モブから見るとどっちも殺傷物

どうも、黒川です。モブです。
…覚えてる方、居るのか…?…あ、居る?どうも、ありがとうございます。
今日は教室に珍しく全員揃っていて、語部がニマニマしていた。
うん、バレない様にしておけよ。女子組は大丈夫だろうけど、五条辺りは何笑ってんだよってテンプレな絡みしてきそうだから。


「刹那ー」


『はーい?』


「ん」


『ん?……ああ、りょーかい』


五条が首を突き出してただ一音のみを発し、目を瞬かせた桜花は直ぐに思い当たる事があったのか、ポケットに手を突っ込んだ。
そして取り出したのは細長いプラスチックの円柱。
蓋を外し底を回して中身を押し上げる。
…いやあれリップクリームだな?
何故あの一音でそれが出てきたのか、内心首を傾げつつ眺めていると。
五条の頬に手を添えて、桜花がリップを塗り始めた。


「………???」


…???なに?…あ、あれね?五条のリップを桜花に預けてたのね?
それならまだわか…んねぇわ。何で女の子にリップ塗らせるの?持たせとくの?恥ずかしくない?だって良く見て、桜花って美人だからね?その綺麗な顔が唇に綺麗に塗る為に寄ってくるのよ?先ず口臭とか目やにとか色々気になるわ。
ん?五条は顔面国宝だから平気って?あいつの羞恥心亡くなってるの?
語部が小さくうほって鳴いた。やめなさい。せめて心の中で鳴きなさい。


『オッケー。今日も美人ですねー』


「誰に言ってんの?」


『はーこれだから自覚のある美形は』


「美人は性格が悪いの典型かな?」


「おい傑、表出ろ」


「先生を待ってる途中だから一人で行けよ」


「ウケる、フラれてやんの」


「チッ。……刹那」


『ん』


軽率にピリッとなる空気がもうこわい。だってあいつら軽口で殺気出すんだよ?
そもそも前回も表出ろって言ったよね?それで一人で行けよって返したね?
でも前回それじゃ止まらなかったじゃん?この場で呪霊出してアラートなったじゃん。無限で壁ドンやったじゃん。
ねぇ前回と今回の違いは何?どっちも同じ様に煽り合ってたじゃん?
お前らの喧嘩スイッチどこ???
一般人に配慮して背中にでも見える様に殺る気スイッチ付けといて?


俺お前らが煽り合いする度にこわいの。
何時此方に流れ弾が来るか判らないし、そもそも平和をこよなく愛してる俺にゲリラスマブラは無理なの。
直ぐ教室壊すのやめよう?お前らのって普通の学生の非行レベルじゃないの。ミサイルが当たった後みたいになるの。
わかる?お前らはミサイルなの。


いや、桜花と家入がヤバかったら俺と語部に逃げろってジェスチャーくれるんだけどね?君らも早く逃げな?ってなるし、どうにか止められない?とも思っちゃうし。女の子に頼っちゃうのは男として非常に情けないんだけども。
そもそも何で家入つるんでられるの?お前反転術式は使えるけど、それとこれとは話が別じゃない?防ぐ手段ある?てか女子組はあいつら怖くないの?今更だけどそいつら見た目ガチのヤンキーじゃん?
2m近い男に多分160ないぐらいの細身の女の子が抱き付かれてるのを見る度通報する…?ってアイコンタクト送ってるぞ俺。多分桜花は目が合ったなー、やっほーみたいな感じでにこってして来るけど。
違うそうじゃない。お前の危機感isどこ?????


「オマエ口ちっちぇな。だから食うの遅ぇの?」


『んー』


「テディおこだよ」


「んあ?怒ってねぇだろ。ちょいむすより下だな。んな事も判んねぇの?」


「細かく分析してマウント取ってんじゃねぇぞ一歳児」


「は?????硝子ちゃん?????」


……何故、五条が桜花にリップを塗っているのか。いやそれさっき桜花がお前に塗ってたヤツだな?嘘だろ?リップ共用するの?異性同士で?????
いやそれ間接キスでは?てかリップって共用するものだっけ?女の子でも一緒に使ってるの見た事ないぞ??え、俺が知らないだけ??
いやそれでも異性で一緒に使うのは違うだろ。
語部はんもぎゃっていう何とも形容しがたい声を出して拝み始めた。やめなさい。バレるから。


「てえてぇ…原作再現……」


「原作……?あったかあんなの?」


「ありましたけど??????星漿体護衛任務のほんの少し前の何気ない日常の一ページとして五刹リップはありましたけど????」


「あー、すんません。ライト勢だったんで」


「判ってるよ、布教するから待っててね☆」


「謹んでお断りさせて頂きます」


丁重に頭を下げて辞退しておいた。
さしすせカルテットに目を戻せば、リップを塗り終わったらしい五条が桜花の顎に手を添えたままで満足げに口角を上げていた。


「オッケー。今日も可愛いデスネー」


「前から思ってたんだけどさ、五条って刹那に良く可愛いって言うじゃん?」


「あ?うん」


「この子どっちかって言ったら綺麗系だろ?なんで可愛いなの?」


家入の問いに白い睫毛がぱちぱちと瞬く。
それから桜花に目を向けて、じいっと見つめる。
確かに桜花は系統で言うなら綺麗系だ。多分戦闘時に使う水とか氷のイメージもあって、俺の中で桜花刹那という人間はクールビューティーというタイプのもの。


…いや、違うんだ。夜蛾先生の五条悟育成計画途中報告会の地獄のブラックジョークみたいに死に方を弄ってる訳じゃない。


あれはどうしてあんな惨い事をしたの…?原作で親友に殺されて乗っ取られた人を使徒になったエヴァにするし、自爆技で五条の前で微笑んで死んじゃう子に爆弾持たせて自爆させるし。
語部は発狂した。俺は夢に見た。普通に先生がトラウマ植え付けるとかこの世界大丈夫?普通じゃない?知ってた。


五条はその特別製の眼でじいっと桜花を見ると、一つ頷いた


「確かに刹那は綺麗だよ?俺には負けるけど」


『ピンセットで睫毛抜いて良い?』


「オマエ最近硝子に似てきた?」


「自慢の娘だ」


「私達の可愛い子だよ」


『んふふ』


「あ、ほら。これだよ」


『え?』


「どれ?」


さしすの三人が顔を覗き込む体勢になり、語部は「刹那ちゃん総受け…?」とか言う恐らく本人にとっては望まぬ恋愛関係を呟いた。
やめてやれ、純粋に仲良しだねで済ませてやれ。何でも恋愛フィルター掛けるのは良くないよ。本人達が話しにくくなるから。
いや、五条は絶対下心あるけど。そうじゃなきゃあんなに女の子にボディータッチする?
幾ら距離感バグってるからってあんなに堂々と間接キスする?え?唇美容液を唇から奪ってた?あーあー、俺は何も聞いてない


「…オマエ顔ちっちぇな。片手で掴めそう」


『やめて。何でそんなひどい事言うの?』


「どうしよう硝子、私の娘が可愛いのは当たり前なんだけど、普段が美人」


「当たり前だろ私の娘だぞ」


『待って、パパとママが娘バカじゃんwww』


「あ、ほら」


「「『ん?』」」


桜花の顔を両手で包み込んだ五条がまたそう言った。
目を瞬かせた三人を見て、ゆるりと蒼い瞳が細くなる。
そして、ふわりと甘く微笑んで、五条は言うのだ。


「ほら。笑った顔が一番かわいい」


『…………………ひえっ』


「ふはっ、ンだよその鳴き声」


くつくつと耳触りの良い声が楽しそうに踊った。
…因みに桜花は顔面国宝の微笑みを真正面から食らいオーバーキル。とてもかわいそう。
なんでそんな百戦錬磨のチャラ男みたいな発言するの…?お前この間クソデカボイスで自己紹介のついでに童貞ですって暴露してたじゃん…あれなの?性的交渉はありませんが交際は何度も経験していますとか?…あの性格で???無理だろ。
顔が幾ら良くてもあいつの場合は整いすぎてて声を掛ける側が気後れしそうだし、何よりガラが悪いので、隣に居る夏油の方がモテそう。
…というか童貞って普通言うの恥ずかしくない?


「五条の癖にかわいい…」


「悟はほら、ほんとはかわいいんだよ…ほんとは……」


「あ?オマエらどうした?バグってんぞ」


家入と夏油も被弾していた様で、二人は天を仰いでいた。
五条が目を瞬かせている。大丈夫、全部お前の所為。
だんまりになったと思ったら語部は泣きながら拝んでいた。これも五条の所為。


「変なの。刹那は何で真っ赤なワケ?照れてる?」


そしてオーバーキルした相手に遠慮なく死体蹴りかます男の無慈悲さよ。
真っ赤になって固まっていた桜花の頬を包んでいた手でふにふにと揉んで、至近距離でじいっと穴が空きそうな程見つめてくる顔面国宝。
あいつはもう少し自分の顔の良さを配慮して動いた方が良い。あれは何もなくても照れるわ。軽率にオーバーキルするし。現に何とか手を退かそうとしている桜花はまた死にそう。体力赤ゲージじゃんバトンタッチしてあげて。


「照れてる…?んー?何だこれ、硝子と傑のに似てる…?けど何か違うな…?」


『もうやめて……なんでこんなひどいことするの…』


「ああ、これは恥ずかしいか。なぁさっきのどんな感情?俺が知ってるヤツ?」


『知らんがな…』


「あ、目ぇ閉じんな。見せろ。今めちゃくちゃキラキラしてんだよ意地悪すんな、見せろ」


『もうやだ……おまえほんとやだ……』


「なーってば。見せろ!!」


「てえてぇ……てえてぇよぉ…」


またてえてぇ鳥が降臨したらしい。語部は拝みながら鳴いている。
家入と夏油はオーバーキルされたままだし、桜花の味方は居ない様だ。真っ赤になった彼女を覗き込んで騒ぐ五条は一人でうるさい。


……でも、思うのだ。
桜花を見ている五条の目。
あれ、どう考えても……


「席に着け。さしすせカルテットに聞きたい事がある」


がらり、戸を開いて入ってきたのは今日もヤクザな夜蛾先生だった。
先生の登場で教室内の空気は霧散して、桜花がいち早く座り直して笑顔を浮かべた


『ありがとう先生!!大好き!!!』


「あ゙??????????????」


「軽率に俺を死の淵に立たせるな。硝子、傑、座れ」


「「はーい」」


先生を軽率に死の淵に追いやる生徒ってなに???うん、明らかに五条悟。だって今すっげぇドスの効いた声で威圧した。そのあ?が怖いって何度言ったら判るんだ五条悟。だから殺る気スイッチどこ?
今のは冗談なの?本気なの?わかんねーよこわいよ。


「先日上層部の定期会議中に襲撃が起きた事は知っているか?」


「知りませんでした」


「へぇ、そんな事があったんですか?」


「刹那、チョコちょーだい」


「実行犯はせめて黙って話を聞け。今回は何時ものバルサンではなく、煙幕とニシンの塩漬けと唐辛子が噴き出したそうだ」


「それは大変ですね」


「へぇ、そんな事があったんですか?」


夏油は胡散臭く笑い、家入は同じ言葉を繰り返した。桜花は無言である。いや嘘下手か。顔色悪いぞ嘘下手か。
お前絶対やったな?関与したな?ほら先生も見てる。
というかこれはアレ、判りやす過ぎて逆に問い質せないヤツ。怒った?ごめんね?みたいに悪さしてプルプルしてるチワワに似ている。怒りにくい…
………ていうか待って?何時ものバルサンってなに????????


「つーかそれって犯人見付けんの必要なワケ?何時もみたいに実行犯捜しで良いじゃん。“子供のイタズラ”なんだから」


隣の席の桜花を持ち上げると、自分の膝に乗せた五条がべぇ、と舌を出した。
ぎゅうぎゅうに抱き締めて黒い頭を肩口に押し付けている。
…ああ、桜花を庇ってるのか。でもそれ先生の前でやって良いの?先生止めないの?
先生は溜め息を吐き、抱え込まれた桜花に言った


「………刹那、せめてもう少し嘘を吐ける様になれ。素直過ぎるのも呪術師としては考えものだぞ」


「だからぁ、刹那は嘘吐いてねぇじゃん。喋ってねぇんだし」


『……がんばります』


五条はそのままテディベアを抱えて、その背をとんとんしながら椅子をゆらゆらさせている。授業態度二重バツ。
先生は諦めたのか、話を続けた。


「今回の襲撃で煙幕は…刹那だな。何となくやりきれないのがお前らしい」


「オイ遠回しにテディ弄んな。カワイソーじゃん」


「お前もニヤニヤすんなクズ」


「チャンスって時にホームラン狙わずにバントする腰抜けみたいだね」


『えっ』


「うわ…」


「傑、おま、それはねーわ…」


「傑、お前が一番酷いと気付け」


「えっ」


夏油傑唐突に娘の背中刺すじゃん。
刺した癖に何故驚いた顔をする??いや刺したのお前。桜花が傷付いた顔するのは判るけど、何でお前が吃驚してるの?
え、まさか傷付けた自覚ないまま刺すタイプ?やべぇじゃんそりゃクズって言われるよ。
語部もうわ…と声を漏らした。若干引いてる。お前これでドン引きじゃないの凄いな?


「ニシンの塩漬けは……傑か」


「シュールストレミングです」


「名称はどうでも良い。悪臭が酷く救助もなかなか進まなかったそうだ」


「人望がなかっただけでは?」


「……………」


「否定しろよwwwwwwww」


いや、まぁ上層部って私利私欲で呪術界を牛耳ってるイメージだし。
本音を言うと全員何らかの理由で失脚してくれれば良いなと日々願われていそうな連中である。まぁ俺モブなんで、関わった事ないけど。


「最後、唐辛子で目も鼻も喉も焼いた大罪人」


「キャロライナリーパーです」


「唐辛子の品種はどうでも良い。何気にお前が一番えげつないんだが」


「え?脇腹ちょっと取れたぐらいで治す間ずーっと私にセクハラかましてきたクソ息子の親父のどこに配慮する必要があるんですか????」


「しょーおーこーちゃんっ♪そーれだーあれっ???
────言えよ。潰すから」


「硝子、無闇にフォールダウンさせるな」


「はーい」


待って、ていうかこいつら良く考えたら幾ら上層部とはいえご老人にバルサンしてたの?
煙幕張ってシュールストレミングで息止めたおじいちゃん達にキャロライナリーパーで目潰しして口と鼻を辛味で燃やしてトドメ刺したの?鬼か????
普段幾ら老人に虐待されてるからって老人を息の根止めるレベルで虐待するのは流石に駄目では???


「つーか普段からジジイ共嫌な任務だったり等級間違いまくった任務とか割り振るじゃん?そのお礼だと思えば安いモンだろ」


「最近頻繁に甚爾が任務に行っている様だが」


「あ、それはアレ。俺のお気に入りに回ってきた、等級違いの明らかに死ぬなってヤツは甚爾に内密に流す様にした。
今回狙われたお気に入りはアレな、七海と灰原」


「……悟」


「えー?ちゃんと甚爾の許可もあるし、金も甚爾に渡ってるから良くない?
報告書メンドって言うけどこれ自分の名前で出さねぇと金抜きなって言ったらちゃんと書くし」


「教師を金で釣るな」


ギイギイと椅子を揺らしながら、五条は笑う。


「でもさぁセンセ、俺が手を出してなきゃこの間の三級って名前詐欺の二級任務でアイツら死んでたかもよ?
先生は、大事な生徒が死んでも良いの?」


「………だが」


「知ってますよ。先生は“教師”だから“上への報告義務がある”んだろ?だから此方で色々やってんだ。
……まぁ、俺が全部どうにかするからさ。見逃してよ」


────頼んでいる様に見せての命令だった。
ギラギラと輝く六眼を暫し鋭い目で見つめ、それから肺の中の空気を全て吐き出す様に大きな溜め息を落とした


「……せめて唐辛子はやめてやれ。呼吸困難者多数の悲惨な状況だったそうだ」


「へーい」


「じゃあ次何にする?」


「唐辛子がダメなら何にすっかなぁ。刹那、オマエも何か……刹那?」


不思議そうに五条が抱え込んでいた桜花を覗き込んで、それから噴き出した。
突如ひーひー言い出した五条に家入と夏油が顔を見合わせ、首を傾げた


「五条?」


「刹那がどうかしたの?」


二人が問い掛けると、笑い過ぎて目尻に涙を浮かべた五条が言った


「刹那っ…この体勢で寝てる…っ!!」


………え????









オマエの危機感ど〜こだ☆









五条→犯人捜しはやめませんか!!って自己申告するタイプ

夏油→私?知りませんよ?って胡散臭い笑顔で誤魔化すタイプ

硝子→へぇ、そんな事あったんですねってしらーっとした顔で切り抜けるタイプ

刹那→うわ、やっちまったって罪悪感で顔色が悪くなるタイプ。嘘が下手。ポーカーとかでニヤニヤした五条にいたぶられる

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