“当然”を教えるとは

「なに?甚爾さぁ何で最近俺の頭撫でんの?ご利益でもあるわけ?」


「ならお前の頭に馬券擦り付けるかな」


「止めろや。人の頭ビリケンさんの足の裏みてぇに使うな。外れちまえ」


「よっし四の字固めな」


「ハァ!?理不尽過ぎんだろゴリラ!!」


何だか最近甚爾さんと悟が仲良しだ。
体術の授業中、わーわー校庭を走り回る二人を見ながら私は口を開いた


『悟、甚爾さんと打ち解けたね』


「伏黒先生が構いに行ってる感じだよね。前はそれほどじゃなかったのに」


『あれかな?ピタゴラやって甚爾さんが悟にキャメルクラッチ掛けてママ黒さんが説教してから?』


「ああ、それからかも。いや、あれは傑作だったね。女の人に正座させられて怒られてる悟」


「何で子供巻き込もうと思ったんだろうな」


『悟曰く、きっと楽しいから一緒にやろうと思った』


「悟、最近善意でやらかすんだよね……悪気がないから質が悪くて」


「善意…?爆破してんのに…???」


『ママ、疲れてるのよ』


「善意なんだよ……ねぇ、学校嫌って言うから消し飛ばしたよ!褒めて!みたいな善意なの……」


「善、意……???????」


『善意とは何だったのだろうか』


「哲学か」


「我々はそれを見付ける為にアマゾンに向かった」


「一人で行け」


はっはっはっはっ、と言う超が付く程棒読みな笑い声を上げながら追い掛ける筋肉ゴリラ普通に怖いな?あれから頑張って逃げるって、悟かなり足速いな?


「あれもう親戚のオッサンだろ。久々に顔合わせるとめちゃくちゃ絡んでくるタイプの」


「あー」


『テディちゃんには判らん感覚ですね』


親戚は私を睨む存在でしたので。そもそもお前とは血も繋がってないのよ野良猫!みたいなヒスしか居ないので。
桜花やべえな、養子取るならちゃんと親戚一同納得させてからにしろよ。


「あ、捕まった」


「先生速いな」


「伏黒先生って目に見えない速度で走れるらしいよ」


『それは人ですか?』


「いいえ、ゴリラです」


「英文かよ」


『これはペンですか?』


「いいえ、悟です」


「wwwwwwwwwwwwwwwwww」


『まってwwwwwwどういう英文wwwww』


傑の唐突な爆撃で私と硝子が死んだ。
なんでだよ、悟をペンですか?ってどんな間違え方だよ。
何処からか走ってきたさとるっちを膝に乗せる。


「なんだろう、アイツって末っ子気質なのか周りが保護者になるよな」


「パパとママとテディベアが居て、ついに親戚のおじさんも出来たね」


「じゃあ伏黒一家は親戚か」


『夜蛾先生は?』


「保育園の先生」


「あの顔でwwwww保育園wwwwwwwww」


『ヤクザじゃんwwwwwwwwwwww』


〈ヤクザ!コドモ ダイスキ!〉


『それはそれでやばいwwwwww』


「ヤクザがwwwww子供好きwwwwwwww」


「やめてくれwwwwwwwwwwwww」


爆笑する傑の肩に何時の間にかすぐるっちがくっついていた。待って、何時来た?


「そういえば悟、五条家でもピタゴラスイッチやったって」


『またあの犯罪をやったのかwwwwwww』


「マジでなんで五条にピタゴラ見せたのwwwwwwwww」


〈ピタッゴラッスイッチ♪〉


「うたうなwwwwwwwwwwwwww」


「ミッキーみたいな声のさとるwwwwww」


〈ブットバスゾ!〉


『えっ』


〈ネコダヨ!カワイイヨ!〉


『wwwwwwwwwwwwwwwwww』


「猫が猫被るwwwwwwwwwwwwww」


「もうむりwwwwwwwwwwwww」


何処からか現れたしょうこっちが硝子の傍にそっと寄り添い、タバコをふかし始めた。
えっ、燃えない?中身綿でしょ?大丈夫?


「七海がさぁ、この間好きな食べ物なに?って五条に聞かれたって」


『あ、やっと聞いたの?
この間俺が好きなお菓子あげても微妙な反応するって言ってたよ』


「ちゃんと聞けたんだ?成長してるじゃないか」


「くれたのがチョコあ〜んぱんだったって」


『なんでwwwwwwwwwwwwwwwwwww』


「うそだろwwwwwwwwwwwwwww」


「違うんです。確かにパンが好物だとは言いましたがそうじゃないんですって苦い顔した七海にもう耐えるの無理だった。目の前で爆笑した」


「そうだねwwwがんばったねさとるwwwwパンだねwwwwwwww」


『おかしからはなれろwwwwwwwwww』


「ちがうそうじゃないを真面目にかます七海が面白過ぎた。爆笑してごめんな」


「もうやめてwwwwwwwwwwwwwww」


『おなかいたいwwwwwwwwwwwww』


ひーひー言って動けない私と傑を戦犯が笑う。持ちネタが大体悟なのはいかがなものか。でも仕方無いね、悟だもんね。


『この間灰原から聞いたんだけどね』


「まってwwおねがいまってwwwww」


『お米が好きだって悟が覚えてたみたいでね』


「やめろwwwwwwwwwwwwww」


『にんじんくれたって』


「やっぱりwwwwwwwwwwwwwww」


「だがしからはなれろwwwwwwww」


『ありがとうございます!一緒に食べましょう!って言って七海も含めた三人で食べたって』


「七海wwwwwwwwwwwwwwwww」


「灰原いいやつwwwwwwwwwwwww」


『七海は照れてるだけなんです!って苦い顔した本人隣に居るのに言ってのける灰原のメンタルよ』


「七海wwwwwwwwwwwwwwwwww」


「遠回しに七海弄ってるwwwwwwwwww」


『光のボケだからね、仕方無いね』


「もういやwwwwwwwwwwwwwwww」


「光のボケwwwwwwwwwwwwww」


結局三人とも酸欠になった。それもこれも面白い事やらかす悟の所為。
有言実行で四の字固めを食らう悟を見ながら私達は会話を続けた


「ていうか五条さ、情緒は育ってきてんだけど常識が死んでない?人にバルサンしちゃいけませんなんて考えなくても判る事はどうやって教えれば良いの?」


「悟をバルサンまみれの部屋に閉じ込めてみるのはどうだろう?」


『どうせ無限で煙だけ止めんじゃない?』


「…………バルサンしてタバコ投げ込みゃ解るか?」


『ひえっ』


「うわ」


「おいそんな目でコッチ見んな」


思わずママと抱き合う。目がマジだったよパパ。息子を燃やす気だ。ハンムラビ法典みたいになってるけどそれはきっとアカンやつ。


『寧ろドーンってして一気にバーンッ!ってなった!オマエらもやろうぜ!に発展するに一票』


「刹那、それ答えだよ」


「……やっぱり無限無しでバルサン放り込むしか…」


「正論嫌いなんだよねーって言いながら舌出して無限バリアに一票」


『硝子、それ答えだよ』


「…逆に考えよう。敢えて私達をバルサンの室内に晒す」


「何を逆にしたらそうなんだよ馬鹿か」


『馬鹿なの?疲れてんの?誰がそんなにオマエらを疲れさせたの?上燃やそっか?それとも鏖し?って言いながらルーチェモンが無限バリアで私達を助けるに一票』


「そして誰が止めようが聞かずに上層部がバルサンされるに一票」


「そして出口が壊れる様に細工した上で火を放って、僕が出口を塞いだわけじゃアリマセンってシラを切るに一票」


「『「はぁ………」』」


どうやったって説得出来ない五条悟をどうすれば良いのか。
だって人にバルサンしちゃいけませんなんて言われずとも判る事だし、何なら飼ってるペットだってバルサンの時は避難させられている。上層部よりペットの方がまともな扱いを受けているのは何故?
人が煙を吸ったら危ない。それはバルサンの焚かれた空間に人が入れば、その煙で健康を害すからだ。
でも悟はそうじゃない。
無限で自分を覆えば煙は永遠に辿り着かないし、健康なまま。仮に其処に火気をブッ込んだとしても超至近距離マジックショーぐらいにしか思わない可能性もある。
だからだろうか、こう…普通に死ぬよ?みたいな事を奴は平然とぶちかます。
相手も呪術師だから死んでないけど、普通は死ぬ。


『もうさ…私達じゃ良い案思い付かないよ?』


「…誰かにアドバイス貰いに行く?」


「それが良いかもね」












「────人の嫌がる事をさせない方法?」


「はい……」


「正直詰んでるんですよね。周りもまともなの居ないし」


『だから、ママ黒さんなら良いアイディア浮かぶんじゃないかなって』


三人で聞いて回った結果、これだ!となる案はなかった。
まともだと思っていた歌姫先輩は相談内容が悟だと聞いた瞬間に無理だと匙を投げたし、黒川くんには「……それは…無理では?」と大変沈痛な面持ちで言われてしまった。
七海なんて「その件に関しましてはお答え致しかねます」って返してきて、どっかの企業に電話掛けたかと思った。


だからこうして常識があり、尚且つ二児の母であるママ黒さんの許に三人揃って来たのだが、此処で問題が発生した。


────上層部の会議場にバルサンかまして花火玉投げ込む十六才に、バルサンは駄目だよって教えたいんですって、素直に相談出来るか?


相手は一般人だ。
幾ら甚爾さんの奥さんだとしても、カッ飛んだ呪術師の奇行を必ず受け入れてくれるとも限らない。
しかも悟に至っては普通に殺意しかない。流石にこの間正座させて説教した男子高校生が、結構な頻度で高齢者にバルサンチャレンジしてますとか知ったら卒倒するだろう。
此方としては「またバルサンwwwww」みたいなノリだけど、一般人からすれば「えっ?バルサン…????」ってなる事を奴はやっているのだ。
それをこの間、何気無く話していた時に黒川くんが「えっ…???」みたいな顔をしているのを見てふと思い出した。
…私達、もしかして悟に毒されてる…???


流石に結構な頻度でバルサンしているという事は隠すべきだという意見で纏まり、じゃあどうやって相談するよ?となった結果のこの質問。
ぼやっとし過ぎて伝わるか不安。
人の嫌がる事(バルサン花火)をさせない方法だ。しかもあいつ正論が嫌いなのである。……詰んでない?


「んー…じゃあその子は、どういう時にそれをするの?」


「どういう時……腹が立った時、ですかね?」


「馬鹿にされたとか、そんな感じ?」


「後は……大事なものを馬鹿にされた時?」


「大事なもの…お友達とか?」


『はい』


悟が上層部をバルサンしに行くのは大体二つの動機だ。
一つは上層部が悟の気に食わない言動をする。そしてもう一つは、私達の悪口や、私達に対してちょっかいを出した時。


「その…さ…その子は少々特殊な育ちでして、親友と呼ぶ三人にとても執着してるんです。それで、その三人に何かあると、直ぐに手が出てしまう様で」


「んー……じゃあどちらかというと、その子は親友三人が大好き過ぎてヤンチャしちゃうって事かな?」


「…………………そうですね」


耐えて傑、耐えて。顔を赤くしないで。硝子も震えないで。ママも私も頑張ってるから。あ、此方見ないで私今めっちゃほっぺ噛んでる。
何でかな、自分達で悟私達の事大好きすぎない?とか言うのは割と平気なのに、第三者にそれを指摘されるとのた打ち回りたくなる程恥ずかしい。
現に全員が被弾していた。恥ずかしがってるのが伝わってくる。
ママ黒さんは気付いているのかいないのか、うーんと悩んでいた。


「んー……一番良いのは話し合って、それで少しでもヤンチャ行動を減らす事、だけど…」


「その子、根は素直なんですけど性格がひん曲がってまして。正論が嫌いなんです」


「……じゃあ説得は無理そう?」


「恐らく」


正攻法で行くともれなく高専が犠牲になる。てか正論が嫌いって普通に面倒だな?口論がヒートアップすると直ぐスマブラ始めるとか迷惑だな?
何で私達こんな性格に難アリの十六才児と親友やってるんだ…???
ママ黒さんはうんうん唸っている。申し訳ない、とても曖昧な質問をした癖に正論はダメとか言っちゃって


「あ、じゃあいっそ、ヤンチャの被害を抑える方向で行ったら?」


表情を明るくしたママ黒さんの言葉に首を傾げた。
被害を抑える?…バルサンを小さくするって事?花火玉の号数を下げるとか?


「たとえば?」


「もしその子が直ぐに叩いちゃうタイプなら、先ずは叩く前に口で言わせるの。何がどう嫌だった、とか。そしたら先ず、相手に此方の不満を伝えられるでしょ?
喧嘩の前にお互いの思った事を伝え合えば、少しはヤンチャも抑えられるかなって思ったんだけど」


どうかな?と聞かれ、傑が顎を擦った。
いや、ぶっちゃけ上層部のおじいちゃん達は話聞かないんだよね。しかも悟は大概口を出してから爆撃する。だってあいつ口撃大好きだから。
つまりママ黒さんの言う事を実行した上で悟はやらかしているのだ。常識人のアイディアが駄目って、詰みでは?私の目が死んだ。硝子も無理じゃね?って顔。
しかし、傑は違う様だ。


「ありがとうございます、伏黒さん。お陰で良い方法が浮かびそうです」


「そう?それならよかった!上手くいったら教えてね!」


「はい」


硝子と顔を見合わせる。
うちのママ、何を思い付いたんだろう?













「さて、我々は悟に人にバルサンしちゃいけませんという常識を教えたい訳ですが」


「改めて見ると三才児にやる様な内容だな」


「三才児に失礼だよ、硝子。三才は殺意なんかないからもっと可愛い」


『ママが悟に失礼なの笑う』


「ほんとそれな」


大概五分に一回笑う事になるので会議は進まない。しかし今回は簡潔に終わらせなければ、悟が任務から帰ってきてしまう。
傑もそれを理解しているのだろう、教壇にバルサンを置いた


「これはバルサンです」


「見りゃ判る」


「悟が重要視しているのは、恐らく煙による効率的な薬剤の散布だ。つまり空気中に撒けるもの」


『うん』


「ですので、私は考えました」


にっこりと傑が笑う。とても胡散臭い顔で笑って、言った


「────命に危険はないが死ぬ様な思いをさせるには、どうすれば良いかなって」


「『ママがやべえ』」


「ははは、どうしたのかな?」


え?ママ黒さんと話しててそんな恐ろしい事考えてたの?嘘でしょ?平和な育児相談だったじゃん?急に世紀末な復讐方法になったの何で?


『ママ、急に怖い』


「だって、簡単に言うとこういう事だろう?悟は殺したい。でもそれは少々問題がある」


「少々………???」


「ならば命に別状はないけれど、死ぬ程苦しい目に遭わせたら良い。そうすれば悟は殺意をそのままぶつけられるし、上層部は死なずに苦しむ。万々歳じゃないか?」


なんかやばい。
何がって、傑が当然の様にそう思っているのが。
困惑する私の傍でうわぁ、と言いつつ硝子は切り替えたのか、にっこりと微笑んだ。
え、嘘でしょ?傑に付いちゃったこの子。


「じゃあそのやべぇブツは何にすんの?」


「密閉して、開けたら一気に内包物が部屋に広がったりすれば、広義的にはバルサンと同じなんじゃないか?」


『……じゃあコショウとか?バラエティーで見るヤツ』


「普通じゃね?どうせならもっとヤバいのかまそう」


「あれ、硝子。乗り気だね?」


傑が言うと、硝子は笑った。
わぁ、悪どい笑み。


「あれだろ?ジジイ共はいき過ぎた子供のイタズラなんて考えてるんだろ?
なら私らがこうやって手を加えても“子供の遊び”な訳だし。
万が一私らの関与がバレても五条のやり方じゃあ健康被害が出るかも知れなかったので、私達が緩和策を練りましたって言やぁお咎めナシ。
最悪実行犯に罪を擦り付ければ私らは無罪。最高じゃん」


「うわ」


「こんなにノーリスクで上層部にやり返せるとか滅多にねぇだろ。全力で便乗する」


ああ、最近また嫌な上層部の手下が近付いてくるって言ってたな。それでストレスが溜まっていたんだろう。
ノリノリな硝子を見て、それから傑が此方を見た。


「今なら責任も何もなく上の老害に嫌がらせが出来るよ。一枚噛んでおかないか?」


『皆やるなら勿論やるよ。楽しそうだし!』


私もにっこり笑う。
集った三人はそれはそれは良い笑みで、作戦会議を始めた。








善意とは…???








夏油→地味に五条に洗脳されてる
硝子→自分が無事無罪になるのを見越して加担するタイプ
刹那→一緒にやるけど罪の意識が凄いタイプ
五条→嬉々として実行犯

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