交流の概念とは

「五条様、お会いしとうございました…!!」


「夏油様ぁ!!初めまして、貴方の運命です!!!」


「きゃあ、イッケメーン♡名前教えて欲しいなぁ???」


こ れ は ひ ど い


その場で崩れ落ちなかっただけ褒めて欲しい。笑い過ぎて息が出来ない私の隣で、硝子はお腹を抱えて震えていた。
そんな私達の後ろにそっと下がったのが男二人である。おいやめろ、今の私達は使い物にならないぞ。
ぷるぷるしている私達に隠れたのが気に入らないのか、京都校の女子生徒が揃って此方を睨み付けてくる。
おお、こわいこわい。転生者か通常のお嬢様か知らないが、その顔はお目当ての男達が居なくなってから見せた方が良かったんじゃない?


『げっほ……初めまして、一年の桜花刹那です。宜しくお願いします』


「家入硝子、一年です。宜しくお願いします」


一度深呼吸してから笑顔を張り付け会釈した。睨んでくる彼女らは眼光を緩めない。
上から下まで値踏みする様に見て、それから嘲笑を浮かべた


「へぇ、貴女達、五条様のおまけでいらしたの?お茶漬けでもお出し致しましょうか?」


「夏油様に近付かないで貰える?私の運命が汚れるわ」


「ねぇねぇ後ろのイケメンくん達のお名前知りたいんだよねぇ、退いてくれる?」


うわあテンプレ乙。
同性に対しての当たりが強過ぎてまた笑えてきた。
ていうかほんと、悟達が居なくなってからそれやんなよ。普通に考えて異性どころか人として好かれないからな、それ


『悟と傑は名乗りたくない様ですので、此方から簡単に紹介させて頂きますね。
五条悟、一年生。夏油傑、一年生です』


「二人共一級呪術師なので、とっても頼りになりますよ」


超簡易紹介してやれば硝子も乗ってきた。
煽る空気を感じたか、後方の男二人も愉しげな顔で此方を見ている。
にこにこと笑って相手を見つめていれば、簡単に相手が逆上した


「五条様と夏油様を呼び捨てなんて烏滸がましい!どうせ貴女は三級程度でしょうし、そこの貴女だって戦えないじゃない!身の程を弁えなさい!!」


「お二人は格が違うのよ!あんた達みたいなのが寄って良い訳ない!!」


「大体何であんた達が二人と一緒に居んの。優しいからって調子乗んなよ!」


おーっと三級なんて齢一桁で屠ってきた雑魚だが???桜花舐めんな。
彼処はな?突然子供を三級呪霊の前に放り出してな?「今すぐ祓え。出来んなら死ね」とか言いやがる家だぞ?死ぬ気でやれば三級なんか余裕で祓える様になるわ。命には何も代えられない。


確かに悟と傑の格が違うのは判るけど、それなら硝子だってそれに該当する。
反転術式を他者に施せる術師なんてレアなんだぞ。その凄さを知らないなんて、実はもぐりか?
戦いにおいて重要なのは火力だけど、長期戦で間違いなく必要なのはヒーラーだぞ、知らないのか?
完全に私達を測り違えた三人ににんまりと口角を上げる。


何よりも、お前ら私の親友をしれっと悪く言ったな???
処す?処す?????


『うふふ、弱そうですみません。これでもそれなりの等級を頂いております。
そして家入は他者へ反転術式を使えるという大変貴重な術式を持つ上に、本人も常に人の傷を目にするという大変精神に宜しくない事態と向き合う強さを持っています。
それを戦えないの一言で片付けるというのは些か暴論では?』


「はぁ?何が言いたいのよ…」


「戦えないんじゃ役立たずと一緒でしょ」


「それなりって、あんただって結局三級でしょ?」


突然ぺらぺら話し出した私に三人娘は引いているが関係無い。
硝子を侮辱したよな?
クールビューティーで悪ノリだってしてくれる、私の親友を。
よろしい、ならば戦争だ!!!


『────つまり、私があんたら三人のお綺麗な顔をぐっちゃぐちゃにしても硝子には治させねぇって事。だって私の親友侮辱したよな?やられたらやり返される覚悟ぐらいあんだろ?
あ、私力の加減も知らない準一級なんで宜しくお願いしますね、先輩☆』


「「「え」」」


最後は悟直伝の俺可愛いでしょ?許して☆顔である。こいつ直ぐきゃぴ☆ってすれば許してくれると思ってやがる。
うん、夜蛾先生には通用しないってそろそろ覚えなさい。
私?場合によっては許す。だってあの顔は可愛い。本当に可愛い。写メ撮っちゃう。勝手におやつ食べたとかなら許すよ。報告書投げるのはアウトだけど。
硬直した三人からすたこらさっさと退散する。
此方を見ていたのか額を押さえている夜蛾先生には大変申し訳ないが、スッキリした。


「ははははははは!!女ってこえー!!笑顔でマウント取ってんぞ!!」


「最後の顔悟の真似でしょ!!ははははははは!!笑顔で顔面ぐっちゃぐちゃ宣告したよこの子!!!」


「あははははははははは!!最後のあいつらの顔見た!?やっば!!!!!」


『うん、楽しそうで何より。すみません先生、喧嘩売ってきました。だから私を正規メンバーで出して?』


「お前はどうしてこう……普段は真面目なのに、唐突に暴走するんだ…?」


『ヤンキーとつるんでるからでは?』


耐えきれなかったのか、移動中ゲラになった三人を見てにっこり笑っておく。
だってあいつら硝子の事馬鹿にしたから。適材適所って言葉を知らなそうだったから。
にこにこな私のおでこにぺちっとチョップが落とされた。ごめんね先生。








団体戦に私を捩じ込むのは簡単だった。
何故って?此方を見ていた男の先輩が自分から譲ってくれたから。


「傑と刹那と俺でうろつきゃ直ぐ終わんだろ」


『待って悟、私今から一人で動くよ』


「あ?」


「理由は?」


森の中を進む途中、先輩達と離れた所で挙手をする。
怪訝そうな悟と判っていて聞いただろう傑に、にっこりと笑みを返した


『あいつらボコる』


先程からずっと視線を感じるのだ。
私だけにビシバシぶつけられる殺意を受けて立つのである。


「助っ人は?今ならスイパラで悟くんがサポートキャラになっちゃうけど」


「じゃあ私はランチでサポートキャラになろうかな」


多分と言うか、確実に相手は複数だ。
だからこそ二人もこうやって手伝いを申し出てくれるんだろう。
優しい同級生に笑って、緩く首を振った。


『それはまた休みの日に行こうよ。売られた喧嘩に最強キャラ連れて向かうとか、フェアじゃないっしょ?
それに女同士の戦いに男を連れていくのは無粋だし。
────私が、殺るの。
桜花刹那は相手が束になってかかってきても、卑怯な手を使われようと、正面から捩じ伏せる』


ぱん、と拳を掌に打ち付ける。
それを見た悟がにんまりと笑って、傑が困った子だねと苦笑した


「カァッコイイじゃん?
キャットファイトが終わったら追い付けよ。ダッセェ怪我してたらスイパラ奢りな」


「危なくなったら直ぐに合図を出すんだよ。偵察用の呪霊を一体置いていくから」


『ん。…じゃあ、また後でね』


私の髪を撫でて、二人が去っていく。
完全に最強コンビの背が見えなくなった所で、私は背後に向けて袖に隠していた鉄扇を振るった。


ガキン、と金属が噛み合う音が響き、目の前には刀を持った、あの悟推しのお嬢様。


『あーらこんにちは!!やっぱり見てたんですねぇ三人で!!』


「五条様に撫でて貰うなど…!!調子に乗るんじゃないわよ!!」


鍔迫り合いになる前に、横合いから飛んでくる呪力を察して素早く後退する。
其方に暗器を投げ付けて、鉄扇を顔の前で開く。
ぱっと開いた鋼鉄の扇面をガンガンと硬い物が叩き、足許に落ちたのを見て銃弾だと気付く。
え、こわ。
人の顔面撃つとかこわ。


『先輩、交流会のルール忘れました?殺しはアウトですけど』


「ふん、手が滑っちゃったって言えば平気よ?」


「だって三対一で殺っちゃえば、うっかり死んでも仕方無いでしょ?」


はいクズー。殺すがあっさり選択肢として出る辺りクズー。
堂々とした殺害予告に肩を竦めつつ、そっと鉄扇を撫でた。
銃弾を弾いておいて無傷なのがこの扇の怖いところである


「大体貴女がそれを握っている事自体可笑しいのよ…!!」


刀の先輩が忌々しそうに睨むのは、左手に握った鉄扇。
これは交流会に出ると決まった時に悟に渡された物だ。
白銀の表面に水色の桜が舞う、親骨に五条の家紋が刻まれた、明らかに悟専用のそれ。
絶対億とかいくよね、呪具って高いし。壊さない様にしよ。
菫青の下緒が揺れる鉄扇を構え直し、放たれた呪力を受ける。
その間に刀を持った先輩が斬り込んできて、鉄扇で応戦。左から撃ち込まれた弾丸には申し訳ないが先輩を盾にした。


「きゃあ!」


「穂波!!」


「何するのよ卑怯者!!」


『それマジブーメランな』


よろめく先輩を突き飛ばす。大丈夫、急所は外した。
お前ら全員後頭部にブーメラン突き刺さってるって気付け。三対一は卑怯ですよ。
鉄扇を閉じ、右手で印を組む


『私の術式は液体使役。つまり────固体じゃないなら、全部意のままだ』


術式開示をするまでもないけれど、これはあくまでマウント合戦なので。
親友を侮辱した奴等は完膚なきまでに叩き潰す。


ずるり、引き寄せるものが牙を剥く。


「「「え」」」


今更後悔したってもう遅い。
後方に伸びる川を丸ごと引っ張ってきた水は────長大な龍の姿を取って、女達を睨め付けた


『縛裟・蒼龍』











結果、水の龍の大暴れで三人を叩き潰した。顔面ぐっちゃぐちゃにする前に水圧でべしゃべしゃだったが、酷い顔には出来たので良かったと思います、まる


「作文かよ」


「気は晴れたかい、刹那?」


『溺死しそうな奴等にちょっとスカッとしました』


一日目は東京校の圧勝だった。私が三人組を叩いている間に悟と傑が呪霊も京都校の相手も倒したらしい。
今晩は京都校の寮に泊まり、明日個人戦の後自由時間があって、帰宅。
今は悟と傑の部屋で皆でプチ祝勝会を行っている最中である


「えっぐい事してんな。顔は?やんなかったの?」


『そしたら硝子優しいから治しちゃうでしょ?だから半殺しで勘弁してやろうかと』


「あーあ、そこで手加減するから真面目チャンなんだよ。キッチリ顔に跡残すか溺死寸前の間抜けな顔を写メっとけば色々使えたのに」


『え』


「流石五条、発想がクズ」


「悟、流石にそれは……」


「だってお前ら女子組って特に狙われやすいのに、俺らと夜蛾センセしか信頼出来ねぇじゃん?此方に逆らえない駒は必要だと思うけど」


悟のケロッとした顔でのエグい発言に引いた。いや、駒って。
ソファーに転がっていた悟は身を起こし、テーブルの上のピザを取った


「適当なの脅しても良いけど、別校舎行くの怠いしさぁ。どうせなら腐ったミカンの息が掛かってないマトモな下僕が良いよなぁ」


『ナチュラルに思考がクズ』


「ほんとそれな」


「悟、人を暴力で隷属させるなとあれほど……」


「えー?だって俺、正直お前ら以外どうでも良いし、使えるモンは何でも使うよ?
大体媚売るしか能がない香水臭い厚化粧と下心丸出しのジジイ共に気ぃ遣う必要ある?」


きょとんとした、あどけなさを全面に押し出した表情で問い掛けられ、私達は言葉に詰まった。
…いや、ないかもだけど、人として同意しかねる、というか。
あー、と口を開けてピザを食べる悟の前にそっとコーラを置きつつ、傑を見た。
彼も彼で答えに窮している様で、その視線が硝子に向かう。
横滑りする視線の最後で、彼女は溜め息を吐いて口を開いた


「ま、私も似た様なモンだけどね。
怪我人を治すのが私の仕事だから五条ほど極端じゃないけど、あんた達の誰かと他の呪術師が同時に死にかけてたら、私は迷わずあんた達を選ぶ」


「だろ?やっぱ硝子もイカれてんね」


「クズと一緒とか嫌だけどな」


心底嫌そうな顔をした硝子が唐揚げに噛み付いた。
ピザを口にしたタイミングで真上から悟が覗き込んできて、噎せそうになる


「つーか刹那、オマエ一応呪術師の家の出だろ?なのに何でそんなに傑寄りの感性なの?」


悟の問いにどきっとしたが、口の中のピザを飲み込む事で動揺も誤魔化した。
それはもうあれ、殆ど記憶が残ってない前世が関係してるとしか言えない


『言ってなかった?私元々一般家庭の子だよ』


「え」


「そうなん?」


「何それ聞いてないけど」


驚く三人に言ってなかった?と再度呟く。いや、大した事じゃないから言ってなかったかも?そう思い出したくもないし。
コーラを飲んで、それから久々に生まれた家を思い出した。


『確かね、五歳ぐらいまでは普通に育ってたよ。そんで、術式が親に見付かって、売られた』


「売られた」


『五億で』


「五億」


『なんか桜花に相伝の術式持った子も呪力を持つ子も居なかったらしくて、繋ぎとして私を買ったって。
一般の出だし相伝じゃないし、血統書付きじゃないから半額だったらしいけど、親は喜んでたらしい。
まぁ桜花の奴からすれば途中までは呪術師として箔付けて、乗っ取りとかする前に強い家に嫁がせるつもりなんだから丁度良い駒だよね』


「嘘だろ」


傑が静かに崩れ落ちた。
悟と硝子は苦い顔だけど、まぁあるあるだよね、という反応。
ぶっちゃけこれは、奴等で言う優秀な子供が生まれなかった時に使われる手段の一つだ。


内で生まれなかったのなら、外から。


零れ種の相伝持ちなら十億は下らないし、完全な野良なら半額程度。桜花の当主はそう言っていた。
呪術師は割と倫理が死んでいるので、幸せな家族の許に呪霊放り込んで狙いの子を奪うとか平気でやってのける。
だから親が生きてるだけ穏便に済んだ取引だと思うのだ。
売られた方は恨みしかねぇけどな、ははっ


『傑、そんなに気にしないでよ。私それすっかり忘れてたし』


「……呪術師はクソだった…?」


「あー、ウン。ぶっちゃけこいつはまだマシな方。
幸せな家族を一人ずつ呪霊使って目の前で殺して、ガキに無理矢理術式使わせた癖にいざ使えばショボい術式だ期待外れだっつってガキごとその一家見殺しにした呪術師の家の話する?」


『嘘だろなんでそれチョイスした?』


「おい五条、夏油が死んだぞ」


「え、なんで????」









喩え話はもう少しぼかしましょう







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