作品においてある程度の行動方針は割り振られている

『あ、悟。鉄扇ありがと。返すね』


そう言えばと借りっぱなしだった本日のMVP、鉄扇くんを出せば、悟はゆるりと首を振った。


「俺呪具使わねぇし、オマエにやる」


『いや呪具って高いんだよ…?返すよ…今日使ったけど傷もないよ?』


「やる。代わりに今度スイパラ行こ」


『呪具はスイパラに負ける値段だった…?』


明らかに特注の呪具がスイパラに負けるの…?それとも億超えのスイパラがあるの…??
困惑する私の頭を掻き混ぜる様に撫でて、悟は掛け布団を捲った。


「その呪具、特級だし特性考えりゃあオマエと相性一番良いぞ」


『特性?』


「そ。そんくらいは自分で気付けよ。馬鹿じゃなきゃ、使ってりゃその内判る」


枕を叩いたりシーツを捲ったりする悟に首を傾げつつ、鉄扇を見る。


『……ほんとに良いの?』


「何度も言わせんな。なに、そんなに言うなら譲渡証明書でも書いてやろうか」


『それはいいや。…じゃあ、有り難く頂きます』


「おー。ちゃんとスイパラ奢れよ」


『勿論。美味しいトコ探すね』


奢れって言いながら、何だかんだ払ってくれる悟はもう少し私達以外にも優しく出来ないものか。
…いや、無理だな。私達以外どうでも良いって言い切ってたし。
……ていうか、さっきからこいつ何してるの?
ベッドを見た後は天井を見上げ、今はテーブルの裏を覗いている。何か落としたのか?
泊まりに来た猫みたいに二人部屋の中をうろうろする悟の意図が読めず、反対側のベッドに腰掛ける硝子に近付いた


『悟さっきから何してんの?』


「知らね。てか夏油もどっか行ったね」


『飲み物でも買いに行ったのかな』


ちょっと行ってくるねって言って出ていったから、てっきり自販機だと思ったんだけど。
二人で不審者の背を眺めていれば、何処かに行っていた傑が戻ってきた


『おかえり傑。自販機良いのあった?』


「ただいま。自販機?おしるこあったよ」


「それは五条に勧めろよ」


「あったかいおしるこだったよ」


『夏に熱いおしるこ飲めと?』


「冷房で冷えたなら丁度良いんじゃない?」


何気無く話していて、気付く。
手ぶらだった傑の手に、見覚えのある黒いバッグが二つ。
……あれ?あれって私と硝子のじゃね???


『……傑、その鞄どうした?』


「これ?君達のだよ?」


いやそうじゃないの。それは見れば判るの。ねぇ何で持ってるの?
てか持ってきたって事は部屋に入ったの?まさか他所様の女子寮に侵入したの???
硝子がゴミを見る目で隣に座った傑を見ていた。


『何で持ってきたの?』


イケメン凄腕呪術師が女子寮侵入かー。あんた悟に毒されてない?
眉間を揉みつつ問い掛けると、洗面台の方に消えていた悟が代わりに答えた


「え?するでしょ、お泊まり会」


『え?』


「いや毎日やってんじゃん、ルームシェアしてんじゃん?」


「最近泊まりがけの任務とかで時間がズレるだろ?久々に四人で徹夜しようと思って」


『嘘だろ明日個人戦だぞ?正気か???』


「ならオマエ控えに戻れよ。俺らは徹夜でもヨユーだし」


「私達は徹夜でも平気だけど、刹那は十時間睡眠だろう?ほら、悟のベッド使って良いよ」


『せめてお前の貸せよ。あと十時間って赤ちゃんかな?』


「ばぶーばぶー(裏声)」


「くそうぜぇこいつ」


「え、そこまで?」


心底うざいと言わんばかりの硝子に笑い、映画を観るのかテレビの前で何かしている悟に目を向けた。


『ねぇ、私と硝子が悟のベッド借りて良いんだよね?』


「はぁ?三人で寝るとか無理だろ。落ちんぞ」


「いやお前がソファー行けよ。私と刹那が二人でベッド使うって意味だよ判れよ」


何で三人で寝ると思った?
どう見たってシングルサイズのベッドに女の子二人は兎も角、190オーバーの大男も一緒に寝るのは無理だろう。


「ソファーとか小さすぎて無理。刹那置いとけよ」


『ん?まぁ私ソファーで良いけど』


「はぁ?オマエはベッドだっつの」


『ん?今あんた私を置いとけって言ったよね?』


「ベッドにオマエ置いとけ。んでソファーか傑のベッドに硝子」


私は置物か。
後ろから白い頭をひっぱたくか悩んでいたら、硝子が悟の背中を蹴った。グッジョブ


「何で私が夏油のベッドなんだよ。お前が夏油と寝ろ」


「オッマエ野郎二人でシングルベッドとか無理だろ!!鳥肌モンだわオ゙ッエー!!!」


「なんだろう、普通の意見だし私が馬鹿にされた訳じゃないんだけど今物凄く悟を殴りたい」


『わかるー』


「判るなや馬鹿」


「やれやれー」


「煽んなよオマエも。此処で暴れてやっても良いけど家入サンに唆されましたーって大声で叫んでやっからな」


「硝子に唆されましたって叫んでる時点でヤクザの所業だな」


『ああ、あれ?借金取りが扉の前で叫ぶヤツ』


「五条の背中って龍が居た気がするな」


「人をヤクザにすんな」


硝子の頭をぺしっと叩いた悟が私の隣に座った。
リモコンを持っていた悟がボタンを押して、映画が始まった。


「何でお泊まり会(笑)で観るのがホラーなんだよ」


「だって面白くない?非術師って想像力豊かなんだなーって思えるじゃん」


「良くあるベッドの下から出てくるタイプは女性にそうやって呪われる様な事をした人間が脚本を書いたのかな、とかは考えるよね」


『普通にホラーとして観ろよ。何で制作者の想像力笑ってんだあんたら』


「大体俺らにとっちゃホラーなんてコントだろ。こいつら明らかに“出る”場所に行くじゃん。行って、遭遇して、死ぬ。ほらな、コントだろ?」


「こんな血腥いコントとか嫌だわ」


傑のベッドに座って四人ぴったりくっついて、だらだらと映画を観る。
もう寝るつもりなので誰も飲み食いしないが、その分コント()へのヤジが多かった。


「大体非術師って何で無駄に怖い思いしたいの?毎日毎日呪霊増やしてさ、キャーキャー言いたいーってホラーなんか観てさ、それでまた呪霊太らせて?
自分で将来死ぬ可能性せっせと育てるとかクソみたいなマッチポンプキッショって思うんですケド」


「非術師には呪霊は見えないし、同じ事の繰り返しになる日々に人は刺激を求めるものだからね。死ぬ可能性のない画面上のスリルを味わいたいって人はきっと減らないさ」


「ほんと邪魔なんだよな、こういう廃墟に忍び込む奴。見付けたら助けねぇといけねぇじゃん。勝手に忍び込んで死にかけてんなら自業自得だってのに」


「あ、やっぱり死んだね。こういう動きを見せる登場人物は大概死ぬけど、セオリーでもあるのかな」


「孤立した奴から仕留めんのが狩りの基本だろ。あー多分この女も死ぬな。何で廃墟で単独行動なんて取るかね…あーほら、死んだ」


こんなに愚痴ばっかりで楽しいのかこいつら。
廃墟でチョップドサラダにされた女の人の悲鳴と血を見つつ、引き寄せられたので素直に悟に寄り掛かる。
静かになったと思ったら、硝子はベッドに倒れて既に寝ていた。だよね、寝るよね。


「あーあ、日記見付けたぞ。見てる間に首が飛んだけど」


「うわ、最悪だ。手掛かりが血で読めなくなった。せめて日記は遠ざけて死んでくれないか」


「そりゃ殺った奴に言えよ、もっと血の飛ぶ角度考えて下さいって。背中ガラ空きな時点で何時でもどうぞって言ってる様なモンだけど」


「正直こういうタイプが一番迷惑だな。個人プレーに走った上に手掛かりを台無しにして死ぬのは他のメンバーの負担が大きい」


「てかマジで何で自衛手段もねぇのに行くの?自殺志願者のオフ会か?」


悟に寄り掛かり、居心地の良い場所を目を閉じたまま探す。
ベストポジションに収まり動かなくなれば、交流会の疲れと温もりであっという間に意識が飛んだ。










「…二人とも寝た?」


「みたいだな」


俺に寄り掛かって眠る刹那を抱き上げて、俺のベッドに連れていく。
肩まで布団を掛け、暫く見つめるがすやすやと気持ち良さそうに寝ていた。


「おーおー、ぐーすか寝やがって良い気なモンだ」


「仕方無いさ、刹那は三対一のキャットファイトで硝子は怪我人の治療を請け負っていたんだし」


「わーってら。さっさと済まそうぜ」


「ああ」


傑と共に扉の前に向かい、気配を探ればどう数えたって複数あって、夜中にご苦労様と舌打ちする。
ガッと勢い良く開けてやれば影が震えた。其処に居たのは刹那が締めた京都校の女三人と、今日一日フルシカトした東京校の上級生が二人。
此方を見上げ媚びへつらった笑みを浮かべた女共を無表情で見下ろして、彼方が口を開く前に捲し立てた


「夜中に出待ちとか迷惑だって判んねぇの?こちとら明日も出んのに外の気配がウザったくて眠れねぇの。とっとと帰れよ」


「ご、五条様…!私、貴方様にずっとお会いしたくて…!!」


「だから?それが人の安眠妨害して良い理由になる訳ねぇだろ。大体二人部屋に夜這いかけるとかねぇわ。あわよくば二人とも喰っとこうって?
そんなに欲求不満なら隣の部屋に行けよアバズレ。センパイなら今日何にもしてねぇから元気だろうし?……まぁ、そのセンパイもオマエらと同じ事してるっぽいけど」


「なっ…私は五条様の事が…!!」


「私は五条くんだけが好きなのに!」


「ハイハイ優秀な子種が欲しいんですねー。でも残念でした、俺一応やんごとなきオウチの出なんで?
そこら辺の女とセックスして簡単に種撒いちゃいけないんだよねー」


べぇ、と舌を出す。


「そもそもユーワクしたいならもっと見た目も中身も術式も磨いてから来てくれる?その程度で来るとか、オマエら毎日割れた鏡でも見てんの?」


「悟、幾ら本当の事でも外見を女の子に言ったら可哀想だろう?」


「え、傷付いた?ごめーん☆
俺って正直者だからさぁ?だって、嘘ってダメなんだろ?嘘吐いたらエンマサマに舌引っこ抜かれちまうって聞いたぜ?」


「おや、何処でそんな事を聞いたんだい?」


「刹那が真顔で言ってた」


教育テレビ付けながら、嘘吐くとね、こうなるんだよって。
刹那に悪戯したら正座で教育テレビ観賞会を強制開演された。題材は地獄について。ポップな絵で舌を引っこ抜く閻魔大王にはちょっと製作陣の狂気を感じた。
毒混入事件の三日後に俺が毒盛られたって演技しただけなのにな。ちょっと血糊使って血ィ吐くフリしただけなのに何であんなに怒ったの、あいつ。
俺の呟きが聞こえた傑が乾いた笑みを浮かべた


「それは……ちょっと、いや大分タイムリー過ぎたね」


「えー?新鮮な笑いをお届けしてやっただけだってのに。
うっそぴょーん☆って言った瞬間真顔で胸倉掴んできたんだぞあいつ。どう思う?」


「それ、悟がされたらどう思う?」


「ブチ犯す」


「うん、悟は自分に置き換えて考える事を覚えようね」


傑は何故か菩薩みたいな顔をしていた。ウケる。
折角楽しく話していたのにキンキンした声が割り込んできて、気分が下がった


「何故桜花なんて落ちぶれた家の女に構うのです!?あんな女より私の方が…っ!!」


「────ねぇ、あいつが使ってた呪具、ちゃんと見た?」


実力で完膚なきまでに打ちのめされた癖に刹那を否定する馬鹿を見下ろす。多分今、俺に表情はない。
隣で苦笑いする傑が止めないのは、つまりそういう事だろう


「五条の紋が入った呪具使ってんだから、刹那は当然俺の庇護下に入ってるんだよね。つまりオマエらは俺に喧嘩売ってんの。
────俺、敵には手加減しねぇよ?」


印を組めば恐怖で顔を引き攣らせた女共が走って逃げ出した。追い払うのが目的なので追いはしない。
気配と残穢を探り、周囲に誰も居ないのを確認してから扉を閉めた。


「あーだる。もうインポですって噂流した方が良い?」


「そうすると今度は見知らぬ男に尻を狙われるよ」


「あぁ?臭ぇオヤジ共にケツ狙われるとかどんな悪夢だよ。それならまだ香水臭い女の方がマシだわ」


オエッと舌を出しながらベッドに転がる。布団を暖めていた刹那を抱え込み、触り心地の良い髪を撫でた


「傑も気を付けろよ。女で釣れなかったらビーカー差し出すとか平気でやるぞ、あいつら」


「ビーカー?」


艶のある黒髪を指に巻き付ける。
指からするすると逃げる感触が癖になるのだ。
抱き心地も良いし、甘い匂いがするし、やっぱりこれは俺専用だ。傑にも貸してやれない


「そ。ビーカーでも何でも入れ物差し出してきて、此処に精液入れて下さいって言ってくんの」


因みに俺は億で頼まれた事がある。勿論ビーカーを土下座するそいつの頭で叩き割ったけど。
俺とは違う真っ黒な睫毛を指で撫でる。
擽ったいのか目蓋に力が入って小さな口がもにゃった。
それを見て笑いつつ、向かいのベッドから返事がない事に気付く


「…あれ、傑?もう寝たの?早くね?」


嘘だろ、そんなに眠かったの?
俺今からミミズ人間観ようと思ったんだけど?










笑って舌を出す







五条→部屋の中の監視カメラ等を捜す係。

夏油→女子の部屋のカメラ等々確認係。
クロだったので荷物を回収して自分達の部屋へ

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