答えを見付ける為の一歩

────深夜二時。都内廃墟。


「面倒臭ぇ。夜中じゃなくて昼間に来いよ。呪霊如きが人様の生活リズム狂わせてんじゃねぇ」


「そう言うな、悟。そもそも悟はこの時間まで起きてるだろ」


「最近は寝てるよ。テディちゃんが爆睡してるから、つられて寝てる」


「つーか何で早寝早起きテディベアと夜行性の猫が一緒に寝てんだ」


『私が寝てるのにポケモンして起こすのほんとやめて欲しい』


欠伸を手で隠しつつ、埃の積もった床を歩く。二時とか普段は寝ている時間だ。仮眠を取ってから来たとは言え、眠い。


『あふ……あーねむい…』


「寝て良いぜ?抱えよっか?」


『給料泥棒は嫌…』


「真面目か。サボれよ。たまには良いだろ」


「五条が至って普通に優しいのウケる」


「確かに。私が眠いって言ったら蹴飛ばしそうだよね」


「傑デケぇじゃん。運ぶのイヤ」


「じゃあ私は?」


「傑が運ぶ」


「なんでwwwwwwwwww」


「?だって何時もそうしてっから。傑は硝子が好きなんだと思ってた。違ぇの?」


「wwwwwwwwwwwwwwwww」


「ウケるwwwwwwwwwwwwwww」


「え?何が???」


眠たい。
欠伸を噛み殺しつつ、隣の悟に手を引かれながら歩く。
足許の瓦礫を踏み、僅かに体制が傾ぐとすかさず大きな手に支えられた。


「あっぶね。もう抱えんぞ」


『給料……』


「あー、ウン。呪霊見付けたら起こすネ」


『ごめ……おやすみ……』


眠い時に背中を擦られたらもうダメ。
悟の肩に首を預け、目を閉じる。
辛うじて保っていた意識は秒で落ちた。
















「これ、私達で向かう必要あったかな?」


「ねぇな。傑だけで良かったんじゃね?」


「呪霊が泣こうが喚こうが爆睡してる刹那が面白いのは私だけか?」


「安心して硝子。私もそう思ってる」


「俺の腕ってそんなに寝心地良いの?」


「フカフカなのかな?」


「オイ傑、誰が脂肪まみれのクソブタだって?オマエ俺のこのしなやかな筋肉が判んねぇの?マジ節穴。
そんなんだからカイリキーみてぇな表面の筋肉しか付けられねぇんじゃねぇの?」


「ああ、ごめんね。悟の腕って細いから筋肉なんてないと思ってたんだよ。
背が高いのにしなやかな筋肉しか付かないなんて可哀想に、マッチ棒みたいな見た目だね。
表面の筋肉は瞬間的な筋力として十分活躍するから、ひょろっこい悟よりマシだよ」


「は??????カイリキーとか上半身でけぇだけでスタイル悪いじゃん。俺のはスレンダーって言うんですぅ。持久力重視なんですぅ。オマエの見た目胸筋鍛えすぎてただの上海ガニじゃん」


「そもそも私はゴーリキーだから。まだあそこまで広背筋バッキバキじゃないし。
スレンダーなんて貧相とか痩せっぽちの綺麗な言い方だろ?私は一撃の強さに重きを置いているんだよ。
悟なんか全身ヒョロヒョロだしチンアナゴじゃないか」


「すーぐる♡表、出よっか♡」


「刹那置いて独りで行きな、さーびしーんぼ♡」


「オイクズ共、雨降ってきたぞ」


睨み合う俺達を他所に、硝子が外を見て呟いた。
すやすやと寝息を立てる刹那を抱え直し、割れた窓から外に目を向ける。
真っ暗な空からポツポツと雨粒が落ちていて、今にも本降りになりそうだ。


「どうする?」


「走って近くのホテル行く?」


「ホテル?こんな時間に空いてんの?傑、ちょっと刹那持ってて」


「ああ」


刹那を一度傑に渡し、学ランを脱ぐ。それで刹那をくるんで受け取ると、何でか傑が天井を見上げていた


「傑?」


「まさか悟が人に学ランを貸すなんて……」


「刹那濡れたらカワイソーだし、風邪引くじゃん。オマエ何言ってんの?頭打った?」


「物凄く腹が立つけど許すね……」


「普通の行いをしただけで感動される五条wwwwwwwwww」


「硝子ちゃん??????」

















外はバケツを引っくり返した様な雨。
確かにこんな時間に入れるホテルなんて限られているだろう。
けどこれはどうなんだ?セーフなの?


「ラブホって学生入れんだな」


「流石に対面式なら拒否されたかも知れないけど、此処がタッチパネル式で良かったよ」


「一部屋しか取れなかったけど、お前ら床?」


「せめてソファーにしろよ。あれ?傑、ソファーって二つある?」


「此処は初めて来るからね。どうだろう」


エレベーターに乗り、最上階へ。
フロントで受け取ったカードキーで部屋に入り、普通のホテルの様な内装に目を瞬かせた


「へぇ、もっとドギツイのかと思ってた。案外普通なんだな」


「映画の観過ぎさ。最近は女性が好きそうな内装の部屋も多いよ」


「先ずは…風呂かな。私シャワー浴びるから。覗くなよ」


「興味ねー」


「スモーク解除とか押さない様にね」


刹那をベッドに寝かせ、四人掛けのソファーに傑と座る。
途中コンビニで買ってきた夜食を袋から取り出しながら、先程の言葉について訊ねた


「スモーク?何その面白そうなボタン」


「押したらバスルームが丸見えになるヤツ。多分バスルームの中にあるよ」


「あとで探そ」


「やめてくれよ。悟の裸なんか見せられても…」


「はぁ???語部が言ってたぞ、俺全身で国家予算レベルだって」


「国家予算wwwwwwwwwwwww」


コイツほんとゲラ。
笑う傑の弁当にピーマンを寄せつつ、ちらりとベッドで爆睡する刹那を見た


「刹那マジ寝してる?あれ一回起こした方が良いの?」


「どうだろう。硝子が下着を買ってくれてるから、シャワーを浴びるか聞くぐらいはしても良いかもね。そのままで良いなら寝るだろうし」


「んー。じゃあ弁当食ったら声掛ける」


そういや学ラン掛けたまんまだ。明日にはくしゃくしゃかも。
唐揚げを口に放り込むと、茶を飲みながら傑がしみじみと言う


「それにしても、悟は刹那が関わると別人みたいに甲斐甲斐しくなるね」


「はぁ?」


「…悟、その感情はね、きっととても重要で、綺麗なものだよ。大事にしな」


何言ってんだオマエ。
そう言って、真面目ぶった親友を笑い飛ばそうとした。
けど傑はとても優しい顔をしていて。


「…………考えとく」


結局口を尖らせる事しか出来なかった。









夜の片隅







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