だらだらしてても日は進む

小型カメラ事件が起きて数日、私と硝子は揃って虚無顔を浮かべていた。


「悟様の部屋に泊まってるんですって!?この淫乱!!」


「五条くんだけじゃなく夏油くんまで巻き込むなんて有り得ない!アンタ達どうせ嫌がる二人に無理矢理迫ったんでしょ!」


「小型カメラだって自作自演じゃないの!?卑怯な手まで使って二人に迫るなんて最低!!」


口を開けばまぁ出るわ出るわ、暴言の数々。硝子はタバコ吸いてーって顔してた。私はチョコが食べたい。


現在私達に詰め寄っているのは別校舎の女子生徒三人である。
小型カメラの件はまだ犯人は見付かっておらず、学生寮はここ数年の稀に見る生徒の増加により満室。
そこで別の女子生徒の所にお邪魔するかと考えていた所で私達は悟の部屋でお世話になる事が決まった。
いやそれは不味くない?と思ったものの、どうやら別校舎の女子生徒が小型カメラの犯人である可能性は否めないらしく、夜蛾先生も間違いだけは犯すなよと再三注意をして、傑も含めた四人での短期宿泊が決まった。もうこれ普通に宿泊学習だな?
取り敢えず今は悟の部屋にマットレスを運び込み、お泊まりしている。
だがこれは夜蛾先生も納得している事なので、外野からいちゃもん付けられる筋合いはないのだが


「そもそもアンタ達が特進に居る意味が判らないわ!私の方が悟様に相応しいのに!」


「はぁ!?五条くんに相応しいのは私よ!」


「どうでも良いけど夏油くんにもう近付かないで!!」


おうおうごっちゃごちゃだな。
せめて仲間なら仲間で結託して来いよ。此処で仲間割れするなら勝手にやって。私達帰っていい?
硝子はやっぱりタバコ吸いてーって顔してた。どうでも良いけどマカロン食べたい。


そもそも私達は悟の提案に反対しました。
でもあの坊っちゃん最強の俺達が護衛すりゃ平気だろ、とか言う謎理論で男女は寝室を分けるべきって夜蛾先生の道徳的な理論を殴ったんだよ。
流石正論が嫌いな男、胃を押さえる夜蛾先生に舌を出しながら私を取っ捕まえて部屋に向かいましたとさ。
因みに私は硝子を捕まえて、硝子は傑を捕まえていたので結局一列になって部屋に行った。大きなかぶかよって笑った。因みにかぶが率先して皆を引っ張るとか変な話。
しょうもない事が楽しいのって何でなんだろうね。


『善処しまーす。んじゃ、任務あるんで』


「さよーならー」


「話はまだ終わってないわよ!」


面倒になってしれっと撤退しようと思ったのに駄目だった。ちぇっ。
大変面倒臭いという態度を隠さず少女達に向き直る。


『大体この宿泊学習始めたの悟なんだから、文句ならそっちに言ってよ。私らはあいつの提案に乗ってるだけ』


「ほんとそれな。五条に言って」


最低限のお泊まりグッズを手に同級生(男)の部屋に泊まりに行くんだぞ?毎日寝顔と寝起きの顔をあのイケメン共に見られるんだぞ?地味に嫌だわ。
しかもあいつら桃鉄強制参加させるからな。最強二人のボンビー擦り付け合いに巻き込まれたら堪ったもんじゃない。
それに私は夜更かしが得意じゃないんだよ。毎晩寝落ちて悟のベッドで抱き枕にされてるし。でも布団が毎朝暖かい所は良い。あいつ良い匂いするし。
今の所使えていない私のマットレスには硝子が寝てて、傑は持ち込みの自分のマットレス。
……こう考えるとなかなかに悟の被害が凄いな?今度何か奢ろう


『てか私らが特進になったのは、アンタらが男追っ掛けてばっかでちゃんと鍛えないからでしょ?
私ら四人を孤立させたのはアンタ達だよ』


元々仲は悪くなかったけど、こんなに一緒に過ごす事になったのは間違いなく転生者の所為だ。
最早悟と傑どころか私と硝子まで奴等の親友枠にカテゴライズされてそう。
お陰様で親密度は爆上がりしました。これがゲームならイベントクリア案件だろ。おーい犯人野球しようぜ、お前ボールな。


『じゃあね。これから任務なんだよ、遅れたら怒られる』


「私ら何時部屋に帰れるんだろうね?」


『さぁ?取り敢えず悟の許可が必要になりそうで何とも』


「あー」


三人組に背を向けて歩き出す。
夜蛾先生は良いって言っても部屋の主が駄目って言いそう。
犯人見付かるまで泊まれって絶対言う。
そんな話をしながら移動していた私達は、三人組の表情に気付かなかったのだ










『せっ!はっ!らあっ!!』


「脇甘過ぎ、大振り、直線的過ぎ、踏み込み浅過ぎ、目線が判りやす過ぎ。自分で次のコース教えるとか親切だなぁ?」


『はっ!せいっ!おらあっ!!!』


「はーい怒りに身を任せても動きがもっと判りやすくなるだけでーす。ただでさえ読みやすい刹那チャンはこの瞬間死が確定しましたーお気の毒でぇす☆」


ああああああ腹立つ!!
べぇ、と舌を出す悟の顔面狙いで飛び蹴りを放つ。
余裕綽々な男は私の足を腕で簡単に防いだ。その腕に、蛇の様に脚を絡める。
目を丸くする悟。
その無駄に整った横っ面を蹴り飛ばそうとして────突き出した足首を掴まれ、ぶらんと身体が宙に浮く。


「残念でしたー!当てられるって思った?わざとだよーん!!!
ねぇ今どんな気持ち?
わざと攻撃誘導されたって気付きもせずに動いて顔面蹴飛ばせるって思った瞬間に捕まるとかどんな気持ち?ねぇねぇ?ねぇ言ってみ?どんな気持ち?どんな気持ち???」


『あああああああああむかつくうううううう!!!!!!!』


ぷーくすくすとお手本の様に煽ってくるチンピラの腹立たしさよ!!!
女の子の右足を掴んでとったどポーズするこいつは許さない。絶対にだ。


「ほんとクズだなあいつ」


「悟、女の子を宙吊りは良くないよ」


「野生のカピバラの捕獲ですぅ」


『五条悟許さない』


てめぇ絶対復讐するからな。覚えとけ、丑三つ時に藁人形五条に五寸釘ぶちかますからな。
ぶらん、と腕を重力のままに地に伸ばしていて、ふと気付く。
ジャージが胸元まで捲れ上がっていた。いやこれ悟の所為だな?
こいつがさっさと離してくれれば良いんだけどな?


『さとるー、そろそろ離して』


「あー?オマエ何でこんな色気ねぇブラしてんの?どうせならもっと可愛いの着けとけよ。持ってんだろ」


ぐいっと身体ごと上に持ち上げられ……何という事でしょう。
巨神兵は私のジャージを押し下げました。
つまり私は、校庭のど真ん中でスポーツブラを晒されたのです。


『……私に何の恨みがあるんだ??お?喧嘩か?買うぞ???お前サンドバッグな???』


「あ?俺らしか見てねぇんだしキレんなよ」


『その前に女の子の下着見た事に罪悪感を持てよ。謝れ』


「わーふにゃふにゃじゃん。オマエこれ筋肉ある?ほっせぇのに猫みてぇな触り心地してんね」


『五条悟許さない。一生呪う』


「はっ、一生俺の事だけ考えて生きるって?熱烈だねぇ」


普通に考えて欲しい。
片足掴まれて宙吊りにされた挙げ句、校庭のど真ん中でスポーツブラを晒されるってどんな辱しめだ。
それにプラスでこの男は剥き出しのお腹をぺたぺた触り出したのだ。変態だ。極刑である。距離感の深刻なバグ。


『傑ぅ!!!!親友の情操教育失敗してますけどォ!?!?!?!?』


「悟ー、流石に止めてやりなー?」


「えー、これ俺が捕まえた野良猫だぞ?俺がどうしようと俺の勝手じゃね?」


「マジでクズじゃん。離してやんなよ」


『離せよ五条悟…私は私のものだし野良猫じゃないんだよ……』


「ほら男子ぃ刹那ちゃん泣きそうじゃーん」


「あ?オマエは俺のもんだろうが。捕獲されたんだから黙って触らせろ」


『御三家の情操教育が負けた瞬間……』


「仲良くしてるだけですぅ。頷けやオラ」


「宙吊りにした女子高生のジャージを捲って下着を露出させた上に身体を触っているのはどうやっても暴行かな?」


「字面だけ見たら100パー事案じゃん」


おいそこで座って此方見てるお前ら、駄弁ってないで助けろよ。今お前らの前に宙吊りにされた可哀想な女の子が居るだろ?その子な?お腹も背中もクソでかい手でべたべた触られてるんだよ。
なんならお腹の肉抓もうとしてんだぞこのクズ。
可哀想だろ?助けろ????


『悟、良い加減にしないとマジで泣くぞ。女の子のお腹抓むとか万死。泣くぞ……』


「…わぁかったって、んなに睨むなよ。……ほら」


仕方無さそうに地に降ろされて、しっかりと両足で地を踏み締める。この安心感よ。愛してる地面。私はお前と結婚する


『傑、交代して…私もう疲れた……』


「おやおや、良く頑張ったね。座って水飲んどきな。タオルは其処に掛けてあるからね」


『はーい』


フラフラと階段まで逃げてきた私を傑が笑って撫でて、悟の方に歩いていく。
ほんとな、男と組手って色々可笑しくない?硝子もさっき傑に絞られてたけどさ?何で私と硝子じゃダメなん?


『ねぇ組手って何で男女で組むの?それされると女の方が筋力的に劣るの当たり前じゃん?』


「夜蛾センが言うには、私らが少しでも力が強い相手との戦闘に慣れる様にだってさ」


『あー…』


タオルで汗を拭きながら納得した。
確かに時代錯誤の男尊女卑を全速力でぶちかます呪術界に於いて、女性呪術師は非人道的な扱いをされている。
優秀な術式と潤沢な呪力を持っていれば嫁がせて権力の足掛かりに。術式も呪力もない役立たずなら次代の駒を産む為の胎盤に。というか優秀でも何れは強制的に何処かの家にぶち込まれるので、奴等は女性自体を胎として見ているのだ。
此処最近じゃ別校舎の子達が任務後に複数姿を消しているとも聞く。しかも全員女の子。理由はお察し。
女子生徒の失踪への対策として、夜蛾先生は体格の良い相手への立ち回り方を覚えて欲しいんだろう。


『でもなぁ、悟に指導とか無理じゃない?』


「夏油も無理でしょ。あいつ笑顔で煽ってくるし」


『天才は教え方が下手ってヤツの典型じゃん』


「クズに指導は向きませんの典型だろ」


バチクソに戦う二人を見ながらスポドリを飲む。
今はマシだが、最初は酷かった。
だって悟、弱いとか雑魚としか言わないのだ。
いや、それは私も判っている。自慢じゃないが体術はカスなので。
だからこそ此方の動きの改善点が欲しいのだとブチキレたら奴は漸く理解した。五回ぐらいただの暴言に耐えた私は偉い。
というか坊っちゃん、お前はもう少し凡人に寄り添え。はーい雑魚ーで何で指導出来てると思った???
大分掠れてきた知識によれば、奴は将来五条先生なんて呼ばれる存在になるんだから世も末だ


『そういえばさぁ、また学校に釣書届いたって』


「あー、私もだよ。焼き芋する?」


『いいねー!悟と傑のも回収して中庭でする?』


「それもうキャンプファイヤーじゃん」


二人でけらけら笑う。
学校にも結構な数が来るのだ、きっと桜花には知らない男からの胎盤目当ての釣書が沢山届いているんだろう。
めっちゃダルいのでどうやったら面倒な見合いを躱せるかな、なんて思っていたりもする。
まぁ今回は焼き芋大会が決定しましたが。ありがとう燃料。でももう要らん。


『女ってだけでめっちゃ釣書ぶっ込んでくるじゃん?もうアレかな?適当な男を恋人って事にした方が良い?』


「それは止めときなよ。アンタに執着してる坊っちゃんはキレ散らかすし、傑ママが青筋浮かべながら笑顔で説教してくる未来見えるから」


『あー……何でだろ、ハッキリ浮かぶね?私ら何時から未来視使えたの?』


「それならもうちょい有意義な使い方探すわ」


『ねー。あ、今日のご飯何かな?』


「何だったっけ、うどんあったよね」


『月見うどんにするかなぁ。それかきつねうどんが良いなぁ』


互いに煽りながら恐ろしい速度で殴り合うバケモノ二人にドン引きつつドリンクを口にする。
んー、やっぱアレ人間辞めてるな?







千里の道も一歩から






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