未来しかないんだよ。いや、テディベアが恋人に名前を変えるだけか」
「刹那ちゃんが他の誰かにいく可能性は?」
「無理無理。無駄な死人が出るだけだ。
賢い刹那がそんな事をするとも思えん」
それに、と声は続けた
「愛情深いタイプの典型だろう、アレは。欲しくて欲しくて堪らなかった愛情を貰って、愛情を返す歓びを知った。
そりゃあ此方が溺れるまで愛情を注ぐだろうさ。というか溺れても注ぎ続ける。
愛情が溢れそうなら、器を大きなものに代えてまた注ぐ。そんで私らに同じだけ愛を返せって言うんだからイカれてるよ。
……他は兎も角、怪物に愛を教えた私らはもう逃げられない」
硝子ちゃんが口を閉ざす。
暫し無言が続き、ひんやりとした風が頬を撫でた。
「………あれ、何時から怖い話してましたっけ?」
「五条の存在自体が怖い話なんじゃね?」
本当にあったこわい話