神の懐玉

「あー帳も自分で降ろすからさぁ、先行くわ」


「は!?五条さん!?」


「やれやれ、置いていくなよ悟」


「刹那、私らはゆっくり行こう」


『はーい』


静岡県浜松市のとある建物。
そこに任務で向かった呪術師が二人、二日も戻ってこないという事で私達が応援に向かう事になった。
悟は早速宙を歩いて建物の真上に当たる位置に辿り着くと、その場で無限を展開した


『うっわ』


「メキョメキョじゃん」


「二人とも、あまり近付いちゃ駄目だよ」


「『はーい』」


真上に収束する建物は見る間に瓦礫になり、上部をバキバキと剥ぎ取った。
壊した残骸の中に目的の人影を見付けたのか、悟がにやあっと笑った。
傑曰く、弱者を嘲笑う笑みである。


「助けに来たよ〜歌姫。泣いてる?」


「泣いてねぇよ!!敬語ォ!!」


『性格が悪いですな』


「何時もの事だろう。刹那、硝子と先に上に行ってくれ。念の為、巻き込まれない様にゆっくりね」


『はーい。乗って、硝子』


「おー」


『傑も気を付けて来てね』


「はは、ありがとう」


よしよしと傑に撫でられた。ママの撫で方は優しいので好き。
水で白虎を作り出し、硝子を乗せて走らせる。宙を駆ける間に歌姫先輩と、その背後に現れた呪霊が傑によって鎮圧されるのを見た。


『どう思う?弱いもの虐めだってよ』


「ママもクズ」


『いじめっこ悟と合流すれば良いんだよね?』


「そうそう。あ、冥さん居るじゃん」


『ほんとだ。美人〜』


「ほんとそれな」


硝子を連れて白虎で降り立ち、二人に合流した。水分を回収すれば悟が頭に肘を乗せてくる


「遅かったじゃん。何してたんだよ」


『傑が危ないからゆっくり行きなって』


「お前に巻き込まれない様にって配慮だよ」


「あぁ?俺がんな事するかよ。つーか刹那なら硝子居たってちゃんと避けられるじゃん?歌姫と違って」


「五条てめぇコラ!!!!」


『私使って先輩弄るのやめな。歌姫先輩、お疲れ様です』


「歌姫センパーイ、無事ですか〜?」


「刹那!硝子!」


「心配したんですよ、二日も連絡なかったから」


傑と共に此方に上がってきた歌姫先輩は、悟の肘置きになっていた私を引ったくって隣に居た硝子ごと抱き締めた。


「あっ、何奪ってんだ歌姫。ソイツ俺のだぞ」


「るっさい五条!!アンタ達はあの二人みたいになっちゃ駄目よ!!」


「あはは、なりませんよあんなクズ共」


『気を付けまーす。先輩、痛い所ありません?お腹空いてます?私色々持ってますよ』


「ほんと良い子よね刹那…アンタは絶対にアイツらみたいにならないでね…」


「大丈夫ですよ、私も見張りますし」


これだけ声を張れるならきっと大きな怪我はないのだろう。
お疲れ様な歌姫先輩を硝子と共に抱き返していると、悟と話していた冥さんがふと空を見て、問い掛けた。


「それはそうと君達────帳は?」


「「『「あ」』」」













《続いて昨日、静岡県浜松市で起きた爆発事故────》


タイムリーなニュースを見ながら、私達は先生の前で正座をしていた。
そっか、悟の無限って誤魔化そうとすると爆発事故になるのか。まぁ爆発って一番使い回せる表現だしね


「この中に、帳は自分で降ろすからと補助監督を置き去りにした奴が居るな。そして帳を忘れた」


完全に真ん中の白い奴。
私達はアイコンタクトするまでもなく、悟を見捨てる事を決めた。


「名乗り出ろ」


「先生!!犯人捜しはやめませんか!?」


「悟だな」


全員が顔を背けて真ん中を指差した。
自己申告した悟に下されたのは鉄拳制裁。やっぱり馬鹿だ。


《────此処で速報です。たった今宗教団体》


『あっ、ちょっと。見てたのに』


「テレビのアナウンサーなんか見なくて良いじゃん。あんなブス見るなら此方見とけよ」


『アナウンサーの顔じゃなくてニュース見てたんだよ』


見ていたテレビを突然消され、頬杖を着く悟に無理矢理抱え込まれた。理不尽。そーっと手を伸ばし、たんこぶをつつく


「いてっ。やめろよカワイソーだろ」


『普段からカワイソーなテディちゃんは仕返し出来る時にやり返すタイプです』


「生贄wwwwwwwwww」


「んふwwwwwwwww」


「オイ俺よりパパとママにやり返しに行けよ。クソ笑ってんじゃん」


『てか私が生贄なのはお前の所為』


「あん?こんなちんちくりんで鎮まるかよ。パフェ付けろ」


「そう言うなら刹那離せよ」


「イヤだ。コイツは俺の」


「そういうトコだよ悟」


「あとでオマエの黒いたんこぶに使用済みストロー刺してやっからな」


『うわ…』


「陰湿ないじめだ」


「引くわー」


「一気に敵になるじゃん」


つついていた手を掴まれ、何故か恋人繋ぎをした悟はそれをゆらゆらさせた。何これ、社交ダンスもどき?


「そもそもさぁ、“帳”ってそこまで必要?」


『あー…』


「別に猿に見られたって良くねぇ?どうせアイツら呪力も呪霊も見えねぇんだし」


「駄目に決まってるだろ」


「でも正直人目がなきゃ良さそうではあるよな。あ、刹那の術式ってさ、一般人見えんの?」


『えー…?……悟』


「多分、水とか氷は見えるよ。呪力は見えねぇけど、操られてる実在する物質ならナマクラの目玉でも見える筈。
だからオマエがタネも仕掛けも絶対にバレねぇマジシャンになるって事。
…つーかこの眼持ってる俺に猿の眼の解説させるって何事???
ダイアモンドと道端の小石並べる様なモンですけど????」


『六眼カッケー』


「ダイアモンドあざーっす」


「オマエらそこに並べ」


「せめて外では一般人と言いなね。あと外で年上の方が居たらさん付けしな。
悟、呪霊の発生を抑制するのは、何より人々の平穏だ。
その為にも、目に見えない脅威は極力秘匿しなければならないのさ。
いざとなればマジックですって誤魔化せるのはこの中じゃ刹那だけだよ」


「本音は?」


「…………」(にっこり)


「それが本音だろ。弱い奴等に気を遣うのは疲れるよ、ホント」


サングラスを掛けた硝子が手探りで何かを捜している。
その前にそっと傑のペンケースを置くと、ほっそりとした手がそれを掴んだ。
悟は暇になったのか、自分と私の手を使って蛙を作る。無駄に器用。


「げーこげこ」


『げーこげこ。そこはカエルの歌では?』


「地味に長ぇんだもん。つかコレ顔面麻痺みてぇなカエルじゃん」


『手のサイズが違いますからね』


「手ェちっさ。俺の指入れんのも狭ぇわ」


『ぐいぐいすんな。水掻きが裂ける』


「普段から根元まで突っ込むじゃん?そん時股痛ぇの?」


『痛くはない。ただ最近妙なフィット感はある』


「すっかり俺の形覚えちゃった感じ?んふふ、かわいい」


「こら悟、真面目に聞きな。というか如何わしく聞こえるからやめなさい。
“弱者生存”、それが在るべき社会の姿さ。前に悟が私達に唱えた事だろう」


「チッ。違いますぅ、俺が言ったのは“弱肉強食”。弱きを助け強きを挫くなんて強ぇ奴が割り食ってるだけだろ。
強ぇ奴が選り好みして何が悪い。
護って貰うだけの弱者がイキッてんじゃねぇぞってな」


「……悟、私はまだ、呪術師は非術師を護る為にあるんだと思っているよ」


「ハッ、それ正論?俺、正論嫌いなんだよね」


すっと硝子がペンケースを真上に振り上げた。悟にイラついている傑は、気付いていない。


「………そろそろ受け入れなきゃいけない正論の区別も付いてきたんじゃないか?」


「知るかよそんなの気色悪ィ。
呪術ちからに理由とか責任を乗っけんのはさ、それこそ弱者のやる事だろ」


サングラスの隙間から横目で合図を待つ硝子。私は笑わない様に俯いた。
クソ真面目に喧嘩五秒前なの傑だけなんですけど。なんだこの空間。


「ポジショントークで気持ち良くなってんじゃねぇよ、オ゙ッ゙エ゙ー」


舌を出して、わざと上向いて。
悟が、掌を出した。
それを合図に、硝子が動く。
鋭く振り下ろされたペンケースが、ブチキレ寸前の傑に────


「外で話そ────いたっ!?」


全力で叩き込まれた。
その瞬間、手を組んでいた三人が噴き出す。


『wwwwwwwwwwwwwwwww』


「やーいなに一人で熱くなってんだバーカwwwwwwwwwww」


「綺麗に入ったわwwwwwwwwww」


ゲラゲラ笑う私達を見て、状況を察したらしい。傑は叩かれた場所を撫でて苦笑した


「えええ………皆して私を騙したの?酷くない?」


「酷いモンかよ。信じられなくなりそうな理想なんざ捨てちまえ。
弱者の為に俺らが居るんじゃねぇ、俺らの為に弱者が居るんだ。食物連鎖のピラミッドは常識だぜ?」


「寧ろ叩いたらオキレイな理想も飛ぶんじゃね?」


「いたっ、何で叩くの?硝子?私君に何かした??」


「お前私の塩辛勝手に食ったろ」


「食べ物の恨みwwwwwwwwwww」


『マジかwwwwwwww』


「つーかこれこそ強きを挫いてんじゃん。良かったな傑、それがオマエの理想だよ」


『強者が虐げられる未来wwwwwwww』


「これはwwww流石に嫌だwwwwwwww」


「あの塩辛はな、刹那が歌姫先輩と一緒に私の為に選んでくれたとっておきだったんだぞ。それをこのクズ」


「関与してたテディちゃんwwwwww」


「待ってパパwwwww話せば判るwwwww」


「裁判だ。お前有罪な。親権も私が貰う」


「秒で判決出たwwwwwwwwwwwwww」


「待ってパパwwwww娘は奪わないでwww」


『ヤメテ。ワタシノタメニ、アラソワナイデ』


「wwwwwwwwwwwwwwwwwww」


「wwwwwwwwwwwwwwwwwww」


「wwwwwwwwwwwwwwwwwww」


『嘘じゃん全員潰れた』


さとるっちの真似しただけなのにな。
三人が動けなくなった丁度その時、扉が開いて先生が入ってきた。
爆笑してぷるぷるしている三人を見て、先生はまたかと小さく息を吐いた。
すっと私を見る


「今度は何をした」


『傑でスイカ割りして、私がさとるっちのモノマネしました』


沈黙。


「……もう少し腹筋に優しいモノマネをしてやれ」


『腹筋に優しい……????』


「wwwwwwwwwwwwww」


「腹筋にwwwwww優しいwwwwwモノマネwwwwwwww」


「なにそれwwwwwwwwwwww」


「生きてるだけで楽しそうだなお前達」


「溜め息吐いてんじゃねぇよwwwwwww」


「生きてるだけで楽しそうwwwwwwww」


『先生そんな事思ってたのwwwwwww』


「うけるwwwwwwwwwwwwwww」


全員が落ち着くのを待って、先生は口を開いた


「……まぁ良い。この任務はさすせの三人で行って貰う。硝子は待機だ」


『さのヒトー』


「はーい♡」


「すのヒトー」


「はーい☆」


「せのヒトー」


『はーい♪』


「えー、仲間ハズレかよ」


「お前は午後に語部、黒川と任務がある」


「りょーかーい。お土産よろ」


『まっかせて』


「ママも私に何か貢げよ」


「判ったよ、パパ」


もう最近、先生が私達を頭文字で呼ぶ。名前めんどいの?確かに頭文字さ行だけども。そして最近ちょっと騒いでも放置するね?疲れた?ごめんね?


「正直荷が重いと思うが、天元様のご指名だ。
────依頼は二つ。
“星漿体”…天元様との適合者、その少女の護衛と────抹消だ」









さぁゲームの合図だ手を挙げろ







本サイト史上最もやらかす五条編

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