“オマエが”望んだから

・五条が呪術師100%な発言をします。
・無理な方は迷わずお逃げ下さい。








「ねぇ、刹那」


『んー?』


休日に動きたくない、なんて事は別に珍しくない。
普段騒いで笑って呪霊を祓ってと慌ただしく生きているからこそ、こうやってなにもしないというのは案外重要だ。
ベッドでだるーんとしている私を抱き枕にしてゲームをしている悟は、静かな声でゆっくりと言った


「七海にさ、きな粉棒あげたらスゲー微妙な顔された」


『好きじゃなかったのかな』


「えびみりんもダメだった。あいつ何食って生きてんの?」


『んー?まぁ、食べるの駄菓子オンリーじゃないからね。確かパンが好きって言ってたけど』


「ハ????何で刹那には教えてて俺には言わねぇの?イジメ?」


『七海に好きな食べ物ある?って聞いた?』


「聞いてない」


『だからだよ』


気になったなら聞きなさい。そもそも自分が好きなものを相手も好きだと決め付けるのはやめなさい。
お菓子を分けてあげるだけで大分成長はしているが、やっぱり自分を押し付けてしまう面はまだ多い。聞くという行為を手間だと思うな。
不満そうにむすっとしている悟はだって、と呟いた


「オマエらはありがとうって食うじゃん」


『硝子と傑は甘過ぎたりしたら他の頂戴って言うでしょ?それと一緒』


「………考えとく」


『うん』


少しは後輩にも気を遣える様になってきた。こういう所で成長を感じる。親か。
ふふ、と笑いが漏れて、それに気付いた悟が視界の左側から覗き込んできた。


「んだよ。何か面白かった?」


『悟が成長してるなって』


「親か」


『テディちゃん、パパとママと一緒に見守ってきたからね』


もう一年は経つし、正直私も親と名乗ったって可笑しくはないレベル。
ゲーム機の電源を落とした悟がそっと、私を引き寄せた。天井を見ていた身体が悟の方に向けられて、目が合う。
間近で見る蒼は、空と海が融け合う美しい色。


「……最近、思う」


『うん?』


「五条を出るまで、俺ってマジで人間じゃなかった」


ぽつりと落とされた声は温度がなくて、私はどう声を掛けたら良いのか判らなかった。
返事の代わりに手を伸ばせば、白い頬が静かに擦り寄ってきた


「毎日毎日眼の使い方の訓練と、体術の特訓と、術式の鍛練。それが終わったら所作の稽古。その後は家庭教師と勉強。遊びなんて知らない。
菓子を毎日三時に置いていったのも多分、俺の術式が脳味噌フル回転で扱えるものだから。
ガキの機嫌取りでも何でもない、エネルギー切れの心配しかしてなかったんだよ、あいつら」


『うん』


「泣いても、暴れても、ぜーんぶ悟様の為なのです、でおしまい。
壊せばそれをさっさと片付けて、新しいものを置くだけ。誰も、叱ってなんかくれなかった。
……だからさ、叱って貰えるの、ムカつくけど嫌いじゃねぇんだ」


照れ臭さを滲ませたはにかみに、此方も釣られて笑ってしまう。


「…だって、叱ってくれるのは、俺をちゃんと見てくれてるから。
無下限呪術と六眼の抱き合わせじゃなくて、五条悟を見てくれてるから。
…ちゃんと、俺の目を見て話してくれるだけで、俺、すっげぇ嬉しくなれるんだって。此処に来るまで知らなかった」


『……そっか』


……同情とか何でもなく、ただ、涙が零れた。
そんな私を見て、悟が酷く嬉しそうに笑う


「泣くなよ、刹那。嬉しくなるだろ」


『………泣いてるのを見て喜ぶのは趣味悪くない?』


「悪くねぇよ。それって刹那が俺の為に泣いてくれてるんだろ?なら、嬉しくなるだろ。
その顔、同情っぽくはないな。共感?」


『悟に比べたら、私は全然平気だったよ』


「…俺とは違うしんどさがあったんだろ?」


そっと涙を柔らかな唇が拐う。
…普段はうるさくて子供っぽい癖に、時折こういう酷く凪いだ面を見せるのは、卑怯だ。


「オマエ、親に売られてんじゃん。その時点で俺とは違うスタートだよ。
…ねぇ、刹那。刹那はどんな風に育ったの?」


────脳裏に過るのは、柔らかく笑う女の人の口許。
顔を思い出そうにも、隣に立つ男の人と共に目許は黒で塗り潰されてしまった


『……五歳までは両親の許に居て。桜花に売られて。
…毎日、術式の訓練と、体術の特訓があった。それで、時折呪霊の所に放り込まれて。何回も死にかけた』


「……こわかった?」


『こわ……?…いや、それより…』


────憎かった。
子を売って莫大な金を得た家族が。
体術の特訓と称して私を何度も蹴り飛ばし、殴り、壁に叩き付けるあの男が。
勝手に買った癖に、上手く術式を使えないと出来損ないと折檻する指南役が。
……お前は桜花の跡継ぎが生まれるまで、名を落とさない為の繋ぎだとしゃあしゃあと宣った、当主が。


優しく唇が重なった。
ふわりと笑う蒼が、言って良いよと私を赦す。
……ダメだ。
こんな汚い感情は口にして良いものではない。
そう思うのに、蒼に促された口は勝手に動き出した


『…なんでわたしをうったの。なんで買ったくせに、大事にしてくれないの。
術式が上手く使えないからってぶたないでよ。体術の特訓なんて、ふつうに生きてた五歳の子供が出来るわけないじゃん。
何度もけられて骨もおれた。おれて、動けなくなった。ああ、やっと終わりだって思ったら家の治療係に無理矢理全部治されて、また最初からやり直し。
……呪術なんてなくなれって思った。術式なんて捨てられれば良いのにって。
クソ当主に言われたよ。
わたしの家族はお金をもらって直ぐに引っ越したんだって。
今じゃ子供が二人、しあわせに暮らしてるって。
…子供は、はじめから二人だって言ってるって。


………最初の子供はなんであなたたちの子供にカウントしてもらえないの?


おとうともいもうとも知らない。私は桜花に売ったのに、その子達は売らないの?なんで?
呪術師じゃなくたって、いくらでもお金にするほうほうはあるでしょう?
売らないの?わたしを売ったのに?


…じゃあせめてふしあわせになって。


わたしを売ってお金をもらってしあわせになったんでしょう?なら今からわたしのふしあわせの分まで苦しんで。
────それができないなら、おまえら全員私が』


忙しなく働いた唇が食べる様に包み込まれ、言葉が消えた。
ちゅう、と吸われ、離れた。ぼやける程近くでゆっくりと蒼が瞬く。
慰めるみたいに柔らかな唇がもう一度重ねられて、大きな手で優しく頭を撫でられた。


「それは駄目だよ」


穏やかに、優しい声が囁く


『なんで』


「それは、オマエが言っちゃだめ」


普段猿って呼ぶ癖に、正論が嫌いって言う癖に、こんな時ばっかり私に正しい事を言うつもり?
そう詰りそうになって、口を閉ざした。
…ダメだ、気が立っている。
一端落ち着こうと目を閉じた。だがそれを咎める様に、鼻先をかぷりと噛まれる


『………悟』


「だめ。落ち着くな、そのまま全部見せろ」


『八つ当たりとかしたくないから無理。部屋に帰って』


「嫌だね。真面目チャンのドス黒いトコにやぁっと触れたんだ。
ぜぇんぶ掻き出すまで、指突っ込んであげるね♡」


にんまりと笑う綺麗な顔が憎らしい。
唇が重なる寸前、思いっきり舌打ちした













「〜♪」


「御機嫌だな、悟」


「そりゃあそうだろ。ずぅっと掘り返したくて堪らなかった蓮の花の根元を暴いた気分だし」


夜中、喉が渇いて水を取りに部屋を出てくると、リビングのソファーに座る悟が聞き覚えのある曲を口ずさんでいた。
悟がこんなにも機嫌が良くなるとすれば、それは五条家が滅ぶか上層部が死ぬか、私達に関する事だろう。
上記二つはまず有り得ないから、そうなると……


「…刹那は?」


「んー?アイツなら今ぐっすりだよ。大分無理させたから」


その言葉に反射で拳骨をかました私は悪くない。そしてそれを読んでいたらしい悟は無限を張りつつ、私を見上げ顔を引き攣らせていた


「おま……まさか脳直でゲンコする?」


「ちゃんと合意のものか?あの子は流されやすいから、悟に迫られたら逃げられなかった可能性もあるよね。
悟、ちゃんと責任を取る気はあるのかな?セフレなんかにしたら不能にするけど」


そこで強姦魔(推定)はぱちくりと目を瞬かせた。ふざけるな殺すぞ。


「ん????………ん?…ああ、そういう。ちげーよ、刹那のメンタルちょっとぐちゃぐちゃにしただけ。ヤってねぇ」


「………ん?」


「ん?じゃねぇわ拳骨仕舞え」


じっと悟を観察する。
確か今日はこのシャツとズボンだったし、特に汗をかいた様子もない。
……つまり娘の貞操は無事か。ああ、よかった。
ほっと胸を撫で下ろすと、ぶすっとした悟が私を睨んでいる


「ママ。誤解で殴ろうとしたんならゴメンナサイ、だろ」


「ああ、ごめんね。遂に下半身に従ったのかと思った」


「謝ってる?煽ってる?どっち?」


「誠心誠意の謝罪だけど」


「嘘くさぁ」


べぇ、と突き出した舌を何時かペンチで引っこ抜いてやりたいんだが、どうだろう。そろそろ凶行に走っても怒られないと思う。
飲み物を準備してソファーに座り、テーブルに乱雑に置かれた本のラインナップに首を傾げた


「帝王学に心理学、財政関係に宗教……悟、何を企んでるんだ?」


「ハァ?企むも何も夜蛾の課題だよ。映画観てちょっとズレた感想になるならまず本読めって。
アイツが渡してきたの全部絵本だったのはそろそろツッコミ待ちですって合図?」


「本気だから引かないであげてね」


「チッ、どーせ人間歴一年ですよスイマセンデシタァ」


「拗ねるなよ」


不機嫌そうなまま、悟はリモコンを弄ってザッピングを始めた。


「これ全部読んだの?」


「速読すりゃ直ぐ終わるじゃん。つまんねー本タラタラ読む必要ある?」


「………悟に足りないのは思いやりの心かな」


「は???????俺ほど思いやりに溢れたヤツも居ませんけどぉ???」


ゆっくりと内容を咀嚼し、ページを捲るのが楽しみな身としては見事に合わないスタイルである。
こいつ世界観とか作者の癖により生まれるその文章独特の情緒とか、知っているんだろうか。知らないんだろうな、悟だし。
一冊適当に取ったのは宗教と救いに関する本で、何気なく捲った。


「………刹那、昨日から可笑しかっただろ?」


「…ああ。何でもないって言うから、深くは聞けなかったけど」


昨日、刹那と悟が同じ任務で、硝子は待機、私は昼に九州出張から戻ってきた。
仮眠を取っていた私は夜に刹那と顔を合わせたけれど、あの子は少し、元気がなかった様に思う。
運悪く今日は朝から私が県外で、戻ってきたのもついさっき。故に早寝早起きの刹那に会えていないのだ。


「任務で疲れたのかと思ったから、今日も変だったら聞くつもりだったけど。
昨日何かあったの?」


「────刹那の家族を見付けた」


「え」


酷く静かな声音で、その蒼色はつまらなそうに細められている。
置いてあったコーヒーカップを白い指が持ち上げた


「地方の二級を祓いに行ったんだ。其処までは良かったよ。
けど、迎えを待つ間に街歩いてたら急に刹那が動かなくなった」


黒い液体が小波を立てて薄い唇に飲み込まれていく。
見た目ばっかり真っ黒で中身は吐く程甘いなんて、こいつは飲み物で自己紹介でもしているんだろうか。


「……アイツ、父親似だった」


「…長女は父親に似るって言うよね」


「アイツ似の男と、茶髪の女と、黒髪の十歳ぐらいのガキと、恵と同じかそれより下ぐらいのガキ。向かいの通りを楽しそうに歩いてた。
その後は取り繕ってたけど、うちのテディちゃんたらまぁ傷付いてやがんの。
………そんな姿見ちゃったらさ、そりゃあ調べるよね」


ぽん、と机に放られた紙の束。
戸籍謄本から父親の仕事、子供の習い事まで事細かに記された書面に軽く引いた


「たった一日で此処まで?」


「一日だからこんだけなの。もうちょい深く調べるなら血縁から先祖も辿れるし、桜花と交わした売買契約の詳細だって出せる」


「………権力を持ってはいけないヤンデレの典型かな?」


「オマエさっきからちょいちょい煽ってる?表出ろ」


「褒めてるんだよ」


「褒めてるんだよ(笑)じゃねぇわボケナス」


舌打ちした悟は資料から一枚抜き取った。見覚えのない名字に名前。
けれど何処と無く刹那に似た少年の写真が載る紙面を白い手の甲が叩く。


「コイツ、刹那の弟なんだけどさ。術式持ちだよ、雑魚だけど。
そして何より────刹那が売られた一年後に産まれてる」


「………弟、か」


刹那は、弟の存在を知っていたんだろうか。


「アイツ言ってた。なんでそいつらは売らないの?って。なんでわたしを売ったのって」


ぽい、と紙が放られる。
ひらひらと落ちる紙を術式でくしゃりと潰すと、悟はゆっくりと此方に顔を向けた。


────やばい、スイッチ入ってる。


「ねぇ、刹那と違うクソ雑魚だけど術式持ちを産んだって事はさ?今のところ三分の二の確率でアタリって事だよね?
もしあのチビも術式持ちなら見事に100%!
これって凄ぇガチャ台じゃね?それとも種の方?
SSRのあとただのRだけど、最初にSSR産んでんだからそれこそ数打ちゃ当たるだろ。
売った後に非術師ノーマルしか出なくなったら笑うけど。
どっちにしたってこの事を刹那の名を伏せて上層部のクソジジイ共にこっそり流してやれば……あの一家、今から“ふしあわせ”になるよな????」


「やめなさい。悟、落ち着きなさい」


「何だよ傑、俺落ち着いてんじゃん」


「落ち着いてない人間は皆そう言うんだよ」


────六眼かっ開き瞳孔ガン開きモードの親友を寝る前に見たくなかったな!!!!
こいつ本当に私達が絡むと病む!!今回はまだ下調べで済んでるからまだセーフだけど!!多分今私に会わなかったらやってたけど!!!事後報告すらしたか怪しいぞこの雰囲気は!!!!


「悟、大体刹那の名を伏せても何処かから情報が漏れるんじゃないか?そうなれば危険に晒されるのはあの子だよ」


正直刹那を売った家族に何も思わない訳じゃない。しかしこのままでは確実にまだ小さな刹那の弟と妹も犠牲になるし、そもそも刹那の身すら危なくなるだろう。


きっと自分達の身が危うくなれば、刹那はもう一度犠牲にされてしまう。


何となく、そんな気がしたから。
悪いのは彼等の親であり、子に罪はない。
そう言うと、酷く人形染みた美貌がかくり、と首を傾げた


「何言ってんだ傑、ちゃんと桜花を潰してからに決まってんだろ」


「…………ん???」


私、急に難聴になった?
もう一度言ってくれと促すと、悟がそっくりそのまま言葉を繰り返した


「何言ってんだ傑、ちゃんと桜花を潰してからに決まってんだろ」


「聞き間違いであって欲しかったな…!」


「何を聞き間違うんだよこんなの。傑疲れてんの?寝たら?」


今のお前を放置したら有言実行しかしないよね?一人に出来るわけないだろうなんで今日硝子夜中戻りなの?おねがいパパ早く帰ってきて。
そして今頭が痛いのは確実にお前の所為。
頭を抱えた私を不思議そうに眺め、悟が言う


「桜花はそもそも刹那をあの家から買ってんだ。勿論契約書なんかは彼処も保管してる。
だから、先ずは桜花を潰して、念入りに書類を破棄して、それからあの家族を“ふしあわせ”にする。
ああ、顔とかで血縁がバレねぇ様に、ちゃんとアッチの顔は“修正”するよ。
DNA検査だって刹那のサンプルを入れ換えれば他の奴は血縁関係を証明出来ない。そういうのからは俺が刹那を護るし、使ったものも俺がその場で廃棄する。…知ってた?俺が空き缶とかぐちゃぐちゃにするの、下手に遺伝子云々の問題起こしたくないからだよ。
アイツら、ちょっとでも“五条悟”を造り上げてる生身の情報が手に入るなら手段選ばないし。
勿論家族には前以て記憶操作が得意な術師を当てて、刹那の記憶を消す。それを他者に話せない様に術師には縛りも結ばせる。ほら、百点だろ?」


「零点だよおばか……」


妙に作戦が練ってあるし刹那の護りに至っては周到すぎるし、さらっと話された何気ない癖だと思っていた空容器潰しは実は遺伝子関連の悪用対策とか、取り敢えず闇が深くて目眩がした。
呻く私に悟は酷く無垢な顔をする。


「えー。なんで?刹那が“ふしあわせになれば良い”って言うからそうしてやろうとしてんのに。なんで?なんでオマエが邪魔するの?」


……その言葉で漸く合点がいった。
やたらと抽象的な“ふしあわせ”を多用すると思ったら、刹那がそう口にしたからか。


恐らく弱っていた刹那の心の傷を無理矢理暴いて、そうして吐き出させた言葉。
優しいあの子がせめて呪わない様にと曖昧に暈して溢した“ふしあわせ”は、正直この世で一番渡ってはいけない男の手に転がり落ちたのだ。


「────刹那ってさぁ、ほんとにイイコで可愛いよね。
“ふしあわせ”を願っておきながら、殺すなんて言おうとしたんだよ?
その言葉を言うだけで傷付く癖にね」


いじらしい願いを掌で転がす悪魔の低い声がくすくす笑う。
光を吸収して乱反射する蒼は、酷くいとおしいものを見る目でとある部屋の方向を見た。


「死はさ、救済だよ。
私が殺すって言うのは、その命を奪った風に見せ掛けた只の救済行為。
これから生きている限り一生俺に呪われる人生と、泣きながら一瞬で命を刈り取ってくれる売った筈の娘。
どっちが良いと思う?勿論救いは娘の方。


────じゃあさ、娘は?
殺して助けてあげた優しい娘は、オマエら猿の血でどれだけ傷付くの?


自分を手離して、私達の子供は最初からこの二人だけです☆なんてほざく親の為に何でアイツが傷付かなきゃならないの?
正直呪霊にやられた傷もムカつくのに、猿がアイツの心を抉るとか有り得ねぇから」


「………」


「アイツ、桜花に買われてから俺みたいな育てられ方してたって。本人は俺よりマシだったよって言ったけど、“普通”から“異常”に行ったんだぜ?
愛情を最初から知らなかった俺より下手すりゃしんどいよ。
…何で判るんだってツラしてんな?刹那の事だから、俺だってそのぐらい判る。考えられるよ、オマエらの事なら。想像して桜花の連中殺したけど。
……ほんと、良く壊れなかったなアイツ。いや、もう一部はイカれてるか。
んー、本音言えばもうちょいイカれさせたいけど」


テーブルの端に置いてあったお菓子入れからクッキーを取り出して、にんまりと弧を描いた唇がそれを齧り取る。
……そのクッキーがくまの形を模していたのは見なかった事にした


「────だから、俺が“ふしあわせ”にするんだ。だって、刹那が望んだ事なんだから。張り切っちゃうよね☆」


「やめなさい。頼むから落ち着きなさい」


「なんで?あ、方法が嫌だった?もっと酷い方が良い?
じゃあ父親の勤める会社倒産させて、適当に借金吹っ掛けて家財取り上げよう。
母親にロミトラ仕掛けよっか?ガキは買った子供の扱いがやべぇって噂の家に売ろう。父親にもハニトラさせるか。離婚はこの際どっちでも良いな。どうせもう会えないし。ああでも浮気してるってのを知らせた方が傷付くんだっけ?じゃあお互いに強制不倫で傷付け合って貰おうかな。
上手くどっちかから術式持ちのガキが産まれるんなら、100%レア排出のガチャ台か種馬が見付かったって噂を立てりゃあ良い。


あ、そうだ。メンデルの遺伝の法則ってあるじゃん?


非術師母親×非術師でも良いのかやっぱ呪術師と掛け合わせた方が良いのかそれとも父親にレア要素があんのかサンプル取ってからどっかに売っても────」


「止まってくれ悟、ヒトは実験用のラットじゃないんだ。私は親友が犯罪計画立てる姿なんか見たくないよ」


「じゃあ寝ろよ。もうプランは何個か練ってあるから、オススメを明日刹那に────」


「…お前らまだ起きてんの?寝たら?」


わあわあと騒いでいて気付かなかったが、玄関に続く扉の前に硝子が立っていた。
その姿に後光が差して見えたのはきっと私の気の所為じゃない。


「パパ!!助けて!!悟が犯罪計画立ててる!!!!」


「何時もの事だろ。声がでけーぞクズ」










地獄への道は善意で舗装されている








大事なものの為なら一気に呪術師100%になっちゃうのがうちの五条です。
因みに硝子と刹那はSSR、五条と夏油はLR

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