歴史の授業?いいえ、友人のお家事情です

「ハイハイ皆さんお集まりどーもぉ!!今から対猿駆除検討会を開始しまぁす!!」


五条悟に襲撃されたのは突然だった。


「おい黒川、オマエの部屋今日行くから」


と言われたかと思えば五条一人ではなく複数連れてやって来た。
せめて人数教えて?訪問時間と人数と用事は人間として報告必須事項では???
そしてそもそも俺の許可を取って????
内心ぼやきつつ訪問者を招き入れ、ワンルームにみしっと詰まった人影に圧迫感を抱く。
来た奴が大体巨人なのは何?175の俺への嫌がらせ?
でかい筆頭の元凶は勝手に冷蔵庫を開けてコーラを二つも取ってきた。おい、マナーは何処行った。


「悟、人様の部屋で好き勝手しちゃ駄目だよ」


「へーへー。飲む?」


「貰おうかな」


貰った時点でお前も同罪。
缶を開ける夏油を睨みつつ、七海と灰原に缶ジュースを渡す。
全員が座ると、五条が待っていたという様に口を開いた。


「俺、多分一ヶ月後には特級に任命される。…そうなると、五条の当主就任が正式に決まる。
直ぐにって訳じゃねぇけど、一年後ぐらいにはなると思う」


「おめでとうございます!」


「おー」


「それで、我々に何をしろと?」


とっとと本題を聞きたいらしい七海が問い掛ける。
五条はサングラスを掛け直し、コーラの缶を指先でつついた


「一ヶ月、硝子と刹那を出来るだけ一人にするな。任務はオマエらと語部も含めた奴とだけ当たる様に俺が手を回す」


「理由は?悟の特級昇格が鍵なのは明らかだけど」


「一級と都市伝説レベルの特級じゃあ文字通り格が違う。
今まで手を出せなかった歳食っただけの老害会議に出ようと思えば顔を出せるし、任務も今より選り好み出来る。あと純粋に儲かる」


「やはり特級というのは特別待遇なんですね」


「そりゃそうだ、今居る特級は任務もしねぇポンコツ一人。
ちゃんと仕事するなら、目障りでしかねぇ五条のクソガキでも特級にしたいさ」


けっと吐き捨てる態度を夏油が注意して、それに適当に返した五条が続ける


「…けど、五条のクソガキに権力を与えればその分幅利かせるだろうし、最低でも一年後には御三家の当主だ。
そうなりゃそいつが囲ってる優秀な女術師にはもう手を出せなくなる。
だから今。今がジジイ共のラストチャンスなんだよ。
────五条悟が当主でもねぇ一級の間なら、硝子と刹那に手を出しても“お戯れ”で済むと思ってやがるからな」


「……気分の良い話じゃないな」


「蛆が沸いた脳味噌で考えてんだ、クソみてぇな事しか思い付かねぇよ。
硝子はまだ反転術式を他人に使えるって点で少しは配慮される。
アイツの機嫌を損ねればもしかしたら治療拒否、なんて事が起きるかも知れねぇからな。そこら辺を考えると、ジジイ共も少し勢いをなくす。
でも刹那は、アイツは立場が悪過ぎる」


「立場?」


「灰原達は知らねぇんだっけ?アイツはそもそも一般出身なんだよ。親に五億で売られた」


「五億!?」


「だからアイツは“家族”にトラウマ持ってるけど、気にしないでやってよ。普段表に出す事ないし」


「……ああ、だから…」


「そ。アイツが汚くて気持ち悪いっつったのは、産みの親の所為。
……ほんとは“ふしあわせ”にしてぇんだけどなぁ」


「悟」


「わぁーってるよ!しないって!
………でも、もし刹那の前に次現れたら俺もう我慢しねぇよ?」


「勝手にしな。…せめて、あの子にバレない様にやれよ」


「誰に言ってんの?俺がんなヘマするかよ」


恐ろしい犯行予告を耳にしてしまった気分である。寝たフリしてたんですか、と呟く七海もなんか怖い。
はわわ、大変だと呟く灰原が場を和ませてて唯一の救い。


「アイツを買った家は、桜花の相伝を受け継ぐガキが産まれるまでの繋ぎとして刹那に桜花を名乗らせてる。
桜花って名が忘れられねぇ様に、なんて化石みたいな思考でな」


「随分と旧態依然って言葉が似合う家だな」


「呪術師の家なんて大体そんなモンよ?ただアイツがメンタル非術師寄りなのがウルトラレアってだけ。
俺みたいに最初からその家スタートじゃなくて、途中からスタート。
しかも虐待付き。そんなんであんななら、アイツもちゃんとイカれてるって訳だ」


手で狐を作った五条が続けた


「刹那が桜花に売られた時に交わした縛りは二つ。
一つ、任務報酬の七割は家に入れる事。
二つ、婚姻の決定権は、当主にある事」


「滅ぼそう」


「イイヨ!!」


「まてまてまてまて」


夏油さん?なんで秒で滅ぼす選択するの??
五条さん??レスポンス早過ぎない???
腰を浮かせかけた夏油と五条を慌てて止める。なんで?なんで俺が止めてるの?
七海手伝って?いや待てお前も灰原止めてるな?
あれ?灰原くん?なんでお前まで立ち上がろうとしているの???


「純粋な搾取に加え婚姻関係の決定権まで家の思うがまま、なんて正直今を生きてないよね。
戦国時代かな?過去にお帰り頂こうか」


「だよな!?やろうぜ!!硝子も仲間に入れよう!!!」


「夏油くん!?お前がソッチ回るとストッパー居ねぇんですけど!?夏油くん!?」


「灰原、落ち着け!夏油さんの信者は止めろと言ってるだろう!」


「でも夏油さんの意見はもっともだよね!!桜花さんが苛められてるんだよ?滅ぼそう!!!」


「止めろ!!お前はまともな筈だろう灰原!!!」


「夏油さんの意見はもっともだよね!!」


「まともな奴は何処!?!?まともってマジでとんでもねぇ問題児の略だっけ!?!?」


「んっっっっっふwwwwwwwwwww」


「マジでwwwwwとんでもねぇwwww問題児wwwwwwwww」


「お前らだよ問題児二人!!!!」


崩れ落ちた最強二人をこれ幸いと座り直させ、荒ぶる灰原も着席させる。
ふざけんなよマジで。俺の部屋から殲滅計画がスタートとかやめて。こわいわ。
全員の息が整った所で、再び五条が口を開いた。


「はー笑った。…で?何処まで話したっけ?」


「刹那と家との縛りかな」


「あー、そうそう。じゃあ続きな。
桜花の相伝は“物体使役呪術”。読んで字の如くってヤツ?呪力とか対象の硬さとか色々関係してくるけど、簡単に言えば物体なら何でも動かせる」


「それなら、確かに桜花さんを買った理由は判りますね」


七海の言葉に五条は頷いた。


「そう。自分でも“液体使役呪術”だと思っていた刹那は、“完璧には継いでねぇけど、繋ぎとして桜花の名を背負うには十分な術式を持った宗家の子”に何も知らねぇ周りからは見える訳だ。
実際俺も桜花の女だと思ってた。アイツが自分で言うまで。
まぁ後から桜花の当主見たら、全然違う術式だったんだけど」


「そうなんですか?」


「使役ってジャンルが一緒なだけだ。同じリモコンでも操作すんのがテレビとエアコンじゃ全然違うだろ?そんな感じ。
そもそも物体使役呪術ってのは綿密な計算と繊細な呪力コントロールで成り立つ術式だ。
コップ一杯の水を動かすなら、その水にみっしり呪力詰め込む感じなんだよ。だから威力はあるけど使いにくい。
計算もクソ怠いから、処理落ち確定のスパコン専用ソフトをただのパソコンで使おうとしてる様なモンなの。
そんなの桜花の有象無象にゃ使えねぇよ。使えても実戦じゃ術式の演算中に御陀仏だ。
刹那だって、相伝だったらきっと今より弱かった」


「…なら何故あの子を迫害するんだ?刹那ほどの実力があれば、桜花にとっては金額以上の利益になる筈だろう?」


そう訊ねた夏油に、ぴっと白い指が向けられた


「それだよ。
刹那は優秀過ぎた・・・


酷く冷たい顔で、五条が笑う。
うっすらと笑みの形に口角を吊り上げて、立てた指をゆらゆらと揺らした


「一般出身のただのガキが、しかも女のガキが、呪術師の家の誰より豊富な呪力量を持ってたら?
自分達はコップの水を動かすのもみっちり計算して呪力捻り出さなきゃいけねぇのに、たった五歳のガキがちょこっとの呪力で池の水動かして、おまけに触っただけで水を氷に変えたりしたら?
そんなん見せられちまったらさぁ────アイツらは、妬むだろ?」


ばりばりと近くにあったポテトチップスの袋を開けながら、五条は言う


「アイツの術式は効率重視なんだ。ぶっちゃけると一撃の威力は弱いよ。
けどその分効率が良いから、少ない呪力で何処までも広範囲のカバーが出来る。
特級祓えるのも一回の攻撃に五回分ぐらいの威力込めるから。つーか超高速で一撃の間に五回ぶん殴ってる感じ?本人が理解してるかは知らんけど。
俺が爆弾だったら傑はサブマシンガンで、刹那はちっさいミサイルを全方位に撃てる感じ」


「もう少し判りやすい説明は出来ませんか?」


「え、めっちゃ判りやすかったじゃん七海馬鹿なの?んーと…俺が個人を絶対に殺す対人宝具だったら、傑は全体を平等に重傷負わせる対軍宝具。
んで、刹那は国を破壊できるけど一撃は弱い対城宝具ってトコ?」


「そもそも対人宝具が世界を破壊出来る場合は?」


「あー………俺が矛。傑が銃。刹那が散弾銃。これは?」


「判りにくいです!」


「もう良いよ。攻撃範囲が広いけど一撃弱くて紙耐久な後衛キャラだと思っとけ。
居るだろ、そういうのタワーディフェンスとかに」


「あ、それなら判りやすいです!
後方の敵に狙われない位置から攻撃するアーチャーですね!」


「嘘だろ俺説明めちゃくちゃ頑張ったんだけど」


「じゃあ五条さんは前衛でバリバリ敵を倒すアタッカーで、夏油さんは中間で全体を攻撃するサブアタッカーですね!」


「最初っからこれで説明すりゃ良かったわ」


「私を前に置いてタンクにするのもオススメだよ。呪霊っていう壁スキル持ちだから」


「じゃあ俺と傑で前衛して後衛に硝子と刹那配置しようぜ。
俺も無限って壁スキル持ってるし、四人揃えば無敵だから」


「ただの地獄じゃないっすかそれ…」


絶対に突破出来ない要塞じゃん。敵がかわいそう。
俺は溜め息を吐きつつ、ポテチを抱えて食べ始めた五条の前にティッシュを置いた。


「まぁ、そんな訳でアイツらは刹那を妬んで、畏れた。
虐待まっしぐらな鍛練をさせて、呪術師桜花刹那を作り上げた。
けどそうなれば、実力を着けさせちまった所為で新しい問題が発生する訳だ」


「新しい問題?」


「ヒント、戦国時代」


そう呟いて、五条は言う


「正解は、現当主を排除したい分家筋による刹那の担ぎ上げでしたー」


「……うわ」


「最近桜花の分家筋がガキを買ったらしい。ソイツは血統書付きで、歳は恵と同じぐらい。術式はまだ出てない。
……ただし非術師の女とガキを作った父親は相伝持ちだ。だから確率的には割と高めに有り得る」


「では、宗家がその子を迎え入れれば…」


七海の言葉に五条は首を振った


「それがさぁ、現当主が馬鹿なんだよ。
なんつーんだあれ、宗家至上主義ってヤツ?
宗家の人間が当主であるべき!みたいな考え方なの、あのジジイ。化石か。
だからガキの父親も出奔したんだ。
自分が相伝持ちだって知られたら────殺される可能性があったからな」


唐突に闇。
何も言えなくなった俺達を見て、五条がケラケラ笑った。


「現当主は刹那を外に出したい。
だって、幾ら刹那に継がせねぇっつっても桜花のトップは現状アイツだから。
そりゃ恨みを買ってる自覚もあるだろうから、刹那が家を乗っ取るんじゃねぇかって怖いのさ。
だから禪院辺りに嫁として売りたいんだ。そうすりゃ金も手に入るし、御三家とのコネも作れる。
ガチャ大好き禪院なら、血統書付きじゃなくても実力さえありゃ優秀な胎として高値で買い取ってくれるだろうからな」


「……猿め」


「一方で分家は未来の金の卵を現当主から隠す為にも、刹那を当主にしたい。
現当主を隠居させれば桜花の中で宗家至上主義は居なくなるし、ガキの術式が相伝なら万々歳だろ。
仮に違っても次に確率の高い種馬を買ったと思えば良い。先行投資ってワケだ」


「当主になった後の刹那は?」


「アイツらが考えるとすれば、ガキが育つまでの繋ぎだろ。
だから向こう十年程度は安全。ガキが育ったら、当主をガキに譲って分家筋のボンクラか、格上に嫁がすってトコか。
仮にガキが相伝持ちじゃなくても、刹那を当主に置いておけば桜花は衰退しないから分家はさしてダメージを受けない」


クラスメイトの家族関係がバリバリに大河ドラマだった件。
どういう星の下に生まれたら御家騒動の対抗馬なんて凄い事になるの?
ぶっちゃけ関係ない家のバチバチに巻き込まれて可哀想。
そこまで話すと一息ついて、五条は夏油に目を向けた


「正直俺は刹那を当主にするの良いと思うんだけど、傑はどう?
家の維持って面倒は増えるけど、同時に今まで取られてた金が自分の所に帰ってくるって考え方も出来る。
…まぁそれなりに使い込まれてんだろうけど、これからの利益と比べりゃ些事だ」


黙って話を聞いている一年組にそっと菓子を渡す。ぺこりと頭を下げるお前達はいいこ。
なんか歴史考察みたいに思えてくるね。
内容は同級生のドロドロな御家騒動なんだけど


「もう一つは現当主との縛りだ。“婚姻の決定権が当主にある”って事は、“決定権を持つ当主は刹那でも構わない”って事だろ。今の当主を名指ししてねぇらしいから、抜け穴としてコレは使える」


「つまり当主になってしまえば、望まぬ婚姻を防げるって事か」


「そ。んで、現当主はその可能性をその当時考えてなかった。
オマケにそれを修正する縛りも結べなかった。刹那は最初以降、何をされても絶対に縛りに同意しなかったって言ってたしな。…頑張ったよ、アイツは。


現状最悪の未来になっちまいそうなモンで、当主は怖くて怖くて堪らねぇ。
報復される理由なんざ腐る程あるからな。


だから今、俺の影響力が増す前に、本格的に五条が刹那を囲う前に、アイツを格上の家に嫁がせてぇ訳だ。
そうすりゃ呪いのテディベアが金にも縁にもなるからな。
でも流石に、本人の同意ナシに勝手に嫁がしゃあ俺が家を擂り潰しに来るってのは理解してる。
俺を刺激したくねぇから、刹那から桜花に戻ってきて欲しい。それを伝えたくて接触を図ろうとする。
簡単に言っちまうと、あの蛆湧きジジイもフォルガルにはなりたくねぇって訳だ」


フォルガルってなに?
そっと七海に目配せすると、こそりと教えてくれた。


「アルスターの英雄、クー・フーリンの妻、エウェルの父です。
娘をクー・フーリンと結婚させたくない為に他の男の許に嫁がせようとして失敗し、一族おろか従者まで皆殺しにされます」


「奴はアルスターの英雄だった…???」


「激しい戦いの事をクー・フーリンの結婚と言うそうです」


「奴は毎日結婚している…???」


「クー・フーリンは半神半人で、とても美しかったそうです」


「やっぱあいつクー・フーリンだ」


「そうですね」


俺と七海の間で五条=クー・フーリンの図が完成した。
灰原はカプリコを美味そうに食べている。素直でいいこ。


「まぁ禪院は動かねぇよ。何たって俺が毎日刹那の傍に居て睨み利かせてんだ。
落ちぶれた家の女巡って御三家が殺し合いなんざ醜態極まりねぇってヤツ。
来ても殺すけど。直哉にも髭のアル中にも刹那はやんねぇ。
まぁ禪院は良いとして…この機に分家筋も接触して来そうなんだよな。クッソややこしい」


んー、と口を尖らせる五条。
…こいつの頭の中ってどうなっているんだろう。何処まで計算して、何処までその計算が当たるんだろう。
つらつらと並べられた情報が濃くて普通に全部覚えるのは無理。歴史の授業みたい。
多分語部なら喜んで覚えたんだろうけど。
というか何でこんなに頭が切れるのにやらかすの?アレか?
馬鹿と天才は紙一重を体現してる感じか?


「もし刹那に桜花の人間が接触して来た場合、見分ける方法はないのか?
宗家と分家で見分けが付けば、刹那に接触する前に宗家側を追い払えば良いだろ?」


「……時雨経由でいっそ此方から接触するか?俺が付いときゃ下手な真似は出来ねぇし、分家だって五条が刹那と仲良くするのは悪い事じゃねぇ」


「ああ、それもか。刹那が当主になった場合、悟と仲良くするのは不味くないのか?」


「いいや?そうなりゃ禪院の派閥から引き抜いて、五条の派閥に鞍替えさせるってだけだ。
最初こそ俺の女って噂は立つだろうけど、実際オマエらは俺のモンだし問題ない。
禪院とも揉めるってのはないだろうな。そもそも桜花は落ちぶれた家だ、居ても居なくても同じだったろうし、刹那が上に立てば五条派のスパイが堂々と派閥に居るみたいな事になる。だから放逐に異論はない筈」


「関係性の遠い大名より、当主同士が仲が良くて厚い庇護を与えてくれそうな隣の大名に降る。外様の生きる術って所かな」


「そうそれ。オマケに此方に来れば、桜花はテディちゃんのお陰で五条家次期当主の最側近になれるのは確定だ。
そりゃちょっと頭が回る奴なら現当主を蹴り出そうって考えになる。
…俺が刹那を護るのは当たり前だけど、“桜花”を護る理由なんてないのにな」


今度はカプリコを食べ始めた五条は、飲み終わったのだろうコーラの缶をくしゃりと潰した


「…ま、分家への接触は考えとくよ。
オマエらはウチの女子組が一人にならない様に気を付けてやってね。語部もそう。
アイツは硝子と刹那を釣り出す餌には最適だ」


「うーん、語部さんも弱くはないだろう?強くもないけど」


「だからだよ。丁度良い奴ってのは色々と使いやすい。…黒川、オマエ語部の護衛な。七海と灰原も刹那より語部と組む方が多いだろ。
硝子と刹那の事も気にしつつ、メインは語部。出来る?」


……語部、お前一気にお姫様ポジになってるけど大丈夫?












「────で?本当の所はどうなんだ、悟」


「あ?」


家に戻る途中、相棒にそっと問い掛ける。
女子三人は語部さんの部屋で女子会らしいが、そもそも高専内には呪骸というセコムが居るのだ。
すぐるっちに見付からずに犯行を成すというのは不可能。
ある意味此処は何より安全な砦である。
隣を歩く悟はサングラスを外し、私を見た。


「気付いちゃった?」


「私を舐めて貰っちゃ困るな。五条悟検定特級だよ?」


「なんだそのクソ難しそうな検定。ウケる」


「硝子と刹那も特級だよ」


「当たり前だろ。俺もオマエらの検定特級だし」


「それならもう少し私達に優しくやらかそうね」


「へーへー。だから今回ちゃんとオマエに話しただろ?俺だって反省を生かそうとするんですー」


べぇ、と舌を出す悟に思わず笑ってしまう。そう、前回よりはとても良い。
悟も頑張っているのだ。ただやり方が壊滅的に被害を生むだけで。


前回は簡単に言うと、ちゃんと人を頼ったのだが、組んだ相手が最悪だった。


金で何でも言うことを聞いてしまうフィジカルゴリラと人間歴二年未満とか、普通に魔のタッグ。
世紀末という言葉が良く似合う二人は私達の為に最善だと考えた最悪を遂行した。
…まぁ死ななきゃ良いかな、とも考えるが、胸を刺した上に太股滅多刺しで額も刺すのはどうかと思う。
というか刹那を刺したのはナシだ。あのゴリラ私の娘に手を出すなんて何を考えているのか。


「…正直語部さんを狙う理由は判るけど、弱い。刹那を動かしたいなら硝子の方が有効だ。
それなのに彼女を護るのは?」


「ブラフだよ」


「何?」


「俺のマーキング付けた奴等が四人で固まる。でもその一方で、俺とつるんでる方は大概二人。
しかも、刹那は時折一人になる。
語部に護衛が付いてりゃ、ガード薄い刹那本命に接触したくなんだろ?
……わざと作った隙を狙うとすれば、先ず宗家が釣れる」


「おや、私の娘を囮にする気か?」


「脳直ゲンコやめろっつってんだろ。ちゃんと俺が見張ってるよ。
正直言うと、アイツがちゃんと呪具持ってれば何時でも俺を・・喚べんだよ」


……今、言い方がそこはかとなく不穏だった気がする。
思わずじっと見れば、蒼い双眸が悪戯っぽく細められた。


「傑さぁ、アイツの呪具の術式知ってる?」


「入れた物を増やす、だったかな?」


「正式には“吸収したものを複製し、無限・・に収納出来る”だ。……その無限って、何だと思う?」


にいっと薄い唇が笑みを刷く。
夜だというのに蒼い眼は爛々と光っていて、それそのものが光源の様だった。
……背筋を冷たいものが滑り落ちる


「ヒント、オマエの目の前に居るグッドルッキングガイ。だ〜れだ☆」


「……五条悟だね」


「せいかーい!…アイツの呪具、俺で出来てるの」


ちょっと意味が判らない。
宇宙を背負う私にチェシャ猫みたいな顔で、悟が言葉を紡ぐ


「正確には俺の肉体情報を、複製って術式持ってたあの鉄扇に吸収させた。そしたら面白ぇの。禁書の通り、術式が混じった。
材料は髪とか唾液とかイロイロ。
あ、成分表言おうか?めちゃくちゃ頑張ったよ、俺」


べぇ、と目を大きく開いて舌を出す悟に緩く首を振って返した


「良い。取り敢えず刹那はヤンデレの結晶みたいな呪具を毎日持ち歩いてるっていうのは判った」


「え、純愛じゃね?」


「じゅんあい……????????」


「っし傑、表出ろ」


「此処は表だよ」


知らぬが仏ってこの為の言葉だったんだな。刹那には死んでも黙っておこう。あんまりにも可哀想だ、女の子に持たせるにはイロイロとアレ過ぎる。
べしっと肩を小突き合って灯籠の道を抜ける。ひょこっと顔を出すさとるっちに手を振って、話を続けた


「そのヤンデレ呪具と悟の呼び出しってどう関係があるんだ?」


「ヤンデレ呪具言うな。……あの呪具の正式名称、何だと思う?」


「特級呪物:五条悟だろ?」


「どつくぞ」


「じゃあいずれ特級過呪怨霊:五条悟になるのかな」


「潰すぞ♡
……アレ、飛梅っての。
此処まで言えばオマエなら判るだろ?」


「は?…………あー」


「オマケにヒント。材料は俺。つまり、アレは俺って捉え方が出来る。
因みに天内理子を鉄扇から出せたのも、俺がアレだから。
刹那が金庫の鍵だとしたら、俺は金庫そのものなの」


察した。
色々と察して頭痛がする。やっぱりお前はやらかしてる。
額を押さえる私を見て、悟が笑った


「刹那の所に俺を喚ぶ時は、扇に梅が咲くよ。逆に俺が喚んだら松が浮かぶ。
桜は吸収と無限収納を示してんの。アレはほら、飛ばずに枯れたってヤツだし。
実際俺がトぶのは何処までも出来て、アイツはある程度限界があるってウケるよね。これじゃあどっちが飛梅なんだか」


「無下限呪術の使い手と他の術式持ちを同列に並べるんじゃないよ…」


「まぁいっか。俺が飛梅になってあげる。刹那が何処に居ても飛んでいくよ。…だから、刹那が桜花と接触しても刹那が呼べば、俺が来る。
……これって最強のセコムじゃね?」


「セコムとヤンデレストーカーの違いって何処なんだろう」


「あ゙????」


────灯籠の道が半壊した。









じゅんあい…?????









刹那→女子会中。
知らないところで情報開示されてるし状況は悪いしオマケに頼りの相棒:鉄扇クンはガチヤバヤンデレ呪具だった。

五条→悪巧みの最中。
今回はちゃんと相棒に頼ったので大丈夫。
大事な宝物にガチヤバヤンデレ呪具を100%善意であげた人。“呼べば”何処までも飛んでくる。
素材は俺♡(ガチ)

夏油→悪巧みの最中。
深淵を見た気分になった。娘が特級呪物持たされてる事に気付いてドン引いた人。
十年後に純愛先輩を見て「これが菅原の血か……」となる人。

灰原→先輩も大変ですね!(明るい)

七海→先輩も大変ですね…(沈痛な面持ち)

黒川→大河ドラマ観た気分になった。

目次
top