ガイドなんて要らないさ

「────そうだ、旅に出よう」


「『は?』」


傑が急にそんな事を言い出して、私と硝子は今、キャリーケースを手に空港を訪れていた。
そして私は夜蛾先生に連絡を入れている


『すみません先生。なんか傑がそうだ、旅に出ようって言い出して』


《…まぁ、護衛任務の後、お前達には元々精神面を考慮して任務を入れていない。だからと言って勉学を疎かにして良い訳でもないが……事情が事情だからな…》


『すみません』


《…悟は此方でどうにかする。一週間だ。一週間、ゆっくりしてきなさい》


『……ありがとう、先生。お土産買ってくるね』


《ああ。楽しんでこい》


優しい声に小さく笑い、通話を終えた。
二人の許に戻ると傑にぽんと頭に手を乗せられた


「先生何て?」


『一週間ゆっくりしておいでって』


「マジか。やったね」


「じゃあ思ったよりゆっくり出来るな。必要な物はその時に調達するって方向で良いかい?」


『おっけー』


ぶっちゃけ傑の完全思い付きで始まった逃避行なので、何処に行くかもまだ決まっていない。
ただ東京校の派遣は東日本が多いから、西日本の何処かに行こうというぼんやりした提案がある程度。
もし京都校の生徒にバレて絡まれたら嫌なので、京都はナシ。
さてどうしようかとのんびり傑と話していると、ところで、と硝子が口を開いた


「お前ら、ちゃんと五条を着拒したか?」


「『えっ』」


着拒?無視だけじゃ駄目なの?
驚く私達にやっぱりか、と硝子は溜め息を吐いた。


「あのな、甘いんだお前らは。メールも電話もブロック。今やっときな」


「…でも硝子、それは流石に可哀想じゃ…」


「そんな風に最後に甘いから付け込まれんだよ。今回みたいな事をもう二度とやらかさない様に、私らはアイツからの連絡は取らない。ほら、やれ」


『……悟泣かない?』


「泣かすんだよ。お前らが泣かされたんだから、私があの馬鹿を泣かす」


『「パパ……」』


「そうだよ。お前らは私が護んの。お前らが私を護ってくれるみたいにね」


にっと笑った硝子がイケメンでしかない。ママと一緒に拝むと苦しゅうないと笑われた。













一日目・福岡


『福岡といえば?』


「もつ鍋かな」


「やっぱり博多ラーメンじゃない?」


『明太子先生のお土産にする?』


「高専に送ろうか」


二日目・長崎


『…ハウステンボスに、行きたいです』


「じゃあ行こうか」


「おー」


『えっ、いや、少しは悩んで?』


「行きたいって言ったもん勝ちだよ。あ、ワインあるんだっけ?」


「チーズも買おう。今の時期はチューリップが綺麗なのかな」


三日目・熊本


「良し、熊本城見よう」


「からし蓮根買おう。あれは良いツマミになる」


『鎧着られるって。やる?』


「夏油を足軽にしよう」


「二人は着物着る?」


『私鎧も着たい!良い?』


「ふふ、良いよ。一緒に着よう」


『ねぇ、悟は……』


「…刹那、私達は三人だっただろ?」


『……ごめん』


「気にすんな。ほら、行くぞ。時間は有限!」


「『はーい』」


四日目・鹿児島


『しーろっくま!しーろっくま!』


「テディちゃんだからかな、くま食べたいって」


「共食い?」


『チガウヨ!』


「さとるっちじゃんwwwwwwwwwww」


「悟、君は何をえら……」


『ははは』


「やべぇな、次私か?」


「ふふ、癖って怖いね。さぁ行こうか」


五日目・宮崎


「チキン南蛮を、食べましょう」


『どうしたの傑?』


「幟が美味しそうだったから」


「良いんじゃない?お昼時だし」


『何処が美味しいのかな』


「お腹空いてると全部美味しそうに見えるね」


「腹ペコかよ。おい五条、お前、は……」


『………』


「………」


「………」


『「「スリーアウトォ」」』














────この旅行を始めるにあたって、三人で決めていた事がある。
それは、三人全員が無意識の内に奴を呼んでしまった場合、とあるメールを見る、というものだった。


〔一日目〕


〔おはよう。
調子はどうだ?三人でちゃんと休めているか?身体も大事だが、呪術師は心の健康も大切にしなければならない。
返事は要らん。ゆっくり楽しんでこい。
お前達が笑顔で土産話を持って帰るのを待っている

因みに、悟にはお前達が何時戻るか教えていない。

────差出人 夜蛾正道〕


【大変申し訳ありませんでした。と書かれたボードを持たされた甚爾と隣で頭を下げる孔の画像】


「…なんでこの人が呪詛師側なんだろう…?」


「最早七不思議だな」


『こんなに謝ってんのに隣の実行犯よ…』


「顔がふてぶてしい」


「顔wwwwwwwww」


〔二日目〕


〔おはようございます。
本日は晴れ、過ごしやすい気候です。其方は如何お過ごしでしょうか?
五条さんは覇気がなく、私達も大変過ごしやすいです。
ただ、時折寂しそうに携帯を見ています。
ですがこれは五条さんの自業自得ですので、先輩方はお気になさらず、ゆっくり心を休めて下さい。それでは失礼します。

────差出人 七海建人〕


【五条の後ろ姿とお土産待ってます。のボードを持った笑顔の灰原とゆっくり休んで下さい。のボードを持つ七海の画像】


「灰原wwwwwwwww」


「観察日記みたいなメールwwwwwww」


『ウケるwwwwwwwwwwwww』


〔三日目〕


〔ぐす……っ〕

〔授業を始めるぞ〕

〔wwwwwwwwwwwwwwwwwwwww〕

〔おい語部、可哀想だろ…〕

〔だってwwwwwwwゴリラの背中にデカいコアラがしがみついてるwwwwwwww〕

〔ぐすっ……ぐすっ〕

〔ファーーーーーーーーwwwwwwwwww〕

〔語部…〕

〔は?泣いて許される訳ねぇだろマイエンジェルの心をズタボロにしやがったんだぞあの若白髪。泣いて誠心誠意謝って全財産捧げてやっと刹那ちゃんの脚を見ても許されるレベルですけど????〕

〔脚…???〕


【夜蛾の背中にしがみつく五条の画像】
【五条を指差して爆笑する語部の画像】


『動画wwwwwwwwwwwwww』


「前から思ってたけど、語部さんって刹那の事大好きだね」


「マイエンジェルwwwwwwwwwwww」


『泣いてるのに爆笑される悟wwwwwww』


「しがみつかれる先生可哀想wwwwwww」


「ねぇ気付いた?先生さ、心配するなって紙出してる」


『wwwwwwwwwwwwwwwwww』


「wwwwwwwwwwwwwwwwww」


「wwwwwwwwwwwwwwwwwww」


〔四日目〕


〔皆、元気にしてる?ママ黒でーす〕

〔めぐ、げんきだよ〕

〔つみきも!〕

〔……悟くんは彼処で泣いちゃってるけど、大丈夫よ。心配しないでゆっくり休んでね〕

〔パパがいじわるしてごめんね〕

〔せつなちゃん、すぐるくん、しょうこちゃん!パパはわたしとめぐみとママでおこっといたからね!〕

〔さっちゃんはぼくとつみきがあそんであげるから、だいじょうぶだよ〕

〔あえないのはさびしいけど、みんなわらってかえってきてね!〕

〔…子供達も悟くんを気にしてくれているから、大丈夫。
甚爾くんが意地悪してごめんね。ちゃんと絞っておいたから安心して。
あなたたちはまだ子供なんだもの。辛くなったら、逃げて良いのよ。
ゆっくり休んで、沢山遊んで、笑顔になれたら、帰っておいで。
元気になったら皆でお茶しましょう、待ってるからね〕


【かえったらあそんでね。と書かれたボードを持った恵と津美紀。笑顔の伏黒母の画像】
【子供達に挟まれて横になる五条の背中の画像】


『……泣きそう』


「泣いて良いよ」


「どうせ私らしか見てねぇよ。泣きたきゃ泣きな、胸貸そうか?」


『パパがイケメン』


「私にも貸してくれるの?」


「タバコ寄越しゃあ考えてやらん事もない」


〔五日目〕


〔ひっぐ……ぐすっ…〕

〔目玉溶けんぞ坊〕

〔だって…おれ…せつななかせた…〕

〔だからちゃんと相談しろって言ったろ、ボス〕

〔き…きらわれたら…どうすればいい…?やだよ…すぐるとしょうことせつなに…ひっぐ…きらわれたくねぇ…っ〕

〔…えー…大号泣なんですケド。クソウケる。写真撮ろ〕

〔ボス、ポカリ飲みな。あと意味ねぇかもだが目許を擦らない。あんまり泣くと脱水になるぞ〕

〔うう…やだ…ひとりやだ…あいつらにあいたい……れんらくも、とれなくて……ぐす…〕

〔なぁ時雨、幼児が幼児退行したらどうなると思う?〕

〔そりゃこうなるんだよ。あーあーポカリ零れるから!ほら、シャチ置きな!飲んでから抱っこしな!!〕

〔すぐる…しょうこ…せつな…〕

〔保育園のガキじゃんwwwwwwwwwww〕

〔お前はもう少し慰めろ?
…俺が言うのもアレなんだが、ボスは君達を強くなる為に利用した訳じゃないんだ。君達を護りたくて、あんな無茶をした。
……許せとは言わないが、それだけは、どうか知っておいてやって欲しい〕

【シャチのぬいぐるみを抱き締め呪骸に囲まれる五条の画像】
【本当にごめんなさい。のボードを持つ甚爾と孔の画像】


「だから…何故アンタが呪詛師側なのか…」


『あまりにもまとも…』


「最後とか完璧保護者じゃん。アイツまた保護者増やしたのか」


『甚爾さんとは比べ物にならないほどまともな時雨さん』


「だが呪詛師仲介役」


「なんで?????」


一通り届いていたメールをチェックして、口を閉ざした。
悟の涙とママ黒さんの動画につられて泣いている私の涙をティッシュで拭きながら、傑が呟いた。


「私としては、此処まで泣いて弱ったならそろそろ戻ってやっても良いかなと思うけど。二人は?」


『んー…なんか、もうどうでも良くなってはいる。私、怒ってないよ』


私と傑の言葉に硝子が呆れた様に溜め息を吐いた。


「…刹那、少なくともアンタは五条をひっぱたいたって文句は言われないけど」


『…元々長く怒るのって苦手なんだよね。疲れるし』


ごろん、と硝子の膝に転がってみる。
嫌がるどころか優しく頬を撫でられて、笑みが零れた


『それに、やっぱり私達の為にやらかしたんでしょ?
……それ聞くとさぁ、やり方アレだけど、不器用でいじらしいし、怒れないというか…』


「んのお人好し……はぁ、戻っても良いけど、今回の悪かった点をちゃんと本人に自覚させるよ。それで良い?」


『「はーい、パパ」』










一人足りない修学旅行















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