二輪草

※闇堕ちIFネタ
※闇です。
※大変やらかしているし呪術師100%です、御注意下さい。









「化物」


「おまえなんか」


「要らないいのち」


「折角金になったのに」


「死ね」


「なんで生きている」


「おまえなんか、うむんじゃなかった」


────ほら、やっぱり。
私に居場所なんか、なかったんだ。












「……………は?」


「聞こえなかったのか?」


「…聞こえてますよ。だからは?って言ったんだ」


先生の言葉が理解出来なかった。


桜花刹那が、とある一家四人を殺害し、逃走。


……その家族が問題だった。
一度見掛けた、忌々しい家族。
ソイツらを刹那が殺した。まぁ百歩譲って殺したのは良い。
だが、殺してしまったのが上にバレた。


「現時点で桜花刹那は、呪術基定九条に基づき呪詛師として処刑対象になった」


「……先生は信じんの?」


「……信じたくはない。だが」


先生は俯いて、呟いた。


「残穢も殺害方法も、刹那のものだった。あいつの無罪を信じるには、状況証拠が揃いすぎている。
……基定側に居る以上、俺には何もしてやれん」


後悔。悲しみ。痛み。辛さ。
夜蛾先生からはそんな感情が読み取れて、俺はサングラスを外した。


「オーケーオーケー、俺が殺すよ」


先生に背を向けて、ひらひらと手を振っておく。
さて、先ずは親友達を探そうか。












殺した。
殺して、しまった。
非術師を。私の、術式で。
包丁を向けられて。でも私は呪術師だから、手を出しちゃダメで。
でも包丁が首を掠って、私を男の人が押さえ付けて、女の人が包丁を振りかぶって。
どうしても、私の死を、許せなくて。


………もう、いいやって。
そう、思って。


……気付いたら、氷で串刺しにしていた。
家の中も凍り漬けになっていた。
ただ理解出来たのは、私が殺してしまったという事だけ。


…夜蛾先生に、罰は下されたりしていないだろうか。
悟は妙な反発なんかしていないだろうか。
傑は自分の所為なんて思わないでいてくれるだろうか。
硝子は思い詰めたりしていないだろうか。


そっと膝を抱える。
勝手に出てきていたさとるっちが私の隣で寛いでいる。その背を撫でて、目を伏せた。


「────見ぃつけた」


『!!!』


鉄扇を構える。
気配はなかった。こんな森の中に探しに来たという事は、上層部から私の処刑を命じられた呪術師だ。
既に陽は落ちて、月明かりしか光源はない。
この追手をどうにかして……


……いや、私に生きる意味はあるの?


呪術師の桜花刹那は生きていても良かったけど、呪詛師に堕ちた桜花刹那には生きる価値がない。
……それならもう、良いか。
構えた鉄扇を手放した。


『……抵抗はしない。好きにしろ』


いっそ此処で首を自ら落とすか。
足許に転がった鉄扇をぼんやりと眺めていると、草を踏み締める足音が近付いてくる。
数は複数。
一人じゃないのは抵抗したら困るからだろう。
追手の顔を見る必要もない。ずっと俯いたままで居ると、男物の靴の先が視界に映り込んだ。
それからぽん、と頭に手が乗せられる。
ゆっくりと顔を上げて、目を見開いた。


『……なん、で…』


────なんで、私の親友に、処刑を任せたのだ。
恨んじゃいけないのに、これじゃあ恨みしか沸かないじゃないか。
ぼろぼろと涙が溢れ出した。
俯いた私の頬を大きな手が撫でて、小さな手が肩に乗せられる。


「やっと見付けた。ったく傷だらけじゃねぇか」


「頬にも傷があるね。硝子、治してくれ」


「ああ。傷見せな」


逃亡阻止の為か、悟が私を抱き上げた。
傑が雑草の上に転がった鉄扇を拾い上げ、私に優しく握らせる。
硝子が頬の傷を治し始めて、そこでもう耐えられなくなった。


『っ殺して…もう、殺してください』


これから死にゆく身に優しくなんかしないで欲しい。
こんな優しさで痛め付けるなら、いっそ見付けた瞬間に殺して欲しかった。


そして何より……親友に、私の処刑を任せたくなんてなかった。


顔を覆った私に悟が不思議そうな声を掛けてくる。


「刹那?何言ってんの?俺達がオマエを殺す筈ないじゃん」


「可笑しな子だね。山に入って疲れちゃったのかな?」


「慣れない事して混乱してるんだろ」


『え?』


驚いて、顔から手をそっと退ける。
…あまりにも、反応が普通すぎる。
まるで、ただ失踪した仲間を迎えに来ただけの様な…
そこで、一つの可能性に辿り着く


────上層部は、私の処刑を悟達に伝えていないのでは?


だってそうじゃなきゃ、可笑しい。
あまりにも態度が普通すぎる。笑顔が何時も通りなんて、有り得ない。
悟が抱えているのは呪詛師なのだ。
己を産んだ家族を殺めた、人殺しなのだ。
…上層部はきっと、悟達に私を見付けさせ、それから死刑にするんだろう。
それならせめて、三人の耳にこの捕縛の意味が伝わらなければ良いと思う。
彼等はきっと、後悔してしまうから。


『………ごめんね、皆』


「あ?勝手に失踪しやがった事?良いよ、こうやって見付けられたし」


「ほんと便利だよねさとるっち。トランシーバーにもGPSにもなるなんて」


「本人より有能なんじゃないか?」


「はぁ????俺の方が有能ですけど??????」


〈オレ ユウノウ!!〉


「黙れ猫」


……護りたかった宝物が、笑っている。
ずっと傍に居たかった人達が、笑っている。
涙が止まる事はない。
泣きじゃくる私を笑いながら、三人は山を降りていく。


……もう、良いや。
未練なんて、ない。












穏やかな気持ちで連れ戻された高専にて、私は混乱していた。


『……あの、先生?私は死刑では…?』


「……済まない。もう、あいつらは俺では止められん」


────テレビに映る、絵画の中から現れた様な完璧な外見の男。
美しい蒼を輝かせるその男は、カソックを身に纏い壇上に立っていた。
その隣には袈裟を身に纏った親友と、白衣を身に纏った親友も居る。


《やぁやぁ皆さん!!調子はどうだい?絶好調?そりゃそうだろ精々健やかに生きてろよ!》


《こら悟、これじゃあ何にも伝わらないだろう?彼等は無能なんだから》


《たった数秒の間に全人類敵に回すのか。流石クズ》


何時もの様に三人で会話して、ケラケラ笑っている。
…ただ、その場所が問題だ。
彼等が居るのはどう見たって会議室。
それも、国の政の舵を切る国会議事堂だ。


《あー、じゃあスパッと話すわ。可愛いテディちゃんはまだ泣いてるだろうし》


にいっと口角を吊り上げた悟がマイクを前に、両腕を広げた


《ガキを五億で売りやがった親が、あまつさえガキに金をせびって、それを拒否すりゃなんと包丁を持ち出した!
怖いだろ?有り得ねぇだろ?ふざけてるよなぁ!!


………けどさぁ、それをやったんだよ。
オマエら猿の分際で、俺の女にそんな仕打ちしたの》


ケラケラ笑っていた悟は一瞬でごっそりと表情の抜け落ちた顔になり、地を這う様な声を出した。
一緒にテレビを観ていた夜蛾先生が額を押さえた。
…そういえば、語部さんと黒川くんはどうしたんだろう


『先生、語部さんと黒川くんは?』


「伏黒一家の許に避難させている。…あいつらでは歯が立たんだろうからな」


その言葉で悟った。
きっと、上層部が私を、悟達を殺しに来る。
先生は、私の為に此処に残っているのだ


『……ごめんなさい、先生』


「何の話だ」


『…私が、素直に従っていれば』


……たまたま任務先であの人達に出会い、家に招かれた。
警戒はしたものの、相手は所詮非術師。問題はないと思ったのだ。
そう、油断した。
そして……出されたコーヒーに痺れ薬が盛られていて。
彼等はお金の無心を断った私に逆上して。
動けない私を、殺そうとして。


ぐしゃぐしゃと、大きな手が私の髪を掻き混ぜた


ゆっくりと顔を上げる。
…先生が、優しい顔で此方を見下ろしていた


「……よく、生きて帰ってきた」


…その言葉でまた涙が溢れ出した。
ぼろぼろと泣きじゃくる私の頭を大きな手が、何も言わずに撫でている。


《大体オマエらが日々せっせと呪霊生み出す癖に、オマエらはそれを掃除してやる俺達を爪弾きにするよな?
なに?数が多けりゃ正義だとでも思ってる?大多数なら選択肢を握ってると思ってんの?


────んな訳ねぇだろテメーら猿は搾取される側だ。


正義も、選択肢も、選ぶ権利も!!
ぜぇんぶ握ってんのは俺達呪術師だ!!!
テメーら猿は俺達っていうライオンの庇護の許に生きている奴隷なんだよ!!!》


悟が叫んだ瞬間、議場の扉から武装した特殊部隊が突入した。
それをつまらなそうに見やると、呪霊を出そうとした傑を制し、悟が印を組む


ぐしゃり、とあまりにも簡単に、人だったものがぐちゃぐちゃになった。


《うわ、きったね》


《硝子、私の後ろに。猿は身軽だからね、頭上から狙ってくる事もある》


硝子と傑の声が入り、肉塊数個からカメラは議長席の三人に戻る。
マイクを握った悟は、酷く冷たい顔で告げた


《────頭が高ぇぞ。
黙って俺に従えよ、猿共》












「────掃除ってさぁ、こんなに簡単だったんだな」


「それはそうだろ。ゴミの方に集まって貰ったんだ、此方は首を取るだけなんだから手間が省ける」


「おいクズ共、上層部が死んでるって加茂と禪院にバレたぞ」


「ボス、ヘリは用意出来てるぜ」


「じゃあ傑と硝子は時雨のヘリで来て」


「悟はどうするんだ?」


「決まってんだろ?トんで、上から茈撃つ」


やれやれと言いたげな面々に手を振って、上空にトんだ。
雲の上から足許に向け、構える。
刻まれた術式に呪力を流し、それを放つ


「────虚式・茈」


鮮やかな紫色の力の奔流が、雲を裂き地に叩き付けられた。
すかさず次のマークにトんで、もう一発茈をブチ落とす。
…これで一体何人殺れただろうか。
流石に呪術師の巣窟だ。結界で少しは威力も落ちるだろうし、禪院の当主は術式で躱したりもしているかも知れない。加茂なら術者の全てを引き換えにでもすれば、ある程度屋敷の損壊を防げるだろうか。
だが少なくとも、二桁はいくだろう


「ねぇ、かわいい刹那」


暗い夜の中、正面に見える月に向かって大きく手を広げる。
あの家族に接触されたら鉄扇から飛び出せる権限を与えていたクソ猫から一部始終は聞いていた。
だから、知っている。
オマエが本当は、殺したくなんかなかったって事も。
アイツらを殺してしまったから、呪詛師になってしまったと泣いていた事も。
俺達に自分を殺させる事を、申し訳なく思っていた事も。


「ねぇ刹那。俺、オマエの為に沢山猿を殺したよ。だから、たった四人なんかでそんなに思い詰めるなよ」


オマエが堕ちたと嘆くなら、俺も硝子も傑も同じ場所まで堕ちるから。
だから、独りで泣かないで。


「これからは世界が正しく廻り始めるよ。ハッピーバースデー、新しい世界。サヨウナラ、腐ったミカン共」


────夜蛾先生から刹那の件を聞いて直ぐ、俺達は上層部を皆殺しにした。


…判っていた。これが上層部による策略だと。


刹那を嵌め、俺達に処刑させる事で精神を疲弊させ、順に首を取る。
最初に刹那、その次に傑、そして硝子、最後に俺。
……ミカン共の最大の失念は、俺達が非術師を護る事に重きを置いていない事だろう。


非術師を殺すから、呪詛師と呼ぶ。
やってはならない事をするから、堕ちたと謗る。


それなら最初から、俺達が猿を護る事を重要視していなければ?
命の天秤が、刹那を乗せた時点で二度と浮かばない程傾いていたら?
答えは簡単だ。報復されて、ついでに秘匿しておきたかった呪術師の存在を公に晒される。
今頃猿共は俺達に恐怖し、呪霊を産み出しているんだろう。そしてこの日本という国の規模でマッチポンプを開始している筈だ。
東京校側には絶対に高専から出るなと言い付けてあるから、此方に被害はない。
京都校や他の呪術師が動いたところで無限に沸く呪霊は止まらない。
猿をある程度間引くには丁度良いだろう。


高専にトび、ゆっくりと正門を潜る。


灯籠の道に佇む女に、俺は笑顔を浮かべた


「知ってる?勝てば官軍っつーの。勝ったのは俺達なんだから、俺達が呪術師だよ。負けたアイツらが呪詛師なの」


『………なんて無茶してんの、皆』


「全員自分の意思でやったんだよ。判るだろ?猿なんかより、皆オマエが大事なの。
あの夜蛾先生も俺達を見逃した。
それが何よりの証拠だろ」


『………ごめんね』


「何が?オマエが謝る事なんて、勝手に山で逃走犯ごっこ始めた事だけだよ」


俯く刹那を抱き寄せて、ぼろぼろと涙を溢す目許に唇を落とす。


「ねぇ刹那、悪いって思うならさ……二度と勝手に死のうとするなよ。
縛って。次やったら俺にオマエの生殺与奪の権利を全部譲り渡すって、誓え」


勝手に死のうとするなんて、裏切りだ。
俺に愛されている事を自覚しておきながら、俺の許可なく命を手放すなんて、許さない。


愛しているから、許さない。


涙で揺らめく菫青を正面から見据え、そう言えば、刹那が眉を下げて笑った


『……愛が重いなぁ』


「知らなかった?俺の愛は深いよ」


『底無し沼みたいだね』


「そうだよ。愛してるから、爪先から頭のてっぺんまで包み込んでたいの。…だから、安心させて。
縛りを結んで。俺のものになって」


ぱちり、瞬いた瞳から涙が落ちる。
睫毛まで涙で輝かせながら、刹那は呪力を込めた言葉を発した


『“次、自ら命を手放す選択をした時には、桜花刹那は生殺与奪の権利を五条悟に譲り渡す事を誓います”』


「“次、桜花刹那が生きる事を諦める選択をした時には、五条悟が桜花刹那の生殺与奪の権利を譲り受ける事を誓います”」


────刹那のものに加えて俺も縛りを結んだ。
これで絶対に、刹那は自殺なんて出来ない。俺の縛りで更に条件を限定したので、刹那が生きる事を諦めた時点で俺に生殺与奪が譲渡される。
そして俺が選ぶのなんか生一択なので、誰かに殺されそうになっていたとしたら、刹那はソイツを殺して生き残る。
…それは、刹那の意思に関係無く


「愛してる、刹那。これで何があっても俺のものだね」


『……え、これって私がどうしようもなくて死んだらどうなるの?』


キラキラする菫青に見つめられ、俺はにっこりと笑った


「呪うに決まってんじゃん」


『ひえっ』








一緒ちよう。そしたらくないよ









刹那→元凶。
産みの親に会い、笑顔で話し掛けられ、もしかして仲良くなれる…?と淡い望みを抱いて玉砕した人。
さが暴走するのは大体お前の所為。
大して、深く考えず、ヤバい縛りを、結んだ。つまりこいつは生を諦めた時点でエヴァのダミーシステムが発動する。
やっぱり大体お前の所為。そろそろ親友を疑うという事を覚えた方が良い。

五条→大・暴・走☆
刹那の行為を「仕方ないね!傷付いてない?大丈夫?俺なんかもっと殺ったから一緒!ね?全然少ないでしょ?泣かないで?」とかいうサイコな感じで肯定した男。
カソックにサングラスという胡散臭い神父になった。
これから呪術師が表から牛耳る世界とかいう呪霊大量発生待ったなしなバイオハザードの世界の神様になる。
この度、ある意味世紀末なプロポーズ()を決めた。死んでも逃がさないよ♡

夏油→覚醒。
刹那の行為を「仕方ないね!心が痛かっただろう?安心しなさい、皆一緒だよ!」とかいうキチッた感じで肯定した男。
こいつは原作通り五条袈裟。五条は隣に居るけど五条袈裟。
坊主と神父の胡散臭いコンビになる。
公共電波による洗脳担当。

硝子→達観。
刹那の行為を「あー…まぁ仕方ないね。一緒に行こっか」と至って普通に受け入れた女。こいつもヤバい。
此方は原作の通り白衣。
主に金持ちや権力者をメスで脅したり脅さなかったりする。

夜蛾→諦観。
上を止められず、かと言って謀略の犠牲になった生徒の命も奪えなかった。
その結果日本は世紀末に突入した。
これから呪術師の本拠地を護る要になる。

時雨→率先。
テディちゃんの事件を知り、率先してヘリを出した。
エセ神父を公共の電波に発信したカメラはこの人。
因みに利用出来そうな議員とかその他諸々は縛って転がした。




二輪草の花言葉「友情」「協力」「ずっと離れない」

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